説明

質量分析装置の反応ガス導入装置

【課題】カットオフバルブとイオン源とを結ぶ配管内に滞留しているCI反応ガスを可能な限り短時間で除去することのできる質量分析装置の反応ガス導入装置を提供する。
【解決手段】CIガスおよびパージガスのガス源と、前記CIガスのガス源に連通し、CIガスを供給する配管Aと、前記パージガスのガス源に連通し、パージガスを供給する配管Bと、前記配管A、Bのいずれか一方を選択してイオン源に連通する配管Cと接続し、前記ガスのうち選択された一方をイオン源に供給可能にするバルブ機構とを備え、前記CIガスをイオン源に供給する場合は、バルブ機構が配管Aと配管Cとを接続させるとともに、配管Bと配管Cとを遮断し、前記CIガスをイオン源に供給停止する場合は、バルブ機構が配管Aと配管C、およびパージガスのガス源と配管Bを遮断するとともに、配管Bと配管Cとを接続させ、配管B内に蓄積されたパージガスで配管C内に滞留するCIガスをイオン源側に押し出すようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析装置の化学イオン化イオン源に反応ガスを導入するための反応ガス導入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析装置のイオン源として、イオン化室を備えた化学イオン化イオン源(CIイオン源)がある。このイオン源では、試料ガスをイオン化させるために、アンモニアガスやメタンガスなどの化学イオン化反応ガス(CI反応ガス)をイオン化室に導入して、試料ガスのイオン化を行なう。このとき、ガスボンベより送られるCI反応ガスの流量をコントロールしながらイオン化室内に導き、あるいはまた、必要に応じてイオン化室へのCI反応ガス導入の停止を行なうバルブ類が必要である。
【0003】
図1にCIガスの導入流路の概略図を示す。CI反応ガス4は、弁の開き具合を可変的に制御可能なプロポーショナルバルブ3の後方より加圧されており、カットオフバルブ2、配管5を介してCIイオン源1に導入される。
【0004】
一方、試料ガスは、図示しないガスクロマトグラフ装置から配管6を通してCIイオン源1内に送られる。導入されたCI反応ガス4は、CIイオン源1のイオン化室内で試料ガスと反応し、比較的穏やかな条件下で試料ガスのイオン化が行なわれる。イオン化された試料ガスは、図示しない後段の質量分析装置で質量分析される。
【0005】
CIイオン源1にCI反応ガス4を導入する手順は以下の通りである。
(1)プロポーショナルバルブ3を規定量開く。
(2)カットオフバルブ2を開にして、CI反応ガス4をCIイオン源1に導入する。
(3)必要に応じてプロポーショナルバルブ3の開度を調節し、CI反応ガスの導入圧力を最適に保つ。
【0006】
また、CIイオン源1へのCI反応ガス導入を停止する手順は以下の通りである。
(4)プロポーショナルバルブ3を全閉にする。
(5)カットオフバルブ2を閉め、CI反応ガス4の導入を止める。
【0007】
【特許文献1】特開2000−223063号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、従来のバルブ構造では、CI反応ガス4を導入停止にした直後は、CI反応ガス4がCIイオン源1のイオン化室内に滞留し、長時間に渡って排気されないという問題があった。それは、カットオフバルブ2からCIイオン源1までの配管5の間にCI反応ガス4が滞留しており、CIイオン源1との差圧でのみ、CI反応ガスは除去されるが、CIイオン源1と配管5との間のコンダクタンスが小さいため、例えば高真空を必要とする電子衝撃イオン化(EI)法での測定を行なえるレベルの真空度にイオン化室内が到達するまでには、長時間の真空引きを必要としていたためである。
【0009】
本発明の目的は、上述した点に鑑み、カットオフバルブとイオン源とを結ぶ配管内に滞留しているCI反応ガスを可能な限り短時間で除去することのできる質量分析装置の反応ガス導入装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的を達成するため、本発明にかかる質量分析装置の反応ガス導入装置は、
CIガスおよびパージガスのガス源と、
前記CIガスのガス源に連通し、CIガスを供給する配管Aと、
前記パージガスのガス源に連通し、パージガスを供給する配管Bと、
前記配管A、Bのいずれか一方を選択してイオン源に連通する配管Cと接続し、前記ガスのうち選択された一方をイオン源に供給可能にするバルブ機構とを備え、
前記CIガスをイオン源に供給する場合は、バルブ機構が配管Aと配管Cとを接続させるとともに、配管Bと配管Cとを遮断し、
前記CIガスをイオン源に供給停止する場合は、バルブ機構が配管Aと配管C、およびパージガスのガス源と配管Bを遮断するとともに、配管Bと配管Cとを接続させ、配管B内に蓄積されたパージガスで配管C内に滞留するCIガスをイオン源側に押し出すようにしたことを特徴としている。
【0011】
また、前記配管Bは、パージガスを蓄積するためのガス溜を備えていることを特徴としている。
【0012】
また、CIガスおよびパージガスのガス源と、
前記CIガスのガス源に連通し、CIガスを供給する配管Aと、
前記パージガスのガス源に連通し、パージガスを供給する配管Bと、
前記配管A、Bのいずれか一方を選択してイオン源に連通する配管Cと接続し、前記ガスのうち選択された一方をイオン源に供給可能にするバルブ機構とを備え、
前記CIガスをイオン源に供給する場合は、バルブ機構が配管Aと配管Cとを接続させるとともに、配管Bと配管Cとを遮断し、
前記CIガスをイオン源に供給停止する場合は、バルブ機構が配管Aと配管Cを遮断するとともに配管Bと配管Cとを接続させ、その後、イオン源の真空を破らない程度に時間を持たせてから、パージガスのガス源と配管Bとの間を遮断することにより、配管Bから供給されるイオン源の真空を破らない程度に少量のパージガスで配管C内に滞留する第1のガスをイオン源側に押し出すようにしたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明の質量分析装置の反応ガス導入装置によれば、
CIガスおよびパージガスのガス源と、
前記CIガスのガス源に連通し、CIガスを供給する配管Aと、
前記パージガスのガス源に連通し、パージガスを供給する配管Bと、
前記配管A、Bのいずれか一方を選択してイオン源に連通する配管Cと接続し、前記ガスのうち選択された一方をイオン源に供給可能にするバルブ機構とを備え、
前記CIガスをイオン源に供給する場合は、バルブ機構が配管Aと配管Cとを接続させるとともに、配管Bと配管Cとを遮断し、
前記CIガスをイオン源に供給停止する場合は、バルブ機構が配管Aと配管C、およびパージガスのガス源と配管Bを遮断するとともに、配管Bと配管Cとを接続させ、配管B内に蓄積されたパージガスで配管C内に滞留するCIガスをイオン源側に押し出すようにしたので、
カットオフバルブとイオン源とを結ぶ配管内に滞留しているCI反応ガスを可能な限り短時間で除去することのできる質量分析装置の反応ガス導入装置を提供することが可能になった。
【0014】
また、CIガスおよびパージガスのガス源と、
前記CIガスのガス源に連通し、CIガスを供給する配管Aと、
前記パージガスのガス源に連通し、パージガスを供給する配管Bと、
前記配管A、Bのいずれか一方を選択してイオン源に連通する配管Cと接続し、前記ガスのうち選択された一方をイオン源に供給可能にするバルブ機構とを備え、
前記CIガスをイオン源に供給する場合は、バルブ機構が配管Aと配管Cとを接続させるとともに、配管Bと配管Cとを遮断し、
前記CIガスをイオン源に供給停止する場合は、バルブ機構が配管Aと配管Cを遮断するとともに配管Bと配管Cとを接続させ、その後、イオン源の真空を破らない程度に時間を持たせてから、パージガスのガス源と配管Bとの間を遮断することにより、配管Bから供給されるイオン源の真空を破らない程度に少量のパージガスで配管C内に滞留する第1のガスをイオン源側に押し出すようにしたので、
カットオフバルブとイオン源とを結ぶ配管内に滞留しているCI反応ガスを可能な限り短時間で除去することのできる質量分析装置の反応ガス導入装置を提供することが可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。図2は、本発明にかかる質量分析装置の反応ガス導入装置の一実施例である。
【0016】
図中11は、イオン源である。イオン源11には、配管18と三方バルブ13を介して、図示しないガスボンベからのCI反応ガス16と、同じく図示しないガスクロマトグラフ装置のガス源から、ガスクロマトグラフ装置の前段で分岐されてガスクロマトグラフ装置を経由しないキャリアガス17とが送られる。このキャリアガスには、ヘリウムガスなどが用いられ、後述するように、配管18内のパージガスとして使用される。
【0017】
一方、試料ガスは、図示しないガスクロマトグラフ装置から配管19を通してCIイオン源11内に送られる。導入されたCI反応ガス16は、CIイオン源11のイオン化室内で試料ガスと反応し、比較的穏やかな条件下で試料ガスのイオン化が行なわれる。イオン化された試料ガスは、図示しない後段の質量分析装置で質量分析される。
【0018】
CI反応ガス16の配管は、弁の開き具合を可変的に制御可能なプロポーショナルバルブ15を介して三方バルブ13に接続されている。また、キャリアガス17の配管は、カットオフバルブ14とガスを蓄積できるループ配管12とを介して三方バルブ13に接続されている。
【0019】
CIイオン源1にCI反応ガス4を導入する手順は以下の通りである。
(1)プロポーショナルバルブ15を規定量開く。
(2)三方バルブ13をプロポーショナルバルブ15側に開き、CI反応ガス16をCIイオン源11に導入する。
(3)同時にカットオフバルブ14を開にし、ループ配管12内にキャリアガス17を蓄積させる。このとき、三方バルブ13はプロポーショナルバルブ15側に開いているので、キャリアガス17はイオン源11には導入されない。
(4)必要に応じてプロポーショナルバルブ15の開度を調節し、CI反応ガスの導入圧力を最適に保つ。
【0020】
また、CIイオン源11へのCI反応ガス導入を停止する手順は以下の通りである。
(5)プロポーショナルバルブ15を全閉にする。
(6)カットオフバルブ14を閉め、キャリアガス17のループ配管12内への流入を止める。
(7)同時に三方バルブ13をカットオフバルブ14側に開く。
(8)ループ配管12内に蓄積されたキャリアガスが、配管18内に滞留しているCI反応ガスをイオン源11側に一気に押し出し、CI反応ガスの排気を促進する。このとき、キャリアガス17が配管18とCIイオン源11のイオン化室に一時的に滞留することになるが、ガスクロマトグラフ質量分析装置では、もともとキャリアガスは別ラインで試料ガスとともにイオン化室に導入されているため、問題はない。すなわち、キャリアガスは配管18内のパージガスとして働く。
【0021】
この例では、三方バルブ13とカットオフバルブ14を同時に動作できるので、双方のバルブの開閉制御機構やON/OFF電源を1つに共用できる利点がある。
【0022】
尚、本発明にはいくつかの変形例が可能である。例えば、ループ配管の管径や長さを変えることで、CI反応ガスの排気効率を高めることが考えられる。
【0023】
また、ループ配管12を使用せずに、三方バルブ13とカットオフバルブ14を操作するタイミングを制御しても良い。すなわち、上記実施例では三方バルブ13とカットオフバルブ14を同時に動作させていたが、三方バルブ13を先にカットオフバルブ14側に開き、イオン源11内の真空を破らない程度にわずかに時間を持たせてからカットオフバルブ14を閉めることにより、イオン源11の真空を破らない程度に少量のキャリアガスを供給して、配管8内に滞留するCI反応ガスをイオン源11側に向けて押し出し、排気させることは可能である。
【産業上の利用可能性】
【0024】
ガスクロマトグラフ質量分析装置に広く利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】従来の質量分析装置の反応ガス導入装置の一例を示す図である。
【図2】本発明にかかる質量分析装置の反応ガス導入装置の一実施例を示す図である。
【符号の説明】
【0026】
1:CIイオン源、2:カットオフバルブ、3:プロポーショナルバルブ、4:CI反応ガス、5:配管、6:ガスクロマトグラフ装置からの配管、11:イオン源、12:ループ配管、13:三方バルブ、14:カットオフバルブ、15:プロポーショナルバルブ、16:CI反応ガス、17:キャリアガス、18:配管、19:ガスクロマトグラフ装置からの配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CIガスおよびパージガスのガス源と、
前記CIガスのガス源に連通し、CIガスを供給する配管Aと、
前記パージガスのガス源に連通し、パージガスを供給する配管Bと、
前記配管A、Bのいずれか一方を選択してイオン源に連通する配管Cと接続し、前記ガスのうち選択された一方をイオン源に供給可能にするバルブ機構とを備え、
前記CIガスをイオン源に供給する場合は、バルブ機構が配管Aと配管Cとを接続させるとともに、配管Bと配管Cとを遮断し、
前記CIガスをイオン源に供給停止する場合は、バルブ機構が配管Aと配管C、およびパージガスのガス源と配管Bを遮断するとともに、配管Bと配管Cとを接続させ、配管B内に蓄積されたパージガスで配管C内に滞留するCIガスをイオン源側に押し出すようにしたことを特徴とする質量分析装置の反応ガス導入装置。
【請求項2】
前記配管Bは、パージガスを蓄積するためのガス溜を備えていることを特徴とする請求項1記載の質量分析装置の反応ガス導入装置。
【請求項3】
CIガスおよびパージガスのガス源と、
前記CIガスのガス源に連通し、CIガスを供給する配管Aと、
前記パージガスのガス源に連通し、パージガスを供給する配管Bと、
前記配管A、Bのいずれか一方を選択してイオン源に連通する配管Cと接続し、前記ガスのうち選択された一方をイオン源に供給可能にするバルブ機構とを備え、
前記CIガスをイオン源に供給する場合は、バルブ機構が配管Aと配管Cとを接続させるとともに、配管Bと配管Cとを遮断し、
前記CIガスをイオン源に供給停止する場合は、バルブ機構が配管Aと配管Cを遮断するとともに配管Bと配管Cとを接続させ、その後、イオン源の真空を破らない程度に時間を持たせてから、パージガスのガス源と配管Bとの間を遮断することにより、配管Bから供給されるイオン源の真空を破らない程度に少量のパージガスで配管C内に滞留する第1のガスをイオン源側に押し出すようにしたことを特徴とする質量分析装置の反応ガス導入装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−54445(P2009−54445A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−220819(P2007−220819)
【出願日】平成19年8月28日(2007.8.28)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】