説明

調光フィルム

【課題】電圧を印加してから光の透過率の変化が完了するまでの時間が極めて短い調光フィルムを提供する。
【解決手段】エレクトロクロミック性を有する高分子化合物を含有するエレクトロクロミック層と、電解質とバインダー樹脂とを含有する電解質層との積層体からなる調光フィルムであって、前記積層体を高圧の流体中に保持する工程1と、前記積層体を冷却する工程2とからなる応答性向上処理を施してなる調光フィルムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電圧を印加してから光の透過率の変化が完了するまでの時間が極めて短い調光フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
電圧を印加することにより光の透過率が変化する調光体は、広く用いられている。更に調光体を、建築物等や、電光板等の表示装置に応用することを目的とする検討が重ねられてきた。
調光体は、液晶材料からなる調光体と、エレクトロクロミック材料からなる調光体とに大別される。なかでも、エレクトロクロミック材料からなる調光体は、液晶材料からなる調光体に比べて光散乱の影響が少なく、偏光の影響を受けない等の優れた性質を有している。
【0003】
エレクトロクロミック材料として、無機エレクトロクロミック材料と、有機エレクトロクロミック材料とが知られている。また、有機エレクトロクロミック材料として、低分子量の有機エレクトロクロミック材料と、エレクトロクロミック性を示す高分子化合物からなる有機エレクトロクロミック材料とが検討されている。
【0004】
エレクトロクロミック材料を用いた調光体として、対向する一対の電極基板の間にエレクトロクロミック層と電解質層との積層体が挟持された調光体が挙げられる。例えば、特許文献1及び特許文献2には、2枚の導電性基板間に、無機酸化物からなるエレクトロクロミック層、イオン伝導層、無機酸化物からなるエレクトロクロミック層の3層が順次積層された積層体が挟持された調光体が開示されている。また、特許文献3及び特許文献4には、対向する一対の電極基板の間に、有機エレクトロクロミック材料からなるエレクトロクロミック層と電解質層との積層体が挟持された調光体が開示されている。
【0005】
しかしながら、従来の調光体は、応答性が劣るため、電圧を印加しても光の透過率の変化が完了するまでに時間を要するという問題点があった。
【特許文献1】特開2004−062030号公報
【特許文献2】特開2005−062772号公報
【特許文献3】特表2002−526801号公報
【特許文献4】特表2004−531770号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、電圧を印加してから光の透過率の変化が完了するまでの時間が極めて短い調光フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、エレクトロクロミック性を有する高分子化合物を含有するエレクトロクロミック層と、電解質とバインダー樹脂とを含有する電解質層との積層体からなる調光フィルムであって、前記積層体を高圧の流体中に保持する工程1と、前記積層体を冷却する工程2とからなる応答性向上処理を施してなる調光フィルムである。
以下に本発明を詳述する。
【0008】
本発明者らは、エレクトロクロミック層と電解質層との積層体に、特定の応答性向上処理を施すことにより、著しく応答性が高く、電圧を印加してから光の透過率の変化が完了するまでの時間が極めて短い調光フィルムが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明の調光フィルムは、エレクトロクロミック層と電解質層との積層体である。
上記エレクトロクロミック層は、エレクトロクロミック性を有する高分子化合物を含有する。
上記エレクトロクロミック性を有する高分子化合物は特に限定されず、例えば、置換基を有するポリピロール化合物、置換基を有するポリチオフェン化合物、芳香族側鎖を有するポリアセチレン化合物等が挙げられる。
【0010】
上記置換基を有するポリピロール化合物、置換基を有するポリチオフェン化合物及び芳香族側鎖を有するポリアセチレン化合物は、エレクトロクロミック性を有するとともに、エレクトロクロミック層の成形が容易である。また、上記高分子化合物は、構造変化による優れた吸収特性の変化を示し、吸収スペクトルの変化が近赤外線の波長領域にも及ぶことから、得られた調光体は広い波長領域について優れた調光効果を有する。なかでも、置換基を有するポリチオフェン化合物及び芳香族側鎖を有するポリアセチレン化合物は、電圧を調整することにより可視部の吸収の度合いを調整することが容易である。
上記エレクトロクロミック性を有する高分子化合物は、単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0011】
上記置換基を有するポリピロール化合物は特に限定はされないが、例えば、ポリ(3,4−ジブチルピロール)、ポリ(3,4−エチレンジオキシピロール)等のポリピロール誘導体等が挙げられる。なかでも、炭素数1〜15のアルキル基を置換基として有するポリピロール化合物は、溶媒に溶解しやすいため、エレクトロクロミック層の成形が容易であるため特に好ましい。
【0012】
上記置換基を有するポリチオフェン化合物は特に限定はされず、例えば、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(チエノ[3,4−b])チオフェン、ポリ(3,4−ジブチルチオフェン)、ポリ(3,4−エチレンジメトキシチオフェン)、ポリ(3,4−ブチレンジオキシチオフェン)等のポリチオフェン誘導体等が挙げられる。なかでも、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)は、耐久性が高く、エレクトロクロミック層の成形が容易であるため特に好ましい。
上記置換基を有するポリチオフェン化合物は、エレクトロクロミック状態を制御することにより、可視領域の光吸収が小さく、近赤外領域の光吸収が大きい状態を取り得る。その結果、得られた調光フィルムは透明性と遮熱性とを必要とする部材に用いることができる。
【0013】
上記芳香族側鎖を有するポリアセチレン化合物は特に限定はされないが、例えば、一置換又は二置換の芳香族を側鎖に有するポリアセチレン等が好適である。
上記芳香族側鎖を構成する置換基は特に限定はされないが、例えば、フェニル、p−フルオロフェニル、p−クロロフェニル、p−ブロモフェニル、p−ヨードフェニル、p−ヘキシルフェニル、p−オクチルフェニル、p−シアノフェニル、p−アセトキシフェニル、p−アセトフェニル、ビフェニル、o−(ジメチルフェニルシリル)フェニル、p−(ジメチルフェニルシリル)フェニル、o−(ジフェニルメチルシリル)、p−(ジフェニルメチルシリル)フェニル、o−(トリフェニルシリル)フェニル、p−(トリフェニルシリル)フェニル、o−(トリルジメチルシリル)フェニル、p−(トリルジメチルシリル)フェニル、o−(ベンジルジメチルシリル)フェニル、p−(ベンジルジメチルシリル)フェニル、o−(フェネチルジメチルシリル)フェニル、p−(フェネチルジメチルシリル)フェニル等の置換されていてもよいフェニル基や、ビフェニル基や、1−ナフチル、2−ナフチル、1−(4−フルオロ)ナフチル、1−(4−クロロ)ナフチル、1−(4−ブロモ)ナフチル、1−(4−ヘキシル)ナフチル、1−(4−オクチル)ナフチル等の置換されていてもよいナフチル基や、ナフタレン基や、1−アントラセン、1−(4−クロロ)アントラセン、1−(4−オクチル)アントラセン等の置換されていてもよいアントラセン基や、1−フェナントレン等のフェナントレン基や、1−フルオレン等のフルオレン基や、1−ペリレン等のペリレン基等が挙げられる。
【0014】
上記電解質層は、電解質とバインダー樹脂とを含有する。
上記電解質は特に限定されず、例えば、酸化タンタル、酸化ニオブ、酸化チタン等の無機誘電体や、過塩素酸リチウム、ホウフッ化テトラエチルアンモニウム、ヨウ化リチウム等の無機イオン塩、4級アンモニウム塩、環状4級アンモニウム塩等が挙げられる。
【0015】
上記バインダー樹脂は特に限定されず、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン−六フッ化プロピレン共重合体、ポリ三フッ化エチレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリエステル、ポリエーテル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリビニルアセタール、エチレン−酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。なかでも、ポリビニルアセタール、エチレン−酢酸ビニル共重合体が好ましい。
【0016】
上記積層体を製造する方法は特に限定されない。例えば、上記電解質と上記バインダー樹脂とを混合し、混合物を作製する。得られた混合物を熱プレス等によりフィルム状に成形することにより、電解質層を作製する。次いで、得られた電解質層上に、適当な溶媒に溶解した上記エレクトロクロミック性を有する高分子化合物を塗工し、乾燥させることにより、上記積層体が得られる。
【0017】
本発明の調光フィルムは、上記積層体に応答性向上処理を施してなる調光フィルムである。
上記応答性向上処理では、まず、上記積層体を高圧の流体中に保持する工程1を行う。
上記流体は、上記積層体と化学的に反応せず、常温常圧で気体である流体が好ましい。上記流体は特に限定されないが、取扱いが容易であることから、例えば、二酸化炭素、窒素、酸素、ヘリウム、アルゴン、空気等が好適である。上記流体は単独で用いられても良いし、混合流体として用いられても良い。
【0018】
上記工程1における上記流体の圧力の好ましい下限は1MPaである。上記圧力が1MPa未満であると、充分な応答性向上効果が得られないことがある。上記圧力の上限は特に限定されないが、30MPaであることが好ましい。
【0019】
上記工程1における保持時間の好ましい下限は1分である。上記保持時間が1分未満であると、充分な応答性向上効果が得られないことがある。上記保持時間のより好ましい下限は15分である。上記保持時間の上限は特に限定されないが、上記工程1において、上記積層体を加熱する場合、上記バインダー樹脂が劣化しやすくなるため、上記バインダー樹脂の耐分解性や耐熱性を考慮して、上記保持時間を適宜設定することが好ましい。
【0020】
上記工程1は、例えば、上記積層体と流体とをオートクレーブ等の耐圧容器に入れ、一定の圧力としたうえで保持する方法等が挙げられる。
【0021】
上記応答性向上処理では、次いで、上記積層体を冷却する工程2を行う。
即ち、上記耐圧容器等を大気圧に開放した後、取り出した積層体を冷却する。
冷却の方法は特に限定されないが、例えば、積層体を液体窒素等の冷媒に浸漬する方法等が挙げられる。
【0022】
このような応答性向上処理を施した積層体は、処理を施していない積層体に比べて著しく応答性が高い。
その理由は、応答性向上処理によって微細な気泡が上記電解質層中に形成されるためではないかと考えられる。
【0023】
本発明の調光フィルムの用途は特に限定はされず、可視光領域の光の吸収を調整することにより有色の各種フィルタ等の光学部品や、車両用窓材、建築用窓材、眼鏡用材料として用いることができる。また、近赤外線や赤外線領域の透過率を低減させることにより、各種表示パネルの近赤外線吸収フィルタや各種スクリーン、車両用窓材、建築用窓材等に用いることができる。特に上記バインダー樹脂としてポリビニルブチラール等のポリビニルアセタール樹脂を用いた場合には、本発明の調光フィルムは、調光機能を有する合わせガラス用中間膜として好適である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、電圧を印加してから光の透過率の変化が完了するまでの時間が極めて短い調光フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明は以下の実施例にのみ限定されない。
【0026】
(実施例1)
(1)積層体の作製
過塩素酸リチウム0.35gを、プロピレンカーボネート4gに溶解させ、プロピレンカーボネート溶液を作製した。得られたプロピレンカーボネート溶液と、ポリビニルブチラール樹脂10gとを混合し、混合物を作製した。得られた混合物を熱プレス(150℃、15分)し、電解質層を作製した。
ポリ(1−エチニル−2−n−オクタデシルナフタレン)をトルエンに溶解させ、ポリ(1−エチニル−2−n−オクタデシルナフタレン)の2重量%トルエン溶液を作製した。得られた電解質層上に、トルエン溶液をバーコーターで塗布し、トルエンを揮発させることにより、厚さ0.5μmのエレクトロクロミック層を形成させ、積層体を作製した。
【0027】
(2)応答性向上処理
得られた積層体と炭酸ガスとをオートクレーブに入れ、常温で圧力が5MPaになるまで加圧した後、1時間保持した。オートクレーブの圧力を大気圧に開放した直後に積層体を取り出し、積層体を液体窒素に入れて15分間冷却した。その後、積層体を−20℃の冷凍庫で70時間保管して、調光フィルムを作製した。
【0028】
(比較例1)
応答性向上処理を施さなかった以外は実施例1と同様にして、調光フィルムを作製した。
【0029】
(評価)
85℃に加熱した調光フィルムを、2枚のITO電極が形成されたガラス(縦5cm×横5cm、10Ω/□)の間に挟み込むことにより、調光ガラスを作製した。
得られた調光ガラス(着色状態)に+2Vの電圧を印加し、透過率が完全に変化した状態(完全変化時)の640nmの透過率Tを測定した。その後、調光ガラスに−2Vの電圧を印加し、初期の着色状態に変化させた。更に、調光ガラスに+2Vの電圧を印加してから、調光ガラスの640nmの透過率T1が完全変化時の透過率Tの80%になるまでの時間(秒)を測定した。透過率の測定は島津製作所社製分光光度計「UV−3101PC」を用いた。
結果を表1に示した。
【0030】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明によれば、電圧を印加してから光の透過率の変化が完了するまでの時間が極めて短い調光フィルムを提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレクトロクロミック性を有する高分子化合物を含有するエレクトロクロミック層と、電解質とバインダー樹脂とを含有する電解質層との積層体からなる調光フィルムであって、
前記積層体を高圧の流体中に保持する工程1と、前記積層体を冷却する工程2とからなる応答性向上処理を施してなる
ことを特徴とする調光フィルム。

【公開番号】特開2010−20157(P2010−20157A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−181496(P2008−181496)
【出願日】平成20年7月11日(2008.7.11)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】