説明

貫入試験方法

【課題】
洪積層、沖積層、腐植土層の判別が可能となる貫入試験方法の提供。
【解決手段】
本発明は、棒状のロッド4a先端にスクリューポイント4bを取り付けて成る貫入ロッド4に荷重Wを負荷し、これを回転させながら地中に貫入し、この貫入時に前記スクリューポイント4bに作用する回転負荷トルクTを検出する貫入試験方法において、貫入ロッド4の貫入量の増分δsと貫入ロッド4が前記貫入量貫入する間の貫入ロッド4の回転回数δnhtとを検出し、これらと前記荷重Wおよび回転負荷トルクTとから貫入ロッド4の貫入に伴うエネルギδEを求め、このエネルギδEに基づいて地層を評価することを特徴とする。なお、エネルギδEは、δE=π・T・δnht+W・δsにより求めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、先端に貫入体を取り付けた貫入ロッドを地中に貫入して試験データを収集し、この試験データに基づいて試験地盤における地層の評価を行う貫入試験方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、地盤の硬軟や締まりの程度を知る手段として、その地盤の地層構成、即ち地表からある深さまでの土質の調査が行われている。このような土質の調査は一般にボーリング調査による標準貫入試験方法を用いて行われるが、その前段、または比較的深度の浅い部分の土質を判定する方法の一つにスウェーデン式サウンディング試験方法(以下、SWS試験という)がある。このSWS試験は、ロッドに取り付けられたスクリューポイントを地盤に貫入する際、その抵抗を計測することによってその地盤の硬軟を測るものである。貫入方法は、非特許文献1(JIS A 1221,地盤工学会)に示されるとおり、備え付けの錘により最大1KNまで6段階で荷重を加えて荷重のみで所謂自沈貫入を行う荷重段階と、最大荷重1KNにおいてもロッドが貫入しない場合に、その荷重下でロッドないしスクリューポイントを回転させて所謂回転貫入を行う回転段階との2段階で構成される。貫入抵抗に対応する計測項目は、荷重段階ではスクリューポイントが所定深度貫入した時点(25cm貫入毎)での荷重(Wsw)、回転段階では貫入量1m当りに換算されたスクリューポイントの半回転数(Nsw)である。この半回転数は、スクリューポイント(乃至ロッド)の一回転を2回として計数した回転回数である。
【0003】
【非特許文献1】日本工業規格A1221 スウェーデン式サウンディング試験方法
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に地層の構成としては、洪積層と沖積層とに大別される。一般に洪積層は硬く、沖積層は軟らかい地層として分類されるが、SWS試験では、これらを明確に識別することが難しい場合が非常に多い。決定的な理由は、SWS試験が荷重Wswと半回転数Nswをデータとして得るものであって、各深度における土質を得る試験ではないことにある。また、非常に硬く締まっていることが多い砂質層や砂礫層とは異なり、洪積層や沖積層は含水比の異なる粘土質で構成される場合が多く、SWS試験によるロッドの貫入条件に大きな差が生じないことも挙げられる。なお、ここで言う含水比とは、単位容積の土を構成する土粒子の質量と水の質量の比である。
【0005】
図6は、試験地A(埼玉県さいたま市浦和区木崎)と試験地B(埼玉県さいたま市浦和区岸町)の2地点におけるSWS試験結果と予め標準貫入試験を行って判明した柱状図とを併記したものである。図6(a)は、洪積層である関東ローム層で構成された試験地Aの結果を示し、図6(b)は、沖積層で構成された試験地Bの結果を示す。何れもWswが1KN程度で推移しており、このSWS試験結果だけを見ても、洪積層か沖積層かを判断することは不可能である。一般に、洪積層は不同沈下がほとんど起きない地層であることから、その土地に住宅等を建築する場合に地盤補強工事を行う必要はない。しかし、上記のように判別が困難な場合は、安全面から沖積層と評価して杭打ち工事や地盤改良工事が行われる場合が多く、本来必要のない工期、労力、コストが発生してしまっている。また、沖積層以外にも特に含水比の高い腐植土層が存在する場合もある。図6(b)の柱状図を見ると、沖積層の上部に腐植土層が存在しているが、SWS試験では、これらに違いが見られない。この腐植土層は、腐植土、泥炭、ピート等、植物由来の有機質土が集積・堆積してできた、沖積層同様に比較的新しい地層であり、こうした堆積が起こりやすい谷地形部分に多く存在する。この腐植土層は、繊維質を多く含むことから、これらの結合によって圧縮やせん断に強い(強度がある)という特性を有する。このため、前述のようにSWS試験においては洪積層や沖積層と区別できないデータが現れる。反面、腐植土層は含水比が200〜400%と非常に高く、硬度面では洪積層や沖積層に対して大幅に軟らかいという特性を持つ。つまり、上部に同じ質量を載せた場合、最も変形しやすいのが腐植土層であり、このため、腐植土層が存在する地盤は容易に地盤沈下を起こす。SWS試験だけでは、このような最も警戒すべき腐植土層の判別についても難しく、これを沖積層や洪積層と評価して地盤の補強が不足してしまう等の問題が発生する可能性があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記課題に鑑みて創成されたものであり、洪積層、沖積層、腐植土層の判別が可能となる貫入試験方法の提供を目的とする。
【0007】
上記目的を達成するために本発明は、棒状のロッド先端に貫入体を取り付けて成る貫入ロッドに荷重Wを負荷し、これを回転させながら地中に貫入し、この貫入時に前記貫入体に作用する回転負荷トルクTを検出する貫入試験方法において、貫入ロッドの貫入量の増分δsと貫入ロッドが前記貫入量貫入する間の貫入ロッドの回転回数δnhtとを検出し、これらと前記荷重Wおよび回転負荷トルクTとから貫入ロッドの貫入に伴うエネルギδEを求め、このエネルギδEに基づいて地層を評価することを特徴とする。
【0008】
なお、上記方法においては、荷重Wを変化させ、各荷重Wにおける貫入ロッドの貫入量の増分δsと、その間の貫入ロッドの回転回数δnhtと、回転負荷トルクTとを検出し、これらから各荷重Wの下での貫入ロッドの貫入に伴うエネルギδEを求め、このエネルギδEに基づいて地層を評価することが望ましい。また、エネルギδEは、

により求めることが望ましい。さらに、貫入ロッドの回転回数δnhtは、貫入ロッドの一回転を2回として計数した半回転数であることが望ましい。さらに、貫入ロッドの貫入深度に対応させてエネルギδEをプロットしたグラフに基づいて地層を評価することが望ましい。
【0009】
また本発明は、棒状のロッド先端に貫入体を取り付けて成る貫入ロッドに荷重Wを負荷し、これを回転させながら地中に貫入し、この貫入時に前記貫入体に作用する回転負荷トルクTを検出する貫入試験方法において、貫入ロッドの貫入量の増分δsと貫入ロッドが前記貫入量貫入する間の貫入ロッドの回転回数δnhtとを検出し、これらと前記荷重W、回転負荷トルクTおよび貫入ロッドの最大直径Dとを用いて、


塑性ポテンシャル係数cを求め、この塑性ポテンシャル係数cに基づいて地層を評価することを特徴とするものでもある。
【0010】
上記の塑性ポテンシャル係数cにより地層を評価する方法においては、荷重Wを変化させ、各荷重Wにおける貫入ロッドの貫入量の増分δsと、その間の貫入ロッドの回転回数δnhtと、回転負荷トルクTとを検出し、これらから各荷重Wの下での塑性ポテンシャル係数cを求め、この塑性ポテンシャル係数cに基づいて地層を評価することが望ましい。また、貫入ロッドの回転回数δnhtは、貫入ロッドの一回転を2回として計数した半回転数であることが望ましい。さらに、貫入ロッドの貫入深度に対応させて塑性ポテンシャル係数cをプロットしたグラフに基づいて地層を評価することがより好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、貫入ロッドに荷重と回転とを付加して地中に貫入し、この荷重と回転時の回転負荷トルクとに起因する貫入時のエネルギδEによって地層を評価するものである。このため、各地層の強度面、硬度面を総合的に数値化して評価することが可能となり、SWS試験では判別が困難であった粘性土で構成される洪積層、沖積層、腐植土層を判別することが可能になる等の利点がある。また本発明は、貫入ロッドに荷重と回転とを付加して地中に貫入して貫入ロッドの貫入量と回転回数とを検出し、これらから塑性ポテンシャル係数cを求め、この塑性ポテンシャル係数cにより地層を評価するものである。この塑性ポテンシャル係数によっても各地層の強度面、硬度面を総合的に数値化することができるため、洪積層と沖積層あるいは洪積層と腐植土層を判別することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面に基づいて本発明を実施するための最良の形態を説明する。
図1ないし図4において、1は自動貫入試験機であり、立設された支柱2に沿って昇降可能な昇降台3を有する。この昇降台3には、棒状のロッド4aの先端にスクリューポイント4bを連結した先端に連結された貫入ロッド4と、この貫入ロッド4を一体に保持可能なチャックユニット5と、このチャックユニット5を回転駆動するチャック用モータ6と、前記支柱2の長手方向に伸びて配置されたチェーン部材2aに噛合するスプロケット7と、このスプロケット7を回転駆動する昇降用モータ8と、前記スプロケット7の回転を制動するブレーキ手段9と、質量調整用のおもり3a・・とが装備されている。これらの装備の質量と昇降台3の質量の合計質量が貫入ロッド4に載荷されると、貫入ロッド4には最大1KNの荷重がかかる。前記チャック用モータ6、昇降用モータ8およびブレーキ手段9は、制御ユニット10によって駆動制御される。
【0013】
前記チャックユニット5は昇降台3に回転自在に配置されている。このチャックユニット5の下部とチャック用モータ6の出力軸6aとには、それぞれスプロケット11,12が一体に固定されており、これらに環状チェーン13を巻き掛けることで両者は連結されている。また、チャックユニット5側のスプロケット11の歯に対向する位置には、このスプロケット11が回転する時の歯の通過を検出してON/OFFする近接センサ(図示せず)が設けられている。この近接センサの信号は前記制御ユニット10によって取得され、制御ユニット10は、この信号から貫入ロッド4の半回転数を割り出すように構成されている。
【0014】
前記スプロケット7は、昇降用モータ8と一方向クラッチ14および前記ブレーキ手段9を介して連結されており、一方向クラッチ14の作用で、昇降台3を上昇させる方向にスプロケット7を回転させるよう昇降用モータ8が駆動した時、これがスプロケット7に伝達されるようになっている。逆方向にスプロケット7を回転させる昇降用モータ8の駆動(以下、逆駆動という)は、一方向クラッチ14の空転を生じる。このため、スクリューポイント4bが地盤に接している状態で昇降用モータ8が逆駆動すると、貫入ロッド4(ロッド4aないしスクリューポイント4b)には、昇降台3等の質量による荷重が負荷される。この荷重は、ブレーキ手段9がスプロケット7を制動する力を変更することで0Nから最大荷重1KNまで自在に変更することができる。なお、ブレーキ手段9としてはパウダブレーキまたはパウダクラッチが好ましい。
【0015】
本自動貫入試験機1では、貫入ロッド4先端のスクリューポイント4bが地表に接する位置から貫入試験をスタートする。この位置までは、制御ユニット10に備えられたマニュアル操作ボタンを押して昇降用モータ8を逆駆動し、昇降台3を下降させる。この位置からスタートボタンを押して試験スタート信号を与えると、制御ユニット10は自動で貫入ロッド4の地中への貫入制御を開始する。すなわち、制御ユニット10は試験スタート信号の入力を受けて、昇降用モータ8を逆駆動するとともに、チャック用モータ6を回転させる。これにより、貫入ロッド4に昇降台3等の質量による荷重を負荷し、これらを回転させながら地中に貫入する。
【0016】
試験中、制御ユニット10はブレーキ手段9を制御し、貫入ロッド4に負荷される荷重を最小荷重50Nから150N、250N、500N、750N、1000N(1KN)の順に増加させる。そして、各荷重下での貫入ロッド4にかかる回転負荷トルクと、貫入ロッド4の半回転数と、貫入ロッド4の貫入量の増分とを求めて記憶する。これを貫入ロッド4が25cm貫入する区間を単位区間として、この単位区間毎に行う。ここで、貫入ロッド4に作用する回転負荷トルクは、チャック用モータ6に負荷する電流値に比例するため、本例では、チャック用モータ6の負荷電流値から回転負荷トルクを得る。また、貫入ロッド4の貫入量の増分は、スプロケット7の回転を検出するロータリエンコーダ15の信号からスプロケット7の回転回数を算出し、これにスプロケット一回転当たりの貫入量を乗じることで算出することができる。また制御ユニット10は、この貫入量の増分を積算することでスクリューポイント4bの貫入深度を算出して記憶するとともに、単位時間当たりの貫入量からスクリューポイント4bの貫入速度を割り出す。制御ユニット10は、以上の処理を繰り返し行って所定の深度(例えば、地中10mの深度)までスクリューポイント4bを貫入する。なお、貫入試験中、貫入ロッド4のロッド4aは、必要に応じて上部のねじ部4cに延長用ロッド(図示せず)を螺合して延長する。
【0017】
前記スクリューポイント4bに負荷される各荷重Wと回転負荷トルクTによる貫入時のエネルギδEは、
【数1】

と表すことができる。ここでδnhtは各荷重下での半回転数(半回転数の増分)、δsは各荷重下での貫入量の増分である。そして、同数1の右辺の値は、左が荷重による貫入時のエネルギ、右が回転付加による貫入時のエネルギを示す。つまり、エネルギδEは、荷重による貫入エネルギと回転による貫入エネルギの総和で表される。
【0018】
図5は、沖積層と腐植土層の各土質について行った一軸圧縮試験の結果である。この結果からわかるように、腐植土層に比べて含水比が低く土の成分が多い沖積層は、硬度的には硬く締まっているが、図5(a)に示すように圧縮やせん断に対しては早期に疲労破壊を生じる。これに対し、含水比が高く有機質が多い腐植土層は、いわば水を含んだスポンジのような状態で硬度的には軟らかいが、図5(b)に示すように圧縮やせん断に対しては疲労破壊を生じにくく、洪積層や沖積層と同等の応力に耐えられる。これは腐植土層に含まれる繊維質等が結合して強度を確保しているためと考えられる。また、これから類推すると、沖積層よりも含水比が低い洪積層については、疲労破壊がさらに早い段階で起こるものの、その疲労限界は、同じ粘性土質であることからも沖積層と同等と考えられる。このように洪積層、沖積層、腐植土層は、硬さには違いがあるものの疲労限界は同等かむしろ腐植土層の方が高い傾向を示し、強度的な違いが少ないことがわかる。このため、最大荷重が1KN程度のSWS試験では、Wsw値に差が生じない。しかも、何れの地層も粘性土質であることから回転による掘削には弱い。腐植土層においても、含水比が高く地層としては非常に軟らかいため、前述の繊維質の結合等は回転トルクが加えられることで容易に瓦解してしまう。このため、各層でSWS試験のNsw値にもほとんど差が生じない。しかしながら、各地層の硬度の違いは回転負荷トルクTに現れる。洪積層のように含水比が低く土の成分が多ければ回転負荷トルクTは高くなり、腐植土層のように土の成分に対して水分や有機質が多くなれば回転負荷トルクTは低くなる。また、こうした違いは、貫入ロッド4を単に回転させるのではなく、付加する荷重Wを変更しながら回転させることにより、荷重と回転との相乗効果によって顕著となる。従って、貫入時のエネルギδEを数1に示すように荷重と回転負荷トルクに起因する各貫入エネルギの総和として見ると、洪積層、沖積層、腐植土層を明確に判別することが可能になる。
【0019】
図6(a)の洪積層から構成される試験地A、図6(b)の沖積層と腐植土層から構成される試験地Bについては、上述の通り、SWS試験結果では違いがほとんど見られない。これに対し、図7および図8は同じ試験地で本発明の貫入試験方法により、荷重W毎の回転負荷トルクT、半回転数δnhtおよび貫入量の増分δsを試験データとして取得し、これらに基づいて数1により各荷重W下でのエネルギδEを求め、これの単位区間(貫入量25cm)当たりの代表値をスクリューポイント4bの貫入深度に対応させてプロットしたグラフである。図7が洪積層の試験地A、図8が沖積層および腐植土層の試験地Bのものを示す。各図中に引いた太破線はエネルギδEの近似直線である。ここで単位区間当たりの代表値をプロットしているのは、エネルギδEの変動を明確化するためである。通常は、単位区間貫入ロッド4が貫入する間に複数のエネルギδEが得られ、これを全てプロットすると図9の態様となる。ちなみに、この図9は、試験地Aや試験地Bとは別異の地盤における貫入試験により得られたデータを示すものである。この図9のように全てのエネルギδEをプロットした場合でも、δEの変化を識別することができるが、一定の基準でこれらの代表値を定めた方が、δEの変化をより識別し易いグラフが得られる。代表値としては、単位区間毎のエネルギδEの平均値、最大値あるいは最小値等が好適である。なお、図7および図8のような貫入深度−エネルギδEのグラフは、制御ユニット10の液晶パネル10aに表示出力されたり、プリンタ10bによって印刷出力されたりするなど、作業者が視認可能に出力される。
【0020】
図7と図8を比較すると、エネルギδEが洪積層では大きく、沖積層では小さく、腐植土層では大きくばらつくことがわかる。このことから、貫入深度に対するエネルギδEの変化から洪積層、沖積層、腐植土層を判別することが可能である。
【0021】
洪積層と沖積層あるいは洪積層と腐植土層とを判別するには、エネルギδEによる以外にも、得られた試験データを利用して、次の数2により各深度における塑性ポテンシャル係数cを算出し、このcの大きさに依ってもよい。
【数2】

この数2において、Dは貫入ロッド4における最大直径、即ちスクリューポイント4bの最大直径を示し、Nswは貫入量1m当たりの半回転数(δnht/δs)を示す。
【0022】
標準貫入試験を行って予め地層や土質が判明している実際の地盤に本発明の上記方法により貫入試験を行って試験データを取得し、これを数2に代入して塑性ポテンシャル係数cを求めた結果を表1に示す。
【表1】

【0023】
塑性ポテンシャル係数cは、マクロエレメントと呼ばれる数学モデルで試験データを処理して得られる降伏曲面に対し、その座標原点を通って直角に交差する直線の傾きを示すものであり、前記表1に示すように地層、土質毎に異なる値を示す。この塑性ポテンシャル係数cの単位区間における代表値を貫入深度に対応してプロットしたグラフが図10および図11である。図10は、図6(a)で示される洪積層の試験地Aの塑性ポテンシャル係数cの貫入深度に対する変化を示し、図11は、図6(b)で示される沖積層および腐植土層の試験地Bの塑性ポテンシャル係数cの貫入深度に対する変化を示したものである。各図中に引いた太破線は、塑性ポテンシャル係数cの近似直線である。これら図10および図11によると、洪積層と沖積層あるいは洪積層と腐植土層で塑性ポテンシャル係数cの大きさが明確に異なっていることがわかる。このことから、制御ユニット10で塑性ポテンシャルcを演算し、これを貫入深度に対応させた表やグラフとして出力することにより、洪積層と沖積層あるいは洪積層と腐植土層を判別することが可能となる。
【0024】
上記マクロエレメントは、塑性論アナロジーモデルとも呼ばれるものであり、土の応力とひずみの関係を与える構成則と同じ枠組み(アナロジー)を利用し、構造物の荷重と変位との関係を記述する数学モデルのことである。構造物に負荷される荷重には鉛直荷重やモーメント、水平荷重などがあるが、構造物の破壊時の荷重はその他の荷重の組み合わせによって変化する。マイクロエレメントでは、このような組み合わされた荷重の大きさを降伏曲面として記述するとともに、これらの荷重にそれぞれ対応する変位増分を塑性ポテンシャル関数を用いて記述するものである。スウェーデン式サウンディング試験や本例で紹介する貫入試験のような荷重と回転とを与えて貫入ロッドを地中に貫入する試験は、荷重段階の鉛直荷重に加えて回転段階における回転負荷トルクをその作用荷重とする試験であるので、マイクロエレメントを適用できる組み合わせ荷重の問題の一つであるといえる。
【0025】
そこで、こうした貫入試験についてのマイクロエレメントを構築すると以下のようになる。まず、スクリューポイントに負荷される荷重段階の荷重Wと回転段階の回転負荷トルクTによるエネルギδEは、数1の通りである。数1を自沈荷重Wとスクリューポイントの最大直径Dとの積を用いて正規化すると、
【数3】

となる。ここでTは正規化トルク、Wは正規化荷重とする。また、数3の結果から、後述する塑性ポテンシャルの適用においては、TとδnhtおよびWとδs/Dがそれぞれ同軸性を有するものと判断している。
後述する実験結果から、貫入試験で得られる回転負荷トルクTと荷重Wによる降伏曲面は、原点に中心を有する楕円形の曲線で表記できることが確かめられている。そこで、この降伏曲面の形状を降伏曲面係数cを用いて、
【数4】

と表す。この数4を数3を用いて表すと、
【数5】

が得られ、これを整理すると、降伏曲面は次のような別形式で表すことができる。
【数6】

塑性ポテンシャル関数についても降伏曲面と同様な楕円形曲線を呈するものと仮定すると、
【数7】

と表せる。ここでcは塑性ポテンシャル係数であり、これが前記cに等しい時には関連流れ則が成立する。数7をWで微分し、さらに塑性ポテンシャル関数に直交する方向を求めると、
【数8】

となる。ここで1m貫入量当りの半回転数Nswにスクリューポイント最大径Dを乗じたNswDを正規化Nswと定義する。前記数2は、この数8から求められる。
【0026】
図12ないし図14に粘土の土質サンプルについて行った実験の解析結果を示す。実験は、粘土について作製した実験用人工地層により行った。実験用人工地層は、図15に示す直径28cm高さ50cmの円形土槽Bの下部に排水層として砂と砂利を敷き詰め、その上から含水比w=50%に調整した藤ノ森粘土Cを投入し、この粘土Cの透水性を高めるために24時間真空ポンプを用いて脱気し、その後、上部から約20kPaを段階的に載荷させ下部は−100kPaに減圧させて圧密を行うことにより得た。
【0027】
実験装置は、図15に示すようにロッド20、おもり21、ベアリング付きおもり載荷装置22、スクリューポイント23、トルク計24から構成されている。ここでスクリューポイント23は、実物の1/5の大きさになるように銀粘土を用いて作製したもので、四角錘を右に一回ひねった形状をしており最大径6.7mm、長さ40mmである。
【0028】
実験方法は、まずロッド20の先端にスクリューポイント23とおもり載荷装置22を取り付け、ロッド20が鉛直に貫入されるように固定する。次に初期のおもり21を載荷し、自沈(荷重のみでの貫入)が停止してからそのときの貫入量を測定する。一方、最大荷重を載荷しても自沈しない場合はトルク計24を用いて回転貫入する。この方法で5cm毎の自沈荷重または回転負荷トルクを得ながら、スクリューポイント23を25cmの深さまで貫入する。スクリューポイント23が25cmの深さまで貫入すると、一旦引き抜き、最大荷重を変えて同様の方法で試験を繰り返す。これを最大荷重を例えば40N,80N,120N,160N,200Nの5段階に変化させて行うことにより、同一深度(5cm毎)における自沈荷重または異なる荷重での回転負荷トルクを得ることができる。これらの(πT/D),Wの深度毎の関係をプロットしたものが図12である。この図12における傾きが降伏曲面係数c、X軸切片が自沈荷重Wとなる。これにより得られた各深度での自沈荷重W、最大荷重W、回転負荷トルクTを数4に代入し、πT/WD,W/Wの関係をプロットしたのが図13であり、図中の実線は、数4に降伏曲面係数cを代入して算出した理論値を示す。理論値と実験値を比較すると、いくらかばらつきが見られるものの、理論値のような楕円形の降伏曲面の存在が確認できた。また、図14は、前述の粘土地盤について得た荷重Wおよび回転負荷トルクTを用いて、数8における正規化Nswと、πT/WDの関係をグラフ化したものである。
【0029】
図16は、前述の粘土地盤と同様の方法で関東ローム、中密砂、密な砂の各土質サンプルについて作製した実験用人工地層に対して実験行い、その結果から求めた降伏曲面を粘土地盤のものと一緒に同一スケールでプロットした図である。これにより、降伏曲面は各土質において異なる形状を示すことがわかる。このように、各土質について求めた降伏曲面を基準として、これと実際の地盤(以下、実地盤という)での試験において求まる降伏曲面の形状とを比較することで、土質の判定を行うことも可能である。なお、降伏曲面については、楕円形に限定されず土質によって様々な形状を成すと考えられる。このため、土質の判定基準となる土質毎の降伏曲面は、様々な土質サンプルによる実験や実地盤における実測等により、できるだけ多くの種類を揃えておくことが好ましい。
【0030】
また図17は、関東ローム、中密砂、密な砂の実験結果から求めた数8における正規化Nswと、πT/WDの関係を粘土地盤のものと一緒に同一スケールで表したものである。この関係においても土質毎に異なった傾き、すなわち塑性ポテンシャル係数cを示すことから、このグラフを土質判定の基準として用いることもできる。実際の地盤においては、上記のように深度に対応してcをプロットした方が地層や土質の変化を把握しやすい。また、次の表2は、以上の実験結果から得られた粘土、関東ローム、中密砂、密な砂についての降伏曲面係数cと塑性ポテンシャル係数cとをまとめたものである。これらについても、土質により異なった値となることがわかる。このため、実地盤における貫入試験により荷重Wと回転負荷トルクTを取得し、これらから上記数4ないし数8を使って各係数c,cを求め、これらを予め実験で得られた基準値と比較することによっても土質を判定することが可能である。
【表2】

【0031】
実地盤における貫入試験においては、貫入ロッド4を地中に貫入する場合にロッド4aの長さが長くなるため、これに作用する土の抵抗が大きくなる。従って、前述の塑性論アナロジーモデルによる分析を実際の貫入試験へ適用する場合には、ロッド4aに作用する周面摩擦の影響を考慮する必要がある。図18は、貫入ロッド4に作用する周面摩擦の概念図を示す。ロッド4aに作用する鉛直方向の周面摩擦をW、水平方向の周面摩擦によるトルクをT、スクリューポイント4bに負荷されている真の荷重をW、真の回転負荷トルクをTとした場合、周面摩擦を考慮した荷重Wおよび回転負荷トルクT(実際に貫入ロッド4に負荷される荷重と、検出される回転負荷トルク)は 数9,数10で表される。
【数9】

【数10】

また、合速度方向と合せん断応力の方向が等しいと仮定すると数11および数12が得られる。
【数11】

【数12】

ここで、δnhtは半回転数の増分、δsは貫入量の増分、rはロッド径、τは合せん断応力、τθは水平方向のせん断応力、τは鉛直方向のせん断応力である。
一方、回転および自沈貫入により生じる摩擦をそれぞれT,Wとすると、数13が得られる。
【数13】

この数13より、
【数14】

が得られ、数12と数13とから、
【数15】

となる。ここで、Fは荷重およびトルクによる周面摩擦の合力である。数8、数9および数14より、
【数16】

また、数10および数16より、
【数17】

となり、この数17をNswDについて解くと、
【数18】

となる。この数18により、ロッド4aの周面摩擦を考慮した正規化Nswを得ることができる。正規化Nswを土質判定の基準として用いる場合には、この周面摩擦を考慮した正規化Nswを用いるのがよい。また、上述の降伏曲面を求める場合にも、スクリューポイント4bに作用している荷重Wと回転負荷トルクTを用いた方がよい。この場合には、特開2001-228068号公報によって示される方式により、スクリューポイント4bにかかる荷重Wとロッド4aに作用する鉛直方向の周面摩擦Wとは求めることができる。これにより得られた鉛直周面摩擦Wを数14に代入してロッド4aに作用する水平周面摩擦トルクTを求め、さらに、この水平周面摩擦トルクTと、実測された回転負荷トクルTとを数9に代入すればスクリューポイント4bに作用する回転負荷トルクTを求めることができる。このようにしてロッド4aに作用する周面摩擦による荷重やトルクを除外したスクリューポイント4bに本来作用している荷重Wと回転負荷トルクTを求め、これらを用いることにより、より正確な降伏曲面を求めることができる。
【0032】
本自動貫入試験機1による貫入試験で試験データとして得られた荷重と回転負荷トルクは、正確には前記数9、数10における荷重Wと回転負荷トルクTに相当するものである。よって、より正確な地層の評価を行うためには、制御ユニット10において、得られた荷重Wと回転負荷トルクTとから周面摩擦の影響を除外し、、スクリューポイント4bに負荷される荷重W、回転負荷トルクTを求めることが好ましい。
【0033】
なお、以上の説明では貫入ロッド4に負荷する荷重を段階的に変動させ、スクリューポイント4bが25cmの単位区間貫入する毎の各荷重下での回転負荷トルクを取得するようにしているが、これ以外にも、次の方法で所定深度毎の異なる荷重に対する回転負荷トルクを取得してもよい。すなわち、ロッドを所定深度(例えば25cm)毎貫入する間は、通常のスウェーデン式サウンディング試験方法に従って自沈貫入および回転貫入を適宜行って貫入ロッド4を地中に貫入する。そして、スクリューポイント4bが所定深度貫入する毎に一旦荷重を0(ゼロ)にし、ここから荷重を50N,150N,250N,500N,750N,1KNと(ただし、所定深度貫入する間、自沈貫入であった場合は、その自沈貫入が起きる最大の荷重まで)増やし、各荷重毎に貫入ロッド4を回転させて回転負荷トルクその他のデータを得る。これによって得られた試験データからエネルギδEや塑性ポテンシャル係数cを求めても、地層の判定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に係る貫入試験方法を実施する自動貫入試験機の斜視図である。
【図2】本発明を係る貫入試験方法を実施する自動貫入試験機の拡大側面図である。
【図3】図2のA−A線に係る拡大断面図である。
【図4】本発明を係る貫入試験方法を実施する自動貫入試験機の要部拡大一部切欠断面図である。
【図5】(a)は沖積層土、(b)は腐植土の一軸圧縮試験結果を示すグラフである。
【図6】(a)は洪積層の試験地A、(b)は沖積層および腐植土層の試験地BにおけるSWS試験結果の比較説明図である。
【図7】洪積層の試験地Aにおける貫入深度に対する貫入エネルギδEのグラフである。
【図8】沖積層および腐植土層の試験地Bにおける貫入深度に対する貫入エネルギδEのグラフである。
【図9】貫入深度に対する貫入エネルギδEの説明用グラフである。
【図10】洪積層の試験地Aにおける貫入深度に対する塑性ポテンシャル係数cのグラフである。
【図11】沖積層および腐植土層の試験地Bにおける貫入深度に対する塑性ポテンシャル係数cのグラフである。
【図12】マクロエレメントに関する実験データの説明用グラフである。
【図13】マクロエレメントに関する実験データの説明用グラフである。
【図14】マクロエレメントに関する実験データの説明用グラフである。
【図15】マクロエレメントに関する実験装置の概略説明図である。
【図16】各種土質についての降伏曲面の一例を示すグラフである。
【図17】各種土質についての塑性ポテンシャル係数の一例を示すグラフである。
【図18】地中に貫入した貫入ロッドに作用する周面摩擦の説明用概念図である。
【符号の説明】
【0035】
1 自動貫入試験機
2 支柱
2a チェーン部材
3 昇降台
4 貫入ロッド
4a ロッド
4b スクリューポイント
5 チャックユニット
6 チャック用モータ
7 スプロケット
8 昇降用モータ
9 ブレーキ手段
10 制御ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
棒状のロッド先端に貫入体を取り付けて成る貫入ロッドに荷重Wを負荷し、これを回転させながら地中に貫入し、この貫入時に前記貫入体に作用する回転負荷トルクTを検出する貫入試験方法において、
貫入ロッドの貫入量の増分δsと貫入ロッドが前記貫入量貫入する間の貫入ロッドの回転回数δnhtとを検出し、これらと前記荷重Wおよび回転負荷トルクTとから貫入ロッドの貫入に伴うエネルギδEを求め、このエネルギδEに基づいて地層を評価することを特徴とする貫入試験方法。
【請求項2】
荷重Wを変化させ、各荷重Wにおける貫入ロッドの貫入量の増分δsと、その間の貫入ロッドの回転回数δnhtと、回転負荷トルクTとを検出し、これらから各荷重Wの下での貫入ロッドの貫入に伴うエネルギδEを求め、このエネルギδEに基づいて地層を評価することを特徴とする請求項1に記載の貫入試験方法。
【請求項3】
エネルギδEは、

により求めることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の貫入試験方法。
【請求項4】
貫入ロッドの回転回数δnhtは、貫入ロッドの一回転を2回として計数した半回転数であることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れかに記載の貫入試験方法。
【請求項5】
貫入ロッドの貫入深度に対応させてエネルギδEをプロットしたグラフに基づいて地層を評価することを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れかに記載の貫入試験方法。
【請求項6】
棒状のロッド先端に貫入体を取り付けて成る貫入ロッドに荷重Wを負荷し、これを回転させながら地中に貫入し、この貫入時に前記貫入体に作用する回転負荷トルクTを検出する貫入試験方法において、
貫入ロッドの貫入量の増分δsと貫入ロッドが前記貫入量貫入する間の貫入ロッドの回転回数δnhtとを検出し、これらと前記荷重W、回転負荷トルクTおよび貫入ロッドの最大直径Dとを用いて、


により塑性ポテンシャル係数cを求め、この塑性ポテンシャル係数cに基づいて地層を評価することを特徴とする貫入試験方法。
【請求項7】
荷重Wを変化させ、各荷重Wにおける貫入ロッドの貫入量の増分δsと、その間の貫入ロッドの回転回数δnhtと、回転負荷トルクTとを検出し、これらから各荷重Wの下での塑性ポテンシャル係数cを求め、この塑性ポテンシャル係数cに基づいて地層を評価することを特徴とする請求項6に記載の貫入試験方法。
【請求項8】
貫入ロッドの回転回数δnhtは、貫入ロッドの一回転を2回として計数した半回転数であることを特徴とする請求項6又は請求項7の何れかに記載の貫入試験方法。
【請求項9】
貫入ロッドの貫入深度に対応させて塑性ポテンシャル係数cをプロットしたグラフに基づいて地層を評価することを特徴とする請求項6乃至請求項8の何れかに記載の貫入試験方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図15】
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【図18】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2009−133164(P2009−133164A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−311735(P2007−311735)
【出願日】平成19年11月30日(2007.11.30)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2007年7月1日 International Society of Offshore and Polar Engineers発行の「17th(2007) International Offshore and Polar Engineering Conference」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年7月1日 社団法人 地盤工学会発行の「土と基礎 Vol.55 No.7 Ser.No.594」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2007年7月31日 社団法人 日本建築学会発行の「2007年度大会(九州)学術講演梗概集」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年10月31日 社団法人 地盤工学会 関東支部発行の「第4回地盤工学会関東支部発表会(Geo−Kanto2007)発表講演集」に発表
【出願人】(000227467)日東精工株式会社 (263)
【出願人】(301033053)株式会社日本住宅保証検査機構 (9)
【出願人】(505359023)
【Fターム(参考)】