説明

走査型プローブ顕微鏡用のカンチレバーの加振方法ならびにその方法による走査型プローブ顕微鏡

【課題】 振動方式の走査型プローブ顕微鏡において、効率的にカンチレバーを振動させることができる加振機構を備え、変位検出機構のノイズを抑制するとともに、部材の振動ノイズを抑え、分解能の高い測定が可能となるような走査型プローブ顕微鏡用のカンチレバーの加振方法を提供する。
【解決手段】 先端に探針3を有し末端にベース部5を有するカンチレバー4の該ベース部を保持する保持ブロック14を備えたカンチレバーホルダと、前記保持ブロック14を振動させて前記カンチレバー4を加振するための加振機構15とを有する走査型プローブ顕微鏡において、前記保持ブロック14を含む前記カンチレバーホルダの構造体が共振状態の振動モードで振動するときの周波数と、走査型プローブ顕微鏡の測定を行う際のカンチレバー4の動作周波数とを、一致するように調整した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、先端に探針を有するカンチレバーを振動させ、サンプル表面に働く相互作用を検出して距離制御を行いながら、探針とサンプルを相対的にスキャンし、サンプルの表面の形状や物理特性の測定、サンプル表面の加工、あるいは、探針によるサンプル表面の物質の移動などを行うための走査型プローブ顕微鏡用のカンチレバーの加振方法ならびにその方法による走査型プローブ顕微鏡に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図7をもとに従来の振動方式の走査型プローブ顕微鏡の構成を説明する(特許文献1参照)。
【0003】
従来の走査型プローブ顕微鏡は三軸微動機構102の上に液中セル101を載置し、液中セル101の内部に溶液を満たし、サンプル103がセットされている。
【0004】
サンプルに対向する位置には先端に探針を有するカンチレバー106が配置される。
【0005】
カンチレバー106が保持されるカンチレバーホルダは、ベース部104に絶縁体109を介して圧電素子110が固定されて、さらに絶縁体109を介して保持ブロック108が固定されている。保持ブロック108にはカンチレバー106が着脱可能にカンチレバー押え107により固定されている。カンチレバー106と保持ブロック108の一部およびカンチレバー押え107は溶液中に浸かった状態である。
【0006】
カンチレバーホルダ104の上方にはレーザとディテクタより構成される光てこ方式の変位検出機構114が配置されている。また、ベース部104にはカンチレバー106の上方に位置するようにガラス板111が固定されている。このガラス板111を液面に接した状態にすることで、液面の揺れを抑えて前記変位検出機構114のレーザ光が液面で散乱することなく液中と空気中の間で入出射可能となる。
【0007】
以上のように構成された装置を用いた走査型プローブ顕微鏡の測定方法を説明する。加振機構として作用する圧電素子110によりカンチレバー106を1次の共振周波数近傍で加振しながら変位検出機構114によりカンチレバー106の振幅や位相を計測し、カンチレバー106の探針にサンプル103を近接させていく。そうするとサンプル103と探針間には、原子間力などの物理的な力が作用し、さらに近接していくとサンプル103と探針がカンチレバー106の振動に対応して間欠的に接触し、両者に接触力が作用する。この原子間力や接触力により、カンチレバー106の振幅や位相または共振周波数が変化する。これらの変化量は、探針とサンプル間の距離に依存するため、カンチレバーの振幅や位相または共振周波数の変化量が常に一定になるように、探針とサンプル間の距離を三軸微動機構102で制御することで高さ方向の距離制御が行われる。さらに三軸微動機構102によりサンプル101面内で探針3をラスタスキャンすることでサンプル表面の形状像を測定することが出来る。
【0008】
振動方式の原子間力顕微鏡の場合には先に述べた1次の共振周波数近傍で加振を行う方法のほか2次以上の高次の共振周波数近傍で加振を行いながら測定を行う方法もある。高次の振動モードの場合、振動モードごとの特徴を活かした測定に応用されている。例えばカンチレバーの長軸周りにねじり振動をおこなう振動モードの場合には、測定中のサンプルと探針の距離をほぼ一定に保つことが可能という特徴がある。
【0009】
走査型プローブ顕微鏡の測定を行う場合にはサンプルの種類や測定手法、測定したい物理量によりさまざまな形状や特殊機能を付加したカンチレバーが市販されており、最適なものを選択してカンチレバーホルダにセットして使用される。
【0010】
図7で説明した液中で測定を行う場合のほか、空気中や真空中などでも走査型プローブ顕微鏡の測定が行われる。この場合の装置構成や測定方法は図7と概ね同じであるが、空気中測定の場合には図7において液中セル101やガラス板111などは不要となり、真空中測定の場合は装置の少なくともサンプルとカンチレバーが真空チャンバーに配置された構成となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2003−329565号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
このように構成された走査型プローブ顕微鏡においては、カンチレバーホルダの加振機構による加振力が不足して、カンチレバーが十分な振幅量を得られない場合がある。このときには変位検出機構で検出される信号での振幅の検出信号に対するノイズレベルが高くなり測定精度が悪化して分解能が低下してしまう。また、十分な振幅量を得るために、圧電素子への印加電圧を大きくして加振機構の振幅を増やした場合には、カンチレバーホルダや走査型プローブ顕微鏡を構成する部材の振動が大きくなって振動ノイズが大きくなる。
【0013】
特に溶液中で測定を行う場合には、カンチレバーが溶液から受ける粘性抵抗により十分な振幅が得られず、変位検出機構の信号のノイズレベルが非常に高くなってしまう。また、加振機構の振幅を大きくすると振動ノイズが大きくなるとともに、ガラス板や液面も振動してしまい、変位検出機構のレーザスポットが細かく振動しノイズが発生していた。その結果、走査型プローブ顕微鏡の分解能が悪化していた。
【0014】
従って、本発明の目的は、振動方式の走査型プローブ顕微鏡において、カンチレバーが効率的に振動する加振方法により変位検出機構のノイズレベルを抑制するとともに、部材の振動ノイズを抑え、分解能の高い測定が可能な走査型プローブ顕微鏡用のカンチレバーの加振方法ならびにそれを用いた走査型プローブ顕微鏡を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、前記課題を解決するために以下の手段を提供する。
【0016】
本発明のカンチレバーの加振方法では、先端に探針を有し末端にベース部を有するカンチレバーの該ベース部を保持する保持ブロックを備えたカンチレバーホルダと、前記保持ブロックを振動させて前記カンチレバーを加振するための加振機構とを備えた走査型プローブ顕微鏡において、前記保持ブロックを含む前記カンチレバーホルダの構造体が共振状態の振動モードで振動するときの周波数と、走査型プローブ顕微鏡の測定を行う際のカンチレバーの動作周波数とが一致するように調整した。
【0017】
また、本発明では、前記動作周波数により前記カンチレバーの長手方向の軸線が曲げ変形する振動モードで測定を行う場合に、前記保持ブロックを含む前記カンチレバーの構造体の共振状態での振動に係わる動作が、前記カンチレバーが曲げ変形を行う面内で並進動作または曲げ動作を行うようにした。
【0018】
また、前記動作周波数により前記カンチレバーの長手方向の軸線のまわりにねじれモードで振動させて測定を行う場合に、前記保持ブロックを含む前記カンチレバーホルダの構造体の共振状態に係わる動作が、カンチレバーの長手方向の軸線まわりに回転モーメントを与える動作を行うようにした。
【0019】
さらに、本発明のカンチレバーの加振方法では、前記カンチレバーと、前記保持ブロックの一部または全部を液中に浸して測定を行う場合に、前記保持ブロックを含む前記カンチレバーホルダの構造体が液中で共振状態の振動モードで振動するときの周波数と、走査型プローブ顕微鏡の測定を行う際の液中でのカンチレバーの動作周波数とを、一致するように調整した。
【0020】
また、本発明のカンチレバーの加振方法では、前記加振機構が圧電素子を含み、前記圧電素子が前記カンチレバーホルダに取り付けられ、前記保持ブロックを含む前記カンチレバーホルダの構造体が共振状態の振動モードで振動するときの周波数と、走査型プローブ顕微鏡の測定を行う際のカンチレバーの動作周波数とを一致させるための調整を、前記圧電素子及び/又は前記保持ブロックの形状の調整によるものとした。
【0021】
また、本発明は、上記したカンチレバーの加振方法により測定を行う走査型プローブ顕微鏡を提供すると共に、それに備わる前記カンチレバーホルダは、ベース部を有し、前記保持ブロックを含む構造体が前記ベース部から着脱可能な構造とした。
【発明の効果】
【0022】
本発明では、1次または高次の共振スペクトル上でカンチレバーを振動させる振動方式の走査型プローブ顕微鏡用カンチレバーの加振方法において、ホルダを上記のような構造とすることで、走査型プローブ顕微鏡測定時のカンチレバーの動作周波数と、保持ブロックを含むカンチレバーホルダの構造体が共振状態の振動モードで振動するときの周波数を一致させているため効率的に加振を行うことが可能となり、圧電素子を低電圧で駆動してもカンチレバーが大きな変位で振動することができ、変位検出機構の信号のノイズ成分が低下して分解能の高い測定が可能となる。
【0023】
また、カンチレバーの振動モードの変位の方向と、保持ブロックを含む前記カンチレバーホルダの構造体の振動モードの変位の方向を概ね一致させて加振を行うようにしたため、さらに加振効率が向上する。この場合、カンチレバーの動作時の振動モードに寄与する方向へ以外への保持ブロックを含むカンチレバーホルダの構造体の変形量が少なくなるので、カンチレバーホルダや走査型プローブ顕微鏡を構成する部材に不要な方向への振動が伝搬することが防止されて、振動に起因するノイズ成分が減少する。また、低振幅でカンチレバーを加振する場合にも、変位検出機構のノイズレベルが小さくなり振動の影響も受けず、精度のよい測定が可能となる。
【0024】
また、粘性抵抗によりカンチレバーの振幅が得づらい溶液中でも、十分な振幅量を得ることが可能となる。
【0025】
さらに、保持ブロックを含む部材を交換可能とすることで、カンチレバーの種類にあわせて最適な振動モードで動作する保持ブロックを含む部材に交換することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の第一実施形態に係る大気中での測定に用いられる走査型プローブ顕微鏡の概観図である。
【図2】本発明の第一実施形態に係る走査型プローブ顕微鏡のカンチレバーホルダとカンチレバーの動作状態を示す概観図である。
【図3】本発明の第二実施形態に係る走査型プローブ顕微鏡のカンチレバーホルダとカンチレバーの動作状態を示す概観図である。
【図4】本発明の第三実施形態に係る走査型プローブ顕微鏡のカンチレバーホルダとカンチレバーの動作状態を示す概観図である。
【図5】本発明の第四実施形態に係る走査型プローブ顕微鏡のカンチレバーホルダとカンチレバーの動作状態を示す概観図である。
【図6】本発明の第五実施形態に係る溶液中での測定に用いられる走査型プローブ顕微鏡の概観図である。
【図7】従来の走査型プローブ顕微鏡用カンチレバーホルダの概観図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照して詳細に説明する。
(第一実施形態)
図1は本発明の第一実施形態に係る大気中での測定に用いられる振動方式の走査型プローブ顕微鏡の概観図である。
【0028】
図1に示した走査型プローブ顕微鏡1では、カンチレバー4の先端に探針3を有し末端にベース部5を有するシリコン製のカンチレバー2と、カンチレバー2のベース部5を保持しカンチレバー2を加振するために用いられるカンチレバーホルダ6と、カンチレバー4の変位を検出するための変位検出機構7と、サンプル8を微動させる三軸微動機構9と、三軸微動機構9に固定されサンプル8が載置されるサンプルステージ10と、三軸微動機構が搭載される粗動機構11と筐体12から走査型プローブ顕微鏡1が構成される。
【0029】
カンチレバーホルダ6は、先端にカンチレバーのベース部5を載せるための傾斜した平面部13を有する保持ブロック14の末端が、加振機構として作用する平板形状の圧電素子15に接着固定されており、圧電素子15の保持ブロック14の接着面とは反対側の面が基板16に接着固定されている。この基板16はカンチレバーホルダ6のベース部17に脱着可能にネジ固定されている。保持ブロック14にはカンチレバーのベース部5を固定するために板バネ18が取り付けられており、板バネ18と保持ブロックの平面部13の間にカンチレバーのベース部5を挿入することでカンチレバー2が交換可能に装着される。カンチレバーホルダ6のベース部17は走査型プローブ顕微鏡の筐体12に脱着可能に固定される。
【0030】
変位検出機構7は 半導体レーザ19と表面が4分割されたフォトディテクタ21とビームスプリッタ20から構成され、一般に光てこ法と呼ばれる方式でカンチレバー4の変位検出が行われる。まず、半導体レーザ19の光を集光し、ビームスプリッタ20で光路を曲げてカンチレバー4の背面に直上から照射する。カンチレバー4の背面は入射光23に直交する面に対して10°傾斜しているので、背面で反射した光は、入射光に対して20°の角度で反射しフォトディテクタ21の検出面に入射する。カンチレバー4の長手方向の軸線に撓みが生じた場合にはフォトディテクタ21面内でスポットが上下に移動する。このとき分割されたフォトディテクタ21の検出面の信号強度差を検出することでカンチレバー4の変位の検出が行われる。また、カンチレバー4の長手方向の軸線周りのねじれ角の検出を行う場合にはフォトディテクタ21上で、撓みを検出する方向と直交する方向にスポットが移動し、このとき分割された検出面の信号強度差を検出することでねじれ角の検出が行われる。変位検出機構7を構成するこれらの部材は変位検出機構の筐体22内に配置されて、走査型プローブ顕微鏡の筐体12上に設置される。
【0031】
三軸微動機構9は円筒型の圧電素子により構成される。円筒型圧電素子9の末端は固定され、先端にはサンプル8を載置するためのサンプルホルダ10が取り付けられている。円筒型圧電素子9には円筒の中心軸に平行な方向に伸縮動作を行うことで垂直方向微動機構24として作用する電極部分と、固定端を中心に先端のサンプルステージを円弧運動させることでサンプルをサンプル面内で移動させる水平方向微動機構25として作用する電極部分が設けられている。この三軸微動機構9は粗動機構11に取り付けられている。
【0032】
次に、第一実施形態での測定方法を図1と図2により説明する。図2はカンチレバーホルダ6の圧電素子15により加振を行った場合の圧電素子15と保持ブロック14からなる構造体とカンチレバー4の振動モードを示す概観図である。保持ブロックに取り付けられた板バネ18の図面への記載は省略している。
【0033】
本実施形態では、カンチレバー4を1次の共振周波数の近傍で振動させる。このときの動作周波数はカンチレバー4の振幅の周波数特性を測定した際に1次の共振周波数をピークとして測定される共振スペクトルの山型波形のピークからベースラインまでの間の任意の周波数である。このときのカンチレバー4の振動モードは図2に示すようにカンチレバー4の長手方向の軸線が曲げ変形し、探針3の先端がサンプル8に対して垂直方向に上下する振動モードである(図2の探針3左側に示した矢印の方向)。
【0034】
このような状態で、サンプル8を探針3に粗動機構11により測定領域まで近付けて行くと、原子間力や間欠的な接触力によりカンチレバー4の振幅が変化する。この振幅変化量は探針3とサンプル8との距離に依存するため、このときの振幅の変化量があらかじめ設定した値となるように垂直方向微動機構24でサーボ動作させることで、探針3とサンプル8間の距離を一定に保つことができる。この状態で、水平方向微動機構25によりサンプル8をラスタスキャンし、三軸微動機構9に印加される垂直方向微動機構24の印加電圧と水平方向移動機構25の印加電圧に較正値を乗じて画像化することでサンプル8の凹凸形状を測定することができる。
【0035】
カンチレバー4を振動させる場合には、圧電素子15にカンチレバー4の動作周波数と同じ周波数の交流電圧を印加して保持ブロック14を振動させて、保持ブロック14上に板バネ18で固定されたカンチレバーのベース部5を加振する。
【0036】
本実施形態では圧電素子15と保持ブロック14からなるカンチレバーホルダ6の構造体が、図2の2点破線で示すように圧電素子15の固定面に対して垂直方向に保持ブロック14の先端部が並進動作する振動モードで共振するようにした(図2の保持ブロック14上の矢印の方向)。この振動モードでの加振周波数は、カンチレバー4の1次の共振スペクトル上に設定された動作周波数と一致するようにした。
【0037】
すなわち、カンチレバー4の長手方向の軸線が曲げ変形を行う面内で圧電素子15と保持ブロック14からなる構造体が伸縮動作を行っており、圧電素子15と保持ブロック14からなる構造体の振幅の周波数特性を測定したときに、伸縮動作の振動モードで動作する共振周波数をピークとする共振スペクトルの山型波形のピークからベースラインまでの間の任意の周波数が、カンチレバー4の1次の共振スペクトル上の動作周波数と一致するようにした。
【0038】
このとき圧電素子15と保持ブロック14からなる構造体の共振周波数と振動モードは、圧電素子15や保持ブロック14の形状や材料、圧電素子15の電極パターンやポーリングの向き、各部品同士の固定方法、部材周囲の環境(大気中、液中、真空中)などによって決まってくる。
【0039】
本実施形態では、圧電素子15の材質と形状を決め、厚み方向にポーリングを行い、厚み方向で互いに対向する両面に電極を配置して、圧電素子15に保持ブロック14の形状と材料密度から決まる負荷質量を想定したモデルのもとで、圧電素子15を厚み方向に共振させることで、保持ブロック14と圧電素子15からなる構造体を伸縮動作の振動モードで共振させるようにした。
【0040】
このように保持ブロック14の先端を伸縮モードで共振させると、圧電素子15を低電圧で駆動しても、カンチレバー4に曲げ変形を与える方向にカンチレバーのベース部5を大きな変位で並進運動させることができ、カンチレバー4を効率的に加振させることが可能となる。その結果、変位検出機構7の信号のノイズ成分が低下して分解能の高い測定が可能となる。
【0041】
また、カンチレバー4の動作時の振動モードに寄与する方向へ以外への圧電素子15と保持ブロック14からなる構造体の変形量が少なくなるので、カンチレバーホルダ6や走査型プローブ顕微鏡1を構成する部材に不要な方向への振動が伝搬することが防止されて、振動に起因するノイズ成分が減少する。また、高分解能測定を行う場合などに低振幅でカンチレバー4を加振する場合にも、変位検出機構6のノイズレベルや振動の影響が小さくなり、精度のよい測定が可能となる。
【0042】
また、本実施形態では圧電素子15と保持ブロック14からなる構造体を基板16に固定し、基板16をカンチレバーホルダ6のベース部17に着脱可能とした。走査型プローブ顕微鏡では測定の目的に合わせて、通常、1次の共振周波数が概ね数kHzから1MHz程度のカンチレバーが選択して使用される。また、1次以外の高次の振動モードでも使用される場合がある。そのため、カンチレバー4の動作周波数や振動モードに合わせて圧電素子15と保持ブロック14の形状や材質、圧電素子15の電極パターンやポーリングの向きを適宜変更し、使用するカンチレバーごとに最適な共振周波数と振動モードを有する圧電素子15と保持ブロック14の組合せを基板16ごと交換することで、カンチレバー種類ごとの動作時の振動モードに対応させることが可能となる。
【0043】
(第二実施形態)
図3は第一実施形態と同じくカンチレバー2を1次の共振周波数近傍で加振させながら測定を行う場合の圧電素子15と保持ブロック14からなる構造体とカンチレバー4の振動モードを示す概観図である。走査型プローブ顕微鏡の本体の構造や測定原理は第一実施形態と同じであるため詳細な説明は省略する。
【0044】
本実施形態では圧電素子15と保持ブロック14からなる構造体を共振させたときに、図3の2点破線で示したように、圧電素子15が基板16へ接着された部分を固定端として保持ブロック14の先端がカンチレバー4の長手方向の軸線と保持ブロック14の長手方向(圧電素子15の厚み方向)を含む面内で曲げ変形を行う振動モード(図3の保持ブロック14上に示した矢印の方向)で振動するようにした。このとき圧電素子15に印加する交流電圧の周波数が、カンチレバー4の長手方向の軸線が曲げ振動を行う1次の共振スペクトル上の動作周波数と一致するようにした。
【0045】
本実施形態では圧電素子15を厚み方向にポーリングして、厚み方向に対向する2面に電極を設けて電圧を印加し、保持ブロック14自体が曲げ変形で共振するように圧電素子15と保持ブロック14の形状を設計した。
【0046】
このように保持ブロック14を曲げモードで共振させて先端を円弧運動させると、カンチレバー4の長手方向の軸線に曲げ変形を与える方向に大きな回転モーメントを与えることができ、カンチレバー4を効率的に加振させることが可能となり、第一実施形態と同様の効果が得られる。
【0047】
(第三実施形態)
図4はカンチレバー4をねじれモードで振動させながら走査型プローブ顕微鏡の測定を行う場合の圧電素子15と保持ブロック14からなる構造体とカンチレバー4の振動モードを示す概観図である。図4は図1において、保持ブロック14に搭載されたカンチレバー4を長手方向の軸線と直交する探針3の正面側からみた図面である。走査型プローブ顕微鏡の本体の構造は第一実施形態と同じであるため詳細な説明は省略する。
【0048】
本実施形態では、圧電素子15と保持ブロック14からなる構造体が共振状態の場合に、図4の2点破線で示したように、圧電素子15が基板16へ接着された部分を固定端として保持ブロック14の先端がカンチレバー4の長手方向の軸線と探針3の先端を含む面に直交する面内で曲げ変形を行う振動モードで振動するようにした(図4の保持ブロック14上に示した矢印の方向)。このとき圧電素子15に印加する交流電圧の周波数が、カンチレバー4が長手方向の軸線まわりにねじれモードで振動するような共振スペクトル上での動作周波数と一致するようにした。
【0049】
本実施形態では圧電素子15を厚み方向にポーリングして、厚み方向に対向する2面に電極を設けて電圧を印加し、保持ブロック14自体が曲げ変形で共振するように圧電素子15と保持ブロック14の形状を設計した。
【0050】
このように保持ブロック14を曲げモードで共振させて先端を円弧運動させると、カンチレバー4にねじり振動を与える方向に大きな回転モーメントを与えることができ、カンチレバーを効率的に加振させることが可能となる。
【0051】
このようにカンチレバー4がねじれモードで振動するような周波数で加振させながらサンプルと探針を近づけて行くと探針とサンプル間の距離に応じてねじれ量が変化する。あらかじめ設定されたねじれ量になるように垂直方向微動機構24で距離制御することで、探針3とサンプル8間の距離を一定に制御することが可能となる。
【0052】
(第四実施形態)
図5に本発明の第四実施形態の走査型プローブ顕微鏡のカンチレバーホルダの圧電素子30と保持ブロック31からなる構造体の概観図を示す。この実施形態もカンチレバー4を1次の共振周波数近傍で曲げ変形を行う振動モードで加振させながら測定が行われる。
【0053】
本実施形態では、平板状の圧電素子30を基板34に固定し、平板状の保持ブロック31の末端を接着し先端にカンチレバーのベース部5を保持する平面部33を設け、カンチレバーのベース部5を平面部33に載せて板バネ32で押えた構成である。
【0054】
本実施形態では図5の2点破線で示したように、保持ブロック31が圧電素子30への接着部分を固定端として、カンチレバー4が長手方向の軸線に曲げ変形を行う面内で、共振動作時に曲げ変形を行う振動モードで振動するようにした(図5の保持ブロック31上に記載した矢印の向き)。このときの圧電素子30に印加される周波数が、カンチレバー4の1次の共振スペクトル上の動作周波数と一致するようにした。
【0055】
本実施形態の場合にもカンチレバー4を曲げ変形させる方向に回転モーメントを与えることができ、カンチレバー4を効率的に加振させることが可能となる。
【0056】
(第五実施形態)
図6は本発明の第五実施形態の液中で測定を行うための走査型プローブ顕微鏡の概観図である。本実施形態で図1に示した部分と同じ部分は同一の符号を付け詳細な説明は省略する。
【0057】
本実施形態ではカンチレバーホルダ40のベース部40に平面部を有する突起43が設けられたガラス板42が取り付けられている。ガラス板42には加振機構として作用する圧電素子15が接着固定されており圧電素子15にはカンチレバーのベース部5を載せる傾斜平面部13が設けられた保持ブロック14が固定されている。カンチレバー2はベース部5が保持ブロック14の傾斜平面部13に載せられて板バネ18により交換可能に取り付けられている。
【0058】
一方、三軸微動機構上9のサンプルホルダ10には液中セル44が載せられており、液中セル44の底面部にサンプル8を固定し液中セル44内部に溶液45を入れることでサンプル8が溶液に浸された状態である。探針3とサンプル8を近付けていくと、液面がガラス板42の突起部43の平面と接する。このときカンチレバー2と保持ブロック14の先端部の一部も溶液内部に浸される。カンチレバーホルダ40の上部に配置された変位検出機構7からのレーザ光23はガラス板42を通り溶液45内部に進入してカンチレバー4の背面で反射し再び溶液45からガラス板42を通り大気中に配置されたフォトディテクタ21に到達しカンチレバー4のたわみ量やねじれ量の検出が行われる。
【0059】
溶液中に浸した状態で、圧電素子15で保持ブロック14を加振した場合の共振周波数は大気中で加振したときに比べて、低周波数側にシフトする。またカンチレバーの共振周波数も低周波側にシフトする。本実施形態では、図2〜図4に示した場合と同様に保持ブロック14と圧電素子15からなる構造体が共振動作を行う場合に、伸縮動作または曲げ動作の振動モードで振動させて、カンチレバー4を長手方向の軸線を曲げ変形させるか、軸線まわりにねじれ運動の共振モードで動作させるようにした。このとき保持ブロック14と圧電素子15からなる構造体がよう液中において、カンチレバーの溶液中での動作周波数と同じ周波数で、共振状態となるように形状を変更した。
【0060】
また、ガラス板42をカンチレバーホルダ40のベース部41から脱着可能としカンチレバー2の種類に合わせて最適な保持ブロック14と圧電素子15の組合せを選択可能にした。
【0061】
このように構成することで溶液中においてもカンチレバー4を効率よく加振することが可能となる。
【0062】
以上本発明の実施形態を述べたが、本発明はこれに限定するものではない。
【0063】
カンチレバーの振動モードは上記の1次の曲げ振動やねじれ振動に限定されず任意の共振モードが適用できる。
【0064】
また、通常カンチレバーは、共振周波数近傍で加振されるが、カンチレバーを非共振状態で加振する場合でも、カンチレバーの動作周波数と、共振状態の振動モードで振動するときの保持ブロックを含むカンチレバーホルダの構造体の周波数とが、一致していれば本発明に含まれる。
【0065】
また、上記実施形態では振幅の変化量をパラメータとして距離制御を行うようにしたが加振を行う交流信号と変位検出機構で検出されるカンチレバーの振動の位相差や、共振周波数の変化により距離制御を行ってもよい。
【0066】
測定環境も大気や溶液に限定されず真空中などにも適用できる。
【0067】
上記実施形態ではサンプル側に三軸微動機構を取り付けたがカンチレバー側に取り付けてもよいし、サンプルとカンチレバー側に分割して取り付けてもよい。
【0068】
また変位検出機構は光てこ方式に限定されず、例えばカンチレバーに抵抗体を設けて抵抗値で検出する方式でもよい。
【0069】
加振機構に用いられるアクチュエータも保持ブロックを含む構造体が共振状態の振動モードで振動すれば、圧電素子以外にも任意のものが使用でき、例えば磁気力、電磁力、光、熱などをエネルギ源とする加振機構も利用できる。
【0070】
保持ブロックと圧電素子などの加振機構は必ずしも直接接着させる必要はなく、両者を離して取り付けてもよい。また加振機構をカンチレバーホルダの外部に設けて保持ブロックを振動させるようにしてもよい。
【0071】
また、本発明はサンプルの凹凸を測定する原子間力顕微鏡に限定されず、電気特性や磁気特性、光学特性、機械的特性などを測定するさまざまな振動方式を使用した走査型プローブ顕微鏡に適用することができる。
【符号の説明】
【0072】
1 走査型プローブ顕微鏡
2 カンチレバー
3 探針
4 カンチレバー
5 カンチレバーのベース部
6、40 カンチレバーホルダ
7 変位検出機構
8 サンプル
9 三軸微動機構
10 サンプルホルダ
11 粗動機構
12 筐体
14、31 保持ブロック
15、30 圧電素子(加振機構)
16、34 基板
17、41 カンチレバーホルダのベース部
18、32 板バネ
19 半導体レーザ
20 ビームスプリッタ
21 フォトディテクタ
24 垂直方向微動機構
25 水平方向微動機構
42 ガラス板
44 液中セル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端に探針を有し末端にベース部を有するカンチレバーの該ベース部を保持する保持ブロックを備えたカンチレバーホルダと、前記保持ブロックを振動させて前記カンチレバーを加振するための加振機構とを備えた走査型プローブ顕微鏡において、
前記保持ブロックを含む前記カンチレバーホルダの構造体が共振状態の振動モードで振動するときの周波数と、
走査型プローブ顕微鏡の測定を行う際のカンチレバーの動作周波数とを、一致するように調整したことを特徴とする走査型プローブ顕微鏡用のカンチレバーの加振方法。
【請求項2】
前記動作周波数により前記カンチレバーの長手方向の軸線が曲げ変形する振動モードで測定を行う場合に、前記保持ブロックを含む前記カンチレバーの構造体の共振状態での振動に係わる動作が、前記カンチレバーが曲げ変形を行う面内で並進動作または曲げ動作である請求項1に記載の走査型プローブ顕微鏡用のカンチレバーの加振方法。
【請求項3】
前記動作周波数により前記カンチレバーの長手方向の軸線のまわりにねじれモードで振動させて測定を行う場合に、前記保持ブロックを含む前記カンチレバーホルダの構造体の共振状態の振動に係わる動作が、カンチレバーの長手方向の軸線まわりに回転モーメントを与える動作である請求項1に記載の走査型プローブ顕微鏡用のカンチレバーの加振方法。
【請求項4】
前記カンチレバーと、前記保持ブロックの一部または全部を液中に浸して測定を行う場合に、前記保持ブロックを含む前記カンチレバーホルダの構造体が液中で共振状態の振動モードで振動するときの周波数と、
走査型プローブ顕微鏡の測定を行う際の液中でのカンチレバーの動作周波数とを、一致するように調整した請求項1乃至3に記載の走査型プローブ顕微鏡用のカンチレバーの加振方法。
【請求項5】
請求項1乃至4に記載の走査型プローブ顕微鏡用のカンチレバーの加振方法において、
前記加振機構が圧電素子を含み、前記圧電素子が前記カンチレバーホルダに取り付けられ、前記保持ブロックを含む前記カンチレバーホルダの構造体が共振状態の振動モードで振動するときの周波数と、走査型プローブ顕微鏡の測定を行う際のカンチレバーの動作周波数とを一致させるための調整が、前記圧電素子及び/又は前記保持ブロックの形状の調整による走査型プローブ顕微鏡用のカンチレバーの加振方法。
【請求項6】
請求項1乃至5に記載のカンチレバーの加振方法を利用した走査型プローブ顕微鏡。
【請求項7】
請求項6に記載の走査型プローブ顕微鏡において、
前記カンチレバーホルダが、ベース部を有しており、前記保持ブロックを含む構造体が前記ベース部から着脱可能な構造とした走査型プローブ顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−190858(P2010−190858A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−38151(P2009−38151)
【出願日】平成21年2月20日(2009.2.20)
【出願人】(503460323)エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社 (330)