説明

赤外用レンズ製造方法

【課題】材料であるカルコゲナイドガラスに無駄が生じないようにするとともに、プリフォームを簡単な型で形成しても成形時にガス残りすることのないようにする。
【解決手段】本発明による赤外用レンズの製造方法は、円形断面の棒状に形成されたカルコゲナイドガラス棒を作製する工程と、前記カルコゲナイドガラス棒を円盤状に切断して光学チップを切り出す工程と、プリフォーム成形用金型を用いて前記光学チップからプリフォームを作製する工程と、前記プリフォームをプレスして赤外用レンズを形成する工程と、からなることを特徴とする。前記円盤状に切り出される光学チップは、その光学チップから形成される前記赤外用レンズの体積と略等しいようにする。前記赤外用レンズは凸の光学面を有し、前記プリフォームは前記赤外用レンズの前記凸の光学面より曲率半径の小さい凸の曲面を有するようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルコゲナイドガラスを用いた赤外用レンズの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、ガラスレンズ等を成形する方法として、変形可能な温度にまで加熱したプリフォームを一対の転写面を有する金型で加圧して転写面に形成された光学面形状をプリフォームに転写してガラスレンズを成形し、その後、取り出し可能な温度にまで冷却してから金型を開いて成形されたガラスレンズを取り出す方法が用いられている。この製造方法は、プリフォームや成形されたレンズの運搬をロボットで行う自動搬送装置を用いることによって無人でレンズの生産が可能であり、また、成形後に研削・研磨工程を必要としないなどの利点がある。
【0003】
一方、カルコゲナイドガラスは、光透過周波数が一般的な酸化物系ガラスに比べて長波長側にあるため、赤外線を利用するエネルギ伝送やサーマルイメージセンサなど、赤外線透過用レンズとして用いられている。
【0004】
下記特許文献1には、溶融したカルコゲナイドガラスを球状にして、石英ガラス製の型で成形することで、レンズ面の平滑度が高く、傷などのない良質なカルコゲナイドガラスレンズの作製方法が示されている。形成されるレンズが凸面の場合、プレスする型の転写面は凹面となるので、プリフォーム側の面は前記凹面より曲率半径の小さい凸面にしなければならないので、プリフォームを球状にする。これは、型の転写面とプリフォームとの間に空気やガスが封じ込まれ、プリフォームに転写される光学面形状に歪みが生じてしまうことを防ぐためである。
【0005】
下記特許文献2には、加熱し軟化した光学ガラスを予備成形コア型で上下からプレスして両面が凸のプリフォームを成形した後、プリフォームのフランジ部を胴型で保持したまま、本成形コア型で上下からプレスしてレンズを成形するレンズの成形方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平02−160631号公報
【特許文献2】特開平03−265528号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1,2に記載されているように、凸面を有するレンズをプレス成形する場合、プリフォームは前記凸面より曲率半径の小さい凸面にしなければならず、プリフォームの作製に時間がかかる他、ある程度の精度を有するプリフォーム用の型も必要となるなど、コストが嵩む。また、フランジ部を余分なガラス材料の溜まり場として兼用し、余ったガラス材料をフランジ部で吸収するようにしている。
【0008】
ここで、レンズの材料として高価なカルコゲナイドガラスを用いる場合、できるだけプリフォーム(ガラス素材)の量(体積)は無駄にしないようにすることが望まれる。しかし、特許文献1のような溶解する方法では量を正しく管理することは難しく、プリフォームを適正な量にするには、プリフォームを切削しなければならないので、やはり無駄が生じる。
【0009】
本発明は、赤外用レンズを成形する材料であるカルコゲナイドガラスに無駄が生じないようにするとともに、プリフォームを簡単な型で形成しても成形時にガス残りすることのない安価な赤外用レンズの製造方法を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による赤外用レンズの製造方法は、円形断面の棒状に形成されたカルコゲナイドガラス棒を作製する工程と、前記カルコゲナイドガラス棒を円盤状に切断して光学チップを切り出す工程と、プリフォーム成形用金型を用いて前記光学チップからプリフォームを作製する工程と、前記プリフォームをプレスして赤外用レンズを形成する工程と、からなることを特徴とする赤外用レンズ製造方法。
【0011】
前記円盤状に切り出される光学チップは、その光学チップから形成される前記赤外用レンズの体積と略等しいようにすると良い。前記赤外用レンズは凸の光学面を有し、前記プリフォームは前記赤外用レンズの前記凸の光学面より曲率半径の小さい凸の曲面を有するようにすると良い。
【0012】
前記プリフォーム成形用金型は、円形の貫通孔を中央に有する下型と、前記下型に装填された前記プリフォームの一部が前記貫通孔に押し出されるように前記プリフォームを下方に押圧する上型と、前記上型と下型とに跨って外嵌される胴型と、から構成されるようにすると良い。前記貫通孔は下方に行くに従って小径となる円錐面形状に形成しても良い。あるいは、前記貫通孔に代わって、下方に行くに従って小径となる円錐面とその円錐面に連なる球面からなる押出穴を形成するようにしても良い。前記押出穴の中央にガス抜き用の小さい開口を設けても良い。前記上型は、凹の曲面からなる押圧面を有するとともに前記下型に形成された前記貫通孔より小径のガス抜き孔が設けられるようにすると良い。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、プリフォームを成形する型は円形の貫通孔が形成されただけの簡単なものであり、成形のために使用するカルコゲナイドガラスの重量は成形される赤外用レンズの重量と略等しく、カルコゲナイドガラスを無駄に使用することがないので、その分、材料が少なく、これによって安価に赤外用レンズを作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明によるレンズ製造方法の工程を示すフローチャートである。
【図2】本発明による製造工程の中で作られるカルコゲナイドガラス棒の斜視外観図である。
【図3】カルコゲナイドガラス棒からチップを切り出す説明図である。
【図4】プリフォームを形成する予備成形金型の模式的断面図である。
【図5】プリフォームを形成する説明図である。
【図6】レンズを形成する本成形金型の模式的断面図である。
【図7】レンズを形成する説明図である。
【図8】別の予備成形金型の模式的断面図である。
【図9】図8によってプリフォームを形成する説明図である。
【図10】別の予備成形金型の模式的断面図である。
【図11】図10によってプリフォームを形成する説明図である。
【図12】両凸レンズ用プリフォームの予備成形金型の模式的断面図である。
【図13】図12によってプリフォームを形成する説明図である。
【図14】両凸レンズを形成する本成形金型の模式的断面図である。
【図15】両凸レンズを形成する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1に示されるように、本発明による赤外レンズ製造方法は、レンズ材料としてカルコゲナイドガラスを用いてプリフォームを作製し、その後、プレス成形により赤外用レンズを形成する4つの工程からなる。
【0016】
(第1工程)円形断面の棒状に形成されたカルコゲナイドガラス棒を作製する。
【0017】
(第2工程)前記カルコゲナイドガラス棒を円盤状に切断して光学チップを切り出す。
【0018】
(第3工程)プリフォーム成形用金型を用いて前記光学チップからプリフォームを作製する。
【0019】
(第4工程)前記プリフォームをプレスして赤外用レンズを形成する。
【0020】
次に、前記4つの工程について、図2〜12による具体例で説明する。図2に示されるように、カルコゲナイドガラスを円形断面の棒状に形成してカルコゲナイドガラス棒11を作製する。その後、図3に示されるように、これを円盤状に切断して、成形する赤外用レンズ(以下、単にレンズという)16(図7参照)と同じ量のカルコゲナイドガラスチップ(以下、単にガラスチップという)12を作製する。
【0021】
図4に示されるように、プリフォーム14(図5参照)の形成には、一対の押圧面21,22が同一軸上で対向するように配置された上型23及び下型24と、上型23及び下型24に外嵌される胴型25とからなる予備成形金型20が用いられる。下型24には中央にガラスチップ12の直径より少し小さい径の貫通孔26が形成され、貫通孔26の開口縁には位置決め用凹部(以下、単に凹部という)27が形成される。ガラスチップ12は予め加熱された後に凹部27に載置される。このように、予備成形金型20は一般的なレンズ成形金型のように光学面形状を転写する転写面は有しておらず、寸法精度も粗く、下型24は貫通孔26が、上型は平坦な押圧面21があるのみで、非常に安価である。
【0022】
図5に示されるように、予備成形金型20に装填されたガラスチップ12は予備成形金型20とともに加熱され、ガラス転移温度以上になった状態で加圧される。ガラスチップ12は下面側が貫通孔26に押し出され、押し出された先端が重力で半球形状に形成される。このようにして形成されたプリフォーム14はガラス転移温度より低い温度まで冷却され減圧された後に予備成形金型20が開かれて取り出される。プリフォーム14に形成された半球形状面15の曲率半径は、レンズ16の光学面形状(図6の転写面32と同じ)の曲率半径より小さい。
【0023】
図6に示されるように、レンズ16の形成には、一対の転写面31,32が同一軸上で対向するように配置された上型33及び下型34と、上型33及び下型34に外嵌される胴型35とからなる本成形金型30が用いられる。上型33の転写面31は凸面に、下型34の転写面32は凹面に形成されている。プリフォーム14は転写面32に載置されて加熱される。
【0024】
図7に示されるように、本成形金型30に装填されたプリフォーム14は本成形金型30とともに加熱され、ガラス転移温度以上になった状態で加圧されてレンズ16に形成される。レンズ16はガラス転移温度より低い温度まで冷却され減圧された後に本成形金型30が開かれて取り出される。
【0025】
次に、予備成形金型用下型についての別の実施形態を説明する。図8に示されるように、予備成形金型40は下型41に形成される貫通孔42が、下方に行くに従って小径となる円錐面43を有している。図9に示されるように、この予備成形金型40によって形成されるプリフォーム45は、押し出されて重力で半球状に形成される先端の曲率半径が、予備成形金型20の時のプリフォーム14に比べて小さく形成される。
【0026】
あるいは、図10,11に示されるようにしても良い。予備成形金型50の下型51には、下方に行くに従って小径となる円錐面53と、それに連なる球面54とからなる押出穴52が形成されており、押出穴52の中央にはガス抜き用の小さい開口55が形成されている。球面54の曲率半径はレンズ16を形成する本成形金型30の下型34の転写面32より小さく形成される。この予備成形金型50によって形成されるプリフォーム57は、押出穴52と同じ形状に形成された凸部58の先端中央に開口55による小さい突起ができるが、レンズの成形に問題となるものではない。また、開口55にガラスが進入するまで押圧しなくても良く、その場合、凸部58の表面に多少の歪みが生じることがあるが、これも問題となるものではない。
【0027】
次に、別の実施形態について説明する。図12に示されるように、予備成形金型60は、押圧面61,62を有する上型63及び下型64と、胴型65とからなり、押圧面61は凹の曲面になっている。下型64の中央には貫通孔66が形成され、上型63の押圧面61の中央には貫通孔66より小径のガス抜き孔68が形成されている。
【0028】
図13に示されるように、予備成形金型60に装填されたガラスチップ12は予備成形金型60とともに加熱され、ガラス転移温度以上になった状態で加圧される。加圧されたガラスチップ12は下面側が貫通孔66に押し出されると同時に上面側が押圧面61に倣って曲面形状に形成される。この時、ガラスチップ12と押圧面61の間の空気(あるいはガス)はガス抜き孔68から排出される。このようにして形成されたプリフォーム78はガラス転移温度より低い温度まで冷却されてから取り出される。
【0029】
図14,15に示されるように、一対の転写面71,72が同一軸上で対向するように配置された上型73及び下型74と、胴型75とからなる本成形金型70によってレンズ79が形成される。転写面71は、押圧面61の曲率半径より大きい曲率半径の凹面に形成されており、プレス時にプリフォーム78との間に空気(あるいはガス)が残ることはなく、プリフォーム78が加熱・加圧されて両面が凸のレンズ79が形成される。
【0030】
なお、前記実施形態において、予備成形金型の下型に形成された位置決め用凹部はなくても良いし、位置決め用マークであっても良い。位置決め用マークとしては、ガラスチップ12と同径の円であることが望ましく、あるいは、その円上の数ヶ所に設けられた点や三角印であっても良い。
【符号の説明】
【0031】
11 カルコゲナイドガラス棒
12 ガラスチップ(カルコゲナイドガラスチップ)
14,45,57,78 プリフォーム
16,79 レンズ(赤外用レンズ)
20,40,50,60 予備成形金型
21,22,61,62 押圧面
23,33,63,73 上型
24,34,41,51,64,74 下型
25,35,65,75 胴型
26,42,66 貫通孔
27 凹部(位置決め用凹部)
30,70 本成形金型
31,32,71,72 転写面
43,53 円錐面
52 押出穴
54 球面
55 開口
68 ガス抜き孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円形断面の棒状に形成されたカルコゲナイドガラス棒を作製する工程と、
前記カルコゲナイドガラス棒を円盤状に切断して光学チップを切り出す工程と、
プリフォーム成形用金型を用いて前記光学チップからプリフォームを作製する工程と、
前記プリフォームをプレスして赤外用レンズを形成する工程と、
からなることを特徴とする赤外用レンズ製造方法。
【請求項2】
前記円盤状に切り出された光学チップは、その光学チップから形成される前記赤外用レンズの体積と略等しいことを特徴とする請求項1記載の赤外用レンズ製造方法。
【請求項3】
前記赤外用レンズは凸の光学面を有し、前記プリフォームは前記赤外用レンズの前記凸の光学面より曲率半径の小さい凸の曲面を有することを特徴とする請求項1又は2記載の赤外用レンズ製造方法。
【請求項4】
前記プリフォーム成形用金型は、円形の貫通孔を中央に有する下型と、前記下型に装填された前記プリフォームの一部が前記貫通孔に押し出されるように前記プリフォームを下方に押圧する上型と、前記上型と下型とに跨って外嵌される胴型と、からなることを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の赤外用レンズ製造方法。
【請求項5】
前記貫通孔は、下方に行くに従って小径となる円錐面を有することを特徴とする請求項4記載の赤外用レンズ製造方法。
【請求項6】
前記プリフォーム成形用金型は、下方に行くに従って小径となる円錐面とその円錐面に連なる球面からなる押出穴を有する下型と、前記下型に装填された前記プリフォームの一部が前記貫通孔に押し出されるように前記プリフォームを下方に押圧する上型と、前記上型と下型とに跨って外嵌される胴型と、からなることを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の赤外用レンズ製造方法。
【請求項7】
前記押出穴の中央にガス抜き用の小さい開口が設けられたことを特徴とする請求項6記載の赤外用レンズ製造方法。
【請求項8】
前記上型は、凹の曲面からなる押圧面を有するとともに前記押圧面の中央にガス抜き孔が設けられたことを特徴とする請求項4〜7いずれか記載の赤外用レンズ製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−201523(P2012−201523A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−65330(P2011−65330)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)