説明

起毛経編布帛

【課題】ニードルループ面が起毛されていて凹凸模様や捺染模様を鮮明に描出することが出来、耐摩耗性に優れ、椅子張地等に使用してピリングの発生がなく、パイル面に樹脂組成物や接着剤を塗布して人工皮革の原布としても使用し得る起毛経編布帛を得る。
【解決手段】フロント筬で編み込むフロント糸11のシンカーループ31を多針振りとし、バック筬で編み込むバック糸12のシンカーループ32を一針振りとし、フロント筬とバック筬との2枚筬で起毛経編布帛を編成し、シンカーループ面を起毛してからニードルループ面を起毛することによって、フロント糸11のニードルループ21をバック糸12のニードルループ22よりも多く毛羽立たせ、ニードルループ面にパイル層を形成する。バック糸12に高熱収縮性繊維を使用し、フロント糸11には高熱収縮性繊維と低熱収縮性繊維を混用し、起毛前に加熱して高熱収縮性繊維を熱収縮させるとよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、椅子張地、衣料生地、袋物生地、敷布、敷物、合成皮革原布、人工皮革原布等に使用される起毛経編布帛に関するものである。
【背景技術】
【0002】
起毛布帛の製造工程における起毛処理は、回転する起毛ロールに布帛を通し、起毛ロールの針先の回転方向に交叉する繊維を掻き出して行われる。従って織地では、針先の回転方向に交叉する緯糸の繊維が起毛毛羽を形成することになり、起毛毛羽が出来やすくするため、起毛処理を施す被起毛織地は、緯糸が数本の経糸を越えて長く浮き出る織組織をもって織成される。そのような配慮は、起毛処理を施す被起毛経編地にもなされ、経編地に対する起毛処理は、編目が針先の回転方向に平行になるウエール方向Wに直線状に並んで出来るニードルループ面に対してではなく、編目が稍斜めではあるがウェール間を結んでコース方向Cに並んでジグザグに出来るシンカーループ面に対して施されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
確かに、ニードルループは、1コース間と言う限られた短い部分に形成され、それがウェール方向、即ち、経編地の長さ方向に一直線に出来、ニードルループの表面に現れる繊維の長さ方向と起毛ロールの針先の回転方向が一致するので、ニードルループ面を起毛ロールで擦っても起毛し難い。一方、シンカーループは、ガイド筬がスイングするウェールWの数に応じて長く浮き上がらせることが出来、而も、シンカーループの表面に現れる繊維の長さ方向はコース方向Cに略平行で針先の回転方向に略直交するので、織地の緯糸と同様に起毛することが出来る。
【0004】
従って、シンカーループ面を起毛すると、ボリューム感のある厚いパイル層を形成することが出来、嵩高で保温性に富む起毛経編布帛が得られる。
しかし、パイル層の形成されているシンカーループ面に加熱エンボスロールを当ててニードルループ面に至る凹凸模様を描出しようとする場合、その厚いパイル層が断熱層となって作用するので、凹凸がニードルループ面に至る型際が鮮明な凹凸模様を描出することが困難になる。
【0005】
又、そのシンカーループ面に捺染模様を描出しようとする場合、印捺した捺染インクが型際から滲み出して、型際が鮮明な捺染模様を描出することは困難になる。
そして又、起毛経編布帛を原布としてそのシンカーループ面に粘性のある樹脂組成物を塗布して皮膜を形成し、人工皮革を得ようとする場合、樹脂組成物が僅かにパイル層の毛羽先に接着するだけで深く浸透せず、皮膜が剥離したり亀裂し易く、耐摩耗性のある人工皮革は得難い。
このことは、シンカーループ面に接着剤を塗布して表皮を貼り合わせて合成皮革を得ようとする場合も同様である。
【0006】
上記の通り、ニードルループ面は起毛し難いが、バック糸に単繊維繊度がフロント糸の単繊維繊度よりも細い細手繊維を使用し、バック糸の振り(スイング)をフロント糸の振り(スイング)よりも多い多針振りとして経編布帛を編成し、そのニードルループ面の最表面に露出しているバック糸のニードルループを起毛する方法も知られている(例えば、特許文献2参照)。
その場合、バック糸のニードルループは、フロント糸のニードルループよりもニードルループ面の最表面に露出しているので、その下側に位置するフロント糸のニードルループよりも起毛針に触れ易く、バック糸の繊維が極細で太いフロント糸の繊維よりも起毛針に引っ掻けられ易く、バック糸の振り(スイング)がフロント糸の振りよりも多く、編み込まれたバック糸の糸足(実質長さ)がフロント糸の糸足よりも長いのでニードルループ面に引っ掻き出し易く、バック糸のニードルループの起毛が可能となる。
【0007】
【特許文献1】特開平09−111647(特許第2736520号公報)
【特許文献2】特開平09−302560(特許第2805142号公報)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2では、バック糸の糸足をフロント糸の糸足よりも長くするために、バック糸の振りをフロント糸の振りよりも多くすると共に、フロント糸に高熱収縮性繊維を使用し、編成後に熱収縮させてフロント糸の糸足を短くしている。
しかし、ニードルループは、フロント筬で編み込まれるフロント糸とバック筬で編み込まれるバック糸が引き揃えられて一体になった状態で形成しているので、ニードルループ面を起毛すれば、起毛し易いバック糸のみならず、起毛し難いフロント糸も少なからず起毛され、その起毛された状態では、フロント糸とバック糸も共に損傷した摩耗状態になり、その最も摩耗したバック糸のニードルループがニードルループ面の最表面を成すので、耐摩耗性のある起毛経編布帛は得難い。
【0009】
そして、バック糸の繊維には、起毛針に引っ掛かり易い極細繊維が使用されるが、それに成るパイル繊維は、極細であるが故に絡まり合い易く、細かいピリング(毛玉・凹凸)が発生し易い。
このため、極細繊維を使用した起毛経編布帛を椅子張地や衣料生地等として使用する場合、その使用中に擦れ合った部分にだけ細かいピリング(毛玉・凹凸)が発生してバックスキン調の観を呈し、その擦れ合わない他の部分との外観上の差異によって使い古されたかの如き観を呈するようになる。
【0010】
そこで本発明は、ニードルループ面が起毛されていて凹凸模様や捺染模様を鮮明に描出することが出来、耐摩耗性に優れ、椅子張地や衣料生地等に使用して細かいピリング(毛玉・凹凸)の発生がなく、パイル面に樹脂組成物や接着剤を塗布して人工皮革や合成皮革の原布としても使用することが出来る起毛経編布帛を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る起毛経編布帛は、(イ) フロント筬とバック筬との2枚筬で編成され、(ロ) フロント筬で編み込まれるフロント糸11とバック筬で編み込まれるバック糸12が一体になっでニードルループ21・22を形成しており、(ハ) フロント糸11が隣り合う他のフロント糸の形成するニードルループ列42・43の上を越えて別の他のフロント糸の形成するニードルループ列41へと続く多針振りのシンカーループ31を形成しており、(ニ) バック糸12が隣り合う他のバック糸の形成するニードルループへと続く一針振りのシンカーループ32を形成しており、(ホ) フロント糸のシンカーループ31がバック糸のシンカーループ32の上に重なってシンカーループ面を形成しており、(ヘ) シンカーループ面に表裏するニードルループ面が起毛されており、(ト) ニードルループ面において、フロント糸11がバック糸12よりも毛羽立っており、(チ) フロント糸11の起毛毛羽によるパイル層がニードルループ面に形成されていることを第1の特徴とする。
【0012】
本発明に係る起毛経編布帛の第2の特徴は、上記第1の特徴に加えて、(リ) シンカーループ面が起毛されており、フロント糸のシンカーループ31が毛羽立っている点にある。
【0013】
本発明に係る起毛経編布帛の第3の特徴は、上記第1および第2の何れかの特徴に加えて、(ヌ) 経編布帛のウエール密度(単位:ウエール/25.4mm)とコース密度(単位:コース/25.4mm)との積で表されるパイル密度(M)が2000個/(25.4mm)2 以上であり、(ル) パイル密度の2倍(2M)とフロント糸11の総繊度(D)(dtex)との積(2M×D)で示されるパイル/デシテックス換算密度(ρ)が400000dtex/(25.4mm)2 以上であり、(オ) フロント糸のシンカーループ31の形成するシンカーループ面からパイル表面までの厚みが3mm以下であり、(ワ) フロント糸11とバック糸12が熱可塑性合成繊維マルチフィラメント糸であり、(カ) フロント糸11が、単繊維繊度が2dtex未満の細い細手繊維を含んでおり、(ヨ) バック糸12が、単繊維繊度がフロント糸11の単繊維繊度よりも太い太手繊維を含んでいる点にある。
【0014】
本発明に係る起毛経編布帛の第4の特徴は、上記第1、第2および第3の何れかの特徴に加えて、(タ) フロント糸11が、熱収縮率の異なる高熱収縮性繊維と低熱収縮性繊維によって構成されており、(レ) その低熱収縮性繊維の単繊維繊度が2dtex未満である点にある。
【0015】
本発明に係る起毛経編布帛の第5の特徴は、上記第1、第2、第3および第4の何れかの特徴に加えて、(ソ) バック糸12が、高熱収縮性繊維によって構成されており、(ツ) バック糸12の高熱収縮性繊維の単繊維繊度が、フロント糸11の単繊維繊度よりも太い点にある。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る起毛経編布帛では、フロント糸11の起毛毛羽によるパイル層がニードルループ面に形成されているが、そのパイル層を構成するフロント糸のニードルループ21の上に起毛されないバック糸のニードルループ22が重なって最表面を構成しており、そのバック糸のニードルループ22によってフロント糸11の毛羽立ちが抑えられる恰好になる。
このため、本発明の起毛経編布帛のパイル面に捺染模様を描出しようとする場合には、予め毛羽焼きが施されて平滑に調製された布帛の表面に印捺する場合のように、捺染インクが印捺型際から滲み出すことがなく、捺染模様を型際鮮明に描出することが出来る。
又、起毛経編布帛を原布として人工皮革や合成皮革を得るためにパイル面に樹脂組成物を塗着しようとする場合には、塗布した樹脂組成物がパイル面に厚みが揃って薄く綺麗な塗膜が形成され、又、起毛パイルに弾き返されることなくパイル層に浸透し易く、皮膜が剥離したり亀裂したりすることのない人工皮革や合成皮革を得ることが出来る。
【0017】
本発明に係る起毛経編布帛では、フロント糸のニードルループ21の起毛パイルは、バック糸のニードルループ22の下から食み出し、ニードルループ列間41・42(42・43)で隣り合うバック糸の殆ど起毛されないニードルループ22の連鎖畝と連鎖畝の窪んだ隙間を埋めるように形成される。
従って、パイル面は、その起毛されないニードルループ22の連鎖畝で細かく仕切られた恰好になる。
そのため、その連鎖畝を境としてニードルループ列間41・42(42・43)で隣り合うフロント糸のニードルループ21の起毛パイルと起毛パイルが触れ合い難い。
そして、起毛経編布帛の総厚みが3mm以下であり、バック糸のニードルループ22の下から食み出たフロント糸の起毛パイルの突出長さが1mm未満となるときは、フロント糸に単繊維繊度2dtex未満の極細繊維を適用する場合(請求項3と請求項4)でも、隣り合う起毛パイルと起毛パイルが絡みあってピリングを発生し、使い古されたかの如き観を呈することはない。
【0018】
本発明では、フロント糸11とバック糸12が引き揃えられて一体になっているニードルループ21・22の中のフロント糸のニードルループ21をバック糸のニードルループ22よりも起毛し易くするために、バック糸12を一針振りとし、フロント糸11を多針振りとしてフロント糸11の糸足をバック糸12の糸足よりも長くしているが、更に、シンカーループ面を起毛し、フロント糸のシンカーループ31を毛羽立てる場合(請求項2)は、そのシンカーループ面でフロント糸が破断損傷を受けて弛緩するので、フロント糸のニードルループ21が起毛し易くなる。
そのようにフロント糸11がシンカーループ面で破断損傷しているとしても、ニードルループ側のパイル面では、バック糸のニードルループ22がフロント糸のニードルループ21の毛羽立ちを抑え、フロント糸の起毛パイルを抜け難くする。
このように本発明によると、フロント糸のニードルループによって構成されるパイル面に、バック糸のニードルループ22によって構成されるベース編地を重ね合わせてパイル面を被覆する構成となるので、耐摩耗性に優れた起毛経編布帛が得られる。
【0019】
特に、起毛経編布帛の総厚み、即ち、フロント糸のシンカーループ31の形成するシンカーループ面からパイル面までの厚みを3mm以下にする場合(請求項3)には、フロント糸11が単繊維繊度2dtex未満の細手繊維を含んでいても、パイル面の耐摩耗性が損なわれることはない。
そして、そのようにフロント糸11が単繊維繊度2dtex未満の細手繊維を含んでいれば、バック糸のニードルループ22の下に隠れていても、フロント糸11のニードルループ21の繊維を掻き出し易く、起毛し易くなる。
【0020】
そして、本発明(請求項4)では、フロント糸11を熱収縮率の異なる高熱収縮性繊維と低熱収縮性繊維によって構成したので、フロント糸の一部の繊維、即ち、低熱収縮性繊維がニードルループの表面に浮き出て起毛し易くなり、特に、その低熱収縮性繊維の単繊維繊度を2dtex未満にするときは、起毛針がフロント糸の繊維に引っ掛かり易くなり、フロント糸のニードルループ21が一層起毛し易くなる。
【0021】
更に、バック糸12に高熱収縮性繊維を適用する場合(請求項5)には、フロント糸11の糸足をバック糸12の糸足よりも相対的に長くすることが出来、又、バック糸12が熱収縮してフロント糸のニードルループ21が脹らみを増すので、フロント糸のニードルループ21の起毛が更に一層容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
上記の通り、バック糸のニードルループ22を起毛することなく、フロント糸のニードルループ21の起毛を可能にする手段として、(1) バック糸12を一針振りとし、フロント糸11を多針振りとし、編み込まれるフロント糸11の糸足を長くすること、(2) バック糸12を収縮させてフロント糸11の糸足を相対的に長くすること、(3)
フロント糸11の一部の繊維を収縮させて、他の繊維をフロント糸11の表面に浮き出させること、(4) 特に、その浮き出る繊維を、極細繊維とし、起毛針に引っ掛かり易くする。
しかし、これらの手段にもまして、フロント糸のシンカーループ21に損傷を与えて弛緩状態にし、ニードルループ面からフロント糸11の繊維を掻き出し易くすることが最も有効な手段となる。
従って、フロント糸のニードルループ21を起毛するにあたっては、先ず最初にシンカーループ面を起毛することが推奨される。
【0023】
バック糸12を熱収縮させてフロント糸11を弛緩させるためには、バック糸12の熱収縮率をフロント糸11の熱収縮率よりも5%以上多くするとよい。
又、フロント糸の一部の繊維を熱収縮させて他の一部の繊維をフロント糸11の表面に浮き出させるためには、そのフロント糸11を構成する高熱収縮性繊維の熱収縮率を低熱収縮性繊維の熱収縮率よりも5%以上多くするとよく、更に、その高熱収縮性繊維のフロント糸11に占める質量比率を20〜60質量%にすることが望まれる。
しかし、高熱収縮性繊維のフロント糸11に占める質量比率が50質量%を超える場合は、フロント糸11の表面に浮き出ることになる低熱収縮性繊維が余りにも少なく、その浮き出た低熱収縮性繊維を介してフロント糸全体を毛羽立たせ易くなる起毛効果が少なくなる。従って、高熱収縮性繊維のフロント糸11に占める質量比率を40質量%以下に、好ましくは30質量%前後にすることが望ましい。
【0024】
パイル層の嵩比重は、パイル層の緻密度を知る手掛りとなるファクタであり、パイル布帛の単位面積から刈り取ったパイル繊維の質量とパイル層の厚みによって算定される。
しかし、パイル層の厚みが1.5mm以下のパイル布帛ではパイル繊維を刈り取ることは極めて困難なことであり、加えて、本発明では、シンカーループ面に比して起毛が困難なニードルループ面において、バック糸ニードルループ22の下側に位置して起毛が不可能視されるフロント糸のニードルループ21を上記の通り種々工夫を凝らして起毛し、そのバック糸のニードルループ22の下から掻き出されるフロント糸のパイル繊維によってニードルループ面にパイル層を形成する関係上、フロント糸の全ての繊維が掻き出されているとは言い難いことから、パイル密度の2倍(2M)とパイル糸の総繊度(D)(dtex)との積(M×D)で示されるパイル/デシテックス換算密度(ρ)をもってパイル層の嵩比重に代用している。
ここに、パイル/デシテックス換算密度(ρ)とは、パイル布帛の単位面積([25.4mm]2 )に含まれる全てのパイル繊維を太い一本の繊維に集約した場合の当該一本の仮想繊維の繊度、即ち、パイル布帛の単位面積内([25.4mm]2 )に植設されていると仮想することの出来る太い一本の仮想パイル繊維の繊度を意味する。
しかし、本発明では、上記の通り、フロント糸のニードルループ21の全繊維が掻き出されているとは言い難い一方、フロント糸のニードルループ21の全繊維の中の何本の繊維が掻き出されずに残存するのかを知ることも殆ど不可能である。
そこで、本発明では、フロント糸のニードルループ21の全繊維が掻き出されていると仮定した上で、フロント糸の繊維フィラメントの総本数から算定されるフロント糸の繊維フィラメントに構成されるパイル繊維を太い一本の仮想繊維に集約した場合の当該一本の仮想繊維の繊度、即ち、パイル布帛の単位面積内([25.4mm]2 )に植設されていると仮想することの出来る太い一本の仮想パイル繊維の繊度によってパイル/デシテックス換算密度(ρ)を算定している。
そのパイル層の緻密度を知る手掛りであるパイル/デシテックス換算密度(ρ)の算定において、パイル密度を2倍(2M)とするのは、パイル糸であるフロント糸がU字状を成してベース編地に係止され、そのベース編地に係止されてU字状を成すフロント糸が沈糸部分(シンカーループ31)の両端からそれぞれ1本(合計2本)のパイルが一番(つがい)になって突き出ることになるからである。
【0025】
本発明を効果的に実施する上では、パイル/デシテックス換算密度(ρ)を400000dtex/(25.4mm)2 以上に、好ましくは650000dtex/(25.4mm)2 以上にし、パイル表面に突き出る低収縮性繊維の単繊維繊度を1.2dtex以下にすることが望ましい。
【実施例】
【0026】
[実施例1]
フロント筬とバック筬との2枚筬を具備するトリコット経編機のフロント筬に単繊維繊度0.32dtex・総繊度90dtexの低熱収縮性ポリエステル繊維マルチフィラメント糸と単繊維繊度2.8dtex・総繊度33dtexの高熱収縮性ポリエステル繊維マルチフィラメント糸を混繊した合計繊度123dtexの複合マルチフィラメント糸をフロント糸として通し、バック筬に単繊維繊度5.6dtex・総繊度84dtexの高熱収縮性ポリエステル繊維マルチフィラメント糸をフロント糸として通し、フロント筬を編組織パターン/1−0/3−4/………の順に操作し、バック筬を編組織パターン/1−0/1−2/………の順に操作して編成した経編布帛を沸騰水にて処理して高熱収縮性ポリエステル繊維に熱収縮を顕現させ、シンカーループ面を起毛してからニードルループ面を起毛し、ウェール密度45W/25.4mm、コース密度90C/25.4mm、パイル密度4050個/(25.4mm)2 、パイル/デシテックス換算密度996300dtex/(25.4mm)2 、総厚み1.7mmの起毛経編布帛に仕上げた。
【0027】
[実施例2]
フロント筬とバック筬との2枚筬を具備するトリコット経編機のフロント筬に単繊維繊度0.77dtex・総繊度110dtexの低熱収縮性ポリエステル繊維マルチフィラメント糸と単繊維繊度2.8dtex・総繊度33dtexの高熱収縮性ポリエステル繊維マルチフィラメント糸を混繊した合計繊度143dtexの複合マルチフィラメント糸をフロント糸として通し、バック筬に単繊維繊度5.6dtex・総繊度84dtexの高熱収縮性ポリエステル繊維マルチフィラメント糸をフロント糸として通し、フロント筬を編組織パターン/1−0/3−4/………の順に操作し、バック筬を編組織パターン/1−0/1−2/………の順に操作して編成した経編布帛を沸騰水にて処理して高熱収縮性ポリエステル繊維に熱収縮を顕現させ、シンカーループ面を起毛してからニードルループ面を起毛し、ウェール密度42W/25.4mm、コース密度80C/25.4mm、パイル密度3360個/(25.4mm)2 、パイル/デシテックス換算密度960960dtex/(25.4mm)2 、総厚み2.2mmの起毛経編布帛に仕上げた。
【0028】
[実施例3]
フロント筬とバック筬との2枚筬を具備するトリコット経編機のフロント筬に単繊維繊度0.77dtex・総繊度110dtexの低熱収縮性ポリエステル繊維マルチフィラメント糸と単繊維繊度2.8dtex・総繊度33dtexの高熱収縮性ポリエステル繊維マルチフィラメント糸を混繊した合計繊度143dtexの複合マルチフィラメント糸をフロント糸として通し、バック筬に単繊維繊度5.6dtex・総繊度84dtexの高熱収縮性ポリエステル繊維マルチフィラメント糸をフロント糸として通し、フロント筬を編組織パターン/1−0/5−6/………の順に操作し、バック筬を編組織パターン/1−0/1−2/………の順に操作して編成した経編布帛を沸騰水にて処理して高熱収縮性ポリエステル繊維に熱収縮を顕現させ、シンカーループ面を起毛してからニードルループ面を起毛し、ウェール密度42W/25.4mm、コース密度80C/25.4mm、パイル密度3360個/(25.4mm)2 、パイル/デシテックス換算密度960960dtex/(25.4mm)2 、総厚み2.5mmの起毛経編布帛に仕上げた。
【0029】
[実施例4]
フロント筬とバック筬との2枚筬を具備するトリコット経編機のフロント筬に単繊維繊度0.24dtex・総繊度84dtexの低熱収縮性ポリエステル繊維マルチフィラメント糸と単繊維繊度2.8dtex・総繊度33dtexの高熱収縮性ポリエステル繊維マルチフィラメント糸を混繊した合計繊度117dtexの複合マルチフィラメント糸をフロント糸として通し、バック筬に単繊維繊度5.6dtex・総繊度84dtexの高熱収縮性ポリエステル繊維マルチフィラメント糸をフロント糸として通し、フロント筬を編組織パターン/1−0/3−4/………の順に操作し、バック筬を編組織パターン/1−0/1−2/………の順に操作して編成した経編布帛を沸騰水にて処理して高熱収縮性ポリエステル繊維に熱収縮を顕現させ、シンカーループ面を起毛してからニードルループ面を起毛し、ウェール密度45W/25.4mm、コース密度92C/25.4mm、パイル密度4140個/(25.4mm)2 、パイル/デシテックス換算密度968760dtex/(25.4mm)2 、総厚み1.5mmの起毛経編布帛に仕上げた。
【0030】
[評価]
実施例1〜4の起毛経編布帛のニードルループ面では、後糸のニードルループ22が起毛されず起毛前の跡形を止めており、その隣り合うニードルループ列41(42)とニードルループ列42(43)の間の谷間が前糸のニードルループ21のカットパイルに埋められ、朱子織物の表面のように平滑で極薄のパイル層が形成され、その跡形を止める後糸のニードルループ22によってパイル面が細かく仕切られ、パイル繊維の先端が絡み合うことなく、そのパイル面には細かいピリング(毛玉・凹凸)は認められなかった。
【0031】
[比較例1]
フロント筬とバック筬との2枚筬を具備するトリコット経編機のフロント筬に単繊維繊度0.36dtex・総繊度62dtexの低熱収縮性ポリエステル繊維マルチフィラメント糸と単繊維繊度2.8dtex・総繊度33dtexの高熱収縮性ポリエステル繊維マルチフィラメント糸を混繊した合計繊度95dtexの複合マルチフィラメント糸をフロント糸として通し、バック筬に単繊維繊度2.4dtex・総繊度84dtexの低熱収縮性ポリエステル繊維マルチフィラメント糸をフロント糸として通し、フロント筬を編組織パターン/1−0/5−6/………の順に操作し、バック筬を編組織パターン/1−0/1−2/………の順に操作して編成した経編布帛を沸騰水にて処理して高熱収縮性ポリエステル繊維に熱収縮を顕現させ、シンカーループ面を起毛し、ウェール密度44W/25.4mm、コース密度80C/25.4mm、パイル密度3520個/(25.4mm)2 、パイル/デシテックス換算密度668800dtex/(25.4mm)2 、総厚み1.6mmの起毛経編布帛に仕上げた。
【0032】
[評価]
比較例1の起毛経編布帛のニードルループ面には起毛毛羽がなく、ニードルループ21・22とその隣り合うニードルループ列41(42)とニードルループ列42(43)の間の谷間は起毛前の形状を止めており、シンカーループ面には、起毛されたフロント糸のパイル繊維の先端が絡み合って細かいピリング(毛玉・凹凸)が発生し、パックスキン調の観を呈していた。
【0033】
[比較例2]
フロント筬とミドル筬とバック筬との3枚筬を具備するトリコット経編機のフロント筬に単繊維繊度3.5dtex・総繊度84dtexの低熱収縮性ポリエステル繊維マルチフィラメント糸をフロント糸として通し、ミドル筬にに単繊維繊度5.6dtex・総繊度84dtexの高熱収縮性ポリエステル繊維マルチフィラメント糸をミドル糸として通し、バック筬に単繊維繊度0.24dtex・総繊度84dtexの低熱収縮性ポリエステル繊維マルチフィラメント糸と単繊維繊度5.6dtex・総繊度33dtexの高熱収縮性ポリエステル繊維マルチフィラメント糸を混繊した合計繊度117dtexの複合マルチフィラメント糸をバック糸として通し、フロント筬を編組織パターン/2−1/0−1/………の順に操作し、ミドル筬を編組織パターン/0−1/2−1/………の順に操作し、バック筬を編組織パターン/1−0/3−4/………の順に操作して編成した経編布帛を沸騰水にて処理して高熱収縮性ポリエステル繊維に熱収縮を顕現させ、ニードルループ面を起毛し、ウェール密度39W/25.4mm、コース密度59C/25.4mm、パイル密度2301個/(25.4mm)2 、パイル/デシテックス換算密度538434dtex/(25.4mm)2 、総厚み1.4mmの起毛経編布帛に仕上げた。
【0034】
[評価]
比較例2の起毛経編布帛のニードルループ面では、起毛前のニードルループの跡形は看取されず、後糸のニードルループ22のみならず前糸のニードルループ21も起毛されて毛羽立ったパイル層で覆われており、部分的にパイル繊維の先端が絡み合った細かいピリング(毛玉・凹凸)が少なからず認められた。
【0035】
実施例と比較例に使用の低熱収縮性ポリエステル繊維マルチフィラメント糸と高熱収縮性ポリエステル繊維マルチフィラメント糸の熱収縮率と熱収縮率差、低熱収縮性ポリエステル繊維マルチフィラメント糸の混繊比率は、表1に示す通りである。
【0036】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】経編布帛の裏面図である。
【図2】本発明に係る起毛経編布帛の表面図である。
【符号の説明】
【0038】
11:フロント糸
12:バック糸
21:フロント糸ニードルループ
22:バック糸ニードルループ
31:フロント糸シンカーループ
32:バック糸シンカーループ
41:ニードルループ列
42:ニードルループ列
43:ニードルループ列
C :コース方向
W :ウエール方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(イ) フロント筬とバック筬との2枚筬で編成され、
(ロ) フロント筬で編み込まれるフロント糸(11)とバック筬で編み込まれるバック糸(12)が一体になってニードルループ(21・22)を形成しており、
(ハ) フロント糸(11)が隣り合う他のフロント糸の形成するニードルループ列(42・43)の上を越えて別の他のフロント糸の形成するニードルループ列(41)へと続く多針振りのシンカーループ(31)を形成しており、
(ニ) バック糸(12)が隣り合う他のバック糸の形成するニードルループへと続く一針振りのシンカーループ(32)を形成しており、
(ホ) フロント糸のシンカーループ(31)がバック糸のシンカーループ(32)の上に重なってシンカーループ面を形成しており、
(ヘ) シンカーループ面に表裏するニードルループ面が起毛されており、
(ト) ニードルループ面において、フロント糸(11)がバック糸(12)よりも毛羽立っており、
(チ) フロント糸(11)の起毛毛羽によるパイル層がニードルループ面に形成されている起毛経編布帛。
【請求項2】
(リ) シンカーループ面が起毛されており、フロント糸のシンカーループ(31)が毛羽立っている前掲請求項1に記載の起毛経編布帛。
【請求項3】
(ヌ) 経編布帛のウエール密度(単位:ウエール/25.4mm)とコース密度(単位:コース/25.4mm)との積で表されるパイル密度(M)が2000個/(25.4mm)2 以上であり、
(ル) パイル密度の2倍(2M)とフロント糸11の総繊度(D)(dtex)との積(2M×D)で示されるパイル/デシテックス換算密度(ρ)が400000dtex/(25.4mm)2 以上であり、
(オ) フロント糸のシンカーループ(31)の形成するシンカーループ面からパイル表面までの厚みが3mm以下であり、
(ワ) フロント糸(11)とバック糸(12)が熱可塑性合成繊維マルチフィラメント糸であり、
(カ) フロント糸(11)が、単繊維繊度が2dtex未満の細い細手繊維を含んでおり、
(ヨ) バック糸(12)が、単繊維繊度がフロント糸(11)の単繊維繊度よりも太い太手繊維を含んでいる前掲請求項1と2の何れかに記載の起毛経編布帛。
【請求項4】
(タ) フロント糸(11)が、熱収縮率の異なる高熱収縮性繊維と低熱収縮性繊維によって構成されており、
(レ) その低熱収縮性繊維の単繊維繊度が2dtex未満である前掲請求項1と2と3の何れかに記載の起毛経編布帛。
【請求項5】
(ソ) バック糸(12)が、高熱収縮性繊維によって構成されており、
(ツ) バック糸(12)の高熱収縮性繊維の単繊維繊度が、フロント糸(11)の単繊維繊度よりも太い前掲請求項1と2と3と4の何れかに記載の起毛経編布帛。

【図1】
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【図2】
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