説明

調節可能な第2位相の傾斜を有する二相細動除去器波形

細動除去器は、第2位相についての傾斜が調節可能な二相細動除去パルス波形を生成する。当該二相細動除去パルス波形の第2位相の傾斜は、前記第2位相のパルスの供給中に患者を通過する電流路を切り換えることによって、制御可能なように調節されて良い。本発明の二相波形は、1つのキャパシタンスを有する細動除去器によって供給されて良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心停止に苦しむ患者を蘇生する細動除去器に関し、具体的には、二相衝撃波形を生成する細動除去器に関する。
【背景技術】
【0002】
急性心臓死は、米国における主要な死因である。急性心臓死の一般的な原因は、心筋線維が無秩序に収縮する心室細動である。このように秩序ある心筋活動が失われた結果、血液を実効的に送る心臓の活動が失われることで、体への正常な血流が中断する。心室細動に対する唯一の有効な処置は、患者の心臓に電気衝撃を印加する電気細動除去である。強い細動除去衝撃は、心臓による全ての電気的活動を中止する。その後、体の自律神経系は、秩序ある心臓の電気パルスの印加を自動的に再開する。
【0003】
実効的にするため、細動除去衝撃は、心室細動開始から数分以内にその患者へ供給されなければならない。研究の結果、心室細動開始後1分以内に供給された細動除去衝撃は、最大100%の生存率を実現する。前記衝撃が与えられる前に6分経過した場合、生存室は約30%にまで落ちる。12分経過だと、詞得損率はゼロに接近する。
【0004】
迅速な細動除去衝撃を供給する一の方法は、埋め込み形細動除去器を利用することである。埋め込み形細動除去器は、将来電気療法を必要とする可能性の高い患者の中に外科的に埋め込まれる。埋め込み形細動除去器は一般的に、患者の心臓の活動を監視し、かつ、示唆があったときには、患者の心臓に直接電気療法パルスを自動的に供給する。よって埋め込み形細動除去器は、患者が、かなり通常の状態で活動することを可能にする一方で、心臓の活動を連続的に監視する。しかし埋め込み形細動除去器は高価であり、かつ急性心臓死の危険性がある全患者のうちのほんの一部の患者にしか用いられていない。
【0005】
体外式細動除去器は、患者の上半身に取り付けられる電極を介して、患者の心臓に電気パルスを送る。体外式細動除去器は、救急救命室、手術室、救急車、又は、直ちに患者へ電気療法を行う必要性が予期せずに生じる恐れのある他の状況において有用である。体外式細動除去器の利点は、必要に応じて患者に用いることができるので、後で他の患者に用いられるように移動させることができることである。埋め込み形細動除去器と比較した欠点は、体外式細動除去器は、該体外式細動除去器が用いられるどの患者に対しても有効な処置を行えなければならないことである。埋め込み形細動除去器は特定の患者に用いられるので、その細動除去器の性能は、特定の患者用に調節された特定の電気療法を供するように調節される。動作パラメータ−たとえば供給された電気パルス振幅及び全エネルギー−は、特定の患者の生理機能に対し、滴定により実効的に測定されることで、細動除去器の実効性を最適化して良い。たとえば初期電圧、第1位相期間、及び全パルス期間は、所望量のエネルギーを供給するため又は所望の開始電圧と終了電圧との差(たとえば一定の傾斜)を実現するため、装置の埋め込み前に設定されて良い。たとえ埋め込み形細動除去器が、(特許文献1で論じられているように)該細動除去器のリード線及び/又は患者の心臓のインピーダンス変化を補償するために動作パラメータを変化させることができるときでも、患者一人につき1つ埋め込む際に予想され得るインピーダンス変化は相対的に小さい。たとえば患者のインピーダンスのようなパラメータは、埋め込み時に測定されて良い。細動除去波形が、特定の患者の特性について設定される。
【0006】
体外式細動除去器は、比較すると、その細動除去器が用いられる患者によって与えられる患者の特性の全範囲で動作するように設計されなければならない。体外式細動除去器電極は、患者の心臓に直接接触しておらず、かつ、体外式細動除去器は、様々な生理学上の差異を有する様々な患者に用いることができなければならないので、体外式細動除去器は、大抵の患者にとって有効なパルス振幅及びパルス期間のパラメータに従って操作されなければならない。たとえば体外式細動除去器電極と患者の心臓との間の細胞組織によって与えられるインピーダンスは患者毎に変化するので、所与の初期パルス振幅及び期間について患者の心臓へ実際に供給される衝撃の強度及び波形は変化する。低インピーダンスの患者を処置するのに有効なパルス振幅及び期間は、必ずしも、高インピーダンスの患者に対して有効でエネルギー効率の良い処置を供給する訳ではない。従って、患者の胸部インピーダンスは大抵の場合治療中に測定され、パルス波形は、特許文献2及び3に記載されているように動的に調節される。
【0007】
細動除去器波形−つまり供給された電流又は電圧パルスの時間プロット−は、パルス位相の形状、極性、期間、及びパルス数によって特徴付けられる。現在用いられている体内式及び体外式細動除去器のほとんどは、ある種の切頭指数型の二相波形を利用する。二相埋め込み型細動除去器の例は、特許文献1、4、5、6、7、及び8で見つけることができる。
【0008】
このような患者のばらつきの問題に対する一の従来技術に係る解決法は、ユーザーによる複数のエネルギー設定の選択が可能な体外式細動除去器を供することである。係る体外式細動除去器を用いる一般的な手順は、平均インピーダンスの患者の細動除去に適した初期エネルギー設定を試し、その後、その初期エネルギーが、患者の蘇生に失敗した場合には、後続の細動除去を試みるエネルギー設定を上昇させることである。繰り返される細動除去の試みは、さらなるエネルギーを必要とし、かつ患者に危険性を加えることになる。前述した他の解決法は、治療中に患者のインピーダンス又は該インピーダンスに関連するパラメータの測定を行い、かつ前記測定に基づいて後続の細動除去衝撃の形状を変化させることである。たとえば特許文献1に記載された埋め込み型細動除去器は、検出された不整脈に応じて、所定形状の細動除去衝撃を患者の心臓へ供給する。特許文献1に係る装置は、その衝撃の供給中での系のインピーダンスを測定し、かつ、その測定されたインピーダンスを利用して、続いて供給される衝撃の形状を変化させる。この手法の変化型は非特許文献1に記載されている。非特許文献1では、著者等は、細動除去衝撃を与える前に、患者に試験パルスを与える体外式細動除去器について記載している。その試験パルスは、衝撃を供給する前に、患者のインピーダンスを測定するのに用いられる。続いて細動除去器は、測定された患者のインピーダンスに応じて、衝撃によって供給されたエネルギーの量を調節する。非特許文献1の供給された波形の形状は減衰正弦波である。
【0009】
患者のインピーダンスが重要で、かつ治療時に細動除去器によって測定することができる一方で、他の重要な患者の特性は、電気療法に対する患者の心筋細胞膜の応答である。電気衝撃は細動の電気活動を中止させることが知られている一方で、このことについての厳密な生理学上の説明は、憶測の域を出ないままである。一の仮説は、初期の高エネルギー衝撃は、その衝撃の極性の方向に流れる強い電流によって、心筋細胞の電気活動を中止させるというものである。良好な細動除去及び有害な後遺症が少ないことを含む二相波形の利点は、衝撃波形の第2位相の反転極性によるという仮説がたてられる。第2位相中でのこのような電流の反転は、初期衝撃の残留効果を緩和し、かつ心筋細胞内の残留負荷を除去することによって細胞組織を安定化すると考えられている。通常の電気的活動の自律的回復が阻害されないように、初期細動除去衝撃の効果が完全に除去される場合、心筋細胞は、規則的な電気パルスの自律的回復の影響を受けやすいという仮説が考えられる。この仮説は、電気的衝撃に対する患者の厳密な心筋細胞の応答を知りたいという欲求となる。心筋細胞の応答が臨床研究において測定されてきた一方で、現在まで、治療中でのこの細胞応答の測定は可能ではなかった。よってほとんどの細動除去器は、これらの研究の測定値から得られる細胞応答の平均値を仮定する。このように仮定された平均値が用いられることで、多くの知りたいと欲求がそのまま未解決になっている。平均についての細胞応答の分散は一般的には十分に知られておらず、特定の患者の細胞応答特性は予測又は検出が困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第5230336号明細書
【特許文献2】米国特許第5803927号明細書
【特許文献3】米国特許第5749904号明細書
【特許文献4】米国特許第4821723号明細書
【特許文献5】米国特許第5083562号明細書
【特許文献6】米国特許第4800883号明細書
【特許文献7】米国特許第4850357号明細書
【特許文献8】米国特許第4953551号明細書
【特許文献9】米国特許第5991658号明細書
【特許文献10】米国特許第6539255号明細書
【特許文献11】米国特許第5352239号明細書
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】カーバー(R. E. Kerber)他、"Energy, current, and success in defibrillation and cardioversion: clinical studies using an automated impedance-based method of energy adjustment," Circulation誌、第77巻、 pp 1038-46、1988年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、様々な患者のインピーダンス及び様々な心筋細胞応答の範囲を有する患者にとって安全かつ有効な体外式細動除去器のパルス波形を設計することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の原理によると、様々な調節可能なパラメータを有する二相細動除去パルスを生成する体外式細動除去器が供される。前記パラメータとはたとえば、供給されるエネルギー、初期電圧及び電流、位相の期間、パルス期間、並びにパルス傾斜(可変位相変化を含む)である。第2位相の調節可能な傾斜は、前記第2位相の間にパルス電流の一部を患者に制御可能なように通電させることによって供される。前記の通電は、前記二相波形の第2位相の傾斜を調節する。本発明は、1つのキャパシタンスを有する細動除去器によって実装されて良い。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の原理によって構築された体外式細動除去器のブロック図を表している。
【図2】aとbは、高変化特性及び低変化特性を有する二相波形を表している。
【図3】切頭二相波形を表している。
【図4】a-cはそれぞれ、様々な心筋細胞応答特性に対する二相細動除去波形を表している。
【図5】本発明の原理による調節可能な第2位相変化を有する二相細動除去波形を供給する細動除去器を概略的に図示している。
【図6】様々な心筋細胞応答特性に対する図5の細動除去器によって生成される二相細動除去波形を表している。
【発明を実施するための形態】
【0015】
最初に図1を参照すると、本発明の原理によって構築された患者モニタ/細動除去器のブロック図が表されている。図1に図示された装置は、心室細動を起こしていると予想される患者の細動除去を行うことができる。図1に図示された装置はまた、自律的な細動除去の意志決定に必要な心筋モニタリングを含むECGモニタリングを実行することができる。図示されたモニタはまた、SpO2酸素センシング、非観血式血圧モニタリング、及び端点での周期的モニタリングを行うこともできる。他の機能−たとえば観血式血圧モニタリング及び患者の温度モニタリング−もまた、かかる多機能装置において見いだすことができる。前記モニタは複数の患者のフロントエンドを有する。患者のフロントエンドとは、前記センサ用の入出力回路と、前記患者に取り付けられた電極である。この回路は、とりわけECG電極用、光学酸素センサ用、圧力センシング用、及び二酸化炭素センシング用の従来のセンシング及び増幅回路を有する。患者のセンサによって受け取られ、かつフロントエンド回路によって処理される情報は、フロントエンドA/D変換器12によってデジタル化される。そのデジタル化された情報は、装置の様々なモジュール間のデータを接続する通信バス60によって、その装置の処理回路と結合する。
【0016】
装置は、細動除去器の操作用である高電圧回路16を有する。高電圧回路は、細動除去に必要な高電圧パルスを生成する。前記高電圧パルスは、適切な時間に、切り換え論理回路14によって、患者と結合する細動除去電極に接続される。この回路は、心室細動を阻害するのに必要な高電圧の衝撃を供し、かつ心臓を通常のリズムに戻す。細動除去のために供給される衝撃レベル及び波形は、モニタ内のプロセッサ40によって自動的に計算されるか、又は、熟練の医療技術者若しくは医師によって手動で設定されて良い。
【0017】
装置内のモジュールの電力は、電力処理回路20によって分配される。電力処理回路20は、バッテリー22からの電力、AC電源24からの電力、又はDC26からの電力を分配する。AC電源及びDC電源はまた、モニタがこれらの外部電源から電力を与えられるときに、バッテリー22を充電する回路とも結合する。
【0018】
装置から得られた情報は、通信回路30によって他の装置又は位置へ送られて良い。これは、ネットワーク接続、RS232C接続、又は、ワイヤレス接続(たとえばBluetooth(登録商標) WiFi又は赤外通信等)を有して良い。
【0019】
装置は、キーパッドと制御器32の手段によって操作及び調節される。構築された実施例では、キーパッドは、環境の条件に対して保全された状態を供するメンブレン式キーパッドである。たとえばオン/オフスイッチ並びに細動除去のための電力レベル及び衝撃供給の制御のような制御器、プリンタ、及び他の機能が供されても良い。
【0020】
モニタは、中央処理装置(CPU)40の制御下で動作する。CPUは、読み取り専用メモリ(ROM)38上に記憶されたソフトウエアを動かす。重要部の設定及び新たな又は特殊な能力−たとえば波形情報−の制御のためにフラッシュROMも供される。たとえば心室細動のような患者の期間中に生成される情報を記憶するために取り外し可能メモリ36が供される。たとえば細動除去の前後での心筋波形のような患者の情報も、取り外し可能メモリ36に記憶される。取り外し可能メモリ36は、取り外されて、評価、記録保存、及び次の診断のため、次の治療をする人へ与えられて良い。取り外し可能メモリ36はまた、治療をする人からのマイクロホン48への音声情報をも記録して良い。
【0021】
ビープ音発生装置34は、短い「チュッチュ」という音を生成する固体の音源を駆動するのに用いられる。これらの音は、装置固有の自己診断テストが、低バッテリーレベル又は患者にとって重要な構成部品若しくは回路群における誤作動を検出したことを示唆する。低バッテリーレベルであることを表示するための大きな点滅する赤色X、又は回路の故障を特定するための大きな連続発光する赤色Xを与える装置の前方の専用ディスプレイが存在する。
【0022】
発信音46は、ソフトウエアによって生成され、その後スピーカー42を駆動するのに用いられる。この能力は、あるモニタリングの間の機能−たとえば各心臓周期に対して応答する短い発信音−に用いられる。複数の発信音の組み合わせは、患者の重要な測定結果が選択された警告の限界を超えたときに、聴取可能な警告を発するのに用いられる。発信音はまた、所定の割合で生成されることで、CPR圧縮の供給中に治療をする人を案内しても良い。
【0023】
スピーカー42は、事前に記録された音声指示、及び音声出力回路44に記憶されて音声出力回路44から再生される他の情報を再生して良い。
【0024】
図2aは、本発明によって構築された細動除去器によって生成された二相波形70の種類を表している。二相波形は、一の極を有する第1位相72及び反対の極を有する第2位相74を有する。二相波形は、1つ以上のキャパシタを有する細動除去器によって供給されて良い。2つのキャパシタを有する細動除去器の場合では、一のキャパシタは、第1位相72の開始時では最大電圧V0にまで充電され、かつ、他のキャパシタは、第2位相74の開始時では最大電圧V2にまで充電される。2つのキャパシタは、高電圧供給回路に対してそれぞれ異なる極性を有するように配向することで、互いに反対の状態のパルスが生成される。第1位相の間では、第1キャパシタは、高電圧供給回路と結合し、かつ、細動除去器電極を介して電流を流す。第1位相を終了させることが望ましいときには、第1キャパシタが供給回路から切り離されるように切り換えられ、かつ、第2キャパシタが供給回路と接続するように切り換えられる。第2キャパシタが、第1キャパシタの極性とは反対の極性を有した状態で切り換えられるので、第2キャパシタの放電は、第1位相とは反対の第2位相のパルス極性を生成する。2つのキャパシタが用いられるとき、各々は、他とは独立に、所望の電圧レベルにまで充電されて良い。
【0025】
実際の装置では、2つのキャパシタを有する装置はめったに実装されない。そのような装置は、サイズが大きくなり、かつ費用がかかるという課題を有する。よって体外式細動除去器は一般的に、費用とサイズを削減した単一キャパシタを用いている。単一キャパシタを用いて二相波形を供給するとき、Hブリッジが、波形を切り換えるのに用いられる。波形の第1位相の間、Hブリッジは、キャパシタの2端子と電極とを接続する。第1位相の終わりでは、その接続は開放され、かつキャパシタの端子は、電極に対して逆の極で接続するように切り換えられる。高電流は通常この時点で切り換えられるので、図2aの時間間隔Gによって示された位相間の中断が通常は存在する。1つのキャパシタしか用いられていないので、キャパシタの接続が切り換えられるとき、第1位相終了時でのキャパシタ上の電圧は、第2位相開始時での開始電圧である。図2aでは、この値は、V2=-V1であることを意味している。
【0026】
図2aは、効率にとって重要な他の波形パラメータを表している。1つは、相対的な位相の期間、第2位相の期間の期間Fに対する第1位相の期間Eの関係である。よく用いられる目標期間の関係は通常60%〜40%である。つまり、全ての波形の期間のうち、第1位相が60%の時間を占め、かつ第2位相が40%の時間を占めることが望ましい。合計波形期間(E+G+F)もまた重要である。波形の期間は、患者の細動除去を行うのに十分長いだけではなく、患者を電気的に負傷させないように短くする短いことが望ましい。換言すると、細動除去を起こすのに必要な期間にだけ患者に衝撃を与えることが望ましく、細動除去の有効性を改善しないエネルギー供給の拡張は回避されなければならない。二相波形は一般的に、全期間が5msec〜20msecの範囲で用いられる。
【0027】
他の重要な波形パラメータは、波形の「傾斜」として知られるものである。その傾斜は、エネルギー供給を示唆するものであり、かつ波形の開始電圧と終了電圧の割合として表される。波形の傾斜を計算する式は次式で表される。
【0028】
(傾斜)=1-(V3/V0)(%)
ここで図2aにおいて、V0は波形の開始電圧(波形振幅A)で、V3は終了電圧(波形振幅D)である。傾斜はまた、波形の各位相について個別に計算されても良い。
【0029】
図2aは、低傾斜波形として知られている波形を表している。低傾斜波形は一般的に、高い胸部インピーダンスを有する患者に対してパルス波形を供給するときに見られる。Ωの法則によって関連づけられる電圧、電流、及び胸部インピーダンスによって、所与の開始パルス電圧V0についての患者のインピーダンスが高くなる結果、相対的に電流は小さくなり、かつ、パルス期間にわたる電圧の減少は相対的に低くなる。図2aは、V0からV1までの波形70の第1位相72及びV2からV3までの第2位相74にわたる電圧減少が相対的に小さい様子を表している。
【0030】
図2bは、患者のインピーダンスが低い場合に一般的に見られる高傾斜の波形を表している。患者のインピーダンスが低いことで、所与の電圧についての電流が高くなり、かつ波形供給中での電圧減少は、図2aの低傾斜波形の電圧減少よりも大きくなる。同一の開始電圧V0から、波形の第1位相72は、図2aの低傾斜波形の場合よりも低いV1(波形振幅B)にまで減少する。同様に、第2位相74の間、V2(波形振幅C)から終了電圧V3まで大きく減少する。
【0031】
傾斜特性の帰結として、高傾斜波形が所与の終了電圧にまで減少する時間は、低傾斜波形が同一の終了電圧にまで減少する時間よりも短くなる。このことは、低傾斜波形は、かなりの−恐らく過度の−時間持続することで、同一の終了電圧に到達しうることを意味する。細動除去は一般的に、電流の供給が最大となるときである第1位相の最初数ミリ秒の間−恐らく平均電流が最高となるときでは最初の7ミリ秒−に起こると考えられているので、このことは、延長された低傾斜波形の時間のほとんどが治療上の有効性がほとんどないため不要であることを意味している。この状況に対する一の従来技術に係る解決法は、図3に図示されているように、波形70の第2位相74を切頭することである。第1位相72は、初期電圧レベルV0で開始され、プログラムされた期間若しくはインピーダンスに合わせた期間Eの間、又は所定の電圧V1に到達するまでの間延長する。第2位相74は、その前に初期電圧V2で始まるが、時間F’の後、不十分にしか終端又は切頭されない。第2位相の期間F’が、単独で又は最大の全波形期間(E+F’)を維持することを考慮しながら設定されて良い。たとえば波形の第2位相74は、F’がEに等しく、かつ相対的な位相期間が50:50のときに切頭されて良い。
【0032】
第2位相の切頭に係る問題は、かなりの電圧が、波形の終端で心筋に依然として印加された状態で供給されたパルスが終了することである。図3では、最終電圧V3は、第2位相がさらに減少することが可能な場合の終了電圧よりも大きい。このかなりの終端電圧が、治療の有効性に対して有害な影響を有していると考えられる。細動除去波形の終端電圧がゼロであることで、心臓の電気パルス化を身体が自律的に再開することに有害な影響を及ぼす恐れのあるパルス供給後に残留電荷が心筋細胞に残らないことが理想的には望ましい。このような残留電荷の除去は、一の評者によって「げっぷ(burping)」と呼ばれた。特許文献9を参照のこと。電圧が可能な限り小さくなった状態で細動除去波形を終端させる他の利点は、特定の患者に適用する際の患者個人に特有な細胞応答特性の不確実性に対する第2位相の最適期間の計算の感受性が、最小限に抑制されることである。ゼロ電圧付近で細動除去波形を終端させる第3の利点は、「破壊励起(break excitation)」現象−電圧が大きく変化することによって誘起される電流による衝撃後の不整脈を刺激すること−を回避することである。この目的を実現する一の方法は、特許文献10で示されているように、二相パルスの位相が、ゼロボルトにまで完全に崩壊することを可能にすることである。上記を実行することの望ましさは、心筋細胞応答特性90が描かれている二相波形80を表す図4a-cから分かる。前述したように、心筋細胞応答は、患者によって変化しうるし、さらには日によっても変化しうる。また所与の患者の心筋細胞応答は一般的に、救急時には分からない。図4aは、理想的な状況で心筋細胞応答がどのように変化するのかを表している。心筋細胞応答特性の変化は、細胞膜の時定数εrによって特徴付けることができる。εrの公称値は3.5ミリ秒である。図4aの場合では、この時定数により、心筋細胞応答特性90は、二相波形80の第1位相82の間は、第1位相82の終了段階でピークとなるまで上昇する。パルス波形が第2位相84に切り替わるとき、心筋細胞応答特性は、応答特性の後半94によって示されているように減少する。この場合では、応答特性は、第2位相84の終了時に、厳密に最初の開始時点のレベルにまで減少した。このことは、パルス80の終了時では、心筋細胞膜には残留電荷が存在しないことを示唆している。
【0033】
図4bは、心筋細胞応答特性90が、二相パルス80の第1位相の終了前に、ピークに到達するような時定数εrを有する状況を表している。その後、応答特性は、波形の傾斜の減少と共に減少する。この減少する応答特性は、細動除去にほとんど寄与しないと考えられている。二相パルスの第2位相の間、応答特性は、より急激に変化し続け、開始レベルにまで減少して、その後パルスの第2位相84が終了するまで、第2位相の傾斜が減少する。終了時、応答特性は開始レベル未満である、このことは、心筋細胞膜上に残留電荷が残っていることを示唆している。この状況は、低インピーダンスの患者で生じうる場合である。
【0034】
図4cは高インピーダンスの患者の状況を表している。図4cでは、心筋細胞応答特性90は、二相波形80の第1位相82の間は、図92に図示されているように非常にゆっくりと上昇する。応答特性は、第1位相82の終了時でも依然として上昇している。第2位相84のパルスが印加されるとき、応答特性は穏やかに減少し始めて、第2位相の終了時では最初の開始レベルには到達しない。繰り返すと、このことは、心筋細胞膜上の残留電荷を示唆している。
【0035】
本発明の原理によると、これらの条件を指定する細動除去回路100が図5に図示されている。この回路では、二相パルスを供給する際のエネルギーは、単一のキャパシタ102に蓄積される。パルス供給の準備では、電力処理回路20のバッテリー又は電源が、高電圧回路16と結合する。スイッチSc1とSc2は閉じて、かつ、高電圧回路16は、キャパシタ102を、たとえば2000[V]まで充電する。キャパシタ102が所望のレベルまで十分に充電されたとき、スイッチSc1とSc2は開く。続いてスイッチS1、S2、S3、及びS4を有するHブリッジ回路は、電極104と106を介して、患者Pへ二相パルスを供給するように切り換えられる。二相パルスの第1位相の間、スイッチS1とS2は閉じて、かつ、キャパシタは、患者の電極と結合する。このとき、患者には一方向−たとえば電極104から電極106へ−に電流が流れる。小さな抵抗器110は、低インピーダンスの患者への負傷を防止するため、ピーク電流を制限する。第1位相の終了時、スイッチS1とS2は、二相パルスを終了させるように開き、かつ、スイッチS3とS4は、第2位相のパルスを患者Pへ供給するように閉じる。これらのスイッチが閉じられることで、キャパシタ102からの電流は、第1位相とは逆の方向−つまりこの例では胸の電極106から胸の電極104−へ流れる。小さな抵抗器112もまたたとえば、第2位相の電流路と直列に用いられて良い。本発明の原理によると、スイッチS1もまた第2位相のある期間中に閉じられる。好適実施例では、スイッチS1は、第2位相の間、スイッチのパルス幅変調制御によって開閉するように切り換えられる。スイッチS1が閉じられることで、第2位相中にスイッチS1が閉じられるときにスイッチS1とS4によって生成される電流経路を介して、キャパシタ102の電流の一部が患者Pを流れる。その結果、キャパシタ102の電圧は、スイッチS1が第2位相の間に用いられなかった場合よりも急激に減少する。その結果生じる二相波形への効果が図6に図示されている。その効果は、第2位相86の二相パルスが急激に減少している(傾斜が大きくなっている)ように見える。スイッチS1を閉じるように制御することによって、第2位相86の二相パルスは、スイッチS1が第2位相の間に用いられなかった場合よりも短期間に、二相波形の終了時に参照電位付近になりうる。二相パルスの終了時での終了電圧V3は、この操作によってほぼゼロとなる。
【0036】
患者のインピーダンスの測定は、非特許文献1に記載されたように衝撃を供給する前に小さな信号を伝送することによって行われて良いし、又は、特許文献1、2、及び3に示されたように高電圧パルスを実際に供給している間に供給される電流若しくは電圧を測定することによって行われても良い。患者のインピーダンスの測定は、供給された衝撃波形のパラメータ−たとえば特許文献1乃至3及び11に記載されているようなエネルギー、キャパシタの充電電圧、及び波形の期間−を制御するのに利用されて良い。
【0037】
このような、二相パルスの第2位相の制御可能な減少又は傾斜の効果は、パルス波形が、参照電位付近で終端するようにできることである。このことは、図6の二相パルス波形全体にわたって描かれた3つの心筋細胞応答特性によって示されている。二相パルスが、心筋細胞応答特性102によって示されているように、細胞応答にほぼ一致するように起こる場合では、応答特性は、二相パルスの第1位相82の終端部付近にまで上昇する。続いてその応答特性は、その一部123によって図示されているように、その特性が最終電圧レベルV3付近で終了するまで、第2位相86の間に減少する。低インピーダンスの患者については、応答特性130によって示されているように、応答特性は、ここでも曲線131によって示されているように、第1位相82の間、急激に上昇し、二相パルスの第2位相86の間、最終電圧レベルV3付近で終了するように減少する。高インピーダンスの患者については、応答特性140の初期の部分141は、第1位相82の間に上昇し、その後最終電圧レベルV3付近まで減少する。図4a-4cの場合と違い、図6の全心筋細胞応答特性の端点間の違いは、非常に小さく見える。このことは、全ての場合において、細胞膜上にはほとんど残留電荷が残っていないことを示唆している。患者のインピーダンスに関係なく、波形電圧はゼロ付近で終了する。これは、先験的な心筋細胞応答特性の情報が不足しているにもかかわらず、細動除去器によって実現される。
【0038】
好適実施例では、先述したように、二相パルスの第2位相の傾斜は、その第2位相二相のパルスの供給中、スイッチS1の開閉状態を切り換えることによって、制御可能なように増大、すなわち調節される。キャパシタ102の電圧が監視される一方で、パルス幅変調制御が実行されて良い。他の切り換え制御手法−たとえば一度の所定期間にスイッチS1を閉じる−が用いられても良い。好適実施例では、200μFのキャパシタがキャパシタ102に用いられる。本発明は、単一キャパシタの細動除去器又は複数のキャパシタの細動除去器によって実施されて良い。複数のキャパシタの細動除去器では、各異なるキャパシタ(の結合)が、供給された波形の2つの位相の間に用いられる。好適実施例では、第2位相の傾斜は、全体の波形の傾斜が約95%に維持されるように制御される。第2位相の間に傾斜を増大させることはまた、波形期間の範囲が減少させながら有効な処置を可能にする有利な効果を有する。このとき好適実施例は、患者の全インピーダンス分布にわたって6.5ミリ秒から12ミリ秒の範囲の二相パルス波形を生成する。これは、最大20ミリ秒である従来のパルス期間から顕著に減少している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二相細動除去パルスを供給する体外式細動除去器であって、
当該体外式細動除去器は:
高電圧回路;
細動除去パルスを供給するため、前記高電圧回路と結合して、かつ前記高電圧回路によって充電されるキャパシタ;
一対の患者用電極;並びに、
前記キャパシタと患者用電極との間で結合して、前記患者用電極と、二相細動除去パルス波形の第1位相と第2位相とを結合するように動作可能な複数のスイッチ;
を有し、
前記波形の第2位相の傾斜は制御可能なように調節される、
体外式細動除去器。
【請求項2】
前記複数のスイッチが、二相波形のうちの一の位相を供給する一のスイッチ閉じきり配置、及び、前記二相波形のうちの一の位相と反対の位相を供給する他のスイッチ閉じきり配置を有する、請求項1に記載の体外式細動除去器。
【請求項3】
前記キャパシタが、前記二相波形の両方の位相を供給するのにも用いられる単一のキャパシタンスを有する、請求項1に記載の体外式細動除去器。
【請求項4】
前記キャパシタがさらに、二相波形の前記第1位相を供給するのに用いられる第1キャパシタ、及び、前記二相波形の第2位相を供給するのに用いられる第2キャパシタを有する、請求項1に記載の体外式細動除去器。
【請求項5】
制御可能な電流路をさらに有する請求項1に記載の体外式細動除去器であって、
前記制御可能な電流路によって、電流は、前記二相波形の第2位相の間、前記患者用電極を制御可能なように流れることが可能となる、
体外式細動除去器。
【請求項6】
前記複数のスイッチがHブリッジを有し、かつ
前記制御可能な電流路は前記Hブリッジのスイッチを有する、
請求項5に記載の体外式細動除去器。
【請求項7】
前記Hブリッジが、前記二相波形の第1位相の間のパルス供給のために閉じられる第1スイッチ及び第2スイッチ、並びに、前記二相波形の第1位相の間のパルス供給のために閉じられる第3スイッチ及び第4スイッチをさらに有し、
前記制御可能な電流路は、前記第1スイッチ及び第2スイッチのうちの一を有する、
請求項6に記載の体外式細動除去器。
【請求項8】
前記第1スイッチ及び第2スイッチが閉じられているときに、前記第1スイッチ及び第2スイッチと直列接続する第1抵抗器、並びに、前記第3スイッチ及び第4スイッチが閉じられているときに、前記第3スイッチ及び第4スイッチと直列接続する第2抵抗器をさらに有する、請求項7に記載の体外式細動除去器。
【請求項9】
前記制御可能な電流路が、前記二相波形の第2位相の間、パルス幅変調制御信号によって制御される、請求項5に記載の体外式細動除去器。
【請求項10】
前記二相細動除去パルス波形が第1位相及び第2位相を示し、
前記第1位相の間、前記パルス電圧は、参照電位から電圧ピークV0まで増大して、前記V0から減少し、かつ
前記第2位相の間、前記パルス電圧は、初期電圧V2で開始され、前記V2から前記参照電位(付近)まで減少する、
請求項1に記載の体外式細動除去器。
【請求項11】
電圧V0とV2が、前記参照電位に対して反対の向きである、請求項10に記載の体外式細動除去器。
【請求項12】
患者のインピーダンスを測定する回路をさらに有する請求項1に記載の体外式細動除去器であって、
前記二相細動除去パルス波形のパラメータが、前記患者のインピーダンスの測定に従って設定される、
体外式細動除去器。
【請求項13】
前記二相波形の全体的な傾斜が、前記波形の第2位相の傾斜の制御によって95%に維持される、請求項1に記載の体外式細動除去器。
【請求項14】
前記二相波形の全体的な傾斜が、前記波形の第2位相の傾斜の増大によって95%に維持される、請求項13に記載の体外式細動除去器。
【請求項15】
二相波形を供給する方法であって:
キャパシタを高電圧レベルにまで充電する工程;
二相波形の第1位相を供給するための第1配置において、前記キャパシタを患者用電極に結合する工程;
二相波形の第2位相を供給するための第2配置において、前記キャパシタを患者用電極に結合する工程;及び、
前記二相波形の第2位相の間、前記患者用電極とは直列接続しない電流路を制御することで、前記二相波形の第2位相の傾斜を制御する工程;
を有する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−529954(P2012−529954A)
【公表日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−515586(P2012−515586)
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【国際出願番号】PCT/IB2010/052468
【国際公開番号】WO2010/146492
【国際公開日】平成22年12月23日(2010.12.23)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】