説明

調製歯科矯正装置用モジュールシステム

【課題】舌側歯科矯正において特に、患者の不快感を軽減できる、歯科矯正装置及びその作成方法を提供する。
【解決手段】歯表面に実質的に平行に配置されたスロット22をもつ一組の調製歯科矯正ブラケット14が提供される。製作された状態のままにある弧線10は咬合面に対して傾けられた、実質的に弓形の範囲の領域を有する。ブラケット14は仮想ブラケット接着パッド18及び仮想ブラケット本体のライブラリから検索された個別の仮想ブラケット本体からなる3次元仮想オブジェクトの結合としてコンピュータ上で設計される。仮想ブラケットは、デジタル形状データを含むファイルとして表し、ワックスまたはその他の材料でのブラケット14の作成のための高速原型作成装置にエクスポートすることができ、ワックス原型は適する合金による注入成形に用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は全般的には歯科矯正の分野に関する。さらに詳しくは、本発明は、患者の歯を整える目的のためのブラケット及び弧線の設計及び製作のための方法、並びに本方法にしたがって作成される新規なブラケット及び弧線に関する。本発明は歯科矯正全般に有用である。本発明は、歯科矯正装置が美的理由のために舌側の歯表面に取り付けられる、舌側からの歯科矯正に、特に有益に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
患者の歯並びを整えたり揃えたりするために広く用いられる方法は、歯にブラケットを接着し、ブラケットのスロットに断面が長方形の弾性ワイヤを通すことである。一般に、ブラケットは出来合の製品である。ほとんどの場合、ブラケットはある歯(例えば上顎犬歯)に適合されているが、特定の患者の個々の歯には適合されていない。個々の歯へのブラケットの適合は、歯表面とブラケット表面の間の空隙を接着剤で埋め、よって、歯が最終位置に動かされたときに、ブラケットスロットが平坦な水平面上にあるように、歯にブラケットを接着することにより実施される。歯を所望の最終位置に動かすための駆動力は弧線(アーチワイヤ)によって与えられる。舌側ブラケット用に、垂直ブラケットスロットを有するシステムがトーマス・クリークモア(Thomas Creekmore)により開発された。これにより、ワイヤをより容易に挿入することができる。したがって、ワイヤの長手方向が上下方向となる。ユニテック(Unitek)がCONSEAL(商標)の商品名でこのブラケットを市販している。
【0003】
当業界においては、個々の患者に対して調製されたブラケットの設計及び製作、並びに調製ブラケット配置治具及び弧線の設計及び製作に基づく、歯科矯正へのコンピュータ化された手法が提案されている。レムチェン(Lemchen)等の特許文献1並びにアンドレイコ(Andreiko)等の特許文献2,特許文献3及び特許文献4を参照されたい。アンドレイコ等のシステム及び方法は、歯の最終位置及び所望の理想アーチ形状の数学的計算に基づく。アンドレイコ等の方法は、1990年代初期に初めて提案されて以来、広く適用されてはおらず、事実上、歯科矯正患者の処置にほとんど影響を与えていない。これには様々な理由があり、その1つは、歯の最終位置を計算するための、アンドレイコ等により提案された決定論的手法が処置途中の予測できない出来事を考慮していないことである。さらに、アンドレイコ等が提案した方法は本質的に、歯科矯正医を処置計画立案に関する描像から引き離して、歯の最終位置の経験的計算による歯の最終位置の決定に彼または彼女の技能及び判断を移そうとするものである。
【0004】
一般に、歯科矯正に今日用いられるワイヤは出来合の製品である。歯科矯正医がワイヤを個人に合せ込む必要があれば、目標は可能な限り少ない修正で済ませることである。したがって、ブラケットは、処置の終わりにおいて、歯並びが揃えられたときに、ブラケットスロットがプレーナ態様で配置され、向きが定められると推定される態様で設計される。このことは、スロットに通されるであろうワイヤが、いかなる力も印加されずに、プレーナ(平坦)になるであろうことを意味する。この処置方式は“ストレートワイヤ”として知られる。この方式が世界中で歯科矯正を席巻している。この方式は製造業者及び歯科矯正医のいずれにとっても効率的である。アンドレイコ等により提案された調製歯科矯正装置は、個人に合せて調製され、患者にとって理想的な所望のアーチ形状により規定される、水平面内での湾曲をもつ平プレーナワイヤを必要とする。
【0005】
歯科矯正で今日用いられ続けている、いわゆるストレートワイヤ法は、患者の快適感に関していくつかの著しい欠点を有する。ブラケットの接着表面と歯の表面の間の空隙を接着剤でふさぐ必要があることから、装置の総厚が必ず増加する。このことは、唇側に接着されるブラケットについては、対象となる個人が違っても唇側歯表面は非常に一様であり、ふさがれるべき空隙が大きくはないから受け入れることができる。しかし、歯の舌側(内側)表面は患者間でかなり大きく変化する。処置が終わったときに、スロットが他の全てのスロットに対して平行であるような態様でブラケットの向きを定めるという目標を達成するために必要な接着剤の厚さは1から2mmの範囲にあることが多い。装置の厚さが少しずつ大きくなる毎に患者の不快感が著しく増大することは明白である。舌側ブラケット(歯の舌側表面に接着されるブラケット)では特に、構音障害が生じ、接着後数週間は舌が激しく刺激される。これらの接着パッドの隣の歯の表面は磨くことが困難であり、したがって細菌の集積点としてはたらき、歯肉炎の原因となる。弧線が歯の表面から離れれば離れるほど、それぞれの歯に対して精確な最終位置を達成することが一層困難になる。トルク(ワイヤの軸線を中心とする回転)のわずか10°の誤差で、歯の位置の1mmより大きい垂直方向誤差を生ずるに十分であり得る。
【0006】
(歯科矯正処置の原因となることが多い)前歯の激しい叢生がある場合、特に舌側に接着されるときに、厚いブラケットの別の重大な欠点が生じる。顎の湾曲により舌側表面ではスペースが一層制限されるから、全てのブラケットを1回の診療で接着することはできない。むしろ、歯科矯正医は、叢生が弱まるまで待たなければ、全てのブラケットを配置できない。叢生により、唇側ブラケットについても問題が生じる。幾何学的考察はブラケット/ブラケット接着パッド/接着剤の組合せの厚さが大きくなるにつれて、上記の圧迫感問題が悪化することを示す。
【0007】
歯科矯正における別の問題は、正しいブラケット位置の決定である。接着時、歯が、所望の位置から離れるように方向付けられることがある。したがって、平プレーナワイヤが歯を正しい位置に追い込む態様でブラケットを配置する作業には多くの経験及び視覚的想像力が必要である。この結果、処置の終わりにおいて、ブラケット位置またはワイヤ形状に必要な調整を施すために多くの時間が失われることになる。この問題は、歯列の3Dスキャンデータを用いて仮想的に、または歯列の歯モデルを単歯に分離して理想位置において歯をワックス床に固定することにより実体的に、理想的配列をつくることにより解決することができる。次いで、ブラケットスロットを通る平ワイヤが理想的目的場所に歯を正確に追い込むように、ブラケットを最適な位置で上記の理想的配列に配置することができる。これもまた、コンピュータで仮想的にまたは実体的に行うことができる。これがなされた後に、ブラケット位置を、歯1本毎に(初期)不正咬合状況に移す必要がある。この不正咬合状況に基づいて、上記配列で定められる位置におけるブラケットの正確な接着を可能にする、ブラケットを囲む運搬トレーを製作することができる。そのような技法がコーヘン(Cohen)の特許文献5に全般的に教示されている。
【0008】
オラメトリックス社(OraMetrix, Inc.)の特許文献6は、汎用ブラケット及び調製歯科矯正弧線を基にする歯科矯正へのワイヤベースの手法を説明している。弧線は複雑な捻り及び曲げを有することができ、したがって平プレーナワイヤである必要はない。特許文献6の全内容は本明細書に参照として含まれる。特許文献6は、歯列の3D仮想モデルを生成するためのスキャンシステム及び、スキャンされた歯列のモデルに基づく、対話型のコンピュータ化治療計画立案システムも説明している。治療計画立案の一部として、仮想ブラケットが仮想歯上に配置され、臨床上の判断を行う術者により歯が所望の位置に動かされる。不正咬合状態にある歯列+ブラケットの3D仮想モデルが歯列+ブラケットの実体模型の製作のための高速原型作成装置にエクスポートされる。ブラケット配置トレーが模型に重ねて成形される。仮想ブラケットが配置された場所において実ブラケットが運搬トレー内におかれる。運搬トレーを介する歯へのブラケットの間接的接着がなされる。特許文献6のシステムはアンドレイコ等の方法に内在する問題の多くを克服する。
【0009】
治療経過中に、例えば、患者が固い食物片を噛んだ場合に、ブラケットが外れることがあり得る。歯が動かされていくと初期接着に用いられた運搬トレーはもはや適合しないであろうことは明らかである。ブラケットを再配置するため、(特許文献6に説明されるように)トレーを寸断し、外れたブラケットに割り当てられている一区画だけを用いることは可能であるが、弾性材料の小片ではブラケットの位置を確実に定めるには十分ではないから、この方法の確実性は乏しい。したがって、費用のかかるラボプロセスを用いてその時の歯の位置に適合された新しい運搬トレーを作成する必要があり得る。
【0010】
本明細書に提示される方法及び装置は、従来技術に対してかなりの改善を提供する、いくつかの独立な新規の特徴を有する。最大の恩恵は舌側処置に対して得られるであろうが、唇側処置にも恩恵があるであろう。以下の概要は本発明の最重要点の内のいくつかを説明するが、本発明の真の範囲は添付される特許請求の範囲に表される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国再発行特許発明第35169号明細書
【特許文献2】米国特許第5447432号明細書
【特許文献3】米国特許第5431562号明細書
【特許文献4】米国特許第5454717号明細書
【特許文献5】米国特許第3738005号明細書
【特許文献6】国際公開第01/80761号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
美的理由のために歯の舌側表面に取り付けられる舌側歯科矯正において特に、患者の不快感を軽減できる、歯科矯正装置及びその作成方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
第1の態様において、さらに詳細に説明されるであろうように、また図面に示されるように、弧線(アーチワイヤ)が実質的に歯の表面に、すなわち、ブラケットがワイヤを受け入れる場所に隣接する歯の表面部分に、平行に走るようにブラケット接着パッドに対して向きが定められるスロットをブラケットが有する、一組の(1つまたはそれより多くの)ブラケットが提供される。
【0014】
詳しくは、ブラケットは、患者の歯にブラケットを接着するためのブラケット接着パッド及び、平プレーナ側面(例えば、長方形、正方形、平行四辺形またはくさび形の断面形状を有するワイヤの一側面)または楕円形を有する弧線を受け入れるためのスロットを有する、ブラケット本体を有する。ブラケットのスロットは、1つのまたは一組のブラケットが患者の歯に装着されて弧線がスロットに挿入されたときに、弧線が咬合面に対して(高速レーシングトラック上のバンクしたカーブに類似して)斜めにされる、すなわち傾けられるような態様で、それぞれのブラケット接着パッドに対してほぼ平行に揃えられて向きが定められる。弧線が平表面を有する(長方形、平行四辺形、正方形、くさび形等である)実施形態においては、弧線がスロットに挿入される場所において、弧線の平プレーナ側面が、咬合面に対して斜めに向けられて、歯の表面に実質的に平行である。弧線が楕円形である実施形態においては、ワイヤ断面の長軸の向きが、歯表面に実質的に平行に、咬合面に対して斜めの向きに、定められる。
【0015】
前歯に対しては、ワイヤの円滑な前進を受け入れるため、スロットからスロットへの傾きの急激な変化(すなわち、トルクの変化)を避けるように均一な傾きを設けることが望ましい。断面が長方形または正方形のワイヤにおいては、弧線の平行な対向側面対の内の1つが歯の表面に実質的に平行に向きが定められる。通常、この対は幅または高さが大きい方の平行側面対であろう。本発明のこの態様により、ストレートワイヤ法で見られるような、ブラケットが取り付けられたときにスロットを水平面におくための接着剤の堆積が必要ではないから、従来技術に比べてブラケットの総厚を実質的に減らすことが可能になる。このブラケット及び弧線の設計は舌側歯科矯正での使用に特によく適している。
【0016】
ブラケット、ブラケット接着パッド及び弧線の厚さをこのように減少させることにより、従来技術のシステムに比べていくつかの重要な利点が得られ、より満足のゆく舌側歯科矯正システムを求める、当業界の長い間の切実なニーズが満たされる。これらの利点には、構音問題の軽減、舌の刺激の顕著な軽減、ブラケット喪失の危険の軽減、ワイヤと歯の間隔の縮小が所望の最終位置へのより正確な歯の移動を生じることによる仕上げのための位置制御の向上、患者の快適感の向上、及び衛生状態の向上がある。
【0017】
歯科矯正ワイヤの基本設計において、ワイヤが平プレーナ形状を有する設計のままである理由の1つは、工業的製作の容易さである。歯科矯正ブラケットの厚さを減らすため、本発明のこの態様により提供されるように、個々の歯のそれぞれの表面に平行にワイヤを走らせることが非常に好ましい。ほとんどの患者について、前歯の舌側表面は垂直軸に対してかなり傾いている。本発明のこの態様にしたがって歯から歯に平行に走るワイヤは、ブラケットスロットの平行性を利用するために“傾斜面付”形状を有する。標準的な大量生産手段を用いるのでは、どの患者も極めて個別の解剖学的歯構造を有するから、そのようなワイヤを作成することは不可能であろう。傾斜面付形状を与えるためにワイヤを手細工で整形することは極めて困難である。形状記憶合金のような最近の材料の弧線への使用は、この作業をさらに一層困難にするかまたは手細工では不可能にする。しかし、本発明の好ましい実施形態では、必要とされるワイヤ形状を電子フォーマットで利用できる。このワイヤ形状は、所望の咬合で歯に配置されるから、ブラケットスロット及び/またはブラケットの3次元位置により規定することができる。このフォーマットは、仮想的に(傾斜面付形状を含む)いかなる形状にもワイヤを曲げることができる、最近開発された新型のワイヤ曲げ加工ロボットにエクスポートすることができる。例えば、特許文献6に説明される6軸ロボットのようなフレキシブルワイヤ曲げ加工生産装置にワイヤの形状寸法を表すデジタルデータをエクスポートし、ロボットにワイヤを曲げさせ、捻らせて、本明細書に説明されるような傾斜面付形状のワイヤを得ることができる。すなわち、本発明のブラケットで規定されるような傾斜形状を有するワイヤを今では大量生産することができる。現時点で好適なワイヤ曲げ加工ロボットは、2001年4月13日に出願された米国特許出願公開第09/834967号の明細書にも説明されており、この明細書の内容全体が本明細書に参照として含まれるものとする。
【0018】
したがって、本発明の別の関連態様において、傾斜面付弧線が提供される。このワイヤは、長方形のような少なくとも1つの平プレーナ表面(平らな二次元の表面)を有する任意の断面形状を有することができ、あるいは楕円形断面とすることができよう。弧線は製造中に、製造時の平衡状態のときに、弧線の平プレーナ表面(または楕円形のワイヤ断面の長軸)が実質的に弓形の範囲にわたって咬合面に対して斜めにされたような形状をもつように曲げられる。弧線の傾斜は、ブラケットに配置されて、2本またはそれより多くの歯を整えるために用いられるべき、弧線部分に対応する。ワイヤが長方形または正方形の断面をもつ実施形態において、平行側面の第1及び第2の対の内の一方は、弧線が2本またはそれより多くの歯に配置された弧線受けに受け入れられるべき場所の近傍において、歯の表面に実質的に平行に向きが定められる。
【0019】
したがって、本発明の別の態様は弧線の製造方法である。本方法は、コンピュータを用いて3次元空間における一組のブラケットに対する一組のブラケットスロットの位置を定める工程を含む。ブラケットスロットは、ブラケットが歯に接着されるべき位置で歯の表面に実質的に平行に配向される。本方法は、前記一組のブラケットスロットの位置に対応する情報をワイヤ曲げ加工ロボットに供給する工程に続く。この情報は一般に、ブラケットスロットの3D座標を表すデジタルファイルの形態にあるであろう。この情報は、ワイヤをどのようにして、製造時の平衡状態のワイヤがブラケットスロットに規定される形状を有するように曲げるかを、ワイヤ曲げ加工ロボットに教えるためにロボット制御プログラムにより用いられることができる。したがって、本方法は、ブラケットスロットの位置に対応する形状を有する弧線をワイヤ曲げ加工ロボットで曲げ加工する工程に続き、弧線は、弧線が実質的に弓形の範囲にわたり歯の表面に実質的に平行に配向されるような、傾斜面付形状を有する。弧線は連続的に曲げることができ、あるいは、特許文献6及び米国特許出願公開第09/834967号明細書にさらに詳細に説明されているように、ブラケットスロットに対応する直線区画で隔てられた一連の曲げとすることができる。
【0020】
また別の態様において、ブラケットを本質的に自動位置決めする、改善されたブラケット接着パッドがブラケットに設けられる。すなわち、ブラケットを一意的に、コーヘンの特許文献5に提案されているようなトレーまたはアンドレイコ等の特許文献の治具のような、治具またはその他のブラケット配置機構を用いずに、確定適合により、正しい位置で歯に配置して位置決めすることができる。詳しくは、ブラケット接着パッドを有するブラケットへの、ブラケット接着パッドが歯に接着される場所の歯の3次元形状に実質的に正確に同形の3次元領域範囲の歯接触表面をブラケット接着パッドが有する、改善が提供される。
【0021】
可能な実施形態の1つにおいて、歯の3次元表面に対応する実質的な領域範囲により正しい位置で容易かつ一意的にブラケットを手で歯に配置できるように、3次元領域範囲は十分に大きく、従来技術で提案されたブラケット接着パッドの全てよりかなり大きい。ブラケットは、治具のようなブラケット配置補助具を用いずに所定の位置で歯に接着することができる。可能な別の実施形態において、前記領域範囲はブラケットの歯への一意的な配置を可能にするために尖または尖の一部を覆う。
【0022】
別の態様において、ブラケットの総厚を可能な限り小さくするために薄殻を有するブラケット接着パッドがブラケットに設けられる。このパッドは歯の表面と同形の歯側表面を有する。本実施形態において、ブラケット接着パッドは、歯の3次元表面とも整合する3次元表面形状を有する、歯側表面に対応する逆側表面を有する。コンピュータ上で薄パッドをつくるために好ましい方法は、ブラケット接着パッドの歯側表面のそれぞれの要素(例えば、表面がどのようにコンピュータで表されているかに依存する三角形)の垂直ベクトルをつくることである。それぞれの表面要素は、接着パッドの厚さに対応するあらかじめ定められたオフセット値を用いて、垂直ベクトルに沿って歯から離れる方向に“シフト”される。このようにして薄殻がつくられ、殻の外側は、実質的にブラケット接着パッドの歯側表面に対応する、同じ領域範囲及び3次元表面を有する。他の技法を同様に用いることができよう。例えば、ブラケット接着パッドは(例えば0.1mmの)薄い周縁及び、ブラケット本体が接着パッドに取り付けられている場所に隣接する、(例えば0.3mmの)厚い中心部を有することができるであろう。垂直ベクトルがブラケット接着パッドの端にどれだけ近いかに依存する変数で垂直ベクトルをスケーリングすることによるように、ブラケット接着パッドの表面にわたって厚さを変えるための、適切なソフトウエアプログラムが提供され得る。
【0023】
本発明のまた別の態様において、コンピュータを用いる患者のための調製矯正歯科ブラケットの設計方法が提供される。ブラケットはブラケット接着パッドを有する。コンピュータは患者の歯の3次元モデルを格納する。本方法は、ブラケット接着パッドが歯に取り付けられるべき歯領域を決定する工程、ブラケット接着パッドの、歯の3次元形状と同形である、歯側表面の3次元形状を得る工程、及び、ブラケット接着パッドの歯側表面とは逆側の第2の表面の3次元形状を得る工程を含む。3次元仮想ブラケット本体のライブラリがコンピュータに格納されるか、そうでなければコンピュータによりアクセスされる。本方法は、ライブラリからブラケット本体を得て、ブラケットを表す1つの仮想3次元オブジェクトを形成するためにブラケット本体をブラケット接着パッドと結合する工程に続く。
【0024】
好ましい実施形態において、逆側の第2の表面は、例えば既述した“シフト”法を施すことにより、ブラケット接着パッドの歯側表面に対応する3次元形状を有する。本方法には、ブラケット本体の仮想モデルを修正する工程を必要に応じて組み入れることもできる。例えば、ブラケット本体のスロットをできる限りブラケット接着パッドに近づけて配置するためにブラケット本体の一部を取り除くことができ、ブラケット本体の、そのままでは歯冠内に突き出るであろう部分を削除することができる。別の例として、修正は、フックのような補助的要素をブラケット本体へ付加することも含み得る。
【0025】
コンピュータを用いるブラケット本体のブラケット接着パッドへの付加は、隣の歯とブラケットの近接度を考慮に入れるため、一群の歯に対して同時に実施することができる。すなわち、本方法は、複数の仮想歯及び歯に取り付けられる仮想ブラケット接着パッドをコンピュータを用いて検分する工程及びそれぞれのブラケット接着パッドに対するブラケット本体の位置をシフトする工程を含むことができる。後者の工程は、例えば、接着パッド上のブラケット本体をより良い位置に定めるため、あるいは、ブラケット本体と隣のまたは対向する歯の間の咀嚼中または歯の移動中の衝突などの衝突を避けるため、実施されるであろう。
【0026】
本発明のまた別の態様において、調製歯科矯正ブラケットの設計及び製作のための方法が提供される。本方法は、患者の歯列の関係する領域のデジタル表現をコンピュータに格納する工程を含む。これは歯列全体の、あるいはブラケットが接着されるべき歯の表面だけの、デジタル表現とすることができよう。本方法は、例えばコンピュータにライブラリを格納するような、仮想3次元ブラケット本体のライブラリへのアクセスを提供する工程並びにブラケット接着パッドの形状及び配置を決定する工程に続き、ブラケット接着パッドは対応する歯の3次元表面に実質的に正確に同形の歯側表面を有する。本方法はブラケット本体のライブラリからのブラケット本体をブラケット接着パッドと結合し、よって、一組の、個人に合せて調製された歯科矯正ブラケットをつくる工程に続く。調製歯科矯正ブラケットを表すファイルが調製歯科矯正ブラケットを製作するための製作システムにコンピュータからエクスポートされる。本方法は、フライス削りなど、当業界で既知の様々な技法のいずれかを用いるか、また注入成形のような本明細書で詳細に説明される技法の1つを用いて、調製歯科矯正ブラケットを製作する工程に続く。
【0027】
調製ブラケットを製作するための、また別の改善が提供される。一態様において、歯科矯正ブラケットの3次元形状を決定する工程並びに、ブラケット本体を形成する比較的硬質の1つまたは複数の第1の材料及びブラケット接着パッドを形成する比較的軟質の1つまたは複数の第2の材料という、少なくとも2つの相異なる硬度を有する材料からブラケットを製作する工程を含む、スロットを有するブラケット本体及びブラケット接着パッドを有する歯科矯正ブラケットの製作方法が提供される。ブラケットの材料の強度は必ず妥協の結果である。スロットを形成する区画はブラケットが(例えば固い物を噛むことにより)高い機械的応力にさらされたときであってもスロットの断面を維持するために可能な限り強固であるべきであり、一方、パッドを形成する区画は処置終了後の容易な剥離のためにより柔軟であるべきである。パッドが十分に柔軟であれば、適切な工具を用いてパッドを歯表面からそのまま引き剥がすことができる。製作プロセスのタイプに応じて、そのような構成を達成するために相異なる合金を用いることが可能である。遠心注入成形を用いれば、初めにスロットを保持する区画を形成するために制御された量の硬質合金を用いることができ、その後、ブラケットの残り部分を充填するためにより軟質の合金が用いられる(あるいは、順序を逆にすることができる)。ブラケットのそれぞれのコンポーネントの体積は、3Dモデルから精確に知られているから、ブラケットの特定の部分を形成するために必要な材料の量を調節できる。相異なる層に相異なる合金粉末が用いられる、レーザ焼結プロセスのような、別の製作技法を用いることができる。
【0028】
また別の態様において、コンピュータを用いる、個別の患者のための調製ブラケットの設計に対するモジュール手法が提供される。コンピュータは、仮想ブラケット本体、仮想ブラケット接着パッド及び、必要に応じて、フックのような仮想ブラケット補助具のライブラリを格納する。ユーザが特定の歯のためのブラケット接着パッド及びブラケット本体を指定または選択する。仮想ブラケットを形成するために2つの仮想オブジェクトが結合される。ブラケット本体及び接着パッドがどのように及びどこで結合されるかを指定するためのグラフィックソフトウエアツールがユーザに提供されてもよい。仮想ブラケットを表すデータが、ブラケットの直接制作のため、あるいは、ブラケットの製作のために注入成形プロセスで用いられる、テンプレートまたはモデルの製作のため、高速原型作成プロセスにエクスポートされる。可能な実施形態の1つにおいて、ブラケット接着パッドは歯の表面と実質的に正確に同形である。あるいは、ブラケット接着パッドは標準形状とすることができよう。
【0029】
本明細書に述べられる様々な本発明の上記及びまた別の原理は、添付図面に関連してさらに詳細に論じられる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一態様にしたがう傾斜面付弧線の斜視図である
【図2】一組の歯、付帯するブラケット及び図1の弧線を部分的に断面で示す図である
【図2A】本発明の可能な実施形態の1つで用いられ得るであろう楕円形断面をもつ弧線の断面である
【図2B】咬合面に対して斜めにされた形状で向きが定められた弧線長軸を示す、歯表面に実質的に平行にブラケットのスロットの向きが定められている、ブラケットのスロット内に配置された図2Aの弧線の断面である
【図3A】本発明の好ましい実施形態の一態様にしたがう歯表面に実質的に平行に向きが定められたブラケット接着パッド及びスロットをもつ歯の断面である
【図3B】図3Aに示される歯と同じであるが、図3Aに示されるようには傾けられていない水平プレーナ弧線に対するブラケットスロット方向を示す、標準的なオームコ舌側ブラケットの従来技術の配置をもつ歯の断面である
【図4】治具またはその他のブラケット配置具を用いずに歯上の正しい位置での歯科矯正医によるブラケットの手配置を可能にするように、歯の表面に完全に適合され、歯の表面の実質的な領域範囲を覆う、本発明の一態様にしたがうブラケット接着パッドをもつ2本の歯のコンピュータモデルの斜視図である
【図5】上顎と下顎が完全に閉じることを防止するために、接着パッドに組み付けられて歯上に接着され得る咬口床の図である
【図6A】調製歯科矯正ブラケットの設計に用いられ得る標準的なブラケット本体形状の1つである。
【図6B】調製歯科矯正ブラケットの設計に用いられ得る標準的なブラケット本体形状の1つである。
【図6C】調製歯科矯正ブラケットの設計に用いられ得る標準的なブラケット本体形状の1つである。図6A,6B及び6C並びに他のタイプのブラケット本体は仮想ブラケット本体オブジェクトのライブラリとしてコンピュータに格納され、さらに詳細に説明されるように調製歯科矯正ブラケットを設計するために用いられる
【図7】ブラケット接着パッド上のブラケット本体の位置が歯の叢生状態を考慮に入れるためにどのように適合され得るかを若干簡略化された態様で示す、3本の下前歯の平面図である。図7に示される適合は、ブラケット設計プログラムを実施しているコンピュータワークステーション上でシミュレートされ、個々の患者に対してブラケット本体の配置を最適化するために、ユーザがブラケット接着パッド上のブラケット本体の位置を任意のいずれかの位置に定めることを可能にする。ブラケット本体をパッドの中心からオフセットさせて配置できる機能、例えば、歯肉オフセットをもつOrmco Mini Diamond(商標)ブラケットにより提供されるシフトと同様に下第2双頭歯に対してブラケット本体を歯肉方向にシフトし得る機能は、唇側ブラケットに対して有益であり得る。これにより、歯の咬合部分に対してスロットを移動させ過ぎずに、より大きな接着面積が得られる
【図8】ブラケットのスロットのためのインレーをもつOrmco Spirit(商標)MBセラミックブラケットの図である
【図9A】歯の表面上に点を打つことにより歯の表面上のブラケット接着パッドの境界をユーザがマーキングしている、本発明のブラケット設計の特徴を実施しているコンピュータワークステーション上に表示された仮想歯の図である
【図9B】歯表面の輪郭にしたがう線により図9Aの点を結ぶことでつくられた、ブラケット接着パッドの湾曲境界の図である
【図10】ユーザが一組の歯について作成したパッド境界を示す、本発明のブラケット設計の特徴を実施しているコンピュータワークステーション上に表示された一組の仮想歯の図である。ブラケット接着パッドで覆われる歯表面は、歯上にブラケットを正しく配置する際にユーザを補助するため、歯の舌側表面の実質的な領域範囲、本例では歯の舌側表面のほぼ60〜75%を占め得ることに注意されたい。領域被覆率は歯表面の湾曲に依存し、比較的平坦な歯表面で治具を用いずにブラケットを正しく配置することができるためにはより大きい接着パッド領域被覆率が必要である。ブラケット接着パッドが歯の尖の一部を覆う場合は領域被覆率を小さくすることができる
【図11】ブラケット接着パッドで覆われるべき歯表面の図である。これらの歯表面は、ワークステーション上で分離操作を施し、これらのオブジェクトを厚さがゼロの独立な3次元表面として描画することにより、歯モデルから“切り取られる”すなわち分離される
【図12】調製ブラケットの設計方法の実施における中間工程において、歯表面に重なっているブラケット接着パッド及びブラケット接着パッド上に配置されたブラケット本体を部分的に断面で示す、一組の歯の図である。歯内に突き出ているブラケット本体の部分は、図21に示されるように、最終的にブラケットから取り除かれる
【図13A】表面が歯表面にしたがう形状につくられた代表的な2つのブラケット本体の内の1つであって、スロットが全体的に、そのようなブラケット本体の向きが歯に接着される場所の隣の歯の表面に実質的に平行に向きが定められているブラケット本体の斜視図である
【図13B】表面が歯表面にしたがう形状につくられた代表的な2つのブラケット本体の内の図13Aとは別の1つであって、スロットが全体的に、そのようなブラケット本体の向きが歯に接着される場所の隣の歯の表面に実質的に平行に向きが定められているブラケット本体の斜視図である
【図14】本発明の好ましい実施形態にしたがって設計された一組の歯オブジェクト及びブラケットオブジェクトのデジタル表現の斜視図である
【図15A】従来技術の舌側ブラケット配置の図である
【図15B】図15Aと同じ歯であるが、本発明のブラケット設計の特徴にしたがって調製されたブラケットが配置されている図である。本図の図15Aとの比較は、本図においてブラケット厚が著しく減少していることを示す
【図16】調製歯科矯正ブラケットの設計における中間工程中の仮想ブラケット本体と仮想ブラケット接着パッドの結合体を示し、パッド及びブラケット本体は互いに相対的に移動させることができる2つの独立な3次元仮想オブジェクトである
【図17】本明細書に説明されるブラケット設計の特徴を実施しているコンピュータワークステーション画面であり、ユーザが図16のパッドとブラケット本体を単一の仮想オブジェクトに結合している画面を示す
【図18A】単一の仮想オブジェクトとして結合されたパッドとブラケット本体の図である
【図18B】単一の仮想オブジェクトとして結合されたパッドとブラケット本体の図である
【図19】仮想歯に配置された図18A及び18Bのパッド及びブラケット本体を示す
【図20】ワークステーション上で赤色で表示された歯オブジェクトをワークステーション上で緑色で描画されたブラケット接着パッド/ブラケット本体オブジェクトから引き去るための減算プロセスを実施しているコンピュータワークステーション画面を示す。本工程は、ブラケット本体の、本工程がなければ歯の内側に突き出るであろう部分を取り除くために必要である
【図21A】図20の減算操作が実施された後のブラケットパッド/ブラケット本体の図である
【図21B】図20の減算操作が実施された後のブラケットパッド/ブラケット本体の図である。図17を本図と比較することにより、ブラケット本体の、減算操作を実施しなければ歯内に突き出していたであろう部分がブラケットパッド/ブラケット本体オブジェクトから削除されていることがわかるであろう
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の現在好ましい実施形態を、様々な図面において同様の参照数字が同様の要素を指している添付図面に関連して以下で説明する。
【0032】
歯表面に平行なブラケットスロット及び傾斜面付弧線
先に述べたように、現行の歯科矯正のストレートワイヤ手法における、従来技術の歯科矯正ワイヤの基本設計は平プレーナ形状である。ブラケットのスロットは全て、歯が所望の咬合位置に移動されると、平面上にある。したがって、断面が長方形の、弧線(アーチワイヤ)自体は平プレーナ形状を有する。このことは、先に述べたCONSEALブラケットとともに用いられるべきワイヤについても当てはまる。ワイヤの断面の方向は(ワイヤの長辺が垂直である)垂直態様で定められるが、弧線は咬合面に実質的に平行な面を形成しているままであり、断面の向きはワイヤに沿って維持される。この現象の第一義的な理由は、平プレーナ形状をもつ弧線の工業的製作の容易さである。本発明の第1の態様において、発明者等は平プレーナ弧線からの重要な新発展を提案する。
【0033】
詳しくは、発明者等は、歯科矯正ブラケットの厚さを減らすためには、弧線が個々の歯のそれぞれの表面に本質的に平行に走るように、ブラケットのスロットを構成し、弧線を製作することがさらに一層好ましいことを認識した。本発明の一態様においては、ワイヤがそれぞれの歯の表面にほぼ平行に走るような態様で、ブラケットスロットの向きが定められる。発明者等がこれによって意図することは、少なくとも1つの平プレーナ表面をもつワイヤがブラケットスロットに挿入されたときに、弧線の平プレーナ表面が咬合面に対してある斜角で斜めにされる、すなわち傾けられることである。例えば、断面が長方形または正方形のワイヤでは、ワイヤの表面対の1つの向きが咬合面に対して傾けられる態様で歯表面に平行に定められる。同様に、ワイヤが楕円形断面を有していれば、ワイヤの長軸は、歯表面に対してほぼ平行に向きが定められ、咬合面に対してある斜角で傾けられる(図2Bを参照されたい)。
【0034】
前歯の舌側表面はかなり傾いている。特に前歯において歯から歯に平行に走るワイヤは、咬合面に対して(高速レーシングトラックのバンクが付けられたカーブに類似の)“傾斜面付”形状を有する必要があろう。どの患者も特有の解剖学的歯構造を有するから、標準的な大量生産方法を用いたのでは、そのようなワイヤを作成することはできないであろう。手細工でワイヤを整形することは極めて達成が困難である。形状記憶合金のような好ましい材料の使用はこの作業をさらに一層困難に、あるいは全く不可能にする。しかし、本発明の好ましい実施形態では、所要のワイヤの形状寸法は電子フォーマットで利用できる。このワイヤの形状寸法を表すファイルを、ワイヤを曲げ、捻ってそのような形状にする、特許文献6に説明される6軸ワイヤ曲げ加工ロボットのようなフレキシブル生産装置に転送することが可能である。
【0035】
図1は、本発明の上記第1の態様において提供されるような“傾斜面付”である、平側面をもつ弧線10の斜視図である。図示される実施形態における弧線は、断面が長方形であり、2対の平行側面を有する。少なくとも非正方形断面のワイヤについては、平行側面12の対の内の一方は(ワイヤの軸に垂直な)高さが他方より大きく、本実施形態において、高さがより大きい側面12の対は歯表面に略平行に向きが定められる。このことが、前歯16の内の3本の上の3つのブラケット14に受け入れられた弧線を示す、図2にさらに容易に見られる。ブラケット14はブラケット接着パッド18及び弧線受けスロット22を有するブラケット本体20からなる。ブラケット14のスロットの向きはそれぞれのブラケット接着パッド18及びそれぞれの接着パッド18が付帯する歯表面に対してほぼ平行に揃えて定められる。ブラケットスロット22の配置は、ブラケット14が患者の歯16上に装着され、弧線10がスロット22に挿入されたときに、弧線10が咬合面に対して斜めにされる、すなわち傾けられるような態様の配置である。弧線の対向する平行な側面(図1及び2の12)の対の内の1つは歯表面に実質的に平行に向きが定められる。本発明のこの態様により、ブラケットの総厚を従来の技法に比較して実質的に減らすことが可能になり、ブラケット及び弧線の設計が舌側歯科矯正に特によく適するものとなる。ブラケットの総厚は歯の3次元表面と同形の歯側表面及び逆側表面をもつブラケット接着パッドを提供することによっても減らされる。すなわち、パッドは解剖学的歯構造に整合する薄い(例えば0.3mm厚の)殻として構成することができる。
【0036】
図1に示される傾斜面付弧線10は“製作されたまま”で示されていることに注意することが重要である。言い換えれば、ワイヤは、歯が最終位置に移動され、さらなる力が歯に与えられない時に、図1に示される形状を有する。図1のワイヤが不正咬合状態にある歯に装着されると、不正咬合によりワイヤは何か別の形状を有するであろうが、ブラケットは歯に接着され、ブラケットスロットは歯表面に略平行に向きが定められているから、それでも弧線10は、弧線の側面12が歯表面に平行であり、よって数多くの臨床上の恩恵を提供するように、向きが定められるであろう。
【0037】
図2Aは楕円形弧線10の断面図である。弧線の断面は主軸すなわち長軸11及び短軸13をもつ楕円形である。図2Bに示されるように、ブラケットスロット22は歯16の表面に対して基本的に平行に向きが定められ、ワイヤ10は、咬合面15に対して長軸11が斜めにされた、すなわち傾けられた位置で向きが定められるようにブラケットに装着される。
【0038】
図3A及び3Bは本発明のブラケット設計及び傾斜面付ワイヤの利点、すなわち、ブラケットの総厚を大きく減らし得ることを示す。図3Aはスロット22が歯表面16Aに平行に向きが定められているブラケットの設計を示す。図3Bは、スロット22が歯表面に対して16Aにおいてかなりの角度で向きが定められている、従来技術のブラケットを示す。ブラケットスロットは咬合面に平行である。前歯の場合には、この結果として、舌側歯表面とブラケットスロットの間にほぼ45°の傾きが生じる。発明者等がスロットの方向に言及するときには、発明者等はスロットの開口22Aからスロットの底22Bへのスロットの方向を指し、弧線の軸に平行な横断方向ではないことに注意すべきである。すなわち、図3Aのスロットは図3Aの歯表面16Aに平行に向きが定められている。図2の全てのブラケットについて同じ配向が見られる。対照的に、図3Bのスロットは歯表面16Aに対しておおよそ45°の角度で向きが定められている。図3Bの従来技術の配置におけるスロットは、咬合面に対して垂直な平プレーナ面をワイヤが有し、図3A及び図2Bの場合のようにある斜角で斜めにはされていないようなスロットである。
【0039】
図2及び3Aに示されるブラケット接着パッド18は歯の3次元表面と正確に同形であり、薄殻からなる。ブラケット設計のこれらの態様は以下でさらに詳細に説明される。
【0040】
図2,2B及び3Aのブラケット設計により実現される厚さの減少により、従来技術の設計に比較すると、特に舌側歯科矯正について、数多くの重要な改善、すなわち、
軽減された構音問題、
軽減された舌の刺激、
軽減されたブラケット喪失の危険(ブラケットが平らになるほど、患者がブラケットを噛むときのモーメント半径が短くなり、接着剤接続部における応力が小さくなる)、
高められた仕上げのための位置決め制御(ワイヤと歯の間隔が短くなるほど、歯はワイヤによく“追従”する)
高められた患者の快適感、
高められた衛生状態、
が得られる。
【0041】
大臼歯における弧線10の配向は図1に示されるように垂直とすることができ、この結果大臼歯における総厚は最小となるが、あるいは弧線10の配向は水平にもなり得よう。水平配向は厚さをより大きく(例えば、断面が17×25サイズの代表的なワイヤに対し、側面当り0.017インチ(約0.43mm)の代わりに0.025インチ(約0.64mm)に)するが、増加厚は小さいので、製作上または臨床上の配慮からそのような配向が必要であれば、確実に許容できるであろう。水平スロット配向は大臼歯及び小臼歯に対して許容できるから、従来のブラケットを本発明にしたがうブラケットと混用することも無理ではないであろう。例えば、小臼歯及び大臼歯のブラケットは従来型ブラケットとすることができ、前歯及び犬歯には本発明にしたがう一組のブラケットが適用されるであろう。
【0042】
すなわち、本発明の一態様において、発明者等は、一組のブラケット14が患者の歯16に装着され、弧線10がスロット22に挿入されたときに、弧線10がスロット22に挿入されている位置において歯の表面と同形とするために弧線10が咬合面に対して斜めにされ、よってブラケットの総厚を減らすことができるような態様で、ブラケット14のそれぞれのスロット22の向きがそれぞれのブラケット接着パッド18に対してほぼ平行に揃えて定められているスロット22を有する、1つのブラケットまたは一組のブラケット14を説明した。
【0043】
図2及び3に示されるように、弧線10の側面対12は、弧線10がスロット22に挿入されたときに、領域16Aにおいてブラケット接着パッド18に実質的に平行に向きが定められる。図2及び3Aに示されるように、好ましい実施形態において、それぞれのブラケット接着パッドは、それぞれの歯の3次元表面に正確に同形の形状を有する3次元の歯側表面24を有する。
【0044】
本発明は唇側ブラケット及び舌側ブラケットのいずれにも適用できる。可能な1つの実施形態でのブラケットは、以下でさらに詳細に説明するように、ブラケット配置治具またはトレーを用いずに正しい位置で歯上に位置決めできるという点において本質的に自動位置決め型である。図2の実施形態において、ブラケット14は舌側ブラケットであり、それぞれのブラケットのブラケット接着パッドは、それぞれの歯上に手で一意的に位置決めされるように、それぞれの歯の舌側表面の十分な領域を覆う。図3Aにおいては、ブラケット接着パッドが3次元歯側表面24に対応する3次元形状を有する第2の逆側表面26を有し、よって、ブラケットの厚さがさらに減少していることにも注意されたい。
【0045】
可能な実施形態の1つにおいて、本発明にしたがう一組のブラケットは患者の歯列弓の処置のためのブラケットの全てからなることができる。他方で、本発明のブラケットは従来型ブラケットと混用することができるから、一組のブラケットは患者の歯列弓の処置のためのブラケットの全てより少ないブラケットからなり、少なくとも1つのブラケットを有することができる。患者の前歯の舌側表面に配置するための一組のブラケットは代表的な実施形態の1つである。さらに、一組のブラケットは下歯列弓に配置するための第1のブラケットサブセット及び上歯列弓に配置するための第2のブラケットサブセットを有することができる。
【0046】
上述したように、可能な実施形態の1つにおいて、歯側表面の逆側表面は歯の3次元表面に整合する。接着パッドの厚さは接着パッド全体にわたって同じ(例えば0.3mm)とするか、あるいは接着パッドの縁における、例えば0.1mmから中心における0.3mmまで変えることができるであろう。接着パッド厚が変わる実施形態は、一方では、必要な安定性を提供し、他方では、処置が完了したときの歯からのパッドの剥離を容易にするであろう。さらに、パッドが薄くなるほど、患者の快適感が高められる。現在、厚さが0.3mm未満のブラケットの注入成形は極めて達成が困難であるが、代わりに、フライス削りまたはレーザ焼結のような他の製作技術をパッドの製作に用いることができよう。
【0047】
図2及び3Aのブラケットのための設計及び製作のさらなる考察を本明細書で後に詳細に論じる。
【0048】
自動位置決めブラケット
歯に接着されるブラケット14(“パッド”)の表面24の“フットプリント”は、調製ではないパッドが用いられる場合には、妥協の産物である。フットプリントが小さくなるほど、パッド表面と歯表面の間の不一致は当然小さくなり、かなりの空隙を閉じる必要が軽減される。他方で、フットプリントが大きくなるほど、接着剤による接合はより安定であり、処置途上でブラケットが外れる危険性がより低くなる。
【0049】
本発明の別の態様において、発明者等はブラケット接着パッド18(図2及び3A)の形状をパッドが付けられる歯にしたがって正確に整形することにより、上記の妥協を克服する。パッドの歯側表面24の形状は歯16の表面の陰型として形成される。これにより、歯表面とブラケット表面の間の不一致はおこり得ないことが保証され、それぞれのブラケットを可能な限り平らに設計し、よってワイヤを可能な限り歯表面に近づける可能性が生じる。この手法の非常に歓迎すべき結果は、接着面に際立った湾曲を示さずに歯に対する接着面を非常に大きくすることができ、あるいは接着面が尖の湾曲に追従し得ることである。これにより接着強度が向上し、解剖学的歯構造のかなりの領域を覆うことにより、ブラケットの位置がブラケット自体によって完全に定められる。間接接着を行わずとも、それぞれのブラケットは所望の位置に正確に配置される。それでもブラケットが外れるようであれば、特段の努力をせずにブラケットを容易に再配置できる。ブラケット接着パッドは、歯の表面のかなりの面積率を覆うか、または尖のような際立った湾曲に完全に適合されるから、いかなる治具またはその他のブラケット配置具も用いずに手で正しい位置に一意的に配置できる。処置途上でブラケットが外れた場合には、確定適合を用いる手による再配置が極めて望ましく、実際、これらのブラケットでは可能である。しかし、初期接着については、複数のブラケットを同時に位置決めするためのトレーの使用を採用することができる。
【0050】
ブラケット接着パッドの実質的な面積率すなわち被覆率は、歯表面の湾曲に依存する。下前歯のような、かなり平らな歯では、面積率は、舌側ブラケットに対しては歯表面の50%ないしそれよりも大きいこと必要であり得るし、唇側ブラケットに対しては70%ないしそれより大きいことが好ましい。舌側ブラケットに対しては、ブラケット接着パッド18の領域被覆率は60ないし75%またはそれより大きくすることができる。ブラケット接着パッドは歯の尖の領域を、少なくともある程度は覆うことができ、そのような尖は咬合または咀嚼中に対向する歯と接触しないことが好ましい。ブラケット接着パッドが尖を覆っている場合、ブラケットの手配置及び歯へのブラケットの、密接した一意的な適合がさらに容易になる。
【0051】
図4は、ブラケット接着パッド18が歯の50%より多くを覆う、舌側ブラケット14の一例を示す。ブラケット接着パッドは、歯の表面の陰型である3次元歯側表面24(図3A;図4には示されていない)及び3次元歯表面と同じ第2の表面26も有する。表面24及び26の設計態様は以下でさらに詳細に説明する。本実施形態においてブラケットスロットは歯に平行である必要がないことに注意されたい。歯16Bに対するブラケットパッド18が領域30において尖の一部を覆っていることにも注意されたい。
【0052】
ブラケット設計
本装置システムにしたがうブラケットは患者毎に個別に作成されなければならない。ラボプロセスでこれを行うと、時間がかかり、費用もかかるであろう。最適配向でブラケットを設計することも達成が困難である。本発明は、好ましい実施形態におけるパッドの形状寸法を含む、ブラケットを、仮想3次元ブラケット接着パッド、仮想ブラケット本体及びフックのようなブラケットのための仮想補助具を用い、コンピュータを用いて設計することにより、上記問題を解決する。
【0053】
好ましい実施形態において、ブラケット設計は患者の歯列の3次元仮想モデル及び、好ましくは、仮想モデルにおいて歯を所望の最終位置に移動させるための処置計画作成ソフトウエアを格納するワークステーションで実施される。そのようなコンピュータは技術上既知である。例えば、特許文献6並びに、本明細書に参照として含まれる、チスティ(Chisti)等の米国特許第6227850号明細書及び米国特許第6217325号明細書を参照されたい。本発明にしたがうブラケットの設計は、歯科矯正診療所でユーザが行うことができ、または離れた場所にある製作現場で実施することができよう。
【0054】
パッド18の形状寸法は、歯の表面形状と実質的に正確に同形であるブラケット接着パッドをつくるために、患者の歯のデジタル表現から直接に導出することができる。これを達成するため、それぞれの歯に対してブラケットパッドの形状及び寸法が決定される。これは、例えば、歯モデル上に仮想線を引くか、またはそれぞれの領域を色付けすることにより、それぞれの歯モデル上の所望の領域を示すことができるコンピュータプログラムを用いて手動で行うことができる。一組の相互連結された三角形(STLフォーマット)として定義された3Dモデルの操作に広く用いられている、Magics(商標)のような3Dグラフィックソフトウエアプログラムにより、マウスを用いて三角形をクリックするだけで三角形をマークすることができる。
【0055】
別の選択肢は、歯表面の湾曲を解析し、歯表面上へのブラケットの確実な手動位置決めを可能にするために実質的な湾曲形状を覆うに十分大きい表面を決定することにより、適切なブラケット接着パッド領域を自動的または半自動的に計算する、ソフトウエアアルゴリズムを用いることである。そのようなアルゴリズムは、例えばあらかじめ定められたパッド寸法から始めることができるであろう。そのパッド寸法で覆われる歯表面は、完全に平らな歯表面はブラケットの一意的な位置決めに適さないであろうから、周囲の歯の解剖学的構造に対して少なくとも1つの隆起領域をもつ仮想“マウンド”を形成することになろう。マウンドの体積は、パッドの縁が従来のいずれかの態様において連続表面で結合されれば、計算できるであろう。歯表面にある湾曲が小さいほど、マウンドは平らになり、その体積は小さくなるであろう。“マウンド”の体積があらかじめ定められた値をこえていなければ、体積が大きいほど、十分な隆起歯形状を備えることが一層期待できそうであるという考えにより、パッドは自動的にあらかじめ定められた値だけ拡大される。再び体積が計算されるであろう。このループが、それぞれのパッドに対して最小体積値が得られるまで続けられるであろう。明らかに、これはそのような自動化アルゴリズムについての例示的手法でしかない。本明細書に教示される原理から、他の手法を容易に開発することができるであろう。
【0056】
ブラケットパッド形状設計プロセスの現在好ましい実施形態を、以下でさらに詳細に説明する。
【0057】
パッド18の領域が定められると、歯のこの領域の形状がブラケットパッドの歯側領域の所要の形状を正確に定める。パッドの外側領域をどのように整形するかについてはいくつかの選択肢がある。薄パッドを受容するための最善の方法は、パッドの歯側表面を表す表面要素(例えば三角形)のそれぞれの垂直ベクトルをつくり、ブラケット接着パッドの所望の厚さに相当するあらかじめ定められたオフセット値を用いてそれぞれの表面要素を垂直ベクトル方向に“シフト”させることである。このようにすれば、薄殻がつくられ、殻の外側は(シフトされてはいるが)歯に面する側と同じ輪郭を有する。あるいは、ブラケットの厚さをパッドの表面にわたって変えることができ、パッド厚を縁で最小(例えば0.1mm)とし、中心で最大(例えば0.3mm)とすることができる。
【0058】
スロット22及びスロットにワイヤを繋ぎ止める(“結紮する”)ことができる別の要素をもつ、ブラケットの他の部分である、本体20は、患者に特有である必要はないから、あらかじめ定められた仮想モデルとしてコンピュータ内に存在することができる。一般に、ブラケット本体のライブラリがつくられてコンピュータに格納されるであろう。図6A〜6Cは、ブラケット本体20のライブラリに格納され、個々の患者のための調製ブラケットの設計の目的のために用いられる、3次元仮想ブラケット本体の斜視図を示す。あるいは、及び等価的に、ブラケット本体のライブラリはどこか別の場所に格納して、離れたところからアクセスすることができる。様々な不正咬合及び処置手法(重症/軽症、叢生、抜歯/非抜歯、等)に対する様々な相異なる本体を保持することができるであろう。仮想補助要素をそのような要素のライブラリからブラケットに付加することも可能である。例えば、歯列弓に沿って力を印加する(空隙閉鎖等)ために弾性が必要であれば、フックを付加することができる。患者がかなりの被蓋咬合を有し、彼/彼女が顎を完全に閉じることを防ぐことが望ましければ、いわゆる咬合床をブラケットに一体化することもできる。これを説明するため、図5に咬合ターボ32と呼ばれる装置を示す。これらの装置32はブラケットではなく、両顎が完全に閉じることを防ぐために前述の咬合床を提供する目的にしか役立たない。
【0059】
歯科矯正医の要求にしたがってブラケット本体のモデルを修正することさえも可能であろう。別の利点は、ある処置に関して得られた経験をライブラリにあるブラケット本体の設計にほとんど即時に転換できることである。
【0060】
(歯側表面24及び逆側表面26を含む)ブラケット接着パッドの形状が定められ、与えられたブラケット接着パッドに対して使用したいブラケット本体20をユーザが選択した後の、次の工程は、ブラケット本体20をパッド22に結合することである。普通のコンピュータ援用設計(CAD)プログラムは、自由形式の形状を設計するため及び既存の形状を互いに連結するためのいくつかの能力を有する。特定の方法の1つを以下の[例示的実施形態]の節で詳細に説明する。調製ブラケットに対して所望の形状を達成するためにはブラケット本体がどのようにブラケット接着パッドと結合されるべきかをユーザが指定することが好ましい。
【0061】
ブラケット本体とパッドの正確な空間関係は最新の3Dグラフィックソフトウエアを用いてランダムに定めることができるから、例えば叢生前歯を扱うことが可能である。処置の開始時に、または処置中の歯の移動の途上で、隣の歯及び/またはブラケットとの衝突を避けるために、ブラケット本体を左または右に若干シフトさせることができる。この様子が図7に示される。左の歯16Aに対するブラケット本体20A及び右の歯16Cに対するブラケット本体20Bの位置が、処置の開始時におけるブラケットと歯の間の衝突を避けるように、ブラケット接着パッド18の一方の側に向けて移動されていることに注意されたい。同様に、対向する顎の歯との衝突を避けるために、ブラケット本体を上または下に移動させることができる。あるいは、ユーザがパッド表面を単に大きくすることができるであろう。
【0062】
また別の可能な実施形態として、発明者等は、コンピュータを用いて、特定の患者に対して調製された仮想ブラケットをユーザが設計できる機能を提供することを意図する。複数の利用可能な、仮想ブラケット接着パッド、仮想ブラケット本体及び必要に応じて仮想補助要素を含む、ライブラリがユーザに提供される。パッドの幾何学的形状は、あらかじめ定められる(すなわち与えられた形状をもつ)ことができ、あるいは本明細書で詳細に説明されるように、患者の歯の3次元表面に正確に適合するように3次元で定めることができよう。例えば、歯科矯正医が特定のブラケット本体(例えば利用可能なブラケット本体のスタイルのリストから選ばれるブラケット本体番号0011)と結合され、上左犬歯用のフック番号002が備えられた、与えられたパッド(例えば、利用可能なパッドのリストの、あらかじめ定められた形状を有する、パッド番号0023)を呼び出すことが可能であろう。(本明細書に説明されるように)ユーザがブラケット接着パッドをブラケット本体にどのように結合したいかを指定することができるであろうし、またはユーザはこれを製造業者に任せることができるであろう。可能な実施形態の1つにおいて、ユーザは、ブラケット接着パッド、ブラケット本体及び補助要素を指定し、これらのコンポーネントをワークステーションまたはコンピュータ上の仮想オブジェクトとして視認し、オブジェクトを1つに結合して一意的な調製ブラケットに到達させる。次いで、ユーザは、ブラケットの直接製作のため、または注入成形プロセスを用いるブラケットの製作に用いられるテンプレートまたはモデルの製作のために、(高速原型作成システムのような)製作システムにブラケットを表すデータをエクスポートする。
【0063】
ブラケット製作
パッド及びブラケット本体が1つの3Dオブジェクトに結合されてしまえば、“高速原型作成”装置を用いる直接製作を可能にするため、このオブジェクトを表すデータを、例えばSTLフォーマットで、エクスポートすることができる。技術上良く知られている、多くの様々な、適切な高速原型作成技法がすでに存在する。それらの技法には、ステレオリソグラフィ装置(“SLA”)、積層物体製作法、選択レーザ焼結法、融着堆積模型製作法、固相粉砕硬化法、及び3Dインクジェット印刷法がある。当業者はこれらの技法に詳しい。
【0064】
可能な技法の1つでは、いわゆる“ワックスプリンタ”を用いてブラケットのワックス模型を作成することが可能である。次いで、これらのワックス模型が注入成形プロセスの中子として用いられるであろう。ワックス模型はセメントに埋め込まれ、次いで溶融される。ブラケットは金または他の適切な合金で注入成形されることになろう。SLA模型をつくり、これらを金型の中子として用いることも可能であろう。高速フライス削りのような、その他のプロセスもブラケットの直接機械加工に用いることができるであろう。粉末状物質がデジタル制御されたレーザビームで硬化される、レーザ焼結のようなプロセスが適用可能である。粉末状物質をプラスチックとすれば金型のための中子をつくることができ、金属とすればブラケットを直接に作成できるであろう。
【0065】
ほとんどの高速原型作成装置は物体の形状を層でつくる。このため、モデル化されるべき表面が層に平行ではない場合には一般に、段差が生じる。層の厚さに依存して、これらの段差はほとんど認知できないかもしれない。しかし、ブラケットスロット22を形成する表面は平滑であるべきである。1つの選択肢は高速原型作成中は段差を許容し、最終製作工程としてスロットを機械的に再仕上げすることである。より優れた選択肢は、スロットが層に平行になる態様で高速原型作成装置内部の3Dモデルの向きを定めることにより段差を避けることである。この場合、スロットの所望の高さは層厚に対応しなければならない。すなわち、スロット高は層厚の整数倍でなければならない。
【0066】
平滑なスロット表面を得るための別の選択肢は、目標寸法より大きいスロットを作成し、機械加工またはモールド成形されたU字形インレーをスロットに挿入する、すなわちインレーがスロットを形成する、ことである。これは、例えば、ワイヤとスロットの間の摩擦を低減するためにセラミックブラケットで行われることが多い。これは、U字形インレー40がスロット22内に配置されている図8に示される。
【0067】
ブラケット14の材料の強度は常に妥協の結果である。スロット22を形成している区画は、ブラケットが(例えば固い物を噛むことにより)高い機械的応力にさらされたときでもスロットの断面を維持するため、可能な限り強固であるべきであるが、パッド18を形成している区画は、処置完了後の剥離を容易にするため、より柔軟であるべきである。パッドが十分に柔軟であれば、適切な工具を用いて、そのままパッドを歯表面から引き剥がすことができる。製作プロセスのタイプに依存して、そのような構成を達成するために様々な合金を用いることが可能である。遠心注入成形を用いれば、初めに、スロットを保持する区画を形成するために制御された量の硬質合金を用いることができ、その後に、ブラケットの残り部分を埋めるためにより軟質の合金を用いることができる(または順序を逆にすることができる)。ブラケットの3Dモデルからそれぞれのブラケット区画の体積が精確に分かるので、ブラケットの特定の部分を形成するために必要な材料の量を制御することが可能である。レーザ焼結プロセスが用いられる場合は、相異なる合金粉末を相異なる層のために用いることが、装置設計がそのような手順を可能としているとすれば、できる。
【0068】
モジュール設計により、一般に、スロット高をワイヤ断面に精確に一致するように定めることが可能になる。スロットがワイヤ厚によく適合するほど、スロット内のワイヤの遊びが小さくなり、処置の終わりにおける歯の位置の精度がより高くなるであろう。挿入されるべきワイヤのあるロットにブラケットのスロット寸法を適合させることが可能であろう。
【0069】
システムのブラケット/ワイヤをより良く定めるほど、仕上げ中に生じる問題が少なくなるであろうし、そのような問題を処理するために費やされる時間が短くなるであろう。この結果、総処置時間が短縮される。
【0070】
[例示的実施形態]
以下に説明するプロセスは、すでに試して成功したプロセスである。上節でのコメントから、多くの変形が可能であることは明らかである。読者は以下の説明において図2,3A及び9A〜15に導かれる。以下の説明は、本発明の実施に対して既知の、発明者等の最善の態様の開示としてなされ、本発明の範囲に関して制限することは目的とされていない。
【0071】
初めに、患者の歯列のデジタル3次元表現がつくられるか、別途に得られる。1つの選択肢は、(生体内での、または模型のスキャンによる)不正咬合のスキャンから、不正咬合の表示を生成することであろう。この場合、歯列のデジタル表現から導出される歯のデジタルモデルは、コンピュータ処置計画作成プログラムによって所望の最終位置に再配列されるであろう。このプロセスは特許文献6に詳細に説明されている。別の選択肢は、石膏模型が単一の歯の模型に切り分けられ、これらの歯の模型をワックス床に配置すること(“配列”)により歯の模型が再配列される、ラボプロセスを用いてそのような最終位置を手作業でつくることである。次いで、工業レーザスキャナを用いて上記配列をスキャンすることにより、理想的最終位置のデジタル表現がつくられる。このプロセスも技術上既知であり、例えば先に言及したチスティ等の特許明細書を参照されたい。
【0072】
理想的な最終の歯の位置のデジタル表現がつくられてしまえば、それぞれの歯についてブラケットパッドの寸法及び形状が決定される。この工程及び以降の工程は、マテリアライズ(Materialise)により開発されたMagicsとして知られる既製の3Dグラフィックソフトウエアプログラムを用いて実施された。他のソフトウエアプログラムも、もちろん使用可能である。
【0073】
それぞれの歯について、パッド18により覆われるべき領域が、カッティング機能を用いることにより選択される。これが図9A及び9Bに示される。ブラケット接着パッドの所望の境界を形成する歯の表面上の複数の点50をクリックすることにより、歯モデルのこの領域が、ブラケット接着パッドが歯に接着されるであろう表面を形成するために選択される。点50は線52により自動的に連結される。このようにして得られる3D多角形は平滑化され、表面が線で囲まれる。この表面が、コンピュータ内の独立な表面オブジェクトに変換される。図10は4本組の歯に対して実施されたプロセスを示す。歯の表面54が、図11に示されるように、独立オブジェクトに変換され、厚さゼロの3次元殻からなる。これらの表面54はブラケット接着パッドの歯側表面としてはたらく。
【0074】
次に、Magicsソフトウエアの関数“Offset Part”が用いられる。表面54を形成している三角形の垂直ベクトルを用いて殻54をオフセットし、そのようにしてブラケット接着パッド18の逆側表面26を形成する第2の殻をつくる、オプション“Create Thickness”が起動される。逆側表面26は、殻の外縁をめぐる間隙を閉じることにより結合されて、1つの連続表面になる。このようにして、パッド18の3次元形状が定められる。現行の注入成形技術ではパッドは一般に0.3mmの厚さを有することが必要であろう。
【0075】
次に、それぞれの歯について、仮想ブラケット本体モデルのライブラリからブラケット本体の適切なモデルが選択される。一般に、大臼歯、小臼歯及び前歯に対して相異なる本体があるであろう。図12は、本プロセスの中間工程におけるブラケット接着パッド18上へのライブラリからのブラケット本体20の配置を示す。
【0076】
パッド18と合体される必要があるそれぞれのブラケット本体20の領域は、必要よりかなり長くなるように設計され、よって、歯に対して適切に方向が定められたときにパッドの歯側表面上に突き出るであろう。これが図12に示される状況である。もちろん、これは望ましくはなく、ブラケット接着パッドから内側に突き出る部分は除去される必要がある。
【0077】
(例えば舌側処置のために)可能な限り薄いブラケットをつくるため、パッド自体とスロットとの、またはスロットに通された時のワイヤとの間に干渉を生じずに、可能な限りパッド18の近くにスロット22の位置を定めることが、明白な目標となる。
【0078】
歯の内部に向けてパッドから突き出ている本体20の領域を除去するため、元の歯モデルが再ロードされる。Magicソフトウエアは、結合機能及び減算機能を含む“ブール(Boolean)”演算を提供する。これらの機能を用いれば、図16〜21に関して以下で説明するように、歯モデル16の内側にあるブラケット本体20の全ての部分が除去される。したがって、ブラケット本体20も歯表面にしたがって精確に整形され、パッドの表面に等しくなる。図13A及び13Bは、歯の表面と同形になるようにそれぞれの表面58が修正された2つのブラケット本体を示す。
【0079】
次に、ブール演算を再び用いて、パッド18と本体20が1つの3次元仮想オブジェクトに結合される。(ブラケットが注入成形される実施形態に対しては)スプルーを表すオブジェクトがブラケット上に配置され、ブラケットモデルにも結合される。
【0080】
本プロセスはそれぞれのブラケットに対して行われる。図14は、下歯列弓の舌側処置に対する一組の歯科矯正ブラケットの3D仮想モデルを示す。
【0081】
上記方法の変形は次の通りである。初めに、ブラケット本体がブラケット本体のライブラリから検索されて、正しい位置にある歯の表面に対して配置される。次いで、そうしなければ歯内に突き出すであろうブラケット本体の領域を削除するため、ブラケット本体+歯オブジェクトから歯が“減算”される。表面54について上述したプロセスを用いて、歯表面から得られた、すなわち導出された、表面に厚さを指定することによりブラケット接着パッドがつくられる。次いで、修正された通りのブラケット本体が、ブラケット接着パッドに結合される。
【0082】
別の可能な実施形態は、コンピュータで設計されてコンピュータに格納された可能な限り短いブラケット本体を用いることである。基本的に、これらの仮想ブラケット本体はスロット要素を備え、他はほとんどまたは全く備えていないであろう。ユーザは、ブラケット本体とブラケット接着パッドの間に形成される狭い空隙をおいて、仮想ブラケット接着パッドの隣に仮想ブラケット本体を配置するであろう。ブラケット設計ソフトウエアは、接着パッドとブラケット本体の間の平滑な遷移により表面を生成するための機能を備える。任意の断面をもつ2つの仮想オブジェクトに間の平滑な遷移を生成するための機能を提供するソフトウエアはすでに存在し、一例はRhino3D(商標)の商品名で販売されている3D設計プログラムである。
【0083】
調製ブラケット接着パッドの製作のための、また別の、それほど好ましくはない実施形態は、標準のブラケット接着パッドをもつ標準のブラケット本体を使用し、次いで、曲げ加工ロボットを用いてこれらのパッドを曲げて所望の3次元形状にすることであろう。特許文献6のワイヤ曲げ加工ロボットには、ブラケットを掴んで、歯の解剖学的構造に適合させるためにパッドの歯側表面を曲げるための、異なるグリップフィンガーを与えることができるであろう。パッドの逆側表面はフライス削りにより整形することができるであろう。別の実施形態では、歯に向く側及び逆側のいずれもがフライス削りにより整形されるであろう。
【0084】
与えられた歯について適切なブラケット本体を選択するための別の観点は、歯の不正咬合の程度である。例えば、かなり角度がついている歯には、満足できる制御を提供するために広いブラケット接着パッドを装着すべきであり、一方、角度の変更を必要としない歯には、歯に角モーメントを与える必要はないから、非常に狭いブラケット接着パッドを付けることができるであろう。
【0085】
すなわち、上述の議論から、本発明のブラケットの設計及び製作のための様々な方法が考えられることが理解されるであろう。当業者により他の方法も選択され得る。ブラケット設計のプロセスは、歯列弓の必要な歯の全てに対して行われ、望ましければ、設計プロセスは対向する歯列弓についても実施される。
【0086】
STLフォーマットの完成調製ブラケットの3Dモデルはエクスポートされてワックスプリンタに供給される。そのようなワックスプリンタはインクジェットプリンタと同様に設計され、非常に多くの薄層で物体を積み上げる。微細噴射器が基台上に液体ワックスを吹き付けることで、初めに最下層が“印刷”される。作成されるべき物体の一部である領域が、溶融温度が高いワックスを用いて印刷される。残りの領域は溶融温度の低いワックスで埋められる。次いで第1層の表面が精確に定められた厚さのプレーナ層を付けるために平削りされる。その後、以降の層の全てが同じ態様で付けられる。これが完了した後、加熱された溶剤にさらすことにより、低温溶融領域が除去される。
【0087】
次いで、全てのブラケットのワックス模型が、スプルーは完全には覆われないことを確かめながら、セメントに埋め込まれる。セメントが硬化した後、金型が加熱され、よってワックス中子が除去されてキャビティがつくられる。金を基材とする合金が金型に流し込まれる。次いで金型が砕かれ、スプルーを取り外した後に、ブラケットはいつでも使用できる状態になる。
【0088】
得られた調製ブラケットは1つずつ接着することができるであろうが、不正咬合の石膏模型上にブラケットを配置し、少量の液体ワックスまたは水溶性接着剤でブラケットを固定し、完全セットをシリコーンで上から型取り、よってブラケット運搬トレーを作成することが、より効率的である。
【0089】
特許文献6に説明されている歯列+ブラケットのSLA表示を用いるオラメトリックスの方法にしたがう運搬トレーも用いることができるであろうことは明らかである。
【0090】
歯列弓全体についてブラケット設計プロセスが行われた後、歯列弓全体に対するブラケットスロットの位置がファイルとして格納され、弧線の曲げ加工のためにワイヤ曲げ加工ロボットにエクスポートされる。ワイヤを製作するためには、特許文献6に説明されるような6軸ロボットが適切であり、好ましい実施形態である。それぞれのブラケットの位置及び配向は既知であり、したがってそれぞれのスロットの位置及び配向は既知であるから、それぞれのスロットに関する空間情報を含むロボット制御ファイルを生成し、これらの制御ファイルを用いてワイヤを曲げて、図1に示される形状を有するワイヤを作成することが可能である。
【0091】
Magicsソフトウエアプログラムでは、著作権のあるファイルフォーマットの個々のオブジェクトの座標システムをユーザがエクスポートすることが可能である。これらのファイルは拡張子がUCSのASCIIファイルである。そのようなファイルは変換ソフトウエアにインポートして、特許文献6のロボットにより用いられる、変換行列をバイナリフォーマットで保持するCNAフォーマットに変換することができる。明らかに、仮想配列並びに仮想ブラケットの設計及び配置の全プロセスが、ワイヤ曲げ加工システムのネイティブソフトウエア内で実施されれば、CNAファイルが直接に生成されるであろうから、そのような変換は必要ではないであろう。
【0092】
図15Aは、ストレートワイヤ手法が用いられる、従来技術の舌側ブラケットを示す。ブラケットの寸法が大きいことに注目されたい。この結果、患者に与えるかなりの不快感、構音問題、及び先に論じたようなその他の問題が生じる。図15Aを、一組のブラケットが本発明の教示にしたがって提供されている図15Bと比較されたい。ブラケットの厚さがかなり低減されている。図15Bのブラケットとワイヤのシステムの利点は上で説明した。
【0093】
次に図16〜21を参照して、コンピュータにおけるブラケット本体20のブラケット接着パッド18との合体の、現在好ましいプロセスをここで説明する。図16は、ブラケット接着パッド18及びブラケット本体20が互いに対して移動させることができる2つの独立な3次元仮想オブジェクトである、調製歯科矯正ブラケットの設計の中間工程中の、仮想ブラケット本体20及び仮想ブラケット接着パッド18の結合を示す。図16に示される状況において、スロット22はパッド18に対してユーザが欲する位置に配されているが、ブラケット本体の領域60はパッドの歯接触表面24をこえて突き出しており、これは望ましくない結果である。
【0094】
図17は、本明細書に説明されるブラケット設計の特徴を実施しているコンピュータワークステーションの画面を示し、ここではユーザが図16のパッド及びブラケット本体を結合して単一仮想オブジェクトにしている。パッド18はワークステーションユーザインターフェース上で赤色オブジェクトとして表示され、ブラケット本体は緑色オブジェクトである。Magicソフトウエアは参照数字62で示される[結合]アイコンを提供する。ユーザが参照数字64で示される[OK]をクリックすると、2つのオブジェクト20及び18が結合されて1つの仮想3Dオブジェクトになる。図18A及び18Bは1つの仮想オブジェクトとして結合されたパッド及びブラケット本体の2つの図である。
【0095】
次に、歯オブジェクトが呼び出され、ブラケット本体/パッドオブジェクトが歯に重畳される。図19は、仮想歯16上に配置された図18A及び18Bのパッド18及びブラケット本体20を示す。
【0096】
ここで、領域60(図18)がブラケット本体から取り除かれる必要がある。図20は、コンピュータワークステーション上に赤色で表示されている歯オブジェクト16をワークステーション上に緑色で表示されているブラケット接着パッド/ブラケット本体18/20オブジェクトから差し引くための減算プロセスを実施しているワークステーションの画面を示す。この工程は、そうしなければ歯の内部に突き出すであろうブラケット本体20の領域60を取り除くために必要である。ユーザは赤(歯)の緑(ブラケットパッド/本体)からの差引きを示すアイコン66をアクティブにし、[OK]をクリックする。
【0097】
図21A及び21Bは、図20の減算操作が行われた後の、ブラケットパッド/ブラケット本体オブジェクトの2つの図である。図17を図21A及び21Bと比較することにより、そうしなければ歯内に突き出していたであろうブラケット本体の領域60がブラケットパッド/ブラケット本体オブジェクトから削除され、歯側表面24が歯の表面と正確に同形であることがわかるであろう。
【0098】
上に述べたように、仮想ブラケット本体を仮想ブラケット接着パッドから互いに対する所望の空間関係をもって離し、2つのオブジェクトの間の空間の容積をRhino3Dプログラムのような適切なグラフィックツールで埋め、よってブラケット本体をブラケット接着パッドと結合することが可能であろう。あるいは、ブラケット本体のいかなる領域も取り除く必要なしに、3Dグラフィックソフトウエアツールを用いてブラケット本体をブラケット接着パッドに正確に適合させることができるであろう。この状況においては、ブラケット本体がパッドにしか侵入しないであろう態様で2つの仮想オブジェクトが交叉する(例えば、ブラケット本体とブラケット接着パッドの交叉深さはほぼ0.1mmである)。あるいは、2つのオブジェクトを上述したように結合し、図16〜21に示されるように、そうしなければ歯の内部に突き出すであろう領域を取り除くことができるであろう。
【0099】
本発明とともに用いられるべき弧線は、技術上既知であるかまたは将来開発される、いずれかの適する弧線材料でつくられた弧線とすることができる。比較的軟質で熱処理が可能な合金が特に適していることがわかっている。そのようなワイヤはワイヤ曲げ加工ロボットによる曲げ加工に理想的であることも見いだされている。本発明のための好ましい材料である、そのような合金の1つは、ロッキーマウンテン・オルソドンティックス(Rocky Mountain Orthodontics)から入手できる、BLUE ELGILOY(商標)の商品名で販売されているコバルト−クロム合金である。この特定のワイヤ材料は、コバルトが40%,クロムが20%,ニッケルが15%,モリブデンが7%,マンガンが2%,炭素が0.15%,残りが鉄の組成を有する。同様の合金がオームコ(Ormco)から入手でき、AZURLOY(商標)の商品名で販売されている。これらの材料は、特許文献6に説明されている加熱グリップフィンガーをもつ6軸ワイヤ曲げ加工ロボットに特によく適している。コバルト−クロム合金は、舌側処置に特に望ましく、かなり軟質である。また、重要なのは、コバルト−クロム合金はワイヤに所望の曲げを得るための増し曲げがごくわずかしか必要ではなく、このことは、曲げ加工完了時に所望のワイヤ形状を得るためのワイヤの増し曲げは正確に制御することが困難なプロセスであるから、ワイヤ曲げ加工の観点から特に有利であるということである。
【0100】
コバルト−クロムワイヤは、ワイヤの強度を高めるために曲げ加工後に熱処理されることが好ましい。熱処理は、特許文献6に説明される技法を用い、ワイヤのそれぞれの区画が曲げられた後、直ちに、抵抗加熱法を用いてロボットのグリップフィンガーにより与えることができる。あるいはワイヤ全体を曲げた後にワイヤをオーブンに入れることにより熱処理を行うことができ、あるいは米国特許第6214285号明細書に説明されるワイヤ加熱装置にワイヤを入れることができる。熱処理のための温度はほぼ500°F(260℃)である。ワイヤの強度を高めるための本明細書でのワイヤの熱処理の目的は、特許文献6に説明されるNiTiワイヤ及びその他の形状記憶ワイヤの熱処理の目的とは異なる。NiTiワイヤの熱処理はロボットにより曲げられたままのワイヤの形状を材料に帯びさせるために必要であり、一方、本明細書での熱処理はワイヤの強度を高めるためであるから、コバルト−クロムワイヤは熱処理を加えなくとも曲げ形状をとるであろう。
【0101】
増し曲げをごくわずかしか必要としない上記の比較的軟質なワイヤ、特にコバルト−クロム合金ワイヤは、本明細書に説明される舌側歯科矯正ブラケット及び傾斜面付弧線に特に適する。本発明の可能な態様の1つにおいて、発明者等は、ワイヤ曲げ加工ロボットによる、ワイヤが例えば特許文献6に説明されるようなワイヤ曲げ加工ロボットのワイヤグリップ装置により実質的に熱処理されるコバルト−クロム合金からなる、弧線の形成方法を提供する。別の態様において、弧線をワイヤ曲げ加工ロボットに与える工程、特定の歯科矯正患者のためのあらかじめ定められた形状をもたせるために、弧線をワイヤ曲げ加工ロボットにより曲げ加工する工程、及び弧線をワイヤ曲げ加工ロボットで保持している間に弧線を熱処理する工程を含む、弧線を曲げ加工及び熱処理するための方法が提供される。弧線はコバルト−クロム合金ワイヤからなることが好ましいが、曲げ加工後に熱処理を必要とする他の合金を用いることができるであろう。曲げ加工及び熱処理の工程は、弧線を順次曲げて一連の曲げを形成し、一連の曲げの内のそれぞれの曲げが実施された後にワイヤを加熱することにより、提供することができるであろう。
【0102】
現時点で好ましい実施形態を詳細に説明したが、本発明の精神及び範囲を逸脱することなく、好ましい実施形態からの変形及び代替実施形態が当然可能である。例えば、コンピュータを用いるブラケットの設計を、ブラケット接着パッド、歯及びブラケット本体の表面要素が三角形として表されるMagicソフトウエアプログラムを用いて説明した。しかし、体積作図(IGESフォーマット),及びノンユニフォーム・レイショナルB・スプラインズ(NURB)を含む、使用可能であろう、コンピュータで任意の3次元形状を表示するための意にかなう別の数学技法がある。三角形(SLAフォーマット)を用いる表面要素表示は本発明において十分に効果を発揮するものであり、QuickDraw3D(商標)のようなNURBを用いるソフトウエアが使用できるであろう。NURBソフトウエアは、高度の数学的精密度及び分解能を独立に維持しながら任意の形状を表示する仕方を提供し、複雑な形状を驚くほど少ないデータで表示できるから、益々広く用いられるようになっている。本発明にしたがうブラケットを設計するための好ましい実施形態で用いられる方法及びソフトウエアは、いくつかの可能な技法の内の1つを代表し、本発明の範囲は開示した方法に限定されない。
【0103】
別の例として、ブラケットの製作のために用いられる製作技法は決定的ではなく、開示した技法から変わることができる。
【0104】
長方形、正方形または同様の断面をもつ弧線に対する本明細書における言及は、上記の断面形状を基本的に有するが、角が若干丸められ、したがって正確には長方形または正方形ではない断面を有する弧線を包含すると見なされる。同様に、添付される特許請求の範囲における平プレーナ側面を有する弧線への言及は、平プレーナ側面を基本的に有するが、それにもかかわらず、1つの面から別の面への角の丸めを有する弧線を包含する。
【0105】
本発明の真の精神及び範囲は添付される特許請求の範囲を参照することにより理解されるであろう。
【符号の説明】
【0106】
10 弧線
14 ブラケット
15 咬合面
16 歯
16A,24 歯側表面
18 ブラケット接着パッド
20 ブラケット本体
22 スロット
26 逆側表面
54 歯表面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータを用いて患者のための調製矯正歯科ブラケットを設計および製造する方法であって、前記ブラケットは弧線を受け入れるためのスロットを有するブラケット本体および、患者の歯の3次元表面と同形の歯側表面を有するブラケット接着パッドを有してなり、前記方法が、
a) 前記患者の歯列の領域のデジタル表現を前記コンピュータに格納し、前記コンピュータにある3次元ブラケット本体のライブラリにアクセスする工程、
b) 前記ブラケット接着パッドが取り付けられるべき歯領域を、前記患者の歯列の領域の前記デジタル表現からユーザの入力に基づいて前記コンピュータにより決定する工程、
c) 前記ブラケット接着パッドの前記歯側表面の3次元形状を、前記患者の歯列のデジタル表現から直接決定する工程であって、前記3次元形状が前記歯の3次元表面と同形である工程、
d) 前記ブラケット接着パッドの前記歯側表面の逆側にある面であって、前記歯側表面に対応する3次元形状を有する第2の面を得る工程、
e) 前記ライブラリから仮想ブラケット本体を得て、前記仮想ブラケット本体の位置を前記仮想ブラケット接着パッドとの関係によりユーザの入力に基づいて前記コンピュータにより決定する工程、
f) 前記仮想ブラケット本体を前記仮想ブラケット接着パッドと結合して、前記ブラケットを表す1つの結合された3次元仮想オブジェクトを形成する工程、および
g) 前記コンピュータから前記ブラケットを表すデジタルデータを、前記ブラケットを製造するシステムへエクスポートする工程
を含むことを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13A】
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【図13B】
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【図14】
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【図15A】
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【図15B】
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【図16】
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【図17】
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【図18A】
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【図18B】
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【図19】
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【図20】
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【図21A】
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【図21B】
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【公開番号】特開2013−39401(P2013−39401A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−231503(P2012−231503)
【出願日】平成24年10月19日(2012.10.19)
【分割の表示】特願2009−222452(P2009−222452)の分割
【原出願日】平成15年2月11日(2003.2.11)
【出願人】(504310249)テーオーペー ゼルヴィース フュール リングアールテヒニック ゲーエムベーハー (2)
【氏名又は名称原語表記】T.O.P. Service fuer Lingualtechnik GmbH
【Fターム(参考)】