説明

走行型ドーザ除雪機

【課題】軽量化を図るとともに、除雪性能を良好に確保することができる走行型ドーザ除雪機を提供する。
【解決手段】走行型ドーザ除雪機10は、機体11の左右側にクローラ走行部12,13をそれぞれ備え、機体11の前方に排雪板26を備え、機体11の後方に左右のハンドル24,25を備え、左右のクローラ走行部12,13で前進走行しながら排雪板26で除雪作業をおこなうものである。この歩行型ドーザ除雪機10は、排雪板26の下端部76aを、除雪作業時において、左右のクローラ走行部12,13の下面12a,13aと同じ高さに位置決めする位置決め手段27を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、左右のクローラ走行部で前進走行しながら作業部で除雪作業をおこなう走行型ドーザ除雪機に関する。
【背景技術】
【0002】
除雪機のなかには、機体の左右側にクローラ走行部をそれぞれ備え、前記機体の前部に排雪板を備え、前記機体の後部にハンドルを備え、ハンドルを昇降させて排雪板を昇降させる走行型ドーザ除雪機がある。
この走行型ドーザ除雪機は、左右のクローラ走行部で前進走行しながら排雪板で雪を押すことにより除雪作業をおこなうものである(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2002−21034公報
【0003】
従来の走行型ドーザ除雪機は、前進走行しながら排雪板のエッジを路面(雪面)にくい込ませて排雪板で雪を押すようにしている。
排雪板のエッジを路面(雪面)にくい込ませることで、多くの雪を排雪板で一度に押すことができ、作業性を高めることが可能である。
【0004】
排雪板のエッジを路面(雪面)にくい込ませながら、走行型ドーザ除雪機を前進走行させるためには、走行型ドーザ除雪機に比較的大きな牽引力が要求される。
牽引力を確保するために、走行型ドーザ除雪機の車体重量を重くして、走行型ドーザ除雪機と路面(雪面)との摩擦を高め、走行型ドーザ除雪機の牽引力を確保している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、一般家庭で使用する走行型ドーザ除雪機は、小型であることが望ましく旋回機構が除かれる場合がある。旋回機構が除かれた走行型ドーザ除雪機は、旋回の際に、走行型ドーザ除雪機を引きずって旋回させる。
このため、走行型ドーザ除雪機を軽量にして、走行型ドーザ除雪機を引きずり易くする必要がある。
【0006】
しかし、走行型ドーザ除雪機を軽量にすると、走行型ドーザ除雪機と路面(雪面)との摩擦が小さくなる。
このため、走行型ドーザ除雪機の牽引力が抑えられ、除雪性能を良好に確保することが難しい。
【0007】
本発明は、軽量化を図るとともに、除雪性能を良好に確保することができる走行型ドーザ除雪機を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、機体の左右側に左右のクローラ走行部をそれぞれ備え、前記機体の前方に作業部を備え、前記機体の後方にハンドルを備え、前記左右のクローラ走行部で前進走行しながら前記作業部で除雪作業をおこなう歩行型ドーザ除雪機において、前記作業部の下端部を、除雪作業時において、前記クローラ走行部の下面と同じ高さに位置決めする位置決め手段を備えたことを特徴とする。
【0009】
請求項2において、前記位置決め手段は、前記作業部を支える支え部を有し、この支え部の高さを調整可能としたことを特徴とする。
【0010】
ここで、作業部で雪を押す場合、作業部の下端部が路面(雪面)にくい込まない状態で接触する場合があり下端部が摩耗する。
下端部が摩耗すると、下端部を位置決め手段でクローラ走行部の下面と同じ高さに位置決めすることはできない。
そこで、請求項2において、位置決め手段に、作業部を支える支え部を有し、この支え部の高さを調整可能にした。
【0011】
請求項3において、前記作業部は、前記ハンドルから連なるスイング部材の前部に取り付けられ、このスイング部材は、前記クローラ走行部の起動輪および遊転輪間の中央位置よりも車体後方位置で揺動自在に支持されたことを特徴とする。
【0012】
ここで、除雪作業中に、左右のクローラ走行部がスリップしそうになった場合、左右のクローラ走行部と路面(雪面)との摩擦(トラクション)を高めて走行型ドーザ除雪機の牽引力を大きくすることが望ましい。
そこで、請求項3において、ハンドルから連なるスイング部材の前部に作業部を取り付けた。そして、スイング部材を揺動自在に支持し、揺動支持位置を、クローラ走行部の起動輪および遊転輪間の中央位置よりも車体後方位置とした。
【0013】
スイング部材の揺動位置を、起動輪および遊転輪間の中央位置よりも車体後方位置とすることで、作業者がハンドルを下向きに押し付けて、左右のクローラ走行部と路面(雪面)との摩擦を高めることができる。
これにより、下向きの押付力を牽引力として効率よく利用することが可能になる。
【0014】
請求項4は、前記作業部の下端部を、除雪作業時において、前記クローラ走行部の下面と同じ高さに位置決めした位置に前記作業部を保持する保持機構を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る発明では、位置決め手段を備えた。この位置決め手段を備えることで、除雪作業時において、作業部の下端部をクローラ走行部の下面と同じ高さに位置決めすることができる。
よって、作業部の下端部が路面(雪面)に必要以上にくい込むことを防止することができ、くい込みにより従来ロスしていた力をクローラ走行部に効率よく伝えることができる。
【0016】
これにより、走行型ドーザ除雪機を軽量にした場合でも、作業部で雪を押しながら走行型ドーザ除雪機を前進させる牽引力が得られる。
したがって、走行型ドーザ除雪機の軽量化を図るとともに、除雪性能を良好に確保することができるという利点がある。
【0017】
請求項2に係る発明では、位置決め手段に、作業部を支える支え部を有し、この支え部の高さを調整可能にした。
よって、例えば、修理や部品交換の際に、作業部の下端部がクローラ走行部の下面と同じ高さになるように調整することができる。
【0018】
加えて、作業部の下端部が路面(雪面)にくい込まないように接触して摩耗した場合、支え部の高さを調整することで、摩耗した下端部をクローラ走行部の下面と同じ高さに調整することができる。
これにより、走行型ドーザ除雪機の使い勝手をさらに高めることができるという利点がある。
【0019】
請求項3に係る発明では、スイング部材の前部に作業部を取り付け、スイング部材を、クローラ走行部の起動輪および遊転輪間の中央位置よりも車体後方位置で揺動自在に支持した。
よって、作業者がハンドルを下向きに押し付けることで、左右のクローラ走行部と路面(雪面)との摩擦を高めることができる。
【0020】
これにより、下向きの押付力を路面(雪面)への押付力として効率よく利用することができる。
したがって、必要に応じて走行型ドーザ除雪機に大きな牽引力を付与することができ、走行型ドーザ除雪機の除雪性能をさらに高めることができるという利点がある。
【0021】
請求項4に係る発明では、保持機構を備えた。よって、除雪作業時において、作業部の下端部をクローラ走行部の下面と同じ高さに位置決めした位置に作業部を保持することができる。
これにより、走行型ドーザ除雪機の操作性をさらに高めることができるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、「前」、「後」、「左」、「右」は作業者から見た方向にしたがい、前側をFr、後側をRr、左側をL、右側をRとして示す。
【0023】
図1は本発明に係る走行型ドーザ除雪機を示す斜視図である。
走行型ドーザ除雪機10は、機体11の左右側にそれぞれ左右のクローラ走行部12,13を備え、左右のクローラ走行部12,13の回転方向を切り換える回転方向切換装置15を備え、回転方向切換装置15を覆うカバー17を備え、回転方向切換装置15に走行クラッチ18を介して回転を伝えるエンジン19を備え、機体11の左右側に左右のスイングパイプ(スイング部材)21,22をスイング自在に備え、左右のスイングパイプ21,22の後端部21a,22aに左右のハンドル(ハンドル)24,25をそれぞれ備え、左右のスイングパイプ21,22の前端部21b,22bに排雪板(作業部)26を備え、排雪板26を位置決めする位置決め手段27(図2参照)を備える。
【0024】
左クローラ走行部12は、前部の駆動輪28と後部の遊転輪29とにクローラベルト31を巻き掛け、駆動輪28を回転方向切換装置15などを介してエンジン19に連結したクローラ式の走行部である。
右クローラ走行部13は、左クローラ走行部12と左右対称の部材であり、構成部材に同一符号を付して説明を省略する。
【0025】
回転方向切換装置15は、走行クラッチ18を介してエンジン19に連結されるとともに、ファイナルドライブ機構32(図2参照)を介して左右のクローラ走行部12,13に連結されている。
エンジン19の回転は、走行クラッチ18、回転方向切換装置15およびファイナルドライブ機構32を介して左右のクローラ走行部12,13に伝達される。
【0026】
カバー17は、回転方向切換装置15を覆うように形成されるとともに、左右のクローラ走行部12,13間に配置されている。
このカバー17は、機体11に取り付けられている。
【0027】
エンジン19は、出力軸であるクランクシャフト33を備え、このクランクシャフト33を縦置き、すなわち下方に延ばした形式のバーチカルエンジンである。
【0028】
図2は本発明に係る走行型ドーザ除雪機を示す分解斜視図、図3は本発明に係る走行型ドーザ除雪機の排雪板およびスイングパイプを示す分解斜視図である。
機体11は、矩形状の枠体に形成され、前部11aに位置決め手段27を備える。
位置決め手段27は、前部11aの左側部11bに設けられた左ストッパ部材71と、前部11aの右側部11cに設けられた右ストッパ部材72を備える。
なお、位置決め手段27については図6で詳しく説明する。
【0029】
左スイングパイプ21は、水平部41の後端41aから後傾斜部42が車体後方に向けて上り勾配で延び、水平部41の前端41bから前傾斜部46が車体前方に向けて下り勾配に延びた部材である。
この左スイングパイプ21は、水平部41の後端41aに取付部材43が設けられ、取付部材43が支持軸44を介して機体11に回動自在に取り付けられている。
【0030】
具体的には、支持軸44にブッシュ45(図7も参照)が回転自在に嵌入され、ブッシュ45に取付部材43が固定されている。
よって、取付部材43は、支持軸44にブッシュ45を介して回動自在に支持される。これにより、左スイングパイプ21が、支持軸44を介して機体11に回動自在に取り付けられる。
【0031】
右スイングパイプ22は、左スイングパイプ21と左右対称の部材なので、各構成部材に同一符号を付して説明を省略する。
【0032】
左スイングパイプ21の後端部21aから左ハンドル24が、車体後方に向けて上り勾配に延出されている。
左ハンドル24は、後端部に左グリップ51を備え、左グリップ51の近傍に走行クラッチレバー52が設けられている。
走行クラッチレバー52は、走行クラッチ18(図1参照)を接続状態と遮断状態とに切り換えるレバーである。
【0033】
右スイングパイプ22の後端部22aから右ハンドル25が、車体後方に向けて上り勾配に延出されている。
右ハンドル25は、後端部に右グリップ54を備え、右グリップ54の近傍に前後進切換レバー55が設けられている。
前後進切換レバー55は、回転方向切換装置15(図1参照)の一部を構成する部材である。
【0034】
左スイングパイプ21の前傾斜部46および右スイングパイプ22の前傾斜部46に排雪板26が取り付けられている。
排雪板26は、排雪板本体75と、排雪板本体75の下部75aに設けられたエッジ(排雪板の下端部)76とを備える。
【0035】
この排雪板26は、左右のスイングパイプ21,22の前端部21b,22bに排雪板本体75の下部がエッジ76とともにボルト止めされ、左右の取付ブラケット78,78に排雪板本体75の上部がボルト止めされている。
【0036】
左取付ブラケット78は、左スイングパイプ21の前傾斜部46の上端部に取り付けられている。右取付ブラケット78は、右スイングパイプ22の前傾斜部46の上端部に取り付けられている。
すなわち、排雪板26は、左右のハンドル24,25から連なる左右のスイングパイプ21,22の前傾斜部(前部)46,46に取り付けられている。
【0037】
以上説明した走行型ドーザ除雪機10は、左右のグリップ51,54を左右の手で握った状態で、左右のクローラ走行部12,13で前進走行しながら排雪板26で除雪作業をおこなうものである。
【0038】
図4は本発明に係る走行型ドーザ除雪機から左クローラ走行部を取り除いた状態を示す側面図、図5は図4の排雪板を回送位置に位置決めした状態を示す側面図である。
左スイングパイプ21は、前述したように、水平部41の後端41aに取付部材43が設けられている。
取付部材43は、下端部43aにブッシュ45(図7も参照)が固定されている。このブッシュ45が支持軸44に回動自在に嵌合されている。
【0039】
よって、左スイングパイプ21は、取付部材43およびブッシュ45を介して機体11に回動自在に取り付けられている。
これにより、排雪板26の下端部76a(すなわち、エッジ76の下端部76a)を、図4に示す作業位置P1と、図5に示す回送位置P2とに位置決めすることができる。
【0040】
図4に示す作業位置P1から排雪板26を上昇させる際には、左右のグリップ51,54を矢印Aの如く下方に押し下げる。
左右のグリップ51,54を下方に押し下げることで、左右のスイングパイプ21,22が支持軸44,44を支点にして時計回り方向に揺動する。左右のスイングパイプ21,22が時計回り方向に揺動することで排雪板26が矢印Bの如く上昇する。
【0041】
一方、図5に示す回送位置から排雪板26を下降させる際には、左右のグリップ51,54を矢印Cの如く上方に持ち上げる。
左右のグリップ51,54を持ち上げることで、左右のスイングパイプ21,22が支持軸44,44を支点にして反時計回り方向に揺動する。左右のスイングパイプ21,22が反時計回り方向に揺動することで排雪板26が矢印Dの如く下降する。
【0042】
ここで、支持軸44は、図2に示す左クローラ走行部12の起動輪28および遊転輪29間の中央位置81よりも車体後方位置に支持されるとともに、右クローラ走行部12の起動輪28および遊転輪29間の中央位置81よりも車体後方位置に支持されている。
起動輪28および遊転輪29間の中央位置81とは、起動輪28の中心と遊転輪29の中心との間隔L1の中央位置をいう。
なお、支持軸44を、起動輪28および遊転輪29間の中央位置81よりも車体後方位置に支持した理由は図9で詳しく説明する。
【0043】
図6は図4の6−6線断面図である。
位置決め手段27の左ストッパ部材71は、左スイングパイプ21を載置する位置決めボルト83と、位置決めボルト83を機体11に固定する上下のナット84,84とを有する。
位置決めボルト83は、頭部(支え部)85を上側に配置した状態で左取付孔88にねじ部86が差し込まれている。左取付孔88は、機体11の前部11aの左側部11bに形成されている。
【0044】
上下のナット84,84のうち、上ナット84が左側部11bの上方に配置され、下ナット84が左側部11bの下方に配置されている。
上下のナット84,84は、それぞれねじ部86にねじ結合されている。
上下のナット84,84で左側部11bを挟持することで、位置決めボルト83が左側部11bに取り付けられる。
【0045】
位置決め手段27の右ストッパ部材72は、左ストッパ部材71と同一構成なので、各構成部材に同じ符号を付して説明を省略する。
この右ストッパ部材72は、左ストッパ部材71と同様に、位置決めボルト83が右取付孔89に差し込まれた状態で右側部11cに取り付けられている。
左側部11bは、右側部11cに対して左右対称の部位である。
【0046】
左側の位置決めボルト83の頭部85に、左スイングパイプ21(詳しくは、水平部41の前端部41b)が載置されるとともに、右側の位置決めボルト83の頭部85に、右スイングパイプ22(詳しくは、水平部41の前端部41b)が載置される。
【0047】
これにより、図4に示す排雪板26の下端部76aを、除雪作業時において、左右のクローラ走行部12,13のそれぞれの下面12a,13aと同じ高さに位置決めすることができる。
よって、排雪板26の下端部76aが路面(雪面)にくい込むことを防止することができる。
なお、排雪板26の下端部76aが路面(雪面)にくい込むことを防止する理由は図8で詳しく説明する。
【0048】
左側の位置決めボルト83は、上下のナット84,84を緩めて、ナット84,84による左側部11bの挟持状態を解除することで、頭部85の高さH1を調整することができる。
同様に、右側の位置決めボルト83は、上下のナット84,84を緩めて、ナット84,84による右側部11cの挟持状態を解除することで、頭部85の高さH1を調整することができる。
【0049】
よって、例えば、修理や部品交換の際に、エッジ76の下端部76aが左右のクローラ走行部12,13の下面12a,13aと同じ高さになるように調整することができる。
さらに、エッジ76の下端部76aが路面(雪面)にくい込まないように接触して摩耗した場合に、頭部85の高さH1を調整することで、摩耗した下端部76aを左右のクローラ走行部12,13の下面12a,13aと同じ高さに調整することができる。
【0050】
また、左右のストッパ部材71,72を機体11に設けたので、左右のストッパ部材71,72を簡単な構成とすることができ、かつ、左右側の水平部41,41の前端部41b,41bを所望の位置に確実に位置決めすることができる。
【0051】
図7(a),(b)は本発明に係る走行型ドーザ除雪機の排雪板を所定位置に保持する保持機構を示す側面図である。(a)は排雪板26を作業位置P1(図4参照)に保持した状態を示し、(b)は排雪板26を回送位置P2(図5参照)に保持した状態を示す。
保持機構91は、機体11に回動自在に支持された保持バー92と、保持バー92の略中央部に取り付けられた係合突起93と、保持バー92の前端部92aおよびブラケット94に掛け渡された引張ばね95と、ブッシュ45に固定されたスイングプレート96とを備える。
【0052】
保持バー92は、略水平に延びた部材で、後端部92bが機体11に支持ピン97を介して回動自在に支持されている。
ブラケット94は、機体11の中央部材14に固定されている。中央部材14は、機体11の前後方向略中央に設けられている。
【0053】
スイングプレート96は、上下方向に延びた略矩形状のプレートで、下端部96aがブッシュ45に固定され、上端部96bに前後の係合凹部98,99が形成されている。
前後の係合凹部98,99は、係合突起93の略下半部が係合可能に形成された凹みである。
【0054】
保持機構91の作用を以下に説明する。
(a)に示すように、左右のスイングパイプ21,22が略水平に配置されたとき、左右側の水平部41,41の前端部41b,41bが、位置決めボルト83,83の頭部85,85にそれぞれ載置される。
後係合凹部99が係合突起93に嵌合される。保持バー92の前端部92aには、引張ばね95により下向きの押下力が矢印の如く作用している。
【0055】
よって、左右側の水平部41,41の前端部41b,41bが、位置決めボルト83,83の頭部85,85にそれぞれ載置された位置に保持される。
これにより、排雪板26の下端部76aが、図4に示すように、左右のクローラ走行部12,13のそれぞれの下面12a,13aと同じ高さに位置決めされ、排雪板26が作業位置P1に保持される。
左クローラ走行部12および左クローラ走行部12の下面12aは図2に示す。
【0056】
この状態において、図4に示す左右のグリップ51,54に作業者が押下力をかけると、左右のスイングパイプ21,22に、支持軸44を支点にして時計回り方向に回動させようとする力が作用する。
【0057】
作用した力がブッシュ45を介してスイングプレート96に伝わる。よって、スイングプレート96に、支持軸44を支点にして時計回り方向に回動させようとする力が作用する。
これにより、引張ばね95のばね力に抗して後係合凹部99が係合突起93から抜け出す。このとき、保持バー92は、支持ピン97を支点にして上方に回動する。
【0058】
(b)に示すように、左右側の水平部41,41が角度θ傾斜したとき、前係合凹部98が係合突起93に嵌合される。
保持バー92の前端部92aには、引張ばね95により下向きの押下力が作用している。
【0059】
よって、左右側の水平部41,41が角度θ傾斜した位置に保持される。これにより、排雪板26の下端部76aが、図5に示すように、左右のクローラ走行部12,13のそれぞれの下面12a,13aに対して高さH2の位置に位置決めされ、排雪板26が回送位置P2に保持される。
【0060】
この状態において、図5に示す左右のグリップ51,54に作業者が押上力をかけると、前述した動作と逆の動作で、前係合凹部98が係合突起93から抜け出す。
左右のグリップ51,54に継続して押上力をかけることで、左右側の水平部41,41の前端部41b,41bが、位置決めボルト83,83の頭部85,85に載置される。
【0061】
後係合凹部99が係合突起93に嵌合され、排雪板26の下端部76aが、図4に示すように、左右のクローラ走行部12,13のそれぞれの下面12a,13aと同じ高さに位置決めされ、排雪板26が作業位置P1に保持される。
【0062】
このように、保持機構91を用いることで、排雪板26の下端部76aを、作業位置P1や回送位置P2に保持することができる。
これにより、走行型ドーザ除雪機10の操作性をさらに高めることができる。
【0063】
つぎに、走行型ドーザ除雪機10の作用を図8〜図9に基づいて説明する。
図8(a),(b)は本発明に係る走行型ドーザ除雪機の排雪板を路面(雪面)にくい込ませないで作業をおこなう例を説明する図である。
(a)に通常の走行型ドーザ除雪機200を比較例として示し、(b)に図1〜図7で説明した走行型ドーザ除雪機10を実施例として示す。
【0064】
比較例の走行型ドーザ除雪機200は、排雪板201の下端部201aを、左右のクローラ走行部205,205の下面205a,205aより下方に下降可能なものである。
すなわち、比較例の走行型ドーザ除雪機200は、排雪板201を路面(雪面)204にくい込ませながら除雪作業をおこなうものである。
【0065】
実施例の走行型ドーザ除雪機10は、排雪板26の下端部76aを、左右のクローラ走行部12,13の下面12a,13aと同じ高さの作業位置P1に位置決め可能なものである。
すなわち、実施例の走行型ドーザ除雪機10は、排雪板を路面(雪面)にくい込ませないようにしながら除雪作業をおこなうものである。
【0066】
(a)において、走行型ドーザ除雪機200が除雪作業をおこなうと、排雪板201で雪202を押すため、排雪板201に下向きの押下力Wdが作用する。
排雪板201の下端部201aが路面(雪面)204にくい込んでいる。このため、下端部201aと路面(雪面)204とに摩擦力(すなわち、抵抗)Rが矢印の如く作用する。
R=Wd×μs
但し、μs:排雪板201と路面(雪面)204との摩擦係数
【0067】
これにより、走行型ドーザ除雪機200の牽引力F1は、
F1=W×μc−R
となる。
但し、W:走行型ドーザ除雪機200の車体重量
μc:左右のクローラ走行部205,205と路面(雪面)204との摩擦係数
【0068】
(b)において、走行型ドーザ除雪機10が除雪作業をおこなうと、排雪板26で雪202を押すため、排雪板26に下向きの押下力Wdが作用する。
排雪板26の下端部76aが路面(雪面)204にくい込んでいない。よって、下端部76aと路面(雪面)204とに摩擦力(すなわち、抵抗)Rが発生しない。
【0069】
押下力Wdは位置決め手段27を介して機体11に作用する。これにより、走行型ドーザ除雪機10の牽引力F2は、
F2=W×μc+Wd×μc
=(W+Wd)×μc
となる。
但し、W:走行型ドーザ除雪機10の車体重量
μc:左右のクローラ走行部12,13と路面(雪面)204との摩擦係数
【0070】
ここで、(a)に示す走行型ドーザ除雪機200の牽引力F1と、(b)に示す走行型ドーザ除雪機10の牽引力F2とを比較すると、
F2>F1
となる。
【0071】
このように、くい込みにより従来ロスしていた力を左右のクローラ走行部12,13に効率よく伝えることができ、走行型ドーザ除雪機10の牽引力F2が大きくなる。
これにより、走行型ドーザ除雪機10を軽量にした場合でも、排雪板26で雪202を押しながら走行型ドーザ除雪機10を前進させる牽引力F2を十分に確保することができる。
【0072】
なお、(a)に示す通常の走行型ドーザ除雪機200は、排雪板201の位置決め手段を備えていない。
このため、通常の走行型ドーザ除雪機200では、除雪作業中に、排雪板201の下端部201aを、左右のクローラ走行部205,205の下面205a,205aと同じ高さに位置決めすることは難しい。
【0073】
図9(a),(b)は本発明に係る走行型ドーザ除雪機のグリップに押下力を作用させる例を説明する図である。
(a)に通常の走行型ドーザ除雪機200を比較例として示し、(b)に図1〜図7で説明した走行型ドーザ除雪機10を実施例として示す。
比較例の走行型ドーザ除雪機200は排雪板201の(揺動)支持軸207が機体208の前端部に設けられている。
実施例の走行型ドーザ除雪機10は排雪板26の(揺動)支持軸44が機体11の後端部に設けられている。
【0074】
(a)において、走行型ドーザ除雪機200は排雪板201の下端部201aが路面(雪面)204にくい込んでいるので、牽引力F1は、図8(a)で説明したように、
F1=W×μc−R
である。
【0075】
ここで、左右のグリップ211,212に作業者が押下力Wh1を作用させる。押下力Wh1と、排雪板201に作用する押下力Wdとは、つぎの関係が成立する。
Wh1×L3≦Wd×L2
よって、作業者が左右のグリップ211,212に作用させることが可能な最大押下力Wh1は、
Wh1=Wd×(L2/L3)
である。
但し、L2:押下力Wdが作用する位置と支持軸207との間隔
L3:押下力Wh1が作用する位置と支持軸207との間隔
【0076】
これにより、走行型ドーザ除雪機200の牽引力F3は、
F3=F1+Wh1×μc
=(W+Wh1)×μc−R
となる。
【0077】
ここで、排雪板201の支持軸207が機体208の前端部に設けられているので、L3に対してL2が小さくなる。
このため、押下力Wh1を大きく確保することはできない。
よって、左右のグリップ211,212に押下力Wh1を作用させても、走行型ドーザ除雪機200の牽引力F3を大きくすることはできない。
【0078】
(b)において、走行型ドーザ除雪機10は排雪板26の下端部76aが路面(雪面)204にくい込まないように保持されているので、牽引力F2は、図8(b)で説明したように、
F2=(W+Wd)×μc
である。
【0079】
ここで、左右のグリップに51,54に作業者が押下力Wh2を作用させる。押下力Wh2と、排雪板26に作用する押下力Wdとは、つぎの関係が成立する。
Wh2×L5≦Wd×L4
よって、作業者が左右のグリップに51,54に作用させることが可能な最大押下力Wh2は、
Wh2=Wd×(L4/L5)
但し、L4:押下力Wdが作用する位置と支持軸44との間隔
L5:押下力Wh2が作用する位置と支持軸44との間隔
である。
【0080】
これにより、走行型ドーザ除雪機10の牽引力F4は、
F4=F2+Wh2×μc
=(W+Wd+Wh2)×μc
となる。
【0081】
ここで、排雪板26の支持軸44が機体11の後端部に設けられているので、L5に対してL4を大きくすることが可能である。
これにより、押下力Wh2を大きく確保することができる。
よって、除雪作業中に必要に応じて、左右のグリップ51,54に押下力Wh2を作用させることで、左右のクローラ走行部12,13と路面(雪面)204との摩擦を高めることができる。
【0082】
これにより、走行型ドーザ除雪機10の牽引力F4を大きくすることができる。
したがって、例えば、除雪作業中に、左右のクローラ走行部12,13がスリップしそうになった場合でも牽引力F4を確保して、走行型ドーザ除雪機10の除雪性能をさらに高めることができる。
【0083】
なお、前記実施の形態では、作業部として排雪板26を例示したが、これに限らないで、ロータリ除雪装置などの他の作業部とすることも可能である。
【0084】
また、前記実施の形態では、位置決め手段27として位置決めボルト83および左右のナット84,84を例示したが、これに限らないで、位置決めピンなどの他の部材を用いることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は、左右のクローラ走行部で前進走行しながら作業部で除雪作業をおこなう走行型ドーザ除雪機への適用に良好である。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明に係る走行型ドーザ除雪機を示す斜視図である。
【図2】本発明に係る走行型ドーザ除雪機を示す分解斜視図である。
【図3】本発明に係る走行型ドーザ除雪機の排雪板およびスイングパイプを示す分解斜視図である。
【図4】本発明に係る走行型ドーザ除雪機から左クローラ走行部を取り除いた状態を示す側面図である。
【図5】図4の排雪板を回送位置に位置決めした状態を示す側面図である。
【図6】図4の6−6線断面図である。
【図7】本発明に係る走行型ドーザ除雪機の排雪板を所定位置に保持する保持機構を示す側面図である。
【図8】本発明に係る走行型ドーザ除雪機の排雪板を路面(雪面)にくい込ませないで作業をおこなう例を説明する図である。
【図9】本発明に係る走行型ドーザ除雪機のグリップに押下力を作用させる例を説明する図である。
【符号の説明】
【0087】
10…走行型ドーザ除雪機、11…機体、11a…機体の前部、12…左クローラ走行部、12a…左クローラ走行部の下面(クローラ走行部の下面)、13…右クローラ走行部、13a…左クローラ走行部の下面(クローラ走行部の下面)、21…左スイングパイプ(スイング部材)、22…右スイングパイプ(スイング部材)、46…左右のスイングパイプの前傾斜部(前部)、24…左ハンドル(ハンドル)、25…右ハンドル(ハンドル)、26…排雪板(作業部)、27…位置決め手段、28…起動輪、29…遊転輪、76a…エッジの下端部(作業部の下端部)、81…中央位置、85…頭部(支え部)、91…保持機構、H1…支え部の高さ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機体の左右側に左右のクローラ走行部をそれぞれ備え、前記機体の前方に作業部を備え、前記機体の後方にハンドルを備え、前記左右のクローラ走行部で前進走行しながら前記作業部で除雪作業をおこなう歩行型ドーザ除雪機において、
前記作業部の下端部を、除雪作業時において、前記クローラ走行部の下面と同じ高さに位置決めする位置決め手段を備えたことを特徴とする走行型ドーザ除雪機。
【請求項2】
前記位置決め手段は、前記作業部を支える支え部を有し、この支え部の高さを調整可能としたことを特徴とする請求項1記載の走行型ドーザ除雪機。
【請求項3】
前記作業部は、前記ハンドルから連なるスイング部材の前部に取り付けられ、
このスイング部材は、前記クローラ走行部の起動輪および遊転輪間の中央位置よりも車体後方位置で揺動自在に支持されたことを特徴とする請求項1または請求項2記載の走行型ドーザ除雪機。
【請求項4】
前記作業部の下端部を、除雪作業時において、前記クローラ走行部の下面と同じ高さに位置決めした位置に前記作業部を保持する保持機構を備えたことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項記載の走行型ドーザ除雪機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−133603(P2008−133603A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−318870(P2006−318870)
【出願日】平成18年11月27日(2006.11.27)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】