説明

象牙芽前駆細胞を用いた歯組織再生方法

【課題】本発明は、初代培養の性質を維持したまま突発的に不死化した象牙芽細胞株を樹立し、その産生物質を歯周組織再生に用いるための方法である。
【解決手段】本発明はマウス胎児歯胚より不死化に成功した象牙芽前駆細胞を用いて生理活性を持つ象牙基質を産生させ、精製された種々の象牙基質とその誘導体および象牙芽前駆細胞によって行う歯周治療法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
現在の歯科技術では充分に再生治療することが不可能である歯組織の再生分野。
【背景技術】
【0002】
歯の発生において象牙芽細胞から産生される象牙基質は象牙質の形成に重要である(象牙質は95%以上が無機質のハイドロキシアパタイトから構成されている)。発生期における象牙芽細胞の分化は、上皮-間葉組織相互作用に支配されている。
【0003】
しかし、象牙芽細胞の発生学的起源や成熟機構に関しては、未だ不明な点が多い。成熟した象牙芽細胞は、細長い繊維状の細胞である。象牙芽細胞が分泌する象牙タンパクの主成分はDSPとDMP-1のような象牙基質である。
【0004】
象牙質形成におけるDMP-1の重要な役割は、生体で細胞外基質の石灰化を制御し、また象牙芽前駆細胞を象牙芽細胞に分化誘導する。象牙芽細胞はコラーゲン・DSP・オステオポンチン等の象牙基質を分泌している。象牙質の石灰化時期にLhx6 and Lhx7の遺伝子が発現しているので、これらの遺伝子は象牙芽細胞のマーカーである。
【0005】
【特許文献1】特表2005−516616号
【特許文献2】特再W099/006555号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
歯組織再生における問題点は、in vitroでの象牙芽細胞の培養法が確立されていないことや持続的な培養が困難なことがあげられる。象牙芽細胞の初代培養では、象牙芽細胞特異的遺伝子の発現と石灰化小結節の形成能力が確認されるが、細胞増殖能に限界があり持続的な培養は困難である。
【0007】
また、ウイルス性癌遺伝子の導入で不死化した象牙芽細胞に関する報告もあるが、いくつかの特異的遺伝子の発現は確認されたものの、in vitroでの石灰化小結節形成能をもつかは不明である。ウイルス性癌遺伝子による不死化には予期せぬ副作用の可能性が否定出来ないため、信頼性に欠ける。本発明は、象牙芽前駆細胞を用いて歯組織を再生することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、初代培養の性質を維持したまま偶発的に不死化した象牙芽細胞株を樹立し、その産生物質を歯組織再生に用いるための方法である。
【発明の効果】
【0009】
初代培養の性質を維持したまま偶発的に不死化した象牙芽細胞株を樹立した。樹立した細胞(象牙芽前駆細胞))は長期間の培養において、いくつかの象牙芽細胞特異的な遺伝子(DSPP,DMP-1,PCOL,BMP-4,OPN,MEPE,Lhx6やLhx7)を発現していた。象牙芽前駆細胞は、維持培地であるβ-グリセロリン酸とアスコルビン酸を添加すると、石灰化した小結節を形成した。小結節部では、アルカリフォスファターゼ活性が上昇していた。
【0010】
これらの結果は、象牙芽前駆細胞が象牙芽細胞の性質を解析する上での有用なツールであることを示す。また、象牙芽前駆細胞が歯組織再生医療のための細胞源として利用できることを示している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
偶発的に生じた不死化によりin vitroでの石灰化能等の象牙芽細胞特異的な性質を維持した細胞株を樹立した。
【実施例1】
【0012】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【0013】
マウス象牙芽前駆細胞は、胎生18.5日目のC57BL/6Jマウスの歯胚を摘出し、I型コラーゲンで表面処理された培養皿上で器官培養することで分離した。使用した培地は、SMEMに10% FBS、2ng/ml EGFを添加したものを基本培地とし、37℃、5%CO2の条件下で培養した。細胞密度が飽和する前に、新しい培養皿に継代した。PDL(細胞分裂回数の概算)が15に到達した後クローニングを行い、細胞株を樹立した。
【0014】
RNA抽出とRT-PCR解析は、日本ジーン社ISOGEN kitを使用し、マニュアル通りに培養細胞からtotal RNAを抽出した。その後、RNA分子解析のため、マウスの遺伝子に特異的なプライマーを用いてRT-PCRを行った。PCR産物は1.5%アガロースゲルで電気泳動し、エチジウムブロマイドで染色した。また、PCR産物はDNAシーケンスあるいは制限酵素処理によって確認した。
【0015】
石灰化小結節形成の誘導のため、マウス象牙芽前駆細胞を60mm培養皿に2×105個播種した。その後、3週間DMEM培地に10% FBS、10ng/ml EGF添加した培地で培養した。
【0016】
培養細胞観察するため、4% PFAで培養細胞を固定した後、パラフィン包埋した。切片にした後、ヘマトキシリンとエオシンで染色した。また、DSPとDMP1の蛋白発現を観察するために抗体を用いた免疫染色を行った。
【0017】
カルシウム沈着を確認するため、1%アリザリンレッドSで染色した。アルカリフォスファターゼ活性を確認するため、NBT/BCIPで染色した。
【0018】
PDL(細胞分裂回数の概算)が15に到達した後、細胞をクローニングした。さらにクローニングした細胞のPDLが50に到達した時点で不死化したと判断した。いくつかのクローンから、象牙芽細胞特異的遺伝子を発現している細長い細胞株を選択し象牙芽前駆細胞(OLC)と名付け解析に用いた。OLCは、直径80-100μm培養皿上で繊維芽細胞様の形態を示す(図1)。OLCが象牙蛋白を産生する時期になると円柱状に近い細胞形態をとるようになった。
【0019】
OLCの特徴を解析するため、RT-PCRで象牙芽細胞特異的遺伝子の発現解析を行った。我々が樹立した細胞株はDSPP、DMP-1、MEPEとオステオポンチンのようなSIBLING蛋白ファミリーの種々の代表的な転写産物を発現していた(図2、図3、図4)。さらに、プロコラーゲン−1とBMP-4の発現が観察された。
【0020】
α-MEM.培地にβ-グリセロリン酸とアスコルビン酸を添加すると培養皿上で小結節が形成された(図5、図6)。さらに4週間後には、アリザリンレッドSでの染色から内部の石灰化が確認された(図7、図8)。アルカリフォスファターゼ活性の上昇は多くの生体中での石灰化現象で観察される。小結節を断面解析したところ、内部に細胞外基質が蓄積していることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明により現在の歯科技術では充分に再生治療することが不可能である歯組織の再生が可能になると期待される。in vitroならびにin vivoでの解析から、象牙芽前駆細胞は象牙芽細胞の基礎生物学的解析や歯組織治療を目指した再生医工学技術の開発にとって非常に有用なツールである。また、歯組織再生機構の基礎的研究の解明に貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】象牙芽前駆細胞株の形態の蛍光顕微鏡像
【図2】象牙芽前駆細胞のDSPPとDMP-1遺伝子の発現
【図3】象牙芽前駆細胞の細胞外基質関連遺伝子の発現
【図4】象牙芽前駆細胞のLhx7とLhx6遺伝子の発現
【図5】β-グリセロリン酸とアスコルビン酸の添加による象牙芽前駆細胞の石灰化誘導
【図6】β-グリセロリン酸とアスコルビン酸の濃度依存的な象牙芽前駆細胞の小結節形成と石灰化(無添加、15日目)
【図7】2mMβ-グリセロリン酸と50μ/mlアスコルビン酸の濃度依存的な象牙芽前駆細胞の小結節形成と石灰化(28日目)
【図8】10mMβ-グリセロリン酸とアスコルビン酸の濃度依存的な象牙芽前駆細胞の小結節形成と石灰化(28日目)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マウス胎児歯胚より不死化に成功した象牙芽前駆細胞を用いて生理活性を持つ象牙基質を産生させる方法。
【請求項2】
象牙芽前駆細胞により産生された種々の精製象牙基質とその誘導体。
【請求項3】
象牙芽前駆細胞および象牙基質蛋白を用いた歯周治療法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−209244(P2007−209244A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−31896(P2006−31896)
【出願日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【出願人】(504409543)国立大学法人秋田大学 (210)
【Fターム(参考)】