説明

賦形剤不含抗体溶液を得るための方法

本発明は、抗体に加えて少なくとも一つの溶質を含有する抗体溶液を限外濾過およびダイアフィルトレーションする方法であって、抗体溶液を溶媒でダイアフィルトレーションすること、および抗体溶液に存在し、半透膜の分子量カットオフよりも小さな分子量を有する少なくとも一つの溶質にその膜を通過させるが、一方抗体を保持することにより、抗体および溶媒のみを含有する改変された抗体溶液が得られるように、その混合物を半透膜と接触させることを含む方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、限外濾過−ダイアフィルトレーション(diafiltration)により賦形剤不含抗体溶液を得るための方法に関する。
【0002】
タンパク質医薬群の一部としての抗体分子は、変性および凝集、脱アミド、酸化および加水分解などの物理的および化学的分解を非常に受けやすい。タンパク質の安定性は、タンパク質自体の特性、例えばアミノ酸配列によって、および温度、溶媒pH、賦形剤、界面、またはずり速度などの外的影響によって影響される。そこで、製造、保存および投与の間にタンパク質を分解反応から保護する最適な製剤化条件を規定することが重要である。(Manning, M. C., K. Patel, et al. (1989). "Stability of protein pharmaceuticals." Pharm Res 6(11): 903-18., Zheng, J. Y. and L. J. Janis (2005). "Influence of pH, buffer species, and storage temperature on physicochemical stability of a humanized monoclonal antibody LA298." Int J Pharm)。
【0003】
皮下(s.c.)または筋肉内(i.m.)経路による抗体の投与は、しばしば必要になる高用量およびs.c.またはi.m.経路の投与容量が限定されていることにより、最終製剤中に高いタンパク質濃度を必要とする。(Shire, S. J., Z. Shahrokh, et al. (2004). "Challenges in the development of high protein concentration formulations." J Pharm Sci 93(6): 1390-402., Roskos, L. K., C. G. Davis, et al. (2004). "The clinical pharmacology of therapeutic monoclonal antibodies." Drug Development Research 61(3): 108-120)。高タンパク質濃度の大規模製造は、限外濾過処理、凍結乾燥または噴霧乾燥などの乾燥処理、および沈殿処理によって達成することができる。(Shire, S. J., Z. Shahrokh, et al. (2004). "Challenges in the development of high protein concentration formulations." J Pharm Sci 93(6): 1390-402)。
【0004】
Andyaら(米国特許第6,267,958号、米国特許第6,85,940号)は、所要の濃度を達成するために適切な希釈容量で再構成される、抗体の安定凍結乾燥製剤を記載している。その製剤は、凍結保護剤、緩衝剤および界面活性剤を含む。
【0005】
膜濾過は、生命科学において、最も一般的にはタンパク質の分離、精製または濃縮のために広く使用される技法である。膜濾過は、膜の種類に応じて、精密濾過(0.1〜10μmの膜孔径)または限外濾過(0.001〜0.1μmの膜孔径)として分類することができる。限外濾過膜は、溶解した分子(タンパク質、ペプチド、核酸、糖質、および他の生体分子)の濃縮、脱塩または緩衝液の交換、および粗分画のために使用される。限外濾過膜は、膜の細孔よりも大きな分子を保持し、一方で100%透過性である塩、溶媒および水などのより小型の分子は、膜を自由に通過する。二つの主な膜濾過法がある。シングルパス/デッドエンド/ダイレクトフロー濾過pFF)では、濾過される流体は膜に垂直に方向付けられる。クロススロー/タンジェンシャルフロー濾過(TFF)では、流体は膜の表面の接線方向に流動し;TFFは、リテンテート(retentate)を再循環することによって膜の目詰まりの問題を解決する。
【0006】
高分子の濃縮では、膜は所望の生体化学種の含量を濃縮化する。外的手段によって生じた圧力は、流体を強制的に半透膜を通過させる。膜の公称分子量カットオフ(MWCO)よりも大きな溶質は、保持される。所要の圧力は、圧縮ガス、ポンプ輸送、遠心分離または毛管現象の使用により発生させることができる。
【0007】
交互の限外濾過および再希釈による、または一定容量を維持するための連続的な限外濾過および希釈による、溶液からの小型分子の除去は、ダイアフィルトレーション処理をもたらす。限外濾過は、塩、糖、非水性溶媒の除去もしくは交換、またはイオンおよびpH環境の急速変化に理想的である。
【0008】
一般に、限外濾過装置は、高分子(例えば抗体)、緩衝液成分などの溶質、塩、アミノ酸または糖を含有する供給溶液を含み、溶媒(例えば水)は、外力(例えばポンプ輸送による)によって強制的に限外濾過カセットを通過させられる。供給流は、濾液およびリテンテート流に分離される。濾液は、溶媒および全ての溶質から成り、それらは、半透膜を通過することができ、システム循環から離れる。高分子は、リテンテート流に保持され、供給タンクに戻される。濃縮処理の間に、溶媒は常に除去され、高分子濃度は増加する一方で、膜を通過することのできる溶質の濃度は一定のままである。ダイアフィルトレーション処理の間に、放出されている濾液容量は、供給タンクにダイアフィルトレーション緩衝液を添加することによって埋め合わされる。ダイアフィルトレーション緩衝液は、本来の供給溶液と異なる組成の溶質から成る。高分子の濃度は一定のままである一方で、溶質の組成は初期供給液の組成からダイアフィルトレーション緩衝液の組成まで常に変化する。濃縮およびダイアフィルトレーションの両方の処理は、変動できる順序で組み合わせることができる。
【0009】
米国特許第6,566,329号は、脱塩カラムを用いた中間処理段階としてhGHの脱塩を行って塩および他の賦形剤を有さない純水中にhGHが得られた、ヒト成長ホルモンの凍結乾燥調製物の製造を記載している。この研究の範囲は、凍結乾燥調製物を開発することであったが、それは、最大70mg/mLの濃度の比較的低い溶解度のhGHに限定的であり、脱塩カラムが使用された。
【0010】
国際公開公報第99/55362号は、IGF−1の噴霧乾燥製剤を教示している。純粋なrhIGH−1がその調製のための一中間体として採用された。しかしながら、透析カセットを用いて緩衝液の交換が行われ、水中に純粋なIGF−1が得られ、それは、強い混濁および沈殿、すなわち強い不安定性の徴候を示し、水へのIGF−1の溶解度は、最大24mg/mLと、賦形剤含有製剤よりも顕著に減少した。
【0011】
Gokarn et al., J. Pharm. Sci. 2007 Nov 19; 97(8): 3051-3066は、高濃度抗体製剤の自己緩衝能を示したことで、タンパク質製剤から緩衝液成分を排除する可能性を実証している。しかし、無緩衝液調製物へのソルビトールの添加が、記載された抗体製剤の安定性および等張性を確実にするために必要であった。Gokarnらは、国際公開公報第2006/138181号にもまた高濃度抗体製剤の自己緩衝能を記載しており、それは、カウンターイオンの存在下に限るとはいえ、サイズ排除クロマトグラフィー、透析および/またはタンジェンシャルフロー濾過(限外濾過−ダイアフィルトレーション)を用いて残留緩衝液を除去する、緩衝液不含組成物を調製するための方法の簡単な説明を含んでいた。
【0012】
本発明の目的は、従来技術の欠点を有さないか、またはこれらの欠点を少なくとも部分的に回避する、賦形剤不含抗体溶液を調製するための方法を開発することであった。
【0013】
この目的は、独立請求項による方法によって達成される。緩衝塩、塩、アミノ酸、糖または糖アルコールなどの様々な溶質を含有する抗体溶液をダイアフィルトレーションによって純水に対して緩衝剤交換する結果として、抗体および溶媒のみから成る溶液が得られる。場合により、濃縮段階を、ダイアフィルトレーション段階の前後に追加することができる。驚くことに、そのように得られた、抗体の賦形剤不含タンパク質製剤は、ダイアフィルトレーションおよび濃縮の間に全体的なタンパク質の安定性を維持する。
【0014】
本発明の第一の局面は、抗体に加えて少なくとも一つの溶質を含有する抗体溶液を限外濾過およびダイアフィルトレーションする方法であって、抗体溶液を溶媒でダイアフィルトレーションすること、および抗体溶液に存在し、半透膜の分子量カットオフ(MWCO)よりも小さな分子量を有する少なくとも一つの溶質にその膜を通過させるが、一方抗体を保持することにより、抗体および溶媒のみを含有する改変抗体溶液が得られるように、該混合物をその膜と接触させることを含む方法に関する。好ましくは、該溶媒は水であり、少なくとも一つの溶質は、緩衝塩、塩、アミノ酸、糖および糖アルコールから成る群より選択される。
【0015】
本発明に有用な抗体の例は、免疫グロブリン分子、例えばIgG分子である。IgGは、2本の重鎖および2本の軽鎖を含むことを特徴とし、これらの分子は、2個の抗原結合部位を含む。該抗原結合部位は、重鎖の部分(VH)および軽鎖の部分(VL)から成る「可変領域」を含む。抗原結合部位は、VHおよびVLドメインの並置によって形成される。抗体分子または免疫グロブリン分子に関する全般的な情報については、また、Abbas "Cellular and Molecular Immunology", W.B. Sounders Company (2003)のようなよく知られた教科書を参照されたい。
【0016】
本明細書前記のように、抗体に加えて少なくとも一つの溶質を含有する抗体溶液を限外濾過およびダイアフィルトレーションする方法は、好ましくは、30〜280mg/mL、さらに好ましくは80〜200mg/mLの抗体濃度を有する賦形剤不含抗体溶液をもたらす。
【0017】
本明細書前記の方法は、液体または乾燥形態のいずれかの最終産物を製造するために使用することができる。結果として、本発明の方法は、さらに、抗体および溶媒のみを含有する該抗体溶液を凍結乾燥物、安定な液体製剤および/または再構成された製剤に加工する段階を含む。
【0018】
抗体は、好ましくはモノクローナル抗体であり、特に好ましくは、IgG1、IgG2またはIgG4の群より選択されるモノクローナル抗体である。
【0019】
本発明の第二の局面は、本発明の方法により入手可能な精製抗体溶液に関する。好ましくは、該抗体はモノクローナル抗体であり、なおさらに好ましいのは、該抗体がIgG1、IgG2またはIgG4の群より選択されるモノクローナル抗体の場合である。
【0020】
本発明の第三の局面は、本明細書前記に言及されたような本発明の精製抗体溶液を凍結乾燥することによって得られた凍結乾燥抗体調製物に関する。
【0021】
定義
「賦形剤不含抗体溶液」または「抗体および溶媒のみを含有する抗体溶液」という用語は、小分子の溶質が最大で検出限界濃度まで、例えば最大で0.02〜0.08mMの範囲でだけ存在する抗体含有水溶液を意味する。すなわち、任意の小分子の溶質を検出するための標準的な分析技法を用いたときに、該抗体含有水溶液は、特定の検出限界を超えてそれを本質的に有さない。
【0022】
「リテンテート」という用語は、保持されたタンパク質を含有する溶液を意味する。
【0023】
「供給液」という用語は、限外濾過カセットに流入している溶液を意味する。半透膜を通過している間に、供給液は、リテンテートおよび濾液に分離される。
【0024】
「濾液」という用語は、膜に保持されない溶媒および溶質を含有する、膜を通過している溶液を意味する。
【0025】
「ダイアフィルトレーション」という用語は、洗浄液を製品に添加する膜濾過手段を用いた製品の濾過を意味し、この濾過は、製品中の濾過可能な構成要素の濃度を減少させ、すなわち、製品中の濾過不可能な構成要素は必ずしも濃縮されずに、または製品が濃縮化されずにこれらの物質が洗浄される。使用される洗浄液は、別に供給される水または溶媒などの、製品の外側の洗浄液である。
【0026】
「膜限外濾過」という用語は、分子のサイズ、形状および/または電荷により水溶液中の種を分離するために半透膜を使用する圧力改変対流処理を意味する。
【0027】
「抗体」という用語は、本明細書において「抗体分子」という用語と同義的に使用され、本発明に関連して、完全な免疫グロブリン分子、例えばIgM、IgD、IgE、IgA、またはIgG1、IgG2、IgG2b、IgG3もしくはIgG4などのIgGのような抗体分子に加えて、Fab−フラグメント、Fab’−フラグメント、F(ab)2−フラグメント、キメラF(ab)2もしくはキメラFab’フラグメント、キメラFab−フラグメントまたは単離されたVH−もしくはCDR−領域(該単離されたVH−もしくはCDR−領域は、例えば対応する「フレームワーク」に統合または操作される)のようなそのような免疫グロブリン分子の部分を含む。したがって、「抗体」という用語は、また、1本鎖抗体もしくは1本鎖Fvフラグメント(scAB/scFv)または二特異性抗体構築物のような免疫グロブリンの公知のアイソフォームおよび改変を含み、該アイソフォームおよび改変は、本明細書において同義の少なくとも一つのグリコシル化VH領域を含むこととして特徴づけられる。そのようなアイソフォームまたは改変の特定の例は、VH−VLまたはVL−VH形式のsc(1本鎖)抗体(ここで該VHは、本明細書に記載されたグリコシル化を含む)であってもよい。また、二特異性scFvは、例えばVH−VL−VH−VL、VL−VH−VH−VL、VH−VL−VL−VHの形式で予想されている。同様に「抗体」という用語に含まれるのは、少なくとも一つの抗原結合部分/ペプチドに結合したビヒクルとして抗体Fcドメインを含むダイアボディー(diabody)および分子、例えば国際公開公報第00/24782号に記載されたようなペプチボディー(peptibody)である。
【0028】
本発明の製剤に含まれうる抗体は、とりわけ、リコンビナント産生された抗体である。これらは、哺乳動物細胞培養系で、例えばCHO細胞で産生させることができる。抗体分子は、さらに、例えば本明細書下記のように、特異的にグリコシル化された抗体アイソフォームを精製するために、一連のクロマトグラフィー段階および濾過段階により精製することができる。
【0029】
本発明による製剤に関連して本明細書に使用されるような「凍結乾燥物」という用語は、それ自体、当該技術において公知の凍結乾燥法によって製造される製剤を意味する。溶媒(例えば水)は、真空下で以下の昇華物を凍結させ、高温で残留水を脱着させることにより除去する。薬学の分野では、凍結乾燥物は、通常は約0.1〜5%(w/w)の残留水分を有し、粉末または物理的に安定なケークとして存在する。凍結乾燥物は、再構成媒質の添加後に溶解することを特徴とする。
【0030】
本発明による製剤に関連して本明細書に使用されるような「再構成された製剤」という用語は、凍結乾燥され、再構成媒質の添加により再溶解された製剤を意味する。再構成媒質は、非限定的に注射用水(WFI)、注射用静菌水(BWFI)、塩化ナトリウム溶液(例えば0.9%(w/v)NaCl)、グルコース溶液(例えば5%グルコース)、界面活性剤含有溶液(例えば0.01%ポリソルベート20)、pH緩衝溶液(例えばリン酸緩衝溶液)およびその組み合わせを含む。
【0031】
本発明による製剤に関連して本明細書に使用されるような「安定な液体製剤」という用語は、製造、保存および適用の間にその物理的および化学的完全性を保つ製剤を意味する。タンパク質の安定性を評価するための様々な分析技法を利用することができ、それらは、Reubsaet, J. L., J. H. Beijnen, et al. (1998). "Analytical techniques used to study the degradation of proteins and peptides: chemical instability". J Pharm Biomed Anal 17(6-7): 955-78およびWang, W. (1999). "Instability, stabilization, and formulation of liquid protein pharmaceuticals." Int J Pharm 185(2): 129-88に総説されている。安定性は、選択された気候条件で選択された時間保存することにより、選択された振盪回数で選択された時間振盪するような機械的ストレスを適用することにより、または選択された速度および温度で繰り返し凍結融解することにより評価することができる。
【0032】
本明細書に使用されるような「薬学的に許容される」という用語は、医薬に関する現行の国際規制の要件を守る製剤を意味する。薬学的に許容されうる製剤は、一般に、予期される適用経路および濃度範囲について安全と認められる賦形剤を含有する。加えて、その製剤は、製造、保存および適用の間に十分な安定性を提供すべきである。さらに、非経口適用経路用の製剤は、ヒト血液の組成と比べたときに等張および等水素性(euhydric)pHであるという要件を考慮すべきである。
【0033】
賦形剤不含抗体溶液の調製物は、抗体溶液の製造および保存の間の賦形剤誘導性不安定性を回避し、溶液処理または製剤中に意図的に存在する対イオンの使用を回避する。通常は抗体製剤の添加剤として使用される賦形剤は、また、低レベルの不純物を含有するおそれがあり、その不純物は、抗体分子の化学的不安定反応をもたらすおそれがある。例えば、タンパク質製剤に一般に使用される安定化剤であるスクロースは、低痕跡量の金属イオンを含有することが報告されており、それは、メチオニン残基の酸化をもたらすおそれがある(Rowe RC, Sheskey PJ, Owen SC. (2005) Handbook of Pharmaceutical Excipients. 5th edition ed.: APhA Publications)。さらに、賦形剤は、処理装置の表面と反応することがあり、それが浸出液の蓄積をもたらす。例えば、タンパク質製剤に一般に使用される等張化剤である塩化ナトリウムの存在もまた、ステンレススチール表面と接触後に、比較的高温で治療用抗体の酸化を増加させることが報告された(Lam et al. (1997) J. Pharm. Sci. 86(11):1250-1255)。
【0034】
高濃縮された賦形剤不含抗体製剤の製造により、妥当でない賦形剤組成物の調製が回避される。低イオン強度および高タンパク質濃度での緩衝液交換は、限外濾過膜を横断した緩衝液イオンの不均等な分布につながる。いわゆるドナン効果であるこの結果は、タンパク質濃度の関数としての緩衝液濃度の改変および製剤pHの変化である(Stoner et al. (2004) J. Pharm. Sci. 93(9): 2332-2342)。賦形剤不含抗体溶液の調製は、賦形剤不含抗体溶液に所定の量の緩衝液原液を添加することにより、より正確な抗体製剤を調製するための予備段階として用いることができる。
【0035】
さらに、このアプローチは、原薬から最終薬物製品までの完全な製造処理チェーンの間に抗体製剤に同品質の賦形剤を使用することを確実にする。
【0036】
膜濾過に適切な条件は、技術者により決定することができる。濃縮前に注射用水に対してダイアフィルトレーションするために、ダイアフィルトレーション溶液に対するタンパク質溶液の比は、少なくとも2、さらに好ましくは少なくとも3または特に好ましくは5または10であるべきである。本発明によるダイアフィルトレーションおよび限外濾過に適した濾液の流速は、リテンテートに関して1〜100L/m2h、好ましくは1〜80L/m2h、そして2〜60L/m2h、好ましくは3〜50L/m2h、特に好ましくは8〜35L/m2hの範囲であってもよい。膜は、好ましくは限外濾過膜であり;適切な分子量カットオフは、1〜100kD、好ましくは5〜100kD、特に好ましくは30〜50kDの範囲であってもよい。濾過は、1〜100psi、好ましくは10〜90psi、特に好ましくは15〜70psiの範囲の膜間圧力(TMP)下で行ってもよい。
【0037】
実施例
実施例1
外力(例えばポンプ輸送)によって高分子(例えば抗体)、緩衝液成分、塩、アミノ酸または糖などの溶質、および溶媒(例えば水)を含有する供給溶液に強制的に限外濾過カセットを通過させる。供給流を濾液およびリテンテート流に分離する。濾液は、溶媒および全ての溶質から成り、それらは半透膜を通過することができ、システム循環から離れる。高分子は、リテンテート流に保持されるが、それを供給タンクに戻す。濃縮処理の間に溶媒は一定に除去され、高分子濃度が増加する一方で、膜を通過できる溶質の濃度は一定のままである。ダイアフィルトレーション処理の間に、供給タンクにダイアフィルトレーション緩衝液を添加することによって、拙出されている濾液容量を埋め合わせる。ダイアフィルトレーション緩衝液は、元の供給溶液と異なる溶質組成から成る。高分子の濃度は一定を保つ一方で、溶質の組成は初期供給液の組成からダイアフィルトレーション緩衝液の組成まで一定に変化する。濃縮およびダイアフィルトレーションの両方の処理を様々な順序で組み合わせることができる。
【0038】
出発溶液は、20mMヒスチジン緩衝液に濃度約50〜60mg/mLの、アミロイドβペプチドに対するIgG(PCT/EP2006/011914の実施例1に記載の抗体A)から成った。抗体物質を最初に前濃縮し、次にダイアフィルトレーションし、続いて最終ターゲット濃度まで賦形剤不含溶液中で濃縮した。ダイアフィルトレーションは、さらなる賦形剤を有さない注射用水(WFI)に対して行った。タンパク質溶液に対するダイアフィルトレーション緩衝液の比は、少なくとも5であった。半透膜は、膜面積400cm2および30kD MWCOの再生セルロースから成る。表5に、本発明による処理の間に得られた処理パラメーターの概要を一覧する。表1〜4は、容量(L)、タンパク質濃度(g/L)、タンパク質の質量(g)、pH、リテンテート中のタンパク質1gあたりの浸透圧(mOsm/g)、濾液の浸透圧(mOsm/kg)、収率(%)、緩衝液濃度(mM)に加えて、処理後および処理中の物質の完全性を示すためにサイズ排除クロマトグラフィーによって測定されたモノマー含量(%)などの物質のパラメーターを一覧する。
【0039】
リテンテート中のタンパク質1gあたりの浸透圧は、透過性の溶質の除去が原因で処理全体にわたり本質的に低下する。緩衝液濃度をサイズ排除(SE)−HPLC法により測定したところ、緩衝液賦形剤が、分析法の限界未満まで本質的に除去されたことが示された。賦形剤の不在は、また、処理後の濾液中に5mOsm/kg未満という浸透圧の値によって間接的に示すことができる。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【0042】
【表3】

【0043】
【表4】

【0044】
【表5】

【0045】
実施例2
出発溶液は、リン酸緩衝液中に濃度44.6mg/mLの、VEGFに対するIgG抗体から成った。VEGFに対するIgG抗体は、US2008/0248036A1に記載されている。この抗VEGF抗体「ベバシズマブ」、は、「rhuMAb VEGF」または「Avastin(商標)」としても知られているが、Presta et al. (1997) Cancer Res. 57:4593-4599にしたがって産生されたリコンビナントヒト化抗VEGFモノクローナル抗体である。それは、突然変異ヒトIgG1フレームワーク領域と、ヒトVEGFからそのレセプターへの結合を遮断するマウス抗hVEGFモノクローナル抗体A.4.6.1由来の抗原結合性相補性決定領域とを含む。大部分のフレームワーク領域を含むベバシズマブの約93%のアミノ酸配列がヒトIgG1由来であり、約7%の配列がマウス抗体A4.6.1由来である。ベバシズマブは、約149000ダルトンの分子量を有し、グリコシル化されている。ベバシズマブは、様々なガンを処置するために臨床的に研究されている途中であり、いくつかの初期臨床試験は有望な結果を示した。Kerbel (2001) J. Clin. Oncol. 19:45S-51S; De Vore et al. (2000) Proc. Am. Soc. Clin. Oncol. 19:485a; Johnson et al. (2001) Proc. Am. Soc. Clin. Oncol. 20:315a; Kabbinavar et al. (2003) J. Clin. Oncol. 21:60-65。
【0046】
抗体物質を最初に前濃縮し、次にダイアフィルトレーションし、続いて賦形剤不含溶液中で最終ターゲット濃度まで濃縮した。ダイアフィルトレーションは、さらなる賦形剤を有さない注射用水(WFI)に対して行った。タンパク質溶液に対するダイアフィルトレーション緩衝液の比は少なくとも5であった。半透膜は、膜面積400cm2および30kD MWCOを有する再生セルロースから成る。表7は、本発明による処理の間に得られた処理パラメーターの概略を一覧する。表6は、容量(L)、タンパク質濃度(g/L)、タンパク質の質量(g)、pH、リテンテート中のタンパク質1gあたりの浸透圧(mOsm/g)、濾液中の浸透圧(mOsm/kg)、収量(%)、緩衝液濃度(mM)に加えて、処理後および処理中の物質の完全性を示すためにサイズ排除クロマトグラフィーによって測定されたモノマー含量(%)などの物質のパラメーターを一覧する。
【0047】
リテンテート中のタンパク質1gあたりの浸透圧は、透過性の溶質の除去が原因で、処理全体にわたり本質的に低下する。賦形剤の不在は、また、処理後の濾液中に5mOsm/kg未満という浸透圧の値によって間接的に示すことができる。
【0048】
【表6】

【0049】
【表7】

【0050】
実施例3
出発溶液は、塩化ナトリウムを含有する20mM酢酸緩衝液中に濃度10.2mg/mLの、MUC1(細胞表面関連ムチン1)に対するIgG抗体から成った。この抗体は、例えば、(i)Taylor-Papadimitriou J, Peterson JA, Arklie J, Burchell J, Ceriani RL, Bodmer WF 1981. Monoclonal antibodies to epithelium-specific components of the human milk fat globule membrane: production and reaction with cells in culture. Int J Cancer 28(1):17-21および(ii)Verhoeyen ME, Saunders JA, Price MR, Marugg JD, Briggs S, Broderick EL, Eida SJ, Mooren AT, Badley RA 1993. Construction of a reshaped HMFG1 antibody and comparison of its fine specificity with that of the parent mouse antibody. Immunology 78(3):364-370に記載されている。
【0051】
抗体材料を最初に前濃縮し、次にダイアフィルトレーションし、続いて賦形剤不含溶液中で最終ターゲット濃度まで濃縮した。ダイアフィルトレーションは、さらなる賦形剤を有さない注射用水(WFI)に対して行った。タンパク質溶液に対するダイアフィルトレーション緩衝液の比は少なくとも5であった。半透膜は、膜面積400cm2および30kD MWCOを有する再生セルロースから成る。表9は、本発明による処理の間に得られた処理パラメーターの概要を一覧する。表8は、容量(L)、タンパク質濃度(g/L)、タンパク質の質量(g)、pH、リテンテート中のタンパク質1gあたりの浸透圧(mOsm/g)、濾液中の浸透圧(mOsm/kg)、収量(%)、緩衝液濃度(mM)に加えて、処理後および処理中の物質の完全性を示すためにサイズ排除クロマトグラフィーによって測定されたモノマー含量(%)などの物質のパラメーターを一覧する。
【0052】
リテンテート中のタンパク質1gあたりの浸透圧は、透過性の溶質の除去が原因で処理全体にわたり本質的に低下する。緩衝液濃度を逆相(RP)−HPLC法を用いて測定したところ、緩衝液賦形剤が本質的に除去されたことが示された。賦形剤の不在は、また、処理後の濾液中に5mOsm/kg未満という浸透圧の値によって間接的に示すことができる。
【0053】
【表8】

【0054】
【表9】

【0055】
本発明の現在好ましい態様が示され、説明されているが、本発明はそれに限定されるのでなく、その他の方法で添付の特許請求の範囲内で様々に具体化および実施できることを明確に理解されたい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体に加えて少なくとも一つの溶質を含有する該抗体の溶液を限外濾過およびダイアフィルトレーションする方法であって、該抗体溶液を溶媒でダイアフィルトレーションすること、および該抗体溶液に存在し、半透膜の分子量カットオフよりも小さな分子量を有する該少なくとも一つの溶質に該膜を通過させるが、一方該抗体を保持することにより、該抗体および該溶媒のみを含有する抗体溶液が得られるように、その混合物を該膜と接触させることを含む方法。
【請求項2】
溶媒が水である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
抗体および溶媒のみを含有する抗体溶液が、30〜280mg/mL、好ましくは50〜200mg/mLの抗体濃度を有する、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項4】
抗体および溶媒のみを含有する抗体溶液を安定な液体製剤に加工する段階をさらに含む、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
抗体および溶媒のみを含有する抗体溶液を凍結乾燥物または再構成された製剤に加工する段階をさらに含む、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
少なくとも一つの溶質が、緩衝塩、塩、アミノ酸、糖および糖アルコールから成る群より選択される、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
半透膜が、好ましくは2〜50kDaの範囲の分子量カットオフを有する限外濾過膜である、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
抗体が、好ましくはIgG1、IgG2またはIgG4の群より選択されるモノクローナル抗体である、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
前記請求項のいずれか一項記載の方法により入手可能な精製抗体溶液。
【請求項10】
抗体が、好ましくはIgG1、IgG2またはIgG4の群より選択されるモノクローナル抗体である、前記請求項のいずれか一項記載の精製抗体溶液。
【請求項11】
実質的に本明細書前記のような、特に前記実施例を参照した、方法および精製抗体。

【公表番号】特表2012−511531(P2012−511531A)
【公表日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−540025(P2011−540025)
【出願日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際出願番号】PCT/EP2009/066329
【国際公開番号】WO2010/066634
【国際公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】