説明

調理された肉製品の食品安全性を高める方法

【課題】細菌、特にリステリア・モノサイトゲネスの成長に対する高められた抵抗を有する調理された肉製品を製造する方法。
【解決手段】本発明は、調理された肉製品、特に高められた貯蔵寿命安定性、ならびに細菌、特にリステリア・モノサイトゲネス、クロストリジウム、および腐敗性細菌、たとえば乳酸菌の成長に対する高められた抵抗を有する調理された肉製品を製造する方法に関する。本発明はまた、このような方法に有用な組成物、このような方法に特定の物質を使用する方法、およびこのような方法によって得られることができる肉製品にも関する。本発明に従う方法は、調理されていない肉製品を有機酸塩および潜在的酸と一緒にする段階、それに続いて該肉製品を調理する段階を含み、該潜在的酸は、調理されていない肉製品に添加されたときに酸性特性を示さないが、該肉製品の調理の間の主要な条件下では少なくとも3の炭素原子を有するカルボン酸に転化される化合物であり、該有機酸塩は乳酸塩、酢酸塩、およびこれらの組み合わせから選択される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肉製品、特に高められた貯蔵寿命安定性、ならびに細菌、特にリステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)、クロストリジウム(Clostridium)、および腐敗性細菌、たとえば乳酸菌(Lactobacilli)の成長に対する高められた抵抗を有する調理された肉製品を製造する方法に関する。本発明はまた、このような方法に有用な組成物、このような方法に特定の物質を使用する方法、およびこれらによって得られることができる肉製品にも関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、潜在的酸、たとえばカプセル封入された酸を使用する。カプセル封入された酸を肉製品の保存に使用することは従来技術で知られている。
【0003】
特許文献1は、調理された肉製品中の細菌の成長、特にリステリア・モノサイトゲネスの成長を抑制する方法において、食用脂質中にカプセル封入された酢酸が調理前に該肉製品に添加される上記方法を記載している。
【0004】
非特許文献1は、グルコノデルタラクトンを、とりわけ肉製品中に食品保存料として使用する方法を記載している。該酸味料の添加方法は記載されていない。
【0005】
特許文献2は、アルドン酸とそのラクトンとの加水分解混合物、またはその前駆体を使用して、冷凍食品中の病原菌の成長を抑制する方法を記載している。
【0006】
特許文献3は、酸とそのラクトンとの混合物の存在下において海産食品を熱処理する方法を記載している。
【0007】
特許文献4は、食品酸味料のブレンド、特にグルコノデルタラクトンとアジピン酸とのブレンドを使用して食品を殺菌および保存する方法を記載している。
【0008】
特許文献5は、乳酸またはグリコール酸を使用する、食品の制御された酸性化を記載している。酸性化は、有害な微生物カルチャーから食品を保護することおよび食品に特定の食感(テクスチャ)を与えることを目的としている。
【0009】
特許文献6は、カプセル封入された乳酸、およびその使用方法、とりわけ肉製品への使用方法を記載している。
【0010】
非特許文献2は、60℃の融点を有するカプセル封入された乳酸を魚肉片に添加する方法を記載している。
【0011】
肉製品への酸の添加は、多数の不利点を伴う。まず第一に、酸性化合物の添加は肉の味、その構造、調理収率、様々な他の特性に有害な影響を与えることがある。これは、肉の味および肉の他の特性に有害な影響を与えることなく添加されることができる酸の量および種類と、微生物に対する得られることができる耐性との間に、バランスが見出される必要があることを意味する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】欧州特許第687417号明細書
【特許文献2】国際公開第91/02465号パンフレット
【特許文献3】欧州特許第190028号明細書
【特許文献4】米国特許第4931297号明細書
【特許文献5】国際公開第2004/056203号パンフレット
【特許文献6】米国特許出願公開第2004/115315号明細書
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】P.Watine、「グルコノデルタラクトンの機能的属性および用途」、Int.Food Ingredients、第30巻、1995年、p.39〜41
【非特許文献2】P.Delaquisら、「調理されたすり身フィッシュローフの微生物学的、食感的および感覚的特性への、カプセル封入されたラクテートを用いた酸性化の効果」、Journal of Aquatic Food Product Technology、FSTA、1994年、非特許文献番号002275161号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
細菌、特にリステリア・モノサイトゲネスの成長に対する高められた抵抗を有する調理された肉製品を製造する方法であって、上記の不利点のない方法の必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に従って、調理されていない肉製品を有機酸塩および潜在的酸と一緒にする段階、それに続いて該肉製品を調理する段階を含む、調理された肉製品を製造する方法において、該潜在的酸が、調理されていない肉製品に添加されたときに酸性特性を示さないが、該肉製品の調理の間の主要な条件下では少なくとも3の炭素原子を有するカルボン酸に転化される化合物であり、該有機酸塩が乳酸塩、酢酸塩、およびこれらの組み合わせから選択される、上記の方法を提供することによって、この問題は解決される。
【発明の効果】
【0016】
乳酸塩、酢酸塩、およびこれらの組み合わせから選択された酸塩と、特定の潜在的酸との組み合わせは、病原菌、特にリステリア・モノサイトゲネスの成長に対する高い抵抗を示す調理された肉製品の製造を、該製品の味および他の特性に有害な影響を与えることなく可能にすることが発見された。他の細菌、たとえばクロストリジウム、および腐敗性細菌、たとえば乳酸菌に対する高められた耐性はこれと同時に得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】潜在的酸としての被覆されたクエン酸と乳酸カルシウムと二酢酸ナトリウムとの組み合わせを使用して調製された本発明に従う組成物が、7℃の貯蔵温度において少なくとも30日間リステリア・モノサイトゲネスを抑制することを示す図である。(実施例1)
【発明を実施するための形態】
【0018】
上記のように本発明では潜在的酸が使用され、これは、調理されていない肉製品に添加されたときに酸性特性を示さないが、該肉製品の調理の間の主要な条件下では少なくとも3の炭素原子を有するカルボン酸に転化される化合物である。
【0019】
実際には、このことは、潜在的酸は少なくとも45℃の温度、特に50〜100℃の温度、より特には55〜95℃の温度において活性酸に転化されることを意味する。
【0020】
好適な潜在的酸は、該肉の調理の間の主要な条件下で溶融しまたは他様に崩壊する固形物質の層で被覆された酸含有粒子を含む。
【0021】
該酸は、食品に使用するのに適している、少なくとも3の炭素原子を有するカルボン酸である。酸中の炭素原子の最大数は本発明にとって決定的に重要ではなく、一般に15未満である。好適な酸の例は、プロピオン酸、クエン酸、アスコルビン酸、アジピン酸、フマル酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、グルコン酸、グルコノデルタラクトン、およびラクチドを含む。最後の二つの化合物については、以下でより詳細に検討されるように、これら自体で潜在的酸であることが注記される。したがって、これらの酸を被覆された形態で用意することが可能である一方で、これらの酸は被覆されていない形態で使用されることもできる。
【0022】
使用される酸は所望のpHレベルにおいて、肉製品の他の成分と相容れない味を該製品に与えてはならない。グルコノデルタラクトン、ラクチド、乳酸、およびクエン酸は、本発明に従う方法に使用するのに特によく適していることが発見された。酸が室温で通常、液状である場合には、固形粒子担体上に吸着されることができる。1の実施態様では、担体上に吸着された乳酸、たとえば乳酸カルシウム担体上に吸着された乳酸が使用される。この物質はPurac Biochem社からPurac Powderとして商業的に入手可能である。
【0023】
好適な被覆物質は、水素化油、たとえば水素化大豆油のようなショートニング、特に水素化ヤシ油、食用石油ワックス、牛脂、食用植物ワックスおよび水素化ラードを含むが、これらに限定されない。水素化されていない植物油が使用されることもできる。
【0024】
本発明に使用するのに適した被覆された酸は従来技術で知られており、本明細書においてさらに記載することを要しない。
【0025】
本発明の1の実施態様では、潜在的酸はカプセル封入された結晶性乳酸、より具体的にはPurac Biochem社による国際公開第2004/012534号に記載されたカプセル封入された結晶性乳酸である。この参照文献は様々な実施態様を記載しているけれども、本発明に使用するためには潜在的酸の特性に関して本発明の要件を満たすような実施態様が選択されなければならない。
【0026】
本発明に従って使用するのに適した商業的に入手可能な潜在的酸の例は、Van Den Bergh社・食品添加物グループによって「DURKOTE(商標)クエン酸150−85」の商品名下に販売されているカプセル封入されたクエン酸(部分的に水素化された大豆油のカプセルに入れられたクエン酸、融点152〜158°F(66.7〜70.0℃))およびBalchem社によって「CAP−SHURE(商標)C−135−72」の商品名下に販売されているカプセル封入されたクエン酸(部分的に水素化されたヤシ油のカプセルに入れられたクエン酸、融点136〜144°F(57.8〜62.2℃))を含む。
【0027】
好適な潜在的酸はまた、室温で酸性でないけれども、肉製品の調理の間の主要な条件下で酸に転化する化合物も含む。これらの化合物の例は、ジオキサン、たとえばグルコノデルタラクトンおよび乳酸オリゴマーを含む。本発明の文脈内では、乳酸オリゴマーはエステル結合を介して互いに結合された2〜10の乳酸モノマーを含む。1の実施態様では、乳酸源は2〜5の乳酸分子の乳酸オリゴマーである。さらなる実施態様では、乳酸源は2の乳酸分子の直鎖状または環式である乳酸オリゴマーである。2の乳酸分子の環式乳酸オリゴマーは、技術的にはラクチドと表示される。
【0028】
潜在的酸は、調理後の肉製品のpHを、調理後の同じ肉製品であるが該酸の添加されていない肉製品のpHと比較して、少なくともpH0.1単位の値で減少させるのに十分である量で添加される。適切な場合には、調理後の肉製品のpHは少なくともpH0.2単位で減少される。調理後の肉製品のpHは一般に5.7〜6.5の範囲、より特には5.8〜6.2の範囲にある。
【0029】
該酸は、最終肉製品の重量当たりの酸として計算されて一般に0.01〜5重量%の量、好ましくは0.01〜3重量%の量、より好ましくは0.01〜2重量%の量、特に0.01〜1重量%の量で添加される。添加されるべき酸の正確な量はとりわけ、酸の性質、pHの所望の減少量、および肉の組成に依存する。特定の状況における酸の正確な量を決定することは、定型的な試行錯誤の問題であり、十分に当業者の技術範囲内にある。
【0030】
潜在的酸は、固体の形態で、または液状媒体、たとえば水性液状媒体中に分散されもしくは溶解されて、調理されていない肉製品に添加されることができる。該酸は、1または複数の有機酸塩と同時におよび/またはそれらとは別途に添加されることができる。
【0031】
本発明では、有機酸塩は、乳酸塩、酢酸塩、およびこれらの組み合わせから選択されて使用される。念のために、当業者であれば酢酸塩は二酢酸塩も包含すると理解することが注記される。本発明に使用するために、食品安全性の観点からおよび肉製品の味への有害な影響に関しての双方の面から、該塩は食品化合物への使用が許容されたものでなければならない。
【0032】
好まれる塩はアルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩である。ナトリウム、カリウム、およびカルシウム塩が特に挙げられなければならない。
【0033】
乳酸塩が使用される場合には、これは最終肉製品の重量当たりの塩として計算されて一般に0.5〜5重量%の量で添加される。好ましくは、使用される量は4重量%まで、特に3重量%まで、さらに2重量%までさえである。下限値は一般に0.5重量%である。特定の場合には1重量%の下限値が好まれることがある。好適な乳酸塩は従来技術で知られたものであり、乳酸ナトリウム、乳酸カリウム、および乳酸カルシウムを含む。
【0034】
酢酸塩が使用される場合には、これは一般にアルカリ金属酢酸塩または二酢酸塩、特に二酢酸ナトリウムもしくは二酢酸カリウムまたは酢酸ナトリウムもしくは酢酸カリウムである。これは最終肉製品の重量当たりの塩として計算されて一般に0.01〜0.3重量%の量、特に0.01〜0.2重量%の量で使用される。
【0035】
本発明の1の実施態様では、乳酸塩と酢酸塩との組み合わせが使用される。これらの化合物に関する詳細およびこれらの添加される量については、既に上で特定したものが参照される。
【0036】
有機酸塩は固体の形態で、または液状媒体中に分散されもしくは溶解されて、特に水性媒体中に溶解されて、調理されていない肉製品に添加されることができる。2以上の化合物が使用される場合には、たとえば上記の乳酸塩と酢酸塩との組み合わせの場合には、これらは、潜在的酸とともにであるかどうかを問わず、互いに別々にまたは一緒に添加されることができる。
【0037】
1以上の有機酸塩、たとえば1以上の乳酸塩および/もしくは1以上の酢酸塩、ならびに/または1以上の潜在的酸を使用することは、本発明の範囲内であることが注記される。別様に示されない限り、すべての重量パーセント数は調理後の最終製品の重量当たりで計算される。
【0038】
本発明の1の実施態様では、有機酸塩および潜在的酸は一緒にされ、この一緒にされたものが調理されていない肉製品に添加される。本発明はまた、調理された肉製品の製造に使用するのに適した、有機酸塩および潜在的酸を含んでいる混合物にも関し、該有機酸塩は乳酸塩、酢酸塩、およびこれらの組み合わせから選択されたものであり、ならびに該潜在的酸は室温で酸性特性を示さないが、肉製品の調理の間の主要な条件下では少なくとも3の炭素原子を有するカルボン酸に転化される化合物である。
【0039】
該混合物は固体または液体の形態をしていることができる。混合物が固体の形態をしているならば、一般にそれは関連する成分の粒子を含んでいる粉体の形態をしている。固体の形態をした混合物は一般に10〜99重量%、特に70〜99重量%の有機酸塩、および一般に1〜70重量%、特に1〜30重量%の潜在的酸を含んでいる。混合物が乳酸塩、酢酸塩、および潜在的酸を含んでいる本発明の実施態様では、それは一般に10〜98.5重量%の乳酸塩、0.05〜40重量%の酢酸塩、および1〜30重量%の潜在的酸を含んでいる。
【0040】
混合物が液体の形態をしているならば、それは一般に水性組成物の形態をしており、溶液または分散物であることができる。本発明に従う水性組成物は、一般に上で特定された量の1または複数の有機酸塩および潜在的酸を含んでおり、1または複数の有機酸塩および酸の合計部当たり1〜1000部の水と一緒にされる。
【0041】
混合物が固体の形態をしている場合には、混合物の粒子は一般に0.01〜5000ミクロン、好ましくは40〜2000ミクロン、とりわけ50〜1500ミクロンの直径を有する。必要に応じて、慣用の流動助剤が混合物に添加されてもよい。上述の粒子サイズは、流動助剤を含有していない混合物に基づいて測定されることが注記される。
【0042】
有機酸塩および潜在的酸は、調理されていない肉製品に添加される。該化合物のうちの1以上が固体の形態で添加されるならば、それは一般に粉体の形態で、肉製品中にかき混ぜ込むことによって添加される。液体の形態で添加される成分はいずれも一緒にされ、肉製品中に混合されることができる。肉片の場合には、化合物は、たとえば水性形態で肉の中に注入されることができる。本発明の効果の恩恵を受けるためには、肉製品の外側上だけでなくその内側にも活性化合物が存在することが重要である。肉片を溶液中に浸すことによって化合物を添加することは、したがって一般に適切な添加方法ではない。本発明の化合物が肉製品に添加されることができる他の適当な方法は、食肉製造業者には明らかだろうから本明細書でさらに説明することを要しないだろう。
【0043】
有機酸塩および潜在的酸の添加後、肉製品は調理される。肉製品の調理は当業者の一般常識の一部であり、本明細書でさらに説明することを要しない。調理過程の間のある時点で、肉製品の温度はそこで潜在的酸が活性酸に転化される値に達する。
【0044】
肉製品は保存処理されることができるし保存処理されないこともできる。保存処理されていない肉製品は、保存処理された肉製品よりも微生物の成長を受けやすいので、本発明は保存処理されていない肉製品への適用に特に魅力がある。好適な、保存処理されていない肉製品の例は、調理された鶏肉、七面鳥肉、およびローストビーフである。好適な、保存処理された肉製品の例は、保存処理されたポークハム、フランクフルトソーセージ、および他の保存処理されたソーセージである。念のために、本明細書では肉の語は鶏肉および魚をも包含することが注記される。
【0045】
本発明の最大効果は肉製品の調理の間に酸が放出されたときにのみ得られるので、精肉店のような食肉加工業者、すなわち食肉加工業界によって肉製品が調理される加工過程にとって、本発明は特に魅力があることが注記されなければならない。
【0046】
本発明は、本発明の方法を使用して得られることができる調理された肉製品にも関する。本発明はまた、有機酸塩および少なくとも3の炭素原子を有する酸を含んでいる、調理された肉製品、とりわけ保存処理されていない調理された肉製品にも関する。本発明は特に、乳酸塩、酢酸塩、および少なくとも3の炭素原子を有する酸を含んでいる、調理された肉製品、とりわけ保存処理されていない調理された肉製品に関する。これらの化合物のさらなる特定のためには、上で述べられたものが参照される。
【0047】
本発明は以下の実施例によって、これらにまたはこれらによってどのような様式でも限定されることなく例示される。
【実施例1】
【0048】
七面鳥肉ロールが以下のように調製された。三リン酸ナトリウム、塩化ナトリウム、マルトデキストリン、カラギーン、加工コーンスターチおよび水を含有する塩水で、七面鳥肉が塩処理された。被覆されたクエン酸および/または乳酸カリウムと二酢酸ナトリウムとの組み合わせが、保存料として添加された。七面鳥ロールの組成が表1に示される。
【表1】

*被覆されたクエン酸は、Karmat社から72重量%クエン酸として商業的に得られる。表に示されたパーセント数は100重量%クエン酸として計算される。
【0049】
該ロールは以下のように調製された。すなわち、挽かれた七面鳥胸肉が0℃で一日間貯蔵された。表1の成分および保存料が塩水中に溶解された。該塩水が、挽かれた七面鳥胸肉に添加された。塩水を有する七面鳥胸肉が真空袋(真空引きなし)中に詰められ、タンブラーで2時間2回、その間に30分間の停止をはさんで混合された。この肉ペーストは(塩水の分配のために)真空袋中で0℃において16時間貯蔵された。5〜5.5cmの平均直径を有する七面鳥ロールが調製された。七面鳥ロールは82℃の湯浴中で約1.75時間調理され、その後冷水中で冷却された。最終の七面鳥ロールは0℃で貯蔵された。
【0050】
調理された七面鳥ロールのpHおよび収率が測定された。目視検査に基づいて(パージ分なし)、すべてのロールは100%の収率を有していた。被覆されたクエン酸を使用して調製されたロールは5.8のpHを有しており、他方、被覆されたクエン酸なしに調製されたロールは6.2のpHを有していた。
【0051】
ロールが微生物への耐性について評価された。
【0052】
まず最初に、接種物(イノキュラム)が以下のように調製された。すなわち、リステリア・モノサイトゲネスのカルチャー(菌株保存機関保存番号 NRRL B33028、NRRL B33039、NCTC 12480、NCIMB 13449、LMG 23193)が平板培地(プレート)からのスターター・カルチャーとされ、10mlの脳心臓浸出液液体培地の入ったねじ口試験管(100×16mm)中で30℃において一晩インキュベートされた。
【0053】
調理された七面鳥挽肉ロールが、製品1g当たり約1000(10)CFUの最終レベルにまで正副2通りに接種された。すなわち、七面鳥挽肉ロールはイノキュラム1%(挽肉500グラム当たり約5mlのイノキュラム)を接種された。該挽肉はバグフィルター中に秤量投入され、真空包装され(Turbovac真空ポンプ、真空時間:6、ガス時間:0、密封時間:2)、そして7℃で貯蔵された。
【0054】
適当な時間間隔で、接種された七面鳥挽肉ロールの各バッチのサンプルが、微生物分析のために正副2通りに採られる。サンプルの入った密封袋が開封され、そして滅菌希釈液(8.5(重量/重量)%のNaClおよび0.1(重量/体積)%の細菌学的ペプトン)で3倍に希釈された。
【0055】
この混合物がストマッカー中で1分間均質化された。追加の希釈が同じく滅菌希釈液で行われた。
【0056】
50μlの均質化物または希釈物が引き続いて、エディジェット(Eddyjet)型式1.23スパイラルプレーター(西国、バルセロナ、IUL Instruments社)を使用してパルカム(Palcam)寒天培地上にプレーティングされた。プレートは30℃で48時間または室温で72時間インキュベートされた。均質化およびその後のプレーティングは正副2通りに実施された。
【0057】
接種の検討実験の間にサンプルは全好気性生菌数についても分析されて、貯蔵の間の肉サンプルの他の好気性細菌による感染の可能性が検査された。サンプルの適当な希釈物がトリプトン(Tryptone)ソーヤ寒天培地上にプレーティングされた。Colyte Supercount自動コロニー計数器(英国、ケンブリッジ、Synoptics社)を用いて、コロニーが計数された。全好気性生菌数の結果がリステリア菌数の結果と等しいので、接種検討実験は他の好気性細菌による感染を受けていないものである。
【0058】
試験の結果が図1に示される。潜在的酸としての被覆されたクエン酸と乳酸カリウムと二酢酸ナトリウムとの組み合わせを使用して調製された本発明に従う組成物が、7℃の貯蔵温度において少なくとも30日間リステリア・モノサイトゲネスを抑制することを、図1は示す。被覆された酸単独の使用も、乳酸カリウムと二酢酸ナトリウムとの組み合わせ単独の使用のどちらも、このような良好な結果を示さない。このことは、本発明に伴う有利な効果を例証している。
【実施例2】
【0059】
本発明における様々な潜在的酸の効果を例示するために、乳酸カリウムおよび二酢酸ナトリウムに加えて、グルコノデルタラクトン(GDL)、ラクチド、および被覆されたクエン酸を使用してミートソーセージが調製された。比較例として、それぞれ当量のグルコン酸および乳酸を含有する組成物が調製され、ここでグルコン酸はGDLの加水分解生成物であり、乳酸はラクチドの加水分解生成物である。
【0060】
ソーセージは以下のように調製された。すなわち、550〜650gのソーセージが調製された。ポークベリー(豚腹)、ポークバックファット(豚背脂)およびビーフショルダークロッド(牛ウデ)が、三リン酸ナトリウム、塩化ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、デキストロース、香辛料、アスコルビン酸ナトリウム、グルタミン酸ナトリウム、小麦デンプンおよび水で塩処理された。さらに、乳酸カリウム、二酢酸ナトリウム、GDL、グルコン酸、ラクチド、乳酸または被覆されたクエン酸が成分として添加された。この混合物の組成が表2に示される。
【表2】

【0061】
GDL1.0%はグルコン酸1.18%に、およびラクチド0.69%は乳酸0.77%に相当することが注記される。したがって、比較例のサンプルは本発明に従うサンプルと同じ量の酸を含有する。
【0062】
ソーセージは以下の手順を使用して調製された。すなわち、肉は−4℃で一日間貯蔵された。脂肪の少ない肉および肉以外のタンパク質(牛挽肉、リーンポーク(豚痩肉)、およびポークベリーの一部)が保存処理塩0.6%、三リン酸ナトリウムおよび水の半量とともにボウルチョッパー中で、−2℃の温度に達するまで切り刻まれた。残りの乾燥成分および残りのポークベリー(および水)が添加され、そしてこの混合物が15〜16℃の温度に達するまで高速度で切り刻まれる。この乳化物がケーシング中に詰められ、このソーセージが直ちに82℃の湯浴中で1.75時間調理され、そして冷水中で冷却される。
【0063】
ソーセージが食感および収率について評価された。結果が表3および4に示される。
【表3】

【表4】

【0064】
GDL、ラクチドまたは被覆されたクエン酸として潜在的酸を含有するソーセージは、それぞれグルコン酸および乳酸を有するソーセージよりも有意に良好な肉構造を有し、調理後に収率損失を示さなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
調理されていない肉製品を有機酸塩および潜在的酸と一緒にする段階、引き続いて該肉製品を調理する段階を含む、調理された肉製品を製造する方法において、該潜在的酸が、調理されていない肉製品に添加されたときに酸性特性を示さないが、該肉製品の調理の間の主要な条件下では少なくとも3の炭素原子を有するカルボン酸に転化される化合物であり、該有機酸塩が乳酸塩、酢酸塩、およびこれらの組み合わせから選択される、上記の方法。
【請求項2】
調理された肉製品が、保存処理されていない肉製品である、請求項1に従う方法。
【請求項3】
有機酸塩が、乳酸塩と酢酸塩との組み合わせである、請求項1または2に従う方法。
【請求項4】
乳酸塩が乳酸ナトリウム、乳酸カリウム、およびこれらの混合物から選択されたアルカリ金属乳酸塩を含み、かつ酢酸塩が酢酸ナトリウム、二酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、二酢酸カリウム、およびこれらの混合物から選択されたアルカリ金属酢酸塩を含む、請求項1〜3のいずれか1項に従う方法。
【請求項5】
潜在的酸が、被覆された酸、乳酸オリゴマー、またはラクトンである、請求項1〜4のいずれか1項に従う方法。
【請求項6】
潜在的酸が、グルコノデルタラクトンまたはラクチドである、請求項5に従う方法。
【請求項7】
調理された肉製品の製造に使用するのに適した、有機酸塩および潜在的酸を含んでいる混合物であって、該潜在的酸が室温で酸性特性を示さないが、肉製品の調理の間の主要な条件下では少なくとも3の炭素原子を有するカルボン酸に転化される化合物であり、該有機酸塩が乳酸塩、酢酸塩、およびこれらの組み合わせから選択されたものである、混合物。
【請求項8】
有機酸塩が、乳酸塩と酢酸塩との組み合わせを含んでいる、請求項7に従う混合物。
【請求項9】
調理されていない肉製品を有機酸塩および潜在的酸と一緒にすること、引き続いて該肉製品を調理することによって、リステリア・モノサイトゲネスの成長に対する該肉製品の抵抗を高めることにおいて、該有機酸塩と該潜在的酸との組み合わせを使用する方法において、該潜在的酸が、該調理されていない肉製品に添加されたときに酸性特性を示さないが、該肉製品の調理の間の主要な条件下では少なくとも3の炭素原子を有するカルボン酸に転化される化合物であり、該有機酸塩が乳酸塩、酢酸塩、およびこれらの組み合わせから選択される、上記の使用方法。
【請求項10】
有機酸塩が、乳酸塩と酢酸塩との組み合わせを含む、請求項9に従う使用方法。
【請求項11】
潜在的酸が、被覆された酸、乳酸オリゴマー、またはラクトンである、請求項9または10に従う使用方法。
【請求項12】
有機酸塩および潜在的酸が、請求項7または8の混合物の形態で添加される、請求項9〜11のいずれか1項に従う使用方法。
【請求項13】
請求項1〜6のいずれか1項に従う方法、または請求項9〜12のいずれか1項に従う使用方法によって得られることができる、調理された肉製品。
【請求項14】
乳酸塩、酢酸塩、およびこれらの組み合わせから選択された有機酸塩、ならびに少なくとも3の炭素原子を有する酸を含んでいる、調理された肉製品。

【図1】
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【公表番号】特表2010−530232(P2010−530232A)
【公表日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−512667(P2010−512667)
【出願日】平成20年6月17日(2008.6.17)
【国際出願番号】PCT/EP2008/057603
【国際公開番号】WO2008/155323
【国際公開日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(306003419)ピュラック バイオケム ビー.ブイ. (40)