説明

走行速度検出装置

【課題】車両の走行速度を適切に検出できる走行速度検出装置を提供する。
【解決手段】鉄道車両1の第1、第2の輪軸21,22の上下加速度を検出する第1、第2の加速度センサ101,102と、第1、第2の加速度センサが検出した加速度履歴の類似度が最大となる時間差kに基づいて対地速度を算出する対地速度算出部120と、輪軸の回転速センサ110の出力と所定の車輪径とに基づいて車輪周速度を算出する周速度変換部140と、対地速度及び車輪周速度に基づいて鉄道車両の走行速度を出力する走行速度出力部160とを備える構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両の走行速度検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の走行速度検出は、輪軸の回転数に応じたパルス信号を出力する速度発電機の出力パルス周波数から輪軸の回転速度を求め、これに予め測定され設定された車輪径を乗じることによって行われることが一般的である。
このような走行速度検出に関する従来技術として、例えば特許文献1には、車軸に連動して回転する駆動円盤の回転に応じて発生する速度パルスに基づいて速度を算出するとともに、車軸の回転と無関係な擬似パルスの影響を排除した速度算出方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−283525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、輪軸の回転速度に応じて車両の走行速度を検出する場合、例えば車輪の磨耗や研削等によって、速度算出の前提となる車輪径と実際の車輪径とが相違する場合には、検出される速度に誤差が生じてしまう。
また、空転や滑走が生じた場合にも、検出される速度には誤差が生じる。
【0005】
空転や滑走に起因する速度の検出誤差を防ぐため、複数の輪軸に速度発電機を設ける方法も提案されているが、速度発電機を設けた輪軸の全てが同時に空転や滑走した場合には有効ではない。
上述した問題に鑑み、本発明の課題は、車両の走行速度を適切に検出できる走行速度検出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するため、本発明の走行速度検出装置は、鉄道車両の第1の輪軸の上下加速度を検出する第1の加速度センサと、第1の輪軸に対して車両進行方向に離間して配置された第2の輪軸の上下加速度を検出する第2の加速度センサと、前記第1の加速度センサが検出した加速度履歴と前記第2の加速度センサが検出した加速度履歴との時間的ずれ、及び、前記第1の輪軸から前記第2の輪軸までの距離に基づいて対地速度を算出する対地速度算出部と、輪軸の回転速度に応じた信号を出力する回転速センサと、前記回転速センサの出力、及び、所定の車輪径に基づいて車輪周速度を算出する周速度変換部と、前記対地速度及び前記車輪周速度に基づいて前記鉄道車両の走行速度を出力する走行速度出力部とを備えることを特徴とする。
通常、同じ軌道上を走行する輪軸が軌道不整によって加振されて生じる上下振動は、異なる輪軸においても類似することから、第1の輪軸と第2の輪軸の加速度履歴は、車速に応じて異なる時間的ずれを有する類似した波形となる。
このため、本発明によれば、第1の加速度センサが検出した加速度履歴と第2の加速度センサが検出した加速度履歴との時間的ずれと第1の輪軸から第2の輪軸までの距離とに基づいて対地速度を算出することによって、車輪径の誤差や滑走が生じた場合であっても適切に車両の走行速度を検出することができる。
【0007】
本発明において、前記車輪径は、前記輪軸の回転速度及び前記対地速度に基づいて算出される構成とすることができる。
これによれば、第1及び第2の輪軸の加速度履歴の時間的ずれに基いて算出される対地速度を用いて車輪径を算出することによって、車輪の磨耗や研削等に関わらず回転速センサの出力に基いて算出される車輪周速度の精度を向上することができる。
【0008】
本発明において、前記走行速度出力部は、前記鉄道車両が所定の低速走行状態にある場合には前記車輪周速度を前記走行速度として出力する構成とすることができる。
低速走行状態においては、軌道不整による輪軸の振動が微弱であることから加速度の検出値が低くなり、対地速度の検出に支障を生じる懸念があるが、上記構成とすることによって、このような場合には車輪周速度を走行速度とすることができ、走行速度の検出不良を防止することができる。
【0009】
本発明において、前記走行速度出力部は、前記車輪周速度の変化率が所定値以上である場合には前記対地速度を前記走行速度として出力する構成とすることができる。
これによれば、空転や滑走によって車輪周速度が実際の走行速度から乖離した場合に、対地速度を走行速度とすることによって適切に走行速度を出力することができる。
【0010】
また、本発明において、前記走行速度出力部は、前記対地速度の現在の値と直前の値との差が所定以上である場合には前記車輪周速度を前記走行速度として出力する構成とすることができる。
これによれば、対地速度の推定誤りによって実際の速度とかけ離れた値が出力されることを防止し、信頼性を確保できる。
【0011】
また、本発明の他の態様は、鉄道車両の第1の輪軸の上下加速度を検出する第1の加速度センサと、第1の輪軸に対して車両進行方向に離間して配置された第2の輪軸の上下加速度を検出する第2の加速度センサと、前記第1の加速度センサが検出した加速度履歴と前記第2の加速度センサが検出した加速度履歴との時間的ずれ、及び、前記第1の輪軸から前記第2の輪軸までの距離に基づいて対地速度を算出する対地速度算出部と、輪軸の回転速度に応じた信号を出力する回転速センサと、前記回転速センサの出力、及び、所定の車輪径に基づいて算出される車輪周速度を前記鉄道車両の走行速度として出力する周速度変換部とを備え、前記周速度変換部は、前記車輪径を前記対地速度に基づいて補正することを特徴とする走行速度検出装置である。
これによれば、第1及び第2の輪軸の加速度履歴の時間的ずれに基いて算出される対地速度を用いて車輪径を補正することによって、車輪の磨耗や研削等に関わらず回転速センサの出力に基いて算出される車輪周速度の精度を向上することができる。
【0012】
また、本発明の他の態様は、鉄道車両の第1の輪軸の上下加速度を検出する第1の加速度センサと、第1の輪軸に対して車両進行方向に離間して配置された第2の輪軸の上下加速度を検出する第2の加速度センサと、前記第1の加速度センサが検出した加速度履歴と前記第2の加速度センサが検出した加速度履歴との時間的ずれ、及び、前記第1の輪軸から前記第2の輪軸までの距離に基づいて算出される対地速度を前記鉄道車両の走行速度として出力する対地速度算出部とを備えることを特徴とする。
これによれば、対地速度のみによって十分な精度が得られる場合には装置の構成を簡素化することができる。
【0013】
上述した各発明において、前記対地速度算出部は、前記第1の加速度センサが検出した加速度及び前記第2の加速度センサが検出した加速度のコヒーレンスが高い周波数の成分を相対的に強調するフィルタを備え、前記フィルタを通過した加速度履歴に基づいて前記対地速度を算出する構成とすることができる。
これによれば、コヒーレンスが高い周波数の成分を用いることによって加速度履歴の時間的ずれを適切に検出することができる。
【0014】
上述した各発明において、前記第1の加速度センサ及び前記第2の加速度センサは、前記第1の輪軸及び前記第2の輪軸の枕木方向における同じ側の端部を支持する軸箱にそれぞれ設けられる構成とすることができる。
これによれば、第1及び第2輪軸の加速度を適切に検出することができる。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明によれば、車両の走行速度を適切に検出できる走行速度検出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明を適用した走行速度検出装置の実施形態の構成を示すブロック図である。
【図2】実施形態の走行速度検出装置における加速度センサの出力履歴の一例を示すグラフである。図2(a)及び図2(b)は、それぞれ第1及び第2輪軸の軸箱における上下加速度を示している。
【図3】図2の加速度センサ出力を周波数分析したPSD線図である。図3(a)及び図3(b)は、それぞれ第1及び第2輪軸のデータを示している。
【図4】実施形態の走行速度検出装置における第1及び第2輪軸の軸箱上下加速度のコヒーレンス関数を示すグラフである。
【図5】実施形態の走行速度検出装置において、図4のコヒーレンス関数に基いて定義したフィルタの周波数応答特性を示すグラフである。
【図6】実施形態の走行速度検出装置におけるフィルタ通過後の加速度センサの出力履歴の一例を示すグラフである。図6(a)及び図6(b)は、それぞれ第1及び第2輪軸の軸箱における上下加速度を示している。
【図7】図6のフィルタ通過後の加速度センサ出力を周波数分析したPSD線図である。図7(a)及び図7(b)は、それぞれ第1及び第2輪軸のデータを示している。
【図8】実施形態の走行速度検出装置における第1及び第2輪軸の軸箱上下加速度(フィルタ後)の相互相関関数を示すグラフである。
【図9】実施形態の走行速度検出装置における走行速度の検出結果の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を適用した鉄道車両の走行速度検出装置の実施形態について、図面を参酌して詳細に説明する。
図1に示すように、実施形態の走行速度検出装置を備えた鉄道車両1は、車体10、第1輪軸21、第2輪軸22、第1軸箱31、第2軸箱32を備えている。
鉄道車両1は、図示しない他の車両と連結されて編成(列車)を構成し、又は単独で、図示しない軌道上を走行する。
【0018】
車体10は、乗客等が収容される部分であって、台枠上にスチール、アルミニウム系合金等からなる側構、妻構、屋根構等の各種構体を組み合わせてほぼ六面体状に形成されている。
車体10の床部に設けられる台枠は、車両の前後方向に離間して配置された一対のボギー台車の枕ばねによって支持されている。
【0019】
第1輪軸21、第2輪軸22は、レール上を転動する左右車輪とこれらを連結する車軸とを結合したものである。第1輪軸21、第2輪軸22は、車体10に取り付けられた一方のボギー台車の図示しない台車枠に、図示しない軸箱支持装置を介して取り付けられている。
第1輪軸21、第2輪軸22は、車両の進行方向前方側から、所定の軸間距離だけ離間して順次配列されている。
【0020】
第1軸箱31、第2軸箱31は、第1輪軸21、第2輪軸22の枕木方向における左右いずれかの端部(左右いずれか同じ側)を支持するものである。
第1軸箱31、第2軸箱32は、各輪軸の端部を回転可能に支持する転がり軸受及びこれを潤滑する潤滑手段等を備えるとともに、軸箱支持装置の軸バネ及び軸ダンパが接続されている。
第1軸箱31、第2軸箱32は、レールの不整によって第1輪軸21、第2輪軸22が上下方向に変位した場合に、追従して変位する。
【0021】
また、鉄道車両1には、第1加速度センサ101、第2加速度センサ102、速度発電機110、対地速度算出部120、回転速度算出部130、周速度変換部140、車輪径推定部150、比較処理部160等から構成される走行速度検出装置を備えている。
【0022】
第1加速度センサ101、第2加速度センサ102は、それぞれ第1軸箱31、第2軸箱32に固定され、各軸箱に作用する上下方向の加速度を検出する加速度ピックアップを備えている。
第1加速度センサ101、第2加速度センサ102の出力は、対地速度算出部120に伝達される。
【0023】
速度発電機110は、第1軸箱31に設けられ、第1輪軸21の車軸回転速度に比例する周波数のパルス信号を発生するものである。
速度発電機110の出力は、回転速度算出部130に伝達される。
【0024】
対地速度算出部120は、第1加速度センサ101及び第2加速度センサ102の出力に基づいて、鉄道車両1の対地速度を算出するものである。
図2(a)は、第1加速度センサ101が検出した第1軸箱31の上下加速度を示し、図2(b)は、第2加速度102が検出した第2軸箱32の上下加速度を示している。
また、図3(a)、図3(b)は、図2(a)、図2(b)に示すデータをそれぞれ周波数分析したものであって、横軸は周波数を示し、縦軸は加速度PSD(パワースペクトル密度)を示している。
【0025】
対地速度算出部120は、第1加速度センサ101、第2加速度センサ102が検出した軸箱上下加速度に対して、アンチエイリアス処理及びA/D変換を施して標本化する。
その後、対地速度算出部120は、軸箱上下加速度をフィルタに通すことによって、例えば車輪の転動やセンサのドリフトに起因するレールの凹凸(不整)によらない成分を除去又は低減する。
このようなフィルタは、第1軸箱31、第2軸箱32の上下加速度のコヒーレンス関数を予め求め、コヒーレンスの高い周波数領域が通過する特性に設定する。
ここで、コヒーレンスとは、0から1までの信号の関連性を示す値であって、関連が強いほど1に近づく。
【0026】
図4は、第1軸箱31と第2軸箱32の上下加速度のコヒーレンス関数を示すグラフである。
図4からは、10Hz付近の周波数帯域においてはコヒーレンスが高いが、それよりも高周波数側ではコヒーレンスは低下することがわかる。また、図4では2Hz近傍のコヒーレンスが高くなっているが、これはレールの不整によらないものであることがわかっているため、フィルタの設定においてはこの近傍の周波数領域を除去するような特性とする。
図5は、図4のコヒーレンス関数に基づいて定義した4次のバタワースフィルタの周波数応答を示すグラフである。
【0027】
図6(a)、図6(b)は、それぞれフィルタ通過後の第1軸箱31、第2軸箱32の上下加速度の履歴を示すグラフである。
また、図7(a)、図7(b)は、図6(a)、図6(b)に示すデータをそれぞれ周波数分析したものであって、横軸は周波数を示し、縦軸は加速度PSD(パワースペクトル密度)を示している。
【0028】
なお、これ以降の計算負荷を軽減したい場合には、フィルタ通過後の加速度を極性に応じて二値化してもよい。例えば、具体的には、極性が正のときには1とし、負のときには0とすればよい。
【0029】
フィルタ通過後の上下加速度(又はこれを二値化した値)は、例えばリングバッファ等に最新の一定時間の値が記憶される。
次に、このようにして記憶されたフィルタ通過後の第1軸箱31、第2軸箱32の上下加速度の相互相関関数を求める。
すなわち、現在から一定サンプル数Wの第2軸箱32側(後軸側)の配列aを基準として、同じサンプル数の第1軸箱31側(前軸側)の配列aを参照し、2つの積の総和をとることによって類似度を求める。
【0030】
図8に示すように、この処理を第1軸箱31側の参照先を過去側に逐次シフトしながら行い、シフト量(時間的ずれ)kに対する類似度Rxy(k)を求める。
この類似度Rxy(k)を式1に示す。
【数1】

また、上述した二値化を行っている場合には、類似度Rxy(k)は以下の式2に示す否定排他的論理和(XNOR)となる。
【数2】

【0031】
対地速度算出部120は、類似度が最大となるシフト量kを時間差に換算し、その時間差で第1輪軸21と第2輪軸22との軸間距離を除して対地速度vを算出する。
算出された対地速度vは、車輪径推定部150及び比較処理部160に伝達される。
なお、上述した例では、フィルタ処理を標本化の後に行っているが、アンチエイリアス機能を有するフィルタを用いてアナログ段階でフィルタ処理を行い、その後A/D変換して標本化するようにしてもよい。
【0032】
回転速度算出部130は、速度発電機110からのパルス信号を取得して、そのパルス間隔τと、車軸1回転あたりのパルス数pから車輪回転速度fを求める。パルス数pは、速度発電機110の仕様により決まる。
車輪回転速度fは、以下の式3によって求められる。
【数3】

回転速度算出部130の出力は、周速度変換部140及び車輪径推定部150に伝達される。
【0033】
周速度変換部140は、回転速度算出部130が算出した車輪回転速度f、及び、車輪径推定部150が推定した車輪径dを用いて、以下の式4により車輪周速度vを求めるものである。

v=πdf ・・・(式4)

【0034】
車輪径推定部150は、対地速度算出部120が算出した対地速度v及び回転速度算出部130が算出した車輪回転速度fを用いて、輪軸21の車輪の車輪径dを推定するものである。
対地速度v及び車輪回転速度fは、前後の値からの乖離が大きい外れ値の除去後、それぞれ一定時間の平均が取られる。
車輪径dは、以下の式5によって求められる。
【数4】

【0035】
外れ値の除去は、例えば低速走行時等のように、第1輪軸21と第2輪軸22の加速度の類似性が低い場合に、対地速度Vが誤って算出されることへの対応として必要である。また、空転や滑走が生じている場合には、式5は成り立たない。
しかし、車輪径dは長期的かつ徐々に変化するものであるため、対地速度v及び車輪回転速度fが安定的に得られる場合にのみ離散的に算出し、これが従前推定された車輪径dから変化した場合に周速度変換部140で利用される車輪径dを補正すればよい。
車輪径推定部150が推定した車輪径dは、周速度変換部140に伝達される。
【0036】
比較処理部160は、周速度変換部140が算出した車輪周速度v、及び、対地速度算出部120が算出した対地速度vに基づいて、確からしい走行速度を出力する走行速度出力部である。
車輪周速度vと対地速度vとが実質的に一致する場合には、比較処理部160は、この値を走行速度として出力する。
【0037】
また、車輪周速度vと対地速度vとが乖離した場合には、比較処理部160は、以下のようにして走行速度を出力する。
(1)車輪周速度vが予め設定された閾値以下となる低速走行状態である場合には、軸箱上下加速度に基づいた対地速度vの算出が困難であるとして、車輪周速度vを走行速度として出力する。
(2)直前における車輪周速度vの時間あたり変化率が予め設定された閾値以上である場合には、空転、滑走が生じているものとして対地速度vを走行速度として出力する。
(3)対地速度vの現在の値と直前の値との差が予め設定された閾値以上である場合には、対地速度vの誤推定のおそれがあるものとして、車輪周速度vを走行速度として出力する。
【0038】
実施形態の走行速度検出装置における走行速度検出結果の一例を図9に示す。
図9(a)は、速度発電機110の出力に基いて算出される車輪周速度vの履歴を示す。
図9(b)は、第1加速度センサ101及び第2加速度センサ102の出力に基いて算出される対地速度vの履歴を示す。
図9(c)は、車輪周速度vと対地速度vとの差を示す。
これらの各図から明らかなように、車両の発進直後及び停止直前の低速走行時に、対地速度vの誤差がやや大きくなる傾向はあるが、低速走行時以外では車輪周速度vと対地速度vとはほぼ一致することがわかる。
【0039】
また、図9(d)は、二値化後の軸箱上下加速度に基いて算出した対地速度vの履歴を示す。
図9(e)は、車輪周速度vと二値化を行って算出した対地速度vとの差を示す。
このように、軸箱上下加速度を二値化して対地速度を算出した場合には、軸箱上下加速度を二値化せずに算出した場合に対して、異常値が発生して誤差が生じる頻度はやや向上するが、基本的には同様の特性を示すことがわかる。
このため、異常値の除外や車輪周速度vとの比較参照などによって誤差対策が可能な場合には、演算負荷を軽減しつつ実用上問題のない出力を得ることができる。
以上説明したように、本実施形態によれば、車輪の磨耗や研削、さらに空転や滑走の発生に関わらず、車両の走行速度を適切に検出可能な走行速度検出装置を提供することができる。
【0040】
(他の実施形態)
なお、本発明は上記した実施形態のみに限定されるものではなく、種々の応用や変形が考えられる。
例えば、上述した実施形態では、対地速度算出部が算出した対地速度と速度発電機の出力パルスに基づいて算出した車輪周速度とを比較処理部で照合して走行速度を得ているが、これに代えて、対地速度に基づいて車輪周速度演算用の車輪径を補正し、車輪周速度を走行速度として出力する構成としてもよい。すなわち、この場合には、軸箱の加速度に基づいて算出される対地速度は、専ら車輪径の補正にのみ用いられる。
また、軸箱の加速度に基づいて算出される対地速度のみで十分な精度が得られる場合には、速度発電機の出力を用いず(この場合速度発電機自体が存在しない構成としてもよい)、対地速度を走行速度として出力する構成としてもよい。
また、上述した実施形態では、加速度センサは同一台車の前後輪軸を支持する軸箱にそれぞれ設けているが、これに限らず、例えば同一車両の別の台車の軸箱や、同一編成内の別の車両の軸箱に複数の加速度センサをそれぞれ設けてもよい。
また、上述した実施形態では、2箇所の加速度センサ及び1箇所の速度発電機を備えているが、例えば3箇所以上の加速度センサや2箇所以上の速度発電機を設けてもよい。さらに、速度発電機を加速度センサが設けられる軸箱以外の軸箱に設けてもよい。
【符号の説明】
【0041】
1 鉄道車両 10 車体
21 第1輪軸 22 第2輪軸
31 第1軸箱 32 第2軸箱
101 第1加速度センサ 102 第2加速度センサ
110 速度発電機 120 対地速度算出部
130 回転速度算出部 140 周速度変換部
150 車輪径推定部 160 比較処理部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両の第1の輪軸の上下加速度を検出する第1の加速度センサと、
第1の輪軸に対して車両進行方向に離間して配置された第2の輪軸の上下加速度を検出する第2の加速度センサと、
前記第1の加速度センサが検出した加速度履歴と前記第2の加速度センサが検出した加速度履歴との時間的ずれ、及び、前記第1の輪軸から前記第2の輪軸までの距離に基づいて対地速度を算出する対地速度算出部と、
輪軸の回転速度に応じた信号を出力する回転速センサと、
前記回転速センサの出力、及び、所定の車輪径に基づいて車輪周速度を算出する周速度変換部と、
前記対地速度及び前記車輪周速度に基づいて前記鉄道車両の走行速度を出力する走行速度出力部と
を備えることを特徴とする走行速度検出装置。
【請求項2】
前記車輪径は、前記輪軸の回転速度及び前記対地速度に基づいて算出されること
を特徴とする請求項1に記載の走行速度検出装置。
【請求項3】
前記走行速度出力部は、前記鉄道車両が所定の低速走行状態にある場合には前記車輪周速度を前記走行速度として出力すること
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載の走行速度検出装置。
【請求項4】
前記走行速度出力部は、前記車輪周速度の変化率が所定値以上である場合には前記対地速度を前記走行速度として出力すること
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載の走行速度検出装置。
【請求項5】
前記走行速度出力部は、前記走行速度出力部は、前記対地速度の現在の値と直前の値との差が所定以上である場合には前記車輪周速度を前記走行速度として出力すること
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載の走行速度検出装置。
【請求項6】
鉄道車両の第1の輪軸の上下加速度を検出する第1の加速度センサと、
第1の輪軸に対して車両進行方向に離間して配置された第2の輪軸の上下加速度を検出する第2の加速度センサと、
前記第1の加速度センサが検出した加速度履歴と前記第2の加速度センサが検出した加速度履歴との時間的ずれ、及び、前記第1の輪軸から前記第2の輪軸までの距離に基づいて対地速度を算出する対地速度算出部と、
輪軸の回転速度に応じた信号を出力する回転速センサと、
前記回転速センサの出力、及び、所定の車輪径に基づいて算出される車輪周速度を前記鉄道車両の走行速度として出力する周速度変換部とを備え、
前記周速度変換部は、前記車輪径を前記対地速度に基づいて補正すること
を特徴とする走行速度検出装置。
【請求項7】
鉄道車両の第1の輪軸の上下加速度を検出する第1の加速度センサと、
第1の輪軸に対して車両進行方向に離間して配置された第2の輪軸の上下加速度を検出する第2の加速度センサと、
前記第1の加速度センサが検出した加速度履歴と前記第2の加速度センサが検出した加速度履歴との時間的ずれ、及び、前記第1の輪軸から前記第2の輪軸までの距離に基づいて算出される対地速度を前記鉄道車両の走行速度として出力する対地速度算出部と
を備えることを特徴とする走行速度検出装置。
【請求項8】
前記対地速度算出部は、前記第1の加速度センサが検出した加速度及び前記第2の加速度センサが検出した加速度のコヒーレンスが高い周波数の成分を相対的に強調するフィルタを備え、前記フィルタを通過した加速度履歴に基づいて前記対地速度を算出すること
を特徴とする請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載の走行速度検出装置。
【請求項9】
前記第1の加速度センサ及び前記第2の加速度センサは、前記第1の輪軸及び前記第2の輪軸の枕木方向における同じ側の端部を支持する軸箱にそれぞれ設けられること
を特徴とする請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載の走行速度検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−42271(P2012−42271A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−182237(P2010−182237)
【出願日】平成22年8月17日(2010.8.17)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)