説明

貼付剤および貼付製剤

【課題】発汗時などの水分存在下で、剥離時に皮膚への糊残りの発生が抑制された貼付剤の提供。
【解決手段】支持体1の少なくとも片面に粘着剤層2を備える貼付剤10であって、粘着剤層は架橋されており、粘着剤層は下記(A)成分〜(C)成分が配合されて得られる貼付剤:(A)カルボキシル基を含有する単量体と、(メタ)アクリル酸エステルと、ビニルピロリドンとを必須成分として共重合させた共重合体;(B)塩基性基を含有する単量体と、(メタ)アクリル酸エステルとを必須成分として共重合させた共重合体;および(C)液状成分。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、支持体の少なくとも片面に粘着剤層を備える貼付剤および貼付製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、皮膚を保護するなどの用途を有する貼付剤、および薬物を皮膚面を通して生体内へ投与するなどの用途を有するハップ剤やテープ状製剤などの貼付製剤が種々開発されており、関連する技術は、例えば次の文献に記載されている。
【0003】
特表平10−504552号公報(特許文献1)には、(a)共重合された(メタ)アクリル酸を所定割合含む自己接着性ポリアクリレートコポリマーと、(b)塩基性アミノ基類を含むポリマーと、(c)可塑剤とを含む医療用感圧性接着剤を、ポリエステルシート上に塗布した貼付剤が開示されている。この文献には、この接着剤は、発汗などの水分の存在下でより強力な粘着性に変わる最小程度の粘着性を有するべきことが述べられている。
【0004】
しかし、この文献には、ビニルピロリドンが開示されおらず、さらにビニルピロリドンを、カルボキシル基を含有する単量体と、(メタ)アクリル酸エステルと共重合させることは示唆すらされていない。
【0005】
特開2000−44904号公報(特許文献2)には、アクリル酸2−エチルヘキシルエステルと、アクリル酸とを所定割合で共重合させた共重合体(A成分)と、メタクリル酸アミノアルキルエステル/メタクリル酸アルキルエステル共重合体(B成分)と、所定の液状成分(C成分)と、薬物とを配合し、架橋させた粘着剤層を有する貼付製剤が開示されている(実施例3)。そして、このような貼付製剤は、薬物溶解性と皮膚接着性のバランスが取れたものであったことが述べられている。
【0006】
しかし、この文献には、塩基性基を含有する単量体を有する特定の共重合体を、ビニルピロリドンを有する共重合体とは別個の共重合体として粘着剤層に含有させることは開示も示唆もされていない。
【0007】
また、上記いずれの文献にも、発汗時などの水分存在下で、剥離時に皮膚への糊残りが発生することを抑制する課題は見出されない。
【特許文献1】特表平10−504552号公報
【特許文献2】特開2000−44904号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記に鑑み本発明は、発汗時などの水分存在下で、剥離時に皮膚への糊残りの発生が抑制された貼付剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、発汗時などの水分の存在下での粘着剤層の凝集力を確保するためには、ビニルピロリドンを有する特定の共重合体と、塩基性基を含有する単量体を有する特定の共重合体とを併用することが効果的であることを見出した。さらに、当該構成とすることで意外にも、皮膚接着力までもが増強され、好ましい実施態様では、皮膚接着力が相乗的に増強されるという新たな効果を見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
かくして、本発明は:
(1)
支持体の少なくとも片面に粘着剤層を備える貼付剤であって、
粘着剤層は架橋されており、粘着剤層は下記(A)成分〜(C)成分が配合されて得られる貼付剤:
(A)カルボキシル基を含有する単量体と、(メタ)アクリル酸エステルと、ビニルピロリドンとを必須成分として共重合させた共重合体;
(B)塩基性基を含有する単量体と、(メタ)アクリル酸エステルとを必須成分として共重合させた共重合体;および
(C)液状成分;
(2)
粘着剤層が、化学的架橋処理により架橋されている、(1)記載の貼付剤;
(3)
45重量部の(A)成分に対して、1〜20重量部の(B)成分が配合される、(1)または(2)に記載の貼付剤;
(4)
塩基性基は、置換されてもよいアミノ基、ピリジン基、およびイミダゾール基からなる群より選ばれる少なくとも1種以上である、(1)〜(3)いずれかに記載の貼付剤;並びに
(5)
(1)〜(4)いずれかに記載の貼付剤の粘着剤層が薬物を含む、貼付製剤;
を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の貼付剤はその粘着剤層に、ビニルピロリドンを有する特定の共重合体と、塩基性基を含有する単量体を有する特定の共重合体とを併用することで、発汗時などの水分存在下での粘着剤層の凝集力に優れる。それによって、発汗時などに皮膚面から貼付剤を剥離する際にも、凝集破壊および皮膚面へのいわゆる糊残りが抑制されるという顕著な効果を奏する。
【0012】
また、粘着剤層に、ビニルピロリドンを有する特定の共重合体と、塩基性基を含有する単量体を有する特定の共重合体とを併用することで、皮膚接着力までもが増強され、好ましい実施態様では、皮膚接着力が相乗的に増強されるという予測困難な効果も達成される。
【0013】
さらに、本発明の貼付剤は、粘着剤層が効率的に架橋されることから、粘着剤層が液状成分を大量に保持可能であり、いわゆるゲル状の構造体が効率的に得られるので、皮膚貼付時には粘着剤層のソフト感に優れ、剥離時に皮膚刺激が発生し難い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明に用いる支持体としては、粘着剤層に含有される共重合体や液状成分、薬物などが支持体中を通って背面から失われて含有量の低下を起こさないものが好ましい。
【0015】
具体的にはポリエステル、ナイロン、サラン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、サーリン、金属箔などの単独フィルムまたはこれらの積層フィルムなどを用いることができる。
【0016】
これらのうち支持体と後述する粘着剤層との間の接着力(投錨力)を良好とするために、支持体を上記材質からなる無孔のプラスチックフィルムと多孔質フィルムとの積層フィルムとすることが好ましい。この場合、粘着剤層は多孔質フィルム側に形成するようにすることが好ましい。
【0017】
このような多孔質フィルムとしては、粘着剤層との投錨力が向上するものが採用されるが、具体的には紙、織布、不織布、機械的に穿孔処理を施したシートなどが挙げられ、これらのうち取り扱い性などの点からは、特に紙、織布、不織布が好ましい。
【0018】
本発明の貼付剤において、上記支持体の少なくとも片面に形成される粘着剤層は、複数種の特定の共重合体(A)成分および(B)成分と、液状成分(C)成分を必須成分として含み、架橋されて適度な弾性を有する架橋構造体であり、所謂ゲル状の構造を有する。
【0019】
まず、上記(A)成分としての共重合体は、カルボキシル基を含有する単量体と、ビニルピロリドンと、(メタ)アクリル酸エステルを必須成分として共重合することによって得ることができる。(A)成分の共重合体は粘着剤層に主に、接着性や添加される液状成分との相溶性を向上させる成分として用いられる。
【0020】
上記(A)成分共重合体におけるカルボキシル基を含有する単量体としては、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸などが挙げられ、これらの単量体は一種で、または二種以上配合して用いることができる。反応性、出来たテープの接着性の観点からアクリル酸が好ましい。これらの単量体の割合としては、粘着特性としての接着性や凝集性、粘着剤層中に薬物が含有される場合の薬物の放出性、粘着剤層を架橋処理する際の反応性などの点から、(A)成分の共重合体中、1〜20重量%が好ましく、1〜10重量%がより好ましい。
【0021】
上記(A)成分共重合体におけるビニルピロリドンとしては、N−ビニル−2−ピロリドン、メチルビニルピロリドンなどを用いることができ、これらは一種で、または二種以上配合して用いることができる。なかでも反応性の観点からN−ビニル−2−ピロリドンが好ましい。凝集力の観点から、これらの割合は、(A)成分の共重合体中、19〜30重量%が好ましく、20〜30重量%がより好ましい。
【0022】
上記(A)成分共重合体における(メタ)アクリル酸エステルとしては、特に限定されないが、接着性などの点から、炭素数が4以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルを用いることが好ましく、具体的にはアルキル基がブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシルなどの炭素数4〜13の直鎖アルキル基や分岐アルキル基などを有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルを用いることができ、これらは一種で、または二種以上配合して用いることができる。
【0023】
常温での接着性の観点から、アルキル基がブチル、2−エチルヘキシル、シクロヘキシルである(メタ)アクリル酸アルキルエステルがより好ましく、2−エチルヘキシルである(メタ)アクリル酸アルキルエステルがもっとも好ましい。接着性の観点から、これらの単量体の割合は(A)成分の共重合体中、好ましくは30〜89重量%、より好ましくは60〜80重量%の範囲となるように任意に設定することができる。
【0024】
なお、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルは上記例示のものに限定されるものではなく、本発明の効果を発揮するのであれば、アルキル基以外のエステル化物や、炭素数1〜3のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルや炭素数14以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルを併用してもよいことは云うまでもない。
【0025】
本発明では、(B)成分の共重合体は、粘着剤層の接着性を向上させ、さらに粘着剤層に薬物を含有する場合には薬物の溶解性を向上させる成分として用いられる。
【0026】
上記(B)成分共重合体における、塩基性基を有する単量体としては、置換されてもよいアミノ基(とりわけアルキルアミノ基)、ピリジン基、イミダゾール基などを側鎖に有するアクリル系単量体もしくはビニル系単量体などが挙げられる。より具体的には、アミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノブチル(メタ)アクリレートなどの炭素数が1〜4のアルキル基を有するモノまたはジアルキルアミノ(メタ)アクリレート、ビニルピリジン、ビニルイミダゾールなどが挙げられる。反応性などの取扱い性の観点から、塩基性基を有する単量体としてはジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートが好ましい。これらの塩基性基を含有する単量体は、一種でもしくは二種以上で用いることができる。これらの単量体の割合は、(A)成分の共重合体との相溶性や粘着特性の維持などの点から、(B)成分の共重合体中、20〜70重量%が好ましく、30〜60重量%がより好ましい。
【0027】
また、上記(B)成分の共重合体における、(メタ)アクリル酸エステルの種類としては、上述の(A)成分について列挙したものと同様であり、これらは一種でまたは2種以上配合して用いられる。これらの単量体の割合は、(A)成分の共重合体との相溶性や粘着特性の維持などの点から、(B)成分の共重合体中、30〜80重量%が好ましく、40〜70重量%がより好ましい。
【0028】
なお、上記(A)成分および(B)成分の共重合体それぞれには、本発明における各成分の特性を変化させない範囲で必要に応じて他の共重合性単量体を任意の量で共重合することもできる。
【0029】
上記(A)成分および(B)成分の共重合体のうち、良好な貼付感や粘着剤層中に薬物が含有される場合の薬物の溶解性のバランスの点で、最も好ましく用いることができるものとしては、(A)成分として、共重合体中、60〜80重量%のアクリル酸−2−エチルヘキシルエステルと、19〜30重量%のN−ビニル−2−ピロリドンと、1〜10重量%のアクリル酸とを必須成分として共重合させた共重合体、(B)成分として、共重合体中、30〜60重量%のメタクリル酸ジメチルアミノエチルと、15〜40重量%、好ましくは20〜40重量%のメタクリル酸メチルと、15〜40重量%、好ましくは20〜40重量%のメタクリル酸ブチルとを必須成分として共重合させた共重合体などを用いることができる。
【0030】
(A)成分と(B)成分の合計重量の、粘着剤層の総重量に占める割合は、特に限定されないが、十分な接着性を粘着剤層に付与するためには、粘着剤層の総重量基準で30〜65重量%が好ましく、35〜60重量%がより好ましい。また、(A)成分と(B)成分の割合は特に限定されないが、(A)成分45重量部に対して、(B)成分を好ましくは1〜20重量部、より好ましくは1.5〜12.5重量部、もっとも好ましくは1.5〜7.5重量部配合する。(B)成分が1重量部を下回ると接着力が不十分に、さらに薬物含有時には薬物溶解度が不十分となる恐れがあり、20重量部を上回ると接着力が強く成り過ぎ、剥離時の皮膚刺激の恐れがある。さらに、(A)成分45重量部に対して、(B)成分が好ましくは1.5〜12.5重量部、より好ましくは1.5〜7.5重量部配合することが、接着力の相乗効果が発現するためには望ましい。
【0031】
本発明において上記(A)成分および(B)成分と共に粘着剤層中に含有させる(C)成分としての液状成分は、粘着剤層中に均一に溶解分散させるものであり、架橋された粘着剤層を可塑化させゲル状にして、これにソフト感を付与する。つまり、本発明ではこの(C)成分を含有させ、架橋ゲル化させることによって、本発明のアクリル系粘着テープや経皮吸収製剤を皮膚面から剥離するときに、粘着力(皮膚接着力)に起因する痛みや皮膚刺激性を低減できるのである。さらに、粘着剤層が上記のように可塑化されるので、貼付製剤として薬物を含有する場合、薬物の自由拡散性が良好となるので、皮膚面上への放出性(皮膚移行性)も向上するようになる。
【0032】
このような(C)成分としては、上記(A)成分および(B)成分と相溶性を有し、粘着剤層に対して可塑化作用を有する限り特に限定されないが、そのような相溶性の観点から有機液状成分が好ましく、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのグリコール類、オリーブ油、ヒマシ油、スクワレン、ラノリンなどの油脂類、酢酸エチル、エチルアルコール、ジメチルデシルスルホキシド、メチルオクチルスルホキシド、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ドデシルピロリドン、イソソルビトールなどの有機溶媒、液状界面活性剤、ジイソプロピルアジペート、フタル酸エステル、ジエチルセバケート、クエン酸トリエチル、アセチルクエン酸トリブチルなどの可塑剤、流動パラフィンなどの炭化水素類、エトキシ化ステアリルアルコール、グリセリン脂肪酸エステル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸イソトリデシル、ラウリル酸エチル、N−メチルピロリドン、オレイン酸エチル、オレイン酸、アジピン酸ジイソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、1,3−ブタンジオールなどが挙げられ、これらのうち一種単独でまたは二種以上を配合して用いることができる。
【0033】
上記(C)成分の液状成分のうち、好ましい有機液状成分としては、脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル(特には、モノグリセリド)、アセチルクエン酸トリブチルが挙げられる。
【0034】
これらの脂肪酸エステルやグリセリン脂肪酸エステルは、粘着剤層を可塑化する作用を発揮するものであればよいが、必要以上に炭素数の多い脂肪酸や少ない脂肪酸からなるものでは前記アクリル系共重合体との相溶性が悪くなったり、貼付剤を調製する際の加熱工程で揮散したりするおそれがある。
【0035】
また、分子内に二重結合を有する脂肪酸からなるものでは酸化分解などを生じて保存安定性に問題を生じることがある。さらに、後述の貼付製剤の場合は、単位面積あたりの薬物の含有量が多いと製剤中で飽和溶解度以上の薬物が結晶することもあるところ、添加する脂肪酸エステルやグリセリン脂肪酸エステルの種類によっては薬物の結晶析出を阻害したり、析出速度を遅くしたりすることがあり、得られる製剤の外観に不良を生じたり、保存安定性に悪影響を及ぼすことがある。
【0036】
よって、用いる脂肪酸エステルとしては、好ましくは炭素数が12〜16、より好ましくは12〜14の高級脂肪酸と炭素数が好ましくは1〜4の低級1価アルコールからなる脂肪酸エステルが好適に採用される。
【0037】
このような高級脂肪酸としては、好ましくはラウリン酸(C12)、ミリスチン酸(C14)、パルミチン酸(C16)であり、特にミリスチン酸を用いることがよい。
また、低級1価アルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコールが挙げられ、これらは直鎖アルコールに限定されず分岐アルコールであってもよい。好ましくはイソプロピルアルコールが用いられる。従って、最も好ましい脂肪酸エステルは、ミリスチン酸イソプロピルである。
【0038】
一方、グリセリン脂肪酸エステルとしては炭素数が8〜10の高級脂肪酸とグリセリンからなるグリセリドが好ましい。このような高級脂肪酸としては、好ましくはカプリル酸(オクタン酸、C8)、ペラルゴン酸(ノナン酸、C9)、カプリン酸(デカン酸、C10)であり、特にカプリル酸を用いたカプリル酸モノグリセリドやジグリセリドやトリグリセリドである。
【0039】
これら(C)成分の配合割合は、上記(A)成分と(B)成分との合計量1重量部に対して、好ましくは0.5〜1.5重量部、より好ましくは0.7〜1.5重量部である。(C)成分の含有量がこの範囲を外れた場合には、実用的な皮膚接着性や低皮膚刺激性を得ることができない恐れがあり、また後述の貼付製剤においては、薬物の放出性(皮膚移行性)の点でも充分ではない恐れがある。
【0040】
本発明の貼付剤における粘着剤層は、上記(A)成分、(B)成分および(C)成分を必須成分として含有するものであるが、これらの各成分を溶解、混合させる場合には、相溶させる必要があるので、イソプロピルアルコールやテトラヒドロフラン、アセトンなどの水にも油にも相溶する両親媒性の溶剤と、共重合体を溶解する酢酸エチルなどの疎水性溶剤を混合した溶媒にて混合するのが好ましい。
【0041】
本発明では以上のように配合を行ったのち、粘着剤層を架橋させて所謂ゲル状態とし、含有する液状成分の流出を抑制し、さらに凝集力を粘着剤層に付与する。
【0042】
架橋は、紫外線照射や電子線照射などの放射線照射による物理的架橋、化学的架橋などで施すことができる。粘着剤層成分に影響を少なくするためには、化学的架橋が好ましく、具体的にはポリイソシアネート化合物や有機過酸化物、有機金属塩、金属アルコラート、金属キレート化合物、多官能性化合物などの架橋剤を用いた化学的架橋などが用いられる。
【0043】
これらの架橋剤のうち、水分存在下での粘着剤層の凝集力を効果的に確保するためには、キレート化合物、とりわけアルミニウムキレート化合物が好適である。これらの架橋剤は、塗工、乾燥するまでは溶液の増粘現象を起こさず、極めて作業性に優れたものである。この場合の架橋剤の配合量は好ましくは、(A)成分の共重合体の合計重量100重量部に対して0.01〜2重量部程度である。
【0044】
本発明の貼付製剤は、使用時まで粘着剤層の粘着面を保護するため、該粘着面に剥離ライナーを積層するのが好ましい。剥離ライナーとしては、充分に軽い剥離性を確保できれば、特に限定されず、例えば粘着剤層と接触する面にシリコーン樹脂、フッ素樹脂等を塗布することによって剥離処理が施された、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレンテレフタレート等のフィルム、上質紙、グラシン紙等の紙、あるいは上質紙またはグラシン紙等とポリオレフィンとのラミネートフィルム等が挙げられる。該剥離ライナーの厚みは、通常10〜200μm、好ましくは25〜100μmである。
【0045】
本発明の剥離ライナーとしては、バリアー性、価格の点からポリエステル(特に、ポリエチレンテレフタレート)樹脂からなるものが好ましい。さらに、この場合、取り扱い性の点から、25〜100μm程度の厚みのものがより好ましい。
【0046】
以上のような貼付剤において、その粘着剤層に薬物を含有させ、貼付製剤とすることができる。 ここにいう薬物は特に限定されず、ヒトなどの哺乳動物にその皮膚を通して投与し得る、すなわち経皮吸収可能な薬物が好ましい。薬物は必要に応じて二種以上併用することもできる。
【0047】
これらの薬物の含有割合は、薬物種や投与目的に応じて適宜設定することができるが、好ましくは粘着剤層の総重量に基づき1〜40重量%、より好ましくは3〜30重量%程度の範囲で含有させる。含有割合が1重量%に満たない場合は、治療や予防に有効な量の放出が期待できない場合があり、また、40重量%を超えると増量による効果の増大が期待できないので経済的にも不利であるばかりか、皮膚に対する接着性にも劣る傾向を示す。
【0048】
本発明の貼付剤および貼付製剤は、例えば次のようにして製造される:共重合体、液状成分、必要により薬物、架橋剤等の配合原料を溶媒に溶解または分散させ、得られた溶液または分散液を支持体の少なくとも片面上に塗布し、乾燥して粘着剤層を支持体の表面上に形成させ、次いで剥離ライナーを設ける方法が挙げられる。あるいは、上記の溶液または分散液を保護用の剥離ライナーの少なくとも片面上に塗布し、乾燥して粘着剤層を剥離ライナーの表面上に粘着剤層を形成させ、次いで支持体を粘着剤層に接着させることによって製造することができる。粘着剤層の架橋を促進するため熟成工程をさらに設けることが好ましい。
【実施例】
【0049】
以下に本発明の実施例を示し、さらに具体的に説明するが本発明はこれらに限定されない。なお、以下の文中で部および%とあるのは、全て重量部および重量%を意味する。
(共重合体の溶液の調製)
(A)成分として、72重量%のアクリル酸2−エチルヘキシルエステルと、25重量%のN−ビニル−2−ピロリドンと、3重量%のアクリル酸とを、共重合させたアクリル系共重合体(a)を用意した。また、比較例のために、ビニルピロリドンを含有しないアクリル系共重合体として、95重量%のアクリル酸2−エチルヘキシルエステルと、5重量%のアクリル酸とを共重合させたアクリル系共重合体(b)を用意した。
【0050】
(B)成分としては、50重量%のメタクリル酸ジメチルアミノエチルと、25重量%のメタクリル酸メチルと、25重量%のメタクリル酸ブチルとを共重合させた共重合体を用意した。
1.貼付剤
(実施例1〜4)
固形分として45部の、(A)成分としてのアクリル系共重合体(a)の溶液に、表1の配合量の上記(B)成分の溶液を加え、さらに表1の配合量の(C)成分としてのミリスチン酸イソプロピル(以下「IPM」)、架橋剤としてのエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレートを加え、濃度調整用のイソプロパノールおよび酢酸エチルを適量加えて、高速ミキサーにて攪拌して均一な粘着剤溶液を得た。なお、架橋剤は、アクリル系共重合体(a)の固形分100部に対して0.3部となるよう添加した。
【0051】
得られた粘着剤溶液を75μm厚のポリエステル製剥離シート上に、乾燥後の厚みが80μmとなるように塗布、乾燥して架橋されたゲル状の粘着剤層を作製した。
【0052】
2μm厚のポリエステルフィルムの片面に、8g/m2 の目付量のポリエステル製不織布を接着積層してなる支持体の不織布面に、上記にて作製した粘着剤層を転写、積層し、これを60℃で48時間加温熟成して本発明の貼付剤を作製した。
(比較例1)
(B)成分を配合せず、表1の配合量の(C)成分としてのIPMを配合するほかは、実施例1〜4と同様にして、比較例1の貼付剤を作製した。
(比較例2〜4)
固形分として45部の(A)成分としてのアクリル系共重合体(a)の溶液の代わりに、固形分として55部のアクリル系共重合体(b)の溶液を用いたほかは、実施例と同様にして比較例2〜4の貼付剤を作製した。ここで、アクリル系共重合体(b)の配合量は、(B)成分を使用せず、アクリル系共重合体(a)を使用した比較例1と、(B)成分を使用せず、アクリル系共重合体(b)を使用した比較例4の接着力がほぼ同等となるように決定した。なお、架橋剤は、アクリル系共重合体(b)の固形分100部に対して0.3部となるよう添加した。
(評価値の測定方法)
<水分存在下での粘着剤層の凝集力>
ボランティア5名の上腕部内側にサンプルを貼付し、発汗または入浴1〜2時間後に剥離してその際の糊残りを下記基準の3段階で評価し、その平均点を求めた。
基準:
1 糊残りがまったく認められない
2 わずかに糊残りが認められる
3 明らかに糊残りが認められる
糊残りの多いものが、水分存在下での粘着剤層の凝集力が低いものと評価された。
<接着力>
ベークライト板に幅24mmに裁断した帯状の各製剤サンプルを貼付し、荷重300gのローラを1往復させて密着させたのち、180度方向に300mm/分の速度で剥離して、接着力(剥離力)を測定した。
<ゲル分率>
各サンプルを10cm2に裁断して粘着剤層の重量(W1)を測定した。次に、そのサンプルを100mlの酢酸エチルに24時間浸漬した後、酢酸エチルを交換した。この操作を3回繰り返し溶剤可溶分を抽出した。その後サンプルを取出し、乾燥させた後の粘着剤層の重量(W2)を測定し、下記式によってゲル分率を算出した。
ゲル分率(%)=(W2×l00)/(W1×A/B)
A=((A)成分+架橋剤)重量、
B=((A)成分+(B)成分+(C)成分+架橋剤+薬物(含まれる場合))重量
ゲル分率が高いものは粘着剤層が十分に架橋されたものと評価された。
<皮膚刺激>
評価者が評価製剤約10cm2の製剤を貼付し、2分後に剥離する際の刺激の有無を、以下の基準で評価した。
基準:
◎ 皮膚刺激がない
○ 皮膚刺激がほとんどない
△ やや皮膚刺激がある
× 強い皮膚刺激がある
結果を表1に示した。
【0053】
【表1】


表1から明らかなように、実施例の貼付剤はいずれも水分存在下での粘着剤層の凝集力、接着力およびゲル分率のいずれも高かった。
【0054】
これに対して比較例1および比較例4は、水分存在下での粘着剤層の凝集力が高かったものの、接着力およびゲル分率が低かった。また、比較例2および比較例3は、水分存在下での粘着剤層の凝集力が著しく低下し、剥離時に糊残りが発生した。
【0055】
また、接着力について、実施例3は、比較例1および比較例2の相加平均を上回り、実施例4は比較例1と比較例3の相加平均を上回り、このことは、本発明の貼付剤は接着力が相乗的に増強されることを示した。また実施例3および4は、皮膚刺激について理想的なものであった。
【0056】
さらに、45部の(A)成分に対して、(B)成分を15部配合した実施例1でやや皮膚刺激があり、(B)成分を10部配合した実施例2で、皮膚刺激がほとんどなかったことと、実施例3および4で接着力の明らかな相乗的増強が発現したことから、(A)成分45重量部に対して、(B)成分が1.5〜12.5重量部の割合が好ましく、1.5〜7.5重量部の割合がより好ましいことが示された。
2.貼付製剤
実施例1〜4において、それぞれ40〜53部の(C)成分IPMのうちのそれぞれ1部を薬物インドメタシンに置き換えるほかは実施例1〜4と同様にして本発明の貼付製剤を作製する。本発明の貼付製剤は、本発明の貼付剤と同様に剥離時の糊残りが低減され、十分な皮膚接着力を有する。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の貼付剤または貼付製剤の一実施態様を示す模式的断面図である。
【符号の説明】
【0058】
1 支持体
2 粘着剤層
3 剥離ライナー
10 貼付剤または貼付製剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体の少なくとも片面に粘着剤層を備える貼付剤であって、
粘着剤層は架橋されており、粘着剤層は下記(A)成分〜(C)成分が配合されて得られる貼付剤:
(A)カルボキシル基を含有する単量体と、(メタ)アクリル酸エステルと、ビニルピロリドンとを必須成分として共重合させた共重合体;
(B)塩基性基を含有する単量体と、(メタ)アクリル酸エステルとを必須成分として共重合させた共重合体;および
(C)液状成分。
【請求項2】
粘着剤層は化学的架橋処理により架橋されている、請求項1記載の貼付剤。
【請求項3】
45重量部の(A)成分に対して、1〜20重量部の(B)成分が配合される、請求項1記載の貼付剤。
【請求項4】
塩基性基は、置換されてもよいアミノ基、ピリジン基、およびイミダゾール基からなる群より選ばれる少なくとも1種以上である、請求項1記載の貼付剤。
【請求項5】
請求項1記載の貼付剤の粘着剤層は薬物を含む、貼付製剤。

【図1】
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【公開番号】特開2009−7331(P2009−7331A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−124684(P2008−124684)
【出願日】平成20年5月12日(2008.5.12)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】