説明

赤外線ランプの製造方法

本願では、車両暗視システム(12)用の赤外線ランプ(1)を製造する方法が提供され、この方法では、赤外放射線および光放射線を放射する放射線源(3)を取り囲む管(2)に、赤外線透過性コーティング層(10)が設置される。コーティング処理の際の、特定の処理パラメータを設定することにより、および/または被コーティング管(2)の後処理により、コーティング層(10)に、不規則な配置でホール(11)が形成され、該ホールは、少なくともある領域において、規定の平均寸法と、規定の平均表面密度とを有する。さらに本願では、対応する赤外線ランプ(1)、およびそのような車両暗視システム(12)用の赤外線ランプ(1)を有するヘッドランプが提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両暗視システム用の赤外線ランプの製造方法に関する。また、本発明は、この方法によって製作される車両暗視システム用の赤外線ランプ、およびそのような赤外線ランプを有する車両暗視システム用のヘッドランプに関する。
【背景技術】
【0002】
赤外線暗視システムは、既に軍隊および警察の部門では以前から知られており、あるいは個人的モニタリングおよび安全保障用途の分野においても既に知られている。交通安全性を高めるため、民生用自動車にも、選択装備としてまたは標準装備として、適当な暗視システムを備え付けることが検討されている。通常の場合、そのような車両暗視システムは、赤外線源を有するヘッドランプで構成され、この赤外線源によって、車両前方の当該通行空間の領域に赤外線が放射され、前記赤外線は、通行空間に設置されている対象物によって反射される。反射された赤外放射線は、例えば、フロントガラス裏面の上部領域のような車両内に、同様に設置された赤外線感応カメラシステムで検出される。一旦これらの動作が適切に処理されると、前記カメラシステムによって記録された赤外線像が、車両内のディスプレイ上に表示され、運転者は、視界の悪い状況下でも、通行空間に設置されているいかなる対象物に関しても、適当なタイミングで情報を得ることができる。そのような車両暗視システムは、特に、車両がフルビームを使用すると対向車両が眩しく感じるような場合であって、車両がフルビームを使用することができない位置にあるような状況で使用することを目的としている。また車両暗視システムは、特に、車両からかなり遠方にあって、ロービームでは届かないような通行空間領域を網羅するために使用することができる。この方法では、まず第1に、対向車両が眩しく感じるような対面交通を危険にするリスクが回避され、第2に、車両前方の路上に設置されているいかなる対象物についても、運転者に注意を喚起することができ、あるいはこれらの対象物がロービームの領域に移行し、運転者がこれを視覚する前に、直接路上に対して注意を喚起することができる。そのような初期の注意喚起によって、運転者が反応できる時間がかなり長くなり、さらには事故の生じる可能性が低減される。
【0003】
そのような車両暗視システム用の赤外線を発生させるには、多くの可能性がある。一般には、例えば従来のハロゲンランプによって、可視光に加えて赤外放射線を放射させる。この場合、適切な赤外線透過性フィルタによって、可視光をフィルタ除去することが可能であり、さらには、赤外放射線のみを通過させることも可能である。これは、例えばヘッドランプに固定された個々のフィルタによって実行されても良い。ただし、原理的には、通常、「バルブ」とも称されるランプ管に、直接適当なIR透過性コーティング層を設置することも可能である。しかしながら、コーティング層の設計について、一つの猶予すべき問題がある。コーティング層は、約800nmまでの近IR領域で透過性であり、400から800nmの可視領域全体をフィルタ除去する必要があることである。人間の目は、最大約820乃至830nmの波長範囲まで感度があるため、この領域に鋭いフィルタ端(sharp edge)を有するフィルタが形成されることが好ましい。
【0004】
実際には、現在のところ、そのような鋭いフィルタ端を有する赤外線透過性コーティング層は、製作することは難しい。これは、依然として800nm未満の可視光の一部が、常時透過されてしまうことを意味している。これらの光成分は、赤色の領域に位置している。従って、追加の手段を設けなければ、IR透過性コーティング層を有するランプは、必然的に赤色光も透過させてしまう。しかしながら、一方で、安全上の理由から、車両の前方ヘッドランプに、赤色光を発生するランプを使用することは許容されない。これらのランプでは、車両の後方灯またはブレーキ灯と混乱が生じる恐れがあるからである。
【0005】
また、可視赤色光がIR透過性コーティング層を透過することを回避するため、フィルタ端を、より赤外の領域にシフトさせることが原理的には可能である。しかしながら、この場合、必然的に、赤外線が著しく減衰されてしまう。そのようなフィルタでは、IR放射線領域の一部についても、フィルタ除去処理されることにつながるからである。しかしながら、車両暗視システムの場合、暗視装置により適切で良好な像を形成するためには、比較的強いIR放射線強度が必要となる。
【0006】
別の代替法は、特に、可視光の所与の第2のスペクトル領域、例えば青色領域に透過性のあるフィルタコーティング層を設計することであり、この結果、この領域の透過された光がフィルタを通過した残留赤色光と混合され、白色光が生じる。しかしながら、そのようなフィルタの設計は、極めて難しく、さらに高コストである。しかしながら、詰まるところ民生用の自動車に使用される赤外線ランプは、大量生産品であり、生産コストは、そのようなシステムが、将来幅広く使用されるか否かを決定づける重要な因子である。
【0007】
成功の望みがある別の対応策は、適切なフィルタ設計により、放射される赤色光をマスキングするのに十分な白色可視光を、追加的に放射することである。この場合、観者は、白色ランプを視認し、赤色ランプを視認することはない。しかしながら、全ての場合に、対面交通で眩しく感じさせることを回避するため、白色光は、それ程明るくすることはできないことに留意する必要がある。
【0008】
この問題を解決するための幅広い領域での設計法が、例えば、米国特許第6,601,980B2号に示されている。前記刊行物には、反射器内に追加のガラスシリンダ等が配置され、前記ガラスシリンダには、IR透過性コーティング層が設置され、前記ガラスシリンダは、完全にまたは部分的にバルブを覆うように設計された特殊なヘッドランプの他、さらに、バルブ管に直接設置された均一なホールパターンを有するコーティング層が示されている。ホールの直径および数は、ホールを通過した可視白色光が、コーティング層を透過した赤色光のある量を十分にマスキングするように選定される。
【0009】
しかしながら、コーティング層にそのような線細工の均一構造を適用する場合、コーティング層の製作の際に、特殊で複雑な処理プロセスが必要となる。例えば、まず所望の構造を有する線細工のマスク層を、管表面に設置する必要がある。次にコーティング層を設置し、さらに別の処理プロセスにおいて、再度マスクを除去しなければならない。そのような追加の製造処理プロセスは、時間のロスとなり、さらには赤外線ランプの生産コストの増大につながる。
【特許文献1】米国特許第6,601,980B2号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このように、本発明の課題は、特に、車両暗視システム用の赤外線ランプを製作するための、単純でコスト効果のある方法を提供すること、およびこれに対応した、車両暗視システムのヘッドランプの作動時に赤色に見えない赤外線ランプを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題は、請求項1に記載の方法、請求項11に記載の赤外線ランプおよび請求項12に記載のヘッドランプによって達成される。
【0012】
本発明による方法では、赤外線および光放射線を放射する放射線源を取り囲む、好ましくは石英ガラスで構成された管に、IR透過性フィルタコーティング層が設置される。コーティング処理の際に、直接、特定の処理プロセスパラメータを設定することにより、および/または被コーティング管の後処理により、コーティング層内には、不規則配置でホールが形成され、このホールは、少なくともある領域に、規定された、すなわち所定の、平均寸法と、規定された平均表面密度とを有する。従って、前述のような従来の赤外線ランプとは異なり、本発明による赤外線ランプは、均一規定パターンを有するコーティング層を有さず、その代わりに、コーティング層は、不規則または無秩序に配置されたホールを有する。このホールは、不規則に定形された欠陥、クラック等であっても良い。
【0013】
幅広い実験では、驚くべきことに、コーティング処理自体の際に、特定の処理パラメータを設定することによって、または被コーティング管の複雑ではない後処理プロセスによって、単純な方法で、コーティング層のある領域にホールを形成するかどうか、さらにはそのホールの数をどのようにするかを調整することができ、これらのホールの平均寸法を揃えることができることが明らかとなっている。その後は、コーティング層にパターンを定形するための、いかなる高額で複雑な追加処理プロセスも不要である。
【0014】
更なる有利な改良点および本発明の実施例は、以下の特許請求の範囲および明細書の記載から明らかとなる。
【0015】
放射線源は、赤外放射線と光放射線を同時に放射する、例えばハロゲンランプ内のコイルのような単一の放射線源であっても良い。ただし、原理上は、放射線源は、複数の部分放射線源で構成されても良く、この場合、一つの部分放射線源は、赤外放射線を放射し、他の部分放射線源は、光放射線を放射する。例えば、2つの異なるコイルを有するランプが想定される。ただしコスト上の理由から、赤外放射線と光放射線を同時に放射する、一つの放射線源のみを有するバルブを使用することがより有意である。また、放射線源は、原理的に、いかなる種類の放射線源であっても良い。特に、放射線源は、必ずしもコイルである必要はなく、例えば、放射線源が適切なアーク等である放電ランプを使用することも可能である。管は、放射線源を直接取り囲むガラス管であっても良い。ランプが、互いの上部に2つの管、すなわち、例えばガス放電ランプのような、一つのインナー管および一つのアウター管を有するランプである場合、コーティング層は、アウター管上に設置されることが好ましい(ただし必然ではない)。
【0016】
原理上、コーティング処理の際または後処理の際に、処理パラメータを適切に設定することにより、平均寸法および平均表面密度は、ランプの作動時に、基本的に、既にホールを通過した光放射線が十分な強度となり、IR透過性コーティング層を透過した可視赤色光のある量がマスキングされるように選定される。
【0017】
しかしながら、コーティング層内に意図的に形成されたホール、すなわち欠陥またはクラックの数を低く維持するため、必要に応じて、この目的に適した管のある部分領域は、赤外透過性コーティング層が設置されないで残ることが好ましい。この場合、コーティング層中のホールの平均寸法および平均表面密度は、ランプ作動時にホールを通過した光放射線が、管のコーティング層のない部分領域を通過した光放射線とともに、IR透過性コーティング層を透過した可視赤色光のある量をマスキングするのに十分な強度となるように選定される。例えば、管のピンチ領域および/またはシールチップには、赤外線透過性コーティング層が設置されないことが特に好ましい。この方法では、そのようなランプの端部領域をコーティング層のない状態に維持したり、その後、その部分のコーティング層を除去したりすることが、比較的簡単である。ランプは、コーティング処理の間、ホルダ内に保持することが好ましく、前記ホルダは、所望の端部領域を選別処理する適当な手段を有し、これらの領域にはコーティングが施工されない。あるいは、コーティング層は、その後の槽等への浸漬の際に除去されても良い。通常、大部分のランプ構造では、シールチップ部および/またはピンチ部を介して放出される可視光は、特に、この光が極めて正確な空間領域にのみ照射されるため、単独で残留赤色光を確実にマスキングできる程十分ではない。しかしながら、本発明による単純な方法でコーティング層内に形成されたホールと組み合わせることにより、コスト効果のある方法で、十分な赤外線を放射するランプランプを製作することが可能となる。このランプは、コーティング層内のホールを通過した白色光、ならびにピンチ部および/またはシールチップ部のようなコーティングのない領域を通過した白色光で、赤色光の残留分を十分にマスキングすることが可能である。また特に、光の空間分布は、反射器に更なる複雑な構造部を設けなくても、確実なマスキングに最適である。
【0018】
赤外線透過性コーティング層には、多くのコーティング層が管に対して互いの上部に設置された、多層化コーティング層が使用されることが好ましく、このコーティング層は、それぞれの場合で異なる屈折率を有する。例えば、高い屈折率を有する層と、低い屈折率を有する層が、交互に設置される。通常の場合、そのようなフィルタコーティング層は、約20から最大約50の層で構成される。この場合、適当な材料は、例えばSiおよびSiO2である。シリコンは、屈折率が約3の高屈折物質であり、SiO2は、約1.4の低い屈折率を有する材料である。異なる屈折率を有する異なる層が交互にある場合、干渉効果が得られ、個々の波長が増幅され、他の波長が遮断される。また、可視領域での放射線は、Si層によって吸収される。全体的に、適切な屈折率を有する適切な材料の適切な選定を行うことにより、また層の厚さを約50から約160nmの範囲で適切に選定することにより、所望のフィルタ特性を高精度で得ることができる。これらの層に利用し得る他の高屈折材料は、Ta2O5、TiO2、ZrO2およびZnSである。前述のSiO2の他、低屈折層は、MgF2またはAlF6を含んでも良い。当業者には、多様な可能性が明らかである。
【0019】
層は、例えば蒸着によって設置しても良い。この場合、管に層として設置される材料は、例えば約1000Kの温度の真空チャンバ内で、真空蒸発される。次に、蒸発材料が被コーティング表面に成膜される。
【0020】
別の代替例は、「スパッタリング法」として知られている処理プロセスである。この方法は、表面にスプレー塗布することを含む。この処理プロセスは、真空処理されたチャンバ内でも行われる。ターゲットは、被成膜材料で構成される必要がある。このターゲットに、通常、イオンのような高エネルギー粒子を衝突させることにより、ターゲットからの粒子の一部が気相に移動する。あるいは、マイクロ波放射線によって、ターゲット材料を気化させるエネルギーをターゲットに導入しても良い。気相中の粒子が被コーティング表面に到達して、そこに堆積する。
【0021】
両方の処理プロセスは、当業者にはよく知られており、ここで詳細を説明する必要はない。2つの処理プロセスにおける一つの本質的な差異は、通常の場合、気相成膜層は、スパッタ成膜層に比べて、緻密性がより劣り、内部応力がより小さいことである。比較的高い屈折率を有する極めて緻密な層は、スパッタリング法によって形成することができる。これらの層は、極めて安定であり、通常の場合、順次スパッタ成膜された個々の層の間で、拡散は全く生じず、または極めて僅かしか生じない。
【0022】
コーティング層の少なくともある領域に、規定された平均寸法および規定された平均表面密度を有するホールを形成する上で、各種方法が適していることが実証されている。
【0023】
第1の好適実施例は、規定された平均寸法および平均表面密度を有する所望のホールがコーティング層内に形成されるまで、被コーティング管または被コーティングランプが、規定された加熱処理プロセスに供されるステップを含む。この方法では、コーティング層を有するランプは、所与の時間、所与の温度に保持される。
【0024】
この方法は、スパッタリング処理プロセス、特にマイクロ波スパッタリング処理プロセスによって設置された多層化コーティング層の場合、特に適している。幅広い一連の試験では、そのような層は、後続の規定された加熱処理プロセスでのホールの製作に、特に適していることが認められている。この理由は、コーティング層内の異なる層は、異なる熱膨張係数を有し、後続の加熱の際に、スパッタリング処理プロセスの間に生じた高密度化および応力によって、所望のクラックおよび欠陥が生じるためである。この場合、ホールの数およびホールの平均寸法は、加熱時間および温度の両方に依存する。
【0025】
しかしながら、ホールの所望の表面密度および最大平均直径に応じて、蒸着処理プロセスで成膜されたコーティング層を、いくつかの環境下で、適切な後続熱処理によって処理し、規定された表面密度および平均寸法を有する所望のホールを形成することも可能である。
【0026】
被コーティング管またはランプは、少なくとも、ホールの数および平均寸法がそれ以上あまり変化しなくなるまで、所与の最低温度に保持することが好ましい。所与の温度でのある時間後に、飽和的な効果が生じることが確認されている。その後、コーティング層内の応力は、大きく低下し、ホールの数および平均寸法は、もはやそれ以上はあまり変化しなくなる。
【0027】
コーティング処理の際、および後続の処理プロセスでの処理パラメータは、対象熱処理の後、ランプの他の外的または内的影響、例えば通常の作動時のランプの加熱により、それ以上ホールが形成されなくなるように選定されることが有意である。さもなければ、設定されたホールの規定の平均表面密度および平均寸法が、その後変化してしまう。
【0028】
規定の平均寸法および平均表面密度を有するホールを製作する別の代替例では、スパッタリング法または蒸着法によってコーティング層が設置される際に、真空すなわち低圧に設定される。更なる実験では、同様に、一般のコーティング処理用に通常設定されている圧力よりも圧力が高くなると、コーティング層内に欠陥が形成されることが認められている。通常の蒸着法またはスパッタリング処理プロセスは、3乃至6mTorrの圧力で実施されるが、圧力が約7乃至11mTorrまで上昇すると、コーティング層内に十分な欠陥が生じる。ある実施例では、8mTorrの圧力での蒸着処理プロセスにより、SiおよびSiO2の34の層が設置されている。得られる平均表面密度は、10乃至20であり、ホールの平均寸法は、3乃至4μmである。
【0029】
一連の多くの試験では、ランプを使用する場合、好ましくは、ピンチ領域および/またはシールチップ部にコーティングが実施されていない、H7ランプを使用する場合に、ホールの平均寸法は、1から20μmの間にあることが好ましく、2から8μmの間にあることがより好ましいことが確認されている。平均表面密度は、約10乃至40ホール/mm2であることが好ましく、15から25ホール/mm2の間であることがより好ましい。再度、これらの値が平均データであることを示しておく必要がある。すなわち、例えば、ランプの加熱処理の際の温度分布が不均一であった場合、密度および寸法分布に相当のばらつきが生じ、ランプのある領域、例えばコイルの近傍に、他の領域よりも大きな平均寸法のホールを有する、より大きな表面密度が得られる場合がある。
【0030】
概して、コーティング層内のホールの平均寸法および平均表面密度、さらには必要であれば、管のコーティング層が設置されていない部分領域は、ランプの作動時に、ホールと、必要であればコーティング層が設置されていない部分領域とを介して放射される光放射線が、赤外線透過性コーティング層を透過した可視赤色光のある量と混合されるように実質的に設計され、および/または配置され、全体として、実質的にECE白色領域にある光が得られる。換言すれば、全体としての放射光のスペクトル比は、実質的に、ECE標準R112/R113による白色に当たる。ランプが最終的に使用される車両のヘッドランプから光が放射される場合、放射方向では、ECE白色領域内の光は、60カンデラ未満であることが好ましいことに留意する必要がある。この方法では、対向交通を眩しく感じることが確実に抑制され、フルビームが眩しいことを理由にフルビームが許容されない場合であっても、ランプを使用することが可能となる。
【0031】
添付図面に示された実施例による一例を参照して、本発明をさらに説明する。ただし、本発明は、これに限定されるものではない。それぞれの場合、図面において、同じ構成要素には、同一の参照符号が付されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
図1には、従来技術による従来のハロゲンランプの概略図を示す。この図では、一例として、いわゆるH7バルブが構成されている。ここに使用されている放射線源は、コイル3であり、このコイルは、2つの電極4、5によって保持されている。電極4、5を有するコイル3は、ガラス管2に取り囲まれており、このガラス管には、従来のハロゲンガスが充填されている。この管2の端部には、いわゆるランプチップまたはシールチップ9が設けられており、このチップは、製造処理プロセスによって形成されたものである。電極4、5は、いわゆるピンチ領域8で、金属薄膜6に固定されている。これらの金属薄膜6には、供給配線7が固定されており、この配線は、他方の端部が外方に向かって貫通している。シールのため、金属薄膜6を介して配線の移動が生じる。ピンチ領域8を基部として使用することにより、ランプ7を、そのようなバルブ用に提供されたホルダー内に挿入することができ、供給配線7は、適当なコネクタ接続部に差し込まれる。作動の際には、通常約12乃至14Vの電圧が、コイル3に印加され、その結果、コイル3が白熱し始める。次に、ランプから、赤外放射線と可視光線の両方が放射される。
【0033】
本発明では、図2に示すように、そのようなランプ1に、コーティング層10が設置される。このコーティング層10は、不規則で無秩序な配置のホール11、例えば不規則に定形された欠陥またはクラックを有する。示された実施例では、ランプ管2の中央領域のみに、コーティング層10が設置されている。シールチップ9およびピンチ8には、コーティングが実施されていない。
【0034】
図3および4には、それぞれ、コーティング層10の一部の顕微鏡像を示すが、写真上、ホール11が明確に認められる。また、これらのホール11は、無秩序な状態で生じており、不規則に定形され、寸法が異なっていることがわかる。
【0035】
これらのホール11は、コーティング処理プロセスの際、またはコーティング処理に続く後処理の際の、特定の処理パラメータを設定することにより形成され、適当なパラメータを選定することにより、表面密度および/または平均寸法が正確に定められる。図3には、コーティング層10の一部を示すが、ホール11の表面密度および平均寸法は、表面全体にわたって、比較的均一に分布している。一方、図4には、コーティング層10の一部を示すが、この場合、処理パラメータを適切に選定することにより、および/または後処理プロセスの種類により、中央領域には、より大きな表面密度、およびより大きな平均寸法のホール11が生じているのに対して、その他の領域では、ホール密度はより低下し、ホール11の平均寸法はより小さくなっている。
【0036】
いずれの場合も、これらは、SiとSiO2が交互に設置された多層化コーティング層である。いずれの場合も、層は、いわゆるマイクロジン(MicroDyn)スパッタリング処理プロセスによって設置されたものである。この処理プロセスは、粒子衝突だけではなく、マイクロ波によってもプラズマが形成されるスパッタリング処理プロセスである。その結果、従来のイオンアシスト蒸着法に比べて、層には、さらに高い密度および高い屈折率が得られる。特に、個々の層間に、拡散は生じない。次に、このようにコーティングされたこれらのランプは、規定の後段の熱処理プロセスに供される。
【0037】
そのようなランプ1の製作処理プロセスは、再度、図5において、フローチャートとして示されている。第1の処理ステップIでは、従来の方法で、例えば図1に示すH7ハロゲンバルブのようなバルブが製造される。次に、処理ステップIIでは、このバルブがコーティング処理される。コーティング処理の間、ランプのコーティングが施工されないで残る領域は、ランプホルダで被覆することが好ましい。次に、さらなる処理ステップIIIでは、規定の表面密度および規定の平均寸法を有する所望のホールが製作される。
【0038】
図3および4に示す実施例では、それぞれの場合、コーティング層は、加熱装置によって、100時間熱処理され、その際の温度は、600℃よりも高い。温度が650℃では、100時間以降、ホールの数は、あまり増加しないことが確認されている。また、650℃という温度は、ランプの作動時に、管が到達し得る最大温度を超えており、これらのパラメータを用いることにより、後続の処理の際に、ホールが不用意に拡張したり、ホールの数が増加したりすることが生じなくなる。
【0039】
ほとんどの使用目的では、図3に示すような、均一密度分布および平均寸法を形成すれば十分である。ただし原理的には、図4に示すように、ある領域に、異なるホール密度および平均寸法を形成することも可能である。例えば、外部加熱に加えて、またはその代わりに、コイル自身を白熱させて、さらには目標とする方法で、この箇所での管の温度を上昇させた場合、コイル領域に他の領域よりも大きなホール密度が得られる。図4には、コイルによる100時間の加熱後の影響を示す。管内の温度は、先程と同様、平均650℃に達した。しかしながら、後処理プロセスでのコイルの白熱処理は、自動的に、後続のランプの耐用年数の低下につながるため、単に、加熱装置内で外部加熱処理を実施することが、好適な方法である。
【0040】
コーティング層の後段の熱処理プロセスは、反射スペクトルには、いかなる悪影響も及ぼさないことが確認されている。フィルタ端は、低波長側に単純にシフトする。
【0041】
従って、コーティング層は、ランプの作動温度において、コーティング層のフィルタ端が830から880nmまでの範囲に属するように構成することが好ましい。その後、製作されるホールの数および寸法は、ランプの始動段階での残留赤色光が十分に補正されるように製作される。フィルタ端は、ランプの「冷却」状態では、730から780nmの範囲に属することが好ましい。ランプのコーティング層は、電源オンから約3分後に温度が600℃乃至700℃に達する。この処理プロセスでは、フィルタ端は、830乃至880nmの所望の範囲に100nmだけシフトする。
【0042】
図6には、本発明による赤外線ランプが使用される、概略的な自動車の暗視システム12を示す。図には、自動車13の前方部分が概略的に示されている。本発明によるIRランプ1は、ヘッドランプ15内の従来の反射器14内に設置されている。当然のことながら、車両13は、フルビーム、ロービーム、フォグライト等の、他の従来のランプおよびヘッドランプシステムを有しても良い。
【0043】
本発明による赤外線ランプ1から放射されるIR光は、ヘッドランプ15から反射器14を介して、放射方向Aに向かって通行空間に放射され、前記通行空間に設置されているいかなる対象物Oにも照射される。この対象物Oは、IR放射線を反射する。反射されたIR放射線IRRは、車両13の、例えばフロントガラスの裏面の上部に設置された、赤外線感応カメラシステム16によって検出される。原理上、使用されるIR感応検出器は、通常のCCDまたはCMOSカメラであっても良い。そのようなカメラは、IR検出性があれば良く、IRフィルタを有する一般のカメラを暗視システムに使用する場合、IRフィルタを取り外すだけで良い。より良好な空間情報を検出するため、相互にある距離だけ離れた2つのカメラを有するカメラシステム16を使用することが好ましい。その後の適当な処理の後、自動車13の運転者のため、IRカメラシステム16によって記録された像が、ディスプレイ(図示されていない)に表示される。データの自動評価を行うことも可能であり、運転者は、例えば音響信号または光信号によって、例えば路上に設置されている対象物Oについての通知を受けることができる。
【0044】
ある実施例の特に好適な例では、そのような自動車の暗視システムは、図2に示すようなランプ1を用いて構成され、このランプは、ピンチ領域8およびシールチップ9には、いかなるコーティング層も有さないが、残りの全表面には、コーティング層が設置され、該コーティング層は、本発明による前記ホール11を有する。不規則に生じたホールの平均表面密度およびホールの平均寸法は、ホール、ピンチおよびシールチップを通過した可視光が、赤外線透過性コーティング層を通過した可視赤色光のある量とともに、実質的にECE白色領域にある色のスペクトルを有するように設定される。また、ホール寸法およびホール密度、ならびにピンチ領域およびシールチップのコーティング層のない領域は、放射方向Aに向かって通行空間に放射される白色光Lが、60カンデラ未満となり、特に50カンデラ未満となるように選定される。
【0045】
最後に、もう一度、図面と明細書に記載された方法およびランプは、実施例の単なる一例であって、当業者には本発明の範囲から逸脱しないで、幅広い修正が可能であることを指摘しておく必要がある。例えば、詳細に示された一連の方法に、別の方法ステップが付加されても良い。また、さらに完全を期するため、定冠詞「a」または「an」の使用は、当該特徴物が複数存在することを排除するものではなく、「有する」という用語の使用は、別の素子またはステップが存在することを排除するものではないことを指摘しておく必要がある。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】従来技術によるハロゲンランプの概略図である。
【図2】図1のハロゲンランプの概略図において、本発明によるコーティング層を有するハロゲンランプを示す図である。
【図3】第1の実施例による、本発明によるランプ表面のコーティング層の顕微鏡像を示す図である。
【図4】第2の実施例による、本発明によるランプ表面のコーティング層の顕微鏡像を示す図である。
【図5】本発明による赤外線ランプを形成するための処理プロセスの概略図である。
【図6】自動車の暗視システムの概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両暗視システム用の赤外線ランプを製造する方法であって、
赤外放射線および光放射線を放射する放射線源を取り囲む管に、赤外線透過性コーティング層が設置され、
コーティング処理の際の、特定の処理パラメータを設定することにより、および/または前記コーティングされた管の後処理により、前記コーティング層に不規則な配置でホールが形成され、該ホールは、少なくともある領域において、規定の平均寸法と、規定の平均表面密度とを有することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記平均寸法および前記平均表面密度は、前記ランプの作動時に、前記ホールを通過した前記光放射線が、前記赤外線透過性コーティング層を透過した可視赤色光のある量をマスキングするのに十分な強度を有するように、実質的に選定されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記管のある部分領域には、赤外線透過性コーティング層が設置されておらず、前記コーティング層内の前記ホールの前記平均寸法および平均表面密度は、前記ランプの作動時に、前記ホールを通過した前記光放射線が、前記管の前記コーティング層が設置されていない部分領域を通過した前記光放射線とともに、前記赤外線透過性コーティング層を透過した可視赤色光のある量をマスキングするのに十分な強度を有するように、実質的に選定されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ホールは、1から20μmの間であって、好ましくは2から8μmの間の平均寸法を有し、前記平均表面密度は、約10乃至40ホール/mm2であって、好ましくは、15乃至25ホール/mm2であることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記コーティング層内の前記ホールの前記平均寸法および平均表面密度、さらには必要であれば、前記管の前記コーティング層が設置されていない部分領域は、前記ランプの作動時に、前記ホールと、必要であれば前記コーティング層が設置されていない部分領域とを介して放射される前記光放射線が、前記赤外線透過性コーティング層を透過した前記可視赤色光のある量と混合されるように、実質的に設計されならびに/または配置され、全体として、実質的にECE白色領域にある色を有する光が得られることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一つに記載の方法。
【請求項6】
前記管上に、前記赤外線透過性コーティング層を形成するため、複数のコーティング層が相互に上部に設置されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一つに記載の方法。
【請求項7】
前記コーティング層は、スパッタリング処理プロセスによって設置されることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一つに記載の方法。
【請求項8】
前記コーティングされた管は、前記コーティング層内に、前記規定された平均寸法および平均表面密度を有するホールが形成されるまで、規定の加熱処理に供されることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一つに記載の方法。
【請求項9】
前記コーティングされた管は、少なくとも、前記ホールの数および平均寸法が実質的に変化しなくなるまで、所与の最低温度に保持されることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記コーティング処理の際、前記コーティング層内に、前記規定の平均寸法および平均表面密度を有するホールが形成されるように、規定の真空条件が設定されることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一つに記載の方法。
【請求項11】
前記コーティング層は、前記ランプの作動温度において、前記コーティング層のフィルタ端が、830から880nmの範囲に属するように構成されることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか一つに記載の方法。
【請求項12】
車両暗視システム用の赤外線ランプであって、
赤外放射線および光放射線を放射する放射線源を有し、
前記放射線源を取り囲む管を有し、
前記管に設置された赤外線透過性コーティング層であって、少なくともある領域において、規定の平均寸法と、規定の平均表面密度とを有するホールの不規則な配置を有する赤外線透過性コーティング層を有する赤外線ランプ。
【請求項13】
請求項12に記載の赤外線ランプを有する車両暗視システム用のヘッドランプ。
【請求項14】
前記コーティング層内の前記ホールの前記平均寸法および前記平均表面密度、さらには必要であれば、前記管のコーティング層が設置されていない部分領域は、前記ランプの作動時に、前記ホールと、必要であれば前記コーティング層が設置されていない部分領域とを介して放射される前記光放射線が、前記赤外線透過性コーティング層を透過した可視赤色光のある量と混合されるように実質的に設計され、全体として、実質的にECE白色領域にある色を有する光が得られ、当該車両用のヘッドランプから放射方向に前記光が放射される際の前記光の強度は、約60カンデラ未満であることを特徴とする請求項13に記載のヘッドランプ。
【請求項15】
請求項12に記載の赤外線ランプの自動車の暗視システムへの使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2008−506227(P2008−506227A)
【公表日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−519928(P2007−519928)
【出願日】平成17年6月24日(2005.6.24)
【国際出願番号】PCT/IB2005/052081
【国際公開番号】WO2006/006091
【国際公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】