説明

調製粉乳の製造方法

【課題】
油脂、特に不飽和脂肪酸の酸化が抑制された調製粉乳を提供すること。
【解決手段】
乳原料、糖類、及び油脂類を含む調乳液原料が混合されて調製された調乳液に、少なくとも銅酵母を含む銅原料を添加する工程、銅原料を添加した調乳液を乾燥する工程、を含む、酸化抑制された調製粉乳を製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調製粉乳の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
三大栄養素の一つである脂質は食生活に必須の栄養素であり、主に飲食品の摂取により体内に取り込まれる。この油脂には動物性油脂と植物性油脂があり、動物性油脂としては牛や水牛、ヤギ、ロバ等から得られる乳脂肪、豚油(ラード)、魚油等がある。また、植物性油脂としては大豆油、コーン油、ゴマ油、エゴマ油等の植物から得られる油脂の他、微生物を培養して得られる油脂がある。
【0003】
近年、栄養学の発展やこれに伴う栄養所要量の変更等により、飲食品、特に乳幼児用食品、栄養機能食品、特定保健用食品等は各種成分の検討、改良が行われてきた。油脂では、特に不飽和脂肪酸の栄養学的重要性が注目されており、ドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸等の不飽和脂肪酸を配合、増強した飲食品が次々と発売されている。
【0004】
このように油脂は幅広く使用されているが、一方で非常に酸化しやすい性質を有している。油脂の酸化は、光、温度、酸素等によって容易に促進される。
【0005】
飲食品には製造工程中に仕込み段階を含むことがあるが、仕込み段階では油脂、蛋白質、糖類、ミネラル、ビタミン等多くの原料が溶液中で混合、攪拌される。この場合、油脂も液の状態で他の原料と接触し、混合される。また、殺菌、濃縮、乾燥の各段階では、原料を含む仕込み液が加熱され、高温で保持されることがある。このように、物理的な接触や衝撃、熱や光、酸素等の存在する環境下において、油脂の酸化は、非常に起こりやすい状態にあった。
【0006】
油脂の中でも不飽和脂肪酸は、脂肪酸の構造中に不飽和結合を含むことから酸化されやすい。従って、不飽和脂肪酸を含有する食品は、酸化の進行による酸化臭を発生させやすい。例えば、不飽和脂肪酸のDHAはマグロ等の魚類を原料とするものが主流であり、酸化の進行によって、酸化臭の発生と共に戻り臭と呼ばれる魚臭を発生することがある。これらの臭気も酸化臭と同様、風味劣化をもたらし、製品品質を著しく低下させてしまう。
【0007】
このように、飲食品中の油脂は、栄養学的重要性が注目されている不飽和脂肪酸の増強によって、一層酸化されやすく、且つ酸化による悪影響が大きなものとなってきた。そのため、油脂の酸化抑制は品質の向上、風味の維持、賞味期限延長の観点から一層重要なものとなっている。
【0008】
一方、鉄、銅、亜鉛等の各種の金属は、ヒト及び動物の成長に必須の元素であり、これらを含めたミネラル類は、栄養学的に考慮された飲食品、特に調製粉乳に必ず含まれている。
【0009】
ところが、油脂の酸化では、ミネラル類が油脂の酸化に対して触媒効果を示すことがあるとされる。そのため、栄養学的に考慮された飲食品の製造工程中で油脂がミネラル類と液中で接触する場合に、加熱工程での温度上昇による酸化促進効果も生じることから、栄養学的に考慮された飲食品においては、油脂は非常に酸化されやすい状態となっていた。
【0010】
油脂の酸化を防止する方法としては、鉄(II)を配合して酸化を防止する方法(特許文献1)、金属をカゼインに結合させて配合する方法(特許文献2)、ホスファチジルコリン(PC)とホスファチジルエタノールアミン(PE)を配合して抗酸化力を増強する方法(特許文献3)等が知られている。また、不飽和脂肪酸を含有した乳化液と、金属塩を含有する液を別々に濃縮し、乾燥し、これらを粉末同士で混合する含脂粉乳の製造方法が知られている(特許文献4)。
【0011】
この他、ミネラルを添加する前に、ポリアミンを添加して乳化することによって、多価不飽和脂肪酸の酸化劣化を抑制する方法(特許文献5)が知られている。
【特許文献1】特開平7−233078号公報
【特許文献2】特開平8−98647号公報
【特許文献3】特開2001−258507号公報
【特許文献4】特開平6−245698号公報
【特許文献5】特開2002−95442号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述のように、油脂、特に不飽和脂肪酸を含有する油脂の酸化抑制方法や、酸化抑制された飲食品の製造方法として、様々な方法が開発されてきた。しかし、調製粉乳の組成上や工程上の面から配合困難な原料を使用する必要があること、金属類を好ましい状態に加工する工程や酸化抑制のための特別な工程が必要であること、効果が十分でないこと等の問題点を有していた。このように、調製粉乳の中の油脂の酸化を抑制する手段が求められており、油脂、特に不飽和脂肪酸の酸化を抑制して、酸化が抑制された調製粉乳を提供することが求められていた。
【0013】
従って、本発明の目的は、油脂、特に不飽和脂肪酸の酸化が抑制された調製粉乳を提供することにある。また、本発明の目的は、調製粉乳の製造段階に発生する調乳液の酸化反応を抑制し、かつ製造後の調製粉乳の酸化を抑制することが可能な調製粉乳の製造方法を提供することにもある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者等は、栄養学的に考慮された飲食品である調製粉乳の製造において、ミネラルとされる各種の金属元素のなかで、銅原料のみについてその形態を変更して、銅酵母の形態として添加することによって、製造段階の調乳液の酸化と、製造後の調製粉乳の酸化との両方に対して、同時に優れた酸化抑制効果を発揮することを見出して、本発明を完成した。
【0015】
従って、本発明は、以下の[1]から[14]にある。
[1]
酸化抑制された調製粉乳を製造する方法であって、
乳原料、糖類、及び油脂類を含む調乳液原料が混合されて調製された調乳液に、少なくとも銅酵母を含む銅原料を添加する工程、
銅原料を添加した調乳液を乾燥する工程、
を含む、製造方法。
[2]
調乳液原料が、乳原料、糖類、油脂類、ビタミン類及びミネラル類(ただし銅原料を除く)を含む、[1]に記載の方法。
[3]
銅原料を添加する工程中の調乳液が、殺菌された調乳液である、[1]又は[2]に記載の方法。
[4]
酸化抑制が、調製粉乳の製造段階の調乳液の酸化の抑制、及び製造後の調製粉乳の酸化の抑制である、[1]〜[3]の何れかに記載の方法。
[5]
酸化抑制が、調製粉乳の過酸化物価の低減である、[1]〜[3]の何れかに記載の方法。
[6]
酸化抑制された調製粉乳が、次の条件:
X:37℃での調製粉乳の保存期間(月)
Y:調製粉乳の過酸化物価(meq/kg)
Y≦0.806X
を満たす、[1]〜[3]の何れかに記載の方法。
[7]
油脂類が、不飽和脂肪酸を含む油脂類である[2]〜[6]の何れかに記載の方法。
[8]
銅酵母を含む銅原料が、
銅原料に含まれる銅に対して、銅酵母に含まれる銅が60質量%以上の銅原料である、[1]〜[7]の何れかに記載の方法。
[9]
銅酵母を含む銅原料が、
銅原料に対して、銅酵母が80質量%以上の銅原料である、
[1]〜[8]の何れかに記載の方法。
[10]
調製粉乳が、銅を1〜1500μg/100g含む、[1]〜[9]の何れかに記載の方法。
[11]
酸化抑制された調製粉乳が、次の条件:
X:37℃での調製粉乳の保存期間(月)
Z:調製粉乳を溶解した際のヘキサナール量(ppm)
Z≦0.199e0.802X
を満たす、[1]〜[10]の何れかに記載の方法。
[12]
[1]〜[11]の何れかに記載の方法によって製造された、酸化抑制された調製粉乳。
[13]
次の条件:
X:37℃での調製粉乳の保存期間(月)
Y:調製粉乳の過酸化物価(meq/kg)
Y≦0.806X
を満たす、[12]に記載の調製粉乳。
[14]
次の条件:
X:37℃での調製粉乳の保存期間(月)
Z:調製粉乳を溶解した際のヘキサナール量(ppm)
Z≦0.199e0.802X
を満たす、[12]に記載の調製粉乳。
[15]
銅を1〜1500μg/100g含む、[12]〜[14]の何れかに記載の調製粉乳。
【0016】
さらに、本発明は次の[16]にもある。
[16]
調乳液に、銅酵母を含む銅原料を添加する工程、の前に、
調乳液を殺菌する工程、が設けられた、[1]〜[11]の何れかに記載の方法。
【0017】
さらに、本発明は次の[17]から[20]にもある。
[17]
調製粉乳の製造段階の調乳液の酸化、及び製造後の調製粉乳の酸化を抑制する、酸化抑制方法であって、
調乳液に、銅酵母を含む銅原料を添加する工程、
銅原料を添加した調乳液を乾燥する工程、
を含む、方法。
[18]
油脂類と添加されたミネラルとを含有する飲食品の製造において、油脂類の酸化を抑制する方法であって、
ミネラルを酵母に封入して添加する工程、
を含むことを特徴とする、酸化抑制方法。
[19]
ミネラルが銅であり、
ミネラルを酵母に封入して添加する工程、が、銅酵母を含む銅原料を添加する工程である、[18]に記載の方法。
[20]
油脂類に不飽和脂肪酸が含まれる[17]〜[19]に記載の方法。
【0018】
本発明によれば、銅原料の形態のみを銅酵母の形態に変更して添加することによって、製造段階、特に調乳液に銅原料を添加する工程及び銅原料を添加した調乳液を乾燥する工程に生じ得る酸化と、製造後の調製粉乳の酸化との両方に対して、同時に優れた酸化抑制効果を発揮する。
銅元素に加えて、銅以外の金属元素を酵母に封入して、例えば、鉄酵母、亜鉛酵母等の形態として、これを添加することも本発明の範囲内である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によって奏せられる効果は、次の通りである。
1)ミネラル及び油脂類、特に不飽和脂肪酸を配合する調製粉乳の製造段階及び製造後の油脂の酸化を効果的に抑制することができる。
2)銅原料と不飽和脂肪酸を同時に混合した場合であっても酸化が抑制できるため、すべての原料の添加が完了した調乳液を一括して乾燥できる等の点で、調製粉乳の製造が簡易であり、工程が複雑化することがない。
3)油脂の酸化劣化を抑制できることから、調製粉乳の風味劣化の抑制、及び保存期間の延長を図ることができる。
4)ミネラル、特に金属元素を含有する飲食品、飼料、医薬品の製造等に広く使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
次に、好ましい実施形態を挙げて本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の好ましい実施形態に限定されず、本発明の範囲内で自由に変更することができるものである。なお、本明細書において、百分率は特に断りのない限り質量による表示である。
[調製粉乳]
調製粉乳は、乳等省令において、「生乳、牛乳、特別牛乳、またはこれらを原料として製造した食品を加工し、または主要原料とし、乳幼児に必要な栄養分を加え粉末状にしたもの」と定義されている。また、一般に、調製粉乳は、乳幼児の哺育のために各種のミネラル類、ビタミン類、蛋白質等の栄養成分を配合して人乳に近づけ、さらに粉末状に加工したものをいう。本発明の調製粉乳は、これらのいずれの定義も含んでいる。
本発明における調製粉乳は、乳児用調製粉乳、乳幼児用調製粉乳(フォローアップミルク)のほか、妊産婦・授乳婦用調製粉乳、成人用栄養粉末、高齢者用栄養粉末等を含んだものと定義する。
調製粉乳の原料としては、乳原料、糖類、油脂類の他、製品設計や栄養所要量の充足等を考慮して、種々のミネラル類、ビタミン類等の微量成分を添加することができる。
【0021】
[調製粉乳の溶解]
本発明における調製粉乳の溶解とは、粉末状の調製粉乳を、溶媒にて所定の濃度に溶解することを意味するものであって、溶解する際の温度は適宜設定することができる。
溶媒としては、通常、冷水や温水等の飲用水を用いるが、牛乳、乳飲料、清涼飲料水、ジュース等を用いることもできる。飲用水を用いる時は、煮沸済みの水や無菌状態に調製された水、乳幼児用に調製された水等を使用することが好ましい。
溶媒の温度は、調製粉乳の溶解度や調製粉乳に対する一定の殺菌効果を有することから30℃以上が好ましく、40℃以上がより好ましく、50℃以上がより好ましく、60℃以上がより好ましく、70℃以上がより好ましく、80℃以上がさらに好ましい。溶媒で溶解した後は、30〜40℃に冷ましてから飲用に供することが好ましい。
調製粉乳の濃度は、栄養成分の必要摂取量、風味、溶解性、粘度等を総合考慮して適宜調製することができるが、6〜30%程度に調製されることが好ましい。
【0022】
[調製粉乳の製造方法]
本発明の好適な実施の一態様において、調製粉乳は、以下に例示する工程を含んで製造することができる。
【0023】
「調乳液を調製する工程」
乳原料、糖類、及び油脂類等を含む調乳液原料を混合して、調乳液を調製する。調乳液原料のうち、乳原料、糖類は溶解水に溶解する。油脂類には植物油脂やバターの他、DHA等の不飽和脂肪酸が含まれていてもよい。不飽和脂肪酸を含有した油脂類を使用した場合、本発明の製造方法の効果をより発揮できることから、好ましい。調乳液は、水相と油相の分離を防止するために均質されることが好ましい。
【0024】
「調製した調乳液を殺菌する工程」
調乳液は75〜150℃で加熱殺菌されることが好ましい。殺菌後は、脂肪球をより好ましい状態に整えるために均質化してもよい。
【0025】
「調乳液に銅酵母を含む銅原料を添加する工程」
殺菌された調乳液に銅原料を添加する。本発明の調製粉乳の製造方法は、少なくとも銅酵母を含む銅原料を使用することで製造段階に発生する調乳液の酸化反応を低減し、かつ製造後の調製粉乳の酸化を抑制することができる。ここでは、銅原料のほか、その他のミネラル、特に金属元素として、鉄や亜鉛の化合物を添加してもよい。また、銅原料の添加前に調乳液を濃縮して濃縮液としてもよい。
【0026】
「銅酵母を含む銅原料を添加した調乳液を乾燥する工程」
乾燥工程では、熱風による噴霧乾燥や凍結乾燥を実施することができる。得られた粉末は、新たに成分を加えることなく、充填し、製品とすることができる。
【0027】
なお、上記した調製粉乳の製造方法の他、調製粉乳のすべての原料からミネラル及び一部の糖類を除いたものを粉末化し、これとは別に、ミネラル及び一部の糖類を粉末化し、これら二種類の粉末を混合して最終製品とする調製粉乳の製造方法を利用することもできる。これらの方法のうちでは、全ての原料を混合して乾燥する方法が本発明の酸化抑制効果をより発揮できることから好ましい。
【0028】
本発明の製造方法により、調製粉乳の製造方法において従来問題となっていた、ミネラルを添加した場合の不飽和脂肪酸の酸化を顕著に低減することができる。
本発明の調製粉乳の製造方法は、銅酵母を添加するだけの簡便な方法であり、ミネラル、特に金属元素を含有する粉状の食品、医薬品、飼料等の製造方法にも応用することができる。
【0029】
[調乳液]
調乳液は、調製粉乳の原料の全部又は一部を溶解、混合したものである。調乳液の原料(調乳液原料)としては、乳原料、糖類、油脂類、ビタミン類及びミネラル類を挙げることができる。具体的に例示すると、調乳液原料には、カゼイン、ホエイ等の乳蛋白質やこれらの分解物、乳糖やデキストリン等の糖類、塩化ナトリウム、塩化カリウム等の酸化触媒作用を有しないミネラル原料、ビタミンB群、ビタミンC等の水溶性ビタミン、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE等の脂溶性ビタミン、バター、植物油脂等の油脂等が含まれる。
【0030】
[乳原料]
乳原料とは生乳、牛乳、特別牛乳を原料として製造された原料のことであり、例えば、カゼイン、ホエイ等の乳蛋白質やこれらの分解物、乳糖、バター等が含まれる。
【0031】
[油脂類]
本発明の油脂類とは食用の油脂であり、乳脂肪等の動物性油脂、植物油脂のいずれをも含む概念である。油脂類には飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸が含まれる。不飽和脂肪酸は飽和脂肪酸よりも酸化されやすいという特徴がある。本発明の調製粉乳の製造方法においては、油脂にDHA等の不飽和脂肪酸が含まれることが、本発明の特徴をより発揮できることから、望ましい。
【0032】
[不飽和脂肪酸]
本発明の不飽和脂肪酸は、不飽和の炭素‐炭素結合を有する脂肪酸のうち、食品、または食品として使用される可能性のあるものをいう。不飽和脂肪酸は、例えば、ドコサヘキサエン酸(DHA)、エイコサペンタエン酸(EPA)、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸等を挙げることができる。本発明によれば、飲食品等に添加される不飽和脂肪酸について特に限定することなく、酸化を抑制することができる。
【0033】
不飽和脂肪酸の酸化は自動酸化であるが、これは一種の連鎖反応である。まず脂質が脱水素されてラジカルが発生し、ラジカルが酸素と反応してペルオキシラジカルになる。ペルオキシラジカルはさらにヒドロペルオキシドになり、新たにペルオキシラジカルを作る。この2つの反応を連鎖的に繰り返すことで脂質の酸化が進行してゆく。光、熱、酸素等は、ラジカルの発生と、ヒドロペルオキシドの分解とを促進する。ヒドロペルオキシドの分解によって、アルコール、アルデヒド、ケトン等の酸化物質が生成するが、これらの生成物は酸化臭等の臭気の原因となり、調製粉乳等の飲食品の風味を劣化させてしまう。
【0034】
[銅原料]
本発明では、各種のミネラルのなかから銅のみを、銅酵母を含む銅原料として添加することによって、優れた酸化抑制を達成している。好適な実施の態様において、銅酵母を含む銅原料が、銅原料に含まれる銅に対して、銅酵母に含まれる銅が、10質量%以上、好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上、特に好ましくは銅酵母のみ(100%)の銅原料とすることができる。
あるいは、銅原料に含まれる銅に対して、銅酵母に含まれる銅を10〜100質量%、10〜90質量%、10〜80質量%、10〜70質量%、10〜60質量%、20〜100質量%、20〜90質量%、20〜80質量%、20〜70質量%、20〜60質量%、30〜100質量%、30〜90質量%、30〜80質量%、30〜70質量%、30〜60質量%、40〜100質量%、40〜90質量%、40〜80質量%、40〜70質量%、40〜60質量%、50〜100質量%、50〜90質量%、50〜80質量%、50〜70質量%、50〜60質量%、60〜100質量%、60〜90質量%、60〜80質量%、60〜70質量%を含む範囲とすることができる。また、銅原料の質量に対する銅酵母の質量の割合として好ましい範囲を設定することができる。銅酵母中の銅含有量は0.1〜5%であることから、銅原料に対して銅酵母を80質量%以上とすることが好ましく、88質量%以上とすることが好ましく、99質量%以上とすることがさらに好ましい。
銅原料は、銅酵母に加えて、別の銅源を含ませることができる。このような銅源は、飲食品に使用できるものであれば特に制限はないが、例えば、硫酸銅、グルコン酸銅、などを挙げることができる。
【0035】
[銅酵母]
本発明の銅酵母は、酵母中に銅が取り込まれた状態の酵母を指す。銅酵母の原料に使用可能な酵母としては、食用酵母として使用されている酵母であれば特に制限はなく、例えば、食用酵母として使用されているSaccharomyces 属のパン酵母、ビ−ル酵母、ワイン酵母、清酒酵母、味噌醤油酵母等を挙げることができ、さらにその他種々の酵母が使用可能で、例えば、Torulopsis属、Mycotorula属、Torulaspora 属、Candida 属等に属する酵母も使用可能である。
【0036】
銅を酵母に取り込ませて銅酵母とする方法については、特に制限はない。例えば、培地等に所望の銅を添加し、培養しながら酵母中に取り込ませて製造した酵母、あるいは銅の水溶液に酵母を懸濁させ、必要に応じて加温しながら、攪拌または振とうさせて銅を酵母に取り込ませて製造した酵母等が挙げられる。その他、特開2004-41044号公報に記載されるように、培養液に銅を添加して酵母を流加培養する方法を挙げることができる。
【0037】
本発明では、銅酵母以外のミネラル酵母を銅酵母と共に使用することができる。このように銅以外のミネラルの添加に際しても、ミネラル酵母を使用することにより、油脂類、特に不飽和脂肪酸の酸化の抑制を好適に行うことができる。さらに、銅酵母以外のミネラル酵母を、銅酵母と併用することなく使用して、油脂類、特に不飽和脂肪酸の酸化の抑制を好適に行うことも、本発明の範囲内である。
銅以外のミネラルとして、例えば、マンガン、鉄、クロム、亜鉛等を挙げることができる。従って、銅酵母の他、マンガン酵母、鉄酵母、クロム酵母、亜鉛酵母を用いることによって、一層の酸化抑制効果を達成することができる。ただし、これらの中で、銅酵母を単独で用いることによって、十分に効果的な酸化抑制を達成可能であることは、本発明が示している通りである。
【0038】
本発明の銅酵母の添加量は、添加後の調製粉乳中の銅含量として1〜1500μg/100gであることが好ましく、10〜1000μg/100gであることがより好ましく、150〜800μg/100gであることがより好ましく、200〜400μg/100gであることがより好ましく、250〜350μg/100gであることがさらに好ましい。銅酵母の銅含有量は、高濃度であれば銅以外の原料があまり添加されないことから好ましいが、市販されている銅酵母の銅含有量であれば特に問題なく使用することができる。銅酵母の銅含有量は0.1%から5%が好ましく、0.2%から5%がより好ましく、0.25%から5%がさらに好ましい。
【0039】
[調製粉乳の酸化抑制]
本発明の調製粉乳の酸化抑制は、調製粉乳の過酸化物価(POV。以下、POVと略記することがある)の低減で表現することができる。POVは、油脂の酸化の度合いを評価するための数値であり、数値が低いほど酸化の度合いが低いことを示す。酸化はいったん始まると、連鎖的に進行する。酸化を完全に抑制することは困難であるから、酸化の連鎖反応の開始を遅らせることは、酸化の進行を遅らせるために特に重要である。通常、POVは製造直後では検出されないことが多く、保存期間が長くなるにつれ上昇する。好適な実施の一態様において、調製粉乳の保存期間中のPOV値は、好ましくは0〜3meq/kgの範囲、さらに好ましくは0〜2meq/kgの範囲、さらに好ましくは0〜1.5meq/kgの範囲とすることができ、特にPOVが0〜1meq/kgの範囲であれば、製造直後と風味にほとんど差がないことから最も好ましい。
【0040】
好適な実施の一態様において、本発明の調製粉乳の過酸化物価(POV)は十分に低減される。好適な実施の一態様において、その低減の程度は、次の式Iを満たすものとすることができる。
Y≦0.806X (式I)
X:37℃での調製粉乳の保存期間(月)
Y:過酸化物価(meq/kg)
好適な実施の一態様において、本発明の調製粉乳は、XとYとの関係が、図1のグラフの直線から下の範囲を満たすものとすることができる。Yは、好ましくは次の式Ia:
Y≦0.806X (式Ia)
さらに好ましくは次の式Ib:
Y≦0.621X (式Ib)
さらに好ましくは次の式Ic:
Y≦0.437X (式Ic)
を満たすものとすることができる。
なお、測定値の誤差を考え、個々の値に対する95%信頼区間の上限値までが権利範囲に含まれるものとする。POVは徐々に上昇し、やがて食用に適さないほどに酸化が進行するため、POVは3meq/kgを超えないことが望ましく、2meq/kgを越えないことがより好ましく、1.5meq/kgを越えないことがさらに望ましい。本発明の好適な実施の一態様において、Yは、0(meq/kg)以上、0.05(meq/kg)以上、0.1(meq/kg)以上、0.2(meq/kg)以上とすることができる。また、Yは、好ましくは次の式Id:
0.001X≦Y (式Id)
さらに好ましくは次の式Ie:
0.010X≦Y (式Ie)
さらに好ましくは次の式If:
0.100X≦Y (式If)
さらに好ましくは次の式Ig:
0.200X≦Y (式Ig)
さらに好ましくは次の式Ih:
0.400X≦Y (式Ih)
を満たすものとすることができる。
【0041】
本発明の調製粉乳の酸化抑制は、調製粉乳を溶解した際のヘキサナール及び/又はペンタナールの低減でも表現することができる。ヘキサナール及び/又はペンタナールは、調製粉乳の酸化の度合いを評価するための数値であり、数値が低いほど酸化の度合いが低いことを示す。通常、ヘキサナール及び/又はペンタナールは製造直後から一定量が存在し、保存期間が長くなるにつれ増加してゆく。
【0042】
好適な実施の一態様において、本発明の調製粉乳を溶解した際には、特にヘキサナールが十分に低減される。好適な実施の一態様において、その低減の程度は、次の式IIを満たすものとすることができる。
Y≦0.199e0.802X(式II)
X:37℃での調製粉乳の保存期間(月)
Z:調製粉乳を溶解した際のヘキサナール量(ppm)
【0043】
好適な実施の一態様において、本発明の調製粉乳は、XとYとの関係が、図2のグラフの線から下の範囲を満たすものとすることができる。Yは、好ましくは次の式IIa:
Z≦0.199e0.802X (式IIa)
さらに好ましくは次の式IIb:
Z≦0.158e0.749X (式IIb)
さらに好ましくは次の式IIc:
Z≦0.167e0.577X (式IIc)
を満たすものとすることができる。なお、測定値の誤差を考え、個々の値に対する95%信頼区間の上限値までが権利範囲に含まれるものとする。
ヘキサナールは徐々に上昇し、やがて食用に適さないほどに酸化が進行するため、ヘキサナールは4ppmを超えないことが望ましく、3ppmを越えないことがより好ましく、2.5ppmを越えないことがさらに望ましい。本発明の好適な実施の一態様において、Zは、0(ppm)以上、0.01(ppm)以上、0.05(ppm)以上、0.1(ppm)以上とすることができる。また、Yは、好ましくは次の式IId:
0.100e0.100X≦Z (式IId)
さらに好ましくは次の式IIe:
0.120e0.200X≦Z (式IIe)
さらに好ましくは次の式IIf:
0.140e0.400X≦Z (式IIf)
さらに好ましくは次の式IIg:
0.150e0.500X≦Z (式IIg)
を満たすものとすることができる。
【0044】
[ミネラル]
本発明において酵母で封入するミネラルとしては、灰分の中でも金属元素が好適である。また、金属元素の中では、油脂、特に不飽和脂肪酸の酸化促進作用(油脂、特に不飽和脂肪酸の酸化反応速度を上昇させる作用)を有する金属元素が、ミネラル酵母の形態での添加によって、特に好適に使用できる。ミネラルのうちの金属元素としては、例えば、銅、マンガン、鉄、クロム、ニッケル、亜鉛、アルミニウム、セレンを例示することができる。
【0045】
[酵母]
本発明の酵母とは、子嚢菌類の球形または楕円形の単細胞の菌である。通常、出芽によって増殖し、アルコール発酵を行うので、酒の醸造やパン製造に利用される。本発明の酵母としては、パン酵母、ビール酵母、ワイン酵母、清酒酵母、味噌酵母、醤油酵母等を使用することができるが、銅を封入することのできる酵母であればいずれの酵母も使用することができる。
本発明の酵母は、ミネラルを封入するために使用されることが好ましく、鉄、銅、亜鉛を封入するために使用されることがより好ましく、銅を封入するために使用されることがさらに好ましい。
【0046】
[封入]
本発明の封入とは、銅等のミネラルを酵母の中に閉じ込めた状態に加工することを示す。例えば、銅について行う場合には、銅原料と酵母を使用し、両者を含む系でこれらを作用させ、銅を酵母で封入した状態に調製することができる。また、予め銅を封入した酵母、すなわち銅酵母を原料に使用してもよい。なかでも、銅酵母を使用することが好ましい。
【実施例】
【0047】
以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。本発明は以下に挙げられた実施例に限定されるものではない。
【0048】
[試験例]
本発明の試験例では、調製粉乳の保存性を評価する指標として、過酸化物価(POV)の測定、香気成分の測定及び官能評価を実施した。
【0049】
[過酸化物価(POV)]
過酸化物価(POV。以下、POVと記載することがある)の測定は、日本油化学協会の公定法であるヨウ素滴定法(日本食品工業学会食品分析法編集委員会編、「食品分析法」、第552ページ、光琳、昭和57年)に準じて試験することができる。
【0050】
[香気成分]
香気成分は、粉末の試料を温度調整した水に溶解した際に発生した香気成分を、固相マイクロ抽出ガスクロマトグラフ質量分析計(GC−MS)で分析することができる。本発明では、油脂の酸化状態を測る指標として、測定した香気成分のうち、ペンタナール量とヘキサナール量を比較して、酸化の度合いを評価することができる。ここで、香気成分の数値は測定されたクロマトグラム上の面積を数値化したものである。この数値は誤差を最小限にするため、測定ごとに別の香気成分(コントロール)を添加して毎回の測定値にばらつきが生じないように測定を実施した。ヘキサナールは、数値化した面積を内部標準法によって定量した。
香気成分の分析条件は以下の通りである。
【0051】
1.測定機器
・GC:AGILENT社製、6890型
・MS:AGILENT社製、5973型
・カラム:INNOWAX(商品名、AGILENT社製)
膜厚:0.5μm 長さ:30m 口径:0.25mm
・SPMEファイバー:SUPELCO社製
2.香気成分の分離濃縮方法
・固相マイクロ抽出法(SPME):50℃、30分 ヘッ ドスペース法
3.測定条件
・GC 注入口温度:265℃
・ ガス流量:1.2ml/分
・ヘリウムガスオーブン昇温条件:
40℃、2分 4℃/分(120分まで)6℃/分(240分まで)、
10分保持
・MS 測定モード:SCAN 2.32 SCAN/秒
【0052】
〔官能評価〕
本発明における官能評価とは、5〜10名のパネラーにより、保存後の試料を固形分として13.0g/100mlとなるようにお湯で溶解して試料溶液を調製し、風味及び外観について評価するものである。具体的には、食感(酸化臭)について、「非常に良好」、「良好」、「不良」の3段階評価とした。また、外観は褐変、オイルオフ等の有無を確認した。
【0053】
本試験は、本発明方法を使用して製造した調製粉乳の保存性を試験するために行った。
【0054】
(試験例1)
1)試料の調製
脱脂乳(森永乳業製)1160g、脱塩ホエー粉(ドモ社製)500g、乳糖(ミライ社製)59g、及びデキストリン(東洋精糖製)52gを、水2380gに溶解し、予め所定のアルカリで溶解し、脱臭した10%カゼイン溶液143gと混合し、更に魚油配合調整油脂(日本油脂製。魚油を油脂100g当たり1.5g含有)240g及び無塩バター(森永乳業製)33gを混合し、125℃にて2秒間殺菌し、150kg/cm2 の圧力条件で均質化処理し、50%の固形分含量に濃縮した。
次にピロリン酸第二鉄(富田製薬製)307mg、硫酸亜鉛(富田製薬製)104mg、及び銅酵母(オリエンタル酵母製。銅含有量0.3%)1.01gを水50gに溶解し、10℃以下に冷却した溶液を、濃縮液に添加した。これを噴霧乾燥し、粉乳約900gを得た。これを試験試料1とした。
【0055】
一方、銅原料を銅酵母から硫酸銅(富田製薬製。銅含有量25.3%)12mgに置換した以外はすべて同じ条件で製造した粉乳を対照試料1、銅原料を銅酵母からグルコン酸銅(富田製薬社製。銅含有量13%)23.4mgに置換した以外はすべて同じ条件で製造した粉乳を対照試料2とした。
【0056】
2)保存方法
試験試料1、対照試料1及び対照試料2をそれぞれ遮光性を有する複数のアルミ袋に入れて密封した。これらを、5℃、37℃の各温度に保たれた恒温室に保存した。各試験試料の保存期間は3ヶ月とし、期間経過後に各試料のPOVの測定、香気成分の測定及び官能評価を実施した。
【0057】
3)結果
試験試料1では、5℃、3ヶ月の保存条件でPOVが0meq/kgであり、37℃、3ヶ月の保存条件でPOVが0.94meq/kgであった(表1)。このように、試験試料1では、本試験でのすべての保存条件においてPOVが1meq/kg以下となった。また、銅酵母を用いた場合の官能評価の結果は、いずれの条件でも「非常に良好」であった。
一方、対照試料1では、37℃、3ヶ月の保存条件でPOVが4.90meq/kgとなり、かなり酸化が進行した。また、対照試料2では、37℃で3ヶ月の条件においてPOVが3.63meq/kgとなり、酸化が進行した。
対照試料1及び2の官能評価の結果は、いずれも37℃、3ヶ月で「不良」であった。
【0058】
【表1】

【0059】
また、酸化臭の指標として、香気成分のヘキサナール、ペンタナールの量を数値化したものを表2に示す。
銅酵母を使用した試験試料1は37℃、3ヶ月においてもヘキサナール、ペンタナールの増加が効果的に抑制されていた。一方、対照試料1では、ヘキサナール、ペンタナールの数値が大きく上昇した。これらの香気成分の数値の増加と官能評価の結果は相関性が認められ、香気成分の上昇に伴って酸化の進行がみられた。
この結果から、銅酵母を用いた場合は、他の銅原料と比較してPOVや酸化指標とした香気成分の数値が顕著に低く、官能評価の結果からも風味劣化が大きく抑制されることが確認された。
【0060】
【表2】

【0061】
(試験例2)
本試験は、銅酵母の使用による酸化抑制効果と、銅原料中に占める銅酵母の量との関係を検討することを目的とした。
【0062】
1)試料の調製
脱脂乳(森永乳業製)4640g、脱塩ホエー粉(ドモ社製)2000g、乳糖(ミライ社製)236g、及びデキストリン(東洋精糖製)208gを、水9520gに溶解し、予め所定のアルカリで溶解し、脱臭した10%カゼイン溶液572gと混合し、更に魚油配合調整油脂(日本油脂製。魚油を油脂100g当たり1.5g含有)960g及び無塩バター(森永乳業製)132gを混合し、125℃にて2秒間殺菌し、150kg/cm2 の圧力条件で均質化処理し、50%の固形分含量に濃縮した。
次にピロリン酸第二鉄(富田製薬製)1228mg及び硫酸亜鉛(富田製薬製)416mgを水100gに溶解又は懸濁し、10℃以下に冷却した溶液を、濃縮液に添加した。
濃縮液は、十分に攪拌した後に4等分した。
【0063】
一方、銅原料として銅酵母及び硫酸銅を用意し、銅酵母に含まれる銅が、銅原料全体に含まれる銅の0〜100%になるように銅原料を調製した。すなわち、(銅酵母由来の銅(%):硫酸銅由来の銅(%))=(100:0)、(80:20)、(60:40)、(0:100)となるように4通りの配合割合で銅原料を調製した。
このときの銅原料の添加量は、銅酵母のみの場合では1.01gであり、硫酸銅のみの場合では12mgである。
これらの銅原料を水50gに溶解又は懸濁し、10℃以下に冷却してから濃縮液に添加した。
銅原料添加後の濃縮液はそれぞれ噴霧乾燥し、それぞれ約900gの粉乳を得た。これらを銅原料中の銅酵母配合量の高い順に試験試料2、試験試料3、試験試料4、試験試料5とした。
【0064】
2)保存方法
試験試料2〜5を遮光性を有するアルミ袋に入れて密封し、37℃に保たれた恒温室に保存した。保存を開始して1ヶ月経過毎に各試料について、POVの測定、香気成分の測定及び官能評価を実施した。
【0065】
4)結果
表3に37℃、3ヶ月の保存条件での試験結果を示す。官能評価の評価方法は表1と同様である。
【0066】
試験試料2のPOVは1.46meq/kgで、官能評価の結果は「非常に良好」であった。
また、銅原料を混合使用した場合についてみると、試験試料3のPOVが1.94meq/kg、試験試料4のPOVが2.68meq/kgとなり、銅酵母のみを使用した場合よりも油脂の酸化が進んでいることが確認された。官能評価の結果は、いずれも「良好」であった。
一方、硫酸銅を100%使用した試験試料5では、POVが4.90meq/kg、官能評価が「不良」となり、油脂の酸化の度合いが最も高かった。
この結果から、銅原料中に含まれる銅のうち、銅酵母に含まれる銅が60%または80%であった場合であっても、硫酸銅を100%使用した場合と比較して調製粉乳の酸化が大きく抑制されていることが明らかになった。
【0067】
また、香気成分のヘキサナール、ペンタナールの量を測定した。ヘキサナール、ペンタナールは共に、銅酵母を100%使用したときに最も数値が低くなり、銅酵母の割合が減少するにつれ、数値が増加していった。
従って、銅原料の一部を銅酵母に置換することによって、一定の酸化抑制効果を得られることが確認された。
【0068】
【表3】

【0069】
表3の結果の他、試験試料2〜4については保存開始時、1ヵ月後、2ヵ月後についてもPOV測定を実施した。試験試料2の各保存期間経過時のPOVは、開始時(0meq/kg(検出せず))、1ヶ月経過時(0.36meq/kg)、2ヶ月経過時(0.69meq/kg)であった。試験試料3では、開始時(0meq/kg(検出せず))、1ヶ月経過時(0.64meq/kg)、2ヶ月経過時(1.12meq/kg)であった。試験試料4では、開始時(0meq/kg(検出せず))、1ヶ月経過時(0.61meq/kg)、2ヶ月経過時(1.32meq/kg)であった。これらの結果より、X軸は保存経過期間(月)、Y軸はPOV値(meq/kg)としてグラフを作成し、図1に示した。
【0070】
さらには、試験試料2〜4について、保存開始時、1ヶ月後、2ヶ月後についてもヘキサナール量を測定した。試験試料2の各保存期間経過時のヘキサナール量は、開始時(0.16ppm)、1ヶ月経過時(0.34ppm)、2ヶ月経過時(0.50ppm)であった。試験試料3では、開始時(0.16ppm)、1ヶ月経過時(0.35ppm)、2ヶ月経過時(0.60ppm)であった。試験試料4では、開始時(0.19ppm)、1ヶ月経過時(0.50ppm)、2ヶ月経過時(0.84ppm)であった。
これらの結果より、X軸は保存経過期間(月)、Y軸はヘキサナール値(ppm)としてグラフを作成し、図2に示した。
【0071】
(試験例3)
本試験は、本発明の調製粉乳の製造方法による効果と、ポリアミンを用いた調製粉乳の酸化の抑制方法による効果を比較検討することを目的とした。
【0072】
1)試験試料の調製
脱脂乳(森永乳業製)1160g、脱塩ホエー粉(ドモ社製)500g、乳糖(ミライ社製)59g、及びデキストリン(東洋精糖製)52gを、水2380gに溶解し、予め所定のアルカリで溶解し、脱臭した10%カゼイン溶液143gと混合し、更に魚油配合調整油脂(日本油脂製。魚油を油脂100g当たり1.5g含有)240g及び無塩バター(森永乳業製)33gを混合し、125℃、2秒間殺菌し、150kg/cm2 の圧力条件で均質化処理し、50%の固形分含量に濃縮した。
次にピロリン酸第二鉄(冨田製薬製)307mg、硫酸亜鉛(富田製薬製)104mg、及び銅酵母(オリエンタル酵母製)1.01gを水100gに溶解し、10℃以下に冷却した溶液を、濃縮液に添加した。これを噴霧乾燥し、粉乳約900gを得た。これを試験試料6とした。
【0073】
2)対照試料の調製
一方、脱脂乳(森永乳業製)1160g、脱塩ホエー粉(ドモ社製)500g、乳糖(ミライ社製)59g、及びデキストリン(東洋精糖製)52gを、水2380gに溶解し、予め所定のアルカリで溶解し、脱臭した10%カゼイン溶液143gと混合し、更に魚油配合調整油脂(日本油脂製。魚油を油脂100g当たり1.5g含有)240g及び無塩バター(森永乳業製)33g及びポリアミンとしてスペルミン(シグマ社製)130mgを混合し、125℃、2秒間殺菌し、150kg/cm2 の圧力条件で均質化処理し、50%の固形分含量に濃縮した。
次にピロリン酸第二鉄(富田製薬製)307mg、硫酸亜鉛(富田製薬製)104mg、及び硫酸銅(冨田製薬製)12mgを水100gに溶解し、10℃以下に冷却した溶液を、濃縮液に添加した。これを噴霧乾燥し、粉乳約900gを得た。これを対照試料3とした。
【0074】
3)保存方法
試験試料6、対照試料3をそれぞれ遮光性を有するアルミ袋に入れて密封し、37℃に保たれた恒温室に保存した。保存を開始して3ヶ月経過後の各試料について、過酸化物価(POV)の測定、香気成分の測定及び官能評価を実施した。測定方法及び試験方法は、試験例1に準じた。
【0075】
4)結果
試験試料6において、37℃、3ヶ月の保存条件でPOVは1.06meq/kgであった(表4)。また、官能評価の結果は「非常に良好」であった。
一方、対照試料3において、37℃、3ヶ月の保存条件でPOVが4.90meq/kgとなり、酸化の進んでいることが確認された。官能評価の結果は「不良」であった。
このように、銅酵母を用いた場合は、スペルミン及び硫酸銅を用いた場合と比較してPOVが顕著に低く、官能評価の結果からも、風味劣化が抑制されることが判明した。
【0076】
【表4】

【0077】
[実施例1]
脱塩ホエー粉(ドモ社製)50.0kg、乳糖(ミライ社製)5.9kg、デキストリン(東洋精糖製)5.2kg、及び脱脂乳116.0kgを、水238kgに溶解し、あらかじめ所定のアルカリで溶解し、脱臭した10%カゼイン溶液14.3kgと混合し、更に魚油配合調整油脂(日本油脂製。魚油を油脂100g当たり1.5g含有)24.0kg及び無塩バター(森永乳業製)3.3kgを混合し、125℃にて2秒間殺菌し、150kg/cm2 の圧力条件で均質化処理し、50%の固形分含量に濃縮し、貯蔵した。
【0078】
次に、ピロリン酸第二鉄(富田製薬製)30.7g、硫酸亜鉛(富田製薬製)10.4g、及び銅酵母(オリエンタル酵母製)101.2gを水1.0kgに溶解または懸濁し、濃縮液に添加した。この濃縮液を噴霧乾燥したところ、約100kgの調製粉乳が得られた。
【0079】
得られた粉乳の一部を試験例1と同じ方法でPOVの測定、香気成分の測定、官能評価の各試験を実施した結果、銅原料を添加し、不飽和脂肪酸を含有しているにもかかわらず、酸化指標となるPOVの上昇や香気成分であるヘキサナール、ペンタナールの増大もなく、官能試験の結果も「非常に良好」であり、長期間にわたり酸化劣化を抑制できることが明らかになった。
【0080】
[実施例2]
脱脂粉乳(森永乳業製)10.0kg、脱塩ホエー粉(ドモ製)43.2kg、デキストリン(東洋精糖製)15.0kgを水238kgに溶解し、予め所定のアルカリで溶解して脱臭した10%カゼイン溶液80.0kgと混合し、水溶性ビタミン類(アスコルビン酸ナトリウム181g、葉酸を含む)0.2kgを添加した溶液に、更にミネラル類(鉄、銅、亜鉛を除く)2.2kgを水10kgに溶解し、添加した。この溶液に魚油配合調整油脂(日本油脂製。魚油を油脂100g当たり1.5g含有)20.0kg、及び脂溶性ビタミン類0.1kgを混合し、125℃にて2秒間殺菌し、150kg/cmの圧力条件で均質化し、50%の固形分含量に濃縮し、貯蔵した。
【0081】
次に、クエン酸第一鉄ナトリウム(エーザイ製)122.2g、グルコン酸亜鉛(富田製薬製)28.8g、銅酵母(オリエンタル酵母製)143gを水1kgに溶解または懸濁し、濃縮液に添加し、これを噴霧乾燥したところ、約100kgの調製粉乳が得られた。
【0082】
得られた粉乳の一部を試験例1と同じ方法でPOVの測定、香気成分の測定、官能評価の各試験を実施した結果、銅原料を添加し、不飽和脂肪酸を含有しているにもかかわらず、POVの上昇や酸化指標となる香気成分であるペンタナール、ヘキサナールの増大もなく、官能試験の結果も「非常に良好」であり、長期間にわたり酸化劣化を抑制できることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明によれば、不飽和脂肪酸の酸化が少なく、保存性良好な調製粉乳の製造が可能である。本発明の方法は特別な製造工程を必要としないため、簡便な酸化抑制方法として広く利用することができる。また、本発明によれば、様々なミネラルが添加され、且つ酸化が抑制された飲食品等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明による調製粉乳の保存期間とPOVの関係を示すグラフである。
【図2】本発明による調製粉乳の保存期間とヘキサナール量の関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化抑制された調製粉乳を製造する方法であって、
乳原料、糖類、及び油脂類を含む調乳液原料が混合されて調製された調乳液に、少なくとも銅酵母を含む銅原料を添加する工程、
銅原料を添加した調乳液を乾燥する工程、
を含む、製造方法。
【請求項2】
酸化抑制が、調製粉乳の過酸化物価の低減である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
酸化抑制された調製粉乳が、次の条件:
X:37℃での調製粉乳の保存期間(月)
Y:調製粉乳の過酸化物価(meq/kg)
Y≦0.806X
を満たす、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
油脂類が、不飽和脂肪酸を含む油脂類である請求項1〜3の何れかに記載の方法。
【請求項5】
銅酵母を含む銅原料が、
銅原料に含まれる銅に対して、銅酵母に含まれる銅が60質量%以上の銅原料である、請求項1〜4の何れかに記載の方法。
【請求項6】
調製粉乳が、銅を1〜1500μg/100g含む、請求項1〜5の何れかに記載の方法。
【請求項7】
請求項1〜6の何れかに記載の方法によって製造された、酸化抑制された調製粉乳。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−115150(P2010−115150A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−290632(P2008−290632)
【出願日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【出願人】(000006127)森永乳業株式会社 (269)
【Fターム(参考)】