説明

貼り合わせSOIウェーハの反りを算出する方法、及び貼り合わせSOIウェーハの製造方法

【課題】貼り合わせSOIウェーハの反りを予め算出する方法を提供する。
【解決手段】ボンドウェーハ1とベースウェーハ2とを貼り合わせた後、ボンドウェーハ1を薄膜化することによって、ベースウェーハ2上のBOX層と、該BOX層上のSOI層とからなる構造のSOIウェーハ3を作製し、エピタキシャル層を成長することによって作製される貼り合わせSOIウェーハの反りを算出する方法であって、シリコン単結晶ウェーハにエピタキシャル成長を行った際に発生する反りAを算出し、エピタキシャル成長用SOIウェーハのBOX層の厚さに起因する反りBを算出し、さらに、貼り合わせ前のベースウェーハの反りの実測値を反りCとし、これらの反りの総和(A+B+C)を、貼り合わせSOIウェーハの反りとして算出することを特徴とする貼り合わせSOIウェーハの反りを算出する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貼り合わせSOIウェーハの反りを算出する方法、及びその算出方法を用いた貼り合わせSOIウェーハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子用のウェーハの一つとして、絶縁膜であるシリコン酸化膜の上にシリコン層を形成したSOI(Silicon On Insulator)ウェーハがある。このSOIウェーハは、デバイス作製領域となる基板表層部のシリコン層(以下、SOI層と呼ぶことがある)が埋め込み酸化膜層(BOX層)により基板内部と電気的に分離されているため、寄生容量が小さく、耐放射性能力が高いなどの特徴を有する。そのため、高速・低消費電力動作、ソフトエラー防止などの効果が期待され、高性能半導体素子用の基板として有望視されている。
【0003】
このSOIウェーハを製造する代表的な方法として、ウェーハ貼り合わせ法やSIMOX法が挙げられる。
ウェーハ貼り合わせ法は、例えば2枚のシリコン単結晶ウェーハのうちの少なくとも一方の表面に熱酸化膜を形成した後、この形成した熱酸化膜を介して2枚のウェーハを密着させ、結合熱処理を施すことによって結合力を高め、その後に片方のウェーハ(SOI層を形成するウェーハ(以下、ボンドウェーハ))を鏡面研磨等により薄膜化することによってSOIウェーハを製造する方法である。また、この薄膜化の方法としては、ボンドウェーハを所望の厚さまで研削、研磨する方法や、予めボンドウェーハの内部に水素イオンまたは希ガスイオンの少なくとも1種類を注入してイオン注入層を形成しておき、貼り合わせ後にイオン注入層においてボンドウェーハを剥離する方法等があり、後者を用いたウェーハ貼り合わせ法は、一般的にイオン注入剥離法と呼ばれている。
【0004】
一方、SIMOX法は、単結晶シリコン基板の内部に酸素をイオン注入し、その後に高温熱処理(酸化膜形成熱処理)を行って注入した酸素とシリコンとを反応させてBOX層を形成することによってSOI基板を製造する方法である。
【0005】
上記の代表的な2つの手法のうち、ウェーハ貼り合わせ法は、作製されるSOI層やBOX層の厚さが自由に設定できるという優位性があるため、様々なデバイス用途に適用することが可能である。
特に、ウェーハ貼り合わせ法の一つであるイオン注入剥離法は、上記優位性に加え、さらに優れた膜厚均一性を有する特徴があり、ウェーハ全面で安定したデバイス特性を得ることができる。しかしながら、SOI層の厚さが数μmと厚くなると、イオン注入機の最大加速電圧の制限から、イオン注入剥離法だけでは対応することができなくなる。これを解決する方法として、イオン注入剥離法で作製した貼り合わせウェーハの表面にエピタキシャル成長を行う方法がある(特許文献1)。この方法を用いることで、SOI層の厚さを数μmと自由に厚く設定できると同時に、研削・研磨法による貼り合わせウェーハで得ることができない、高いSOI層厚の均一性を得ることができる。
【0006】
一方、貼り合わせSOIウェーハにおいて、デバイス構造上の要求から、低抵抗率(0.1Ωcm以下)のSOI層をシード層としてその上に通常抵抗率(1〜20Ωcm程度)のエピタキシャル層を形成したSOIウェーハが必要とされる場合がある。
【0007】
ところで、貼り合わせSOIウェーハは、その断面構造に起因してSOI層側が凸形状に反ることが知られている。この反りは大きくなると、デバイス製造プロセスのフォトリソ工程等において不良の原因となる。そこで、この貼り合わせSOIウェーハの反りを抑制するため、特許文献2、特許文献3では、貼り合わせ前のベースウェーハに、貼り合わせ面側が凹形状となるような反りを予め形成しておくことが記載されている。
【0008】
また、特許文献4には、研磨により薄膜化して作製された貼り合わせSOIウェーハのベースウェーハの上下面(貼り合わせ面側と裏面側)の酸化膜厚を調整することによって、反りを低減できることが記載されている。
イオン注入剥離法で貼り合わせSOIウェーハを作製する場合においても、その断面構造に起因してSOI層側が凸形状に反るが、イオン注入剥離法でSOI層を形成する場合、形成されるSOI層は1μm以下(多くの場合、数100nm以下)の薄膜であるので、特許文献4に記載されている様に、ベースウェーハの上下面(貼り合わせ面側と裏面側)に同等の酸化膜を形成することによって反りを十分に低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−30995号公報
【特許文献2】特開平3−55822号公報
【特許文献3】特開2009−302163号公報
【特許文献4】特開平03−250615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、このような従来の方法により、反りを低減させた貼り合わせSOIウェーハを製造しても、該貼り合わせSOIウェーハのSOI層の表面にエピタキシャル層を数μm程度形成すると、SOIウェーハが大きく反ってしまうという問題点があることが判明した。特に、低抵抗率のSOI層上にエピタキシャル層を成長させると顕著に反りが発生した。
【0011】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、SOI層/BOX層/ベースウェーハからなる構造のエピタキシャル成長用SOIウェーハを作製し、その後、SOI層の表面にエピタキシャル層を成長することによって作製される貼り合わせSOIウェーハの反りを予め算出する方法を提供することを目的とし、更に、その算出方法を用いることによって、所望の反りを有する貼り合わせSOIウェーハを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明は、
シリコン単結晶ウェーハからなるボンドウェーハ及びベースウェーハのうちの少なくとも一方の表面に熱酸化膜を形成し、該熱酸化膜を介して前記ボンドウェーハと前記ベースウェーハとを貼り合わせた後、前記ボンドウェーハを薄膜化することによって、前記ベースウェーハ上のBOX層と、該BOX層上のSOI層とからなる構造のエピタキシャル成長用SOIウェーハを作製し、その後、前記SOI層の表面にエピタキシャル層を成長することによって作製される貼り合わせSOIウェーハの反りを算出する方法であって、
前記エピタキシャル成長用SOIウェーハが前記ボンドウェーハのドーパント濃度と同一のドーパント濃度を有するシリコン単結晶ウェーハであると仮想し、該仮想シリコン単結晶ウェーハにエピタキシャル成長を行った際に発生する反りAを算出し、前記エピタキシャル成長用SOIウェーハの前記BOX層の厚さに起因する反りBを算出し、さらに、前記貼り合わせ前のベースウェーハの反りの実測値を反りCとし、これらの反りの総和(A+B+C)を、前記貼り合わせSOIウェーハの反りとして算出することを特徴とする貼り合わせSOIウェーハの反りを算出する方法を提供する。
【0013】
このような算出方法によれば、実際のエピタキシャル成長用SOIウェーハの作製やエピタキシャル成長を行わずに貼り合わせSOIウェーハの反りを算出することができる。
【0014】
この場合、前記エピタキシャル成長用SOIウェーハの作製は、イオン注入剥離法で行うことができる。
イオン注入剥離法は、作製されるSOI層等の厚さが自由に設定できるという優位性に加え、優れた膜均一性を有するため、様々なデバイス用途に適用されるが、本発明は、このようなイオン注入剥離法により貼り合わせウェーハを製造する場合に好適である。
【0015】
また、前記ボンドウェーハとして、ドーパントがボロンであり、ドーパント濃度が1E18/cm(1×1018/cm)以上のp型シリコン単結晶ウェーハを用いることができる。
このようなボンドウェーハを用いて貼り合わせSOIウェーハを作製する場合に、特に反りが発生しやすいことから、反りを正確に算出できる本発明の算出方法は特に有用である。
【0016】
また本発明は、シリコン単結晶ウェーハからなるボンドウェーハ及びベースウェーハのうちの少なくとも一方の表面に熱酸化膜を形成し、該熱酸化膜を介して前記ボンドウェーハと前記ベースウェーハとを貼り合わせた後、前記ボンドウェーハを薄膜化することによって、前記ベースウェーハ上のBOX層と、該BOX層上のSOI層とからなる構造のエピタキシャル成長用SOIウェーハを作製し、その後、前記SOI層の表面にエピタキシャル層を成長する貼り合わせSOIウェーハの製造方法において、
前記本発明の貼り合わせSOIウェーハの反りを算出する方法によって算出された反りが所望の値となるように、前記貼り合わせ前のベースウェーハの反りを調整することを特徴とする貼り合わせSOIウェーハの製造方法を提供する。
【0017】
このような本発明の製造方法によれば、実際のエピタキシャル成長後に所望の反りを有する貼り合わせSOIウェーハが得られる様に、製造条件を調整することできるため、高性能半導体素子用の基板等として有用なSOI貼り合わせウェーハを効率良く製造することができる。
【発明の効果】
【0018】
以上詳述したように、本発明の算出方法によれば、エピタキシャル成長用SOIウェーハのSOI層の表面にエピタキシャル層を成長することによって作製される貼り合わせSOIウェーハの反りを、実際の製造を行うことなく算出することができる。そのため、コスト削減や時間短縮等が可能で、工業的に優れている。また、SOIウェーハの仕様を決定する場合にも、好適に使用することができる。
また、本発明の製造方法によれば、本発明の算出方法により算出した反りをもとに、貼り合わせ前のベースウェーハの反りを調整するだけで、所望の値の反りを有する貼り合わせSOIウェーハを、簡便かつ確実に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例1において、抵抗率0.007Ωcmのボンドウェーハを用いた場合のSOIウェーハの製造方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について、より詳細に説明する。
前述のように、従来の方法により反りを低減させた貼り合わせSOIウェーハを製造しても、該貼り合わせウェーハのSOI層の表面にエピタキシャル層を堆積した場合、エピタキシャル層を形成する前のSOIウェーハの反りはほぼ同等であるにも関わらず、エピタキシャル層形成後にSOIウェーハが大きく反ってしまうという問題点があることを本発明者らは発見した。
【0021】
そこでこのような問題点を解決すべく、本発明者らは、ボロンをドーパントとし、抵抗率の異なるp型(抵抗率0.1Ωcm以下、特には0.01Ωcm以下)薄膜SOI層を有するエピタキシャル成長用SOIウェーハをイオン注入剥離法により作製し、SOI層をシード層としてそれぞれエピタキシャル層を成長したものを用いて、更に詳細に調査した。その結果、特に、エピタキシャル層の抵抗率がシード層であるSOI層よりも高い抵抗率(0.1Ωcmより高い抵抗率、特には1Ωcm以上)の場合に、SOI層側が凸形状となるように反ることを見出した。
【0022】
一般的に、SOIウェーハではない通常のシリコン単結晶ウェーハにエピタキシャル層を形成する場合、エピタキシャル成長用シリコンウェーハにおける抵抗値とエピタキシャル層における抵抗値とが異なると、反りが発生することについては従来から知られていた現象である(特許文献3等)。
しかしながら、貼り合わせSOIウェーハの場合、SOI層上に数μmのエピタキシャル層を形成しただけでSOI層側が凸形状となる方向に大きく反ってしまうことは、当業者と言えど予測していなかった現象であった。
【0023】
本発明者らの調査によれば、イオン注入剥離法で作製したSOIウェーハの場合、p型薄膜SOI層の表面にエピタキシャル成長を行うことにより反りが大きくなってしまう現象は、格子定数の小さいp型薄膜SOI層(シード層)の上に、それよりも格子定数の大きいエピタキシャル層を成長させることに起因するものであることがわかった。
イオン注入剥離法で作製されたp型のSOI層は数100nm程度(あるいはそれ以下)の薄膜であり、その下部には同程度の厚さのシリコン酸化膜等の絶縁膜を介して、SOI層の1000倍以上の厚さを有するベースウェーハ(通常抵抗率)が存在するものの、p型薄膜SOI層/絶縁膜層/ベースウェーハの各界面は強く結合しているために、あたかもウェーハ全体がp型のシリコン単結晶ウェーハ(p型ウェーハ)と同等とみなせるようになり、SOI構造でない通常のシリコン単結晶ウェーハにエピタキシャル層を形成する場合と同様に、p型薄膜SOI層とエピタキシャル層の抵抗率とが異なると、反りが発生するものと考えられる。
【0024】
以上のように、ボロンをドーパントとするp型薄膜SOI層の表面に、低ドーパント濃度のエピタキシャル成長を行うことにより反りが大きくなってしまう現象は、シード層であるSOI層とエピタキシャル層との間のドーパント濃度差に起因する格子定数の相違に原因がある。従って、ボロン以外のドーパントである場合や、イオン注入剥離法以外の方法でエピタキシャル成長用SOIウェーハを作製した場合であっても、SOI層とエピタキシャル層との間の格子定数が相違すれば、同様に反りを生ずることがわかった。
【0025】
そこで、本発明者らは、SOI層の表面にエピタキシャル層を成長することによって作製される貼り合わせSOIウェーハの反りを、実際のエピタキシャル成長用SOIウェーハの作製やエピタキシャル成長を行わずに予測することができれば、実際のエピタキシャル成長後に、所望の反りを有する貼り合わせSOIウェーハが得られる様に製造条件を調整することができるのではないかと考え、鋭意検討を行った。
【0026】
その結果、エピタキシャル成長用SOIウェーハを、そのSOI層を形成したボンドウェーハのドーパント濃度と同一のドーパント濃度を有するシリコン単結晶ウェーハであると仮想し、その仮想シリコン単結晶ウェーハにエピタキシャル成長を行った際に発生する反りを算出すれば、エピタキシャル成長後の貼り合わせSOIウェーハの反りを推定することができることを見出し、本発明の算出方法及び製造方法を完成させた。
【0027】
以下、本発明について更に詳述するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
本発明は、シリコン単結晶ウェーハからなるボンドウェーハ及びベースウェーハのうちの少なくとも一方の表面に熱酸化膜を形成し、該熱酸化膜を介して前記ボンドウェーハと前記ベースウェーハとを貼り合わせた後、前記ボンドウェーハを薄膜化することによって、前記ベースウェーハ上のBOX層と、該BOX層上のSOI層とからなる構造のエピタキシャル成長用SOIウェーハを作製し、その後、前記SOI層の表面にエピタキシャル層を成長することによって作製される貼り合わせSOIウェーハの反りを算出する方法であって、前記エピタキシャル成長用SOIウェーハが前記ボンドウェーハのドーパント濃度と同一のドーパント濃度を有するシリコン単結晶ウェーハであると仮想し、該仮想シリコン単結晶ウェーハにエピタキシャル成長を行った際に発生する反りAを算出し、前記エピタキシャル成長用SOIウェーハの前記BOX層の厚さに起因する反りBを算出し、さらに、前記貼り合わせ前のベースウェーハの反りの実測値を反りCとし、これらの反りの総和(A+B+C)を、前記貼り合わせSOIウェーハの反りとして算出することを特徴とする貼り合わせSOIウェーハの反りを算出する方法である。
【0028】
ここで、エピタキシャル成長用のSOIウェーハは、常法により作製されたもの、例えばイオン注入剥離法で作製されたものを用いることができる。
また、このとき用いられるボンドウェーハとしては、ウェーハ全体に不純物原子がドープされたシリコン単結晶ウェーハを用いることができ、このようなシリコン単結晶ウェーハとして、ドーパントがボロンであり、ドーパント濃度が1E18/cm以上のp型シリコン単結晶ウェーハを挙げることができる。尚、この場合、ドーパント濃度の上限値は、特に限定されないが、例えばドーパントのシリコン単結晶への固溶限界濃度以下とすることができる。
【0029】
この場合、ボンドウェーハは、ウェーハ全体に均一にドーパントを有するもののみならず、表面にエピタキシャル層を有する等ボンドウェーハの貼り合わせる表面のドーパント濃度がバルク部と異なるものを用いることもできる。この場合、本発明における「ボンドウェーハのドーパント濃度」とは、貼り合わせる表面のドーパント濃度のことを意味する。
従って、本発明でいうボンドウェーハのドーパント濃度とは、SOI層のドーパント濃度に一致する。
【0030】
[反りAの算出法]
反りAは、エピタキシャル成長用SOIウェーハがボンドウェーハのドーパント濃度と同一のドーパント濃度を有するシリコン単結晶ウェーハであると仮想し、該仮想シリコン単結晶ウェーハにエピタキシャル成長を行った際に発生する反りである。
【0031】
不純物濃度の高いシリコン単結晶ウェーハ上に、ある不純物を高濃度にドープしたエピタキシャル層を形成した場合を考えると、結晶格子の不整合に起因するエピタキシャル層中のひずみeは、弾性変形の範囲では次式(1)のように表される。
e=Δa/aSi (1)
ここで、aSiはシリコン単結晶の格子定数(5.431Å)、Δaは不純物の導入によって生じた格子定数の変化である。
【0032】
また、エピタキシャル層膜厚が一定の時には、エピタキシャル層中のひずみeは、次式(2)に示されるように、シリコン単結晶ウェーハ中の不純物濃度yに比例する。
e=βy (2)
ここで、βは比例係数である。このβに対しては一般的に次式(3)が提案されている。
β=(1−r/rSi)・N−1 (3)
ここで、rは不純物原子の共有結合半径、rSiはシリコン原子の結合半径(1.17Å)、Nはシリコンの原子密度(5×1022atoms/cm)である。
尚、主な不純物原子(ドーパント)の共有結合半径(単位:Å)は次の通りである。
B(ボロン):0.88、P(リン):1.10、Sb(アンチモン):1.35、As(ヒ素):1.18
【0033】
また、エピタキシャル層のひずみeとウェーハの彎曲の曲率半径Rとの間には次式(4)の関係がある。
1/R=6t・t・e/(t+t) (4)
ここで、tは基板の厚さ、tはエピタキシャル層の厚さである。
【0034】
曲率半径とウェーハ半径が分かれば、ウェーハの反りAは、次式(5)により算出することができる。
A=R−√(R−W) (5)
ここで、Wはウェーハの半径である。
[参考文献:角野浩二監修 半導体の結晶欠陥制御の科学と技術 シリコン編 (サイエンスフォーラム 1993年)]
【0035】
例えば、エピタキシャル成長用SOIウェーハのボンドウェーハとして、直径300mm、抵抗率0.005Ωcm(ボロンドープ)、ウェーハ厚さ775μmのシリコン単結晶ウェーハ(W=1.5E5μm、y=2.0E19atoms/cm、t=775μm、rSi=1.17Å、r=0.88Å)を用いる場合、仮想シリコン単結晶ウェーハは、直径300mm、抵抗率0.005Ωcm(ボロンドープ)、ウェーハ厚さ775μmのシリコン単結晶ウェーハ(W=1.5E5μm、y=2.0E19atoms/cm、t=775μm、rSi=1.17Å、r=0.88Å)であり、抵抗率10Ωcm、膜厚3.4μmのエピタキシャル層(t=3.4μm)を形成した際の反りAは、以下の通り、37.4μmと算出される。
【0036】
β=(1−r/rSi)・N−1=(1−0.88/1.17)/5E22=4.96E−24
e=βy=4.96E−24×2.0E19 = 9.91E−5
1/R=6t・t・e/(t+t)=6×3.4×775×9.91E−5/(775+3.4)=3.32E−9
R=3.01E8
A=R−√(R−W)=3.01E8−√((3.01E8)−(1.5E5))=37.4(μm)
【0037】
[反りBの算出法]
反りBは、エピタキシャル成長用SOIウェーハのBOX層の厚さに起因する反りであり、この反りBは、ウェーハ径とBOX層厚に強く依存することが経験的に分かっている。
すなわち、ウェーハ径と作製するBOX層厚がわかっていれば、実際のエピタキシャル成長用SOIウェーハの作製を行わずに、反りBを算出することができる。
【0038】
例えば、直径300mmSOIウェーハ(ベースウェーハ厚:775μm)の反りB(μm)は、実験データに基づいて算出した次式で与えられる。
B=174t+15.2
ここで、t(μm)はBOX層厚である。
【0039】
また、直径200mmSOIウェーハ(ベースウェーハ厚:725μm)の場合の反りB(μm)は、経験則として、
B=100t
で与えられることがわかっている。
【0040】
このとき、SOI層厚は、その厚さが薄ければ、反りに影響しないことが分かっている。
下記に、直径300mmウェーハで、SOI層厚を変えたときの反りデータ(実測値)を示す。
【表1】

【0041】
このように、SOI層厚を変化させても、反りはほとんど変化していない。
尚、上表はSOI層厚が300nm程度までのデータであるが、イオン注入剥離法で通常作製される程度の厚さ(1μm程度以下)であれば、SOI層厚は反りにほとんど影響しない。
【0042】
[反りCの測定]
反りCは、エピタキシャル成長用SOIウェーハを作製する際、具体的には、ボンドウェーハとの貼り合わせ前の、ベースウェーハの反りの実測値である。
反りCの測定方法は特に限定されず、例えば反り測定器(例えば、ADE社製AFS)により測定し、反りの大きさ(μm)と反りの方向(凹、凸)を求めることができる。
【0043】
尚、ベースウェーハの反り測定は各ウェーハ毎に測定してもよいが、同一の加工条件で作製されたベースウェーハであればウェーハ間の差異は小さいので、1枚から数枚程度を抜き取って測定し、その平均値をベースウェーハの反りCとすることもできる。
【0044】
[反りの総和(A+B+C)の算出]
前記の通り求めたA,B,Cの総和を算出することによって、エピタキシャル成長後の貼り合わせSOIウェーハの反り(大きさ、方向)を求めることができる。
【0045】
以上のようにして求めたエピタキシャル成長後の貼り合わせSOIウェーハの反りをもとに、本発明は、シリコン単結晶ウェーハからなるボンドウェーハ及びベースウェーハのうちの少なくとも一方の表面に熱酸化膜を形成し、該熱酸化膜を介して前記ボンドウェーハと前記ベースウェーハとを貼り合わせた後、前記ボンドウェーハを薄膜化することによって、前記ベースウェーハ上のBOX層と、該BOX層上のSOI層とからなる構造のエピタキシャル成長用SOIウェーハを作製し、その後、前記SOI層の表面にエピタキシャル層を成長する貼り合わせSOIウェーハの製造方法において、前記本発明の貼り合わせSOIウェーハの反りを算出する方法によって算出された反りが所望の値となるように、前記貼り合わせ前のベースウェーハの反りを調整することを特徴とする貼り合わせSOIウェーハの製造方法を提供する。
【0046】
すなわち、本発明の算出方法により算出した反りが所望の値(SOIウェーハの仕様により決定される)になるように調整するためには、ベースウェーハの反りCの値を調整することで実現することができる。SOI層のドーパント濃度(ボンドウェーハのドーパント濃度)やBOX層の厚さは、仕様により決定され変更ができないため、予め用いるベースウェーハの反りを調整する。これには、貼り合わせ前のベースウェーハとして、必要な反りを有するベースウェーハ(例えば、貼り合わせ面が凹形状を有するウェーハ)を準備する。このような形状のベースウェーハは、シリコン単結晶インゴットからウェーハの切り出し方を調整したり、貼り合わせ面とは反対側の面だけに熱酸化膜を残したりすることによって得ることができる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)ボンドウェーハのドーパント:B
下記表2に示す製造条件で貼り合わせSOIウェーハを製造することを想定して、反りA及びBを算出し、ベースウェーハの反りの実測値(反りC)との総和により、貼り合わせSOIウェーハの反りを算出した。結果を表3に示す。
[製造条件]
【表2】

【0048】
[反り算出結果]
【表3】

【0049】
[実測値による確認]
抵抗率0.007Ωcmと0.006Ωcmのボンドウェーハを用いて、上記の製造条件でエピタキシャル成長まで行った貼り合わせSOIウェーハを製造し、反りを測定したところ、反りの大きさはそれぞれ65μm、70μm、反りの方向はいずれもSOI層側が凸(正の値)であり、上記の算出結果と良く一致していた。
【0050】
[所望の反りを有するSOIウェーハの製造](図1参照)
抵抗率0.007Ωcmと0.006Ωcmのボンドウェーハ1を用い、エピタキシャル成長後の反りが20μm以下でSOI層側が凸形状の貼り合わせSOIウェーハを作製するため、貼り合わせ前の反りが−55μmのベースウェーハ2(貼り合わせ面側が凹)を用い、それ以外は上記と同一の製造条件でエピタキシャル成長まで行った貼り合わせSOIウェーハを製造した。
その結果、製造された貼り合わせSOIウェーハ3の反りの大きさはそれぞれ10μm、15μm、反りの方向はいずれもSOI層側が凸(正の値)であり、所望の反り(20μm以下、凸形状)を有するSOIウェーハが得られることを確認した。
【0051】
(実施例2)ボンドウェーハのドーパント:P
下記表4に示す製造条件で貼り合わせSOIウェーハを製造することを想定して、反りA,Bを算出し、ベースウェーハの反りの実測値(反りC)との総和により、貼り合わせSOIウェーハの反りを算出した。結果を表5に示す。
[製造条件]
【表4】

【0052】
[反り算出結果]
【表5】

【0053】
[実測値による確認]
抵抗率0.005Ωcmのボンドウェーハを用いて、上記の製造条件でエピタキシャル成長まで行った貼り合わせSOIウェーハを製造し、反りを測定したところ、反りの大きさは46μm、反りの方向はいずれもSOI層側が凸(正の値)であり、上記の算出結果と良く一致していた。
Pでは、ドーパントによる反り(A)の影響は小さく、BOX層厚の反り(B)の影響が大きいことが分かった。
【0054】
[所望の反りを有するSOIウェーハの製造]
抵抗率0.005Ωcmのボンドウェーハを用い、エピタキシャル成長後の反りが20μm以下でSOI層側が凸形状の貼り合わせSOIウェーハを製造するため、貼り合わせ前の反りが−32μmのベースウェーハ(貼り合わせ面側が凹)を用い、それ以外は上記と同一の製造条件でエピタキシャル成長まで行った貼り合わせSOIウェーハを製造した。
その結果、製造された貼り合わせSOIウェーハの反りの大きさは15μm、反りの方向はいずれもSOI層側が凸(正の値)であり、所望の反り(20μm以下、凸形状)を有するSOIウェーハが得られることを確認した。
【0055】
(実施例3)ボンドウェーハのドーパント:Sb
下記表6に示す製造条件で貼り合わせSOIウェーハを製造することを想定して、反りA,Bを算出し、ベースウェーハの反りの実測値(反りC)との総和により、貼り合わせSOIウェーハの反りを算出した。結果を表7に示す。
[製造条件]
【表6】

【0056】
[反り算出結果]
【表7】

【0057】
[実測値による確認]
抵抗率0.01Ωcmのボンドウェーハを用いて、上記の製造条件でエピタキシャル成長まで行った貼り合わせSOIウェーハを製造し、反りを測定したところ、反りの大きさは33μm、反りの方向はいずれもSOI層側が凸(正の値)であり、上記の算出結果と良く一致していた。
Sbの場合、ドーパントによる反り(A)は凹(負の値)であったが、BOX厚による反り(B)が凸(正の値)で大きかったので、全体として、SOI層側が凸(正の値)に反っていた。
【0058】
[所望の反りを有するSOIウェーハの製造]
抵抗率0.01Ωcmのボンドウェーハを用い、エピタキシャル成長後の反りが20μm以下でSOI層側が凸形状の貼り合わせSOIウェーハを製造するため、貼り合わせ前の反りが−20μmのベースウェーハ(貼り合わせ面側が凹)を用い、それ以外は上記と同一の製造条件でエピタキシャル成長まで行った貼り合わせSOIウェーハを製造した。
その結果、製造された貼り合わせSOIウェーハの反りの大きさは15μm、反りの方向はいずれもSOI層側が凸(正の値)であり、所望の反り(20μm以下、凸形状)を有するSOIウェーハが得られることを確認した。
【0059】
(実施例4)ボンドウェーハのドーパント:As
下記表8に示す製造条件で貼り合わせSOIウェーハを製造することを想定して、反りA,Bを算出し、ベースウェーハの反りの実測値(反りC)との総和により、貼り合わせSOIウェーハの反りを算出した。結果を表9に示す。
[製造条件]
【表8】

【0060】
[反り算出結果]
【表9】

【0061】
[実測値による確認]
抵抗率0.005Ωcmのボンドウェーハを用いて、上記の製造条件でエピタキシャル成長まで行った貼り合わせSOIウェーハを製造し、反りを測定したところ、反りの大きさは39μm、反りの方向はSOI層側が凸(正の値)であり、上記の算出結果と良く一致していた。
Asの場合、ドーパントによる反りは凹(負の値)であったが、その数値は極めて小さかった。BOX厚による反りが凸(正の値)で大きかったので、全体として、SOI層側が凸(正の値)に反っていた。
【0062】
[所望の反りを有するSOIウェーハの製造]
抵抗率0.005Ωcmのボンドウェーハを用い、エピタキシャル成長後の反りが20μm以下でSOI層側が凸形状の貼り合わせSOIウェーハを製造するため、貼り合わせ前の反りが−25μmのベースウェーハ(貼り合わせ面側が凹)を用い、それ以外は上記と同一の製造条件でエピタキシャル成長まで行った貼り合わせSOIウェーハを製造した。
その結果、製造された貼り合わせSOIウェーハの反りの大きさは15μm、反りの方向はいずれもSOI層側が凸(正の値)であり、所望の反り(20μm以下、凸形状)を有するSOIウェーハが得られることを確認した。
【0063】
尚、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0064】
1…ボンドウェーハ、 2…ベースウェーハ、 3…SOIウェーハ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン単結晶ウェーハからなるボンドウェーハ及びベースウェーハのうちの少なくとも一方の表面に熱酸化膜を形成し、該熱酸化膜を介して前記ボンドウェーハと前記ベースウェーハとを貼り合わせた後、前記ボンドウェーハを薄膜化することによって、前記ベースウェーハ上のBOX層と、該BOX層上のSOI層とからなる構造のエピタキシャル成長用SOIウェーハを作製し、その後、前記SOI層の表面にエピタキシャル層を成長することによって作製される貼り合わせSOIウェーハの反りを算出する方法であって、
前記エピタキシャル成長用SOIウェーハが前記ボンドウェーハのドーパント濃度と同一のドーパント濃度を有するシリコン単結晶ウェーハであると仮想し、該仮想シリコン単結晶ウェーハにエピタキシャル成長を行った際に発生する反りAを算出し、前記エピタキシャル成長用SOIウェーハの前記BOX層の厚さに起因する反りBを算出し、さらに、前記貼り合わせ前のベースウェーハの反りの実測値を反りCとし、これらの反りの総和(A+B+C)を、前記貼り合わせSOIウェーハの反りとして算出することを特徴とする貼り合わせSOIウェーハの反りを算出する方法。
【請求項2】
前記エピタキシャル成長用SOIウェーハの作製を、イオン注入剥離法で行うことを特徴とする請求項1に記載された貼り合わせSOIウェーハの反りを算出する方法。
【請求項3】
前記ボンドウェーハとして、ドーパントがボロンであり、ドーパント濃度が1E18/cm以上のp型シリコン単結晶ウェーハを用いることを特徴とする請求項1または請求項2に記載された貼り合わせSOIウェーハの反りを算出する方法。
【請求項4】
シリコン単結晶ウェーハからなるボンドウェーハ及びベースウェーハのうちの少なくとも一方の表面に熱酸化膜を形成し、該熱酸化膜を介して前記ボンドウェーハと前記ベースウェーハとを貼り合わせた後、前記ボンドウェーハを薄膜化することによって、前記ベースウェーハ上のBOX層と、該BOX層上のSOI層とからなる構造のエピタキシャル成長用SOIウェーハを作製し、その後、前記SOI層の表面にエピタキシャル層を成長する貼り合わせSOIウェーハの製造方法において、
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載された貼り合わせSOIウェーハの反りを算出する方法によって算出された反りが所望の値となるように、前記貼り合わせ前のベースウェーハの反りを調整することを特徴とする貼り合わせSOIウェーハの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−77652(P2013−77652A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−215617(P2011−215617)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000190149)信越半導体株式会社 (867)