説明

調味料及びその製造方法

【課題】 梅の風味を残しつつも辛みのある調味料及びその製造方法を提供する。
【解決手段】
梅酢を脱塩する脱塩工程(S101)と、脱塩工程の結果減塩された梅酢に唐辛子を混合する混合工程(S102)と、混合工程により得られた梅酢と唐辛子との混合物を熟成させる熟成工程(S103)とを実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、梅酢を含有する調味料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
梅漬け又は梅干しの製造工程において副生する梅酢は、その一部が調味料等として使用されているものの、その量は限られており、多くが未利用のまま廃棄されている。しかしながら、クエン酸及びリンゴ酸などの有機酸及びカルシウムなどのミネラル等、梅酢には多くの有効成分が豊富に含まれているため、再利用されることが望ましい。
【0003】
特許文献1には、醸造酢、醤油を主成分とする調味料原料に減塩された梅酢を混合する調味料の製造方法が開示されている。この製造方法によれば、梅の仄かな香りと酸味を有する梅酢入りの調味料を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−322503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述したような従来の梅酢入りの調味料の場合、梅酢が含有されることによってほどよい酸味が得られる等の利点があるものの、調味料としては味が控えめすぎるという問題がある。
【0006】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、梅酢に唐辛子を付加することにより梅の風味を残しつつも辛みのある独特の味・風味を有する調味料及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、本発明の一の態様の調味料は、減塩された梅酢に唐辛子を加えて熟成させてなるものである。ここで、梅酢の塩分濃度が3%乃至8%であることが好ましい。
【0008】
この態様において、前記唐辛子が乾燥粉末加工されており、前記梅酢に対する当該唐辛子の割合が重量比で12%乃至25%であることが好ましい。
【0009】
また、本発明の一の態様の調味料の製造方法は、梅酢を脱塩する脱塩工程と、前記脱塩工程の結果減塩された梅酢に唐辛子を混合する混合工程と、前記混合工程により得られた梅酢と唐辛子との混合物を熟成させる熟成工程とを有している。
【0010】
この態様において、前記脱塩工程では、梅酢に醸造酢を加えることによって減塩された梅酢を生成するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る調味料及びその製造方法によれば、従来廃棄されていた梅酢を有効に再利用して、梅の風味と辛みとが融合した独特の味・風味を有する梅酢入りの調味料を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態に係る調味料の製造方法の処理工程を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の調味料の製造方法の好ましい実施の形態を、その処理工程を示すフローチャートである図1を参照しながら説明する。
【0014】
本発明の実施の形態に係る調味料の製造方法は、(1)脱塩工程、(2)混合工程、(3)熟成工程、及び(4)圧搾工程の4つの工程に大別される。これら各工程の詳細について説明する。
【0015】
(1)脱塩工程
梅漬け又は梅干しの製造工程において副生する梅酢の塩分濃度は、通常20%程度である。このままでは塩分濃度が高すぎるため、まずは脱塩工程を行い(S101)、減塩された梅酢を得る。
【0016】
ステップS101の脱塩工程における脱塩方法としては、イオン交換膜を備えた電気式の脱塩装置を用いたり、梅酢に所定量の醸造酢又は米酢を交ぜたり等、各種のものを採用することができる。
【0017】
なお、梅酢には、熟した梅に塩分を加えたときに滲出される白梅酢と、その白梅酢に赤紫蘇を加えたもので紫蘇梅干しを製造する際の副産物である赤梅酢とがある。本実施の形態においては、これら白梅酢及び赤梅酢の何れも用いることが可能である。
【0018】
(2)混合工程
次に、脱塩工程の結果得られた減塩された梅酢に唐辛子を混ぜる混合工程(S102)を行う。ここで用いられる唐辛子は、乾燥されたものでも生のものでもよく、また、赤唐辛子及び青唐辛子の何れであってもよい。
【0019】
(3)熟成工程
次に、ステップS102の混合工程の結果得られた梅酢及び唐辛子の混合物を静置法等によって一定期間熟成させる熟成工程を行う(S103)。その結果、もろみ状の熟成混合物が得られる。
【0020】
(4)圧搾工程
最後に、ステップS103の熟成工程により得られたもろみ状の熟成混合物を圧搾する圧搾工程を実行する(S104)。この圧搾工程は、公知の圧搾機等を用いて行ってもよく、また、もろみ状の熟成混合物をガーゼ製の袋等に入れて人手で行うようにしてもよい。圧搾工程の結果、梅酢を含む液体状の調味料が出来上がる。
【0021】
なお、上記の圧搾工程を行わずに、もろみ状の熟成混合物そのものを調味料として使用することもできる。また、圧搾工程の代わりに、濾紙等を用いた濾過工程を行うことによって液体状の調味料を得るようにしてもよい。
【0022】
以上の結果、梅酢の成分であるクエン酸及び抗酸化力の高いポリフェノール等と、唐辛子の成分であるビタミンA、ビタミンC及びカプサイシン等とを豊富に含有する調味料が得られる。なお、梅酢に含まれているシリンガレシノールにはピロリ菌の働きを阻害する効果が確認されている。また、梅酢には、小腸において糖を吸収する役割を有する酵素「α−グルコシダーゼ」の作用を妨げる効果があることが確認されており、食事後の血糖値の上昇を緩やかにすることが期待できる。本実施の形態によれば、風味が良いだけではなく、上記のとおり健康にも良い調味料を得ることができる。
【0023】
なお、混合工程によって得られた梅酢と唐辛子との混合物に、醤油、ソース(ウスターソース等)、胡麻油、オリーブオイル、ニンニク、生姜、砂糖、麹及び胡麻を単独で又は複数組み合わせることによって、種々の味及び風味の調味料を作ることも可能である。
【0024】
このようにして得られた調味料は、肉、魚、ハム、ソーセージ、パスタ、ピザ及びサラダ等を用いた各種の西洋料理、南米料理、日本料理、韓国料理、中華料理、インド料理並びにアフリカ料理等の様々な料理に使用可能な辛み調味料として用いることができる。
【0025】
また、ジン、ウォッカ、ラム、及び焼酎等の各種のアルコール飲料の割り材等として本実施の形態の調味料を使用することもできる。さらに、アルコール飲料ではなく、緑茶等の日本茶に混ぜる等の使用も可能である。
【0026】
以下、本発明の実験例を詳細に説明する。
【0027】
(実験例1)
電気式の脱塩装置を用いて減塩された白梅酢を得、それに唐辛子を混ぜた後、6週間熟成させた結果得られた調味料について、味、風味及び辛みの官能評価を行った。表1は、実験例1の調味料の成分、並びに味、風味及び辛みの官能評価の結果を示している。なお、本実験例1を含め、すべての実験例における味等の官能評価は、下記の評価基準に基づいて行った。
【0028】
[評価基準]
○:味、風味及び辛みのすべてが良好である。
△:味、風味及び辛みの何れかは良いものの、その他は良くない。
×:梅の風味及び/又は辛みが感じられない。
【0029】
【表1】

【0030】
表1に示すとおり、梅酢の塩分濃度が3%乃至8%である場合に高評価を得ることができた。塩分が高すぎると塩辛くなり、反対に低すぎると味気ないといえるため、梅酢の塩分濃度は3%から8%程度であることが好ましい。
【0031】
(実験例2)
実験例1では上述したとおり白梅酢を用いているが、赤梅酢を用いることもできる。電気式の脱塩装置を用いて減塩された赤梅酢を得、それに唐辛子を混ぜた後、6週間熟成させた結果得られた調味料について、味、風味及び辛みの官能評価を行った。その結果を表2に示す。
【0032】
【表2】

【0033】
表2に示すとおり、実験例1の場合とまったく同様の結果が得られた。白梅酢及び赤梅酢の何れを用いたとしても、その塩分濃度が3%乃至8%程度であることが好ましいといえる。
【0034】
(実験例3)
実験例1では上述したとおり脱塩工程において電気式の脱塩装置を用いているが、醸造酢又は米酢等を梅酢に加えることによって脱塩工程を実行するようにしてもよい。所定量の醸造酢を梅酢に加えて減塩された梅酢を得、それに唐辛子を混ぜた後、6週間熟成させた結果得られた調味料について、味、風味及び辛みの官能評価を行った。その結果を表3に示す。
【0035】
【表3】

【0036】
表3に示すとおり、梅酢の塩分濃度が3.3%乃至8%である場合に高評価を得ることができた。実験例1及び2と同様の結果である。
【0037】
(実験例4)
実験例4では、キムチの原料となるニンニク、蜂蜜、昆布茶及びリンゴ等を梅酢に加えることにより脱塩工程を行い、さらに唐辛子を混ぜた後、6週間熟成させた。具体的には、塩分濃度が20%の梅酢33ccに、蜂蜜50g、ニンニク16g、生姜2g、昆布茶10g及びリンゴ35gを加え、さらに唐辛子50gを加えて6週間熟成させた。このようにして得られた調味料(キムチの素)は、味、風味及び辛みのすべてが良好で、これを下処理(塩漬け・塩分3〜5%)した野菜に加えることにより、梅風味の美味なキムチを得ることができた。
【0038】
(実験例5)
実験例5では、脱塩工程により得られた減塩された梅酢に対して、混ぜる唐辛子(乾燥粉末加工されたもの)の量を変えて数種類の混合物を作り、それらを6週間熟成させた結果得られた調味料について、味、風味及び辛みの官能評価を行った。その結果を表4に示す。
【0039】
【表4】

【0040】
表4に示すとおり、梅酢に対する唐辛子の割合が12%から30%である場合に高評価を得ることができた。ただし、当該割合が30%の場合、唐辛子が溶解せず残ってしまった。これを考慮すると、梅酢に対する唐辛子の割合が12%乃至25%であることが好ましい。
【0041】
(実験例6)
実験例6では、塩分濃度が5%の梅酢100ccに、乾燥粉末加工された唐辛子25g及びへたを取った生唐辛子100gをそれぞれ混ぜ、それらを6週間熟成させた。その結果、ほぼ同じ味、風味を得ることができた。この結果から、本発明では乾燥唐辛子及び生唐辛子の何れを用いてもよいといえる。ただし、供給及び保存等の点を考慮すると、乾燥唐辛子の方が好ましいと考えられる。
【0042】
また、塩分濃度が5%の梅酢100ccに、赤青の生唐辛子100gをそれぞれ混ぜ、それらを6週間熟成させた。その結果、ほぼ同じ味、風味を得ることができた。この結果から、本発明では赤青の何れの唐辛子を用いてもよいといえる。
【0043】
(実験例7)
実験例7では、熟成工程における静置温度及び熟成期間を変えて得られた調味料について、味、風味及び辛みの官能評価を行った。その結果を表5乃至表7に示す。
【0044】
【表5】

【0045】
【表6】

【0046】
【表7】

【0047】
表5乃至表7を参照すると、梅酢の塩分濃度の違いはほとんど影響がなく、静置温度が低い場合は長い熟成期間を要し、静置温度が高い場合は短い熟成期間で足りることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の調味料及びその製造方法はそれぞれ、日本料理及び西洋料理を始めとする各種の料理に使用可能な調味料及びその製造方法等として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
減塩された梅酢に唐辛子を加えて熟成させてなる調味料。
【請求項2】
前記梅酢の塩分濃度が3%乃至8%である、請求項1に記載の調味料。
【請求項3】
前記唐辛子は乾燥粉末加工されており、前記梅酢に対する当該唐辛子の割合が重量比で12%乃至25%である、請求項1又は2に記載の調味料。
【請求項4】
梅酢を脱塩する脱塩工程と、
前記脱塩工程の結果減塩された梅酢に唐辛子を混合する混合工程と、
前記混合工程により得られた梅酢と唐辛子との混合物を熟成させる熟成工程と
を有する、調味料の製造方法。
【請求項5】
前記脱塩工程では、梅酢に醸造酢を加えることによって減塩された梅酢を生成する、請求項4に記載の調味料の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−147408(P2011−147408A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−12607(P2010−12607)
【出願日】平成22年1月22日(2010.1.22)
【出願人】(510021867)
【Fターム(参考)】