説明

誘電性エラストマー積層体およびその製造方法

【課題】誘電性エラストマーシートと樹脂層とからなる誘電性エラストマー積層体において、比誘電率の温度係数の大きい(−側)誘電性エラストマーシートを用いても積層体の比誘電率の温度係数τεr(単位:1/℃)を(−100〜 100)×10-6の範囲に抑えることができる誘電性エラストマー積層体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】誘電性セラミックス粉末が配合された比誘電率が負の温度係数を有する誘電性エラストマーシートの両側に、比誘電率が正の温度係数を有する樹脂層を積層する工程を備えてなる誘電性エラストマー積層体の製造方法であって、上記誘電性エラストマーシートおよび上記樹脂層において、それぞれの比誘電率温度係数および厚みを、−40℃〜120℃の温度範囲において 25℃を基準とする上記誘電性エラストマー積層体の比誘電率の温度係数τεr が(−100〜100)ppm/℃の範囲となるように調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電性エラストマー積層体およびその製造方法に関し、特に比誘電率の温度係数を所定範囲に制御された誘電性エラストマー積層体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、コードレスフォン、RFID等に用いるパッチアンテナ、電波望遠鏡やミリ波レーダ等のレンズアンテナ等の目覚しい普及、衛星通信機器の著しい発達に伴い、通信信号の周波数の高周波化および通信機器の一層の小型化が望まれている。通信機器は、通信機器内部に組み込まれた誘電性エラストマー等のアンテナ材料の比誘電率が高くなると、より一層の高周波化および小型化が図れる。比誘電率は、誘電体内部の分極の程度を示すパラメータである。従って、比誘電率の高いアンテナ材料を使用できれば、高周波化ひいては回路の短縮化および通信機器の小型化が図れる。
【0003】
従来、誘電性エラストマーとしては、エラストマー中にチタン酸金属塩繊維状物および/または該チタン酸金属塩を非晶質酸化チタンが包み込んだ態様で複合一体化した複合繊維であって金属 MとTiとのモル比が 1.005〜1.5 の範囲にある複合繊維を、合計重量を基準として 5〜80 重量%配合して高比誘電率化を試みたものが知られている(特許文献1参照)。また、過酸化物架橋されたエチレンプロピレンゴムなどのゴム 100 重量部に、室温から 90℃における比誘電率が 2000 以上のチタン酸バリウム系粉末 300〜500 重量部を配合し、比誘電率を 10 以上、好ましくは 20 以上とした高誘電率ゴム組成物が知られている(特許文献2参照)。
【0004】
しかしながら、エラストマーに複合繊維等を配合した例(特許文献1参照)では、エラストマーおよび複合繊維等の選定が困難で、かつ繊維状充填材の方向性により、成形体に異方性が生じるため、線膨張や誘電特性が不安定となり、高誘電率かつ低誘電正接の材料を得ることが困難であった。また、高誘電率ゴム組成物(特許文献2参照)は、電力ケーブルの接続部、終端部等の電界不整部となりやすい箇所に配置されて電界緩和を行なうために用いられる絶縁物であり、チタン酸バリウム系粉末の特性として、誘電正接が大きいため、アンテナ材等の電子部品に適さないという問題がある。
さらに、通信機器の使用態様が多様化するにつれ、低温から高温度まで電気的特性の変化の少ない通信機器が求められているが、従来の誘電性エラストマー組成物を使用温度領域が広い電子部品に使用すると、比誘電率などの電気的特性が大きく変化するという問題があった。
【0005】
本発明者はこれらの問題に対し、比誘電率が負の温度係数を有する誘電性エラストマーシートに、加熱硬化後の比誘電率が正の温度係数を有するプリプレグを積層した誘電性エラストマー積層体(特願2005−276406)等を提案している。
しかし、比誘電率の温度係数の大きい(−側)誘電性エラストマーシートとの張り合わせを行なう場合、樹脂層の比誘電率の温度係数の+勾配が不足するため、樹脂層−エラストマーシート−樹脂層の三層構造からなる積層体の比誘電率の温度係数を−100×10-6/℃〜+100×10-6/℃に抑えることが困難であった。
【特許文献1】特開平9−31244号公報
【特許文献2】特開2003−138067号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような課題に対処するためになされたもので、誘電性エラストマーシートと樹脂層とからなる誘電性エラストマー積層体において、比誘電率の温度係数の大きい(−側)誘電性エラストマーシートを用いても積層体の比誘電率の温度係数τεr(単位:1/℃)を(−100〜 100)×10-6の範囲に抑えることができる誘電性エラストマー積層体およびその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の誘電性エラストマー積層体は、誘電性セラミックス粉末が配合された比誘電率が負の温度係数を有する誘電性エラストマーシートと、該誘電性エラストマーシートの両側に積層される比誘電率が正の温度係数を有する樹脂層とからなる誘電性エラストマー積層体であって、該誘電性エラストマー積層体は、−40℃〜120℃の温度範囲において、25℃を基準とする比誘電率の温度係数τεr(単位:1/℃)が(−100〜100)×10-6 の範囲(以下、×10-6 を ppm で表す)にあることを特徴とする。ここで、比誘電率は周波数 1 GHz で測定した値である。
また、上記誘電性エラストマー積層体は、25℃における比誘電率が 11〜14 の範囲にあることを特徴とする。
また、誘電性エラストマー積層体は、周波数 100 MHz 以上の電気信号を取り扱うための電子部品材料に使用されることを特徴とする。
【0008】
上記誘電性エラストマーシートは、−40℃〜120℃の温度範囲において、25℃を基準とする比誘電率の温度係数τεr が(−1400 〜 −800)ppm/℃の範囲にあり、上記樹脂層は、同基準における比誘電率の温度係数τεr が、(2000〜3000)ppm/℃の範囲にあることを特徴とする。
【0009】
本発明の誘電性エラストマー積層体の製造方法は、誘電性セラミックス粉末が配合された比誘電率が負の温度係数を有する誘電性エラストマーシートの両側に、比誘電率が正の温度係数を有する樹脂層を積層する工程を備えてなる誘電性エラストマー積層体の製造方法であって、上記誘電性エラストマーシートおよび上記樹脂層において、それぞれの比誘電率温度係数および厚みを、−40℃〜120℃の温度範囲において 25℃を基準とする上記誘電性エラストマー積層体の比誘電率の温度係数τεrが(−100〜100)ppm/℃の範囲となるように調整することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の誘電性エラストマー積層体は、誘電性エラストマーシートの両側に樹脂層が積層された誘電性エラストマー積層体であって、−40℃〜120℃の温度範囲において、25℃を基準とする比誘電率の温度係数τεr が(−100〜100)ppm/℃の範囲にあるので、使用温度領域が広い通信機器のアンテナ材料等として好適に利用できる。
【0011】
本発明の誘電性エラストマー積層体の製造方法は、誘電性エラストマーシートおよび樹脂層において、それぞれの比誘電率温度係数および厚みを、−40℃〜120℃の温度範囲において 25℃を基準とする上記誘電性エラストマー積層体の比誘電率の温度係数τεr が(−100〜100)ppm/℃ の範囲となるように調整するので、上記所定の誘電特性を有する誘電性エラストマー積層体を簡易に製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
比誘電率の温度係数τεrは、以下の式(1)で表せる。

τεr=((ε2−ε1)/ε2)×(1/(T2−T1))・・・・・(1)

ここで、温度T1時の比誘電率をε1、温度T2時の比誘電率をε2とする。
【0013】
誘電性エラストマー積層体をアンテナ材料として使用する場合、使用温度の変化に伴い誘電性エラストマー積層体の比誘電率が式(1)の温度係数τεrに依存して変化する。その結果、アンテナの共振周波数にズレが生じる。例えば、温度上昇に伴い、誘電性エラストマー積層体の比誘電率が低下した場合、アンテナの共振周波数は高周波側にシフトすることが知られている。このシフト量は、以下に示す式(2)〜(7)を参考にして計算することができる。
【0014】
パッチアンテナの場合、使用する波長をλとすれば、送受信部のパターン長さAは、下記の式(2)で表せる。
A=( 1/2 )×λ・・・・・(2)
アンテナ材料の比誘電率をεrとすれば、アンテナ材料内を通過する波長λ0 は、波長短縮効果により、下記の式(3)で表せる。
λ0=(εr(-1/2)×λ ・・・・・(3)
従って、上記アンテナ材料を使用した場合、送受信部のパターン長さAは、下記の式(4)で表せる。
A=(εr(-1/2)×(1/2)×λ ・・・・・(4)
一方、周波数fは、Vを 300×106m/s とした場合、下記の式(5)で表せる。
f=V/λ ・・・・・(5)
(2)〜(5)の基本式を参考にパッチアンテナを設計した場合、使用周波数をf1、室温での比誘電率をε1、温度が△T変化した後の比誘電率をε2とした場合、アンテナの共振周波数f2は、下記の式(6)で表せる。
2=(ε12(1/2)×f1 ・・・・・(6)
温度変化を△Tとすれば、共振周波数のズレ△fは、下記の式(7)で表せる。
△f=f2−f1 ・・・・・(7)
【0015】
式(6)および式(7)から温度に対する比誘電率の変化が大きい場合、共振周波数のズレ△fも大きくなるため、実用上好ましくない。共振周波数が使用周波数に対して、±10 %変化した場合、アンテナとしての特性は大きく劣化するため好ましくない。
【0016】
上述したように、アンテナ材料はその比誘電率の温度係数τεrの小さいものが好ましい。
本発明者らは種々の研究の結果、誘電性セラミックス粉末が配合された比誘電率が負の温度係数を有する誘電性エラストマーシートと、該誘電性エラストマーシートの両側に張り合わされる比誘電率が正の温度係数を有する樹脂層とからなる誘電性エラストマー積層体において、各部材の比誘電率温度係数および厚みを所定の範囲に調整することで、誘電性エラストマー積層体自体の比誘電率の温度係数τεrを(−100〜100)ppm/℃ の範囲内に抑えることができることを見出した。本発明はこのような知見に基づくものである。
【0017】
本発明の誘電性エラストマー積層体の比誘電率およびその温度係数については、誘電性エラストマーシート単体および樹脂層単体の各温度での比誘電率から誘電性エラストマー積層体の比誘電率が算出でき、該比誘電率から温度依存性を求めることができる。各温度での比誘電率(εr (t))および比誘電率の温度係数(τεr)の計算に用いた式を以下に示す。この式を用いることにより、各材料の最適厚さを計算することができる。
材料aおよび材料bの厚みをdaおよびdbとし、材料aおよび材料bのT℃における比誘電率をεa(T)およびεb(T)とすると、材料aおよび材料bからなる積層体のT℃での比誘電率εr(T)は式(8)で表される。

εr(T)=(da+db)×εa(T)・εb(T)/(εa(T)・db+εb(T)・da)・・・・(8)

また、温度T1℃およびT2℃における比誘電率を、それぞれε1およびε2とするときの、温度領域T1℃〜T2℃における比誘電率の温度係数τεrは上記式(1)で表されるとおりである。
【0018】
誘電性エラストマーシートおよび樹脂層の比誘電率およびその温度係数がそれぞれ既知の場合は、誘電性エラストマー積層体を形成するために誘電性エラストマーシートに張り合わせる樹脂層の最適厚さを以下に示す樹脂層最適厚さの計算方法で求めることができる。
すなわち、まず式(1)を用いて、使用する温度範囲で所望の温度係数になるように各温度での誘電性エラストマー積層体の比誘電率を決め、次に、誘電性エラストマーシートの厚みを固定し、式(8)を用いて各温度での誘電性エラストマー積層体の比誘電率を満たすように誘電性エラストマー積層体の厚みを計算し、この積層体の厚みから誘電性エラストマーシートの厚みを差し引いて樹脂層の最適厚さを求める。
【0019】
本発明に用いる誘電性エラストマーシートを構成するエラストマーは、天然ゴム系エラストマーおよび合成ゴム系エラストマーを使用できる。
天然ゴム系エラストマーとしては、天然ゴム、塩化ゴム、塩酸ゴム、環化ゴム、マレイン酸化ゴム、水素化ゴム、天然ゴムの二重結合にメタクリル酸メチル、アクリロニトリル、メタクリル酸エステル等のビニルモノマーをグラフトさせてなるグラフト変性ゴム、窒素気流中でモノマー存在下に天然ゴムを粗錬してなるブロックポリマー等を挙げることができる。これらは、天然ゴムを原料とするものの他、合成cis−1,4−ポリイソプレンを原料としたエラストマーを挙げることができる。
【0020】
合成ゴム系エラストマーとしては、イソブチレンゴム、エチレンプロピレンゴム(以下、EPDMと記す)、エチレンプロピレンジエンゴム、エチレンプロピレンターポリマー、クロロスルホン化ポリエチレンゴム等のポリオレフィン系エラストマー、スチレン−イソプレン−スチレンブロックコポリマー(SIS)、スチレン−ブタジエン−スチレンコポリマー(SBS)、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロックコポリマー(SEBS)等のスチレン系エラストマー、イソプレンゴム、ウレタンゴム、エピクロルヒドリンゴム、シリコーンゴム、ナイロン12、ブチルゴム、ブタジエンゴム、ポリノルボルネンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム等を挙げることができる。
【0021】
これらのエラストマーは、1種類または2種類以上混合して用いることができる。また、エラストマーの持つ弾力性を損なわない範囲内で熱可塑性樹脂の1種または2種を配合して用いることができる。本発明のエラストマーとして天然ゴム系エラストマーおよび/または合成非極性エラストマーの中から選ばれる1種または2種以上を用いた場合には電気絶縁性に優れた誘電性エラストマーを得ることができるので、特に絶縁性の要求される用途に好ましく用いることができる。合成非極性のエラストマーとしては、EPDM、エチレンプロピレンジエンゴム、イソブチレンゴム、イソプレンゴム、シリコーンゴム等を挙げることができる。特にEPDM、エチレンプロピレンジエンゴムは誘電正接が極めて低いので、アンテナ等の電子部品やセンサーの用途には好ましく用いることができる。
【0022】
誘電性エラストマーシートに配合できる誘電性セラミックス粉末としては、チタン酸金属塩で、Nd、La等の希土類を少なくとも1種類以上と、Ba、Sr、Ca、Mg、Co、Pd、Zn、Be、Cd、Bi等から選ばれた1種または2種以上の金属元素を配合したセラミックス粉末が好ましい。Nd、La等の希土類は、比誘電率の温度変化を小さくする温度特性の改善に寄与し、Ba、Sr等の金属元素は誘電率を高め、誘電正接を小さくするなど、誘電特性の向上に寄与する。好適な誘電性セラミックス粉末としては、Ti−Ba−Nd−Bi系のチタン酸バリウム・ネオジム系セラミック粉末である。
【0023】
誘電性セラミックス粉末の平均粒子径は 0.01〜100μm 程度が好ましい。平均粒子径が 0.01μm より小さい場合、粉末の取り扱いが困難であり好ましくない。 100μm より大きい場合、成形体内での誘電特性のばらつきを引き起こすおそれがあるので好ましくない。より実用的な範囲は 0.1μm〜20μm 程度である。
また、高周波域に使用されるアンテナ等の電子部品材料は高誘電率かつ低誘電正接が求められており、誘電性エラストマーシートとしては、周波数 1 GHzおよび温度 25℃において、比誘電率は 7 以上、誘電正接は 0.01 以下が好ましい。誘電性エラストマーシートの比誘電率が 7 よりも小さい場合、誘電性エラストマー積層体内を伝播する波長の短縮効果が少ないため、製品の小型化ができないので好ましくない。誘電正接が 0.01 よりも大きい場合、積層体内の損失が大きくなるので好ましくない。この誘電性エラストマー積層体は 100 MHz 以上の高周波帯で使用できる。
【0024】
本発明において、誘電性セラミックス粉末の配合割合は、誘電性エラストマーシートの比誘電率を 7 以上、誘電正接を 0.01 以下に維持でき、かつ誘電性エラストマーシートの比誘電率の温度係数τεr(−40℃〜120℃の温度範囲において、25℃を基準)を(−1400〜 −800)ppm/℃の範囲にでき、かつ、アンテナなどの電子部品とできる成形性を保持できる量である。
例えば、エラストマー 100 重量部( phr )に対して、誘電性セラミックス粉末を 1200 重量部( phr )配合できる。
【0025】
本発明においては、本発明の効果を妨げない範囲で(1)エラストマーとセラミックス粉末の界面の親和性や接合性を向上させ、機械的強度を改良するために、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、ジルコニアアルミネート系カップリング剤等のカップリング剤を、(2)電極形成のためのメッキ性を改良するために、タルク、ピロリン酸カルシウム等の微粒子性充填剤を、(3)熱安定性を一層改善するために酸化防止剤を、(4)耐光性を改良するために紫外線吸収剤等の光安定剤を、(5)難燃性を一層改善するためにハロゲン系もしくはリン系等の難燃助剤を、(6)耐衝撃性を改良するために耐衝撃性付与剤を、(7)着色するために染料、顔料などの着色剤を、(8)物性を調整するために可塑剤、硫黄やパーオキサイド等の架橋剤を、(9)加硫を進めるための加硫促進剤をそれぞれ配合することができる。
【0026】
また、本発明に用いる誘電性エラストマーシートには、本発明の目的を損なわない範囲内でガラスファイバー、チタン酸カリウムウィスカ等のチタン酸アルカリ金属繊維、酸化チタン繊維、ホウ酸マグネシウムウィスカやホウ酸アルミニウウムウィスカ等のホウ酸金属塩系繊維、ケイ酸亜鉛ウィスカやケイ酸マグネシウムウィスカ等のケイ酸金属系繊維、カーボンファイバー、アルミナ繊維、アラミド繊維等の各種有機または無機の充填剤を併用できる。
【0027】
本発明において誘電性エラストマーシートの製造方法としては、特に制限がなく、各種の混合成形方法を用いることができる。例えば、上述した誘電性セラミックス粉末、各種添加剤、加硫剤等をエラストマーに配合して、バンバリーミキサー、ローラー、2軸押し出し機等で混錬して製造する方法などが好適に用いられる。その後、射出成形や押し出し成形、加熱圧縮成形等により誘電性エラストマーシートの成形品を得ることができる。また、本発明においては、未加硫誘電性エラストマーシートの両面に樹脂層を積層するときに同時に加硫することができる。
【0028】
誘電性エラストマーシートの両面に樹脂層を積層する方法は、樹脂フィルムまたはシートを誘電性エラストマーシートに貼り合わせる方法、接着性樹脂を誘電性エラストマーシートに塗布硬化させる方法、液状の樹脂処理液に誘電性エラストマーシートを含浸後取出し表面層を形成する方法、樹脂が含浸された基材を誘電性エラストマーシートに貼り合わせる方法、樹脂を含有する塗料を誘電性エラストマーシートに塗布する方法等が挙げられる。
いずれの場合も両面に積層される樹脂層は比誘電率の温度係数が同じ材料であることが好ましい。この点から同種の樹脂層を誘電性エラストマーシートの両面に積層することが好ましい。
なお、上記の誘電性エラストマーシートの比誘電率の温度係数が負の値((−1400〜 −800)ppm/℃)であることから、樹脂層の比誘電率の温度係数τεr(−40℃〜120℃の温度範囲において、25℃を基準)は(2000〜3000)ppm/℃の範囲であることが好ましい。
【0029】
上記樹脂フィルムまたはシート、接着性樹脂、樹脂処理液、樹脂塗料等に用いられる樹脂としては、比誘電率が正の温度係数を有する樹脂であれば、熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂のいずれも使用することができる。
【0030】
熱硬化性樹脂については具体例として、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、イミド変性エポキシ樹脂、アラルキルエーテル樹脂、ポリビニルフェノール樹脂、ビスマレイミド・トリアジン樹脂などを挙げることができる。
これらのなかでも、電極として銅箔を貼り付けても接着性に優れ、かつ樹脂アンテナ部材に発生するそりを抑えることができ、コスト的にも有利なエポキシ樹脂を用いることが好ましい。
【0031】
本発明に用いるエポキシ樹脂は、1 分子中にエポキシ基を 2 個以上もつ熱硬化性樹脂であり、アミン類、酸無水物類、触媒等の硬化剤によりエポキシ基が開環反応することにより硬化する。
本発明に用いるエポキシ樹脂は、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンとの縮合生成物である最も代表的なエポキシ樹脂の他、エポキシノボラック樹脂、脂環式エポキシ樹脂、異節環型エポキシ樹脂などの各種エポキシ樹脂を使用することができる。これらのエポキシ樹脂の中では耐候性に優れ、比誘電率の正の温度係数が大きいビスフェノールA型エポキシ樹脂を用いることが好ましい。
本発明においては、比誘電率の正の温度係数を有する材料であるとともに繊維強化複合材料としても機能する材料としてエポキシ樹脂を用いることが好ましい。
【0032】
樹脂フィルムまたはシートを誘電性エラストマーシートの両面に貼り合わせる方法は、誘電性エラストマーシートの形状に合わせて成形した樹脂フィルムまたはシートを接着剤または熱圧着によって誘電性エラストマーシートの両面に貼り合わせる方法である。貼り合わせる条件については誘電性エラストマーの種類、誘電性エラストマーシートの形状、樹脂の性状等により適宜選択する。
【0033】
接着性樹脂を誘電性エラストマーシートに塗布硬化させる方法は、例えば無溶剤の液状エポキシ接着剤を塗布硬化させて被膜層を形成する方法である。液状エポキシ接着剤がアミン硬化タイプであれば、室温でも硬化反応が進むが、酸無水物硬化の場合加熱処理することが好ましい。本発明においては硬化収縮率が低い酸無水物硬化が好ましい。
【0034】
液状の樹脂処理液に誘電性エラストマーシートを含浸後取出し表面層を形成する方法は、例えば反応性希釈剤などが配合された無溶剤の液状エポキシ樹脂系処理液にエラストマーシートを含浸し、取出し後、硬化させる方法である。
【0035】
樹脂が含浸された基材を誘電性エラストマーシートに貼り合わせる方法において、樹脂が含浸された基材は、紙、ガラス織布、ガラス不織布、ポリエステルフィルム、ポリエステル織布、ポリエステル不織布、芳香族ポリアミド紙(デュポン社商品名、ノーメックス)、またはこれらの組み合わせ等を挙げることができる。また、含浸する樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、イミド変性エポキシ樹脂、アラルキルエーテル樹脂、ポリビニルフェノール樹脂、ビスマレイミド・トリアジン樹脂などを挙げることができる。
なお、本発明の誘電性エラストマー積層体に電極を形成してアンテナを製造する場合、電極を形成しても誘電性エラストマーシートの反りの発生を防止することができる。
【0036】
樹脂を含有する塗料を誘電性エラストマーシートに塗布する方法は、溶剤中に熱硬化性樹脂を溶解した塗料を誘電性エラストマーシートの両面に塗布し、乾燥して溶剤を除去することによって樹脂層を形成する方法である。
【0037】
本発明は、接着層として樹脂層を使用するので密着性に優れるが、誘電性エラストマーシートと樹脂層との密着性をより向上させるため、成形体の表面をサンドペーパー、ブラスト処理などで粗くしたり、溶剤によるエッチング、UVエッチング、プラズマエッチング、プライマーの塗布などの表面処理を施してもよい。
【実施例】
【0038】
実施例1〜実施例3および比較例1〜比較例4
EPDMとして、(日本合成ゴム社製、EP35)100 phr と、チタン酸バリウム・ネオジム系セラミック粉末(共立マテリアル社製:HF−120 比誘電率:120 )1200 phr と、カーボンブラック(東海カーボン社製:シーストS) 25 phr と、ステアリン酸(花王社製:ルナックS−30) 1 phr と、酸化亜鉛(井上石炭工業社製;META−Z L−40) 5 phr と、加工助剤(花王社製:スプレンダーR−100) 3 phr と、加硫促進剤(住友化学社製:ソクシノールM) 2.5 phr と、硫黄(鶴見化学工業社製:金華印微粉硫黄) 1.5 phr とを混合し、加熱圧縮成形にて、80 mm×80 mm×2 mm の成形体を得た。なお、加硫条件は 170℃×30 分で行ない、誘電性エラストマーシートを得た。
得られた誘電性エラストマーシートの両面を表1に示す厚みのエポキシ樹脂フィルム(日東シンコー社製:B−EL10、片面厚さは合計厚さの半分)で挟み、150℃、100 kg/cm2 にて接着し、積層体を得た。この積層体の各温度での比誘電率および比誘電率の温度係数τεrを以下に示す測定方法にて測定した。測定結果をそれぞれ表1に示す。なお、表1において誘電性エラストマーシートと樹脂層の比誘電率およびその温度係数は、−40℃〜120℃の温度範囲で25℃を基準とする値である。
【0039】
<比誘電率および比誘電率の温度係数τεrの測定方法>
上記誘電性エラストマーシート積層体をφ25 mm×t1.5 mm の試験形状に加工し、容量法により、−40℃〜120℃の温度範囲で、25℃を基準とする比誘電率およびその温度係数τεrを測定した。容量法に用いた測定装置はインピーダンスアナライザー:E4991A(アジレント・テクノロジー社製)、電極は16453A(アジレント・テクノロジー社製)をそれぞれ用いた。
【0040】
【表1】

【0041】
表1に示すように誘電性エラストマーシートの厚みが 2 mm の場合、接着フィルムの厚みを合計 130μm にすれば、積層体の温度係数は 50 ppm/℃とすることができる。また、誘電性エラストマーシートの厚みが 1 mm の場合、接着フィルムの厚みを合計 60μm にすれば、積層体の温度係数は 20 ppm/℃と小さくすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の誘電性エラストマー積層体は、誘電性エラストマーシートの両面に樹脂層を積層した誘電性エラストマー積層体において、各部材の比誘電率温度係数および厚みを調整することで、25℃を基準とする比誘電率の温度係数τεr が(−100〜100)ppm/℃の範囲としているので、使用温度領域が広い通信機器のアンテナ材料等として好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電性セラミックス粉末が配合された比誘電率が負の温度係数を有する誘電性エラストマーシートと、該誘電性エラストマーシートの両側に積層される比誘電率が正の温度係数を有する樹脂層とからなる誘電性エラストマー積層体であって、
該誘電性エラストマー積層体は、−40℃〜120℃の温度範囲において、25℃を基準とする比誘電率の温度係数τεr(単位:1/℃)が(−100〜100)×10-6 の範囲にあることを特徴とする誘電性エラストマー積層体。
【請求項2】
前記誘電性エラストマー積層体は、25℃における比誘電率が 11〜14 の範囲にあることを特徴とする誘電性エラストマー積層体。
【請求項3】
−40℃〜120℃の温度範囲において、25℃を基準とする前記誘電性エラストマーシートの比誘電率の温度係数τεr(単位:1/℃)が(−1400 〜 −800)×10-6の範囲にあり、同基準における前記樹脂層の比誘電率の温度係数τεr(単位:1/℃)が、(2000〜3000)×10-6の範囲にあることを特徴とする請求項1または請求項2記載の誘電性エラストマー積層体。
【請求項4】
前記誘電性エラストマー積層体は、周波数 100 MHz 以上の電気信号を取り扱うための電子部品材料に使用されることを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3記載の誘電性エラストマー積層体。
【請求項5】
誘電性セラミックス粉末が配合された比誘電率が負の温度係数を有する誘電性エラストマーシートの両側に、比誘電率が正の温度係数を有する樹脂層を積層する工程を備えてなる誘電性エラストマー積層体の製造方法であって、
前記誘電性エラストマーシートおよび前記樹脂層において、それぞれの比誘電率温度係数および厚みを、−40℃〜120℃の温度範囲において 25℃を基準とする前記誘電性エラストマー積層体の比誘電率の温度係数τεr(単位:1/℃)が(−100〜100)×10-6 の範囲となるように調整することを特徴とする誘電性エラストマー積層体の製造方法。