説明

走査型透過電子顕微鏡の収差補正装置及び収差補正方法

【課題】デフォーカス及び非点収差を観察中に補正可能で、且つ原子分解能が得られる走査型透過電子顕微鏡の収差補正装置及び収差補正方法を提供する。
【解決手段】走査型透過電子顕微鏡に備えられた複数の電子光学系のうち少なくとも1つの設定値を変えることによって得られる、少なくとも2枚の画像のそれぞれに対する自己相関関数を算出する自己相関関数算出手段40と、各前記自己相関関数の等強度線に収差関数をフィッティングし、得られた各前記収差関数に基づいて収差係数を算出する収差係数算出手段41と、前記収差係数に基づいて前記電子光学系へのフィードバック制御を行うフィードバック制御手段42と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は走査型透過電子顕微鏡に用いられる収差補正装置及び収差補正方法に関し、特に自己相関関数を用いた収差補正装置及び収差補正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
走査型透過電子顕微鏡(STEM)の高分解能化を図るには電子光学系により生じる収差の補正が非常に重要である。この収差補正方法は様々あるが、その中で画像を用いた収差補正方法が特許文献1に開示されている。
【0003】
同文献による収差補正方法は下記の通りである。
【0004】
まず、ジャストフォーカス時の画像Aと、アンダーフォーカス時の画像Bと、オーバーフォーカス時の画像Cとを取得する。次に各画像A、B、Cに対してフーリエ変換を行い、それぞれの空間周波数分布A´、B´、C´を得る。更に、空間周波数分布B´、C´のそれぞれを空間周波数分布A´で除して、これらをフーリエ逆変換する。
【0005】
このように画像を処理することで画像に含まれていた観察試料に関する空間周波数の情報が除かれ、プローブである電子線に対する収差情報のみが抽出される。従って、この収差情報に基づいて収差補正器や偏向器を操作することで収差が補正される。
【特許文献1】特開2002−75262号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
走査型透過電子顕微鏡(STEM)を用いた観察において、従来の収差補正方法はロンチグラム(Ronchigram)を用いる等、STEM像を取得している状態では収差補正を行うことが出来ない。特に、原子像を撮像するような高分解能観察や、エネルギー分散型X線分光(EDS)、電子エネルギー損失分光(EELS)を用いた二次元マッピングの場合、そのデータ取得に長時間を要する場合が多く、この時間内にデフォーカスや二回非点収差が変化してしまう。この場合、観察の中断を要する従来の収差補正方法は適用できないので、取得したデータの空間分解能の劣化は不可避となる。
【0007】
そこで、本発明はデフォーカス及び非点収差を観察中に補正可能で、且つ原子分解能が得られる走査型透過電子顕微鏡の収差補正装置及び収差補正方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、本発明の第1態様に係る収差補正器を含む複数の電子光学系を備える走査型透過電子顕微鏡の収差補正装置は、フォーカスを変えることによって少なくとも2枚の画像のそれぞれに対する自己相関関数を算出する自己相関関数算出手段と、各前記自己相関関数の等強度線に収差関数をフィッティングし、得られた各前記収差関数に基づいて収差係数を算出する収差係数算出手段と、前記収差係数に基づいて前記電子光学系へのフィードバック制御を行うフィードバック制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0009】
なお、上記収差係数はデフォーカス及び二回非点収差を表す係数であっても良い。
【0010】
また、上記フィードバック制御手段は前記電子光学系に含まれる対物レンズ、又は/及び収差補正器を制御するものであっても良い。
【0011】
さらに本発明の第2態様に係る収差補正方法は、収差補正器を含む複数の電子光学系を有する走査型透過電子顕微鏡において、フォーカスを変えることによって少なくとも2枚の画像を取得し、前記画像のそれぞれに対する自己相関関数を算出し、各前記自己相関関数の等強度線に収差関数をフィッティングし、得られた各前記収差関数に基づいて収差係数を算出し、前記収差係数に基づいて前記複数の電子光学系へのフィードバック制御を行うことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の第3態様に係る収差補正方法は、収差補正器を含む複数の電子光学系を有する走査型透過電子顕微鏡の収差補正方法において、入射電子線を傾斜したことに相当する、異なる角度領域の設定によって少なくとも2枚の画像を取得し、前記画像のそれぞれに対する自己相関関数を算出し、各前記自己相関関数の等強度線に収差関数をフィッティングし、得られた各前記収差関数に基づいて収差係数を算出し、前記収差係数に基づいて前記複数の電子光学系へのフィードバック制御を行うことを特徴とする。
【0013】
なお、何れの収差補正方法においても、前記収差係数はデフォーカス及び二回非点収差を表す係数であっても良い。
【発明の効果】
【0014】
本発明の走査型透過電子顕微鏡の収差補正装置及び収差補正方法では、観察中にデフォーカス及び非点収差等の収差を補正できる。
【0015】
従って、所望の観察領域の逸脱が深刻な問題となる高分解能観察において、当該観察領域を逃がすこと無く、収差補正を行うことができる。
【0016】
また、収差計算結果が直ちに得られるため、その場で自動的に収差補正を行う制御も可能となり、長時間の溜め込みが必要となるEDSやEELS観察においても空間分解能が劣化することなく質のよいデータが得られることになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明に係る収差補正装置及び収差補正方法の一実施形態について、図面を用いて説明する。本実施形態では走査型透過電子顕微鏡(以下、STEM)を用いる。図1は本実施形態に係るSTEMの収差補正装置の構成図である。
【0018】
制御装置1は本発明に係る収差補正装置を構成するものであり、通常の観察を行うための制御を兼ねている。制御装置1はコンピュータを構成するCPU(中央演算処理装置)11と、メモリやハードディスク等の記憶手段12とを備え、そのインターフェースであるマウスやキーボード等の入力部13と、および表示部14、さらに電源制御部15と、画像処理部16と、画像処理部16からの画像データに基づいてSTEM2の収差を補正する収差補正処理部17とを備える。これらはバスにより相互に接続され、様々なデータ及び制御命令等を入出力する。
【0019】
CPU11が実行するプログラムに基づき、電源制御部15はSTEM2の電子光学系、即ち、電子レンズ、偏向器、収差補正器や、試料ステージ等に接続される各電源を電気的に制御する。電子光学系の設定には、実行するプログラムに基づいて記憶手段に予め記憶された値や、入力部13からの入力値を用いる。
【0020】
画像処理部16は、試料30の観察時において、STEM2に設けられた検出器29から出力された検出信号を画像データに変換する。変換された画像データは記憶手段12に記憶され、また表示部において顕微像として画像表示される。また、この画像データは後述する収差補正処理に用いられる。
【0021】
一方、STEM2は、電子銃22、収差補正器23、偏向器24と、対物レンズ25と、試料ステージ26と、中間レンズ27と、投影レンズ28と、検出器29とを備え、これらは光軸20に沿って設けられる。電子銃22と対物レンズ25との間には電子線を集束させるための集束レンズ(図示せず)が設けられている。
【0022】
STEM2は、更に電源部31を備える。電源部31は各レンズ、収差補正器、偏向器等に電流又は電圧を印加する複数の電源(図示せず)を有する。各電流値、電圧値は電源制御部15から出力される設定値に基づいて決定される。
【0023】
電子銃22から出射した電子線21は加速された後、集束レンズ(図示せず)によって集束され、対物レンズ25によって更に集束されて試料31に照射される。電子線21は集束レンズ、対物レンズ25によって直径が数nmになるように集束されるが、このとき非点収差が生じる。この非点収差は収差補正器23によって補正され、所望の非常に細い電子線が得られる。なお、収差補正器23は電場或いは磁場、又はこれらの重畳場を生じる多極子で構成される。
【0024】
電子線21は上記集束レンズによって集束されつつ、偏向器24によって偏向されて試料31上で走査される。更に試料31を透過・散乱した電子線21は中間レンズ29及び投影レンズ30によって検出器29に拡大投影される。
【0025】
検出器29は試料31によって透過・散乱した電子を検出し、制御装置1の画像処理部16に検出信号を出力する。この検出信号は制御装置1内で処理され、上述の通り、画像データとして記憶手段12に記憶され、また顕微像として表示部14に画像表示される。一般にSTEMの場合、検出器29は光軸20を中心とする円盤状の検出器と環状の検出器に分割されており、前者の検出器から得られる検出信号は明視野像を形成し、後者の検出器から得られる検出信号は暗視野像を形成する。
【0026】
形成した像の空間分解能は試料30に照射する電子線21の直径、形状、入射角などに強く依存する。従って、電子光学系への不適切な設定によって生じるデフォーカス(フォーカスずれ)や非点収差の補正が重要になる。
【0027】
本発明に係る収差補正の原理について、図2〜図7を用いて説明する。この説明では本発明の一実施形態を示す例として暗視野像を用いた収差補正について述べる。ただし、本発明の収差補正では像を形成する電子線のコヒーレンスは問わないため、明視野像を用いてもよい。いずれの像においても自己相関関数(後述)における等強度線を得ることで収差補正は可能である。
【0028】
一般的にSTEMによる暗視野像Iは、試料31の試料関数Sと、電子線(以下プローブとも称する)21の試料上の強度分布を表すプローブ関数Pとのコンボリューション(畳み込み)であり、畳み込み演算子を*として
【数1】

【0029】
で表される。従って、暗視野像Iの自己相関関数Racは、
【数2】

【0030】
と表される。ここで、F及びF−1はそれぞれフーリエ変換、逆フーリエ変換を表す演算子である。
【0031】
このとき、試料関数が原子ポテンシャル(原子カラムポテンシャル)のようにデルタ関数で表されるとすると、デルタ関数のフーリエ変換は1であるから式(2)は、
【数3】

【0032】
となる。従って、暗視野像Iの自己相関関数Rはプローブ関数Pに依存することがわかる。
【0033】
さらに、非点収差やデフォーカスが生じたときのプローブ関数がガウス関数であると仮定して、比例係数をkとすると(3)式は単純に、
【数4】

【0034】
と表される。つまり、原子分解能が得られる状態で暗視野像を観察しているとき、上式に基づいて得られる自己相関関数Racはプローブの強度に比例する。
【0035】
一方、プローブ関数Pが二種類の収差、即ちデフォーカスと二回非点収差を含む場合、あるフォーカスにおいて得られた暗視野像の自己相関関数における等強度線(等高線)は、当該自己相関関数を表す平面座標において、
【数5】

【0036】
を座標値とする収差関数で表される。ここでPは当該平面座標において、上記収差によるx軸方向のプローブの変位を表し、同様にPはy軸方向のプローブの変位を表す。また、oは電子光学系に現れたデフォーカスを表す収差係数であり、aは二回非点収差係数、θa2は二回非点収差方位角である。
【0037】
さらに、別のフォーカスにおいて得られる自己相関関数Racにおける等強度線(等高線)は、当該自己相関関数を表す平面座標において、
【数6】

【0038】
を座標値とする収差関数で表される。ここでdoは上記2つのフォーカスの間に生じるデフォーカスの差を表す。
【0039】
したがって、2つの異なるフォーカスにおいて得られた暗視野像に対して、それぞれ(5)式および(6)式に基づく収差関数をフィッティングさせると各係数o、a、kが直ちに求まる。
【0040】
この原理に基づいた収差補正処理について説明する。図2はこの収差補正処理を示すフローチャートである。
【0041】
まず、STEM2の電子光学系を操作して原子分解能が得られる状態に設定し、図3に示すような原子(カラム)の暗視野像50を取得する(ステップS1)。また、このときの対物レンズ25の設定値(以下、便宜上フォーカス値と称する)をiとする。
【0042】
ステップS1で得られた暗視野像50の自己相関関数51を(2)式に基づいて算出する(ステップS2)。図4は、図3に示した暗視野像50から自己相関関数51を算出した結果である。
【0043】
次に、フォーカス値をi´に変更し、原子(カラム)の暗視野像を取得する(ステップS3)。更に、得られた暗視野像の自己相関関数を算出する(ステップS4)。図6はステップS4によって算出された自己相関関数52である。
【0044】
この時点で、2つの異なるフォーカス値i、i´に対してそれぞれ、暗視野像と該暗視野像に対応した自己相関関数が得られた。前述の通り、図4、図6に示す自己相関関数51、52のコントラストは、プローブ関数に現れたデフォーカスと二回非点収差を表している。
【0045】
そこで、各自己相関関数51、52において、所定の領域(例えば、図4の中央にある領域A及び図6の中央にある領域B)を選択し、領域A、B内の等強度線53、54を算出する(ステップS5)。さらにこれらの等強度線54、55に対して、最小二乗法を用いて式(5)で表される収差関数でフィッティングし、各係数o、a、kを算出する(ステップS6)。
【0046】
図5(a)は、図4の領域Aにおける等強度線53を点線で示したものであり、図5(b)は、この等強度線53に対して式(5)を用いてフィッティングを行った結果により算出された収差関数55である。同様に図7(a)は、図6の領域Bにおいて算出された等強度線54を点線で示し、図7(b)は、この等強度線54に対して式(6)を用いてフィッティングを行った結果により算出された収差関数56である。なお、本実施形態では等強度線を算出する領域を図5(a)、図7(a)に示すように自己相関関数の中央領域に指定したが、その他の領域を指定しても良く、また、閉曲線となる等強度線を複数個選んで、それぞれに対して式(5)並びに式(6)に基づく収差関数でフィッティングを行っても良い。この場合、それぞれの収差関数で算出された収差係数の平均値を次のステップS7の処理に用いる。
【0047】
ステップS6において、収差関数55、56によって得られた各収差係数oおよびaが既に求まっている。そこで、これらの値を用いて現在生じている収差を打ち消すように、対物レンズ25及び収差補正器23の設定値を変更するフィードバック制御を行う(ステップS7)。この制御の結果、電子線21は最適にフォーカスされ、且つ二回非点収差が除去された暗視野像が得られる。
【0048】
なお、ステップS5、S6におけるフィッティング処理、及び収差係数算出処理は、各暗視野像の自己相関関数が得られた直後、即ち、ステップS2及びS4の直後に個別に行っても良い。
【0049】
ところで、試料30に入射する前の電子線21を傾斜させるとコマ収差が生じる。このコマ収差は二回非点収差とデフォーカスとなって顕微像に現れることが知られている(例えばF. Zemlin, K. Weiss, P. Schiske, W. Kunath, and K. H. Herremann, Ultramicroscopy vol. 3 (1978) p.46-60; S. Uhlemann and M. Haider, Ultramicroscopy vol. 72 (1998) p. 109-119を参照のこと)。例えばコマ収差係数Pに着目する。電子線21の試料30に対する傾斜量とその複素共役をそれぞれ、
〔外1〕

【0050】
とすると、デフォーカスoおよび二回非点収差係数aはそれぞれ、
【数7】

【0051】
だけ変化する。
【0052】
従って、ステップS1〜S4までの処理において、フォーカス値を変更する代わりに、試料30に対する電子線21の入射角を、例えば偏向器24を用いて変更し、ステップS5からS7までの処理を行うとコマ収差係数Pが算出できる。このように、試料30に対して傾斜した電子線21を用いた観察において、本発明の収差補正処理を行うと、コマ収差等の高次の収差も測定することができる。
【0053】
図8は本発明の一実施形態に係る収差補正処理を表す機能ブロック図である。なお、図中の参照符号において図1と同符号のものは、前述した内容と同義である。
【0054】
まず、顕微像取得時の処理を説明する。CPU11は記憶手段12に記憶されているSTEM2の制御プログラムを実行し、観察を開始する。このとき、各電子レンズ25、27、28、収差補正器23、偏向器24に印加される電流又は電圧の各設定値は、入力部13又は記憶手段12から電源制御部15を介して設定される。例えば、ステップS1或いはS3における暗視野像の取得においては、オペレータが入力部13からフォーカス値i及びi´を入力し、その入力値に基づいて対物レンズ25の焦点距離が設定される。そして検出器29から出力された検出信号は、画像処理部16によって画像データに変換された後、記憶手段12に記憶され、併せて表示部14において画像表示される。
【0055】
次に本実施形態に係る収差補正処理について説明する。
【0056】
収差補正処理部17は、自己相関算出手段40と、収差係数算出手段41と、フィードバック制御手段42とを備える。
【0057】
自己相関算出手段40は、この画像データを用いて自己相関関数51、52を算出する。算出された自己相関関数51、52は記憶手段12に記憶される。
【0058】
次に、各自己相関関数51、52における等強度線53、54に対して、収差係数算出手段41は式(5)及び式(6)で表される収差関数でフィッティングを行う。このフィッティングには最小二乗法を用いる。この結果、各収差係数o、a、及び比例係数kが算出される。
【0059】
そして、フィードバック制御42は算出された各係数を用いて、現在生じている収差を打ち消すように対物レンズ及び収差補正器の設定値を変更するフィードバック制御を行う。即ち、収差係数oに基づいて最適なフォーカス値が得られ、その値が電源制御部15を介して対物レンズ25に設定される。この結果、デフォーカスが除去される。一方、収差係数aから、この収差を打ち消すような値が得られ、その値が電源制御部15を介して収差補正器23に設定される。この結果、二回非点収差の無い像が得られる。
【0060】
本実施形態に係る収差補正処理では、フォーカス値の異なる少なくとも2枚の画像を用いて収差補正を行う。従って、収差補正を観察中に行うことが可能であるため、観察領域を逃がすことの無い逐次的な収差補正が可能である。
【0061】
また、本実施形態に係る収差補正処理は自動制御も可能である。原子像が得られる高分解能観察において、任意の2つのフォーカス値を自動的に設定し、図2に示す一連の収差補正処理を繰り返すことで、常にデフォーカスや二回非点収差の無い像が得られる。従って、長時間の溜め込みが必要となるEDSやEELS観察においても空間分解能が劣化することなく質のよいデータが得られることになる。
【0062】
なお、上記の実施形態においては、収差補正のために対物レンズの設定値を変更した。しかしながら本発明の収差補正は、設定値を変更する対象を対物レンズのみに限定するものではない。すなわち、フォーカスの変更が可能な、その他の電子光学系や試料ステージの設定値を変更の対象とし、この対象についてフィードバック制御を行っても良い。さらに、これらの組み合わせによってフォーカスが変更される場合も同様である。
【0063】
また、本実施形態では、通常の観察を行う制御装置1に収差補正装置が含まれている形態を述べたが、この収差補正装置は当該制御装置から物理的に分離されていても良い。例えば、収差補正時の観察画像及び自己相関関数が表示され、これに応じて電子光学系の設定値を入力する入力部、収差補正制御部が専用に設けられ、これらが当該制御装置と通信することで、間接的にSTEMを制御できる構成になっていても良い。
【0064】
さらに、STEM2内に設けられる収差補正器23の位置は電子銃21から試料ステージ26の間に設けられれば良く、図1に示す位置に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の一実施形態に係る走査型透過電子顕微鏡(STEM)の収差補正制御装置の構成図である。
【図2】本発明の一実施形態を示すフローチャートである。
【図3】本発明の一実施形態において取得される暗視野像の一例である。
【図4】図3に示す暗視野像の自己相関関数の一例である。
【図5】図5(a)は図4に示す自己相関関数の拡大図であり、等強度線の一例を示した図である。図5(b)は図5(a)の等強度線に対してフィッティングを行って得られた収差関数である。
【図6】本発明の一実施形態において取得される自己相関関数の一例であり、図4に示す自己相関関数が得られたときと異なるフォーカスにおいて得られたものである。
【図7】図7(a)は図6に示す自己相関関数の拡大図であり、等強度線の一例を示した図である。図7(b)は図7(a)の等強度線に対してフィッティングを行って得られた収差関数である。
【図8】本発明の一実施形態に係る収差補正装置の機能ブロック図である。
【符号の説明】
【0066】
1:制御装置
2:走査型透過電子顕微鏡(STEM)
11:CPU
12:記憶手段
13:入力部
14:表示部
15:電源制御部
16:画像処理部
17:収差補正処理部
20:光軸
21:電子線
22:電子銃
23:収差補正器
24:偏向器
25:対物レンズ
26:試料ステージ
27:中間レンズ
28:投影レンズ
29:検出器
30:試料
31:電源部
40:自己相関関数算出手段
41:収差係数算出手段
42:フィードバック制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
収差補正器を含む複数の電子光学系を備える走査型透過電子顕微鏡の収差補正装置において、
フォーカスを変えることによって得られる少なくとも2枚の画像のそれぞれに対する自己相関関数を算出する自己相関関数算出手段と、
各前記自己相関関数の等強度線に収差関数をフィッティングし、得られた各前記収差関数に基づいて収差係数を算出する収差係数算出手段と、
前記収差係数に基づいて前記複数の電子光学系へのフィードバック制御を行うフィードバック制御手段と、
を備えることを特徴とする収差補正装置。
【請求項2】
前記収差係数はデフォーカス及び二回非点収差を表す係数であることを特徴とする請求項1に記載の収差補正装置。
【請求項3】
前記フィードバック制御手段は、前記電子光学系に含まれる対物レンズを制御することを特徴とする請求項1乃至2の何れかに記載の収差補正装置。
【請求項4】
前記フィードバック制御手段は、前記電子光学系に含まれる収差補正器を制御することを特徴とする請求項1乃至2の何れかに記載の収差補正装置。
【請求項5】
前記収差補正器は二回非点収差を補正する収差補正器であることを特徴とする請求項4に記載の収差補正装置。
【請求項6】
収差補正器を含む複数の電子光学系を備える走査型透過電子顕微鏡の収差補正方法において、
フォーカスを変えることによって少なくとも2枚の画像を取得し、
前記画像のそれぞれに対する自己相関関数を算出し、
各前記自己相関関数の等強度線に収差関数をフィッティングし、
得られた各前記収差関数に基づいて収差係数を算出し、
前記収差係数に基づいて前記複数の電子光学系へのフィードバック制御を行う
ことを特徴とする収差補正方法。
【請求項7】
収差補正器を含む複数の電子光学系を有する走査型透過電子顕微鏡の収差補正方法において、
入射電子線を傾斜したことに相当する、異なる角度領域の設定によって少なくとも2枚の画像を取得し、
前記画像のそれぞれに対する自己相関関数を算出し、
各前記自己相関関数の等強度線に収差関数をフィッティングし、
得られた各前記収差関数に基づいて収差係数を算出し、
前記収差係数に基づいて前記複数の電子光学系へのフィードバック制御を行う
ことを特徴とする収差補正方法。
【請求項8】
前記収差係数はデフォーカス及び二回非点収差を表す係数であることを特徴とする請求項6乃至7の何れかに記載の収差補正方法。

【図1】
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【図2】
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【図8】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−218079(P2009−218079A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−60266(P2008−60266)
【出願日】平成20年3月10日(2008.3.10)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】