説明

走査型プローブ顕微鏡における探針とサンプルの近接方法

【課題】 探針とサンプルを破損することなしに確実に近接させることが可能で、近接にかかる時間も短縮することが可能な探針とサンプルの近接方法を提供する。
【解決手段】 変位検出機構5によりカンチレバー2の変位を検出しながら、粗動機構13または/および垂直方向微動機構11により探針1とサンプル8を近接させるときに、加振機構4により第一の加振条件でカンチレバー2を加振し、第一の停止条件で探針1とサンプル8を近接させたあと、第一の加振条件とは異なる第二の加振条件でカンチレバー2を加振し、第二の停止条件を設定し、垂直方向微動機構11または/および前記粗動機構13により探針1とサンプル8を第二の停止条件まで近接させるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気中や真空中あるいは溶液中において先端に探針を有するカンチレバーとサンプル表面に働く相互作用を検出して距離制御を行いながら、探針とサンプルを相対的にスキャンし、サンプルの表面の形状や物理特性の測定、サンプル表面の加工、あるいは、探針によるサンプル表面の物質の移動などを行うための走査型プローブ顕微鏡における探針とサンプルの近接方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の走査型プローブ顕微鏡の構成を図5および図6をもとに説明する(特許文献1参照。)。
【0003】
図5は従来の走査型プローブ顕微鏡の構成図である。従来の走査型プローブ顕微鏡は円筒型圧電素子により構成される3軸微動機構102の先端にサンプル101が載置され、3軸微動機構はサンプル101と後述するカンチレバー106aの先端に設けられた探針106bを近接するために使用される粗動機構103上に固定されている。一方、サンプル101の直上には先端に探針106bを有するカンチレバー106aが配置され、該カンチレバー106aの基部にはカンチレバー加振用の圧電素子105が配置されている。カンチレバー106aの変位はレーザダイオード(LD)104とフォトディテクタ(PD)107から構成される変位検出機構により検出される。この変位検出機構は一般に光てこ法と呼ばれる方法が用いられており、LD104からのレーザ光をカンチレバー106aの背面で反射させてPD107の検出面上に入射させる。カンチレバーがたわむと、PD107の検出面上でのレーザスポットが移動する。このときの検出面上のスポット位置によりカンチレバー106aの変位検出を行うことが可能となる。
【0004】
以上のように構成された装置により走査型プローブ顕微鏡の一種である振動方式の原子間力顕微鏡の測定を行う場合について説明する。圧電素子105によりカンチレバー106aを1次の共振周波数近傍で加振しながら変位検出機構によりカンチレバーの振幅や位相を計測し、粗動機構103により探針106bにサンプル101を近接させた後、さらに3軸微動機構102により探針106bとサンプル101間を接近させていく。そうするとサンプルと探針106b間には、原子間力などの物理的な力が作用し、さらに近接していくとサンプルと探針106bがカンチレバー106aの振動に対応して間欠的に接触し、両者に接触力が作用する。この原子間力や接触力により、カンチレバー106aの振幅や位相または共振周波数が変化する。これらの変化量は、探針106bとサンプル101間の距離に依存するため、カンチレバー106aの振幅や位相または共振周波数の変化量が常に一定になるように、探針106bとサンプル101間の距離を3軸微動機構102で制御することで高さ方向の距離制御が行われる。さらに3軸微動機構102によりサンプル101面内で探針106bをスキャンすることでサンプル表面の形状像を測定することが出来る。
【0005】
原子間力顕微鏡では振動方式の他にも、コンタクト方式と呼ばれる方法もある。この方法ではカンチレバーは加振せず、変位検出機構により変位を検出しながら、粗動機構で探針とサンプルを近づけ、その後、3軸微動機構により高さ方向の距離制御を行っていく。このとき探針先端には原子間力などの物理的な力が作用し、探針は初め引力を受け、さらに近接させていくと探針は斥力を受ける。これらの引力や斥力によりカンチレバーにたわみが生ずる。この原子間力などの物理的な力は、探針とサンプル間の距離に依存し、探針とサンプルを原子間力が作用する領域内に近接させて、3軸微動機構により2次元平面内で走査させながら、カンチレバーのたわみ量が常に一定になるように、探針とサンプル間の距離を制御することで、サンプル表面の形状像が画像化される。
【0006】
また、振動方式の原子間力顕微鏡の場合には先に述べた1次の共振周波数近傍で加振を行う方法のほか2次以上の高次の共振周波数近傍で加振を行いながら測定を行う方法もある。この場合には、カンチレバーの長軸方向に垂直で探針先端がサンプル表面に対して上下方向に振動する振動モードのほかにも、さまざまな振動モードでカンチレバーを振動させる。代表的な振動モードとしてはカンチレバーの長軸周りにねじり振動を行う振動モードなどがある。
【0007】
また、前記振動方式やコンタクト方式の原子間力顕微鏡の応用として、探針先端とサンプル表面での物理的な作用を検出することにより、電気的、磁気的、光学的物性あるいはサンプルの機械的特性などの物理特性の測定も行われる。
【0008】
1次の共振モードを使用した振動方式の原子間力顕微鏡はコンタクト方式の原子間力顕微鏡に比べて、探針やサンプルに与えるダメージが少ないというメリットがある。また、カンチレバーの振動に同期させて物理特性の信号を検出することも行われる。
【0009】
また、コンタクト方式の原子間力顕微鏡では、振動方式に比べて構成が簡単であり、走査速度も早いというメリットがある。また、カンチレバーを確実にサンプルに接触させることができるのでサンプル表面の電気的特性などの測定にも用いられている。
【0010】
また、高次の振動モードの場合、振動モードごとの特徴を活かした測定に応用されている。例えば長軸周りのねじり振動をおこなう振動モードの場合には、測定中のサンプルと探針の距離をほぼ一定に保つことが可能という特徴がある。
【0011】
多くの走査型プローブ顕微鏡の測定は大気中で行われるが、サンプル表面の吸着水の影響を排除したい場合やサンプル表面の温度を可変したい場合、サンプル表面の変質を防ぎたい場合などではカンチレバーとサンプルを真空中に配置して測定が行われる。
【0012】
また、高分子や細胞、染色体、DNA、たんぱく質などの有機系やバイオ系サンプルの場合には、大気下にさらすとサンプルが変質してしまうため、培養液などの溶液中にサンプルとカンチレバーを浸して測定を行う場合もあり、生体サンプルや有機高分子サンプルなどのin situ観察や、溶液中での電気化学反応を組み合わせた測定などに応用されている。
【0013】
ここで、振動方式の原子間力顕微鏡について、図5と図6により探針とサンプルの距離制御方法について説明する。カンチレバー106aの振動変位に対応してPD107で発生する電流信号はプリアンプ108にて増幅されて電圧信号に変換される。プリアンプ108からの出力はRMS−DCコンバータ(Root Mean Squared value to Direct Current converter)109に送られて、交流信号が実効値に相当する直流信号に変換される。
【0014】
図6は探針106bとサンプル101を遠方から近づけていった場合の、探針106bとサンプル101間の距離とカンチレバー106aの振幅量の関係を表すグラフである。図6で横軸は粗動機構103により探針106bとサンプル101を接近させていく時間であり、粗動機構103の速度を乗じることで探針106bとサンプル101間の距離に換算される。また縦軸は、RMS−DCコンバータ109により変換された電圧信号であり、カンチレバー106aの振幅量に換算される。縦軸の信号がプラス側に変化した場合、カンチレバー106aの振幅が減少する方向である。走査型プローブ顕微鏡では、あらかじめ基準値発生部111にて測定時の基準信号が振幅の変化量をパラメータとして設定される。探針106bとサンプル101を近づける場合には、従来は光学顕微鏡などで観察を行いながら、ある程度まで粗動機構103によりマニュアル調整で接近させ、その後、RMS−DC変換された信号が基準値発生部111での設定した基準信号に達するまで粗動機構103で探針106bとサンプル101を接近させていた。なお、探針106bとサンプル101を接近させる場合には粗動機構103だけではなくて3軸微動機構102の垂直方向微動機構を併用する場合もある。
【0015】
また、RMS−DC変換後の電圧を基準信号に利用する場合の他に、FM復調器115でカンチレバーを加振するための圧電素子105に印加する電圧と、PD107での検出信号の位相差信号を基準信号に設定する場合もある。
【0016】
さらに、第一ステップとして位相差信号を基準信号として探針106bとサンプル101を接近させた後、いったん垂直方向微動機構102で探針106bとサンプル101を退避させて、同じ加振条件で、変位信号に基づくRMS−DC変換後の電圧信号を基準信号にして垂直方向微動機構102と粗動機構103を協調させて測定エリアまで接近させる方式もある。この方式の場合には、RMS−DC変換後の信号に比べて、位相差信号の方が探針106bとサンプル101間の距離が遠い状態から変化するため、第一ステップで、探針106bとサンプル101を高速に接近させて両者が衝突しない位置で確実に停止させ、その後、基準信号をRMS−DC変換後の信号に切り替えることにより探針106bとサンプル101を測定エリアまで近接させることができる。
【0017】
探針106bとサンプル101を測定エリアまで接近させた後は、カンチレバー106aの振幅量が基準値発生部111で設定された基準信号になるように探針106bとサンプル101間の距離をフィードバックすることで両者の距離が一定に制御される。具体的にはRMS−DCコンバータ109からの信号と基準値発生部111の基準信号を、誤差アンプ110で比較して、誤差分に相当する信号をフィードバック回路112で発生させて、高圧アンプ117を経由して3軸微動機構102の垂直方向微動機構に誤差に相当する高さ分だけ電圧が印加される。またフィードバック回路112からの出力はA/D変換器113によりアナログ信号からデジタル信号に変換されて制御用のパソコン114に送られて高さ情報として画像化される。また、3軸微動機構102はスキャンジェネレータ118で発生されるラスタスキャン信号を高圧アンプ119で増幅して3軸微動機構102の水平方向微動機構に印加される。これらのラスタスキャン信号と、高さ情報をパソコン114で画像化することでサンプル101の形状像を得ることが出来る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2007−33321号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
このように構成された走査型プローブ顕微鏡では、探針とサンプルを近接させる技術が非常に重要である。すなわち、探針とサンプルを近接させるときに両者が衝突すると探針先端やサンプル表面が破損し、形状像測定時の分解能の低下や、サンプルの損傷が発生してしまう。また、粗動機構のスピードを遅くして、より慎重に探針とサンプルを近接させた場合には、両者の近接のために多くの時間を費やしてしまい測定効率が悪化する。
【0020】
また、探針とサンプルを接近させる場合には、数10μm程度まで近づくと、サンプル表面とカンチレバー間に挟まれた領域に介在する空気による粘性減衰のためにカンチレバーの振幅が徐々に減少するが、特に真空中で測定を行う場合には、この空気による減衰が測定領域の直前までほとんど起きず、サンプルと探針が数10nmまで近づかないと、振幅がほとんど変化しないため粗動機構を衝突する手前で止めることが難しく、探針とサンプルを衝突させずに近接させることがより困難である。
【0021】
探針やサンプルの近接の際のダメージを低減させ、しかも近接に要する時間を短くするためには探針とサンプルが衝突しない領域内で直前まで粗動機構により高速で近接させて、その後、粗動機構と垂直方向微動機構を協調動作させながら近接させて行き、最後に探針とサンプルが接触するときには粗動機構を止めて垂直方向微動機構のみで動作させることが望ましい。
【0022】
従来の方法では、粗動機構を高速に動作させた場合には、停止が間に合わず探針とサンプルが衝突してしまう場合があった。このため、万一衝突した場合の衝撃を小さくする、あるいは、RMS−DC変換後の信号と基準信号を比較し粗動機構を停止させるまでの処理時間を確保する目的のために、粗動機構の速度を遅くする必要があった。その結果、近接に多くの時間を要していた。
【0023】
また、第一ステップとして位相差信号を基準信号として探針とサンプルを近接させ、第二ステップとしてRMS−DC変換後の信号を基準信号として近接させる方法では、第一ステップで探針とサンプルが衝突することなしに高速に近接させることが可能となるが、位相差信号を基準振動として測定するためにFM復調器などの特別な電気回路が必要となり、近接するための処理も複雑化する。
【0024】
また、第一ステップと第二ステップでの加振条件が同じであるため、第二ステップで、加振条件を変更することができなかった。特に高次の振動モードでは探針とサンプルが測定領域の直前まで近づかないとカンチレバーの振幅や位相の変化がほとんど起きない場合が多く、探針とサンプルの衝突が発生する場合が多かった。
さらに、コンタクトモードで測定を行う場合にも、探針とサンプルが衝突してしまうことが多く、衝突した場合の衝撃も振動方式に比べて大きくなるため、粗動機構のスピードを遅くせざるを得なかった。
【0025】
したがって、本発明の目的は、1次または高次の共振周波数近傍でカンチレバーを振動させる振動方式の走査型プローブ顕微鏡や、コンタクト方式の走査型プローブ顕微鏡において、近接動作中に探針がサンプルに接触してダメージを受け探針先端やサンプルが破損することを防止でき、さらに、粗動機構により探針とサンプルを高速に動作させて両者が接触する直前で確実に粗動機構を停止させることができ、粗動機構を停止した後も、探針先端やサンプルの破損を防止して探針とサンプルを短時間で測定領域まで近接させることができる走査型プローブ顕微鏡における探針とサンプルの近接方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明は、前記課題を解決するために以下の手段を提供する。
本発明の走査型プローブ顕微鏡における探針とサンプルの近接方法では、先端に探針を有するカンチレバーと、前記カンチレバーを加振するための加振機構と、前記カンチレバーの変位を検出するための変位検出機構と、前記探針に対向した位置に配置されたサンプルと前記探針との距離を調整するための垂直方向微動機構と、前記探針と前記サンプルを近接させるための粗動機構により走査型プローブ顕微鏡を構成し、前記変位検出機構によりカンチレバーの変位を検出しながら、前記粗動機構または/および前記垂直方向微動機構により探針とサンプルを近接させるときに、前記加振機構により第一の加振条件でカンチレバーを加振し、第一の停止条件で探針とサンプルを近接させたあと、前記第一の加振条件とは異なる第二の加振条件でカンチレバーを加振し、第二の停止条件を設定し、前記垂直方向微動機構または/および前記粗動機構により探針とサンプルを前記第二の停止条件まで近接させるようにした。
【0027】
さらに、本発明では、前記カンチレバーの第一の加振条件が、該カンチレバーの1次の共振スペクトルにおいて、1次の共振周波数よりも高周波側の任意の周波数での加振であり、前記変位検出機構により検出されるカンチレバーの振幅または位相差または共振周波数のいずれかを前記第一の停止条件として設定した。
【0028】
このように探針とサンプルの近接を行った場合、1次の共振スペクトルにおいて共振周波数よりも高周波側の周波数で加振を行った方が、低周波側の周波数で加振を行う場合よりも、探針とサンプルの距離がより遠い位置で信号変化を検出することが可能であるため、探針とサンプルが衝突する前に確実に粗動機構を停止させることができる。さらに、本発明では、前記カンチレバーの第二の加振条件が、該カンチレバーの1次の共振スペクトルにおいて、1次の共振周波数よりも低周波側の任意の周波数での加振であり、前記変位検出機構により検出されるカンチレバーの振幅または位相差または共振周波数のいずれかを前記第二の停止条件として設定した。
【0029】
1次の共振スペクトルにおいて共振周波数よりも低周波側の周波数で加振を行った方が、高周波側の周波数で加振を行った場合に比べて感度のよい測定を行うことが可能となる。このように探針とサンプルの近接を行った場合には、はじめから低周波側の周波数で加振を行って近接させる場合に比べて探針とサンプルが衝突する前に確実に粗動機構を停止させることでき、近接動作のスピードを速くさせることが可能となる。
【0030】
また、本発明の走査型プローブ顕微鏡における探針とサンプルの近接方法では、前記第二の加振条件が、前記カンチレバーの2次以上の共振スペクトル上の任意の周波数で加振するようにした。このように構成することで、測定中に高次の共振スペクトルで振動させる場合でも近接動作中の探針とサンプルの衝突を防止することができる。
【0031】
また、本発明の走査型プローブ顕微鏡における探針とサンプルの近接方法では、先端に探針を有するカンチレバーと、前記カンチレバーを加振するための加振機構と、前記カンチレバーの変位を検出するための変位検出機構と、前記探針に対向した位置に配置されたサンプルと前記探針との距離を調整するための垂直方向微動機構と、前記探針と前記サンプルを近接させるための粗動機構により走査型プローブ顕微鏡を構成し、前記変位検出機構によりカンチレバーの変位を検出しながら、前記粗動機構または/および前記垂直方向微動機構により探針とサンプルを近接させるときに、前記加振機構により第一の加振条件でカンチレバーを加振し、第一の停止条件で探針とサンプルを近接させたあと、前記カンチレバーの加振を停止し、前記変位検出機構により検出される前記カンチレバーのたわみ量を前記第二の停止条件として設定し、前記垂直方向微動機構または/および前記粗動機構により探針とサンプルを第二の停止条件まで近接させるようにした。このような方法で探針とサンプルを近接させることにより、コンタクト方式で測定を行う場合でも、第一ステップで振動方式での近接を行っているため、高速で探針とサンプルが衝突することなく高速に近接させることが可能となる。
【0032】
また、本発明では、少なくとも一つの加振条件設定手段と、第一停止条件設定手段及び第二停止条件設定手段と、を備え、探針とサンプルの近接動作の開始から第二の停止条件に至る近接動作を行う際に、前記少なくとも一つの加振条件設定手段と前記第一及び第二の停止条件設定手段の夫々により設定した少なくとも一つ以上の条件を1度または複数回に分割して設定し、自動的に探針とサンプルを近接させる機能を備えた。
【0033】
このような機能を備えることにより、煩雑な設定を行うことなく簡単に探針とサンプルを近接させることが可能となり操作性が向上する。
【発明の効果】
【0034】
本発明では、1次または高次の共振スペクトル上でカンチレバーを振動させる振動方式やコンタクト方式の走査型プローブ顕微鏡において、以上のような方法により探針をサンプルに近接させることで、近接動作中に探針がサンプルに接触してダメージを受け探針先端やサンプルが破損することを防止でき、さらに、粗動機構により探針とサンプルを高速に動作させて両者が接触する直前で確実に粗動機構を停止させることができる。また、粗動機構を停止した後も、探針先端やサンプルの破損を防止して探針とサンプルを短時間で測定領域まで近接させることが可能となる。
その結果、探針やサンプルへのダメージがない状態で測定が行われるので、走査型プローブ顕微鏡の高分解能での測定が可能となり、さらに近接動作の時間も高速化し、測定にかかる時間を短縮でき、操作性も向上する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明で使用する走査型プローブ顕微鏡の概観図である。
【図2】カンチレバーの周波数特性を測定したときに測定された1次の共振スペクトルと位相差信号である。
【図3】探針とサンプルの近接動作の原理図である。
【図4】カンチレバーの1次の共振スペクトル上で加振を行った場合の探針−サンプル間距離とカンチレバーの振幅量の関係を示すグラフである。
【図5】従来の走査型プローブ顕微鏡の概観図である。
【図6】従来の走査型プローブ顕微鏡において探針とサンプル間の距離を近付ける場合の時間とカンチレバーの振幅に対応した電圧信号の関係を表すグラフである。
【図7】本発明の第四実施形態の探針とサンプルの近接方法のフローチャートである。
【図8】本発明の第四実施形態で使用されるカンチレバーの側面図である。
【図9】従来から走査型プローブ顕微鏡で使用されてきてカンチレバーの側面図である。
【図10】本発明の第四実施形態の探針とサンプルの近接方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0037】
(第一実施形態)
図1は本発明の第一実施形態に係る走査型プローブ顕微鏡の概観図である。本実施形態では、先端に探針1を有するシリコン製のカンチレバー2がカンチレバーホルダ3に固定されている。カンチレバーホルダ3にはカンチレバー2を加振するための圧電素子よりなる振動子4が取り付けられている。振動方式の走査型プローブ顕微鏡として用いる場合には、振動子4を構成する圧電素子に交流電圧を印加して振動子4を振動させることで、カンチレバー2を振動させる。
【0038】
前記カンチレバー2の変位を検出するための変位検出機構5は、半導体レーザ6と表面が2分割されたフォトディテクタ7から構成され、一般に光てこ法と呼ばれる方式でカンチレバー2の変位検出が行われる。まず、半導体レーザ6の光を集光しカンチレバー2の背面に照射する。カンチレバー2の背面で反射した光は、フォトディテクタ7の検出面に入射する。カンチレバー2がたわんだ場合にはフォトディテクタ7面内でスポットが上下に移動する。このとき分割された検出面の信号強度差を検出することで変位の検出が行われる。なお、探針1とサンプル8間の摩擦力測定などを行う場合にカンチレバー2のねじれ角の検出、あるいは、後述する振動方式でねじり振動による測定を行う場合には4分割のフォトディテクタを用いる場合もある。
【0039】
サンプル8は、円筒型圧電素子からなる3軸微動機構9の先端に設けられたサンプルホルダ12上に載置される。このときサンプルホルダ12は探針1と対向するように設置されている。
【0040】
3軸微動機構9は、サンプルホルダ12上に置かれたサンプル8をサンプル面内(XY平面)方向に走査する水平方向微動機構(XY微動機構)10と、サンプル面内と垂直な方向(Z方向)に微動する垂直方向微動機構(Z微動機構)11を有している。
【0041】
3軸微動機構9の末端は、粗動機構13に取り付けられる。粗動機構13は、ステッピングモータと送りネジにより構成され、サンプル8を探針1の方向(Z方向)に移動させることが可能である。
【0042】
また、カンチレバー2の上方にはカンチレバー2やサンプル8表面を観察するために光学顕微鏡14が設けられている。この光学顕微鏡14は変位検出機構5のレーザスポットをカンチレバー2背面に位置合わせする際や、探針1とサンプル8を大まかに近接させる場合、サンプル8の測定箇所に探針1を位置決めする場合、などの目的で用いられる。
【0043】
次に、本実施形態の測定方法について説明する。本実施形態では、カンチレバーの1次の共振スペクトル上に加振周波数を設定してカンチレバーを振動させながら測定が行われる。1次の共振モードはカンチレバー2の長軸に垂直でサンプル表面に垂直な面内でカンチレバー2が屈曲動作を行い、探針1が上下に振動するモードである。
ここで、共振スペクトルとは、横軸に周波数、縦軸にカンチレバーの振幅(または速度や加速度)をとりカンチレバーの振動特性を測定した場合に、共振周波数の次数ごとに測定される共振周波数をピークとした複数の山型の波形のことであり、共振スペクトルでの加振とは、この山型の波形ごとのピークからベースラインまでの間の任意の周波数での加振を意味する。本明細書中ではすべてこの定義に従うものとする。
【0044】
本実施形態で測定を行う場合には、まず、サンプル8とカンチレバー2をセットし、変位検出機構5の調整を行ったあと、目視や光学顕微鏡14で探針1とサンプル8を観察しながら粗動機構13を高速に動作させて、サンプル8を探針1に大まかに近づける。なお、目視や光学顕微鏡観察14による近接動作は省略してもよい。
次に、カンチレバーの共振周波数特性の測定を行う。図2は測定された1次の共振ピークの波形である。なお、図2の横軸はカンチレバー2が加振される加振周波数、縦軸はカンチレバーの振幅量である。なお、図2には振動子4に印加される加振信号と変位検出機構で検出されるカンチレバー2の振幅信号の位相差も同時に記載している。
【0045】
次に、図2で測定される1次の共振スペクトル上の任意の周波数に第一の加振条件を設定する。本実施形態では図2の振幅の共振スペクトルにおいてピークに当たる1次の共振周波数よりも高周波側でピークとベースラインの間に加振周波数を設定した。この加振周波数はベースラインからピークまでの高さの約1/√2程度の振幅位置における周波数が好ましい。また、発振器17から振動子4に印加する交流信号の電圧を調整することで、振幅量も設定する。
【0046】
次に、第一の停止条件を設定する。本実施形態では、カンチレバー2の振幅の変化量を設定することにより近接動作の停止信号や測定時の探針1とサンプル8の距離制御の基準信号を設定する。本実施形態では第一の停止条件を2段階に分け、第一の加振条件で設定した振幅から約5%程度振幅が減少する位置を粗動機構13の第一段階の停止条件と定め、さらに第一の加振条件の振幅から約10%程度減少する位置を粗動機構13と垂直方向微動機構11が協調動作し第一の近接動作が終了する第二段階の停止条件に定めた。
【0047】
以上のように、第一の加振条件と第一の停止条件を設定した後の近接方法を図3の原理図を元に説明する。まず、図3(a)のように垂直方向微動機構11を最大移動量の半分の位置に固定し、粗動機構13によりサンプル8を探針1に近接させる。垂直方向微動機構13は探針1とサンプル8が近づく方向にはサーボ動作しないようにロック状態とし、探針1とサンプル8が離れる方向は万一探針1とサンプル8が接触してしまったときに探針1とサンプル8を退避させて衝撃力を吸収するため、カンチレバー2の振幅の変化量に対応してサーボ動作する状態になっている。
【0048】
探針1とサンプル8が近づいてくると、カンチレバー2が受ける空気による粘性抵抗やサンプル8とカンチレバー2の微小すきまに介在する空気によるスクイズ力あるいは探針1とサンプル8の間に働く原子間力や静電気力によりカンチレバー2の振幅が変化し始める。その変化量が第一の停止条件のうち第一段階の停止条件として設定した5%減少したときに、粗動機構13を停止させる。このとき探針1とカンチレバー2が接触せずに手前で停止し、しかも両者の距離ができるだけ近づくように第一の停止条件の第一段階の値を設定することが好ましい。本実施形態では図3(b)に示したように、探針1とサンプル8が概ね数十μm離れた位置で停止している。
【0049】
次に、第一の停止条件を第二段階の停止条件に設定し、垂直方向微動機構11の探針とサンプル間が近づく方のサーボロックも解除し、両方向にサーボ動作可能な状態とする。探針1とサンプル8は離れているため、垂直方向微動機構11はサンプル8を探針1に近付ける方向に動作する。このとき、垂直方向微動機構11の最大ストロークに達するまでに、カンチレバー2の振幅量が第一停止条件の第二段階で設定した値になれば第一停止条件での近接動作は終了する。
【0050】
もし、図3(c)に示したように、カンチレバー2の振幅量が第一停止条件の第二段階で設定した値になる前に垂直方向微動機構11が最大ストロークまで伸びきった場合には、垂直方向微動機構11と粗動機構13を協調させながら探針1とサンプル8を近接させる。
このときの動作は、図3(d)に示したように、垂直方向微動機構11を最大ストロークから所定の長さ縮めた状態とする。縮める量は任意であるが、できるだけ垂直方向微動機構11を縮めた方が近接動作を早くすることができる。本実施形態では垂直方向微動機構11を最も縮めた状態とした。
【0051】
次に、探針とサンプルが近づく方向の垂直方向微動機構のサーボ動作をロックし、図3(e)に示したように垂直方向微動機構11を縮めた分だけ、粗動機構13により探針1とサンプル8を近付ける。その後、垂直方向微動機構11の両方向のサーボ動作を機能させる。図3(c)から図3(e)の動作を繰り返し、カンチレバーの振幅の変化量が第一停止条件の第二段階の停止条件となるまで探針1とサンプル8を近付ける。最終的には図3(f)のように探針1とサンプル8を測定可能な領域まで近づける。このとき探針1とサンプル8が間欠的に接触している状態となっている。探針1とサンプル8が接触する瞬間は垂直方向微動機構13のみが動作している状態であり、粗動機構13を動作中に接触させるときに比べて衝撃が少ない状態で接触させることができる。以上で第一加振条件での近接動作は完了する。
【0052】
次に第二の加振条件での近接動作の説明を行う。まず、第一の加振条件での近接動作終了の状態から垂直方向微動機構11により探針1とサンプル8を退避させる。退避の量は任意であるがカンチレバーの最大振幅量以上退避させることが好ましい。本実施形態では垂直方向微動機構11の最大ストロークの1/4程度の距離だけ探針1とサンプル8を退避させた。なお、第一加振条件での近接動作終了時の垂直方向微動機構11の伸び量によっては十分な退避量を得られない場合がある。このため垂直方向微動機構11が中心位置からずれている場合には、垂直方向微動機構11と粗動機構13を協調動作させて垂直方向微動機構11がほぼ中心位置になるように第一加振条件終了時点で調整を行っておく方が好ましい。探針1とサンプル8を退避させた後、改めてカンチレバー2の周波数特性を再測定し、第二の加振条件と第二の停止条件を設定する。
【0053】
本実施形態では第一の加振条件とは異なる周波数でカンチレバーを加振する。図3の振幅の共振スペクトルにおいてピークに当たる1次の共振周波数よりも低周波側で共振ピークとベースライン上の間に加振周波数を設定した。この動作点はベースラインからピークまでの高さの約1/√2程度の振幅位置における周波数が好ましい。また、振動子4に印加する交流信号の電圧を調整することで加振時のカンチレバー2の振幅量も設定した。この振幅量は第一の加振条件と同じ値でも、異なる値でもよい。
【0054】
次に、第二の停止条件を設定する。本実施形態では、第二の加振条件の振幅から約10%程度振幅が減少する振幅量を第二の停止条件と定めた。
この状態で、垂直方向微動機構11のサーボ動作を可能な状態にする。そうすると、探針1とサンプル8は第二の停止条件の振幅量となるまで垂直方向微動機構で近付けられる。
【0055】
本実施形態では第一の加振条件において、いったん探針1とサンプル8を測定可能な位置まで近付けているため、ほとんどの場合には垂直方向微動機構11の動作のみで第二の停止条件での近接動作が完了する。万一、垂直方向微動機構11が最大ストロークまで到達してしまった場合には、第一の加振条件の近接動作と同じように粗動機構13と垂直方向微動機構11を協調させて、第二の停止条件になるまで探針1とサンプル8を近接させる。このときのため垂直方向微動機構11が中心位置からずれている場合には、垂直方向微動機構11と粗動機構13を協調させて垂直方向微動機構11がほぼ中心位置になるように調整を行っておく方が好ましい。
【0056】
以上の動作により探針1とサンプル8の近接動作が完了し、測定に移行することとなる。
【0057】
ここで、図4に1次の共振スペクトルの共振ピークよりも高周波側の周波数でカンチレバー2を加振した場合と低周波側の周波数でカンチレバー2を加振した場合の、探針1とサンプル8間距離と振幅量の関係を示す。横軸は探針1とサンプル8間の距離であり左に行くほど距離が近づく。また縦軸は振幅量であり上に行くほど振幅が大きくなる。
【0058】
図4のグラフから高周波側で加振を行った場合には、低周波側で加振を行った場合に比べて遠方から振幅変化が現れ距離が近づくに従って単調に振幅が減少していることが分かる。一方、低周波側は高周波側に比べて距離が近づくまで振幅の変化が少なく、距離が近づいたときに急激に振幅が減少していることが分かる。従って、粗動機構13により高速に移動させ探針1がとサンプル8が接触しないように第一の停止条件を設定するためには高周波側で設定した方が遠方から大きな振幅変動が起こっているので調整範囲が広く調整でき、安全かつ確実に第一の停止条件を設定することが可能である。
【0059】
一方、サンプルと探針が近づいた状態では図4のグラフで低周波側の傾きの方が高周波側の傾きよりも大きく、測定を行う場合には低周波側に設定した方が高周波側に設定するよりも測定感度が向上する。
【0060】
本実施形態のように高周波側に第一の加振条件を設定しカンチレバー2を加振しながら、第一の停止条件で探針とサンプルを近付けた後、いったん垂直方向微動機構11により探針1とサンプル8を退避させ、実際に測定時に使用する低周波側の第二の加振条件でカンチレバー2を加振し、第二の停止条件で探針1とサンプル8を近接させることで、探針1とサンプル8が衝突することなくかつ高速に近接動作を行うことが可能となる。また測定を行う場合には、測定条件に最適な加振条件でカンチレバーを加振することができる。
【0061】
これら一連の動作は、あらかじめ、第一の停止条件、第二の停止条件を測定者が設定するか、またはカンチレバーの種類ごとに初期値として与えておき、測定者が装置に近接動作開始の指令を与えた後は、自動的に測定可能な状態まで自動的に近接動作が行われるようになっている。
【0062】
本実施形態では、第一の停止条件を2段階に分けて行ったが、第一段階の停止条件で第一の加振条件での近接動作を終了させてもよい。この場合、サンプル8と探針1が離れた状態であるので、第二の加振条件を設定する場合に、探針1とサンプル8を垂直方向微動機構により退避する動作を省略してもよい。ただし、第二の加振条件の振幅量が探針1とサンプル2間の距離よりも大きくなったときに両者が接触してしまう可能性があるので、たとえ両者が離れている場合でも安全のため退避する動作は常に行うことが好ましい。第一の加振条件での近接動作が完了した後は、第二の加振条件で第二の停止条件になるまで垂直方向微動機構11と粗動機構13を協調させて探針1とサンプル8の近接動作を行う。以上のような近接方法では粗動機構13と垂直方向微動機構11を協調させて近接を行う場合の移動速度は粗動機構13のみで近接を行うとき移動速度に比べて遅くなってしまうため、粗動機構13で探針1とサンプル8を衝突しない範囲内でできるだけ近付けておくことが好ましい。
【0063】
また、万一、第一の加振条件での近接動作と第二の加振条件での近接動作の終了のときに、探針1とサンプル8距離が近づきすぎた場合には粗動機構13と垂直方向微動機構11を協調させて探針1とサンプル13の距離を離す動作を行う。
【0064】
(第二実施形態)
本発明の第二の実施形態として、測定時にカンチレバーの高次の共振モードで測定を行う場合の動作原理を説明する。本実施形態では第一実施形態と同じ図1の装置で測定を行う。このときのカンチレバー2の振動はカンチレバー2長軸に回りにねじり振動を発生させて測定を行う場合である。
【0065】
図1の装置で発信器17によりカンチレバー2にねじり振動が発生する高次の共振スペクトルの任意の交流信号を発生させて、振動子4に印加してカンチレバー2を振動させる。ねじり振動の場合には探針1の先端はサンプル8表面と概ね平行に振動しており、カンチレバー2のたわみモードの場合に比べて探針1とサンプル8距離に対する振幅の変動が少ない。このため、初めから高次のねじれモードの共振スペクトル上の周波数で加振しながら近接動作を行った場合には停止条件の設定が難しく、探針1とサンプル8が衝突してしまう場合があった。
【0066】
本実施形態では、第一の加振条件は第一実施形態と同じく、カンチレバーの1次の共振スペクトルの高周波側に動作点を設定して近接動作を行った。近接方法は第一実施形態と同じなので説明は省略する。第一の加振条件での近接動作が終了した後は、垂直方向微動機構により探針とサンプルを退避させて、カンチレバー2の周波数特性を再測定し、ねじれモードで振動する高次の共振スペクトルの共振周波数近傍に第二の加振条件を設定し、ねじれ量の減少量を第二の停止条件に設定して探針1とサンプル8間の近接動作が行われる。
このように近接動作を行うことでねじれモードのような高次の振動モードで測定を行う場合にも探針1とサンプル8が衝突することなく高速で近接動作を行うことが可能となる。
【0067】
(第三実施形態)
本発明の第三実施形態として、コンタクト方式で測定を行う場合の動作原理を説明する。装置構成は第一実施形態と同じく図1の装置を用いる。
【0068】
コンタクトモードで測定を行う場合には、振動方式で測定を行う場合に比べて、探針1とサンプル8を適切な距離を離して停止させることが困難である。例えば、サンプル8や探針1が帯電している場合には静電気力によりカンチレバー2にたわみが生じて遠距離で近接動作が停止してしまい測定可能な領域まで近づけるのに時間を要する。また測定可能な領域まで近付けられるような停止条件を設定した場合には探針1とサンプル8が衝突してしまうことが多く、衝突した場合の衝撃も振動方式は間欠的な接触であるため接触回数が少なく、またたとえ衝突したとしても振動していることで探針が逃げるため衝撃は比較的小さいが、コンタクト方式は常に接触してしまうため衝突したときの衝撃が大きくなるため、粗動機構13のスピードを遅くせざるを得なかった。
【0069】
このため、本実施形態では、まず振動方式で近接動作を行った後、垂直方向微動機構11により探針1とサンプル8を退避させて、カンチレバー2の振動を止めて、第二の停止条件としてカンチレバー2の変位量を設定して測定領域まで近接動作を行うようにした。カンチレバー2の振動を止める場合には、振動子4に印加する電圧を止めるのみでもよいが、より確実に振動子4の振動を止めるために圧電素子4の各電極を短絡しグランド電位に接地させる機構を設けるようにした。このように近接動作を行うことでコンタクトモードでの測定を行う場合でも第一の加振条件を設定することで、探針1とサンプル8が衝突することなく高速で近接動作を行うことが可能となった。
【0070】
また、第一の加振条件での近接動作で万一サンプルと探針が衝突してもコンタクトモードの場合に比べて探針やサンプルへの衝撃が小さくなり、損傷が少なくなる。さらに、振動モードはコンタクトモードに比べて静電気の影響を受けづらいため、静電気が発生している場合でも、第一の停止条件まで振動モードで近接動作を行うことで、第一の加振条件でサンプルと探針の距離をより近傍まで近付けることが可能となる。その結果、近接動作を高速で行うことができる。
【0071】
(第四実施形態)
図7に本発明の第四実施形態の走査型プローブ顕微鏡における探針とサンプルの近接方法のフローチャートを、図8に第四実施形態で使用されるカンチレバーの側面図を示す。本実施形態は振動方式で動作させる走査型プローブ顕微鏡であり、装置構成は図1と同一であるためカンチレバー以外の装置構成については図1の符号を付し、重複する部分の詳細な説明は省略する。
【0072】
走査型プローブ顕微鏡で使用される従来型のカンチレバー40の探針42は図9に示したようにカンチレバー41の先端41aよりも若干根元側に設けられており、カンチレバー41の背面から観察した場合にカンチレバー先端41aの部分で視野を遮られ探針42aの先端を観察することができなかった。最近では図8に示すように、探針32がカンチレバー先端31aに設けられたカンチレバー30が使用されるようになり、カンチレバー先端31aで遮られることなしに、光学顕微鏡14により、探針先端32aとサンプルを同時観察して被観察箇所に探針先端32aを正確に位置合わせすることが可能となっている。図8のカンチレバーはシリコン製で、寸法は長さ120μm、幅30μm、厚さ5μm、探針の高さ10μmである。
【0073】
走査型プローブ顕微鏡では、カンチレバーの根元31b、41bがサンプル8に接触するのを防止するとともに、カンチレバー31、41の変位検出に用いられる光てこ光学系5のレーザ光6をディテクタ側7に反射させる目的で、サンプル面に対してカンチレバーの長軸が、概ね5〜15°程度傾けられてカンチレバー30、40が配置される。このため探針31、41とサンプル8を近接させる場合にはカンチレバーの末端31b、41bよりも先端側31a、41aが先にサンプル8に近づくことになる。
【0074】
カンチレバー31、41を傾けて配置する場合には、従来型の図9のカンチレバー40では探針42が設けられている部分よりも先端側のカンチレバー部分41aとサンプル表面8ではさまれた領域に介在する空気によりカンチレバー41の振幅が大きく減衰する。一方、図8のカンチレバー30では探針32が設けられている部分よりも先端側にはカンチレバー31の構成部材がないので従来側のカンチレバー40に比べて空気による減衰が少なくなる。
【0075】
図8のような空気の減衰の少ないカンチレバー30を使用して探針32とサンプル8を近接させる場合には、図9のような従来型のカンチレバー40よりも、さらにサンプル8の近傍まで近接させないと、カンチレバー31の振幅や位相や周波数の変化が現れない。また、測定領域に入った後も探針32とサンプル8の距離制御を行う場合に基準値として設定する振幅や位相や周波数の変化量のパラメータも非常に小さい値となる。このため、探針32とサンプル8が衝突する直前で近接動作を停止させるためには、近接動作を停止させるために設定する変化量の値を非常に小さく設定する必要がある。変化量を小さな値に設定した場合には近接動作中の外乱の振動などによりパラメータが停止条件を超えて手前で近接動作が停止してしまう場合や、カンチレバーごとのばらつきにより、設定した停止条件では探針32とサンプル8が近づきすぎて両者が衝突する場合がありパラメータの調整が非常に困難であった。
【0076】
そこで、本実施形態でも第一実施形態のように、第一の加振条件として1次の共振スペクトル上で共振周波数よりも高周波数側の周波数によりカンチレバーを加振しながら探針32とサンプル8を近接させた後、第二の加振条件として1次の共振スペクトル上で共振周波数よりも低周波数側の周波数によりカンチレバー31を加振しながら探針32とサンプル8を近接させ第二の加振条件で測定を行うようにした。
【0077】
ここで、図7のフローチャートに従って近接動作を説明する。
STEP1:カンチレバー31の共振周波数特性を測定し、1次の共振スペクトル上で共振周波数よりも高周波側に第一の加振条件の周波数と振幅を設定し、低周波側に第二の加振条件の周波数と振幅を設定する。
【0078】
設定値は任意であるが、設定値の目安は、共振周波数がf0のカンチレバーにおいて、共振ピークでの振幅をAに設定した場合、共振スペクトル上で共振ピークに対して高周波側と低周波側で振幅がA/√2となる周波数を動作周波数に設定することが好ましい。このときの低周波側の動作周波数をf1、高周波側の動作周波数をf2とすると、カンチレバーの減衰特性によって決まり共振スペクトルのピークの鋭さを示す機械的Q値はQ=f0/(f2−f1)となる。この式より、共振周波数での振幅を設定し振動スペクトルからQ値を測定すれば、低周波側の動作点と高周波側の動作点を設定することができる。
【0079】
本実施形態では、カンチレバーの形状と材料特性によって決まる1次の共振周波数は500kHzであり、機械的Q値は400であった。また共振ピークでの振幅量は20nmに設定した。
【0080】
このとき、第一の加振条件としては、ピークの500kHzよりも625Hz高周波側に設定し(500.625kHz)、このときの振幅量は14nmに設定される。また第二の加振条件としては、ピークの500kHzよりも625Hz低周波側に設定し(499.375kHz)、このときの振幅量は14nmに設定される。
STEP2:第一の停止条件としてSTEP1で設定した振幅量に対して、10%振幅が減少した点を設定。
【0081】
すなわち第一の振幅量14nmに対して、第一の停止条件は1.4nm振幅が減少した点(振幅量12.6nm)となる。
STEP3:第一の加振条件でSTEP2の停止条件まで粗動機構13で探針32とサンプル8を近接させる。このとき探針32とサンプル8は数10μmまで接近している。
STEP4:垂直方向微動機構11により探針32とサンプル8を数百nm〜数μm程度退避させる。
STEP5:STEP1で設定した低周波側の第二の加振条件に動作点を設定し、第二の停止条件を設定する。第二の停止条件は、STEP1で認識した第二の加振条件での振幅量に対して5%振幅が減少した位置に設定する。
【0082】
すなわち振幅量14nmに対して、第二の停止条件は0.7nm振幅が減少した点(振幅量13.3nm)となる。
【0083】
なおSTEP4で探針32とサンプル8を退避させたのは、STEP5での加振条件の変更のときに、万一探針とサンプルが衝突してしまうことを防止する目的で実施した。
STEP6:第二の停止条件まで垂直方向微動機構11と粗動機構13を協調させて探針32とサンプル8を近接させる。
STEP7:垂直方向微動機構11が中心位置から著しくずれてしまっている場合には、垂直方向微動機構11と粗動機構13を協調させて中心位置になるようにする。
STEP6とSTEP7の協調動作は第一実施形態で述べた方法と同一なので詳細な説明は省略する。
【0084】
ここで、第一の加振条件(高周波側)では初期の振幅量に対して10%振幅が減衰した場合でも探針32とサンプル8の衝突はない。一方、第二の加振条件(低周波側)では初期の振幅量に対して5%減衰した位置で探針32とサンプル8が間欠的に接触する測定エリアに入ってしまう。もし、第一の加振条件のときに低周波側に設定した場合には探針32をサンプル8に衝突しない位置で停止させるための停止条件は5%よりも小さな値に設定しなければならず設定範囲が小さくなりパラメータの調整が困難であった。
【0085】
第一の加振条件を高周波側に、第二の加振条件を低周波側にして、第一の停止条件を第二の停止条件よりも大きく設定することで、第一の停止条件の設定値を振幅の減少量の設定範囲が広がる。また、第二の停止条件の場合よりも第一の停止条件の方が振幅の減少量の設定値を大きく設定することができるため、近接動作中の外乱の振動による停止条件パラメータの変動などによりパラメータが停止条件を超えてしまい手前で近接動作が停止してしまうことや、カンチレバーごとのばらつきにより、探針32とサンプル8が近づきすぎて両者が衝突することを防止することができる。
【0086】
また第二の加振条件を低周波側に設定し、第二の加振条件で測定を行うことにより高周波側で測定するときよりも測定感度が向上する。
【0087】
なお、第二の停止条件は段階的に大きくしていってもよい。すなわち、STEP5において、第二の停止条件を測定エリアに入る振幅減衰量よりも小さい値、例えば2%に設定し、STEP6ではじめに設定した第二の停止条件である2%減衰するまで垂直方向微動機構11と粗動機構13を協調させて探針32とサンプル8を近接させ、次に停止条件を例えば3%程度に少し大きくして、再び、垂直方向微動機構11と粗動機構13を協調させて探針32とサンプル8を近接させるような動作を探針とサンプルが測定エリアに入るまで繰り返して実施していく。このように第二の停止条件を段階的に大きくすることで、測定エリアから離れない範囲内でより小さな力で測定できるように探針とサンプルを近づけることができ、近接動作のときや走査を行っている場合の探針やサンプルの摩耗が防止される。
【0088】
(第五実施形態)
図10に第五実施形態における近接動作のフローチャートを示す。本実施形態では近接動作を行う場合には振動方式で動作させ、測定を行う場合にはコンタクトモード方式で動作させる。本実施形態は、第一の加振条件の設定方法を除き、基本的な動作は第三実施形態と同じであるため装置構成については図1の符号を付し重複する部分の説明は省略する。
【0089】
本実施形態で使用するカンチレバー2はシリコンナイトライド製で、長さ120μm、幅15μm、厚さ400nmである。このカンチレバー2はバネ定数が約0.02N/mと軟らかいためカンチレバー加振用の圧電素子4の加振伝達効率が悪く1次の振動モードでは加振しても振幅が小さくなってしまう。そのためカンチレバー部以外の構成部材の振動スペクトルとカンチレバー2の共振スペクトルの重なりや、カンチレバーの振幅信号自体のノイズの多発により、振幅が不安定となってしまう。そこで、本実施形態では、第一の加振条件として、加振用の圧電素子に電圧を印加してカンチレバーを加振した場合に1次の共振周波数である31kHzをピークとする共振スペクトルの振幅よりも、同一の印加電圧で約40倍振幅が大きくなる2次の共振周波数である193kHzをピークとする共振スペクトル上に第一の加振周波数を設定した。
【0090】
ここで、図10のフローチャートに従って近接動作を説明する。
STEP1:第一の加振条件として2次の共振スペクトル上で共振周波数よりも低周波側に動作点を設定する。本実施形態では、2次の共振周波数は193kHzであり、共振周波数での振幅量は20nmとした。機械的Q値は150である。これらの条件より動作点は共振周波数よりも643Hz低周波側(192.357kHz)で振幅量は14nmに設定した。
STEP2:第一の停止条件における第一段階の停止条件を10%振幅が減少する点に設定する。すなわち第一の振幅量14nmに対して、第一の停止条件における第一段階の停止条件は1.4nm振幅が減少した点(振幅量12.6nm)となる。
STEP3:第一の停止条件における第一段階の停止条件で探針1とサンプル8間が数10μm離れた位置で停止するように粗動機構13で近接させる。
STEP4:第一の停止条件における第二段階の停止条件を初期の振幅から20%減少する点に設定する。すなわち第一の振幅量14nmに対して、第一の停止条件における第一段階の停止条件は2.8nm振幅が減少した点(振幅量11.2nm)となる。
STEP5:粗動機構13と垂直方向微動機構11を協調動作させながら、第一の停止条件における第二段階の停止条件まで近接させる。このとき探針1とサンプル8は間欠的に接触する測定領域まで近づけられる。
STEP6:垂直方向微動機構11により探針1とサンプル8を退避させる。
STEP7:カンチレバー2の振動を停止する。
STEP8:第二の停止条件としてカンチレバー2の変位量をアプローチ動作開始前の位置から10nmに設定する。
STEP9:第二の停止条件まで垂直方向微動機構11により近接動作を行い探針とサンプルを測定領域まで近づける。
STEP10:垂直方向微動機構11が中心位置から大きくずれている場合には垂直方向微動機構11と粗動機構13を協調動作させて、中心位置に調整する。
【0091】
コンタクト方式で使用されるような軟らかいカンチレバーのように振幅量が小さい場合には、1次の共振スペクトル上ではなく振幅量が大きくとれる2次の共振スペクトル上に第一の加振条件を設定することで、外乱の影響がなく振動方式で確実に探針1とサンプル8を近接させた後、コンタクト方式で測定を行うことが可能となった。その結果、探針1とサンプル8が衝突することなしに高速で近接動作を行うことが可能となった。
【0092】
なお、本実施形形態では2次の共振スペクトルの振幅が大きかったので2次の共振スペクトル上に第一の動作点を設定したが、この振幅量の違いはカンチレバー自体の振動伝達効率のほか、加振用圧電素子やカンチレバーの固定方法などさまざまな要因で起こるこのためさらに高次の振動モードの振幅が大きい場合にはその次数の共振スペクトル上に第一の動作点を設定してもかまわない。
【0093】
また、STEP1で第一の加振条件の動作点は低周波側に限らず高周波側あるいは共振周波数に設定してもよい。
【0094】
また、STEP8で第二の停止条件の変位量を段階的に設定してもよい。例えば、はじめは第二の停止条件を5nmに設定し、垂直方向微動機構11により近接動作を行い、探針とサンプルが離れている場合には1nmずつ停止条件を増していき最終的に探針とサンプルが測定領域に達する10nmまで段階的に設定する。このように第二の停止条件を段階的に大きくすることで、測定エリアから離れない範囲内でより小さな力で測定できるように探針とサンプルを近づけることができ、近接動作のときや走査を行っている場合の探針やサンプルの摩耗が防止される。
【0095】
以上本発明の実施形態を述べたが、本発明はこれに限定するものではない。第一の加振条件、第一の停止条件、第二の加振条件、第二の停止条件は実施形態に限定されず第一の加振条件と第二の加振条件が異なっていれば任意の条件が設定可能である。
【0096】
また、停止条件の設定もカンチレバーの振幅や変位のほかにも位相差や周波数の変化を測定してもよい。第一の停止条件と第二の停止条件の設定の対象が異なるものであってもよい。
【0097】
粗動機構と垂直方向微動機構の構造や近接動作中の動作も上記実施形態は一例に過ぎず任意の方法が適用可能である。
【0098】
また、測定環境も大気、真空、液中など任意の環境で適用可能である。特に真空中では空気によるカンチレバーの減衰が少なく探針とサンプルが微小距離まで近接しないとカンチレバーの振幅が変動しないので、1次の共振スペクトル上で共振周波数よりも高周波側で第一の加振条件を設定することが有効である。
【0099】
また、上記実施形態では振幅や変位の減少量を停止条件に設定したが、探針とサンプルを近接したときに両者が接触する直前に振幅や変位が増加する領域があるので、振幅や変位の増加分を停止条件に設定することも可能である。
【0100】
また第二の停止条件により設定した後、さらに測定に最適な条件に振幅や変位、位相差、周波数などの測定条件を設定し直してもよい。
【0101】
測定開始から近接動作完了までの動作を自動で行う場合にも、加振条件や停止条件をはじめからすべて設定するようにしてもよいし、途中で分割して設定するようにしてもよい。
また、最適な測定条件の設定まで含めて自動に設定できるようにしてもよい。
【0102】
また、走査型プローブ顕微鏡の構成も本実施形態に限定されず例えばカンチレバー側に3軸微動機構や粗動機構をつけてカンチレバーをスキャンしてもよい。また変位検出機構がカンチレバーに抵抗体を組み込んで検出する方式なども本発明に含まれる。加振機構も圧電素子による加振の他、磁気力、電磁力、光エネルギー、熱振動などでカンチレバーを加振する方式でもよい。
【0103】
また、本発明はサンプルの凹凸を測定する原子間力顕微鏡に限定されず、電気特性や磁気特性、光学特性、機械的特性などを測定するさまざまな走査型プローブ顕微鏡に適用することができる。
【符号の説明】
【0104】
1,106 探針
2 カンチレバー
3 カンチレバーホルダ
4 振動子
5 変位検出機構
6 半導体レーザ
7 フォトディテクタ
8 サンプル
9 3軸微動機構
10 水平方向微動機構
11 垂直方向微動機構
12 サンプルホルダ
13 粗動機構
14 光学顕微鏡
15 プリアンプ
16 LDドライバ
17 発信器
18 ピエゾドライバ
19 モータドライバ
20 コントローラ
30 カンチレバー
31 カンチレバー部
32 探針
40 カンチレバー
41 カンチレバー部
42 探針
101 サンプル
102 3軸微動機構(スキャナ)
103 粗動機構(モータ)
104 半導体レーザ(LD)
105 圧電素子
106a カンチレバー
106b 探針
107 フォトディテクタ(PD)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端に探針を有するカンチレバーと、前記カンチレバーを加振するための加振機構と、前記カンチレバーの変位を検出するための変位検出機構と、前記探針に対向した位置に配置されたサンプルと前記探針との距離を調整するための垂直方向微動機構と、前記探針と前記サンプルを近接させるための粗動機構から構成される走査型プローブ顕微鏡において、
前記変位検出機構によりカンチレバーの変位を検出しながら、前記粗動機構または/および前記垂直方向微動機構により探針とサンプルを近接させるときに、前記加振機構により第一の加振条件でカンチレバーを加振し、第一の停止条件で探針とサンプルを近接させたあと、前記第一の加振条件とは異なる第二の加振条件でカンチレバーを加振し、第二の停止条件を設定し、前記垂直方向微動機構または/および前記粗動機構により探針とサンプルを前記第二の停止条件まで近接させる走査型プローブ顕微鏡における探針とサンプルの近接方法。
【請求項2】
前記カンチレバーの第一の加振条件が、該カンチレバーの1次の共振スペクトルにおいて1次の共振周波数よりも高周波側の任意の周波数での加振であり、前記変位検出機構により検出されるカンチレバーの振幅または位相または共振周波数のいずれかを前記第一の停止条件として設定した請求項1に記載の走査型プローブ顕微鏡における探針とサンプルの近接方法。
【請求項3】
前記カンチレバーの第二の加振条件が、該カンチレバーの1次の共振スペクトルにおいて1次の共振周波数よりも低周波側の任意の周波数での加振であり、前記変位検出機構により検出されるカンチレバーの振幅または位相または共振周波数のいずれかを前記第二の停止条件として設定した請求項1または2に記載の走査型プローブ顕微鏡における探針とサンプルの近接方法。
【請求項4】
前記第二の加振条件が、前記カンチレバーの2次以上の共振スペクトル上の任意の周波数での加振である請求項1または2に記載の走査型プローブ顕微鏡における探針とサンプルの近接方法。
【請求項5】
先端に探針を有するカンチレバーと、前記カンチレバーを加振するための加振機構と、前記カンチレバーの変位を検出するための変位検出機構と、前記探針に対向した位置に配置されたサンプルと前記探針との距離を調整するための垂直方向微動機構と、前記探針と前記サンプルを近接させるための粗動機構から構成される走査型プローブ顕微鏡において、
前記変位検出機構によりカンチレバーの変位を検出しながら、前記粗動機構または/および前記垂直方向微動機構により探針とサンプルを近接させるときに、前記加振機構により第一の加振条件でカンチレバーを加振し、第一の停止条件で探針とサンプルを近接させたあと、前記カンチレバーの加振を停止し、前記変位検出機構により検出される前記カンチレバーのたわみ量を前記第二の停止条件として設定し、前記垂直方向微動機構または/および前記粗動機構により探針とサンプルを第二の停止条件まで近接させることを特徴とする走査型プローブ顕微鏡における探針とサンプルの近接方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の走査型プローブ顕微鏡における探針とサンプルの近接方法の使用において、
少なくとも一つの加振条件設定手段と、
第一停止条件設定手段及び第二停止条件設定手段と、を備え、
探針とサンプルの近接動作の開始から第二の停止条件に至る近接動作を行う際に、
前記少なくとも一つの加振条件設定手段と前記第一及び第二の停止条件設定手段の夫々により設定した少なくとも一つ以上の条件を1度または複数回に分割して設定し、探針とサンプルを近接させることを特徴とする走査型プローブ顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−210609(P2010−210609A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−267578(P2009−267578)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【出願人】(503460323)エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社 (330)