走査型プローブ顕微鏡の移動ステージ装置
【目的】本発明の目的は、走査型プローブ顕微鏡の移動テーブル上の試料を高精度かつ高分解能で微小移動を可能することにある。
【構成】一端が固定された圧電素子30に駆動電圧を与えることにより変位させ、この圧電素子の他端に取り付けられた試料載置用の載物台 2を移動させるようにした移動ステージ 105において、移動操作を指示する指示手段 103と、所要の電圧レベルまでは緩やかに変化し、その後、急峻に戻る単発の駆動電圧若しくは、所要の電圧レベルまでは急峻に変化し、その後、緩やかに戻る単発の駆動電圧を上記指示手段の操作期間、所定間隔で発生して上記圧電素子に与える電圧印加手段 102,101,104とを設けて構成した。
【構成】一端が固定された圧電素子30に駆動電圧を与えることにより変位させ、この圧電素子の他端に取り付けられた試料載置用の載物台 2を移動させるようにした移動ステージ 105において、移動操作を指示する指示手段 103と、所要の電圧レベルまでは緩やかに変化し、その後、急峻に戻る単発の駆動電圧若しくは、所要の電圧レベルまでは急峻に変化し、その後、緩やかに戻る単発の駆動電圧を上記指示手段の操作期間、所定間隔で発生して上記圧電素子に与える電圧印加手段 102,101,104とを設けて構成した。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、試料の微細な表面形状を観察するための走査型プローブ顕微鏡に関するものであり、特に走査型プローブ顕微鏡(SPM)に用いられている圧電素子による移動ステージ上の試料を高精度に移動させることができるようにした走査型プローブ顕微鏡の移動ステージ装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】走査型プローブ顕微鏡は、試料の微細な表面形状を観察するものであり、従来、この走査型プローブ顕微鏡として、走査型トンネル顕微鏡(STM)、原子間力顕微鏡(AFM)、磁気力顕微鏡(MFM)などが知られている。
【0003】走査型トンネル顕微鏡は、導電性の探針を用い、この探針を観察対象の試料である導電性試料の近傍に支持させる。そして、例えば、探針の先端を試料表面に1nm程度まで近付け、探針と試料との間に電圧を印加する。すると、探針と試料との間にトンネル電流が流れる。このトンネル電流は探針と試料との間の距離に依存して変化し、その大きさは0.1 nmの距離変化に対して1桁程度変化する。
【0004】探針は試料表面に沿って移動(例えば、ラスタ走査)させるが、この移動の間、探針と試料との間に流れるトンネル電流値が一定となるように、探針と試料との間の距離を調整する圧電体(微動位置調整装置)に制御電圧を印加し、探針と試料との間を一定距離に保つ。
【0005】すなわち、圧電体は印加電圧に応じて伸縮変形するのを利用して、試料を圧電体上に保持し、探針と試料との間に流れるトンネル電流値が一定となるように、圧電体に制御電圧を印加して伸縮制御し、探針と試料との間の距離を調整する。探針の試料表面に対する走査は、探針を移動させる方式でも、また、試料を移動させる方式でも構わない。
【0006】このように探針‐試料間の距離が一定に保たれるように圧電体を制御する結果、探針先端は試料の表面形状を反映した曲面上を移動することになる。従って、圧電体に印加した制御電圧から各走査点上での探針先端の位置を算出することができ、この圧電体に印加した制御電圧から算出される探針先端の位置データに基づいて、試料の表面形状を示す3次元像を構成することにより、試料の表面形状を観察することができる。
【0007】また、原子間力顕微鏡は、絶縁体の表面形状を原子オーダで観察することのできる装置であり、試料表面を走査する探針は柔軟なカンチレバーによって支持されている。また、上述同様に試料を圧電体上に保持し、探針と試料との間の距離を調整することができるようにしてある。
【0008】そして、原子間力顕微鏡では探針を試料表面に近付けると、探針先端の原子と試料表面の原子との間には、ファンデル・ワールス(Vander Waals)相互作用による引力が働き、さらに原子の結合距離程度にまで近付けると、パウリ(Pauli)の排他律による斥力が働くことを利用する。
【0009】これらの引力および斥力(原子間力)は非常に小さい。しかし、探針は柔軟なカンチレバーによって支持されているため、探針先端の原子が原子間力を受けると、その大きさに応じてカンチレバーが変位する。そして、探針を試料表面に沿って走査させると、試料表面の凹凸に対応して探針と試料との間の距離が変化するため、カンチレバーが変位するので、このカンチレバーが変位量を検出し、上記圧電体等の微動素子により構成された微動位置調整装置をフィードバック制御してカンチレバーの変位量を一定に保つようにする。
【0010】従って、このときの圧電体への印加電圧は、探針が走査している試料の表面形状に依存する関係があるので、この印加電圧情報より試料表面の凹凸像を得ることができる。
【0011】磁気力顕微鏡は、原子間力顕微鏡と同様に、探針と試料の磁性粒子との間に働く磁力を一定に保ちながら、探針を試料表面に対して走査させることによって、試料表面の凹凸像を得る。
【0012】なお、原子間力顕微鏡または磁気力顕微鏡に用いられるカンチレバーに設けられた探針を導電性物質で構成し、トンネル電流を検出できるようにすれば、走査型トンネル顕微鏡としても利用することができるようになる。そして、原子間力顕微鏡および磁気力顕微鏡においても、探針の試料表面に対する走査は、探針を移動させる方式、試料を移動させる方式のいずれであっても構わない。
【0013】ところで、このような走査型プローブ顕微鏡の測定範囲はせいぜい100μm程度である。そこで、試料上の任意の場所を測定するためには、試料を微小に移動する機構が必要となる。そのための機構が微動位置調整機能付の移動ステージ装置であり、当該装置の一つとして特公平3−208246号公報に示す如き構造のものが知られている。
【0014】この公報に示される構成は、図9に示す如きものであって、(a)はしっかりとした基盤4上に、円筒状の圧電素子3をその軸線を直立させて固定し、圧電素子3上には載物台2を固定して設けた構成としたものである。圧電素子3の周囲にはその周面を4等分割して分けた各領域に電極3a〜3dを形成してあり、4つの電極3a〜3dのうち、対向する一対の電極3a,3b(若しくは3c,3d)には、逆位相となるように図1010(a)に示すような余弦波の単一波形電圧を間欠的に印加する。
【0015】圧電素子3は、このような余弦波の電圧を間欠的に印加されることにより、変形を生じる。すなわち、圧電素子3は、このような余弦波の電圧を対向する二つの電極に逆位相となるように印加されることにより、図10(b)に示すように、その載物台2は衝撃的に駆動される。そして、この衝撃的な変形によるその惰性で載物台2上の試料1は図10(c)のように載物台2上を滑り、微小移動されることになる。
【0016】また、図9の(b)に示す構成は、基盤4上に2つの支持台5a,5bを固定し、これらの支持台5a,5bから載物台2の上面に平行に腕を伸ばすかたちで、それぞれ棒状の圧電素子6a,6bを設ける。圧電素子6a,6bは一方をX軸に沿って、また、他方をY軸に沿ったかたちで、しかも、その軸線の延長線が基盤4上のある点で直交するように配し、その交点位置に載物台2を配する。
【0017】そして、圧電素子6a,6bは載物台2の側面に接続する。
【0018】このような構成として、圧電素子6a,6bに、上述のような余弦波の電圧を間欠的に印加することにより、電圧が印加された圧電素子6a,6bは衝撃的な変形を生じ、載物台2は変位される。そして、図10R>0(b)および(c)に示すように、載物台2上の試料1は微小移動する。
【0019】
【発明が解決しようとする課題】走査型プローブ顕微鏡では、試料を微小に移動する際に高精度かつ高分解能に移動させるようにしたいとの要求がある。その要求に応えるものとして、圧電素子上に載物台を設け、圧電素子の衝撃的駆動により載物台上の試料を滑べらせながら、微小移動させるようにする上述したような移動テーブルが提案されている。
【0020】しかしながら、載物台と試料との間に働く摩擦力は一定したものではないことから、この従来技術における移動テーブルにおいては、載物台を衝撃的に駆動し、その惰性で試料を滑べらせた際に、その載物台と試料との間に働く摩擦力のばらつきによって、一回の衝撃的駆動による試料の移動量が一定にならず、目標の位置に合わせるのは困難であると云う問題点がある。
【0021】そこで、この発明の目的とするところは、高精度にかつ高分解能で試料の微小移動を可能として、容易に目的の領域の試料像の観察を可能にする走査型プローブ顕微鏡の移動ステージ装置を提供することにある。
【0022】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、本発明はつぎのように構成した。すなわち、一端が固定された圧電素子に駆動電圧を与えることにより変形させ、この圧電素子の他端に取り付けられた試料載置用の載物台を変位させるようにした移動ステージにおいて、移動操作を指示する指示手段と、所要の電圧レベルまでは緩やかに変化し、その後、前記載物台上の試料と載物台との摩擦力が無視できる程度に急峻に戻る単発の駆動電圧若しくは、所要の電圧レベルまでは前記載物台上の試料と載物台との摩擦力が無視できる程度に急峻に変化し、その後、緩やかに戻る単発の駆動電圧を上記指示手段の操作期間、所定間隔で発生して上記圧電素子に与える電圧印加手段とを設けて構成した。
【0023】
【作用】このような構成において、圧電素子に駆動電圧を与えることにより変形させ、この圧電素子の他端に取り付けられた試料載置用の載物台を変位させるが、載物台上の試料の観察したい領域が走査型プローブ顕微鏡の探針の走査領域から外れている時は、指示手段により移動操作を指示する。すると、この指示手段の操作期間、電圧印加手段は駆動電圧を所定間隔で発生して圧電素子に与える。
【0024】電圧印加手段から出力される駆動電圧は、所要の電圧レベルまでは緩やかに変化し、その後、前記載物台上の試料と載物台との摩擦力が無視できる程度に急峻に戻る単発の駆動電圧若しくは、所要の電圧レベルまでは前記載物台上の試料と載物台との摩擦力が無視できる程度に急峻に変化し、その後、緩やかに戻る単発の駆動電圧である。
【0025】従って、この電圧印加手段から前記電圧波形を前記圧電素子に印加することによって、前記圧電素子を変形駆動すると、駆動電圧が緩やかに変化する領域では圧電素子は緩やかに移動して載物台上の試料は載物台と一体に移動し、駆動電圧が急峻に変化する領域では載物台も急峻に動くことから、試料は慣性力によって定位置に止まろうとする作用が働き、その結果、載物台上を滑る。その滑る量は本システムの場合、載物台の急峻に変位する量と同じ距離になる。
【0026】つまり、達磨落としのような原理で試料はその場に止まるので、載物台から見た試料の相対位置は載物台の変位量分だけ移動したと同様になる。このように、載物台上の試料の1回あたりの移動量は印加電圧(駆動電圧)の単一波形の急峻な立ち下がり(立上り)による圧電素子の急峻な変形の際の変位量に等しくなるので、印加電圧のレベル対応のものとなり、印加電圧(駆動電圧)のレベルさえ定まればそれに対応した所定の量だけ変位させることができるので、より高精度かつ高分解能な試料の移動が可能になる。
【0027】従って、指示手段により移動操作を指示する期間、所定間隔で所要レベルの駆動電圧を発生させると、載物台上の試料は所要の微小ピッチ刻みで移動される。
【0028】そのため、載物台上の試料の観察したい領域を精度良く、しかも、高分解能で移動させて探針による走査領域内に移動させることができるようになり、目的の領域を測定することが可能になる。
【0029】
【実施例】以下、図面を参照して本発明の実施例を説明する。
【0030】(第1実施例)図1は本発明の第1実施例としての微動位置調整機能付移動ステージ装置の構成例を示すブロック図である。また、図2は本システムに使用する移動テーブル部分の構成を示す斜視図である。
【0031】微動位置調整機能付移動ステージ装置は、試料表面を探針に対して走査させると共に、Z軸方向の変位制御を行うものであるが、本発明による走査型プローブ顕微鏡の微動位置調整装置は、その移動ステージ部分を図2に示すように、圧電材料を円筒形に形成した円筒圧電素子本体30を用い、その内周面全体に内周面電極30aを形成してあり、また、円筒圧電素子本体30の外周面には周面を円筒の軸線方向に沿って四分割したそれぞれの領域に、外周側電極30bを形成した構成としてある。
【0032】内周面電極30aは共通電極であり、この共通電極30aと外周側電極30bとの間に、電圧を印加することにより、円筒圧電素子本体30にはこの印加電圧に応じた変形(歪み)が生じるよう構成されている。なお、円筒圧電素子本体30の下部はしっかりした基盤4に固定されて保持される。また、円筒圧電素子本体30の上端には載物台2を固定して取り付けてある。
【0033】移動ステージ部分を構成する円筒圧電素子本体30の4つの電極30aのうち、対向する一対の電極をそれぞれペアとして一組にはX方向用の、他方の組にはY方向用の駆動電圧を印加することにより、X方向、Y方向に変形させることができる。
【0034】図1は本発明の移動テーブル装置の構成を示すブロック図である。
【0035】図において、101は信号制御装置であり、例えば、マイコン(マイクロコンピュータ)13により構成されている。また、102は指示信号検出装置である。103は位置を指定するための入力装置であり、例えば、X方向、Y方向に自在に操作することのできるスティックを有し、このスティックを操作することにより、X方向、Y方向の操作量対応のアナログ信号を指示値として出力することができるジョイスティック21を用いている。この入力装置103は、そのスティックをX方向、Y方向に倒したときに、その操作量および操作方向対応のアナログ信号(X軸方向信号、Y軸方向信号)を指示値として発生する。
【0036】指示信号検出装置102はX検出A/D(アナログ/ディジタル)変換器11、Y検出A/D変換器12よりなり、X検出A/D変換器11は入力装置103より得られたX軸方向信号をディジタルデータに変換し、Y検出A/D変換器12は入力装置103より得られたY軸方向信号をディジタルデータに変換して信号制御装置101に与えるものである。
【0037】ここで、X軸方向、Y軸方向とは、載物台2の上面を二次元平面として見た場合に、この二次元平面上の直交軸の軸方向を指している。
【0038】信号制御装置101はマイコン13に内蔵されているメモリ上に、テーブル駆動データを保持させたデータテーブルを有している。このデータテーブルには、立上がりが緩やで、立ち下りは急峻とした単一波形を得るためのデータ列を保持させてある。そして、信号制御装置101はデータテーブルから得た波形のデータ列について、上記指示信号検出装置102を介して得た入力装置103の指示値に応じてその波形の振幅を変化させるように処理したデータをX,Y軸の方向別に出力する構成としてある。
【0039】これにより、緩やかな立ち上がりを持ち、立ち下りは急峻となる単一波形に対し、入力装置103の指示値に応じた振幅となるようなレベル値とした波形データをX,Yの方向別に得ることができる。
【0040】104は駆動信号出力装置であり、X駆動D/A(ディジタル/アナログ)変換器14、Y駆動D/A変換器15および+Xアンプ16、−Xアンプ17、+Yアンプ18および−Yアンプ19より構成してある。X駆動D/A変換器14は、信号制御装置101の出力するX軸方向に対する波形データを受けてこれをアナログ信号に変換するものであり、Y駆動D/A変換器15は、信号制御装置101の出力するY軸方向に対する波形データを受けてこれをアナログ信号に変換するものである。
【0041】また、+Xアンプ16は非反転増幅器であり、X駆動D/A変換器14の出力するアナログ信号を増幅して出力するものである。また、−Xアンプ17は反転増幅器であり、X駆動D/A変換器14の出力するアナログ信号を反転増幅して出力するものである。+Yアンプ18は非反転増幅器であり、Y駆動D/A変換器15の出力するアナログ信号を増幅して出力するものである。また、−Yアンプ19は反転増幅器であり、Y駆動D/A変換器15の出力するアナログ信号を反転増幅して出力するものである。
【0042】+Xアンプ16と−Xアンプ17とをペアとし、また、+Yアンプ18と−Yアンプ19とをペアとして移動テーブル105を構成する上記円筒圧電素子本体30の外側の4つの電極30aのうちの、対向する対の電極に対してそれぞれ対応するものを印加して円筒圧電素子本体30の駆動に利用する。
【0043】このような構成の本装置は、入力装置103であるジョイスティック21をX方向、Y方向に所望量倒すと、その倒した量(操作量)および方向(+X方向,+Y方向、−X方向,−Y方向)に対応した信号が出力され、この信号は指示信号検出装置102を構成するX検出A/D変換器11、Y検出A/D変換器12によってその各方向別に入力されて、ディジタルデータに変換される。そして、このディジタルデータはX用、Y用の指示値として信号制御装置101に入力される。
【0044】信号制御装置101では、当該信号制御装置101を構成しているマイコン13が、自己に内蔵されているメモリ上のデータテーブルから読出した単一波形の連続データに対して、X検出A/D変換器11、Y検出A/D変換器12より与えられたX用、Y用の指示値に対応した振幅となるようにデータ処理をしてX用、Y用の駆動信号データを作成する。そして、このX用、Y用の駆動信号データを駆動信号出力装置104に与える。
【0045】駆動信号出力装置104では、X用の駆動信号データについてはX駆動D/A変換器14に、そして、Y用の駆動信号データについてはY駆動D/A変換器15に与え、それぞれディジタルデータからアナログ信号に変換される。そして、X用のアナログ信号はX用の駆動信号として+Xアンプ16および−Xアンプ17に入力され、また、Y用のアナログ信号はY用の駆動信号として+Yアンプ18および−Yアンプ19に入力されてそれぞれ増幅され、上記円筒圧電素子本体30の外側の4つの電極30aのうちの対応するものに与えられる。
【0046】X用およびY用の駆動信号は、それぞれ緩やかな立ち上がり特性で立上がり、その後に急峻な立ち下りを以て零に戻る波形形状の単一波形であり、逆位相の関係にあって、ジョイスティック21のスティック操作量、操作方向対応のレベルに変換されたものが、円筒圧電素子本体30の外側の4つの電極30aの対応するものに印加されるので、円筒圧電素子本体30は上記スティック操作に対応した方向および量だけ、変形する。
【0047】この変形はゆっくりと変位した後に急峻に戻る動作となるので、載物台2上の試料1は、載物台2と一体に移動し、その後、載物台2が戻るときは自己の慣性力により、上記急峻に戻る直前に位置した位置に取り残される。従って、載物台2上の試料1は載物台2上から見て、円筒圧電素子本体30の変形量対応分だけ、位置が移動されることになる。
【0048】詰まり、試料の質量をm、試料と載物台との間に働く摩擦力をFとすると、載物台が加速度aで移動しているとき、試料と載物台との相対的な加速度はa−(F−m)となるので、加速度aがF−mに比較して十分大きいとき、試料と載物台との相対的な加速度は、摩擦力Fの影響をあまり受けず、ほぼ一定となる。従って、加速度Fに対応する試料の変位量もほぼ一定となる。
【0049】好適には加速度aは、F−mの10倍以上あることが望ましい。
【0050】ゆえに、上記スティック操作量および操作方向に対応した方向および量だけ、載物台2上の試料1を移動操作することができることになる。
【0051】図3は図1の装置による試料位置移動調整モードでの駆動方法の実施例をフローチャートに示したものであり、マイコン13に持たせる処理機能である。まず、移動ステージ105上の試料の移動をさせたい時は、マイコン13に試料移動開始命令を与え、試料位置移動調整モードにする。マイコン13では試料移動開始命令(ステップS201)によって、時間tだけ待ってから(ステップS202)、ジョイスティック21が中心位置のままか否かを指示値のデータ値から判断する(ステップS203a)。
【0052】そして、ジョイスティック21が中心位置でないとき、当該ジョイスティック21の指示値に応じた振幅となる緩やかな立ち上がりと急峻な立ち下りを持つ単一波形を出力する(ステップS204、S205)。再び、時間tだけ待って(ステップS202)から、同じループを繰り返す。ジョイスティック21が中心位置に戻ったならば、上述の繰り返しループから抜けて試料移動を終了する(ステップS206)。
【0053】以上が、試料移動調整モードの動作である。
【0054】図4(a)は上記試料移動調整モードでの駆動方法における駆動信号の電圧波形を示したものである。図4(a)に示す駆動信号の電圧波形は、正電圧の緩やかな立上がりを有し、また立下がりは立上り曲線の傾き絶対値の最大よりも傾き絶対値が大きい急峻な立ち下り(負電圧の緩やかな立ち下りと急峻な立ち上がり)を持つ一周期の単一波形の電圧あるいは単一波形の間欠的な連なりの電圧である。
【0055】ジョイスティック21を操作して、そのスティックを試料移動させたい方向に、ある一定角度倒したままにすると、上述した動作によって駆動信号出力装置104からはv1の振幅の単一波形が間欠的に発生する。この振幅v1なる単一波形を円筒圧電素子本体30に印加して載物台2を駆動させると、載物台2は緩やかに移動した後、急峻に元に戻ると云った動作を間欠的に繰り返す。
【0056】図4(b)は上記駆動のときの載物台2と試料1の移動の軌跡を示したものである。図に示すように、載物台2が緩やかに移動する間は、試料1は載物台2と一緒に移動する。そして、急峻な動きで載物台2が元に戻るとき、慣性力によって試料1だけその位置に取り残される。これを繰り返すことによって載物台2上の試料1はd1ステップ単位で載物台2上を移動して行くことになる。このとき、d1=d2となる。ジョイスティック21は所望の方向、所望の量だけ、スティックを倒すことができるので、スティックを所望の方向に所望の量だけ倒してその状態を保つことで、その状態で定まる一定のステップで試料位置を所望の方向に間欠的に移動させてゆくことができるようになる。
【0057】なお、スティックを逆の方向に倒すと、指示値は逆の量となるので、図4(c)に示すように、駆動信号は図4(a)とは極性が逆となるようにしておけば、これによって変位方向は逆になり、従って、図4(d)に示す如く、試料位置を逆の方向に間欠的に移動させてゆくことができる。
【0058】図5の(a),(b),(c)は、上記駆動の時の移動ステージ105の一回の衝撃駆動の様子を横から観察した図である。図5(a)の状態にある載物台2上の試料1は、円筒圧電素子本体30に駆動信号を与えて変形させると、駆動信号は最初は緩やかな変化となるために、この変形は緩やかなものとなり、従って、図5(b)のように試料1は載物台2と一体に移動する。そして、駆動信号の振幅分の変形が成された後、駆動信号が急峻に戻るので円筒圧電素子本体30と載物台2は急峻に元の位置に戻り、このとき載物台2上の試料1は慣性力によって現在の位置に止まるために、載物台2から見ると図5(c)のように、載物台2上が動いた量だけ移動した形となる。
【0059】以上、第1の実施例によれば、圧電素子の変形により載物台を急峻に変位させて載物台上の試料を微小移動させるようにした移動テーブルにおいて、載物台の一回の駆動を、目的の移動位置までは緩やかに変位させ、戻りは急峻に行うようにしたことによって、より高精度かつ高分解能な試料の移動が可能になる。
【0060】なお、本実施例では、入力装置103として、ジョイスティック21を用いるようにして、そのスティック操作により、任意の方向へ任意の距離だけ移動可能な駆動装置を示したが、入力装置103としてはこの他、トラックボール、マウス、キースイッチ、ジョグシャトル等を用いることも可能であることは云うまでもない。
【0061】また、マイコン13にコンピュータを接続して、そのコンピュータを介して、マイコン13に移動目的地データを入力するようにし、この移動目的地データに基づいてマイコン13に本発明の駆動方法を実施させるようにすることによって、目的位置に自動的に試料を移動させるようにすることも容易に実現可能である。
【0062】以上は、一端が固定された圧電素子に駆動電圧を与えることにより変形させ、この圧電素子の他端に取り付けられた試料載置用の載物台を移動させるようにした移動ステージにおいて、移動操作を指示する指示手段(入力装置)と、緩やかな立ち上がりを持ち、この立上りの曲線の傾き絶対値の最大よりも傾き絶対値の大きい急峻な立ち下りを持つ若しくは緩やかな立ち下りと急峻な立ち上がりを持つ一周期の単一波形の電圧あるいは単一波形の間欠的な連なりの電圧を上記指示手段による指示期間中、前記圧電素子に駆動電圧として印加する電圧印加手段とを有し、この電圧印加手段から前記電圧波形を前記圧電素子に印加することによって、前記圧電素子を変形駆動し、前記載物台上の試料を前記電圧波形の急峻な変化の際に、前記圧電素子の変形方向に滑べらせて微小移動させるようにしたものである。すなわち、駆動電圧の前縁を緩やかにし、後縁を急峻にするような波形としたものである。
【0063】しかし、逆に駆動電圧の前縁を急峻にし、後縁を緩やかにした波形とすることでも実施可能である。これをつぎに第2実施例として説明する。
【0064】(第2実施例)図6は、本発明の第2実施例の駆動方法を示す図である。
【0065】図6(a)は、図4で説明したと同様に正電圧方向への緩やかな立上りと急峻な立ち下がりを持つ駆動電圧波形で、円筒圧電素子本体30の4つの外周側電極30bのうち、対向する二つの電極に逆位相となるように印加するものである。そしてこれにより、図4の(b)の場合と全く同様な動作をさせることができるから、試料1は図5に示すように載物台2上を右方向へ移動される。
【0066】一方、図6(b)のように、正電圧方向への急峻な立ち上りと緩やかな立下りを持つ駆動電圧波形を圧電素子本体30の4つの外周側電極30bのうち、対向する二つの電極に逆位相となるように印加して駆動すると、載物台2と試料1の移動の軌跡は図6(c)に示す如きとなり、載物台2上の試料1は図4(b)とは逆方向に移動することになる。
【0067】つまり、圧電素子本体30を図7(a)の状態から図7(b)の状態に急激にd3だけ変形させることで、載物台2上の試料1は自己の慣性力で初めの位置に止め置かれ、載物台2のみがd3だけ移動される。
【0068】そして、つぎの段階では圧電素子本体30がゆっくりと元に戻るので、圧電素子本体30の定位置における載物台2上の試料1は図7(b)の位置関係を保った状態で図7(c)のような状態となる。これにより、載物台2から見た試料1は載物台2上を左方向へ距離d3だけ移動されたことになる。
【0069】ここで、単一波形駆動による載物台2の移動量はd2であることから、d2=d3となるため、印加電圧(駆動電圧)の振幅を制御することで、載物台2上の試料1の移動量が定量化できる。
【0070】また、この実施例の場合、右移動、左移動は駆動電圧の前縁を急峻にしたか、緩やかにしたかの違いのみであることから、片電源すなわち、正負いずれかの極性のみの電源で、波形形状のみを変えて出力させれば、左右両方向に試料を移動させることが可能となる。
【0071】なお、波形のデータは右方向移動用、左方向移動用のものをそれぞれマイコン13のデータテーブルに用意しておき、ジョイスティック21の操作方向に応じてデータを使い分けるようにすれば良いから、基本的には図1のハードウエア構成で第2実施例を実現できる。また、第1の実施例の考え方は第2実施例にもそのまま適用できる。
【0072】以上、第2実施例は、一端が固定された圧電素子に駆動電圧を与えることにより変形させ、この圧電素子の他端に取り付けられた試料載置用の載物台を変位させるようにした移動ステージにおいて、前記圧電素子に印加する前記電圧波形を、前記試料を正方向へ移動させる際には、正電圧の緩やかな立ち上がりと負電圧の急峻な立ち下りを持つ一周期の単一波形の電圧あるいは単一波形の間欠的な連なりとし、逆方向へ移動させる際は、正電圧の急峻な立ち上がりと緩やかな立ち下りを持つ一周期の単一波形の電圧あるいは単一波形の間欠的な連なりとする片電源駆動型の電圧印加手段を用いるようにしたものである。
【0073】そして、圧電素子の急峻な変位により載物台を急峻に移動させて載物台上の試料を微小移動させるようにし、移動した後は緩やかに戻すことで定位置での載物台上での試料位置が目的位置になるようにし、また、試料を逆の方向に移動させる時には最初に、載物台の駆動を、目的の移動位置まで緩やかに変位させ、戻りは急峻に行うようにしたことによって、駆動電圧用の電源を単一極性の電源(正電源または負電源のいずれか)を用意するだけでどの方向に対しても、高精度で高分解能な試料の移動が可能になる。
【0074】(第3実施例)つぎに第3実施例を説明する。図11は本発明における第3実施例としての駆動方法を示す図である。
【0075】図11(b)は図4と同様に、正電圧方向への緩やかな立上がりと、急峻な立ち下がりを持つX方向駆動電圧波形である。このとき、図11(a)に示すように、(b)よりも時間t1だけ、位相の進んだ駆動電圧波形を圧電素子本体30に、Z方向駆動信号として印加すると、試料1の動きは図12に示すようになる。
【0076】まず、図12の(a)の状態から、図12の(b)のように、試料1は載物台2に載った状態で緩やかに動いてゆく。図12の(c)に示すように、圧電素子本体30がZ方向に急に縮んだ瞬間は、試料1は空中に取り残される。つぎの瞬間(時間t1後)に、図12(d)のように、試料1が空中にあるうちに、圧電素子本体30がX方向に急に変化して元の状態に戻る。
【0077】その後、試料1は自由落下して図12(e)のような状態になるため、試料1は載物台2上を右方向に移動したことになる。
【0078】このとき、圧電素子本体30のZ方向への緩やに延ばして急峻に縮めると云う動作を組合わせたことによって、試料1と載物台2の間の摩擦力の影響をさらに軽減できる。図13には第3実施例を達成するための装置構成をブロック図で示しておく。なお、図13において、Z方向急峻駆動用の制御系としてZ駆動D/A201、その出力を増幅してZ駆動信号203を得るZアンプ202を設け、マイコン2より、上述のZ方向制御のための制御データを発生させて、Z駆動D/A201に与える構成とする点、そして、圧電素子本体30にZ駆動信号203を与える構成とした点を除き、図1の構成と基本的に同じである。
【0079】つぎに上記の微動位置調整装置を走査型プローブ顕微鏡に適用する例を示す。
【0080】(走査型プローブ顕微鏡としての応用例)図8は第1および第2実施例で説明した微動位置調整機能付移動ステージ装置を採用した走査型プローブ顕微鏡のブロック図であり、100はホストコンピュータ、13はマイコン、130はA/D変換部、140はZ制御部である。また、150はXY走査部、170はカンチレバーZ変位検出部、180はカンチレバーθ変位検出部、190はカンチレバー、190aは探針、105は移動ステージであって、XYZ軸方向に位置調整できる。2は試料台、1は試料である。
【0081】載物台2は試料1を載置して保持するためのものであり、載物台2は移動ステージを構成する圧電素子本体30上に固定して設けられている。圧電素子本体30は上述したように圧電体を円筒型に形成して構成しており、制御信号(Z制御信号S3、X制御信号S4、Y制御信号S5)に応じて載物台2をX軸、Y軸、Z軸方向に移動できる。これにより、試料1はカンチレバー190の探針190aに対してX軸、Y軸方向に走査され、また、Z軸方向に位置制御される。
【0082】カンチレバー190は、その基端側が定位置に固定されている。そして、カンチレバー190は、その自由端先端側のZ軸方向の変位をカンチレバーZ変位検出部170により、また、自由端先端側の捩じれをカンチレバーθ変位検出部180にて検出される構成となっている。
【0083】カンチレバーZ変位検出部170はZ軸方向変位を検出してその検出量に対応した出力であるZ変位信号S1を発生するものであり、また、カンチレバーθ変位検出部180は捩じれ量を検出してその検出した捩じれ量対応の出力であるθ変位信号S2を発生するものであれば良い。
【0084】マイコン13は本システムの制御の中枢を担うものであり、試料位置移動調整モードと観測モードを設定できる。このモードはホストコンピュータ100から与えることもできるし、また、マイコン13にキースイッチなどの入力装置を設ける等してこれにより設定することができるようにしても良い。
【0085】試料位置移動調整モードでは上述のような作用を実施し、載物台2上の試料1の位置の移動調整を行うことができる。また、試料1の測定時に載物台2をXY走査するために、観測モードではXY走査用の走査駆動信号を発生してXY走査部150に与え、また、載物台2をZ軸方向(圧電素子本体30の軸方向)に制御するためにその制御量を演算してZ制御部140に与えたり、また、制御量に対応したデータを試料表面の凹凸データの情報に変換してホストコンピュータ100に与える機能を有する。
【0086】XY走査部150はマイコン13からの指令によりX制御信号S4、Y制御信号S5を発生させて圧電素子本体30へ与えるものであり、圧電素子本体30はこのX制御信号S4、Y制御信号S5に応じて、X軸方向、Y軸方向に変位するように構成されていて、圧電素子本体30のかかる変位により、通常のXY走査や上述した実施例のような急峻な変位による試料位置の微小移動を行わせることができるようにしてある。従って、XY走査部150は図1における駆動信号出力装置104をそのまま利用できる。
【0087】Z制御部140はカンチレバーZ変位検出部170からのZ変位信号S1やカンチレバーθ変位検出部180からのθ変位信号S2を、それぞれの基準値に保つように動作する制御回路からなり、圧電素子本体30をZ軸方向に伸縮させるZ制御信号S3を出力する。
【0088】A/D変換部130はこのZ制御部140からのZ制御信号S3をA/D変換してディジタルデータ化し、マイコン13に与えるものである。マイコン13にはこのZ制御信号S3のディジタルデータを取り込んで、ホストコンピュータ100へ試料表面の凹凸情報を示す凹凸データとして転送する機能を有する。また、ホストコンピュータ100はこの凹凸データとXY走査の指令情報とをもとに、試料1の表面凹凸を画像形成してディスプレイ装置やプリンタ等の出力装置に出力表示するものである。
【0089】また、102は図1の指示信号検出装置であり、103は図1の入力装置である。
【0090】つぎに上記構成の装置の作用を説明する。試料1を載物台2上にセットしてスタートさせると、マイコン13はXY走査部150を介してX制御信号S4、Y制御信号S5を圧電素子本体30へ出力し、試料1を図13に示したように2次元走査させる。これによって、カンチレバー190の探針190aは、試料1の表面を所定の距離が保持されるように、以下のようなZ軸制御のもとでXY走査されることになる。
【0091】すなわち、試料1の表面に探針190aを近付けて走査することにより、試料1の表面の凹凸に従って探針先端が原子間力あるいは磁気力の影響により吸引あるいは反発されてカンチレバー190が変位する。
【0092】カンチレバーZ変位検出部170はカンチレバー190先端のZ軸方向の変位を検出し、Z変位信号S1を出力する。カンチレバーθ変位検出部180はカンチレバー190先端の捩じれ変位を検出し、θ変位信号S2を出力する。これらZ変位信号S1やθ変位信号S2はZ制御部140に入力され、Z制御部140はこれらのZ変位信号S1やθ変位信号S2に応じて、これらをそれぞれの基準値に保つようなZ軸の変位量を求め、これをZ制御信号S3として出力する。
【0093】このようにして、Z制御部140はZ変位信号S1やθ変位信号S2に応じて、これらをそれぞれの基準値に保つようなZ軸の変位量を得て、Z制御信号S3として出力し、圧電素子本体30に与えるので、圧電素子本体30は探針190aの試料表面に対する距離と、カンチレバー190のθ変位に従って、Z軸方向伸縮制御がなされ、カンチレバー190が捩じれないように試料1と探針190aの先端との間の距離が制御される。
【0094】また、Z制御信号S3はA/D変換部130でA/D変換され、マイコン13に取り込まれる。マイコン13ではこの取り込んだZ制御信号S3のデータを、ホストコンピュータ100へ凹凸デ−タとして転送し、また、XY走査の位置情報を合わせて位置データとしてホストコンピュータ100に送る。ホストコンピュータ100はこれらの情報をもとに、試料1の表面凹凸を画像形成して表示する。
【0095】走査型プローブ顕微鏡の測定範囲はせいぜい100μm程度である。従って、試料1を載物台2上にセットした状態で試料1の観察したい領域が探針による走査領域から外れる場合には、試料位置移動調整モードで位置移動させる必要がある。
【0096】この場合はホストコンピュータ100などから試料位置移動調整モードを設定すると、マイコン13は試料位置移動調整モードになり、ジョイスティック等による入力装置103の手動操作により、第1あるいは第2実施例で説明したような動作がなされて、載物台2上の試料1は走査方向に走査量対応の所定のステップで微小移動される。微小移動を行って目的の領域が探針190aによる走査領域に入ったならば、観察モードに切り替え、圧電素子本体30に対して上述のようなXY走査とZ軸制御を行わせて測定を行う。
【0097】なお、本発明は上述した実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲内で適宜変形して実施し得るものであり、例えば、上述の実施例ではいずれも、円筒型圧電素子を載物台の駆動源に使用した例を示したが、圧電素子はこれに限定されるものではなく、また、図9の(b)に示すような構造のものにも本発明は適用可能である。
【0098】以上、本発明の実施例について述べたが、本発明の微小位置調整機能付の移動ステージ装置は、圧電素子の変形により載物台を急峻に移動させて載物台上の試料を微小移動させるようにした移動テーブルにおいて、圧電素子の駆動電圧を所要レベルまで緩やかに変化した後、急峻に元に戻るパターン若しくはその逆のパターンとし、この駆動電圧により圧電素子を駆動することにより、載物台の一回の駆動を、目的の移動位置までは緩やかに変位させ、戻りは急峻に行う、あるいは目的の移動位置までは急峻に変位させ、戻りは緩やかに変位させるようにしたことによって、上記変位量分、試料を移動できるようにしたので、高精度かつ高分解能な試料の移動が可能になる。
【0099】
【発明の効果】以上、詳述したように、本発明によれば、載物台上の試料位置を高精度かつ高分解能に移動することが可能になる微小位置調整機能付の移動ステージ装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例の全体構成を示すブロック図であって、本発明の移動テーブル装置の構成を示す図。
【図2】本発明の実施例を説明するための図であって、その移動ステージ部分の構成を示す斜視図。
【図3】本発明の実施例を説明するための図であって、マイコン13による制御の過程を説明するためのフローチャート。
【図4】本発明の実施例を説明するための図であって、移動ステージ駆動電圧の波形と、載物台および試料の移動の軌跡を示す図。
【図5】本発明の第1実施例を説明するための図であって、駆動電圧印加による圧電素子の変形の様子と載物台上の試料の移動様子を説明するための図。
【図6】本発明の第2実施例を説明するための図であって、駆動電圧印加による圧電素子の変形の様子と載物台上の試料の移動様子を説明するための図。
【図7】本発明の第2実施例を説明するための図であって、駆動電圧印加による圧電素子の変形の様子と載物台上の試料の移動様子を説明するための図。
【図8】本発明の第2実施例を説明するための図であって、駆動電圧印加による圧電素子の変形の様子と載物台上の試料の移動様子を説明するための図。
【図9】従来技術を説明するための図であって、従来装置としての移動ステージ部分の構成を示す斜視図。
【図10】従来技術を説明するための図であって、図9の装置の駆動状態を説明するための図。
【図11】本発明の第3実施例を説明するための図であって、圧電素子に印加する駆動電圧の例を示す波形図。
【図12】本発明の第3実施例を説明するための図であって、駆動電圧印加による圧電素子の変形の様子と載物台上の試料の移動様子を説明するための図。
【図13】本発明の第3実施例を説明するための図であって、本発明の移動テーブル装置の構成を示すブロック図。
【符号の説明】
1…試料
2…載物台
4…基盤
11…X検出A/D変換器
12…Y検出A/D変換器
13…マイコン(マイクロコンピュータ)
14…X駆動D/A変換器
15…Y駆動D/A変換器
16…+Xアンプ
17…−Xアンプ
18…+Yアンプ
19…−Yアンプ
21…ジョイスティック
30…円筒圧電素子本体
30a…内周面電極
30b…外周側電極
101…信号制御装置
102…指示信号検出装置
103…入力装置
104…駆動信号出力装置
105…移動テーブル
150…XY走査部
190…カンチレバー
190a…探針
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、試料の微細な表面形状を観察するための走査型プローブ顕微鏡に関するものであり、特に走査型プローブ顕微鏡(SPM)に用いられている圧電素子による移動ステージ上の試料を高精度に移動させることができるようにした走査型プローブ顕微鏡の移動ステージ装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】走査型プローブ顕微鏡は、試料の微細な表面形状を観察するものであり、従来、この走査型プローブ顕微鏡として、走査型トンネル顕微鏡(STM)、原子間力顕微鏡(AFM)、磁気力顕微鏡(MFM)などが知られている。
【0003】走査型トンネル顕微鏡は、導電性の探針を用い、この探針を観察対象の試料である導電性試料の近傍に支持させる。そして、例えば、探針の先端を試料表面に1nm程度まで近付け、探針と試料との間に電圧を印加する。すると、探針と試料との間にトンネル電流が流れる。このトンネル電流は探針と試料との間の距離に依存して変化し、その大きさは0.1 nmの距離変化に対して1桁程度変化する。
【0004】探針は試料表面に沿って移動(例えば、ラスタ走査)させるが、この移動の間、探針と試料との間に流れるトンネル電流値が一定となるように、探針と試料との間の距離を調整する圧電体(微動位置調整装置)に制御電圧を印加し、探針と試料との間を一定距離に保つ。
【0005】すなわち、圧電体は印加電圧に応じて伸縮変形するのを利用して、試料を圧電体上に保持し、探針と試料との間に流れるトンネル電流値が一定となるように、圧電体に制御電圧を印加して伸縮制御し、探針と試料との間の距離を調整する。探針の試料表面に対する走査は、探針を移動させる方式でも、また、試料を移動させる方式でも構わない。
【0006】このように探針‐試料間の距離が一定に保たれるように圧電体を制御する結果、探針先端は試料の表面形状を反映した曲面上を移動することになる。従って、圧電体に印加した制御電圧から各走査点上での探針先端の位置を算出することができ、この圧電体に印加した制御電圧から算出される探針先端の位置データに基づいて、試料の表面形状を示す3次元像を構成することにより、試料の表面形状を観察することができる。
【0007】また、原子間力顕微鏡は、絶縁体の表面形状を原子オーダで観察することのできる装置であり、試料表面を走査する探針は柔軟なカンチレバーによって支持されている。また、上述同様に試料を圧電体上に保持し、探針と試料との間の距離を調整することができるようにしてある。
【0008】そして、原子間力顕微鏡では探針を試料表面に近付けると、探針先端の原子と試料表面の原子との間には、ファンデル・ワールス(Vander Waals)相互作用による引力が働き、さらに原子の結合距離程度にまで近付けると、パウリ(Pauli)の排他律による斥力が働くことを利用する。
【0009】これらの引力および斥力(原子間力)は非常に小さい。しかし、探針は柔軟なカンチレバーによって支持されているため、探針先端の原子が原子間力を受けると、その大きさに応じてカンチレバーが変位する。そして、探針を試料表面に沿って走査させると、試料表面の凹凸に対応して探針と試料との間の距離が変化するため、カンチレバーが変位するので、このカンチレバーが変位量を検出し、上記圧電体等の微動素子により構成された微動位置調整装置をフィードバック制御してカンチレバーの変位量を一定に保つようにする。
【0010】従って、このときの圧電体への印加電圧は、探針が走査している試料の表面形状に依存する関係があるので、この印加電圧情報より試料表面の凹凸像を得ることができる。
【0011】磁気力顕微鏡は、原子間力顕微鏡と同様に、探針と試料の磁性粒子との間に働く磁力を一定に保ちながら、探針を試料表面に対して走査させることによって、試料表面の凹凸像を得る。
【0012】なお、原子間力顕微鏡または磁気力顕微鏡に用いられるカンチレバーに設けられた探針を導電性物質で構成し、トンネル電流を検出できるようにすれば、走査型トンネル顕微鏡としても利用することができるようになる。そして、原子間力顕微鏡および磁気力顕微鏡においても、探針の試料表面に対する走査は、探針を移動させる方式、試料を移動させる方式のいずれであっても構わない。
【0013】ところで、このような走査型プローブ顕微鏡の測定範囲はせいぜい100μm程度である。そこで、試料上の任意の場所を測定するためには、試料を微小に移動する機構が必要となる。そのための機構が微動位置調整機能付の移動ステージ装置であり、当該装置の一つとして特公平3−208246号公報に示す如き構造のものが知られている。
【0014】この公報に示される構成は、図9に示す如きものであって、(a)はしっかりとした基盤4上に、円筒状の圧電素子3をその軸線を直立させて固定し、圧電素子3上には載物台2を固定して設けた構成としたものである。圧電素子3の周囲にはその周面を4等分割して分けた各領域に電極3a〜3dを形成してあり、4つの電極3a〜3dのうち、対向する一対の電極3a,3b(若しくは3c,3d)には、逆位相となるように図1010(a)に示すような余弦波の単一波形電圧を間欠的に印加する。
【0015】圧電素子3は、このような余弦波の電圧を間欠的に印加されることにより、変形を生じる。すなわち、圧電素子3は、このような余弦波の電圧を対向する二つの電極に逆位相となるように印加されることにより、図10(b)に示すように、その載物台2は衝撃的に駆動される。そして、この衝撃的な変形によるその惰性で載物台2上の試料1は図10(c)のように載物台2上を滑り、微小移動されることになる。
【0016】また、図9の(b)に示す構成は、基盤4上に2つの支持台5a,5bを固定し、これらの支持台5a,5bから載物台2の上面に平行に腕を伸ばすかたちで、それぞれ棒状の圧電素子6a,6bを設ける。圧電素子6a,6bは一方をX軸に沿って、また、他方をY軸に沿ったかたちで、しかも、その軸線の延長線が基盤4上のある点で直交するように配し、その交点位置に載物台2を配する。
【0017】そして、圧電素子6a,6bは載物台2の側面に接続する。
【0018】このような構成として、圧電素子6a,6bに、上述のような余弦波の電圧を間欠的に印加することにより、電圧が印加された圧電素子6a,6bは衝撃的な変形を生じ、載物台2は変位される。そして、図10R>0(b)および(c)に示すように、載物台2上の試料1は微小移動する。
【0019】
【発明が解決しようとする課題】走査型プローブ顕微鏡では、試料を微小に移動する際に高精度かつ高分解能に移動させるようにしたいとの要求がある。その要求に応えるものとして、圧電素子上に載物台を設け、圧電素子の衝撃的駆動により載物台上の試料を滑べらせながら、微小移動させるようにする上述したような移動テーブルが提案されている。
【0020】しかしながら、載物台と試料との間に働く摩擦力は一定したものではないことから、この従来技術における移動テーブルにおいては、載物台を衝撃的に駆動し、その惰性で試料を滑べらせた際に、その載物台と試料との間に働く摩擦力のばらつきによって、一回の衝撃的駆動による試料の移動量が一定にならず、目標の位置に合わせるのは困難であると云う問題点がある。
【0021】そこで、この発明の目的とするところは、高精度にかつ高分解能で試料の微小移動を可能として、容易に目的の領域の試料像の観察を可能にする走査型プローブ顕微鏡の移動ステージ装置を提供することにある。
【0022】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、本発明はつぎのように構成した。すなわち、一端が固定された圧電素子に駆動電圧を与えることにより変形させ、この圧電素子の他端に取り付けられた試料載置用の載物台を変位させるようにした移動ステージにおいて、移動操作を指示する指示手段と、所要の電圧レベルまでは緩やかに変化し、その後、前記載物台上の試料と載物台との摩擦力が無視できる程度に急峻に戻る単発の駆動電圧若しくは、所要の電圧レベルまでは前記載物台上の試料と載物台との摩擦力が無視できる程度に急峻に変化し、その後、緩やかに戻る単発の駆動電圧を上記指示手段の操作期間、所定間隔で発生して上記圧電素子に与える電圧印加手段とを設けて構成した。
【0023】
【作用】このような構成において、圧電素子に駆動電圧を与えることにより変形させ、この圧電素子の他端に取り付けられた試料載置用の載物台を変位させるが、載物台上の試料の観察したい領域が走査型プローブ顕微鏡の探針の走査領域から外れている時は、指示手段により移動操作を指示する。すると、この指示手段の操作期間、電圧印加手段は駆動電圧を所定間隔で発生して圧電素子に与える。
【0024】電圧印加手段から出力される駆動電圧は、所要の電圧レベルまでは緩やかに変化し、その後、前記載物台上の試料と載物台との摩擦力が無視できる程度に急峻に戻る単発の駆動電圧若しくは、所要の電圧レベルまでは前記載物台上の試料と載物台との摩擦力が無視できる程度に急峻に変化し、その後、緩やかに戻る単発の駆動電圧である。
【0025】従って、この電圧印加手段から前記電圧波形を前記圧電素子に印加することによって、前記圧電素子を変形駆動すると、駆動電圧が緩やかに変化する領域では圧電素子は緩やかに移動して載物台上の試料は載物台と一体に移動し、駆動電圧が急峻に変化する領域では載物台も急峻に動くことから、試料は慣性力によって定位置に止まろうとする作用が働き、その結果、載物台上を滑る。その滑る量は本システムの場合、載物台の急峻に変位する量と同じ距離になる。
【0026】つまり、達磨落としのような原理で試料はその場に止まるので、載物台から見た試料の相対位置は載物台の変位量分だけ移動したと同様になる。このように、載物台上の試料の1回あたりの移動量は印加電圧(駆動電圧)の単一波形の急峻な立ち下がり(立上り)による圧電素子の急峻な変形の際の変位量に等しくなるので、印加電圧のレベル対応のものとなり、印加電圧(駆動電圧)のレベルさえ定まればそれに対応した所定の量だけ変位させることができるので、より高精度かつ高分解能な試料の移動が可能になる。
【0027】従って、指示手段により移動操作を指示する期間、所定間隔で所要レベルの駆動電圧を発生させると、載物台上の試料は所要の微小ピッチ刻みで移動される。
【0028】そのため、載物台上の試料の観察したい領域を精度良く、しかも、高分解能で移動させて探針による走査領域内に移動させることができるようになり、目的の領域を測定することが可能になる。
【0029】
【実施例】以下、図面を参照して本発明の実施例を説明する。
【0030】(第1実施例)図1は本発明の第1実施例としての微動位置調整機能付移動ステージ装置の構成例を示すブロック図である。また、図2は本システムに使用する移動テーブル部分の構成を示す斜視図である。
【0031】微動位置調整機能付移動ステージ装置は、試料表面を探針に対して走査させると共に、Z軸方向の変位制御を行うものであるが、本発明による走査型プローブ顕微鏡の微動位置調整装置は、その移動ステージ部分を図2に示すように、圧電材料を円筒形に形成した円筒圧電素子本体30を用い、その内周面全体に内周面電極30aを形成してあり、また、円筒圧電素子本体30の外周面には周面を円筒の軸線方向に沿って四分割したそれぞれの領域に、外周側電極30bを形成した構成としてある。
【0032】内周面電極30aは共通電極であり、この共通電極30aと外周側電極30bとの間に、電圧を印加することにより、円筒圧電素子本体30にはこの印加電圧に応じた変形(歪み)が生じるよう構成されている。なお、円筒圧電素子本体30の下部はしっかりした基盤4に固定されて保持される。また、円筒圧電素子本体30の上端には載物台2を固定して取り付けてある。
【0033】移動ステージ部分を構成する円筒圧電素子本体30の4つの電極30aのうち、対向する一対の電極をそれぞれペアとして一組にはX方向用の、他方の組にはY方向用の駆動電圧を印加することにより、X方向、Y方向に変形させることができる。
【0034】図1は本発明の移動テーブル装置の構成を示すブロック図である。
【0035】図において、101は信号制御装置であり、例えば、マイコン(マイクロコンピュータ)13により構成されている。また、102は指示信号検出装置である。103は位置を指定するための入力装置であり、例えば、X方向、Y方向に自在に操作することのできるスティックを有し、このスティックを操作することにより、X方向、Y方向の操作量対応のアナログ信号を指示値として出力することができるジョイスティック21を用いている。この入力装置103は、そのスティックをX方向、Y方向に倒したときに、その操作量および操作方向対応のアナログ信号(X軸方向信号、Y軸方向信号)を指示値として発生する。
【0036】指示信号検出装置102はX検出A/D(アナログ/ディジタル)変換器11、Y検出A/D変換器12よりなり、X検出A/D変換器11は入力装置103より得られたX軸方向信号をディジタルデータに変換し、Y検出A/D変換器12は入力装置103より得られたY軸方向信号をディジタルデータに変換して信号制御装置101に与えるものである。
【0037】ここで、X軸方向、Y軸方向とは、載物台2の上面を二次元平面として見た場合に、この二次元平面上の直交軸の軸方向を指している。
【0038】信号制御装置101はマイコン13に内蔵されているメモリ上に、テーブル駆動データを保持させたデータテーブルを有している。このデータテーブルには、立上がりが緩やで、立ち下りは急峻とした単一波形を得るためのデータ列を保持させてある。そして、信号制御装置101はデータテーブルから得た波形のデータ列について、上記指示信号検出装置102を介して得た入力装置103の指示値に応じてその波形の振幅を変化させるように処理したデータをX,Y軸の方向別に出力する構成としてある。
【0039】これにより、緩やかな立ち上がりを持ち、立ち下りは急峻となる単一波形に対し、入力装置103の指示値に応じた振幅となるようなレベル値とした波形データをX,Yの方向別に得ることができる。
【0040】104は駆動信号出力装置であり、X駆動D/A(ディジタル/アナログ)変換器14、Y駆動D/A変換器15および+Xアンプ16、−Xアンプ17、+Yアンプ18および−Yアンプ19より構成してある。X駆動D/A変換器14は、信号制御装置101の出力するX軸方向に対する波形データを受けてこれをアナログ信号に変換するものであり、Y駆動D/A変換器15は、信号制御装置101の出力するY軸方向に対する波形データを受けてこれをアナログ信号に変換するものである。
【0041】また、+Xアンプ16は非反転増幅器であり、X駆動D/A変換器14の出力するアナログ信号を増幅して出力するものである。また、−Xアンプ17は反転増幅器であり、X駆動D/A変換器14の出力するアナログ信号を反転増幅して出力するものである。+Yアンプ18は非反転増幅器であり、Y駆動D/A変換器15の出力するアナログ信号を増幅して出力するものである。また、−Yアンプ19は反転増幅器であり、Y駆動D/A変換器15の出力するアナログ信号を反転増幅して出力するものである。
【0042】+Xアンプ16と−Xアンプ17とをペアとし、また、+Yアンプ18と−Yアンプ19とをペアとして移動テーブル105を構成する上記円筒圧電素子本体30の外側の4つの電極30aのうちの、対向する対の電極に対してそれぞれ対応するものを印加して円筒圧電素子本体30の駆動に利用する。
【0043】このような構成の本装置は、入力装置103であるジョイスティック21をX方向、Y方向に所望量倒すと、その倒した量(操作量)および方向(+X方向,+Y方向、−X方向,−Y方向)に対応した信号が出力され、この信号は指示信号検出装置102を構成するX検出A/D変換器11、Y検出A/D変換器12によってその各方向別に入力されて、ディジタルデータに変換される。そして、このディジタルデータはX用、Y用の指示値として信号制御装置101に入力される。
【0044】信号制御装置101では、当該信号制御装置101を構成しているマイコン13が、自己に内蔵されているメモリ上のデータテーブルから読出した単一波形の連続データに対して、X検出A/D変換器11、Y検出A/D変換器12より与えられたX用、Y用の指示値に対応した振幅となるようにデータ処理をしてX用、Y用の駆動信号データを作成する。そして、このX用、Y用の駆動信号データを駆動信号出力装置104に与える。
【0045】駆動信号出力装置104では、X用の駆動信号データについてはX駆動D/A変換器14に、そして、Y用の駆動信号データについてはY駆動D/A変換器15に与え、それぞれディジタルデータからアナログ信号に変換される。そして、X用のアナログ信号はX用の駆動信号として+Xアンプ16および−Xアンプ17に入力され、また、Y用のアナログ信号はY用の駆動信号として+Yアンプ18および−Yアンプ19に入力されてそれぞれ増幅され、上記円筒圧電素子本体30の外側の4つの電極30aのうちの対応するものに与えられる。
【0046】X用およびY用の駆動信号は、それぞれ緩やかな立ち上がり特性で立上がり、その後に急峻な立ち下りを以て零に戻る波形形状の単一波形であり、逆位相の関係にあって、ジョイスティック21のスティック操作量、操作方向対応のレベルに変換されたものが、円筒圧電素子本体30の外側の4つの電極30aの対応するものに印加されるので、円筒圧電素子本体30は上記スティック操作に対応した方向および量だけ、変形する。
【0047】この変形はゆっくりと変位した後に急峻に戻る動作となるので、載物台2上の試料1は、載物台2と一体に移動し、その後、載物台2が戻るときは自己の慣性力により、上記急峻に戻る直前に位置した位置に取り残される。従って、載物台2上の試料1は載物台2上から見て、円筒圧電素子本体30の変形量対応分だけ、位置が移動されることになる。
【0048】詰まり、試料の質量をm、試料と載物台との間に働く摩擦力をFとすると、載物台が加速度aで移動しているとき、試料と載物台との相対的な加速度はa−(F−m)となるので、加速度aがF−mに比較して十分大きいとき、試料と載物台との相対的な加速度は、摩擦力Fの影響をあまり受けず、ほぼ一定となる。従って、加速度Fに対応する試料の変位量もほぼ一定となる。
【0049】好適には加速度aは、F−mの10倍以上あることが望ましい。
【0050】ゆえに、上記スティック操作量および操作方向に対応した方向および量だけ、載物台2上の試料1を移動操作することができることになる。
【0051】図3は図1の装置による試料位置移動調整モードでの駆動方法の実施例をフローチャートに示したものであり、マイコン13に持たせる処理機能である。まず、移動ステージ105上の試料の移動をさせたい時は、マイコン13に試料移動開始命令を与え、試料位置移動調整モードにする。マイコン13では試料移動開始命令(ステップS201)によって、時間tだけ待ってから(ステップS202)、ジョイスティック21が中心位置のままか否かを指示値のデータ値から判断する(ステップS203a)。
【0052】そして、ジョイスティック21が中心位置でないとき、当該ジョイスティック21の指示値に応じた振幅となる緩やかな立ち上がりと急峻な立ち下りを持つ単一波形を出力する(ステップS204、S205)。再び、時間tだけ待って(ステップS202)から、同じループを繰り返す。ジョイスティック21が中心位置に戻ったならば、上述の繰り返しループから抜けて試料移動を終了する(ステップS206)。
【0053】以上が、試料移動調整モードの動作である。
【0054】図4(a)は上記試料移動調整モードでの駆動方法における駆動信号の電圧波形を示したものである。図4(a)に示す駆動信号の電圧波形は、正電圧の緩やかな立上がりを有し、また立下がりは立上り曲線の傾き絶対値の最大よりも傾き絶対値が大きい急峻な立ち下り(負電圧の緩やかな立ち下りと急峻な立ち上がり)を持つ一周期の単一波形の電圧あるいは単一波形の間欠的な連なりの電圧である。
【0055】ジョイスティック21を操作して、そのスティックを試料移動させたい方向に、ある一定角度倒したままにすると、上述した動作によって駆動信号出力装置104からはv1の振幅の単一波形が間欠的に発生する。この振幅v1なる単一波形を円筒圧電素子本体30に印加して載物台2を駆動させると、載物台2は緩やかに移動した後、急峻に元に戻ると云った動作を間欠的に繰り返す。
【0056】図4(b)は上記駆動のときの載物台2と試料1の移動の軌跡を示したものである。図に示すように、載物台2が緩やかに移動する間は、試料1は載物台2と一緒に移動する。そして、急峻な動きで載物台2が元に戻るとき、慣性力によって試料1だけその位置に取り残される。これを繰り返すことによって載物台2上の試料1はd1ステップ単位で載物台2上を移動して行くことになる。このとき、d1=d2となる。ジョイスティック21は所望の方向、所望の量だけ、スティックを倒すことができるので、スティックを所望の方向に所望の量だけ倒してその状態を保つことで、その状態で定まる一定のステップで試料位置を所望の方向に間欠的に移動させてゆくことができるようになる。
【0057】なお、スティックを逆の方向に倒すと、指示値は逆の量となるので、図4(c)に示すように、駆動信号は図4(a)とは極性が逆となるようにしておけば、これによって変位方向は逆になり、従って、図4(d)に示す如く、試料位置を逆の方向に間欠的に移動させてゆくことができる。
【0058】図5の(a),(b),(c)は、上記駆動の時の移動ステージ105の一回の衝撃駆動の様子を横から観察した図である。図5(a)の状態にある載物台2上の試料1は、円筒圧電素子本体30に駆動信号を与えて変形させると、駆動信号は最初は緩やかな変化となるために、この変形は緩やかなものとなり、従って、図5(b)のように試料1は載物台2と一体に移動する。そして、駆動信号の振幅分の変形が成された後、駆動信号が急峻に戻るので円筒圧電素子本体30と載物台2は急峻に元の位置に戻り、このとき載物台2上の試料1は慣性力によって現在の位置に止まるために、載物台2から見ると図5(c)のように、載物台2上が動いた量だけ移動した形となる。
【0059】以上、第1の実施例によれば、圧電素子の変形により載物台を急峻に変位させて載物台上の試料を微小移動させるようにした移動テーブルにおいて、載物台の一回の駆動を、目的の移動位置までは緩やかに変位させ、戻りは急峻に行うようにしたことによって、より高精度かつ高分解能な試料の移動が可能になる。
【0060】なお、本実施例では、入力装置103として、ジョイスティック21を用いるようにして、そのスティック操作により、任意の方向へ任意の距離だけ移動可能な駆動装置を示したが、入力装置103としてはこの他、トラックボール、マウス、キースイッチ、ジョグシャトル等を用いることも可能であることは云うまでもない。
【0061】また、マイコン13にコンピュータを接続して、そのコンピュータを介して、マイコン13に移動目的地データを入力するようにし、この移動目的地データに基づいてマイコン13に本発明の駆動方法を実施させるようにすることによって、目的位置に自動的に試料を移動させるようにすることも容易に実現可能である。
【0062】以上は、一端が固定された圧電素子に駆動電圧を与えることにより変形させ、この圧電素子の他端に取り付けられた試料載置用の載物台を移動させるようにした移動ステージにおいて、移動操作を指示する指示手段(入力装置)と、緩やかな立ち上がりを持ち、この立上りの曲線の傾き絶対値の最大よりも傾き絶対値の大きい急峻な立ち下りを持つ若しくは緩やかな立ち下りと急峻な立ち上がりを持つ一周期の単一波形の電圧あるいは単一波形の間欠的な連なりの電圧を上記指示手段による指示期間中、前記圧電素子に駆動電圧として印加する電圧印加手段とを有し、この電圧印加手段から前記電圧波形を前記圧電素子に印加することによって、前記圧電素子を変形駆動し、前記載物台上の試料を前記電圧波形の急峻な変化の際に、前記圧電素子の変形方向に滑べらせて微小移動させるようにしたものである。すなわち、駆動電圧の前縁を緩やかにし、後縁を急峻にするような波形としたものである。
【0063】しかし、逆に駆動電圧の前縁を急峻にし、後縁を緩やかにした波形とすることでも実施可能である。これをつぎに第2実施例として説明する。
【0064】(第2実施例)図6は、本発明の第2実施例の駆動方法を示す図である。
【0065】図6(a)は、図4で説明したと同様に正電圧方向への緩やかな立上りと急峻な立ち下がりを持つ駆動電圧波形で、円筒圧電素子本体30の4つの外周側電極30bのうち、対向する二つの電極に逆位相となるように印加するものである。そしてこれにより、図4の(b)の場合と全く同様な動作をさせることができるから、試料1は図5に示すように載物台2上を右方向へ移動される。
【0066】一方、図6(b)のように、正電圧方向への急峻な立ち上りと緩やかな立下りを持つ駆動電圧波形を圧電素子本体30の4つの外周側電極30bのうち、対向する二つの電極に逆位相となるように印加して駆動すると、載物台2と試料1の移動の軌跡は図6(c)に示す如きとなり、載物台2上の試料1は図4(b)とは逆方向に移動することになる。
【0067】つまり、圧電素子本体30を図7(a)の状態から図7(b)の状態に急激にd3だけ変形させることで、載物台2上の試料1は自己の慣性力で初めの位置に止め置かれ、載物台2のみがd3だけ移動される。
【0068】そして、つぎの段階では圧電素子本体30がゆっくりと元に戻るので、圧電素子本体30の定位置における載物台2上の試料1は図7(b)の位置関係を保った状態で図7(c)のような状態となる。これにより、載物台2から見た試料1は載物台2上を左方向へ距離d3だけ移動されたことになる。
【0069】ここで、単一波形駆動による載物台2の移動量はd2であることから、d2=d3となるため、印加電圧(駆動電圧)の振幅を制御することで、載物台2上の試料1の移動量が定量化できる。
【0070】また、この実施例の場合、右移動、左移動は駆動電圧の前縁を急峻にしたか、緩やかにしたかの違いのみであることから、片電源すなわち、正負いずれかの極性のみの電源で、波形形状のみを変えて出力させれば、左右両方向に試料を移動させることが可能となる。
【0071】なお、波形のデータは右方向移動用、左方向移動用のものをそれぞれマイコン13のデータテーブルに用意しておき、ジョイスティック21の操作方向に応じてデータを使い分けるようにすれば良いから、基本的には図1のハードウエア構成で第2実施例を実現できる。また、第1の実施例の考え方は第2実施例にもそのまま適用できる。
【0072】以上、第2実施例は、一端が固定された圧電素子に駆動電圧を与えることにより変形させ、この圧電素子の他端に取り付けられた試料載置用の載物台を変位させるようにした移動ステージにおいて、前記圧電素子に印加する前記電圧波形を、前記試料を正方向へ移動させる際には、正電圧の緩やかな立ち上がりと負電圧の急峻な立ち下りを持つ一周期の単一波形の電圧あるいは単一波形の間欠的な連なりとし、逆方向へ移動させる際は、正電圧の急峻な立ち上がりと緩やかな立ち下りを持つ一周期の単一波形の電圧あるいは単一波形の間欠的な連なりとする片電源駆動型の電圧印加手段を用いるようにしたものである。
【0073】そして、圧電素子の急峻な変位により載物台を急峻に移動させて載物台上の試料を微小移動させるようにし、移動した後は緩やかに戻すことで定位置での載物台上での試料位置が目的位置になるようにし、また、試料を逆の方向に移動させる時には最初に、載物台の駆動を、目的の移動位置まで緩やかに変位させ、戻りは急峻に行うようにしたことによって、駆動電圧用の電源を単一極性の電源(正電源または負電源のいずれか)を用意するだけでどの方向に対しても、高精度で高分解能な試料の移動が可能になる。
【0074】(第3実施例)つぎに第3実施例を説明する。図11は本発明における第3実施例としての駆動方法を示す図である。
【0075】図11(b)は図4と同様に、正電圧方向への緩やかな立上がりと、急峻な立ち下がりを持つX方向駆動電圧波形である。このとき、図11(a)に示すように、(b)よりも時間t1だけ、位相の進んだ駆動電圧波形を圧電素子本体30に、Z方向駆動信号として印加すると、試料1の動きは図12に示すようになる。
【0076】まず、図12の(a)の状態から、図12の(b)のように、試料1は載物台2に載った状態で緩やかに動いてゆく。図12の(c)に示すように、圧電素子本体30がZ方向に急に縮んだ瞬間は、試料1は空中に取り残される。つぎの瞬間(時間t1後)に、図12(d)のように、試料1が空中にあるうちに、圧電素子本体30がX方向に急に変化して元の状態に戻る。
【0077】その後、試料1は自由落下して図12(e)のような状態になるため、試料1は載物台2上を右方向に移動したことになる。
【0078】このとき、圧電素子本体30のZ方向への緩やに延ばして急峻に縮めると云う動作を組合わせたことによって、試料1と載物台2の間の摩擦力の影響をさらに軽減できる。図13には第3実施例を達成するための装置構成をブロック図で示しておく。なお、図13において、Z方向急峻駆動用の制御系としてZ駆動D/A201、その出力を増幅してZ駆動信号203を得るZアンプ202を設け、マイコン2より、上述のZ方向制御のための制御データを発生させて、Z駆動D/A201に与える構成とする点、そして、圧電素子本体30にZ駆動信号203を与える構成とした点を除き、図1の構成と基本的に同じである。
【0079】つぎに上記の微動位置調整装置を走査型プローブ顕微鏡に適用する例を示す。
【0080】(走査型プローブ顕微鏡としての応用例)図8は第1および第2実施例で説明した微動位置調整機能付移動ステージ装置を採用した走査型プローブ顕微鏡のブロック図であり、100はホストコンピュータ、13はマイコン、130はA/D変換部、140はZ制御部である。また、150はXY走査部、170はカンチレバーZ変位検出部、180はカンチレバーθ変位検出部、190はカンチレバー、190aは探針、105は移動ステージであって、XYZ軸方向に位置調整できる。2は試料台、1は試料である。
【0081】載物台2は試料1を載置して保持するためのものであり、載物台2は移動ステージを構成する圧電素子本体30上に固定して設けられている。圧電素子本体30は上述したように圧電体を円筒型に形成して構成しており、制御信号(Z制御信号S3、X制御信号S4、Y制御信号S5)に応じて載物台2をX軸、Y軸、Z軸方向に移動できる。これにより、試料1はカンチレバー190の探針190aに対してX軸、Y軸方向に走査され、また、Z軸方向に位置制御される。
【0082】カンチレバー190は、その基端側が定位置に固定されている。そして、カンチレバー190は、その自由端先端側のZ軸方向の変位をカンチレバーZ変位検出部170により、また、自由端先端側の捩じれをカンチレバーθ変位検出部180にて検出される構成となっている。
【0083】カンチレバーZ変位検出部170はZ軸方向変位を検出してその検出量に対応した出力であるZ変位信号S1を発生するものであり、また、カンチレバーθ変位検出部180は捩じれ量を検出してその検出した捩じれ量対応の出力であるθ変位信号S2を発生するものであれば良い。
【0084】マイコン13は本システムの制御の中枢を担うものであり、試料位置移動調整モードと観測モードを設定できる。このモードはホストコンピュータ100から与えることもできるし、また、マイコン13にキースイッチなどの入力装置を設ける等してこれにより設定することができるようにしても良い。
【0085】試料位置移動調整モードでは上述のような作用を実施し、載物台2上の試料1の位置の移動調整を行うことができる。また、試料1の測定時に載物台2をXY走査するために、観測モードではXY走査用の走査駆動信号を発生してXY走査部150に与え、また、載物台2をZ軸方向(圧電素子本体30の軸方向)に制御するためにその制御量を演算してZ制御部140に与えたり、また、制御量に対応したデータを試料表面の凹凸データの情報に変換してホストコンピュータ100に与える機能を有する。
【0086】XY走査部150はマイコン13からの指令によりX制御信号S4、Y制御信号S5を発生させて圧電素子本体30へ与えるものであり、圧電素子本体30はこのX制御信号S4、Y制御信号S5に応じて、X軸方向、Y軸方向に変位するように構成されていて、圧電素子本体30のかかる変位により、通常のXY走査や上述した実施例のような急峻な変位による試料位置の微小移動を行わせることができるようにしてある。従って、XY走査部150は図1における駆動信号出力装置104をそのまま利用できる。
【0087】Z制御部140はカンチレバーZ変位検出部170からのZ変位信号S1やカンチレバーθ変位検出部180からのθ変位信号S2を、それぞれの基準値に保つように動作する制御回路からなり、圧電素子本体30をZ軸方向に伸縮させるZ制御信号S3を出力する。
【0088】A/D変換部130はこのZ制御部140からのZ制御信号S3をA/D変換してディジタルデータ化し、マイコン13に与えるものである。マイコン13にはこのZ制御信号S3のディジタルデータを取り込んで、ホストコンピュータ100へ試料表面の凹凸情報を示す凹凸データとして転送する機能を有する。また、ホストコンピュータ100はこの凹凸データとXY走査の指令情報とをもとに、試料1の表面凹凸を画像形成してディスプレイ装置やプリンタ等の出力装置に出力表示するものである。
【0089】また、102は図1の指示信号検出装置であり、103は図1の入力装置である。
【0090】つぎに上記構成の装置の作用を説明する。試料1を載物台2上にセットしてスタートさせると、マイコン13はXY走査部150を介してX制御信号S4、Y制御信号S5を圧電素子本体30へ出力し、試料1を図13に示したように2次元走査させる。これによって、カンチレバー190の探針190aは、試料1の表面を所定の距離が保持されるように、以下のようなZ軸制御のもとでXY走査されることになる。
【0091】すなわち、試料1の表面に探針190aを近付けて走査することにより、試料1の表面の凹凸に従って探針先端が原子間力あるいは磁気力の影響により吸引あるいは反発されてカンチレバー190が変位する。
【0092】カンチレバーZ変位検出部170はカンチレバー190先端のZ軸方向の変位を検出し、Z変位信号S1を出力する。カンチレバーθ変位検出部180はカンチレバー190先端の捩じれ変位を検出し、θ変位信号S2を出力する。これらZ変位信号S1やθ変位信号S2はZ制御部140に入力され、Z制御部140はこれらのZ変位信号S1やθ変位信号S2に応じて、これらをそれぞれの基準値に保つようなZ軸の変位量を求め、これをZ制御信号S3として出力する。
【0093】このようにして、Z制御部140はZ変位信号S1やθ変位信号S2に応じて、これらをそれぞれの基準値に保つようなZ軸の変位量を得て、Z制御信号S3として出力し、圧電素子本体30に与えるので、圧電素子本体30は探針190aの試料表面に対する距離と、カンチレバー190のθ変位に従って、Z軸方向伸縮制御がなされ、カンチレバー190が捩じれないように試料1と探針190aの先端との間の距離が制御される。
【0094】また、Z制御信号S3はA/D変換部130でA/D変換され、マイコン13に取り込まれる。マイコン13ではこの取り込んだZ制御信号S3のデータを、ホストコンピュータ100へ凹凸デ−タとして転送し、また、XY走査の位置情報を合わせて位置データとしてホストコンピュータ100に送る。ホストコンピュータ100はこれらの情報をもとに、試料1の表面凹凸を画像形成して表示する。
【0095】走査型プローブ顕微鏡の測定範囲はせいぜい100μm程度である。従って、試料1を載物台2上にセットした状態で試料1の観察したい領域が探針による走査領域から外れる場合には、試料位置移動調整モードで位置移動させる必要がある。
【0096】この場合はホストコンピュータ100などから試料位置移動調整モードを設定すると、マイコン13は試料位置移動調整モードになり、ジョイスティック等による入力装置103の手動操作により、第1あるいは第2実施例で説明したような動作がなされて、載物台2上の試料1は走査方向に走査量対応の所定のステップで微小移動される。微小移動を行って目的の領域が探針190aによる走査領域に入ったならば、観察モードに切り替え、圧電素子本体30に対して上述のようなXY走査とZ軸制御を行わせて測定を行う。
【0097】なお、本発明は上述した実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲内で適宜変形して実施し得るものであり、例えば、上述の実施例ではいずれも、円筒型圧電素子を載物台の駆動源に使用した例を示したが、圧電素子はこれに限定されるものではなく、また、図9の(b)に示すような構造のものにも本発明は適用可能である。
【0098】以上、本発明の実施例について述べたが、本発明の微小位置調整機能付の移動ステージ装置は、圧電素子の変形により載物台を急峻に移動させて載物台上の試料を微小移動させるようにした移動テーブルにおいて、圧電素子の駆動電圧を所要レベルまで緩やかに変化した後、急峻に元に戻るパターン若しくはその逆のパターンとし、この駆動電圧により圧電素子を駆動することにより、載物台の一回の駆動を、目的の移動位置までは緩やかに変位させ、戻りは急峻に行う、あるいは目的の移動位置までは急峻に変位させ、戻りは緩やかに変位させるようにしたことによって、上記変位量分、試料を移動できるようにしたので、高精度かつ高分解能な試料の移動が可能になる。
【0099】
【発明の効果】以上、詳述したように、本発明によれば、載物台上の試料位置を高精度かつ高分解能に移動することが可能になる微小位置調整機能付の移動ステージ装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例の全体構成を示すブロック図であって、本発明の移動テーブル装置の構成を示す図。
【図2】本発明の実施例を説明するための図であって、その移動ステージ部分の構成を示す斜視図。
【図3】本発明の実施例を説明するための図であって、マイコン13による制御の過程を説明するためのフローチャート。
【図4】本発明の実施例を説明するための図であって、移動ステージ駆動電圧の波形と、載物台および試料の移動の軌跡を示す図。
【図5】本発明の第1実施例を説明するための図であって、駆動電圧印加による圧電素子の変形の様子と載物台上の試料の移動様子を説明するための図。
【図6】本発明の第2実施例を説明するための図であって、駆動電圧印加による圧電素子の変形の様子と載物台上の試料の移動様子を説明するための図。
【図7】本発明の第2実施例を説明するための図であって、駆動電圧印加による圧電素子の変形の様子と載物台上の試料の移動様子を説明するための図。
【図8】本発明の第2実施例を説明するための図であって、駆動電圧印加による圧電素子の変形の様子と載物台上の試料の移動様子を説明するための図。
【図9】従来技術を説明するための図であって、従来装置としての移動ステージ部分の構成を示す斜視図。
【図10】従来技術を説明するための図であって、図9の装置の駆動状態を説明するための図。
【図11】本発明の第3実施例を説明するための図であって、圧電素子に印加する駆動電圧の例を示す波形図。
【図12】本発明の第3実施例を説明するための図であって、駆動電圧印加による圧電素子の変形の様子と載物台上の試料の移動様子を説明するための図。
【図13】本発明の第3実施例を説明するための図であって、本発明の移動テーブル装置の構成を示すブロック図。
【符号の説明】
1…試料
2…載物台
4…基盤
11…X検出A/D変換器
12…Y検出A/D変換器
13…マイコン(マイクロコンピュータ)
14…X駆動D/A変換器
15…Y駆動D/A変換器
16…+Xアンプ
17…−Xアンプ
18…+Yアンプ
19…−Yアンプ
21…ジョイスティック
30…円筒圧電素子本体
30a…内周面電極
30b…外周側電極
101…信号制御装置
102…指示信号検出装置
103…入力装置
104…駆動信号出力装置
105…移動テーブル
150…XY走査部
190…カンチレバー
190a…探針
【特許請求の範囲】
【請求項1】 一端が固定された圧電素子に駆動電圧を与えることにより変位させ、この圧電素子の他端に取り付けられた試料載置用の載物台を移動させるようにした走査型プローブ顕微鏡の移動ステージ装置において、移動操作を指示する指示手段と、所要の電圧レベルまでは緩やかに変化し、その後、前記載物台上の試料と載物台との摩擦力が無視できる程度に急峻に戻る単発の駆動電圧若しくは、所要の電圧レベルまでは前記載物台上の試料と載物台との摩擦力が無視できる程度に急峻に変化し、その後、緩やかに戻る単発の駆動電圧を上記指示手段の操作期間、所定間隔で発生して上記圧電素子に与える電圧印加手段と、を設けて構成したことを特徴とする走査型プローブ顕微鏡の移動ステージ装置。
【請求項1】 一端が固定された圧電素子に駆動電圧を与えることにより変位させ、この圧電素子の他端に取り付けられた試料載置用の載物台を移動させるようにした走査型プローブ顕微鏡の移動ステージ装置において、移動操作を指示する指示手段と、所要の電圧レベルまでは緩やかに変化し、その後、前記載物台上の試料と載物台との摩擦力が無視できる程度に急峻に戻る単発の駆動電圧若しくは、所要の電圧レベルまでは前記載物台上の試料と載物台との摩擦力が無視できる程度に急峻に変化し、その後、緩やかに戻る単発の駆動電圧を上記指示手段の操作期間、所定間隔で発生して上記圧電素子に与える電圧印加手段と、を設けて構成したことを特徴とする走査型プローブ顕微鏡の移動ステージ装置。
【図1】
【図2】
【図4】
【図5】
【図7】
【図3】
【図6】
【図9】
【図11】
【図8】
【図10】
【図12】
【図13】
【図2】
【図4】
【図5】
【図7】
【図3】
【図6】
【図9】
【図11】
【図8】
【図10】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開平6−288758
【公開日】平成6年(1994)10月18日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−72550
【出願日】平成5年(1993)3月30日
【出願人】(000000376)オリンパス光学工業株式会社 (11,466)
【公開日】平成6年(1994)10月18日
【国際特許分類】
【出願日】平成5年(1993)3月30日
【出願人】(000000376)オリンパス光学工業株式会社 (11,466)
[ Back to top ]