説明

貼付材並びに貼付製剤

【課題】皮膚患部や創傷面の保護に十分な厚みを有する粘着剤層を形成することができ、さらに皮膚に対して良好な接着性及び柔軟性を有してより良好な貼付感があり、皮膚から剥離した際に糊残りが低減され、且つ皮膚変形への追従性が良好である貼付材、並びに、さらに薬剤等を良好に保持し得る貼付製剤を提供する。
【解決手段】架橋反応可能な官能基を分子内に有する液状ゴムを33重量%〜65重量%含有する組成物より成り、ゲル分率が50重量%〜75重量%である粘着剤層を、支持体の少なくとも一方の面に層状に形成させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、適度の皮膚接着性と柔軟性を有し、皮膚への貼付性に優れ、且つ皮膚から剥離した際の糊残りも少なく、皮膚患部や創傷面の保護、薬剤の経皮吸収等のために好適に使用できる貼付材並びに貼付製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、皮膚の患部や創傷面の保護、薬剤の経皮吸収等を目的として、皮膚用等の貼付材並びに貼付製剤が用いられている。かかる貼付材並びに貼付製剤は、一般に、柔軟性を有する支持体の一方の面に、必要に応じて薬剤を含有する粘着剤組成物より成る層、すなわち粘着剤層が形成された構成を有する。前記粘着剤層には一般に次のような特性が求められる。
(1)皮膚接着性:貼付材等が所定期間皮膚面から剥離することなく、貼付状態が保持される必要があるからである。
(2)剥離性:粘着剤層には、上記のように皮膚接着性が求められるが、使用後に皮膚から貼付材等を除去する際、接着性が強すぎて剥離性が悪いと、剥離の際に痛みを感じさせたり、皮膚面に粘着剤層が残留して糊残りを感じさせたりするからである。
(3)低刺激性:粘着剤層の皮膚に対する刺激性が強いと、皮膚かぶれを誘発するからである。
(4)皮膚変形に対する追従性:皮膚の患部や創傷面の保護効果、薬剤経皮吸収効果を十分に発揮させるためには、貼付材等が身体の動きに伴う皮膚変形によっても接着性を失うことのないように、粘着剤層がかかる皮膚変形に対して十分追従し得るものであることを要するからである。
【0003】
つまり、貼付材等に使用される粘着剤層としては、適度な皮膚接着性、所定時間経過後の剥離性及び皮膚変形に対する追従性が求められる。かかる粘着剤層を形成させるための組成物としては、ハイドロゲル組成物、アクリル系ゲル組成物より成るものなど、各種ゲル組成物が用いられている。
【0004】
しかし、上記のゲル組成物のうち、水分を含むハイドロゲル組成物は乾燥に弱く、経時的に水分が失われて硬化する傾向があり、安定性に欠ける。また、硬化したゲル組成物は、皮膚への接着性及び皮膚変形に対する追従性の点で不十分である。一方、水を含まないゲル組成物として、アクリル系粘着剤を架橋させることにより、有機液状成分を保持させて成るアクリル系ゲル組成物が開示されている(特許文献1)。しかし、前記アクリル系ゲル組成物は、支持体上にある程度以上の厚みを有する粘着剤層として成形することが困難であるため、薬物や経皮吸収促進剤等の有機液状成分などを保持又は吸収する能力は限定され、これらを多量に保持させることは困難であった。さらにまた、上記組成物は厚みの大きい粘着剤層とすることがやや困難であることから、上記組成物を粘着剤層とした貼付材等を皮膚に接着させた場合、外部からの衝撃等に対してそれらを吸収して皮膚を保護する能力の点で改良の余地があった。
【0005】
その他、合成ゴム系ポリマーを架橋させて成るゲル組成物が挙げられ、官能基を有するゴムを含むゴム成分100重量部に対し、該ゴム成分と相溶性のある液状油20重量部〜80重量部を含有させ、架橋させて成るゲル組成物が開示されている(特許文献2)。
【0006】
しかし上記特許文献2においては、官能基を有するゴム成分を33重量%〜65重量%含有する組成物より成り、且つ下記一定範囲のゲル分率を有する粘着剤層を有する貼付材もしくは貼付製剤は開示されていない。
【特許文献1】特開平3−220120号公報
【特許文献2】特開平10−151185号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明は、皮膚患部や創傷面の保護に十分な厚みを有する粘着剤層を形成することができ、さらに皮膚に対して良好な接着性及び柔軟性を有してより良好な貼付感があり、皮膚から剥離した際に糊残りが低減され、且つ皮膚変形への追従性が良好である貼付材を提供すること、並びに、さらに薬剤等を良好に保持し得る貼付製剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、架橋反応可能な官能基を分子内に有する液状ゴムを33重量%〜65重量%含有する組成物より成り、且つ一定範囲のゲル分率を有する粘着剤層を、支持体の少なくとも一方の面に層状に形成させることにより、本発明の上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、以下の[1]〜[9]に関する。
[1]架橋反応可能な官能基を分子内に有する液状ゴムを33重量%〜65重量%含有する組成物より成り、且つゲル分率が50重量%〜75重量%である粘着剤層を、支持体の少なくとも一方の面に層状に形成して成る、貼付材。
[2]粘着剤層が、さらに有機液状成分を10重量%〜40重量%含有する組成物より成ることを特徴とする、上記[1]に記載の貼付材。
[3]架橋反応可能な官能基を分子内に有する液状ゴムが、架橋反応可能な官能基を分子内に有する液状イソプレンゴムであることを特徴とする、上記[1]又は[2]の貼付材。
[4]有機液状成分が、油脂類、炭化水素類、脂肪酸エステル類及び高級脂肪酸類より選択される1種又は2種以上であることを特徴とする、上記[2]又は[3]の貼付材。
[5]脂肪酸エステル類が、脂肪酸モノアルキルエステル類であることを特徴とする、上記[4]の貼付材。
[6]脂肪酸モノアルキルエステル類が、ミリスチン酸イソプロピル及びパルミチン酸イソプロピルから選択される1種又は2種であることを特徴とする、上記[5]の貼付材。
[7]粘着剤層が、さらに粘着付与剤を15重量%〜45重量%含有する組成物より成るをことを特徴とする、上記[1]〜[6]のいずれか1項に記載の貼付材。
[8]粘着剤層の厚さが40μm以上であることを特徴とする、上記[1]〜[7]のいずれか1項に記載の貼付材。
[9]上記[1]〜[8]のいずれかに記載の貼付材において、粘着剤層が薬剤を含有して成る、貼付製剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、十分な厚さの粘着剤層を有し、皮膚患部や創傷面の保護効果に優れる貼付材、並びに十分量の薬剤もしくは経皮吸収剤等有機液状成分を保持し得る貼付製剤を提供することができる。本発明に係る貼付材並びに貼付製剤は、適度な接着性及び柔軟性を有するため、皮膚に対して良好な貼付性を有しており、また皮膚から剥離した際に糊残りが低減され、且つ皮膚変形への追従性が良好である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明において、上記架橋反応可能な官能基を分子内に有する液状ゴムは、これを含む組成物が架橋された際に網目構造を形成し、粘着剤層に柔軟性と保形性を付与する。かかる液状ゴムとしては、分子内に架橋反応可能な官能基を有するものであれば特に限定されず、前記官能基を含有する液状イソプレンゴム、前記官能基を含有する液状ブタジエンゴム、前記官能基を含有する液状イソブチレンゴムなどが挙げられる。該液状ゴムは、1種又は2種以上を選択して用いることができる。かかる液状ゴムは、高分子量であっても液状であり、粘着剤層に多量の有機液状成分を容易に含有させることができる。粘着剤層に容易に柔軟性を付与できるという点で、前記官能基を含有する液状イソプレンゴムが好ましく用いられる。なお、本明細書において「液状」とは、25℃で流動性を有することを意味する。流動性の有無は、試料を容器に充填し、傾けた時に変形することで判定される。
【0012】
本発明に用いる架橋反応可能な官能基を分子内に有する液状ゴムの重量平均分子量は、ゴム成分が液状である限り特に限定されないが、好ましくは1,000〜60,000、より好ましくは10,000〜40,000、さらに好ましくは20,000〜30,000である。重量平均分子量が1,000未満であると、粘着剤層の柔軟性が低下する可能性があり、また粘着剤層に有機液状成分を多量に含有させることが困難となる可能性がある。一方、重量平均分子量が60,000を越えると、ゴムが液状でなくなるおそれがあるばかりか、粘着剤層の均一性が保たれにくくなり、粘着剤層の他の含有成分に対する前記液状ゴムの相溶性を確保するのが困難となる恐れがある。
【0013】
ここで、「重量平均分子量」とは、下記の条件によりゲルろ過クロマトグラフィーにより測定される値を意味する。
(分析条件)
ゲルろ過クロマトグラフィー装置:HLC8120(東ソー株式会社製)
カラム:TSKgelGMH−H(S)(東ソー株式会社製)
標準:ポリスチレン
溶離液:テトラヒドロフラン
流速:0.5ml/分
測定温度:40℃
検出手段:示差屈折計
【0014】
本発明に係る貼付材並びに貼付製剤では、粘着剤層の調製に用いる組成物において、架橋反応可能な官能基を分子内に有する液状ゴムの配合量は、該組成物の全重量に対して33重量%〜65重量%、好ましくは40重量%〜60重量%である。前記液状ゴムの配合量が33重量%を下回ると、形成された粘着剤層において十分な強度が得られない場合がある。一方、前記液状ゴムの配合量が65重量%を超えると、形成された粘着剤層の柔軟性が低下し、皮膚から脱落する場合がある。
【0015】
上記液状ゴムにおける架橋反応可能な官能基としては特に限定されないが、アミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、クロルスルホン基、エステル基、エポキシ基、イソシアネート基、メチロール基、スルホン基、メルカプト基などが挙げられる。該官能基としては、1種、又は2種以上が組み合わされて用いられる。なお、後述する架橋剤としてのエポキシ系化合物との架橋形成の観点からすれば、カルボキシル基及びヒドロキシル基が好ましい。
【0016】
上記液状ゴムの分子内における架橋反応可能な官能基の数は特に限定されないが、通常は3個以上の前記官能基を分子内に有することにより、前記液状ゴムが効率的に網目構造を形成し、本発明の効果が十分に発揮される。従ってかかる観点より、前記液状ゴムの分子内における架橋反応可能な官能基の数は、通常3個以上、好ましくは5個以上、より好ましくは8個以上、さらに好ましくは10個以上である。
【0017】
本発明においては、上記液状ゴムは分子内に3個以上の架橋反応可能な官能基を有することにより、ブランチ剤などを液状ゴムの主鎖に導入する必要もなく、三次元的な網目構造を形成することができるため、粘着剤層中に多量の有機液状成分を含有させることが可能となる。
【0018】
一方、前記分子内官能基の数が多すぎると、必要な架橋剤の量が多くなることから、分子内の架橋反応可能な官能基の数は20個以下であることが好ましい。さらに好ましくは15個以下、より好ましくは12個以下である。これは、分子内の官能基数が多すぎると、残存活性基が多くなり、薬物など粘着剤層に含有させた成分に影響を及ぼす可能性があり、また粘着剤層の柔軟性が低下し、皮膚変形に対する追従性が悪くなる可能性があるからである。
【0019】
液状ゴム分子内の架橋反応可能な官能基の数は、次のようにして測定される。すなわち、試料中の液状ゴムの架橋反応可能な官能基の総数を求め、これを液状ゴムの数平均分子量で除して、液状ゴム一分子あたりの架橋反応可能な官能基の数を求める。かかる官能基の数は、日本工業規格(JIS)K0070等に記載された方法等により求めることができる。たとえば、官能基がカルボキシル基である場合には、水酸化カリウムを用いた酸価測定法により試料中のカルボキシル基数を求め得る。また、エステル基であれば、水酸化カリウムを用いたエステル価測定法、水酸基であれば、試料をアセチル化した後水酸化カリウムで中和する水酸基価測定法により求めることができる。ここで液状ゴムの数平均分子量は、上述した重量平均分子量と同じ条件で求められる値を意味する。
【0020】
本発明において、支持体の少なくとも一方の面に形成される粘着剤層は、ゲル分率が50重量%〜75重量%であることを特徴とする。ゲル分率が50重量%より低いと、粘着剤層のゲル強度が低下して、皮膚から剥離する際に糊残りを生じる可能性がある。一方、ゲル分率が75重量%を超えると、粘着剤層が硬くなり、皮膚への接着性が低下し、またソフトな貼付感が得られない可能性がある。
【0021】
本発明において「ゲル分率」は、粘着剤層をトルエンに浸漬したときに得られる不溶分の重量の、粘着剤層の架橋に関与する成分に対する比率を意味する。ゲル分率は、粘着剤層を形成する組成物より採取した試料を、トルエンに常温(23℃)にて7日間浸漬して得られる不溶分の重量により、次式を用いて求めることができる。
ゲル分率(重量%)=W/(W×A/B)×100
A:分子内に架橋反応可能な官能基を有する液状ゴム及び架橋剤の重量
B:粘着剤層の総重量
:粘着剤層より採取した試料の重量
:粘着剤層より採取した試料をトルエンに浸漬して得られる不溶分の重量
【0022】
本発明における上記50重量%〜75重量%のゲル分率は、粘着剤層を架橋処理することにより、好ましく達成することができる。本発明において用いる架橋処理は、特に限定されないが、たとえば、紫外線照射や電子線照射などの放射線照射による物理的架橋処理、各種架橋剤を用いた化学的架橋処理によって達成される。
【0023】
粘着剤層中に含有される薬物等の成分に悪影響を与えないためには、粘着剤層の調製に用いる組成物に架橋剤を添加することにより、該組成物を架橋させることが好ましい。そのような架橋剤としては、ジアミノヘキサン等のアミン系化合物、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ヘキサンジオール、フタル酸等の2官能エポキシ化合物、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルジアミノメチル)シクロヘキサン、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルジアミノメチル)ベンゼン等の4官能性エポキシ化合物といったエポキシ系化合物、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート等の脂環式ポリイソシアネートなどのイソシアネート系化合物、パーオキシケタール、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド等の有機過酸化物、アセチルアセトンアルミニウム塩、アセチルアセトンバナジウム塩、アセチルアセトンモリブデン塩等の有機金属塩、テトラブチルチタネート等の金属アルコラート、アルミニウムグリシネート、水酸化アルミニウムゲル等の金属キレート化合物、アジポジクロライド等の酸塩化物、ジアリル尿素、エチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、メチレンビス(アクリルアミド)、トリアリルアミンなどの多官能性内部架橋用モノマー、ジアリルアミン塩酸塩重合体、メチルジアリルアミン塩酸塩重合体等のポリアミン類、アリルアミン塩酸塩重合体、アリルアミンアミド硫酸塩重合体等のポリアリルアミン類といった多官能性架橋用ポリマーなどが挙げられる。架橋剤は1種を選択し、又は2種以上を組み合わせて用いる。液状ゴム分子内の架橋反応可能な官能基がカルボキシル基である場合、前記架橋剤の中では、エポキシ系化合物を用いることが好ましい。これは、液状ゴム分子内のカルボキシル基と反応したエポキシ基がヒドロキシル基を発生し、これが別のカルボキシル基と反応し得るため、網目構造の形成において有利であるからである。
【0024】
上記架橋剤の配合量としては、粘着剤層に十分な架橋構造が形成される限り特に限定されないが、好ましくは、粘着剤層の調製に用いる組成物の全量に対して0.01重量%〜4重量%であり、さらに好ましくは0.05重量%〜2重量%である。
【0025】
本発明に係る貼付材並びに貼付製剤において、粘着剤層には有機液状成分を含有させることができる。かかる有機液状成分は、上記液状ゴムの架橋により形成される網目構造と組み合わされて、粘着剤層におけるゲルの柔軟性を増強し、粘着剤層中に薬物などの化学物質が含まれる場合には、それらを溶解又は分散させる役割を果たす。本発明において用い得る有機液状成分としては、粘着剤層中の上記液状ゴムと相溶性を有するものであることを要するが、常温で液状であって、非揮発性のものが好ましい。本発明においては、オリーブ油、ヒマシ油、ラノリン等の油脂類、スクアラン、流動パラフィンのような炭化水素類、脂肪酸アルキルエステルなどの脂肪酸エステル類、オレイン酸、カプリル酸のような高級脂肪酸類等が好ましいものとして挙げられる。有機液状成分は、これらより1種を選択して用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0026】
特に、本発明に係る貼付製剤のように、粘着剤組成物に薬物を含有させる場合、薬物の経皮吸収を促進する効果の観点から、脂肪酸エステル類を用いることが好ましい。かかる脂肪酸エステル類としては、フタル酸ジオクチル、アジピン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジエチルなどの脂肪酸ジアルキルエステル類、脂肪酸モノアルキルエステル類などが挙げられる。良好な薬物の経皮吸収促進効果の観点からは、脂肪酸モノアルキルエステル類が好ましい。
【0027】
脂肪酸モノアルキルエステル類については、これを構成する脂肪酸の炭素数が必要以上に多かったり、又は少なかったりした場合、上記液状ゴムとの相溶性が悪くなったり、製剤調製時の加熱工程で揮散したりするおそれがある。
【0028】
従って本発明においては、炭素数が12〜16、より好ましくは12〜14の飽和又は不飽和高級脂肪酸と、炭素数が1〜4の飽和又は不飽和低級1価アルコールからなる脂肪酸モノアルキルエステル類が好ましくは採用される。なお、保存安定性の観点からは、飽和高級脂肪酸及び飽和低級1価アルコールより成るものが、酸化分解等を生じるおそれがないため、好ましく用いられる。前記高級脂肪酸としては、ラウリン酸(C12)、ミリスチン酸(C14)、パルミチン酸(C16)が挙げられ、特にミリスチン酸およびパルミチン酸が好ましい。また前記低級1価アルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコールが挙げられ、これらは直鎖アルコールに限定されず分岐鎖アルコールであってもよく、特にイソプロピルアルコールが好ましい。それゆえ、本発明において使用し得る最も好ましい脂肪酸モノアルキルエステルとしては、ミリスチン酸イソプロピル及びパルミチン酸イソプロピルが挙げられる。
【0029】
上述した有機液状成分は、粘着剤層の調製に用いる組成物の全量に対し、10重量%〜40重量%の範囲で含有させることが好ましく、さらに好ましくは15重量%〜30重量%である。有機液状成分の含有量が該組成物の全量に対して10重量%未満では、架橋反応後に得られるゲルが硬くなりすぎて、粘着剤層の皮膚接着性及び皮膚への追従性が低下するおそれがあり、また薬物等他の配合成分の粘着剤層中における拡散移動性や吸収性が低下するおそれがある。一方、有機液状成分の含有量が該組成物の全量に対し40重量%を超えると、粘着剤層のゲル強度が低下して糊残りを生じる場合がある。
【0030】
本発明に係る貼付材並びに貼付製剤においては、粘着剤層の調製に際し、さらに通常用いられる粘着付与剤を含有させることができる。かかる粘着付与剤としては、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂などの天然物及びその誘導体、脂肪族系石油樹脂、脂環族系石油樹脂、たとえば脂環族系飽和炭化水素樹脂、石油樹脂、芳香族系石油樹脂、クマロンインデン樹脂、スチレン系樹脂、フェノール系樹脂、キシレン系樹脂などの合成樹脂等が挙げられる。これら粘着付与剤は、粘着剤層の調製に用いる組成物の全量に対して、15重量%〜45重量%の範囲で含有させることが好ましく、さらには、15重量%〜30重量%の範囲で含有させることが好ましい。15重量%より少ないと、粘着剤層に十分な接着性を付与できない可能性があり、逆に45重量%より多いと、粘着付与剤が粘着剤層中で分離して粘着剤層のべたつきを生じたり、皮膚から剥離する際に糊残りを生じる可能性がある。
【0031】
本発明に係る貼付材並びに貼付製剤において、粘着剤層には、本発明の効果を妨げない範囲で、任意の他の成分、たとえば、アスコルビン酸、酢酸トコフェロール、天然ビタミンE、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール等の酸化防止剤、2,6−tert−ブチル−4−メチルフェノール等のアミン−ケトン系老化防止剤、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン等の芳香族第2級アミン系老化防止剤、2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン重合体等のモノフェノール系老化防止剤、2,2'−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)等のビスフェノール系老化防止剤、2,5−tert−ブチルハイドロキノン等のポリフェノール系老化防止剤、カオリン、含水二酸化ケイ素、酸化亜鉛、アクリル酸デンプン1000などの充填剤、プロピレングリコール、ポリブテン、マクロゴール1500等の軟化剤、安息香酸、安息香酸ナトリウム、塩酸クロルヘキシジン、ソルビン酸、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸ブチル等の防腐剤、黄酸化鉄、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄、黒酸化鉄、カーボンブラック、カルミン、β−カロテン、銅クロロフィル、食用青色1号、食用黄色4号、食用赤色2号、カンゾウエキス等の着色剤、ウイキョウ油、d−カンフル、dl−カンフル、ハッカ油、d−ボルネオール、l−メントール等の清涼化剤、スペアミント油、チョウジ油、バニリン、ベルガモット油、ラベンダー油等の香料などを含有させることができる。
【0032】
本発明に係る貼付材並びに貼付製剤は、通常次のようにして製造することができる。すなわち、上記液状ゴムと有機液状成分とを必要により溶媒存在下で混合し、そこに架橋剤を添加して、必要により有機溶媒で粘度を調整した後、支持体の少なくとも一方の面に塗布する。次いで適当な温度下にて溶媒を揮散させて液状ゴムの架橋を形成させて、支持体上に粘着剤層を形成し、必要により熟成させる。さらに、以下に述べる剥離ライナーを圧着し、積層することもできる。また、剥離ライナー上に粘着剤層を形成し、粘着剤層の粘着面に支持体を圧着して貼り合わせることもできる。
【0033】
本発明において用いる支持体としては、特に限定されないが、粘着剤層中に含まれる成分を実質的に透過し難いもの、すなわち粘着剤層中に含まれる成分が支持体中を透過し、支持体背面から消失するおそれの少ないものが好ましい。上記の支持体としては、皮膚に貼付することを考えると、柔軟性のある素材が好ましく使用される。かかる素材としては、可塑化軟質ポリ塩化ビニル、無可塑化軟質ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレン−メチルメタクリレート共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−プロピレンゴム、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタン、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコールなどの合成樹脂からなるフィルム又はシートが挙げられる。また、不織布、プラスチック発泡シート、セルロース、酢酸セルロースなどの可撓性のあるフィルムやシートを使用することもできる。さらにまた、かかる素材により成る剥離ライナーを用いることもできる。
【0034】
本発明において用い得る剥離ライナーとしては、グラシン紙、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、アルミフィルム、発泡ポリエチレンフィルム又は発泡ポリプロピレンフィルム等、もしくはこれらから選ばれたものの積層物、更にこれらにシリコーン加工したものや、エンボス加工を施したものなどが挙げられる。
【0035】
本発明に係る貼付材並びに貼付製剤においては、支持体上にある程度の厚さを有する粘着剤層を形成させることが可能である。その結果、皮膚に対する衝撃等から、皮膚の患部や創傷面を保護する効果を向上させることができ、また、粘着剤層に薬物等を多く保持させることが可能となる。従って、本発明に係る貼付材並びに貼付製剤においては、粘着剤層は40μm以上、さらには100μm以上の厚さとすることが好ましい。一方、粘着剤層の厚さは400μmくらいまで、好ましくは300μmくらいまでとすべきである。厚さが300μmを超えると、貼付した貼付材等がずれることにより粘着剤成分がはみ出したり、皮膚への糊残りが生じたりする傾向がある。
【0036】
本発明に係る貼付材は、医療用材料又は衛生用材料として、シート状、フィルム状、パッド状等の貼付材として提供することができ、絆創膏におけるガーゼの代替品や創傷被覆ドレッシングにおける不織布代替品など、皮膚の病変部位や創傷部位の保護といった用途に用いることができる。また本発明に係る貼付製剤は、支持体上に層状に形成された粘着剤層中に薬物を含有して成り、マトリクス型貼付製剤、リザーバー型貼付製剤、パッチ型貼付製剤等として提供することができる。
【0037】
本発明に係る貼付製剤において用い得る薬物としては、ヒトなどの哺乳動物に経皮投与し得る薬物が好ましい。かかる薬物として、具体的には、全身性麻酔薬、局所麻酔薬、麻薬、催眠薬、鎮静薬、抗癲癇薬、抗パーキンソン病薬、精神神経用薬、鎮暈薬、自律神経用薬、鎮痙薬、骨格筋弛緩薬、抗ヒスタミン薬、強心薬、不整脈用薬、利尿薬、血圧降下薬、血管収縮薬、冠血管拡張薬、末梢血管拡張薬、高脂血症用薬、循環器用薬、呼吸促進薬、鎮咳去痰薬、ホルモン薬、解熱鎮痛消炎薬、化膿性疾患用外用薬、鎮痒薬、収斂薬、寄生性皮膚疾患用薬、止血用薬、痛風治療用薬、糖尿病用薬、抗悪性腫瘍用薬、抗生物質、化学療法薬、禁煙補助薬などが挙げられる。粘着剤層中における前記薬物の含有量としては、当該薬物が経皮吸収された場合に薬効を発揮し得る有効量であって、本発明に係る貼付製剤の粘着剤層の物性を損なわない範囲内であれば特に限定されないが、好ましくは、0.01重量%〜60重量%である。
【実施例】
【0038】
さらに本発明について、実施例により詳細に説明する。
【0039】
本発明に係る実施例及び比較例の処方を表1に示す。実施例及び比較例のそれぞれにおいて、分子内に架橋反応可能な官能基を有する液状ゴムとしてのカルボキシル化液状ポリイソプレン(重量平均分子量=25,000、分子内のカルボキシル基の数=10)、有機液状成分としてのミリスチン酸イソプロピル、及び粘着付与剤としての脂環族炭化水素樹脂(軟化点=100℃)を混合し、次いで架橋剤としての1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン(TETRAD−C,三菱ガス化学株式会社製)を添加して、粘着剤層調製用液を得た。この調製用液を、シリコーン処理したポリエチレンテレフタレート製の剥離ライナー上に、乾燥後の厚さが実施例4以外については200μm、実施例4については100μmとなるように塗布して、乾燥させた。その後、粘着剤層の粘着面にポリエチレンテレフタレート製の支持体を圧着させ、60℃で3日間熟成させた。なお、粘着剤層の厚さは、実施例及び比較例の各試験片(幅30mm×長さ50mm)について、日本工業規格(JIS)B7503に規定するダイヤルゲージにより測定した。
【0040】
【表1】

【0041】
まず、上記の実施例及び比較例のそれぞれについて、次のようにしてゲル分率を求めた。実施例及び比較例の各試料の粘着剤層の約0.02gを採取し、正確にその重量(W)を測定した。次いでトルエン中に23℃で7日間浸漬し、トルエン可溶成分を抽出した後、不溶分を取り出し、120℃で3時間乾燥させた後に重量(W)を測定した。ゲル分率は次式により求めた。
ゲル分率(重量%)=W/(W×A/B)×100
A:カルボキシル化液状ポリイソプレン及びTETRAD−Cの重量
B:カルボキシル化液状ポリイソプレン、ミリスチン酸イソプロピル、脂環族炭化水素樹脂及びTETRAD−Cの総重量
【0042】
次に、実施例及び比較例の各貼付材について、接着性、ボールタック、粘着剤層の柔軟性、及び糊残りを評価した。各評価項目についての評価方法を以下に示す。
【0043】
(1)接着性
23℃、相対湿度65%の恒温室内にて、実施例及び比較例の各試料を長さ50mm×幅12mmに打ち抜き、試験片とした。この恒温室内で、各試験片より剥離ライナーを剥離して粘着面を露出させ、2kgゴムローラーを一往復させ、試験片の粘着面をベークライト板に貼付した。30分間静置した後、引張試験機(Autograph AG−IS(島津製作所製))により180°の剥離(剥離速度300mm/min)時における最大応力を測定した。
【0044】
(2)粘着剤層の柔軟性
本試験においては、上記表1に示す組成の粘着剤層調製用液を上記と同じ剥離ライナー上に乾燥後の厚さが100μmになるように塗布し、100℃で5分間乾燥機にて乾燥後、粘着面に同じ材質の剥離ライナーを貼り合わせて、シート状の貼付材を調製した。この貼付材を幅20mm、長さ40mmの矩形に切断して試料とした。次いで、前記試料の長辺側からその長辺を中心軸として密に巻き、円柱状ないし棒状の試験片を得た。得られた各試験片について、23℃、相対湿度65%の条件下に、引張試験機(Autograph AG−IS(島津製作所製))にて、チャック間距離を20mm(つかみしろ各10mm)に設定し、引張強度300mm/minで引張力(N)を測定し、得られた結果から100%モジュラスの応力を求め、その値を柔軟性の指標とした。
【0045】
(3)ボールタック
日本工業規格(JIS)Z0237に従い、次の通り試験を行った。ただし、本試験においては、試料の都合上、実施例及び比較例のそれぞれを幅50mm×長さ50mmに打ち抜いたものを試験片とした。すなわち、23℃、相対湿度65%の条件下に、試験片をその粘着面が露出されるように傾斜角30°の球転装置上に設置し、試験片と助走部との間に段差が生じないように固定した。次いで、試験片上を異なる球径のボールを転がし、5秒以上静止した際の最大球径を当該試験片のボールタック値とした。
【0046】
(4)糊残り
実施例及び比較例の各試料を、幅12mm×長さ50mmに打ち抜き、試験片とした。試験片より剥離ライナーを剥離して粘着面を露出させ、皮膚面に24時間貼付し、剥離した後の皮膚の状態を下記評価基準に従って評価した。
評価基準:
◎;貼付前と全く変わらず、べたつき感はない。
○;皮膚にややべたつき感がある。
△;皮膚に粘着剤が一部転写されている。
×;皮膚全面に粘着剤が残存している。
【0047】
各実施例及び各比較例のゲル分率、及び上記各項目についての評価結果を表2に示す。
【0048】
【表2】

【0049】
表2より明らかなように、分子内に架橋反応可能な官能基を有する液状ゴムを、組成物の全量に対して、それぞれ39.9重量%、53.1重量%、61.2重量%、及び39.9重量%含有する組成物を用いて調製した、ゲル分率が50重量%〜75重量%の範囲内にある粘着剤層を有する実施例1〜実施例4では、適度な接着性及び柔軟性を有しており、ボールタック値及び糊残りについて、いずれも良好な評価を得ていた。また、実施例1と同一組成の組成物を用いて、実施例1の1/2の厚さの粘着剤層を調製した実施例4では、粘着力及びボールタック値がやや低下した分、糊残りについての評価は良くなっていた。
【0050】
これに対して、粘着剤層の調製に用いる組成物において、分子内に架橋反応可能な官能基を有する液状ゴムの含有量が29.9重量%と少なく、粘着付与剤の含有量が49.9重量%と多い比較例1では、接着性、粘着剤層の柔軟性及びボールタック値については良好であったが、顕著な皮膚への糊残りが見られていた。また、粘着剤層の調製に用いる組成物において、分子内に架橋反応可能な官能基を有する液状ゴムの含有量が69.6重量%と、本発明における該成分の配合量の上限より多く、ゲル分率も75%を超える比較例2では、粘着剤層の柔軟性の低下が見られていた。さらに、粘着剤層の調製に用いる組成物において、分子内に架橋反応可能な官能基を有する液状ゴムの含有量が39.7重量%と、本発明に係る貼付材の粘着剤層調製に用いる量の範囲内であるものの、ゲル分率が98重量%と高い比較例3では、粘着剤層が非常に硬く、ボールタック値の低下に見られるように、接着性の低下が顕著であった。一方、粘着剤層のゲル分率が50重量%に満たない比較例4においては、粘着剤層の凝集力が低下し、糊残りについても、剥離後、皮膚全面に粘着剤が残存していた。
【0051】
また表2より、本発明の実施例1〜実施例4は、いずれも良好な柔軟性を示していた。また、実施例1〜実施例4に係る貼付材を貼付した部分を動かした際に、貼付材の皮膚からの浮きやシワの発生は見られず、皮膚の変形に対する追従性も良好であった。
【0052】
以上の結果から、本発明の実施例に係る貼付材は、100μm〜200μmの厚さの粘着剤層を有しており、且つ、比較例に係る貼付材と比べて、適度な接着性及び柔軟性をバランスよく有しており、皮膚から剥離する際の糊残りも少なく、貼付材として適するものであることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋反応可能な官能基を分子内に有する液状ゴムを33重量%〜65重量%含有する組成物より成り、且つゲル分率が50重量%〜75重量%である粘着剤層を、支持体の少なくとも一方の面に層状に形成して成る、貼付材。
【請求項2】
粘着剤層が、さらに有機液状成分を10重量%〜40重量%含有する組成物より成ることを特徴とする、請求項1に記載の貼付材。
【請求項3】
架橋反応可能な官能基を分子内に有する液状ゴムが、架橋反応可能な官能基を分子内に有する液状イソプレンゴムであることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の貼付材。
【請求項4】
有機液状成分が、油脂類、炭化水素類、脂肪酸エステル類及び高級脂肪酸類より選択される1種又は2種以上であることを特徴とする、請求項2又は請求項3に記載の貼付材。
【請求項5】
脂肪酸エステル類が、脂肪酸モノアルキルエステル類であることを特徴とする、請求項4に記載の貼付材。
【請求項6】
脂肪酸モノアルキルエステル類が、ミリスチン酸イソプロピル及びパルミチン酸イソプロピルから選択される1種又は2種であることを特徴とする、請求項5に記載の貼付材。
【請求項7】
粘着剤層が、さらに粘着付与剤を15重量%〜45重量%含有する組成物より成ることを特徴とする、請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の貼付材。
【請求項8】
粘着剤層の厚さが40μm以上であることを特徴とする、請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の貼付材。
【請求項9】
請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の貼付材において、粘着剤層が薬剤を含有して成る、貼付製剤。

【公開番号】特開2010−64997(P2010−64997A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−234604(P2008−234604)
【出願日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】