説明

走行クレーン用摩耗板および走行クレーン

【課題】本発明は、簡素な構成で、長期間に渡って摩耗板の摩耗速度を低減させることができる走行クレーン用摩耗板および走行クレーンを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明にかかる走行クレーン用摩耗板は、走行クレーンのサドルに溶接されることにより、回転する車輪の回転軸に垂直な端面に対向して配置され、かつ、潤滑剤供給部を有する車輪軸がその中央に貫装される円環状の薄肉の摩耗板本体からなり、本体の表面には、本体の内円縁に開口する凹部が設けられていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レールなどの軌条を走行するクレーンのサドルに回転する車輪が接触することにより生じるサドルや車輪の摩耗を防ぐために、サドルと車輪との間に犠牲摩耗させる目的で設けられる摩耗板およびその摩耗板を備えた走行クレーンに関する。
【背景技術】
【0002】
図7から図10を用いて従来技術を説明する。図7は、従来の一般的な天井クレーンを説明する図であり、(a)は上面図、(b)は正面図である。図8は、図7の天井クレーンの車輪周りの構成を説明する図である。図9は、従来の走行クレーン用摩耗板を説明する図であり、(a)は正面図、(b)はE−E線断面図である。図10は、従来の摩耗板が適用された場合の走行クレーンの要部拡大図である。
【0003】
図7に示すように、一般的な天井クレーン70は、ガーダ71、トロリ72、車輪73、吊り装置75を有し、車輪73によりレールなどの軌条を走行する。トロリ72は、ガーダ71上を走行方向に垂直な方向に移動する。また、トロリ72に備えられる機構(図示せず)により、吊り装置75は巻き上げられ、巻き下げられる。運搬対象の荷は吊り装置75により、吊り上げられ、吊り下げられる。
【0004】
図7に示す天井クレーン70や橋型クレーンなど、荷を吊りながら軌条を走行するクレーンにおいては、走行時のクレーン本体の左右方向へのぶれを抑えるために、車輪73の両側にクレーン本体と一体となったサドル74を設けることが一般的である。このようなクレーンでは、走行中に車輪73がサドル74に接触すると、接触した車輪73やサドル74が摩耗する。
【0005】
摩耗した車輪73やサドル74の修理や交換には多額の費用を要するため、図8に示すように、車輪73とサドル74の間にあらかじめ摩耗板80を設置し、走行中にクレーン本体が左右方向へぶれた場合には、車輪73が摩耗板80に接触して摩耗板80を摩耗させるようにする。すなわち、車輪73やサドル74の代わりに摩耗板80を犠牲摩耗させて、摩耗した摩耗板80を交換することとしている。
【0006】
摩耗板80は、図9に示すように、一般に薄肉鋼板製の円環状の円板で安価であり、接触する車輪73よりも軟らかい材料でできていて、元来、摩耗することで用をなすものである。従って、摩耗板80の交換は、車輪73やサドル74の修理や交換に比べて費用を小さく抑えることができるメリットがある。しかし、例えば、クレーンの運転頻度が高い場合は、摩耗板80の摩耗速度が速く、摩耗板80の交換を高頻度で行わなければならない。そうすると、摩耗板80の交換一回あたりの費用は小さくても、交換の回数が多くなることにより、かかる費用も多額になる。
【0007】
そこで、摩耗板80の摩耗速度を遅くするために、例えば、摩耗板80表面にグリスなどの潤滑剤を塗布してグリス被膜をつくることにより、車輪73が摩耗板80に接触する時の摩擦力を低減する方法がある。しかし、この方法では、車輪73が摩耗板80に接触することにより、グリス被膜が短時間で消失してしまうため、長期間に渡って摩耗板80の摩耗速度を低減させる効果を維持することはできない。
【0008】
なお、上述した軌条を走行するクレーンにおいては、図8に示すように、車輪73が車輪軸76の周りを滑らかに回転するように、車輪73と車輪軸76の間に車輪73と一体となって回転するブッシュ77を設けることが一般的である。ブッシュ77は、例えば、軟らかい金属でできている。車輪73の接触による摩耗板80の摩耗は、摩耗板80表面において均一に進むのではなく、車輪73が接触する表面から進むため、摩耗の進行に伴い、摩耗の進んでいない摩耗板80内周部がブッシュを車輪軸76方向内側へ押し込む問題が生じる。
【0009】
すなわち、図10に示すように、摩耗板80と、車輪73の回転軸に垂直な端面との間には隙間mが確保されているが、走行中にクレーン本体が左右にぶれて隙間mがゼロになり車輪73が摩耗板80に接触すると、摩耗板80の摩耗は、車輪73が接触した摩耗板80の径方向外側の表面から進行する(図10の点線で示す)。そして、摩耗板80のブッシュ77と対向する表面が摩耗せずに残り、車輪73が摩耗板80に接触するときに、この残った部分がブッシュ77に接触することにより、ブッシュ77が車輪軸76内側へ押し込まれる。
【0010】
グリス被膜が短時間で消失する問題に対しては、これを防ぐ技術として、例えば特許文献1には、一方の部材と他方の部材とを枢着するピンの外周面にグリス溜り部と接する溝を設けた軸受構造が示されている。かかる構造によれば、ピンの周りを軸受金が回転するときに溝表面のグリスを付着し、ピンの摺動部分にグリスを塗布するため、グリス切れによる焼き付きを防止できるとしている。
【0011】
また、グリス被膜の短時間での消失を防ぐ他の技術として、特許文献2には、レバーワッシャに当接する軸方向端面にグリスを保持する凹部が形成され、かつ、グリス飛散防止壁が設けられたレバーリングを有するスタータが示されている。かかる構造によれば、レバーワッシャの回転に伴う遠心力の働きで外周へ飛散したグリスをグリス飛散防止壁で受け止めることができるため、グリスが早期に流出することはなく、長期に渡ってグリスを保持できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平8−93770号公報
【特許文献2】特開2008−115725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、走行するクレーンに用いられる摩耗板の表面に、特許文献1の溝を単に設けたとしても、クレーンの場合は、溝がグリス溜り部に接していないため、車輪の摩耗板への接触により、溝内のグリスが早期に消費されてしまい、長期間に渡って摩耗板の摩耗速度を低減させることはできない。
【0014】
また、特許文献2のように摩耗板の表面に凹部を形成し、摩耗板の外周縁にグリス飛散防止壁を設ける場合は、グリス飛散防止壁のような突設部を加工するのに手間を要する。また、回転する車輪が突設部に接触して突設部を破損させる恐れもある。
【0015】
本発明は、上記の課題に鑑み、簡素な構成で、長期間に渡って摩耗板の摩耗速度を低減させることができる走行クレーン用摩耗板および走行クレーンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、本発明にかかる走行クレーン用摩耗板の代表的な構成は、走行クレーンのサドルに溶接されることにより、回転する車輪の回転軸に垂直な端面に対向して配置され、かつ、潤滑剤供給部を有する車輪軸がその中央に貫装される円環状の薄肉の摩耗板本体からなり、本体の表面には、本体の内円縁に開口する凹部が設けられていることを特徴とする。
【0017】
かかる構成によれば、走行クレーンの走行中に、回転する車輪が摩耗板に接触すると、車輪軸から車輪軸方向外側へ溢れ出した潤滑剤が、摩耗板本体の内円縁の開口から凹部へ入り込むことにより、潤滑剤が凹部内に溜まる。凹部内に溜まった潤滑剤は接触した車輪の端面に付着して摩耗板表面に引き延ばされ、潤滑剤被膜を形成することにより、摩耗板と車輪との間の接触時の摩擦力を低減させるため、簡素な構成で、長期間に渡って摩耗板の摩耗速度を低減させることができる。
【0018】
上記の凹部は、本体の底部から約3分の2の範囲の表面に設けられているとよい。摩耗板は直立した状態で走行クレーンとともに走行するため、凹部を摩耗板本体の表面の上方に設けた場合は、凹部に入り込んだ潤滑剤は重力により下方向に移動しやすくなるため、凹部内に溜まりにくいことがある。従って、凹部を設けるのは本体の底部から約3分の2の範囲の表面とすることにより、摩耗板の摩耗速度の低減を可能にするとともに、摩耗板の加工の手間を低減することができる。なお、粘度が高い潤滑剤を使用する場合には、重力による下方向への移動を考慮する必要性が低くなるため、凹部を設ける位置を本体の底部から約3分の2の範囲の表面に制限しなくてもよい場合もあるが、その場合においても凹部をかかる範囲に設けることで磨耗板の加工の手間を低減する効果は生じる。
【0019】
本発明にかかる走行クレーン用摩耗板の他の代表的な構成は、走行クレーンのサドルに溶接されることにより、回転する車輪の回転軸に垂直な端面に対向して配置され、かつ、潤滑剤供給部を有する車輪軸がその中央に貫装される円環状の薄肉の摩耗板本体からなり、本体の表面には、本体の内円周に沿って内円縁に開口し、かつ、車輪と車輪軸の間に介装され車輪とともに回転するブッシュの厚みと同じ長さの幅を本体の内円縁から径方向外側に有する、本体と略同心円状の第1の凹部が設けられ、さらに、第1の凹部の外円縁に開口する第2の凹部が設けられていることを特徴とする。
【0020】
かかる構成とすれば、摩耗板の摩耗速度の低減を可能にするとともに、ブッシュと対向する摩耗板の表面に凹部が設けられることにより、ブッシュが摩耗板に接触することはないため、摩耗板によりブッシュが車輪軸方向内側へ押し込まれることを防止することができる。
【0021】
本発明にかかる走行クレーンの代表的な構成は、上記のいずれか1つに記載の走行クレーン用摩耗板を具備していることを特徴とする。かかる構成によれば、走行クレーンに用いられる摩耗板と車輪との間の接触時の摩擦力を低減させることにより、簡素な構成で、長期間に渡って摩耗板の摩耗速度を低減させることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、簡素な構成で、長期間に渡って走行クレーン用摩耗板の摩耗速度を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明にかかる走行クレーン用摩耗板の第一の実施形態を説明する図であり、(a)は正面図、(b)はA−A線断面図である。
【図2】第一の実施形態を適用した場合の走行クレーンの要部拡大断面図である。
【図3】第二の実施形態を説明する図であり、(a)は正面図、(b)はB−B線断面図である。
【図4】第二の実施形態を適用した場合の走行クレーンの要部拡大断面図である。
【図5】第三の実施形態を説明する図であり、(a)は正面図、(b)はC−C線断面図である。
【図6】第四の実施形態を説明する図であり、(a)は正面図、(b)はD−D線断面図である。
【図7】従来の一般的な天井クレーンを説明する図であり、(a)は上面図、(b)は正面図である。
【図8】図7の天井クレーンの車輪周りの構成を説明する図である。
【図9】従来の走行クレーン用摩耗板を説明する図であり、(a)は正面図、(b)はE−E線断面図である。
【図10】従来の摩耗板が適用された場合の走行クレーンの要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に添付図面を参照しながら、本発明にかかる走行クレーン用摩耗板および走行クレーンの好適な実施形態について詳細に説明する。なお、かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0025】
図1は、本発明にかかる走行クレーン用摩耗板の第一の実施形態を説明する図であり、(a)は正面図、(b)はA−A線断面図である。図1に示すように、摩耗板10は、円環状の薄肉の本体11からなり、本体11の表面には凹部12が設けられている。本体11は車輪73より軟らかい材質であるとよく、例えばSS400の材料が用いられる。凹部12は、本体11の内円縁14に開口し、開口した内円縁14から径方向外側へ滑らかに処理加工されている。
【0026】
図2は、第一の実施形態を適用した場合の走行クレーンの要部拡大断面図である。摩耗板10は、走行クレーンのサドル74に溶接されることにより、回転する車輪73の回転軸に垂直な端面に対向して配置されている。そして、摩耗板10の中央に、グリス(潤滑剤)供給部94を有する車輪軸76が貫装されている。図8に示すように、車輪軸76とブッシュ77の間の摩擦力を低減して、車輪73がブッシュ77と一体となって車輪軸76の周りを滑らかに回転するように、車輪軸76とブッシュ77との間にはグリスが供給される。
【0027】
すなわち、グリス注入口90からグリスガン(図示せず)によりグリスが注入され、注入されたグリスはグリス注入路91を通り、グリス溜り部92、93から車輪軸76とブッシュ77との間に供給される。グリスの供給径路を図2に矢印で示す(なお、グリス注入口90、グリス注入路91およびグリス溜り部92、93を含む構成をグリス供給部94と総称する)。そうすると、ブッシュ77の外側端部と車輪軸76の間に、車輪軸76から車輪軸76方向外側へ溢れ出したグリス溢れgが生じる。グリス溢れgが生じた状態で走行クレーンを走行させると、回転する車輪73が摩耗板10に接触するときに、グリス溢れgのグリスは、摩耗板本体11の内円縁14の開口から凹部12へ入り込み、凹部12内に溜まる。
【0028】
凹部12内に溜まったグリスは、回転して接触する車輪73の端面に付着して、車輪73が回転する際の遠心力により、摩耗板10表面に摩耗板10径方向外側へ引き延ばされて、グリス被膜を形成する。このグリス被膜により、摩耗板10と車輪73との間の接触時の摩擦力が低減される。グリス被膜の形成は、凹部12にグリスが溜まっている間は継続して行われる。すなわち、車輪73の接触により摩耗板10表面に形成されたグリス被膜が消費されても、同時に、凹部12に溜まったグリスが回転する車輪73により引き延ばされ、新しいグリス被膜が形成される。そして、凹部12へのグリスは、車輪73の摩耗板10への接触時にグリス溢れgから供給されるため、グリスガンからのグリス注入を適宜行うことにより、凹部12内のグリスがなくなることはない。従って、簡素な構成で、長期間に渡って摩耗板10の摩耗速度を低減させることができる。
【0029】
本体11の表面に設けられる凹部12は、本体11の底部から約3分の2の範囲の表面に設けられているとよい。摩耗板10は直立した状態で走行クレーンとともに走行するため、凹部12を摩耗板本体11の表面の上方に設けた場合は、凹部12に入り込んだグリスは重力により下方向に移動しやすくなるため、凹部12内に溜まりにくいことがある。この場合、凹部12を本体11の表面の上方に設ける効果は小さい。
【0030】
一方、凹部12を本体11の底部から約3分の2の範囲の表面に設ける場合は凹部12に入り込んだグリスを凹部12内に的確に溜めることができる。従って、凹部12を設けるのは本体11の底部から約3分の2の範囲の表面とすることにより、摩耗板10の摩耗速度の低減を可能にするとともに、摩耗板10の加工の手間を削減することができる。なお、粘度が高い潤滑剤を使用する場合には、重力による下方向への移動を考慮する必要性が低くなるため、凹部12を設ける位置を本体11の底部から約3分の2の範囲の表面に制限しなくても良い場合もある。しかし、その場合でも凹部12をかかる範囲に設けることにより磨耗板の加工の手間を低減する効果は生じる。
【0031】
図3は、第二の実施形態を説明する図であり、(a)は正面図、(b)はB−B線断面図である。第二の実施形態が、図1に示す第一の実施形態と相違する点は、第一の実施形態の凹部12に相当する第2の凹部22のほかに、摩耗板20の本体21の表面に第1の凹部23が設けられている点である。第1の凹部23は、本体21の内円周に沿って内円縁24aに開口し、かつ、車輪73と車輪軸76の間に介装され車輪73とともに回転するブッシュ77の厚みと同じ長さの幅を本体21の内円縁24aから径方向外側に有しており、本体21と略同心円状の形状をしている。第1の凹部23は、内円縁24aから外円縁25まで径方向外側へ滑らかに処理加工されている。
【0032】
第2の凹部22は、上述の通り、第一の実施形態における凹部12に相当するものであり、第1の凹部23の外円縁25に開口し、開口した外円縁25から径方向外側へ滑らかに処理加工されている。第2の凹部22の、第1の凹部23の外円縁25への開口である内円縁24bは、第1の凹部23が本体11と略同心円状に処理加工された外円縁25の途中で外円縁25と接続されている。従って、図3からは明らかではないが、第1の凹部23の外円縁25のうち、第2の凹部22の内円縁24bと連続する部分(摩耗板20の下半分)の摩耗板20中心からの半径は、第2の凹部22の内円縁24bと連続しない部分(摩耗板20の上半分)の摩耗板20中心からの半径よりも短い。
【0033】
図4は、第二の実施形態を適用した場合の走行クレーンの要部拡大断面図である。第一の実施形態を適用した場合を示す図2との相違は、摩耗板20の表面に設けられた第1の凹部23がブッシュ77と対向している点である。このため、摩耗板20の摩耗が、車輪73が接触した表面から進行したとしても、摩耗板20のブッシュ77と対向する表面は、第1の凹部23が形成されていることにより、ブッシュ77と接触することはないため、摩耗板20によりブッシュ77が車輪軸76方向内側へ押し込まれることを防止することができる。
【0034】
車輪軸76から車輪軸76方向外側へ溢れ出したグリス溢れgが生じた状態で走行クレーンを走行させると、回転する車輪73が摩耗板20に接触するときに、グリス溢れgのグリスは、摩耗板本体21の表面に設けられた第1の凹部23内に溜まる。第1の凹部23内に溜まったグリスは、主に、回転する車輪73の遠心力により、第2の凹部22に入り込み、第2の凹部22内に溜まる。そして、第2の凹部22内に溜まったグリスは、回転して接触する車輪73の端面に付着して、車輪73が回転する際の遠心力により、摩耗板20表面に摩耗板20径方向外側へ引き延ばされて、グリス被膜を形成する。グリス被膜の効果やグリス被膜形成の継続性については、図2の説明で述べた通りである。従って、第二の実施形態では、第1の凹部23および第2の凹部22により、摩耗板20の摩耗速度を低減することができる。
【0035】
図5は、第三の実施形態を説明する図であり、(a)は正面図、(b)はC−C線断面図である。第三の実施形態が、図3に示す第二の実施形態と相違する点は、第2の凹部32が、摩耗板本体31の表面に複数個設けられており、その形状が、径方向外側の先端部にやや丸みを帯びた矩形状である点である。図5では、摩耗板30の表面において、時計の3、6、9時の位置に第2の凹部32が設けられている。グリス被膜の形成の原理やその効果、およびグリス被膜形成の継続性については、図4の説明で述べた通りである。かかる形状とすることにより、摩耗板30は、第1の凹部33および第2の凹部32内にグリスを確実に溜めることができるため、車輪73の接触により摩耗板30表面にグリス被膜を形成することができる。なお、図5からは明らかではないが、図3に示される摩耗板20と同様に、摩耗板30の第1の凹部33の外円縁のうち、第2の凹部32の内円縁と連続する部分の摩耗板30中心からの半径は、第2の凹部32の内円縁と連続しない部分の摩耗板30中心からの半径よりも短い。
【0036】
図6は、第四の実施形態を説明する図であり、(a)は正面図、(b)はD−D線断面図である。第四の実施形態が、図3に示す第二の実施形態と相違する点は、第2の凹部42が、摩耗板本体41の中心から放射状に複数設けられており、その形状が、径方向に長い短冊状である点である。図6では、第2の凹部42が、本体41の略下半分に均等間隔に7個設けられている。グリス被膜の形成の原理やその効果、およびグリス被膜形成の継続性については、図4の説明で述べた通りである。かかる形状とすることにより、摩耗板40は、第1の凹部33および第2の凹部32内にグリスを確実に溜めることができるため、車輪73の接触により摩耗板30表面にグリス被膜を形成することができる。なお、図6からは明らかではないが、図3に示される摩耗板20と同様に、摩耗板40の第1の凹部43の外円縁のうち、第2の凹部42の内円縁と連続する部分の摩耗板40中心からの半径は、第2の凹部42の内円縁と連続しない部分の摩耗板40中心からの半径よりも短い。
【0037】
なお、凹部12や第2の凹部22、32、42の形状や個数は、上述した実施形態におけるものに限られるものではなく、摩耗板がその機能を果たすのに必要な表面積、グリス被膜を形成するのに必要なグリス溜め量、車輪73の回転の際の遠心力によりグリスが引き延ばされる効果などを勘案して、適切に決定することができる。凹部12や第2の凹部22、32、42の形状として、他に、例えば、楕円、三日月状、渦巻き、およびこれらを組み合わせたものも可能である。
【0038】
上記説明した如く、本実施形態にかかる走行クレーン用摩耗板および走行クレーンにおいては、摩耗板の本体の表面に、本体の内円縁に開口する凹部が設けられているため、走行クレーンの走行中に、回転する車輪が摩耗板に接触すると、車輪軸から車輪軸方向外側へ溢れ出した潤滑剤が、摩耗板本体の内円縁の開口から凹部へ入り込むことにより、潤滑剤が凹部内に溜まる。凹部内に溜まった潤滑剤は接触した車輪の端面に付着して摩耗板表面に引き延ばされ、潤滑剤被膜を形成することにより、摩耗板と車輪との間の接触時の摩擦力を低減させるため、簡素な構成で、長期間に渡って摩耗板の摩耗速度を低減させることができる。
【0039】
また、他の実施形態にかかる走行クレーン用摩耗板および走行クレーンにおいては、摩耗板の本体の表面に、本体の内円周に沿って内円縁に開口し、かつ、車輪と車輪軸の間に介装され車輪とともに回転するブッシュの厚みと同じ長さの幅を本体の内円縁から径方向外側に有する、本体と略同心円状の第1の凹部が設けられ、さらに、第1の凹部の外円縁に開口する第2の凹部が設けられているため、摩耗板の摩耗速度の低減を可能にするとともに、ブッシュと対向する摩耗板の表面に凹部が設けられることにより、ブッシュが摩耗板に接触することはないため、摩耗板によりブッシュが車輪軸方向内側へ押し込まれることを防止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、レールなどの軌条を走行するクレーンのサドルに回転する車輪が接触することにより生じるサドルや車輪の摩耗を防ぐために、サドルと車輪との間に犠牲摩耗させる目的で設けられる摩耗板およびその摩耗板を備えた走行クレーンに利用することができる。
【符号の説明】
【0041】
10、20、30、40、80 …摩耗板
11、21、31、41 …本体
12 …凹部
14、24 …内円縁
22、32、42 …第2の凹部
23、33、43 …第1の凹部
25 …外円縁
70 …天井クレーン
71 …ガーダ
72 …トロリ
73 …車輪
74 …サドル
75 …吊り装置
76 …車輪軸
77 …ブッシュ
90 …グリス注入口
91 …グリス注入路
92、93 …グリス溜り部
94 …グリス供給部
100 …走行レール
g …グリス溢れ
m …隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行クレーンのサドルに溶接されることにより、回転する車輪の回転軸に垂直な端面に対向して配置され、かつ、潤滑剤供給部を有する車輪軸がその中央に貫装される円環状の薄肉の摩耗板本体からなり、
前記本体の表面には、前記本体の内円縁に開口する凹部が設けられていることを特徴とする走行クレーン用摩耗板。
【請求項2】
前記の凹部は、前記本体の底部から約3分の2の範囲の表面に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の走行クレーン用摩耗板。
【請求項3】
走行クレーンのサドルに溶接されることにより、回転する車輪の回転軸に垂直な端面に対向して配置され、かつ、潤滑剤供給部を有する車輪軸がその中央に貫装される円環状の薄肉の摩耗板本体からなり、
前記本体の表面には、
前記本体の内円周に沿って内円縁に開口し、かつ、前記車輪と前記車輪軸の間に介装され前記車輪とともに回転するブッシュの厚みと同じ長さの幅を前記本体の内円縁から径方向外側に有する、前記本体と略同心円状の第1の凹部が設けられ、
さらに、前記第1の凹部の外円縁に開口する第2の凹部が設けられていることを特徴とする走行クレーン用摩耗板。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の走行クレーン用摩耗板を具備していることを特徴とする走行クレーン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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