説明

起毛経編地

【課題】起毛の触感に優れ、かつ布帛カールや毛倒れがなく品位にも優れた起毛経編地を提供する。
【解決手段】ポリトリメチレンテレフタレートからなる分率60〜90質量%の鞘成分とポリトリメチレンテレフタレート以外のポリエステルからなる分率10〜40質量%の芯成分とからなる芯鞘複合繊維を含み、起毛面がオールカット起毛されていることを特徴とする起毛経編地。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、起毛経編地に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石油資源の大量消費によって生じる地球温暖化や、大量消費に伴う石油資源の枯渇が懸念されており、地球規模にて環境に対する意識が高まりつつある。このような背景において、環境負荷の低い材料が要望されている。
【0003】
環境負荷の低い材料のなかでもポリトリメチレンテレフタレート(PTT)は、ヤング率が低く起毛した際の触感にも優れているため、起毛布帛用材料としても注目すべきものである。 例えば特許文献1,2には、PTT繊維を使用した起毛布帛が開示されている。しかし、当該技術では、布帛カールや毛倒れ等の問題があった。
【0004】
一方、特許文献3には、鞘部にPTT等の芳香族ポリエステル重合体を用い、芯部にポリ乳酸等の脂肪族ポリエステルを用いた芯鞘複合繊維とすることが開示されている。しかし、本技術は織物を基布とするモケットパイル布帛に関するものであり、編物にしたときに発生する布帛カールや毛倒れに関しては検討がされていなかった。
【特許文献1】特開平11−152662号公報
【特許文献2】特開平11−081106号公報
【特許文献3】特開2005−281891号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、起毛の触感に優れ、かつ布帛カールや毛倒れがなく品位にも優れた起毛経編地を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明は、ポリトリメチレンテレフタレートからなる分率60〜90質量%の鞘成分とポリトリメチレンテレフタレート以外のポリエステルからなる分率10〜40質量%の芯成分とからなる芯鞘複合繊維を含んでなることを特徴とする起毛経編地である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、起毛の触感に優れ、かつ布帛カールや毛倒れがなく品位にも優れた起毛経編地を得ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の起毛経編地は、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)を鞘成分に有する芯鞘複合繊維を含むことが必要である。そうすることで、環境負荷が低くかつ起毛の触感に優れた起毛経編地を得ることができる。またPTTは耐摩耗性、耐湿熱老化性にも優れるため、鞘成分に適している。
【0009】
PTTとは、1,3−トリメチレングリコール成分と、テレフタル酸成分から構成される繰り返し単位(トリメチレンテレフタレート単位)を含むポリエステルであり、グリコール成分に炭素数3個のメチレン鎖を有することにより、伸長変形に対して結晶構造自身が伸縮するという特徴を有する。そのため、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリブチレンテレフタレート(PBT)と比べても、極めてモジュラスが低く、弾性回復性が高い特徴を持つ。またPETと対比して、湿熱処理や、アルカリ処理などによる耐久性(強度保持率)は2〜4倍であり、芯鞘複合繊維の鞘成分として好適である。
【0010】
トリメチレンテレフタレート単位を構成する1,3−トリメチレングリコールとしては、バイオマス材料由来のものであることが、低環境負荷の点から好ましい。
【0011】
PTTは、トリメチレンテレフタレート単位以外に、他の成分を共重合していてもよいが、PTTの特徴を活かす上では、トリメチレンテレフタレート単位が90モル%以上であることが好ましく、より好ましくは92モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上である。
【0012】
PTTに共重合される成分として、ジカルボン酸成分としては例えば、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、4,4’ジフェニルジカルボン酸、4,4’ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’ジフェニルスルホンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸成分や、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸、エイコサンジオン酸等の脂肪族ジカルボン酸成分等を用いることができる。
また、グリコール成分としては例えば、エチレングリコール、1,2−トリメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリアルキレングリコール、2,2’ビス(4’−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン等を用いることができる。
これらの共重合成分は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0013】
また、芯鞘複合繊維の鞘成分は、目的に応じて、他のポリマー、粒子、難燃剤、帯電防止剤、抗酸化剤、紫外線吸収剤等の添加物を含有していてもよい。
【0014】
また、PTTには通常、2つのトリメチレンテレフタレートが環状に連結されたダイマー(以下、「環状ダイマー」と記載する。)が存在しうるが、PTT中の環状ダイマーの含有量としては3質量%以下が好ましく、より好ましくは2.5質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下である。PTT中の環状ダイマーの含有量を3質量%以下に抑えることにより、PTTの耐加水分解性を向上させることができる。環状ダイマーと加水分解性との関係としては、環状ダイマーが加水分解によりトリメチレンテレフタレートモノマーとなり、当該モノマーによる触媒作用により、加水分解が促進されるものであると推測している。
【0015】
PTTの固有粘度としては、0.8〜2dl/gが好ましく、より好ましくは1〜1.8dl/g、さらに好ましくは1.2〜1.6dl/gである。0.8dl/g以上とすることで、PTTの分子配向が向上し、捲縮糸の弾性回復性、および弾性回復の堅牢度が向上する。一方、2dl/g以下とすることで、溶融紡糸時の急激な分子量低下を抑え、ポリマーの溶融流動の不安定化による複合紡糸の不安定化等を抑えることができる。
【0016】
芯鞘複合繊維の鞘成分におけるPTTの含有量としては、80質量%以上であることが好ましく、より好ましくは85質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上である。
【0017】
本発明の起毛経編地は、PTT以外のポリエステルを芯成分に有する芯鞘複合繊維を含むことが必要である。そうすることで、PTTを含む糸の遅延回復を抑え、布帛カールや毛倒れの発生を抑えることができる。
【0018】
ポリエステルは、ジカルボン酸成分とグリコール成分とから構成される。
【0019】
芯成分に用いるPTT以外のポリエステルのジカルボン酸成分としては例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、4,4’ジフェニルジカルボン酸、4,4’ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’ジフェニルスルホンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸成分や、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸、エイコサンジオン酸等の脂肪族ジカルボン酸成分等を用いることができる。これらのジカルボン酸成分は、1種類を単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
また、グリコール成分としては例えば、エチレングリコール、1,3−トリメチレングリコール、1,2−トリメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリアルキレングリコール、2,2’ビス(4’−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン等を用いることができる。これらのグリコール成分は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0020】
ただし、結晶性が高く、寸法安定性の高いポリエステルほど遅延回復性を抑え易いことから、芯成分のPTT以外のポリエステルの90モル%以上が、1種類のジカルボン酸成分と、1種類のグリコール成分とからなる繰り返し単位で構成されることが好ましく、92モル%以上であることがより好ましく、95モル%以上であることがさらに好ましい。
【0021】
芯成分に用いるPTT以外のポリエステルの具体例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、またはポリ乳酸が、PTTを含む糸の遅延回復を抑え、均一性に優れた起毛経編地を得る上で好ましい。
【0022】
芯成分に用いるPETとしては、エチレンテレフタレート単位以外に、他の成分を共重合していることも好ましい。エチレンテレフタレート単位のみからなるPETの融点は254℃とPTTの融点(230℃)よりも高く、PTTとの安定した複合紡糸や複合繊維の形成を達成する上で、PTTの溶融温度領域におけるPETの流動性を高めるためである。かかる共重合成分としては例えば、イソフタル酸やビスフェノールA等を挙げることができる。共重合量としては、PETの流動性を高める上では、0.1モル%以上であることが好ましい。一方、PTTの遅延回復を抑える上では、10モル%以下とすることが好ましい。
【0023】
PETの固有粘度としては、0.4〜0.6dl/gが好ましく、より好ましくは0.43〜0.56dl/g、さらに好ましくは0.46〜0.53dl/gである。0.6dl/g以下とすることで、PTTとの安定した複合紡糸や複合繊維の形成を達成することができる。一方、0.4dl/g以上とすることで、耐熱性、強度、耐加水分解性等を維持することができる。
【0024】
ポリ乳酸は、−(O−CHCH−CO)−を繰り返し単位とするポリマーであり、乳酸やそのオリゴマーを重合したものである。乳酸にはD−乳酸とL−乳酸の2種類の光学異性体が存在するが、そのいずれにしても、ポリ乳酸の光学純度が高いほどポリ乳酸の結晶性を高め、融点すなわち耐熱性を向上させるとともにPTTを含む捲縮糸の遅延回復を抑えることができ好ましい。ポリ乳酸の光学純度としては、90%以上が好ましく、より好ましくは93%以上、さらに好ましくは97%以上、さらに好ましくは99.5%以上である。ポリ乳酸の融点としては、繊維の耐熱性を維持するために150℃以上であることが好ましいが、光学純度90%で融点を約150℃、光学純度93%で融点を約160℃、光学純度97%で融点を約170℃とすることができる。
【0025】
また、ポリ(L乳酸)とポリ(D乳酸)とをブレンドして繊維の芯成分として成形した後、140℃以上の高温熱処理を施してラセミ結晶を形成させたステレオコンプレックスにすると、結晶性を高め、融点を220〜230℃にまで高めることができ、好ましい。この場合のポリ(L乳酸)とポリ(D乳酸)とのブレンド比としては、40/60〜60/40が、ステレオコンプレックス結晶の比率を高めることができ好ましい。
【0026】
また、ポリ乳酸は、乳酸以外の成分を共重合していてもよい。共重合する成分としては、ポリエチレングリコールなどのポリアルキレンエーテルグリコール、ポリブチレンサクシネートやポリグリコール酸などの脂肪族ポリエステル、ポリエチレンイソフタレートなどの芳香族ポリエステル、およびヒドロキシカルボン酸、ラクトン、ジカルボン酸、ジオールなどのエステル結合形成性の単量体が挙げられる。なかでも、ポリアルキレンエーテルグリコールが溶融温度領域での流動性をコントロールすることができ好ましい。共重合量としては、PETの流動性を高める上では、0.1モル%以上であることが好ましい。一方、PTTの遅延回復を抑える上では、10モル%以下とすることが好ましい。
【0027】
また、ポリ乳酸中には通常、ラクチド等の低分子量残留物が存在しうるが、ポリ乳酸中の低分子量残留物として1質量%以下が好ましく、より好ましくは0.5質量%以下、さらに好ましくは0.2質量%以下である。ポリ乳酸中の低分子量残留物を抑えることにより、加水分解を抑え、耐久性を向上させることができる。ポリ乳酸中の低分子量残留物を低減させる方法としては、重合方法として固相重合を採用することや、ペレットを80℃程度の温水で洗浄することが挙げられる。
【0028】
ポリ乳酸の重量平均分子量としては、PTTとの安定した複合紡糸の点から、10万〜27万が好ましく、より好ましくは12万〜26万、さらに好ましくは14万〜25万、さらに好ましくは16万〜24万である。
【0029】
ポリ乳酸は、粒子、結晶核剤、難燃剤、可塑剤、帯電防止剤、抗酸化剤、紫外線吸収剤、架橋剤等の改質剤を含有していてもよい。
【0030】
芯鞘複合繊維におけるPTTからなる鞘成分の分率としては、60質量%以上とすることが重要であり、好ましくは62質量%以上、より好ましくは65質量%以上である。60質量%以上とすることで、低モジュラス性、弾性回復性、高バルキー性、耐加水分解性といったPTTの特徴を芯鞘複合繊維にも発現させることができる。
【0031】
一方、芯鞘複合繊維におけるPTT以外のポリエステルからなる芯成分の分率としては、10質量%以上とすることが重要であり、好ましくは20質量%以上、より好ましくは22質量%以上、さらに好ましくは25質量%以上である。20質量%以上とすることで、PTTを含む糸の遅延回復を抑え、ひいては均一性に優れた起毛経編地を得ることができる。
【0032】
芯鞘複合の構造としては、単芯構造でもよいし、2芯、3芯といった多芯構造でもよい。
【0033】
芯鞘複合繊維における、残存モノマー及び残存オリゴマーの分も含めた、カルボキシル末端濃度としては、30当量/tonが好ましく、好ましくは20当量/ton以下、より好ましくは10当量/ton以下である。20当量/ton以下とすることで、耐熱性および耐加水分解性を向上させることができる。
【0034】
カルボキシル末端基濃度を抑える方法としては、繊維を構成する成分に、活性水素反応性基等のカルボキシル末端基との反応性に富んだ反応性基を有する末端封鎖剤を含有させる方法が有効である。また、例えば一分子中に二個以上の活性水素反応性基を有する末端封鎖剤を添加することで、当該末端封鎖剤が鞘成分のカルボキシル末端基および芯成分のカルボキシル末端基と反応して結合し、芯鞘複合界面の接着性をさらに向上させることもできる。
【0035】
活性水素反応性基としては例えば、グリシジル基、オキサゾリン基、カルボジイミド基、アジリジン基、イミド基、イソシアナート基、酸無水物基(無水マレイン酸から生成する基(無水マレイン酸基)等)等を挙げることができる。上記反応性基の中でもグリシジル基、オキサゾリン基、カルボジイミド基、無水マレイン酸基を好ましく用いることができ、特に、グリシジル基、カルボジイミド基を好ましく用いることができる。
【0036】
また、末端封鎖剤の具体的な例としては、トリアジン環にグリシジルユニットを二個以上有するものも、耐熱性が高いため好ましい。例えば、トリグリシジルイソシアヌレート(TGIC)、モノアリルジグリシジルイソシアヌレート(MADGIC)等が好ましく用いられる。
【0037】
芯鞘複合繊維の断面形状としては、丸断面、中空断面、多孔中空断面、三葉断面(三角断面、Y断面、T断面など)や四葉断面(X断面)等の多葉断面、扁平断面、W断面等を採用することが可能である。
【0038】
ただし、芯鞘複合繊維の横断面の異形度は3.0以下であることが必要であり、好ましくは2.5以下である。異形度を3.0以下とすることで、表面の平滑性に優れ、ソフトタッチで低刺激性の起毛経編地を得ることができる。一方、起毛経編地としたときの布帛光沢感を得る上では、1.1以上とすることが好ましい。ここで、異形度は、断面における内接円の径に対する外接円の径の比で表される。
【0039】
芯鞘複合繊維の単繊維の繊度としては、0.5〜5dtexが好ましい。0.5dtex以上とすることで、起毛経編地使用時の毛倒れを抑えることができる。また、5dtex以下とすることで、風合いが硬くなるのを抑えることができる。
【0040】
芯鞘複合繊維糸の総繊度としては、50〜150dtexが好ましい。50dtex以上とすることで、引張強力、引裂強力に優れた起毛経編地を得ることが出来る。また150dtex以下とすることで、起毛経編地の良好な起毛の触感を維持することができる。
【0041】
本発明の起毛経編地に用いる芯鞘複合繊維糸の強度としては、2.0cN/dtex以上が好ましく、より好ましくは2.5cN/dtex以上である。2.0cN/dtex以上とすることで、強度に優れた起毛経編地を得ることができ、製造工程における工程通過性も良好となる。
【0042】
本発明の起毛経編地に用いる芯鞘複合繊維糸は、仮撚加工されていることも好ましい。仮撚加工の方法としては、ピン、フリクション、ニップベルト、エアー加撚等いずれの方法でもよい。加熱ヒーターは、接触式、非接触式いずれでもよい。
【0043】
本発明の起毛経編地に用いる芯鞘複合繊維糸は、160℃の乾熱処理による放縮率が0.9〜1.4%であることが好ましい。0.9%以上とすることで、起毛経編地としての優れた触感を得ることができる。また1.4%以下とすることで、布帛カールの発生を抑えることができる。
【0044】
本発明の起毛経編地は、芯鞘複合繊維糸の他の糸を含んでいてもよい。ただし、起毛を施す経編組織のフロント糸には、起毛の触感に優れるというその特性を活かすため主として前述の芯鞘複合繊維糸を配することが好ましい。例えばバック糸にPET繊維糸を用いた場合、起毛経編地の形態安定性を増すことができ、また、安価であるため経済的にも好ましい。
【0045】
起毛経編地の組織として例えば、トリコット組織では、4枚筬ではフロント糸の筬2枚の組織を4−5/1−0、4−5/1−0、バック糸の筬2枚の組織を1−0/1−2、1−0/1−2とするもの、3枚筬では、フロント糸の組織を4−5/1−0、ミドル糸の組織を1−0/1−2、バック糸の組織を1−0/1−2とするもの、2枚筬ではフロント糸の組織を2−3/1−0、バック糸の組織を1−0/1−2とするものや、フロント糸の組織を3−4/1−0、バック糸の組織を1−0/1−2とするものを挙げることができる。
【0046】
起毛方法としては、オールカット向けに針の先端がナイフ状の針布を用いた、針布起毛により、オールカット起毛を行った後、シャーリングにより起毛面を整える方法が挙げられる。その他、起毛経編地の、ダブルラッセル組織を形成し、その布帛を厚み方向に半裁し、シャーリングにより起毛面を整える方法でも得ることができる。
【0047】
オールカット起毛とは、起毛面のパイル先端のほとんどすべてがカットされていて、ループ状のパイルが残っていないか殆ど残っていない生地であり、手触り、表面品位に優れている。
【0048】
また、本発明の起毛経編地には仕上加工を行うことも好ましい。また、起毛経編地に吸湿、吸水、抗菌、防臭、速乾、難燃などの機能を付与することも好ましい。機能付与の方法としては例えば、ディップ−ニップ方式、スプレー方式等を挙げることができる。また、捺染等の方法により図柄をプリントしても良い。
【0049】
本発明の起毛経編地は、160℃の乾熱で30分処理後の編地の経方向の収縮率が1.0%以上であることが好ましく、より好ましくは1.2%以上、さらに好ましくは1.5%以上である。1.0%以上とすることで、フロント糸とバック糸の応力が均衡するのに適当なループ間隔を確保し、布帛カールの発生を抑えることができる。
【実施例】
【0050】
[測定方法]
(1)固有粘度
試料0.8gに、o−クロロフェノール(以下OCPと略記する)10mlを添加し、160℃、30分間で溶解した後、徐冷し測定溶液を得た。当該測定溶液について、25℃にてオストワルド粘度計を用いて、相対粘度ηを次式により求め、固有粘度を次々式により算出した。
η=η/η=(t×d)/(t×d
固有粘度=0.0242η+0.2634
ここに、η:測定溶液の粘度
η:OCPの粘度
t:溶液の落下時間(秒)
d:溶液の密度(g/cm
:OCPの落下時間(秒)
:OCPの密度(g/cm)。
【0051】
(2)ポリ乳酸ポリマーの重量平均分子量測定
試料50mgをクロロホルム溶媒の溶解し、島津製作所社製ゲルパーミエイションクロマトグラフィー装置を用いた。カラムには昭和電工社製“shodex”K805を2本連結したものを用い、検出器には島津製作所社製RID−10Aを用いた。流速1mL/分にて測定し、得られたピークをポリスチレン換算で重量平均分子量を求めた。測定数は5回とし、その平均値を算出した。
【0052】
(3)鞘成分、芯成分の分率
溶融紡糸における鞘成分の吐出量(g/分)と、芯成分の吐出量(g/分)とを別々に計量し、芯成分/鞘成分の吐出量を、芯成分の吐出量と鞘成分の吐出量との和によって除した後、100倍することで芯成分/鞘成分の質量分率を算出した。
【0053】
また、紡糸後の繊維からの測定方法としては、芯鞘複合繊維の断面写真から、鞘成分の面積(A)、芯成分の面積(A)を求め、鞘成分の密度(ρ)と、芯成分の密度(ρ)を用いて、次式により算出することができる。
芯成分の分率(%)={Aρ/(Aρ+Aρ)}×100
鞘成分の分率(%)={Aρ/(Aρ+Aρ)}×100
なお、密度ρとして、PTTは1.30g/cm程度、PETは1.38g/cm程度、ポリ乳酸は1.26g/cm程度である。
【0054】
(4)160℃の乾熱処理による繊維の放縮率
糸を1m×10回のかせに取り、そのかせに、9.1×10−3cN/dtexの荷重を掛け、初期かせ長(L)を測定した。次に、9.1×10−3cN/dtexの荷重を掛けた状態で160℃、15分の乾熱処理を行い、乾熱処理直後(30秒以内)の荷重を掛けた状態でのかせ長(L)を測定した。次いで、荷重を4.6×10−3cN/dtexに換え、20℃で30分放置した後、かせ長(L)を測定した。そして次式により放縮率をもとめ、n数5の平均値を算出した。
放縮率(%)={(L−L)/L}×100
ここに、L:初期のかせ長(mm)
:乾熱処理直後のかせ長(mm)
:20℃で30分放置後のかせ長(mm)。
【0055】
(5)乾熱収縮率
タテ方向について、幅25cm×長さ約25cmの試験片を3枚採取し、試験片の中央部に20cm間隔の標線を付け、標線間の距離を0.1mmまで測定した。
試験片の一端をつかんで試験片の長さ方向(経方向)が鉛直になるように160℃±2℃の恒温乾燥機内につり下げ、30分間放置し、取り出して室温まで冷却した。
そして、再度、標線間の距離を0.1mmまで測定した。
次式によって収縮率を求め、その平均値を算出した。
乾熱収縮率(%)={(L−L)/L}×100
ここに、L:加熱前の標線間の距離
:加熱後の標線間の距離。
【0056】
(6)布帛カール
試料からを25cm×25cmの試験片を切り出し、水平に静置したときに布帛の端部が丸まるものを「有り」、端部に丸まりが無いものを「無し」とした。
【0057】
(7)起毛品位
起毛経編地の表面を観察して、次の基準により評価を行った。
良好:起毛のバラツキが少なく、品位に優れる。
不良:起毛のバラツキが多く、表面が凸凹に見える。
【0058】
(8)毛倒れ性
70×70mmの試験片にφ40mmの円柱型のおもり(4.9N)をのせ、庫内を80℃にした乾燥機中に2時間放置後、ただちに毛倒れの状態を観察し、次の基準により、0.5級刻みで評価した。
5級:全く毛倒れが認められない。
4級:わずかに毛倒れが認められるが、ほとんど目立たない。
3級:明らかに毛倒れが認められるが、目立ちの少ない。
2級:やや毛倒れが著しい。
1級:かなり毛倒れが著しい。
【0059】
(9)ぬめり感
起毛経編地の表面のぬめり感を次の基準により評価した。
優良:ぬめり感がある。
良好:ぬめり感があるが、優良より劣る。
不良:がさつき感があり、ぬめり感がない。
【0060】
[実施例1〜3、比較例1]
(複合繊維糸)
(鞘成分)
固有粘度1.5g/dlのPTTを鞘成分として用いた。
【0061】
(芯成分)
固有粘度0.5g/dlのPETを芯成分として用いた。
【0062】
(複合紡糸)
上記鞘成分および上記芯成分を表1に記載の分率で溶融紡糸機に供給し、口金内で単芯の芯鞘構造に複合させ、紡糸温度270℃で繊維状に吐出させた。
吐出された繊維状のポリマーをチムニー風により冷却固化し、油剤液を付与し、ロール回転速度1600m/分、ロール温度55℃で引いた。
糸条を巻き取ることなく引き続いて、ロール回転速度4200m/分、ロール温度150℃で延伸を行い、引き続いてロール回転速度3990m/分、ロール温度150℃でリラックス熱処理を行い、フィラメント数48、総繊度84dtexの芯鞘複合繊維糸を得た。
【0063】
(起毛経編地)
上記芯鞘複合繊維糸を用い、28ゲージのトリコット経編機にて、4枚筬でフロント糸の筬2枚の組織を4−5/1−0、4−5/1−0、バック糸の筬2枚の組織を1−2/1−0、1−2/1−0として、機上コース密度を72コース/2.54cmとして経編地を編成した。
得られた経編地を液流染色機にて120℃で30分染色し、80℃で20分の湯洗いを2回行った後、編地のフロント糸側をオールカット向け針布起毛機にてオールカット起毛した。その後、シャーリングにより、カット起毛面を整え、160℃の乾熱で1分、仕上セットを行い、起毛経編地を得た。
【0064】
[実施例4、比較例2]
(複合繊維糸)
(鞘成分)
実施例1〜3で用いたのと同様のものを用いた。
【0065】
(芯成分)
重量平均分子量21.2万のポリ乳酸を芯成分として用いた。
【0066】
(複合紡糸)
上記鞘成分および上記芯成分を表1に記載の分率で用いた以外は実施例1〜3と同様にして、フィラメント数48、総繊度84dtexの芯鞘複合繊維糸を得た。
【0067】
(起毛経編地)
上記芯鞘複合繊維糸を用いた以外は実施例1〜3と同様にして、起毛経編地を得た。
【0068】
[比較例3]
(複合繊維糸)
複合繊維糸は用いず、かわりに、固有粘度1.5g/dlのPTT単独からなる、フィラメント数48、総繊度84dtexのPTT繊維糸を用いた。
【0069】
(起毛経編地)
上記PTT繊維糸を用いた以外は実施例1〜3と同様にして、起毛経編地を得た。
【0070】
[比較例4]
(複合繊維糸)
複合繊維糸は用いず、かわりに、固有粘度0.5g/dlのPET単独からなる、フィラメント数48、総繊度84dtexのPET繊維糸を用いた。
【0071】
(起毛経編地)
上記PET繊維糸を用いた以外は実施例1〜3と同様にして、起毛経編地を得た。
【0072】
[比較例5]
(複合繊維糸)
複合繊維糸は用いず、かわりに、重量平均分子量21.2万のポリ乳酸単独からなる、フィラメント数48、総繊度84dtexのポリ乳酸繊維糸を用いた。
【0073】
(起毛経編地)
上記ポリ乳酸繊維糸を用いた以外は実施例1〜3と同様にして、起毛経編地を得た。
得られた起毛経編地は、起毛品位が不良であった。ポリ乳酸繊維の耐摩耗性が低いためと考えられる。
【0074】
【表1】

【0075】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の起毛経編地は、衣料用途、インテリア用途、内装資材用途等に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリトリメチレンテレフタレートからなる分率60〜90質量%の鞘成分とポリトリメチレンテレフタレート以外のポリエステルからなる分率10〜40質量%の芯成分とからなる芯鞘複合繊維を含み、起毛面がオールカット起毛されていることを特徴とする起毛経編地。
【請求項2】
前記芯成分のポリエステルがポリエチレンテレフタレートである、請求項1に記載の起毛経編地。
【請求項3】
前記芯成分のポリエステルがポリ乳酸である、請求項1または2に記載の起毛経編地。
【請求項4】
160℃の乾熱で30分処理後の編地の経方向の収縮率が1.0%以上である、請求項1〜3のいずれかに記載の起毛経編地。
【請求項5】
160℃の乾熱処理による放縮率が0.9〜1.4%である前記芯鞘複合繊維を用いた、請求項1〜4のいずれかに記載の起毛経編地。

【公開番号】特開2009−84773(P2009−84773A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−225663(P2008−225663)
【出願日】平成20年9月3日(2008.9.3)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】