説明

質量分析用デバイス及びそれを用いた質量分析装置、質量分析方法

【課題】表面支援レーザ脱離イオン化質量分析法において、測定光の低パワー化を実現し、難揮発性の物質や高分子量の物質の高感度な質量分析を可能にする。
【解決手段】質量分析用デバイス1は、表面1sに接触させた試料に測定光L1を照射することにより、試料中に含まれる被分析物質Sを表面1sから脱離させるものであって、表面1sにて開口した微細孔13を複数有する基材10を備え、微細孔13の少なくとも内壁面13aに金属微細構造を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デバイス表面に接触された試料に測定光を照射して、試料中に含まれる質量分析の被分析物質をイオン化して表面から脱離させ、脱離した該物質を質量分析する方法に用いられる質量分析用デバイス、及びそれを用いた質量分析装置及び質量分析方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
物質の同定等に用いられる質量分析法において、質量分析用デバイス上に接触された試料に測定光を照射して被分析物質をデバイスから脱離させ、脱離された物質を質量別に検出する質量分析方法が知られている。例えば、飛行時間型質量分析法(Time of Flight Mass Spectroscopy : TOF-MS)は、デバイスから脱離された物質を所定距離飛行させて、その飛行時間により物質の質量を分析するものである。
【0003】
このような質量分析法においては、通常、被分析物質をイオン化させて脱離させている。しかしながら、特に生体物質等の難揮発性の物質や合成高分子等の高分子量の物質が被分析物質である場合は被分析物質のイオン化、脱離が難しく、これらの物質を質量分析可能とする方法が種々検討されている。
【0004】
マトリクス支援レーザ脱離イオン化法(MALDI法)は、被分析物質をマトリクスと呼ばれるシナピン酸やグリセリン等に混入して混晶としたものを試料とし、マトリクスが吸収した光エネルギーを利用して被分析物質をマトリクスとともに気化させ、次いでマトリクス−被分析物質間でのプロトン移動がおこって被分析物質をイオン化させる方法である。MALDI法は、被分析物質に対しフラグメント化や変性等の化学的な影響の少ないソフトイオン化法として、難揮発性の物質や生体分子、合成高分子等の高分子量の物質の質量分析に幅広く用いられている(特許文献1など)。
【0005】
しかしながら、被分析物質が合成高分子などの場合は、ポリマー鎖の化学構造の違いのよって溶媒に対する溶解性やポリマー鎖の極性などが大きく異なり、また、主査構造が同じであっても平均分子量や末端基の化学構造などの違いにより様々な特性が異なるため、被分析物質の種類に応じてマトリクス剤の種類や結晶の調製方法を最適化する必要がある。
【0006】
一方、マトリクス剤を用いずに、被分析物質の脱離・イオン化を支援する機能を質量分析用デバイスそのものに備えることによりソフトイオン化を行う表面支援レーザ脱離イオン化質量分析法(Surface-assisted laser desorption/ionization-mass spectrometry : SALDI-MS)が検討されている。例えば、特許文献2及び特許文献3では、表面にナノオーダの細孔構造を有するポーラスシリコン基板を用いた質量分析用デバイスでは、シリコンナノ構造と測定光との相互作用を利用してソフトイオン化を行っている。
【特許文献1】特開平9−320515号公報
【特許文献2】米国特許第2008/0073512号明細書
【特許文献3】米国特許第2006/0157648号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、SALDI-MSのイオン化効率の増強は未だ充分なものではないため、難揮発性の物質や高分子量の物質の質量分析においては高パワーの測定光が必要とされている。そのため、被分析物質のフラグメント化や変性、及び基板自体の変形等の問題が未だ残されている。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、表面支援レーザ脱離イオン化質量分析法において、測定光の低パワー化が可能であり、被分析物質のフラグメント化や変性、及び基板自体の変形を生じることなく難揮発性の物質や高分子量の物質の質量分析が可能な質量分析用デバイス、及びそれを備えた質量分析装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の質量分析用デバイスは、表面に接触させた試料に測定光を照射することにより、該試料中に含まれる被分析物質を前記表面から脱離させる質量分析用デバイスであって、前記表面にて開口した微細孔を複数有する基材を備え、前記微細孔の少なくとも内壁面に金属微細構造を有することを特徴とするものである。
【0010】
本発明の質量分析用デバイスにおいて、前記表面又は前記微細孔の少なくとも一部にイオン化促進剤が固着されていることが好ましい。また、前記微細孔は有底孔であることが好ましい。
【0011】
本発明の質量分析用デバイスの好適な態様としては、前記金属微細構造が、前記内壁面に複数の金属粒子が固着されてなるものが挙げられる。
【0012】
また、発明の質量分析用デバイスのその他の好適な態様としては、前記微細孔を第1の微細孔とし、第1の微細孔が内壁面にて開口して形成された有底孔である第2の微細孔を複数の有するものであり、前記金属微細構造が、前記第2の微細孔に充填された充填部と、該充填部上に前記内壁面より突出して形成され該内壁面と平行方向の最大径が前記充填部の径よりも大きい突出部とからなる複数の金属体からなるものが挙げられる。かかる構成では、前記第2の微細孔が、一表面にて開口した有底の微細孔を複数有する被陽極酸化金属体を陽極酸化することにより前記微細孔の内壁面に形成されたものであり、前記複数の金属体が、前記第2の微細孔内に、一部が前記基材表面から突出するまでメッキ処理を実施することにより形成されたものであることが好ましい。また、互いに隣接する前記突出部同士の平均離間距離は10nm以下であることが好ましい。
【0013】
また、本発明の質量分析用デバイスのその他の好適な態様としては、前記金属微細構造が、金属がパターン形成された金属層からなるものが挙げられる。
【0014】
本発明の質量分析装置は、上記本発明の質量分析用デバイスと、該質量分析用デバイスの前記表面に接触された試料に前記測定光を照射して、前記試料中の質量分析の被分析物質を前記表面から前記表面から脱離させる光照射手段と、脱離した前記被分析物質を検出して該被分析物質の質量を分析する分析手段とを備えたことを特徴とするものである。本発明の質量分析装置の好適な態様としては、飛行時間型質量分析装置が挙げられる。
【0015】
本発明の質量分析方法は、上記本発明の質量分析用デバイスを用いる分析方法であって、該質量分析用デバイスの前記表面に試料を接触させた後、該試料の接触された前記表面に測定光を照射し、該測定光の照射により前記金属微細構造において生じるプラズモンを利用して、前記試料中に含まれる被分析物質をイオン化させるとともに前記表面から脱離させ、該脱離した被分析物質を捕捉して質量分析することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の質量分析用デバイスは、試料接触面にて開口した微細孔を複数有する基材を備え、微細孔の少なくとも内壁面に金属微細構造を有している。かかる構成によれば、第1の微細構造である基材表面の微細構造と測定光との相互作用と、第2の微細構造である微細孔内の金属微細構造と測定光との相互作用とを利用して、被分析物質を高効率にイオン化するとともに表面から脱離させることができる。また、第2の微細構造によるイオン化は微細孔内という局所空間においてなされるため、イオン化されて脱離した被分析物質が同じ微細孔内存在する被分析物質と衝突し合い、お互いのエネルギーを高め合うためよりイオン化効率が高くなる。従って、本発明によれば、表面支援レーザ脱離イオン化質量分析法において、測定光の低パワー化を実現し、被分析物質が難揮発性の物質や高分子量の物質であっても、被分析物質のフラグメント化や変性、及び基板自体の変形を生じることなく、高感度に質量分析することができる。また、イオン化促進剤を備えた構成では、上記した第1及び第2の微細構造における測定光との相互作用により、測定光のエネルギーのみならず、イオン化促進剤の励起効率も同時に高められる。従って、上記構造とイオン化促進剤とこれらの相乗効果とにより、イオン化効率及び検出される信号の絶対強度を効果的に増強することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
「質量分析用デバイスの第1実施形態」
図1を参照して、本発明に係る第1実施形態の質量分析用デバイスについて説明する。図1は厚み方向断面図であり、図2はその製造工程を示す図である。視認しやすくするため、構成要素の縮尺は実際のものとは適宜異ならせてある。
【0018】
図1に示されるように、本実施形態の質量分析用デバイス1は、表面1sに接触させた試料に測定光L1を照射することにより、試料中に含まれる質量分析の被分析物質を表面1sから脱離させる質量分析用デバイスであって、表面1s(10s)にて開口した有底の微細孔13を複数有する基材10を備え、微細孔13の少なくとも内壁面13aに複数の金属粒子20aが固着されてなる金属微細構造を備えたデバイス構造を有している。
【0019】
本実施形態の質量分析用デバイス1において、基材10は、導電体12上に平面視略同一形状の多数の微細孔13が、表面において開口して略規則配列した誘電体11を備えた構成としている(第1の微細構造)。
【0020】
微細孔13は誘電体11の表面から厚み方向に略ストレートに開孔され、裏面に到達せずに閉口された非貫通孔である。
【0021】
本実施形態において、誘電体11は、図2に示されるように、アルミニウム(Al)を主成分とし、微少不純物を含んでいてもよい被陽極酸化金属体40の一部を陽極酸化して得られたアルミナ(Al)層(金属酸化物層)41である。導電体12は、陽極酸化されずに残った被陽極酸化金属体40の非陽極酸化部分42により構成されている。
【0022】
被陽極酸化金属体40の形状は制限されず、板状等が挙げられる。また、支持体の上に被陽極酸化金属体40が層状に成膜されたものなど、支持体付きの形態で用いることも差し支えない。
【0023】
陽極酸化は、例えば、被陽極酸化金属体40を陽極とし、カーボンやアルミニウム等を陰極(対向電極)として、これらを陽極酸化用電解液に浸漬させ、陽極と陰極の間に電圧を印加することで実施できる。電解液としては制限されず、硫酸、リン酸、クロム酸、シュウ酸、スルファミン酸、ベンゼンスルホン酸等の酸を、1種又は2種以上含む酸性電解液が好ましく用いられる。
【0024】
図2Aに示す被陽極酸化金属体40を陽極酸化すると、図2Bに示されるように、表面40s(図示上面)から該面に対して略垂直方向に酸化反応が進行し、アルミナ層41(11)が生成される。
【0025】
陽極酸化により生成されるアルミナ層41(11)は、平面視略正六角形状の微細柱状体が隣接して配列した構造を有するものとなる。各微細柱状体の略中心部には、表面40sから深さ方向に微細孔13が開孔される。また、各微細孔13及び微細柱状体の底面は、図示する如く、丸みを帯びた形状を有している。陽極酸化により生成されるアルミナ層の構造は、益田秀樹、「陽極酸化法によるメソポーラスアルミナの調製と機能材料としての応用」、材料技術Vol.15,No.10、1997年、p.34等に記載されている。
【0026】
陽極酸化の好適な条件例としては、電解液としてシュウ酸を用いる場合、電解液濃度0.5M、液温15℃、印加電圧40Vが挙げられる。電解時間を変えることで、任意の層厚のアルミナ層41(11)を生成できる。陽極酸化前の被陽極酸化金属体40の厚みを、生成されるアルミナ層41(11)よりも厚く設定しておけば、非陽極酸化部分が残り、非陽極酸化部分からなる導電体42(12)上に設けられ、平面視略同一形状の多数の微細孔13が、表面において開口して略規則配列したアルミナ層41(誘電体)(11)を得ることができる。
【0027】
各微細孔の径や互いに隣接する微細孔同士の配列ピッチは、測定光L1との相互作用が効果的に生じる大きさであることが好ましい。「背景技術」に記載したポーラスシリコンにおいて、これらの相互作用を効果的に得るためには、各微細孔の径や互いに隣接する微細孔同士の配列ピッチは、サブミクロンオーダ以下であることが好ましいと言われている。一方、質量分析用デバイス1は、微細孔内部に金属微細構造を有しており、これらの相乗効果及び製造上の簡易性を併せて考慮すると、各微細孔の径や互いに隣接する微細孔同士の配列ピッチは、100nmから5μm程度であることが好ましい。
【0028】
通常の陽極酸化では、互いに隣接する微細孔13同士のピッチは10〜500nmの範囲で、また微細孔の孔径は、5〜400nmの範囲でそれぞれ制御可能である。特開2001−9800号公報や特開2001−138300号公報には、微細孔の形成位置や孔径をより細かく制御する方法が開示されている。これらの方法を用いることにより、上記範囲内において任意の孔径及び深さを有する微細孔を略規則的に配列形成することができる。
【0029】
次に、図2C及び図2Dに示されるように、微細孔13の内壁面13aに複数の金属粒子20aを形成して(第2の微細構造)質量分析用デバイス1を得る(図2E)。図では、わかりやすくするために金属粒子20aの数を少なく示してある。
【0030】
金属粒子20aの形成方法としては特に制限されず、斜め蒸着法、金属微粒子分散液を塗布成膜後アニール処理をする方法、等が挙げられる。図2C,Dでは斜め蒸着により金属粒子20aを形成した場合を例に示してある。斜め蒸着を行うと、内壁面13aに球状又はアイランド状の金属粒子20aが自然に形成される。
【0031】
金属粒子20aに測定光L1が照射されると、金属が測定光L1を吸収して金属粒子20aにエネルギーが閉じ込められる。この閉じ込め効果により第2の微細構造近傍の測定光L1のエネルギー及び被分析物質Sのエネルギーが高められ、イオン化効率を高めることができる。
【0032】
金属粒子20aが、局在プラズモンが効果的に誘起される大きさである場合は、局在プラズモンによる電場増強効果が併せて得られるため、より効果的にイオン化効率を高めることができる。局在プラズモンを効果的にえるためには、金属粒子20aの最大径が測定光L1の波長未満であることが好ましい。一般的に用いられる測定光L1の波長を考慮すると、金属粒子20aは、最大径が10nm以上300nm以下の範囲のものであることが好ましい。
【0033】
金属粒子20aが局在プラズモンを誘起可能な大きさである場合は、互いに隣接する金属粒子20aは離間されていることが好ましく、その平均離間距離は数nm〜10nmの範囲であることがより好ましい。平均離間距離が上記範囲内である場合は、その近接部に局在プラズモン効果による電場増強効果の非常に高いホットスポットと呼ばれる領域を生じるため、好ましい。
【0034】
局在プラズモン現象は、凸部の自由電子が光の電場に共鳴して振動することで凸部周辺に強い電場を生じる現象であるので、金属粒子20aは、自由電子を有する任意の金属でよく、Au,Ag,Cu,Pt,Ni,Ti等が挙げられ、電場増強効果の高いAu,Ag等が特に好ましい。
【0035】
上記したように、質量分析用デバイス1は、表面1s(10s)にて開口した有底の微細孔13を複数有する基材10を備え、微細孔13の少なくとも内壁面13aに複数の金属粒子20aが固着されてなる金属微細構造を備えたものである。質量分析用デバイス1の試料接触面(表面)1sに、被分析物質Sを含む試料を接触させ、試料に対して測定光L1を照射すると、第1の微細構造である表面1sの微細構造(微細孔13による凹凸)と測定光L1との相互作用と、第2の微細構造である内壁面13aに複数の金属粒子20aが固着されてなる金属微細構造と測定光L1との相互作用とを利用して、被分析物質を高効率にイオン化するとともに表面から脱離させることができる。また、第2の微細構造によるイオン化は微細孔13内という局所空間においてなされるため、イオン化されて脱離した被分析物質が同じ微細孔内存在する被分析物質と衝突し合ってお互いのエネルギーを高め合うためよりイオン化効率が高くなる。従って、質量分析用デバイス1によれば、表面支援レーザ脱離イオン化質量分析法において、測定光L1の低パワー化を実現し、被分析物質Sが難揮発性の物質や高分子量の物質であっても、被分析物質Sのフラグメント化や変性、及び基板自体の変形を生じることなく、高感度に質量分析することができる。
【0036】
質量分析用デバイス1は、表面1sの微細孔13の非開口部分や、微細孔13の内壁面13aにイオン化促進剤Iを固着させた構成としてもよい(図示略)。イオン化促進剤Iは、測定光L1の照射により被分析物質にプロトンやエネルギーを供与して被分析物質のイオン化を促進させるものである。
【0037】
イオン化促進剤Iとしては、上記機能を有していれば特に制限されないが、被分析物質Sの検出感度を低下させるような妨害ピークを生じない物質であることが好ましい。生体分子や合成高分子等が被分析物質である場合は、文献Nature Vol.449 1033-1037 (2007)に記載(Supplementary Information、16頁)されている、ビス(トリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチル)テトラメチル-ジシロキサン、1,3-ジオクチルテトラメチルジシロキサン、1,3-ビス(ヒドロキシブチル)テトラメチルジシロキサン、1,3-ビス(3-カルボキシプロピル)テトラメチルジシロキサン等の有機ケイ素化合物が好ましい。その他のイオン化促進剤としては、カーボンナノチューブ、基質、フラーレン等が挙げられる。
【0038】
また、ニコチン酸、ピコリン酸、3-ヒドロキシピコリン酸、3-アミノピコリン酸、2,5-ジヒドロキシ安息香酸、α-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸、シナピン酸、2-(4-ヒドロキシフェニルアゾ)安息香酸、2-メルカプトベンゾチアゾール、5-クロロ-2-メルカプトベンゾチアゾール、2,6-ジヒドロキシアセトフェノン、2,4,6-トリヒドロキシアセトフェノン、ジスラノール、ベンゾ[a]ピレン、9-ニトロアントラセン、2-[(2E)-3-(4-tret-ブチルフェニル)-2-メチルプロプ-2-エニリデン]マロノ二トリルなどのMALDI法で用いられるマトリクス剤もイオン化促進剤Iとして使用してもよい。
【0039】
イオン化促進剤Iの固着方法は特に制限されないが、イオン化促進剤Iを含む溶液を表面10sに適量を塗布してオーブン等で加熱処理を施して乾燥させて溶媒を除去する方法等が挙げられる。過剰なイオン化促進剤Iが固着されないようにするには、加熱処理後にエアガン等で過剰なイオン化促進剤Iを飛ばし、再度加熱処理を施す工程を繰り返せばよい。
【0040】
固着させるイオン化促進剤Iの量は特に制限されないが、過剰では、微細金属体20において局在プラズモンを誘起させるのに充分な測定光L1を微細金属体20に到達させることができなくなる、過剰量のイオン化促進剤Iが測定時に脱離されて検出されて検出感度を低下させる、等の問題を生じ、過少では、効果的な被分析物質のイオン化を行うことができなくなってしまう。イオン化促進剤Iは、1種類の化合物を用いてもよく、また、2種以上の化合物の混合物や積層体として用いてもよい。
【0041】
質量分析用デバイス1では、上記した第1の微細構造に起因する相互作用及び第2の微細構造に起因する局在プラズモンによる増強電場によりイオン化促進剤Iの励起効率も高めることができる。従って、イオン化促進剤Iを備えた構成とすれば、イオン化効率をより高いものとし、更なる測定光の低パワー化を実現することができる。
【0042】
「背景技術」の項に記載したように、これまで、難揮発性の物質や高分子量の物質を、被分析物質への化学的影響を与えずに質量分析するためには、MALDI法が採用せざるを得なかったが、これらの物質は化学構造が複雑であるため被分析物質の化学的性質に応じたマトリックス剤と試料との混晶の調製方法の最適化が必須であり、工程が複雑にならざるを得なかった。上記のように、本実施形態の質量分析用デバイスによれば、表面支援レーザ脱離イオン化法により、被分析物質Sのフラグメント化や変性、及び基板自体の変形を生じることなく、難揮発性の物質や高分子量の物質の質量分析を可能にすることができる。表面支援レーザ脱離イオン化法では、サンプルの調製は、試料溶液を質量分析用デバイスの試料接触面上に塗布するだけで済むことから、本発明によれば、簡易な方法で、且つ、被分析物質Sのフラグメント化や変性、及び基板自体の変形を生じることなく、難揮発性の物質や高分子量の物質の高感度な質量分析を行うことができる。
【0043】
「質量分析用デバイスの第2実施形態」
図3を参照して、本発明に係る第2実施形態の質量分析用デバイス2について説明する。図3Aは質量分析用デバイス2の厚み方向断面図、図3Bは図3Aの微細孔13’の表面13’a付近の拡大図である。視認しやすくするため、構成要素の縮尺は実際のものとは適宜異ならせてある。
【0044】
第1実施形態の質量分析用デバイス1では、第2の微細構造である金属微細構造が微細孔の内壁面(表面)13aに固着した複数の金属粒子20aであったのに対し、質量分析用デバイス2は、図示されるように、表面2s(10’s)にて開口した有底の第1の微細孔13’を複数有する基材10’が第1の微細孔の内壁面13’aにて開口して形成された有底孔である第2の微細孔14を複数の有しており、内壁面13’aに第2の微細孔14に充填された充填部21と、充填部21上に内壁面13’aより突出して形成され内壁面13’aと平行方向の最大径が充填部21の径よりも大きい突出部22とからなる複数の金属体20bからなる金属微細構造を備えた構成としている。図では、わかりやすくするために、第2の微細孔14及び金属体20bの数を少なく示してある。
【0045】
本実施形態の質量分析用デバイス2において、基材10’は、図4Aに示される、表面40’sにて開口した有底の微細孔43を複数有する被陽極酸化金属体40’を途中まで陽極酸化して得られる金属酸化物体41’と非陽極酸化部分42’とからなる。
【0046】
陽極酸化は、被陽極酸化金属体40’の露出されている面のうち、陽極酸化時に電界がかかる面全てにおいて進行する。本実施形態では、少なくとも微細孔43の内壁面43aにおいて陽極酸化が開始されるように電極を配して陽極酸化を実施する。従って、わかりやすくするため、図4では、微細孔43の内壁面のみが陽極酸化されて、第2の微細孔14が形成されている場合を示してある(図4B)。
【0047】
被陽極酸化金属体40’の微細孔43は、本実施形態での第1の微細構造の凹凸構造を決定するものであるので、微細孔43の径や互いに隣接する第1の微細孔43同士の配列ピッチは、第1実施形態と同様に測定光L1との相互作用が効果的に生じる大きさであることが好ましい。しかしながら、本実施形態では以下に示す第2の微細構造の製造上の簡便性を考慮すると比較的大きな微細孔径及びピッチであっても差し支えない。
【0048】
図4Aに示される被陽極酸化金属体40’を陽極酸化すると、図4Bに示されるように、微細孔43の内壁面43aから該面に対して略垂直方向に酸化反応が進行し、アルミナ層41’(11’)が生成される。第1実施形態に記載したように、アルミナ層41’(11’)は、平面視略正六角形状の微細柱状体が隣接して配列した構造を有し、各微細柱状体の略中心部には、内壁面13’aから深さ方向に第2の微細孔14が開孔される。
【0049】
陽極酸化の詳細については第1実施形態に記載のとおりであるので、ここでの記載は省略する。本実施形態の第2の微細構造は、第2の微細孔14に充填された充填部21と、充填部21上に内壁面13’aより突出して形成され内壁面13’aと平行方向の最大径が充填部21の径よりも大きい突出部22とからなる複数の金属体20bからなるものであるので、金属体20bが容易に剥がれ落ちない深さと、第2の微細構造において局在プラズモンによる電場増強効果が効果的に得られる微細孔径及びピッチを有するように、陽極酸化条件を設定することが好ましい。
【0050】
充填部21と突出部22とからなる複数の金属体20bの形成方法は特に制限されないが、第2の微細孔14内に、一部が内壁面13’aから突出するまで電気メッキ処理等を施すことにより形成される。
【0051】
電気メッキを行う場合には、導電体12’が電極として機能し、電場が強い微細孔14の底部から優先的に金属が析出する。この電気メッキ処理を継続して行うことにより、第2の微細孔14内に金属が充填されて金属体20bの充填部21が形成される。充填部21が形成された後、更に電気メッキ処理を続けると、第2の微細孔14から充填金属が溢れるが、第2の微細孔14付近の電場が強いことから、第2の微細孔14周辺に継続して金属が析出していき、充填部21上に表面13’aより突出し、充填部21の径よりも大きい径を有する突出部22が形成され、質量分析用デバイス2を得る(図4C)。
【0052】
複数の金属体20bからなる第2の微細構造では、測定光L1の照射により第1実施形態と同様の相互作用を生じ、第2の微細構造近傍の測定光L1のエネルギー及び被分析物質Sのエネルギーが高められ、イオン化効率を高めることができる。
【0053】
また、第1実施形態と同様に、金属体20bは、突出部22の大きさが、局在プラズモンを誘起可能な大きさであれば、局在プラズモンによる電場増強効果が併せて得られるため好ましい。局在プラズモンを効果的に得るためには、金属体20bの突出部22の最大径が測定光L1の波長未満であることが好ましい。一般的に用いられる測定光L1の波長を考慮すると、突出部22の最大径は、最大径が10nm以上300nm以下の範囲のものであることが好ましい。
【0054】
第2の微細構造において局在プラズモンによる電場増強効果を効果的に得るためには、第1実施形態に記載したように、隣接する金属粒子同士の離間距離wが小さい方が好ましく、数nm〜10nmであることがより好ましい。従って、本実施形態においても、隣接する突出部22同士の離間距離が数nm〜10nmとなっていることが好ましい(図3B)。
金属体20bの好ましい材料については第1実施形態と同様である。
【0055】
上記したように、質量分析用デバイス2は、表面2s(10’s)にて開口した有底の第1の微細孔13’を複数有する基材10’を備え、第1の微細孔13’の少なくとも内壁面13’aに複数の金属体20bからなる金属微細構造を備えたものであり、金属微細構造の構成が異なる以外は第1実施形態の質量分析用デバイスと同様の構成としている。従って、第1実施形態の質量分析用デバイスと同様の効果を奏する。
【0056】
また、本実施形態においても、第1実施形態と同様に、表面2sの第1の微細孔13’の非開口部分や、第1の微細孔13’の内壁面13’aにイオン化促進剤を固着させた構成することにより、より効果的にイオン化効率を高めることができる。イオン化促進剤Iの好適な材料は、第1実施形態と同様である。
【0057】
「質量分析用デバイスの第3実施形態」
図5を参照して、本発明に係る第2実施形態の質量分析用デバイス3について説明する。図5Aは質量分析用デバイス3の厚み方向断面図、図5Bは図5Aの微細孔13の内壁面13aの一部拡大図である。視認しやすくするため、構成要素の縮尺は実際のものとは適宜異ならせてある。
【0058】
図示されるように、質量分析用デバイス3は、第2の微細構造である金属微細構造が、金属細線20cが規則的な格子状パターン(メッシュ状)で微細孔の内壁面13a上に形成された金属層からなる点で異なっている以外は、第1実施形態と同様の構成としている。
【0059】
基板10は第1実施形態と同様であるので好ましい材料や形状、製造方法については記載を省略する。
【0060】
金属細線20cの材質としては、特に制限されず、第1実施形態の金属粒子20aと同様のものが例示される。
【0061】
金属細線20cのピッチ及び線幅は、金属細線20cにおいて、測定光L1の照射により、光吸収によるエネルギーの閉じ込め効果が得られれば特に制限されない。本実施形態においても、格子状パターンの金属細線20cからなる金属微細構造において、局在プラズモンによる電場増強効果が得られることが好ましい。局在プラズモン共鳴は、金属の自由電子が光の電場に共鳴して振動することで電場を生じる現象であるので、本実施形態の金属微細構造のように、微細な凹凸構造を有する金属層では、凸部の自由電子が光の電場に共鳴して振動することで凸部周辺に強い電場を生じ、局在プラズモン共鳴が効果的に起こるとされている。従って、金属細線11のピッチ及び線幅は、10nm以上300nm以下の範囲内であることが好ましく、パターン間隙を有することが好ましい。
【0062】
金属細線11の形成方法としては、フォトリソグラフィあるいはナノインプリント法などがあげられる。
【0063】
上記したように、質量分析用デバイス3は、表面3s(10s)にて開口した有底の微細孔13を複数有する基材10を備え、微細孔13の少なくとも内壁面13aに金属細線(金属)20cがパターン形成された金属層からなる金属微細構造を備えたものであり、金属微細構造の構成が異なる以外は第1実施形態の質量分析用デバイスと同様の構成としている。従って、第1実施形態の質量分析用デバイスと同様の効果を奏する。
【0064】
また、本実施形態においても、第1実施形態と同様に、表面3sの微細孔13の非開口部分や、微細孔13の内壁面13aにイオン化促進剤を固着させた構成することにより、より効果的にイオン化効率を高めることができる。イオン化促進剤Iの好適な材料は、第1実施形態と同様である。
【0065】
(設計変更)
上記第1〜第3実施形態において、被陽極酸化金属体の主成分としてAlのみを挙げたが、陽極酸化可能で生成される金属酸化物が透光性を有するものであれば、任意の金属が使用できる。Al以外では、Si、Ti、Ta、Hf、Zr、In、Zn等が使用できる。被陽極酸化金属体は、陽極酸化可能な金属を2種以上含むものであってもよい。用いる被陽極酸化金属の種類によって、形成される微細孔の平面パターンは変わるが、平面視略同一形状の微細孔が隣接して配列した構造を有する誘電体が形成されることには変わりない。
【0066】
また、第1〜第3実施形態において、陽極酸化を利用して微細孔規則配列させる場合について説明したが、微細孔の形成方法は、陽極酸化に制限されない。第1の微細構造を作製する場合においては、表面全面を一括処理でき、大面積化に対応でき、高価な装置を必要としないことから、陽極酸化を利用した上記実施形態は好ましいが、陽極酸化を利用する以外に、樹脂等の基板の表面にナノインプリント技術により規則配列した複数の凹部を形成する、金属等の基板の表面に、集束イオンビーム(FIB)、電子ビーム(EB)等の電子描画技術により規則配列した複数の凹部を描画する等の微細加工技術が挙げられる。
【0067】
第2実施形態における、第1の微細構造の微細孔内に更に微細孔を形成する場合は、上記加工技術を用いることは難しいが、レジスト剤となりうる樹脂製の基材である場合等は、フォトリソグラフィ法により微細孔を形成する方法等を利用することができる。
【0068】
また、各実施形態において、微細孔(第1の微細孔)が有底孔である場合について説明したが、試料接触面や微細孔内部に試料を保持可能であれば貫通孔であってもよい。また微細孔は規則配列させてもよいし、させなくてもよい。
【0069】
また、金属微細構造は上記第1〜第3実施形態に示した構造に限定されるものではない。
【0070】
「質量分析装置」
図6を参照して、上記第1実施形態の質量分析用デバイス1を用いる場合を例として、本発明にかかる第1実施形態の質量分析装置について説明する。本実施形態の質量分析装置は飛行時間型質量分析装置(TOF−MS)である。図6は本実施形態の質量分析装置4の構成を示す概略図であり、上記第2、第3実施形態の質量分析用デバイス2、3を用いた場合も装置構成及び得られる効果は同様である。
【0071】
図示されるように、質量分析装置4は、真空に保たれたボックス68内に、上記実施形態の質量分析用デバイス1と、質量分析用デバイス1を保持するデバイス保持手段60と、質量分析用デバイス1の第1の反射体10の表面1sに接触された試料に測定光L1を照射して、試料中の質量分析の被分析物質Sを第1の反射体10の表面1sから脱離させる第1の光照射手段61と、脱離した被分析物質Sを検出して被分析物質Sの質量を分析する分析手段64とを備え、質量分析用デバイス1と分析手段64との間に、第1の反射体10の表面1sに対向する位置に配された引き出しグリッド62と、引き出しグリッド62の質量分析用デバイス1側の面と反対側の面に対向して配されたエンドプレート63を備えた構成としている。
【0072】
光照射手段61は、レーザ等の単波長光源を備えており、光源から出射される光を導光するミラーなどの導光系を備えていてもよい。単波長光源としては、例えば、波長337nm、パルス幅50ps〜50ns程度のパルスレーザが挙げられる。
【0073】
分析手段64は、測定光L1の照射により質量分析用デバイス1の第1の反射体10の表面から脱離され、引き出しグリッド62及びエンドプレート63の中央の孔を通過して飛行してきた被分析物質Sを検出する検出部65と、検出部65の出力を増幅さえるアンプ66と、アンプ66からの出力信号を処理するデータ処理部67により概略構成されている。
【0074】
以下に上記構成の質量分析装置4を用いた質量分析について説明する。
まず、試料が接触された質量分析用デバイス1に電圧Vs印加され、所定のスタート信号により光照射手段61から特定波長の測定光L1が質量分析用デバイス1の表面1sに照射される。測定光L1の照射により、質量分析用デバイス1の表面1sにおいて電場が増強されるとともに、その電場により増強された測定光L1の光エネルギーと励起されたイオン化促進剤とにより試料中の被分析物質Sが表面1sからイオン化され、脱離される。
【0075】
脱離された被分析物質Sは、質量分析用デバイス1と引き出しグリッド62との電位差Vsにより引き出しグリッド62の方向に引き出されて加速し、中央の孔を通ってエンドプレート63の方向にほぼ直進して飛行し、更にエンドプレート63の孔を通過して検出器65に到達して検出される。
【0076】
被分析物質Sは、質量分析用デバイス1上の表面修飾の一部等の他の物質が結合された状態であってもよい。脱離後の被分析物質Sの飛行速度は物質の質量に依存し、質量が小さいほど速いため、質量の小さいものから順に検出器65により検出される。
【0077】
検出器65からの出力信号は、アンプ66により所定レベルに増幅され、その後データ処理部67に入力される。データ処理部67では、上記スタート信号と同期する同期信号が入力されており、この同期信号とアンプ66からの出力信号とに基づいて被分析物質Sの飛行時間を求めることができるので、その飛行時間から質量を導出して質量スペクトルを得ることができる。
【0078】
本実施形態の質量分析装置4は、上記実施形態の質量分析用デバイス1を用いて構成されたものであるので、質量分析用デバイス1と同様の効果を奏する。
【0079】
本実施形態では、ボックス68内に、すべてが備えられた構成について説明したが、少なくとも、質量分析用デバイス1、引き出しグリッド62、エンドプレート63及び検出器65がボックス68内に配置されていればよい。
【0080】
本実施形態では、質量分析装置4がTOF−MSである場合を例に説明したがその他の質量分析方法にも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明は、物質の同定等に用いられる質量分析装置に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明に係る第1実施形態の質量分析用デバイスの厚み方向断面図
【図2A】図1の質量分析用デバイスの製造工程を示す断面図(その1)
【図2B】図1の質量分析用デバイスの製造工程を示す断面図(その2)
【図2C】図1の質量分析用デバイスの製造工程を示す断面図(その3)
【図2D】図1の質量分析用デバイスの製造工程を示す断面図(その4)
【図2E】図1の質量分析用デバイスの製造工程を示す断面図(その5)
【図3A】本発明に係る第2実施形態の質量分析用デバイスの厚み方向断面図
【図3B】図3Aにおける微細孔内壁面の拡大図
【図4A】図3Aの質量分析用デバイスの製造工程を示す断面図(その1)
【図4B】図3Aの質量分析用デバイスの製造工程を示す断面図(その2)
【図4C】図3Aの質量分析用デバイスの製造工程を示す断面図(その3)
【図5A】本発明に係る第3実施形態の質量分析用デバイスの厚み方向断面図
【図5B】図5Aにおける微細孔内壁面の拡大図
【図6】本発明に係る一実施形態の質量分析装置の構成を示す概略図
【符号の説明】
【0083】
1〜3 質量分析用デバイス
1s、2s、3s 表面(試料接触面)
10、10’ 基板
10s、10’s 基板表面
11,11’ 誘電体
13,13’ 微細孔
12 導電体
13a 微細孔内壁面
14 第2の微細孔
20a 金属粒子(金属微細構造)
20b 金属体(金属微細構造)
20c 金属細線(金属微細構造)
20s 透光体表面
21 充填部
22 突出部
40 被陽極酸化金属体
41 金属酸化物体
42 非陽極酸化部分
4 質量分析装置
61 光照射手段
64 分析手段
76 検出手段(分光手段)
L1 測定光
S 被分析物質
I イオン化促進剤
w 突出部同士の離間距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に接触させた試料に測定光を照射することにより、該試料中に含まれる被分析物質を前記表面から脱離させる質量分析用デバイスであって、
前記表面にて開口した微細孔を複数有する基材を備え、前記微細孔の少なくとも内壁面に金属微細構造を有することを特徴とする質量分析用デバイス。
【請求項2】
前記表面又は前記微細孔の少なくとも一部にイオン化促進剤が固着されていることを特徴とする請求項1に記載の質量分析用デバイス。
【請求項3】
前記微細孔が有底孔であることを特徴とする請求項1又は2に記載の質量分析用デバイス。
【請求項4】
前記金属微細構造が、前記内壁面に複数の金属粒子が固着されてなるものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の質量分析用デバイス。
【請求項5】
前記基材が、被陽極酸化金属体を陽極酸化して得られるものであることを特徴とする請求項4に記載の質量分析用デバイス。
【請求項6】
前記微細孔を第1の微細孔とし、該第1の微細孔が前記内壁面にて開口して形成された有底孔である第2の微細孔を複数の有するものであり、前記金属微細構造が、前記第2の微細孔に充填された充填部と、該充填部上に前記内壁面より突出して形成され該内壁面と平行方向の最大径が前記充填部の径よりも大きい突出部とからなる複数の金属体からなるものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の質量分析用デバイス。
【請求項7】
前記第2の微細孔が、一表面にて開口した有底の微細孔を複数有する被陽極酸化金属体を陽極酸化することにより前記微細孔の内壁面に形成されたものであり、
前記複数の金属体は、前記第2の微細孔内に、一部が前記基材表面から突出するまでメッキ処理を実施することにより形成されたものであることを特徴とする請求項6に記載の質量分析用デバイス。
【請求項8】
互いに隣接する前記突出部同士の平均離間距離が10nm以下であることを特徴とする請求項6又は7に記載の質量分析用デバイス。
【請求項9】
前記金属微細構造が、金属がパターン形成された金属層からなるものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の質量分析用デバイス。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の質量分析用デバイスと、
該質量分析用デバイスの前記表面に接触された試料に前記測定光を照射して、前記試料中の質量分析の被分析物質を前記表面から前記表面から脱離させる光照射手段と、
脱離した前記被分析物質を検出して該被分析物質の質量を分析する分析手段とを備えたことを特徴とする質量分析装置。
【請求項11】
飛行時間型質量分析装置であることを特徴とする請求項10に記載の質量分析装置。
【請求項12】
請求項1〜9のいずれかに記載の質量分析用デバイスを用いる分析方法であって、
前記質量分析用デバイスの前記表面に試料を接触させた後、該試料の接触された前記表面に測定光を照射し、
該測定光の照射により前記金属微細構造において生じるプラズモンを利用して、前記試料中に含まれる被分析物質をイオン化させるとともに前記表面から脱離させ、
該脱離した被分析物質を捕捉して質量分析することを特徴とする分析方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図2E】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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