説明

貫通開口の内周面封じ込め構造

【課題】コンクリート製の壁体に形成された貫通開口の内周面に付着したアスベスト等の付着物を、簡易に且つ効果的に封じ込める貫通開口の内周面封じ込め構造を提供する。
【解決手段】コンクリート製の壁体12に形成された貫通開口11の内周面に付着したアスベスト製筒状部材13を封じ込める封じ込め構造10構造であって、耐震壁12の開口周縁部に密着接合される密着フランジ板15a,16aを有する第1フランジ付筒状体15及び第2フランジ付筒状体16による、貫通開口11の円形の断面形状と相似の中空断面形状を有する硬質塩化ビニル製の端部内周面処理用筒状部材17と、密着フランジ板15a,16aを耐震壁12の壁面に密着接合させるエポキシ樹脂系接着剤25と、端部内周面処理用筒状部材17とアスベスト製筒状部材13が付着した貫通開口11の内周面との間に無収縮モルタルを注入充填して形成された充填モルタル層20とからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貫通開口の内周面封じ込め構造に関し、特に、コンクリート製の壁体に形成された貫通開口の内周面に付着したアスベスト等の付着物を封じ込めるための貫通開口の内周面封じ込め構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばアスベストを含む建設材料は、従来より耐火性能、断熱性能、防音性能等に優れた材料として知られており、建物の壁面部分や天井面部分の構成材料として多用されてきたが、これらの建設材料に含まれるアスベストは、建物の解体時等においてダスト状に発散したり飛散したりして、人体に影響を及ぼすことから、アスベストを含む建設材料を処理するための方法や技術が種々開発されている。
【0003】
アスベストを含む建設材料を処理するための方法としては、一般に、アスベストを含む建設材料を除去したり解体した後に、これらを袋詰めしたり固化させて、充分に管理された状況下で産業廃棄物として廃棄する方法が採用されているが、このような処理方法では、管理が難しく、二次災害の発生の畏れやコスト高の問題を生じるので、これに変わる方法として、アスベストを含む建設材料が用いられた現場において、これらの材料を封じ込める技術も開発されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0004】
ここで、特許文献1のアスベスト封じ込め注入工法は、アスベスト処理剤をアスベストの内層部に注入装置を用いて注入することで封じ込める樹脂含浸工法と、アスベストの表面にアスベスト処理剤を吹き付けることで封じ込める表面固化工法とからなるものである。また特許文献2のアスベスト処理工法は、アスベスト繊維成分を含む既設建造物構造体の表面に、浸透性の高い第1のアスベスト処理剤を塗布又は吹き付けてこれの内部に浸透させる工程と、既設建造物構造体の表面に沿ってネット部材を張設する工程と、張設したネット部材の上から第2のアスベスト処理剤を吹き付けて塗布する工程とによって、アスベストを含む建設材料を封じ込めるようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−315152号公報
【特許文献2】特開2009−62427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、アスベストを含む建設材料は、これを筒状部材として加工した場合に相当の強度を有することから、このようなアスベスト製の筒状部材は、従来、例えばコンクリート製の壁体に貫通開口を形成する際の箱抜き用の型枠として多用されてきており、このようなアスベスト製の筒状部材は、コンクリートを打設した後も撤去されることなく、貫通開口の内周面を覆う化粧材等としてそのまま残置された状態となっている。
【0007】
コンクリート製の壁体に形成された貫通開口の内周面に残置されたこのようなアスベスト製の筒状部材は、アスベストによる環境への影響が懸念されている近年においては、周囲の環境に影響を及ぼさないようにこれらを封じ込めておくことが望ましいが、上述の従来の封じ込め工法では、建物の壁部分や天井部分に対して適用されるものであり、貫通開口の内周面を覆うアスベスト製の筒状部材に適用することは困難である。このため、このような貫通開口の内周面を覆うアスベスト製の筒状部材を簡易に且つ効果的に封じ込めることが可能な新たな技術の開発が望まれている。特に、貯水槽等の、水が貯留される部分におけるコンクリート製の壁体に設けられた貫通開口にも適用可能な、アスベスト製の筒状部材を封じ込めるための技術の開発が望まれている。
【0008】
また、アスベスト製の筒状部材に限らず、コンクリート製の壁体に形成された貫通開口の内周面に有害物質やその他の付着物が付着している場合に、これらの付着物を簡易に且つ効果的に封じ込めることができれば便利である。
【0009】
本発明は、コンクリート製の壁体に形成された貫通開口の内周面に付着したアスベストやその他の付着物を、除去することなく簡易に且つ効果的に封じ込めることのできる貫通開口の内周面封じ込め構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、コンクリート製の壁体に形成された貫通開口の内周面に付着した付着物を封じ込めるための貫通開口の内周面封じ込め構造であって、前記壁体の壁面における前記貫通開口の開口周縁部に密着接合される密着フランジ板が設けられた第1フランジ付筒状体及び第2フランジ付筒状体を含んで構成されると共に、前記貫通開口の軸方向に連設一体化された硬質塩化ビニル製の複数の筒状体からなる、前記貫通開口の断面形状と相似又は略相似の中空断面形状を有する端部内周面処理用筒状部材と、前記第1フランジ付筒状体及び第2フランジ付筒状体の前記密着フランジ板を前記壁体の両側の壁面に各々密着接合させるエポキシ樹脂系接着剤と、前記端部内周面処理用筒状部材と前記付着物が付着した前記貫通開口の内周面との間の充填空間に、前記端部内周面処理用筒状部材に設けられた注入口から無収縮モルタルを注入充填して形成された充填モルタル層とからなる貫通開口の内周面封じ込め構造を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0011】
ここで、本発明に用いる無収縮モルタルは、単に全く収縮しないモルタルを意味するものではなく、当業者にいわゆる「無収縮モルタル」として知られる、ブリージングの発生が抑制されるか又は無くなることで、膨張収縮低減効果を効果的に発揮できる公知の種々のモルタルを意味するものである。
【0012】
そして、本発明の貫通開口の内周面封じ込め構造は、前記貫通開口が円形の断面形状を有しており、前記端部内周面処理用筒状部材が円形又は略円形の中空断面形状を有していることが好ましい。
【0013】
また、本発明の貫通開口の内周面封じ込め構造は、前記端部内周面処理用筒状部材の外周面から外側に一体として突出して、前記貫通開口の内周面に外側端部が当接することにより前記端部内周面処理用筒状部材と前記付着物が付着した前記貫通開口の内周面との間の充填空間の幅を確保する、スペーサリブが設けられていることが好ましい。
【0014】
さらに、本発明の貫通開口の内周面封じ込め構造は、前記貫通開口の内周面に付着した付着物がアスベストを含む付着物である場合に特に有効である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の貫通開口の内周面封じ込め構造によれば、コンクリート製の壁体に形成された貫通開口の内周面に付着したアスベストやその他の付着物を、除去することなく簡易に且つ効果的に封じ込めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の好ましい一実施形態に係る貫通開口の内周面封じ込め構造が設けられるコンクリート製の壁体としての耐震壁を説明する部分略示断面図である。
【図2】耐震壁に本発明の好ましい一実施形態に係る貫通開口の内周面封じ込め構造を設けた状態を説明する部分略示断面図である。
【図3】本発明の好ましい一実施形態に係る貫通開口の内周面封じ込め構造の構成を説明する、(a)は図2のA−Aに沿った断面図、(b)は(a)のB−Bに沿った断面図、(c)は(a)のC−Cに沿った断面図である。
【図4】第1フランジ付筒状体の斜視図である。
【図5】第1フランジ付筒状体を貫通開口に設置する状態を説明する断面図である。
【図6】第2フランジ付筒状体を貫通開口に設置する状態を説明する断面図である。
【図7】第1フランジ付筒状体及び第2フランジ付筒状体を貫通開口に設置して押し込み金具によって締め付けた状態を説明する、(a)は断面図、(b)は(a)を左側から見た正面図である。
【図8】モルタル注入パイプ及びエア抜きパイプを設置した状態を説明する断面図である。
【図9】(a),(b)は、充填空間に無収縮モルタルを注入充填する状態を説明する断面図である。
【図10】本発明の好ましい一実施形態に係る貫通開口の内周面封じ込め構造を形成した状態を示す断面図である。
【図11】本発明の好ましい他の実施形態に係る貫通開口の内周面封じ込め構造を構成する端部内周面処理用筒状部材を貫通開口に取り付けた状態を説明する、(a)は左側正面図、(b)は断面図、(c)は右側正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の好ましい一実施形態に係る貫通開口11の内周面封じ込め構造10は、図1及び図2に示すように、例えば地中に形成されて洪水時に雨水を貯留する、貯留槽14を構成するコンクリート製の壁体である耐震壁12に設けられた通水用の貫通穴を貫通開口11として、この貫通開口11の内周面を覆って残置されたコンクリート打設時の箱抜き用の型枠であるアスベスト製筒状部材13(図3参照)を、除去することなく周囲に影響を及ぼさないようにそのまま封じ込めるための構造として採用されたものである。
【0018】
ここで、本実施形態では、貯留槽14は、例えば公園の敷地内において地盤面から2〜9m程度の深さに形成された大規模空間であり、コンクリート製の床スラブ14aと、天井スラブ14bと、外周壁14cとによって周囲を囲まれて形成されると共に、形成された大規模空間は、これの中間部分の適宜の位置において、床スラブ14aと天井スラブ14bとの間に立設配置された耐震壁12によって強固に補強されている。また、本実施形態では、耐震壁12は、例えば350mm程度の厚さを有しており、耐震壁12には、当該耐震壁12を横断する雨水の流路を確保するための複数の円形の貫通開口11が、内周面に付着したアスベスト製筒状部材13による内径が例えば400mm程度となる大きさで、通水用の貫通穴として設けられている。本実施形態の内周面封じ込め構造10は、これらの貫通開口11の内周面を覆う付着物として残置されたアスベスト製筒状部材13を、簡易に且つ効果的に封じ込めるための構造として採用されたものである。
【0019】
すなわち、本実施形態の貫通開口11の内周面封じ込め構造10は、図3(a)〜(c)に示すように、コンクリート製の耐震壁(壁体)12に形成された貫通開口11の内周面に付着した付着物としてのアスベスト製筒状部材13を封じ込めるための構造であって、耐震壁12の壁面における貫通開口11の開口周縁部に密着接合される密着フランジ板15a,16aが設けられた第1フランジ付筒状体15及び第2フランジ付筒状体16を含んで構成されると共に、貫通開口11の軸方向に連設一体化された硬質塩化ビニル製の複数の筒状体15,16からなる、貫通開口11の円形の断面形状と相似又は略相似の円形の中空断面形状を有する端部内周面処理用筒状部材17と、第1フランジ付筒状体15及び第2フランジ付筒状体16の密着フランジ板15a,16aを耐震壁12の両側の壁面に各々密着接合させるエポキシ樹脂系接着剤25と、端部内周面処理用筒状部材17とアスベスト製筒状部材13が付着した貫通開口11の内周面との間の充填空間18に、端部内周面処理用筒状部材17に設けられたモルタル注入口23から無収縮モルタルを注入充填して形成された充填モルタル層20とによって構成されている。
【0020】
そして、本実施形態では、硬質塩化ビニル製の端部内周面処理用筒状部材17は、耐震壁12の一方の壁面における貫通開口11の開口周縁部に密着接合される密着フランジ板15aを有する第1フランジ付筒状体15と、耐震壁12の他方の壁面における貫通開口11の開口周縁部に密着接合される密着フランジ板16aを有する第2フランジ付筒状体16との2部材を、貫通開口11の軸方向に連設配置することによって設けられている。
【0021】
第1フランジ付筒状体15は、図4及び図5にも示すように、例えば9mm程度の肉厚を有すると共に、貫通開口11の断面形状より小さな例えば318mm程度の外径を有する、耐震壁12の厚さに相当する例えば350mmより僅かに短い長さの硬質塩化ビニル製の筒状本体15bと、筒状本体15bの一端部から円環帯板形状に外側に張り出して設けられた密着フランジ板15aとからなる。密着フランジ板15aは、筒状本体15bと同様に例えば9mm程度の肉厚を有しており、筒状本体15bの一端部の開口周縁部から、例えば116mm程度の幅で垂直外側に張り出すようにして、筒状本体15bと一体成形されて設けられている。
【0022】
また、第1フランジ付筒状体15には、これの筒状本体15bの外周面から外側に突出して、複数のスペーサリブ21が、好ましくは筒状本体15bと一体成形されて設けられている。スペーサリブ21は、アスベスト製筒状部材13によって覆われた貫通開口11の内周面に外側端部を当接させることにより、端部内周面処理用筒状部材17とアスベスト製筒状部材13が付着した貫通開口11の内周面との間の充填空間18(図3(c)参照)の幅を確保する。本実施形態では、スペーサリブ21は、略矩形又は略台形の板状片となっており、筒状本体15bの長手方向に沿わせるようにして、筒状本体15bの周方向に等角度ピッチで3箇所に、筒状本体15bの外周面から例えば41mm程度の高さで突出して設けられている。
【0023】
さらに、第1フランジ付筒状体15には、これの密着フランジ板15aの筒状本体15bと近接する位置に、例えば直径が25mm程度の大きさの円形のエア抜き開口22が、一箇所に開口形成されている。エア抜き開口22は、第1フランジ付筒状体15が貫通開口11に装着された際に、筒状本体15bの上方に位置するように密着フランジ板15aの最上部に配置されて、充填空間18に無収縮モルタルを注入充填する際のエア抜きを効率良く行うことができるようになっており、またエア抜き開口22から無収縮モルタルが漏れ出るのを確認することで、充填空間18に無収縮モルタルが充填されたと判断することができるようになっている。
【0024】
そして、第1フランジ付筒状体15は、密着フランジ板15aの内側面の、耐震壁12の一方の壁面における貫通開口11の開口周縁部と密着接合される外側部分に、後述するエポキシ樹脂系接着剤25を全周に亘って塗布した後に、図5に示すように、筒状本体15bの先端側から貫通開口11に挿入装着されることになる。またエポキシ樹脂系接着剤25を介して密着フランジ板15aの内側面を、耐震壁12の一方の壁面の貫通開口11の開口周縁部に押し付けるようにして密着接合させることにより、筒状本体15bの先端を耐震壁12の他方の壁面における貫通開口11の開口面に近接させると共に、貫通開口11の内周面との間に間隔を保持した状態で、第1フランジ付筒状体15が設置されることになる。
【0025】
第2フランジ付筒状体16は、図6にも示すように、例えば7.8mm程度の肉厚を有すると共に、貫通開口11の断面形状より小さな例えば318mm程度の内径を有する、例えば100mm程度の長さの硬質塩化ビニル製の筒状本体16bと、筒状本体15bの一端部から円環帯板形状に外側に張り出して設けられた密着フランジ板16aとからなる。密着フランジ板16aは、筒状本体16bと同様に例えば7.8mm程度の肉厚を有しており、筒状本体16bの一端部の開口周縁部から、例えば108mm程度の幅で垂直外側に張り出すようにして、筒状本体16bと一体成形されて設けられている。
【0026】
また、第2フランジ付筒状体16には、これの密着フランジ板16aの筒状本体16bと近接する位置に、例えば直径が25mm程度の大きさの円形のエア抜き開口22が、一箇所に開口形成されていると共に、筒状本体16bを挟んだエア抜き開口22と直径方向反対側の位置に、例えば直径が25mm程度の円形のモルタル注入口23が、一箇所に開口形成されている。第2フランジ付筒状体16が貫通開口11に装着された際に、モルタル注入口23は、筒状本体16bの下方に位置するように密着フランジ板16aの最下部に配置されると共に、エア抜き開口22は、筒状本体16bの上方に位置するように密着フランジ板16aの最上部に配置されることになる。
【0027】
モルタル注入開口23には、例えば注入パイプ31(図8参照)が接続されて、端部内周面処理用筒状部材17と貫通開口11の内周面との間の充填空間18に無収縮モルタルが注入充填されるようになっていると共に、エア抜き開口22を介して充填空間18からのエア抜きを効率良く行うことができるようになっている。
【0028】
そして、第2フランジ付筒状体16は、密着フランジ板16aの内側面の、耐震壁12の他方の壁面における貫通開口11の開口周縁部と密着接合される外側部分に、後述するエポキシ樹脂系接着剤25を全周に亘って塗布すると共に、筒状本体16bの内周面及び/又は第1フランジ付筒状体15の筒状本体15bの外周面に塩ビ管専用接着材26を全周に亘って塗布した後に、図6に示すように、筒状本体16bの先端側から、当該筒状本体16bを第1フランジ付筒状体15の筒状本体15bの外周面に重ね合わせるようにしながら、エポキシ樹脂系接着剤25を介して密着フランジ板16aの内側面が耐震壁12の他方の壁面の貫通開口11の開口周縁部に密着した状態になるように押し付けつつ、貫通開口11に挿入装着されることになる。これによって、第1フランジ付筒状体15と第2フランジ付筒状体16とが貫通開口11の軸方向に連設一体化した端部内周面処理用筒状部材17が、アスベスト製筒状部材13を内側及び両側から覆って貫通開口11に設けられることになる。
【0029】
ここで、塩ビ管専用接着材26を介した第1フランジ付筒状体15と第2フランジ付筒状体16との接合は、従来から公知の塩化ビニル管同士を接合する方法と同様に、塩ビ管専用接着材26を介在させつつ第1フランジ付筒状体15の筒状本体15bの外周面と第2フランジ付筒状体16の筒状本体16bの内周面とを擦り合わせるようにしながら溶着接合することにより、これらの筒状体15,16を、さらに強固に且つ安定した状態で接合一体化することが可能になる。本実施形態では、第1フランジ付筒状体15の筒状本体15bが耐震壁12の厚さによりも若干短い長さを有していて、筒状本体15bの先端部が、他方の壁面における貫通開口11の開口面に近接して配置されるので、第1フランジ付筒状体15と第2フランジ付筒状体16とを接合する上述の作業を容易に行うことが可能になる。
【0030】
また、本実施形態では、端部内周面処理用筒状部材17の構成材料として、硬質塩化ビニル製の第1フランジ付筒状体15及び第2フランジ付筒状体16を用いているので、例えば雨水を貯留する貯留槽14等の、水が貯留される部分に用いられた場合でも、十分な耐久性を発揮することが可能になる。なお、硬質塩化ビニル製の部材は、一般に鉛配合の製品であるが、例えば水道水を貯留する貯留槽等に使用する場合には、錫配合の硬質塩化ビニルによって端部内周面処理用筒状部材17を形成することが好ましい。
【0031】
そして、本実施形態では、第1フランジ付筒状体15及び第2フランジ付筒状体16の密着フランジ板15a,16aを、耐震壁12の両側の壁面における貫通開口11の開口周縁部に各々密着接合させる接着剤として、エポキシ樹脂系接着剤25が用いられている。エポキシ樹脂系接着剤25としては、より具体的には、例えばJWWA K 143-2004(日本
水道協会規格)に適合する水道用エポキシラインング材に、所定の骨材を適宜加えたもの等を好ましく用いることができる。密着フランジ板15a,16aを耐震壁12の壁面に密着接合させる接着剤として、エポキシ樹脂系接着剤25を用いることにより、一般の接着剤では接着し難い硬質塩化ビニル製の密着フランジ板15a,16aとコンクリート製の壁面とを、強固に且つ安定した状態で密着接合することが可能になる。また、エポキシ樹脂系接着剤25を相当の厚さで塗布することにより、コンクリート製の耐震壁12の壁面の凹凸を吸収して、密着フランジ板15a,16aと耐震壁12の壁面とを隙間なく強固に密着させることが可能になる。
【0032】
なお、密着フランジ板15a,16aの内側のエポキシ樹脂系接着剤25が塗布される部分には、密着性を高めるために、例えばサンダー等を用いて目粗しを施しておくことが好ましい。また、耐震壁12の壁面を防護する被覆処理剤として例えばタールエポキシ樹脂等が壁面に塗布されている場合には、密着フランジ板15a,16aが密着する部分のこれらの被覆処理剤を、サンダー等を用いて予め除去しておくことが好ましい。このような被覆処理剤の除去作業は、アスベスト製筒状部材13と接触してキズ付けないように、慎重に行う必要がある。さらに、密着フランジ板15a,16aを耐震壁12の壁面に密着接合させる際に、密着フランジ板15a,16aの内側面に塗布したエポキシ樹脂系接着剤25が、密着フランジ板15a,16aのつば先から全周に亘ってオーバーフローするまで密着フランジ板15a,16aを耐震壁12の壁面に強く押し付けるようにすることが好ましい。オーバーフローしたエポキシ樹脂系接着剤25は、刷毛やヘラ等を用いて処理することにより、密着フランジ板15a,16aの周縁部の仕上げを行うようにすることが好ましい。
【0033】
また、本実施形態では、第1フランジ付筒状体15及び第2フランジ付筒状体16を貫通開口11に挿入装着して端部内周面処理用筒状部材17を形成した後に、図7(a),(b)に示すように、押し込み金具27を用いて、端部内周面処理用筒状部材17を耐震壁12の両側から締着して、エポキシ樹脂系接着剤25や塩ビ管専用接着材26や後述する無収縮モルタルが硬化するまでの間、端部内周面処理用筒状部材17を貫通開口11に安定した状態で固定しておくようになっている。
【0034】
押し込み金具27は、本実施形態では、例えば山形鋼を用いて十字形状に形成された一対の十字金物28と、一対の十字金物28の中心部に各々形成された締着孔に両端の雄ネジ部分が挿通される雄ネジロッド29と、雄ネジロッド29の雄ネジ部分に各々螺着されるナット部材30とを含んで構成される。押し込み金具27は、これの一対の十字金物28を、耐震壁12の両側から、中心部の締着孔を貫通開口11の中央部分に配置すると共に、第1フランジ付筒状体15や第2フランジ付筒状体16の密着フランジ板15a,16aに十字形に跨がるように各々配置した状態で、雄ネジロッド29の両端の雄ネジ部分に各々螺着されたナット部材30を締め付けることによって、第1フランジ付筒状体15及び第2フランジ付筒状体16を耐震壁12の両側から貫通開口11にさらに押し込んだ状態で、端部内周面処理用筒状部材17を締着することができるようになっている。
【0035】
そして、本実施形態では、上述のようにして端部内周面処理用筒状部材17を貫通開口11に取り付けることで形成された、端部内周面処理用筒状部材17の筒状本体15b,16b及び両側の密着フランジ板15a,16aと、アスベスト製筒状部材13が付着した貫通開口11の内周面との間の充填空間18に、無収縮モルタルを注入充填して充填モルタル層20(図3参照)を形成する。
【0036】
すなわち、本実施形態では、図8及び図9(a),(b)に示すように、例えば第2フランジ付筒状体16の密着フランジ板16aの最下部に開口形成されたモルタル注入口23に注入パイプ31を挿入配置すると共に、第2フランジ付筒状体16の密着フランジ板16aの最上部及び第1フランジ付筒状体15の密着フランジ板15aの最上部に開口形成されたエア抜き開口22に各々エア抜きパイプ32を挿入配置した状態で、注入パイプ31に注入用圧入ホース33を接続して、例えば公知のグラウト用ポンプを介してモルタルホッパーから送られてくる無収縮モルタルを、充填空間18の下部から上部に向けて、充填空間18内の空気をエア抜きパイプ32を介して排出しながら連続的に注入充填してゆく。
【0037】
また、注入充填された無収縮モルタルが、充填空間18の最上部に達した後に、さらに注入を続けて、例えばエア抜きパイプ32の貫通開口11よりも上方に開口する先端開口から充填された無収縮モルタルが漏れ出るのを確認したら(図9(b)参照)、充填空間18に無収縮モルタルが隙間無く十分に充填されたものと判断して、無収縮モルタルの供給をストップする。ここで、無収縮モルタルとしては、各種の混和材を配合することにより優れた膨張又は収縮低減効果を備える、土木・建築用の材料として公知の各種の無収縮モルタルを用いることができる。
【0038】
しかる後に、図10に示すように、注入用圧入ホース33、注入パイプ31、及びエア抜きパイプ32を取り外すと共に、押し込み金具27を取り付けたままの状態で所定時間用養生を行う。またエポキシ樹脂系接着剤25や塩ビ管専用接着材26が硬化すると共に、無収縮モルタルが硬化して充填モルタル層20が形成されたら、ナット部材30を緩めて押し込み金具27を撤去し、さらに密着フランジ板15a,16aのモルタル注入口23やエア抜き開口22に例えばエポキシ樹脂系接着剤を充填してこれらを閉塞することにより、図3(a)〜(c)に示すような本実施形態の貫通開口11の内周面封じ込め構造10が形成されることになる。
【0039】
そして、上述の構成を有する本実施形態の貫通開口11の内周面封じ込め構造10によれば、コンクリート製の耐震壁12に形成された貫通開口11の内周面に付着物として付着したアスベスト製筒状部材13を、除去することなく簡易に且つ効果的に封じ込めることができる。
【0040】
すなわち、本実施形態によれば、密着フランジ板15a,16aが設けられた第1フランジ付筒状体15及び第2フランジ付筒状体16を含む硬質塩化ビニル製の端部内周面処理用筒状部材17を、エポキシ樹脂系接着剤25を介して密着フランジ板15a,16aを耐震壁12の両側の壁面に各々密着接合させつつ設置すると共に、設置した端部内周面処理用筒状部材17とアスベスト製筒状部材13が付着した貫通開口11の内周面との間の充填空間18に、無収縮モルタルを注入充填して充填モルタル層20を形成するだけの簡易な構成によって、貫通開口11の内周面に付着したアスベスト製筒状部材13を、除去することなく、周囲の環境に影響を及ぼさないように確実に封じ込めておくことが可能になる。
【0041】
図11(a)〜(c)は、本発明の好ましい他の実施形態に係る貫通開口の内周面封じ込め構造10’を構成する端部内周面処理用筒状部材17’を、貫通開口11’に取り付けた状態を説明するものである。すなわち、図11(a)〜(c)に示す端部内周面処理用筒状部材17’は、図1及び図2における耐震壁12の下端縁部に開口形成された略半円形の断面形状を有する貫通開口11’に取り付けて用いられるものである。本他の実施形態の端部内周面処理用筒状部材17’は、耐震壁12の一方の壁面における貫通開口11’の開口周縁部に密着接合される密着フランジ板15a’を有する、略半円形の中空断面形状を備える第1フランジ付筒状体15’と、耐震壁12の他方の壁面における貫通開口11’の開口周縁部に密着接合される密着フランジ板16a’を有する、略半円形の中空断面形状を備える第2フランジ付筒状体16’との2部材を、貫通開口11の軸方向に連設配置することによって設けられている。
【0042】
そして、このような略半円形の中空断面形状を有する端部内周面処理用筒状部材17’を、略半円形の断面形状を有する貫通開口11’に取り付けて構成される内周面封じ込め構造10’によっても、設置した端部内周面処理用筒状部材17’と、アスベスト製筒状部材13’が付着した貫通開口11’の内周面との間の充填空間18’に、無収縮モルタルを注入充填して充填モルタル層を形成するだけの簡易な構成によって、上述の実施形態と同様の作用効果を奏することになる。
【0043】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることなく種々の変更が可能である。例えば、本発明の内周面封じ込め構造は、円形断面や半円形断面の貫通開口に限定されることなく、矩形やその他の種々の断面形状の貫通開口の内周面に付着した付着物に対しても、端部内周面処理用筒状部材をこれらと相似又は略相似の中空断面形状を有するように形成することによって、効果的に封じ込めることが可能になる。また、本発明の内周面封じ込め構造によって封じ込められる付着物は、アスベストを含む付着物である必要は必ずしも無く、例えば有害物質等のその他の種々の付着物であっても良い。さらに、内周面の付着物を封じ込めるべき貫通開口が形成されたコンクリート製の壁体は、貯留槽の耐震壁である必要は必ずしもなく、水中又は地上に設置されるその他の種々のコンクリート製の壁体であっても良い。
【符号の説明】
【0044】
10,10’ 貫通開口の内周面封じ込め構造
11,11’ 貫通開口
12 耐震壁(コンクリート製の壁体)
13,13’ アスベスト製筒状部材13
15,15’ 第1フランジ付筒状体
15a,15a’ 密着フランジ板
15b,15b’ 筒状本体
16,16’ 第2フランジ付筒状体
16a,16a’ 密着フランジ板
16b,16b’ 筒状本体
17,17’ 端部内周面処理用筒状部材
18 充填空間
20 充填モルタル層
21 スペーサリブ
22 エア抜き開口
23 モルタル注入口
24 コロ受けブロック
25 エポキシ樹脂系接着剤
26 塩ビ管専用接着材
27 押し込み金具
28 十字金物
29 雄ネジロッド
30 ナット部材
31 注入パイプ
32 エア抜きパイプ
33 注入用圧入ホース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート製の壁体に形成された貫通開口の内周面に付着した付着物を封じ込めるための貫通開口の内周面封じ込め構造であって、
前記壁体の壁面における前記貫通開口の開口周縁部に密着接合される密着フランジ板が設けられた第1フランジ付筒状体及び第2フランジ付筒状体を含んで構成されると共に、前記貫通開口の軸方向に連設一体化された硬質塩化ビニル製の複数の筒状体からなる、前記貫通開口の断面形状と相似又は略相似の中空断面形状を有する端部内周面処理用筒状部材と、
前記第1フランジ付筒状体及び第2フランジ付筒状体の前記密着フランジ板を前記壁体の両側の壁面に各々密着接合させるエポキシ樹脂系接着剤と、
前記端部内周面処理用筒状部材と前記付着物が付着した前記貫通開口の内周面との間の充填空間に、前記端部内周面処理用筒状部材に設けられた注入口から無収縮モルタルを注入充填して形成された充填モルタル層とからなる貫通開口の内周面封じ込め構造。
【請求項2】
前記貫通開口が円形の断面形状を有しており、前記端部内周面処理用筒状部材が円形又は略円形の中空断面形状を有している請求項1記載の貫通開口の内周面封じ込め構造。
【請求項3】
前記端部内周面処理用筒状部材の外周面から外側に一体として突出して、前記貫通開口の内周面に外側端部が当接することにより前記端部内周面処理用筒状部材と前記付着物が付着した前記貫通開口の内周面との間の充填空間の幅を確保する、スペーサリブが設けられている請求項1又は2記載の貫通開口の内周面封じ込め構造。
【請求項4】
前記貫通開口の内周面に付着した付着物がアスベストを含む付着物である請求項1〜3のいずれかに記載の貫通開口の内周面封じ込め構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−117177(P2011−117177A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−275153(P2009−275153)
【出願日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【出願人】(000140292)株式会社奥村組 (469)
【Fターム(参考)】