説明

起立補助椅子

【課題】スイッチ操作等の特別な操作を行なうことなく使用者の起立動作を補助し得る起立補助椅子を提供する。
【解決手段】使用者が着座可能な着座部22を、駆動手段44の駆動により着座位置および該着座位置より上方の起立位置の間で移動させるよう構成する。そして、使用者の着座姿勢から起立姿勢への姿勢変化に伴った荷重変化を検出する第1〜第3の力センサ51,52,53を設けて、該第1〜第3の力センサ51,52,53が検出する荷重変化に基づいて着座部22を着座位置から起立位置に移動させるように駆動制御手段が駆動手段44を駆動制御するよう構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着座部に着座している使用者の起立および着座動作を補助する起立補助椅子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
傷病等により長期間に亘ってベッド生活を過ごしていた者や、身体に障害を有する者、あるいは足腰の弱まった高齢者等のように、自力での着座姿勢から起立姿勢への移行が困難な者を補助する起立補助椅子が種々提案されている。このような起立補助椅子としては、モータやシリンダ等の駆動手段を利用して、着座部自体や、着座部の左右両脇に位置する肘掛け部材を上昇させることで、椅子に着座している者(以下、使用者という)の起立を補助する起立補助椅子が知られている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
例えば、特許文献1に開示された起立補助椅子は、座面を奥行の短い前座面と、これより奥行の長い後座面とに分割して、後座面の前端下部と前座面の後端部とをヒンジにより連結し、後座面の前端下部と脚部とを前リンクで連結すると共に後座面の後端下部と脚部側とを後リンクで連結して構成された四節平行リンクからなる座面昇降機構を備えている。そして、後座面と脚部とを連結したガススプリングの伸縮により、前座面の傾斜を伴いながら後座面が昇降するようになっている。また、特許文献2に開示された起立補助椅子は、座面の前部下側に縦アームを固定して、該縦アームの下端部と脚部の後部とを下アームにより回転可能に連結すると共に、該下アームより上方側で、当該縦アームの中間部および脚部の後部を上アームで回転可能に連結して構成された四節リンクからなる座面昇降機構を備えている。そして、上アームと脚部とを連結したガススプリングの伸縮により、傾斜を伴いながら座面が昇降するようになっている。すなわち、座面を昇降させることで使用者の腰部も座面の移動に伴って昇降するため、使用者が起立動作および着座動作を楽になし得るようになる。
【特許文献1】特開平10−179644号公報
【特許文献2】特開平10−248669号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来の起立補助椅子には、椅子の使用者の手元等に操作スイッチを配置したコントローラが設けられており、使用者がコントローラのスイッチを操作することで、駆動手段に一定の大きさの動力を与えて駆動させる方式が採用されている。すなわち、起立補助椅子を動作させるためには、使用者がスイッチ操作を行なう必要があり、非常に煩雑なものとなっていた。特に、身体上の障害等によりスイッチ操作が困難な場合や、スイッチ操作の理解に乏しい場合には、起立補助椅子の使用が制限されることにも繋がり、起立補助椅子の普及の障害となっていた。
【0005】
そこで、本発明は、スイッチ操作等の特別な操作を行なうことなく使用者の起立動作を補助し得る起立補助椅子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を克服し、所期の目的を達成するために、本願の請求項1に係る起立補助椅子は、
使用者が着座可能な着座位置および該着座位置より上方の起立位置の間で着座部(22)を駆動手段(44)により移動して、使用者の起立動作を補助する起立補助椅子であって、
使用者の着座姿勢から起立姿勢への姿勢変化に伴った荷重変化を検出する検出手段(51)を設けて、該検出手段(51)が検出する荷重変化に基づいて前記着座部(22)を着座位置から起立位置に移動させるように駆動制御手段が前記駆動手段(44)を駆動制御することを要旨とする。
【0007】
すなわち、使用者が着座姿勢から起立姿勢へ姿勢変化する際の荷重変化を検出手段で検出して、該検出手段の検出に応じて着座部を着座位置から起立位置に移動させることで、スイッチ操作等の特別な操作を使用者が行なうことなく自然な動作で起立補助椅子を動作させることができる。
【0008】
請求項2に係る起立補助椅子では、前記駆動制御手段は、前記検出手段(51)が検出する荷重に応じて前記着座部(22)の移動速度を変化させるよう前記駆動手段(44)を駆動制御することを要旨とする。
【0009】
すなわち、前記検出手段が検出する荷重の大きさに応じて前記着座部が着座位置から起立位置に移動する速度を変化させることで、使用者毎に異なる起立動作のスピードに合わせて動作を適切に補助し得る。
【0010】
請求項3に係る起立補助椅子では、前記着座部(22)の側部上方位置に、着座部(22)に着座した使用者の肘掛けとなる肘掛け部(34)が設けられると共に、該肘掛け部(34)に前記検出手段(51)が配設されて、
前記着座部(22)が着座位置にある状態において、前記肘掛け部(34)に作用する荷重の増加を前記検出手段(51)が検出することで、該着座部(22)を着座位置から起立位置に移動させるように前記駆動制御手段が前記駆動手段(44)を駆動制御することを要旨とする。
【0011】
起立動作する際に使用者が肘掛け部を把持して身体を支持することで、肘掛け部に作用する荷重が大きく変化する。従って、肘掛け部の荷重変化を検出手段で検出することで、使用者が起立動作を開始したことを容易に判別でき、使用者の起立動作に合わせた補助を行なうことが可能となる。
【0012】
請求項4に係る起立補助椅子は、前記着座部(22)には、該着座部(22)に作用する荷重を検出する第2の検出手段(52)が設けられ、
前記着座部(22)が着座位置にある状態において、該着座部(22)に作用する荷重の前方への偏りを前記第2の検出手段(52)が検出すると共に前記肘掛け部(34)に設けた前記検出手段(51)が肘掛け部(34)に作用する荷重の増加を検出することで、前記着座部(22)を着座位置から起立位置に移動させるように前記駆動制御手段が前記駆動手段(44)を駆動制御することを要旨とする。
【0013】
着座姿勢から起立姿勢に姿勢変化する際には使用者が前屈みになることで、着座部に作用する荷重バランスが前方へ偏る。従って、着座部に設けた第2の検出手段により、着座部に作用する荷重の前方への偏りを検出し、更に肘掛け部の荷重変化を検出手段で検出することで、使用者の起立動作をより正確に判別でき、起立動作に合わせた補助を行なうことができる。
【0014】
請求項5に係る起立補助椅子は、前記着座部(22)の後部に設けられ、着座姿勢にある使用者の背凭れとなる座位位置および該座位位置から後方へ傾倒したリクライニング位置の間で移動可能な背凭れ部(28)と、前記駆動制御手段の制御に基づいて背凭れ部(28)をリクライニング動作させるリクライニング機構部(29)と、背凭れ部(28)に作用する荷重を検出する第3の検出手段(53)を備え、
前記背凭れ部(28)が座位位置にある状態において、該背凭れ部(28)に作用する荷重の増加を前記第3の検出手段(53)が検出すると共に前記肘掛け部(34)に設けた前記検出手段(51)が肘掛け部(34)に作用する荷重の変化を検出することで、当該背凭れ部(28)をリクライニング動作するよう前記駆動制御手段がリクライニング機構部(29)を駆動制御することを要旨とする。
【0015】
着座姿勢からリクライニング姿勢に姿勢変化する際には、使用者は背凭れに身体を預けるよう動作すると共に、身体を支えるために肘掛け部を把持する。従って、背凭れ部に作用する荷重の増加を第3の検出手段が検出すると共に、肘掛け部の荷重変化を検出手段で検出することで、背凭れ部をリクライニングさせようとする使用者の意思を識別でき、スイッチ操作等の特別な操作を使用者が行なうことなく使用者の動作に合わせて背凭れ部をリクライニングさせることが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る起立補助椅子によれば、スイッチ操作等の特別な操作を行なうことなく使用者の起立動作を適切に補助し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明に係る起立補助椅子につき好適な実施例を挙げて、添付図面を参照しながら、以下詳細に説明する。また、以下の説明において、「前」、「後」、「左」、「右」とは、起立補助椅子に使用者が着座した状態を基準として指称するものとする。すなわち、使用者の正面側が前側であり、使用者の背後側が後側である。また、使用者の右手側が右側であり、左手側が左側である。
【実施例】
【0018】
図1〜図3に示すように、実施例の起立補助椅子10は、床面に載置される基台12と、該基台12に対して伸縮リンク機構38を介して連結された着座部22と、伸縮リンク機構38を伸縮させる第1の駆動手段44とを基本的に備えており、該第1の駆動手段44の駆動により伸縮リンク機構38が伸縮することで、使用者が着座可能な着座位置および該着座位置より前方かつ上方の起立位置の間で着座部22が移動されるよう構成されている。なお実施例では、着座位置とは、伸縮リンク機構38が最も収縮して着座部22が最下方にある位置を意味し、起立位置とは、伸縮リンク機構38が伸張して着座部22が起立する使用者に適した高さ位置まで移動した位置を意味するものである。すなわち、実施例に係る起立補助椅子10では、後述するように、使用者に応じて着座部22の高さ位置を調整し得るものであり、使用者毎に起立位置の高さが変更され得るものである。実施例では、前記伸縮リンク機構38および第1の駆動手段44の夫々は、前記着座部22の左右両側に1基ずつ設置されており、図示しない制御手段からの制御信号により、一対の第1の駆動手段44を同期的に駆動して一体的に作動するようになっている。なお、左右の伸縮リンク機構38および第1の駆動手段44の構成は基本的に同じであるので、以下の説明において、これら伸縮リンク機構38および第1の駆動手段44については左右の区別なく説明する。
【0019】
前記基台12は、図1〜図3に示すように、前脚部14と、後脚部16と、前後の脚部の上部位置を連結する連結部17とから枠状に形成された左右一対の支持フレーム18を、図示しない連結フレームで連結して構成されて、該基台12が起立補助椅子10の脚部として機能するようになっている。また、基台12には、着座位置にある前記着座部22(後述するベース部26)の下面が当接する支持部(図示せず)が設けられており、該支持部に着座部22が載置されることで、着座部22が安定して支持される。また、前記支持フレーム18の後方位置には、下方へ突出するよう湾曲したガイド部20が形成されており、後述のように、前記伸縮リンク機構38を構成するリンクアームLA2を枢支する軸部P2がガイド部20に摺動可能に支持される。
【0020】
ここで、前記着座部22は、使用者の臀部を受けるシート部24と、該シート部24を固定したベース部26とからなり、該ベース部26の下面に、下方へ突出して前記伸縮リンク機構38が連結される連結片30が形成されている。また、前記着座部22(ベース部26)の後部位置には、該着座部22(シート部24)に着座した使用者の背凭れとなる背凭れ部28がリクライニング可能に支持されており、ベース部26の下部に設けられたリクライニング機構部29により、背凭れ部28が略垂直姿勢となって着座姿勢にある使用者の背中を支持可能な座位位置と、背凭れ部28が後方へ傾倒して略水平姿勢となるリクライニング位置との間で移動されるよう構成されている。なお、以下の説明において、背凭れ部28が座位位置からリクライニング位置に移動する動作をリクライニング動作と指称し、リクライニング位置から座位位置に移動する動作を起上がり動作と指称することもある。すなわち、前記着座部22に対する背凭れ部28の傾斜角度を使用者の姿勢に合わせて適宜調整し得るようになっている。なお、前記リクライニング機構部29は、モータ等からなる第2の駆動手段と、該第2の駆動手段に接続して前記背凭れ部28をシート部24に対して傾倒させる駆動伝達機構(何れも図示せず)とから構成されている。
【0021】
また、前記着座部22におけるシート部24の左右側部には、平行な前後一対の平行リンク杆32,32の下端部が枢支されると共に、各平行リンク杆32,32の上端部に肘掛け部34が回転可能に枢支されており、該シート部24の左右側部の上方位置に肘掛け部34が位置するよう構成されている。すなわち、ベース部26と、平行リンク杆32,32と、肘掛け部34により平行リンク機構36を構成しており、ベース部26に対する姿勢を保ちながら肘掛け部34を平行移動させ得るようになっている。ここで、前記各平行リンク杆32,32の長さ寸法は、前記肘掛け部34が着座部22に対して略平行な姿勢を保持すると共に、前方へ肘掛け部34を移動した際に、当該肘掛け部34が着座部22(シート部24)より前方に位置するよう設定されて、使用者が着座部22に着座した姿勢および着座部22の前側に起立した姿勢の何れにあっても、肘掛け部34を支持(把持)し得るようになっている。
【0022】
また、前記基台12と着座部22とを連結する伸縮リンク機構38は、2本のリンクアームLA1,LA2/LA3,LA4を夫々の中間位置で交差させて回転可能に枢着したリンク部40,42を上下に2段以上有し、隣接するリンク部40,42のリンクアームLA1,LA2/LA3,LA4が相互に回転可能に枢着された所謂パンタグラフリンク機構である。そして、伸縮リンク機構38を構成するリンク部40,42の内、最下段に位置するリンク部40が前記基台12に接続され、最上段に位置するリンク部42が着座部22に接続されている。
【0023】
具体的には、実施例に係る起立補助椅子10は、下段に位置して前記基台12に接続される第1リンク部40と、該第1リンク部40の上段に位置して前記着座部22に接続される第2リンク部42とを連結して構成されている。前記第1リンク部40は、軸部X1を介して相互の中間位置を回転可能に枢支された第1リンクアームLA1および第2リンクアームLA2からなり、該軸部X1より前側に位置する第1リンクアームLA1の端部が基台12の前脚下部に対して軸部P1を介して回転可能に枢支されると共に、該軸部X1より後方に位置する第2リンクアームLA2の端部が前記ガイド部20に沿って移動可能に支持された軸部P2に対して回転可能に枢支されている。
【0024】
また、前記第2リンク部42は、軸部X2を介して相互の中間位置を回転可能に枢支された第3リンクアームLA3および第4リンクアームLA4からなり、該軸部X2より後側に位置する第3リンクアームLA3の端部が、軸部X1より後側に位置する第1リンクアームLA1の端部に対して軸部P3を介して回転可能に枢支されると共に、該軸部X2より前側に位置する第4リンクアームLA4の端部が、軸部X1より前側に位置する第2リンクアームLA2の端部に対して軸部P4を介して回転可能に枢支されている。更に、軸部X2より後側に位置する前記第4リンクアームLA4の端部には、第5リンクアームLA5が軸部P5を介して回転可能に枢支される。そして、軸部X2より前側に位置する第3リンクアームLA3の端部が、前記着座部22に設けた連結片30に対して軸部P6を介して回転可能に枢支されると共に、第5リンクアームLA5の端部が前記着座部22に設けた連結片30に対して軸部P7を介して回転可能に枢支されている。なお、各軸部P1〜P7,X1,X2は、左右方向に延在するよう設けられる。そして、前記第5リンクアームLA5を連結片30に枢支する軸部P7は、前記第3リンクアームLA3を連結片30に枢支する軸部P6より着座部22のベース部26側に位置するよう構成されている。
【0025】
また、第1の駆動手段44は、ケーシング46と、該ケーシング46に対して伸縮可能に組付けられたロッド48と、ケーシング46に対してロッド48を伸縮させるモータ(図示せず)とから構成されている。そして、前記基台12の後脚部16の下端部に、前記ケーシング46が上下方向へ揺動可能に枢支されると共に、前記第1リンクアームLA1に前記ロッド48の突出端が揺動自在に枢支されて、ケーシング46およびロッド48の夫々が、前方側斜め上方へ向く姿勢で保持されている。従って、前記モータの駆動により前記ロッド48が伸張すると、前記第1リンクアームLA1が押し上げられると共に軸部P2がガイド部20に沿って前側に移動することで、前記伸縮リンク機構38が伸張されて着座部22が上昇し、モータの駆動によりロッド48が収縮すると前記第1リンクアームLA1が引き下げられると共に軸部P2がガイド部20に沿って後側に移動することで、伸縮リンク機構38が収縮されて着座部22が下降するようになっている。
【0026】
ところで、背景技術で挙げた特許文献1または2のように、座面昇降機構を四節リンク機構により構成した場合には、その構成上、座面の昇降軌道は扇状にならざるを得ない。すなわち、図5に示すように、座面を四節リンク機構により昇降させた場合には、着座位置から起立位置へ座面が移動する際には、最初は前方への移動量に比べて上方への移動量が大きく、その後に前方への移動量が徐々に大きくなる軌道を描きながら座面が移動する。このため、座面が上昇し始めた移動初期では、使用者は床面から一度足が離れてしまう足浮きの状態になり、これが使用者に不安感を想起させ、起立補助椅子の使用感を低下させている。また起立補助椅子に着座する際には、上昇した起立位置にある座面に腰をかけ、座面を着座位置に移動させることで着座姿勢に移行するが、この際は後方に引いてから下がるという軌道を描いて座面が移動するため、足浮きもしくは座ずれの原因となり、これも起立補助椅子の使用感を低下させる一つの要因となっている。また、特許文献2に開示された起立補助椅子では、着座位置から起立位置へ座面が移動する際に、座面の前下部が上方に移動しながら後方へ移動する軌道を描くことから、座面が上昇するにつれて、足位置と腰位置との水平距離が長くなり、座面上昇後に使用者が起立するまでの体重心移動距離が長くなるため、起立動作が必ずしも容易ではない。また着座する際の腰部から座面までの水平距離が長くなることから、座面に確実に着座するためには、使用者は座面位置を目視で確認するため身体を捻りながら腰を降ろすか、もしくは自分の身体姿勢を逐次確かめることで座面位置を探りながら腰部を徐々に座面に近づけていく必要があるため、使用者に精神的負担を強いることとなり、起立補助椅子の使用感を低下させる問題がある。
【0027】
これに対して、実施例に係る起立補助椅子10では、前記着座部22が着座位置にある椅子状態(伸縮リンク機構38が収縮した状態)において、前記第2リンクアームLA2を枢支する軸部P2が前記ガイド部20の後端部側に位置し、該伸縮リンク機構38の伸張に伴って軸部P2がガイド部20に沿って弧状に変位しながら移動する。これにより、図4に実線で示すように、前記着座部22は、前記伸縮リンク機構38の伸張に伴って着座位置から起立位置へ移動する移動初期において、下に凸となる軌道を描いて移動する。なお、図4は、使用者の臀部が接触する位置(図1中の符号M)の軌道を示したものである。また、前記着座部22が着座位置にある状態では、シート部24が水平ないし後傾した状態で保持され、着座部22が起立位置にある状態ではシート部24が水平ないし前傾した状態で保持される。また、図3は、伸縮リンク機構38が最大限まで伸張した状態を示したものである。
【0028】
すなわち、実施例の起立補助椅子10は、前記第1の駆動手段44のモータが駆動することでケーシング46からロッド48が伸長される。ここで、前記ロッド48の突出端部は、前記伸縮リンク機構38における第1リンクアームLA1に枢支してあるから、伸縮リンク機構38を伸張する力が作用する。このとき、前記伸縮リンク機構38の第2リンクアームLA2は、前記基台12に形成されたガイド部20に沿って移動可能な軸部P2に枢支されているから、伸縮リンク機構38の伸張により着座部22が移動する軌道が徐々に変化する。これにより、着座部22が着座位置から起立位置へ移動する移動初期では、水平方向前側への移動量が上方への移動量に比べて大きな軌道を描いて着座部22が移動する。そして、前記伸縮リンク機構38の伸張が進行すると、次第に水平方向前側への移動量より上方への移動量が大きくなり、着座部22が下に凸となる軌道を描いて移動する。
【0029】
このように、着座部22が着座位置から起立位置へ移動する移動初期に、着座部22を下に凸になる軌道を描くよう移動させることで、該着座部22の移動軌道を使用者の起立動作における四肢の関節角度変化に基づく腰部の移動軌道に近似させ得るから、使用者の足が床面から離れるのを防止しつつ起立動作を補助でき、起立動作時に不安感を想起させることなく動作補助することができる。更に、起立補助椅子10の使用者が変わると、起立姿勢での腰部の高さ位置は大きく変化することから、使用者の起立姿勢に応じた高さまで着座部22が上昇することが求められる。特に、起立補助椅子10を障害者や高齢者等が使用する場合には、使用者によって起立姿勢が大きく異なってくる。これに対して、前述した特許文献1,2のような四節リンク機構を利用して着座部22を昇降移動させる構成では、着座部22が上昇し得る高さ位置が制限され、各使用者の起立姿勢に適した高さ位置まで着座部22を移動させ得ない。ここで、実施例の起立補助椅子10では、着座位置から起立位置へ移動する際に、伸縮リンク機構38の伸張により着座部22が常に上方へ押し上げられるから、使用者に合った高さ位置まで着座部22を上昇させて起立動作への移行を容易に行なわせることができる。
【0030】
また反対に、起立姿勢から着座する際には、着座部22の水平方向後側への移動量より下方への移動量が大きくなるから、使用者の腰部を安定して支えた状態のまま使用者の足浮きや座ずれを誘発することなく着座部22を下降させ得る。従って、着座部22に対して使用者が安心して体重を預けることができ、不安を与えることなく使用者の着座動作を補助することができる。
【0031】
また、平行リンク機構36により肘掛け部34を着座部22に対して平行移動し得るよう構成し、該肘掛け部34の略全体が着座部22の前方、すなわち起立した使用者の左右両脇に位置するよう肘掛け部34を移動させ得るよう構成したことで、起立した使用者は適度に前屈みになって安定した姿勢(重心が前寄りになった転倒の危険性が低い姿勢)で肘掛け部34を把持することができ、使用者が自身の姿勢を安定的に支えることができる。従って、起立時における使用者の負担が軽減され、スムーズな歩行動作への移行が実現される。同様に、起立した使用者の左右両脇に肘掛け部34が位置することで、肘掛け部34を把持しながら着座部22に着座できるから、使用者が自身の姿勢を安定的に支えつつ着座動作に移行することができ、使用者の注意負担を軽減できる利点がある。
【0032】
次に、起立補助椅子10の駆動制御態様につき、図6〜図10を用いて説明する。なお、起立補助椅子10の着座部22が着座位置にある椅子状態(図2の状態)を基準にして説明する。実施例の起立補助椅子10には、図6に示すように、前記肘掛け部34に作用する荷重を検出する第1の力センサ(検出手段)51が配設され、前記着座部22(シート部24)に作用する荷重を検出する第2の力センサ(第2の検出手段)52が配設されると共に、前記背凭れ部28に作用する荷重を検出する第3の力センサ(第3の検出手段)53が配設されている。前記第1〜第3の力センサ51,52,53は、前記着座部22を移動させる第1の駆動手段44および背凭れ部28を移動させるリクライニング機構部29の駆動を制御する駆動制御手段(図示せず)に接続されている。
【0033】
そして、前記第1〜第3の力センサ51,52,53が検出する使用者の着座姿勢から起立姿勢への姿勢変化に伴った荷重の変化(移動)に基づいて、前記駆動制御手段が第1の駆動手段44およびリクライニング機構部29を駆動制御して、前記着座部22を着座位置と起立位置との間で移動させると共に、前記背凭れ部28を座位位置とリクライニング位置との間で移動させるようになっている。なお、実施例では、前記第2の力センサ52は、前記着座部22の前側位置および後側位置に夫々2個ずつ配設されており、該着座部22の前後位置における荷重変化を第2の力センサ52で検出し得るようになっている。また、前記第3の力センサ53は、前記背凭れ部28の下部位置および上部位置に夫々2個ずつ配設されており、該背凭れ部28の上下位置における荷重変化を第3の力センサ53で検出し得るよう構成される。
【0034】
前記着座部22が着座位置にある椅子状態では、図7に示すように、前記駆動制御手段において先ず起立補助椅子10の着座部22に使用者が座っているかを判定する使用者有無判別処理が行なわれる(S1参照)。具体的には、着座部22に使用者が着座している場合は使用者の体重を着座部22で支持することになることから、着座部22に設けた前記第2の力センサ52が着座部22に作用する荷重を検出することで、着座部22に使用者が着座しているものとして前記駆動制御手段が判定し、第2の力センサ52が着座部22に作用する荷重を検出していない場合には、着座部22に使用者が着座していないものとして駆動制御手段が判定するよう設定されている。そして、着座部22に使用者が着座している場合には、前記駆動制御手段ではS10の起立補助・リクライニング動作判別処理(S10)が行なわれる。
【0035】
前記起立補助・リクライニング動作判別処理は、着座部22に着座した着座姿勢から立上がる起立姿勢へ姿勢変化しようとする使用者の動作意思や、着座姿勢から着座部22を後方へ傾倒して横になるリクライニング姿勢へ姿勢変化しようとする使用者の動作意思を判別して、前記第1の駆動手段44やリクライニング機構部29を駆動制御する処理である。この起立補助・リクライニング動作判別処理では、図8に示すように、前記背凭れ部28に設けた第3の力センサ53の検出に基づいて前記背凭れ部28に荷重が作用しているかが判断される(S11)。ここでは、使用者がリクライニング姿勢へ姿勢変化する際に背凭れ部28に上体を預けて安定させる動作を行なうことを利用して、第3の力センサ53が背凭れ部28に作用する荷重(すなわち背凭れ部28に掛かる使用者の体重)を検出するか否かによりリクライニング姿勢へ姿勢変化する意思が使用者にあるか否かを判別している。すなわち、第3の力センサ53が背凭れ部28に作用する荷重を検知していない場合には、リクライニング姿勢に姿勢変化する意思は使用者にないものと判断して(No判定)、使用者に起立動作を行なう意思かあるか否かにつき判別する。
【0036】
そして、前記第3の力センサ53が背凭れ部28に作用する荷重を検出していない場合には、前記着座部22に作用する荷重(すなわち着座部22に掛かる使用者の体重)が変化しているか否かが判定される(S12)。具体的には、前記着座部22に設けた4個の第2の力センサ52が検出する荷重の変化量が予め設定した設定値の範囲内であれば、使用者が一定の姿勢で着座しているもの(すなわち起立動作を行なう意思がないもの)として判定し(No判定)、第2の力センサ52の検出する荷重の変化量が設定値の範囲を越える場合には、S13に移行する。
【0037】
S13では、着座部22に作用する荷重中心が着座部22の前方に偏倚した状態で安定しているか否かが判定される。すなわち、前記着座部22の前側位置に設けた2個の第2の力センサ52が検出する荷重と、後側位置に設けた2個の第2の力センサ52が検出する荷重とに基づいて、着座部22に作用する荷重が着座部22の前側に偏っているかを判定して、偏りがない場合および偏りがあっても安定しない場合(例えば荷重が偏った状態が所定時間継続しない場合等)には、使用者に起立する意思がないものとして判定する(No判定)。ここで、起立姿勢に姿勢変化しようとする場合には使用者は前屈みになることから、前記着座部22の前側位置に設けた2個の第2の力センサ52が検出する荷重は、後側位置に設けた2個の第2の力センサ52が検出する荷重より大きくなる。すなわち、着座部22の荷重バランスが一定時間安定している場合でも、着座部22の前側に荷重が偏っていなければ、着座部22上において姿勢の立て直しや背伸び、その他の起立動作以外の動作を使用者が行なっているものと推測されることから、起立補助椅子10では起立動作を行なわないよう制御される。
【0038】
そして、S13において、着座部22に作用する荷重が前方に偏っていると判定された場合には、前記肘掛け部34に設けた第1の力センサ51が肘掛け部34に作用している荷重を検出しているか否かが判定される(S14)。そして、前記第1の力センサ51が肘掛け部34に作用する荷重を検出していない場合には、使用者が起立姿勢に姿勢変化する意思がないものとして判定(No判定)される。すなわち、着座部22の前側に荷重が偏っていたとしても、肘掛け部34に荷重が作用していない場合には、着座部22上において姿勢の立て直しや背伸び、その他の起立動作以外の動作を使用者が行なっているものと推測されることから、起立補助椅子10では起立動作を行なわないよう制御される。
【0039】
一方で、前記S14において、前記第1の力センサ51が前記肘掛け部34に作用する荷重を検出する場合には、使用者が起立姿勢に姿勢変化する意思があるものとして判定される。すなわち、着座姿勢から起立姿勢に移行するにあたって、使用者自身が前屈みになった状態で肘掛け部34を把持して身体を安定させる動作を行なうことから、S14において前記第1の力センサ51が前記肘掛け部34に作用する荷重の増加を検出することで、前記着座部22を着座位置から起立位置に移動して使用者の起立動作を補助するよう前記駆動制御手段が第1の駆動手段44を駆動制御する。このように、使用者が着座姿勢から起立姿勢へ姿勢変化する際の荷重変化を、前記第1〜第3の力センサ51,52,53で検出して、各力センサの検出に応じて着座部22を着座位置から起立位置に移動させることで、スイッチ操作等の特別な操作を行なうことなく使用者の動作に合わせて自然に起立補助することができる。また、使用者が起立動作する際には、前記肘掛け部34を把持して身体を支えることから、肘掛け部34に作用する荷重変化が大きく変化することが一般に期待される。従って、肘掛け部34の荷重変化を第1の力センサ51で検出することで、使用者が起立動作を開始したことを容易に識別でき、使用者の起立動作に合わせて補助を行なうことができる。
【0040】
また、実施例の起立補助椅子10では、前述のように、着座部22に着座している使用者が起立動作して前屈みになった際の荷重変化を、該着座部22に設けた第2の力センサ52で検出し、更に第1の力センサ51が肘掛け部34に作用する荷重を検出した場合に、着座部22が起立位置に移動される。すなわち、使用者の起立動作に伴った荷重変化を多段的に検出することで、使用者の起立動作をより正確に判別でき、起立動作に合わせた起立補助を行なうことが可能となる。
【0041】
更に、前記駆動制御手段は、前記第1の力センサ51が検出する荷重の大きさに応じて前記着座部22が着座位置から起立位置に移動する移動速度を変化させるよう前記第1の駆動手段44を駆動制御するよう設定されている。具体的には、第1の力センサ51が検出する荷重が大きくなるにつれて、着座部22の移動速度を速くするよう駆動制御される。従って、前記第1の力センサ51が検出する荷重の大きさに応じて前記着座部22が着座位置から起立位置に移動する速度を変化させることで、使用者が自力で起立しようとするペースに合わせて着座部22を移動させ得るようにでき、使用者の起立動作をより適切に補助し得る。このため、起立補助椅子10に運ばれているという不快感を使用者に惹起させることはなく、自力での起立をなし得ることへの達成感を使用者に与え、起立補助椅子10の使用を促す効果が期待できる。また、起立動作のスピードは使用者の状態(年齢や障害の有無や程度等)によって異なり、使用者毎に着座部22が起立位置へ移動するのに適したスピードがあるため、着座部22が起立位置に移動する速度が使用者に合っていないと、起立補助椅子10の使用感を減殺しかねない。実施例の起立補助椅子10では、前記第1の力センサ51が検出する荷重の大きさに応じて着座部22が着座位置から起立位置に移動する速度を変化させ得るから、着座部22の移動速度が早すぎて使用者に不安感を与えたり、逆に移動する速度が遅すぎて苛立ちを抱かせるのを防止でき、適切な起立補助を行ない得る。
【0042】
また、前記S11において、前記第3の力センサ53が背凭れ部28に作用する荷重を検出している場合には、S15に進んで使用者がリクライニング姿勢に移行する意思を有しているか否かが判別される(図8参照)。S15では、前記第1の力センサ51が前記肘掛け部34に作用している荷重を検出しているか否かが判定され、肘掛け部34に荷重が作用していない場合には、使用者がリクライニング姿勢に移行する意思がないものとして判定される(No判定)。そして、S15において前記肘掛け部34に荷重が作用しているものとして判定された場合には、使用者がリクライニング姿勢に移行する意思があるものとして、前記背凭れ部28を後方へ傾倒させるように前記駆動制御手段が前記リクライニング機構部29を駆動制御する。すなわち、背凭れ部28に荷重が作用し、更に肘掛け部34にも荷重が作用している場合には、使用者はリクライニング姿勢に移行しようとして背凭れ部28に上体を預けると共に、肘掛け部34を把持して身体を安定させている状態であるから、各力センサ51,53の検出に応じて背凭れ部28を座位位置からリクライニング位置に移動させることで、スイッチ操作等の特別な操作を行なうことなく自然に背凭れ部28を動作させることができる。
【0043】
そして、前記起立補助椅子10の着座部22が起立位置にある起立補助状態では、図7に示すように、先ず起立補助椅子10の着座部22に使用者が座ろうとしているかを判定する使用者有無判別処理(S2)が行なわれる。起立補助状態での使用者有無判別処理(S2)は、前述した椅子状態での使用者有無判別処理(S1)と基本的に同一の処理が行なわれる。具体的には、着座部22に使用者が座る際に、使用者が着座部22で支持することになる。すなわち、起立補助状態における使用者有無判別処理(S2)では、前記着座部22に設けた前記第2の力センサ52が着座部22に作用する荷重を検出することで、着座部22に使用者が着座しようとしているものとして前記駆動制御手段が判定するよう設定されている。そして、着座部22に設けた第2の力センサ52が荷重を検出すると、起立姿勢から着座姿勢へ姿勢変化しようとする使用者の動作意思を判別して前記第1の駆動手段44を駆動制御する着座補助判別処理が実行される
【0044】
図9に示すように、前記着座補助判別処理では、前記着座部22に作用する荷重(すなわち着座部22に掛かる使用者の体重)が変化しているか否かが判定される(S21)。具体的には、前記着座部22に設けた4個の第2の力センサ52が検出する荷重の変化量が設定値の範囲を超える場合には、着座部22に対する使用者の位置が安定していないものとして判定し(No判定)、着座補助は行なわれない。そして、第2の力センサ52の検出する荷重の変化量が設定値の範囲内の場合には、S22に移行する。
【0045】
S22では、前記第1の力センサ51が前記肘掛け部34に作用している荷重を検出しているか否かを判定し、肘掛け部34に荷重が作用していない場合(No判定)には、着座補助は行なわれない。すなわち、第1の力センサ51および第2の力センサ52の何れか一方が荷重を検出していない状態では、使用者が前記着座部22に対して自身の位置を合わせている最中や、着座する意思が消失して起立補助椅子10から離れる等の事情が考えられ、着座補助は行なわれないようになっている。そして、前記S22において、前記肘掛け部に荷重が作用している場合には、前記着座部22を起立位置から着座位置に移動するよう前記駆動制御手段が第1の駆動手段44を駆動制御して着座補助動作を行なう。このように、使用者が起立姿勢から着座姿勢へ姿勢変化する際の荷重変化を、前記第1および第2の力センサ51,52で検出して、各力センサの検出に応じて着座部22を起立位置から着座位置に移動させることで、スイッチ操作等の特別な操作を行なうことなく使用者の動作に合わせて自然に着座補助することができる。また、使用者が着座動作する際には、前記肘掛け部34を把持して身体を支えることから、肘掛け部34に作用する荷重変化が大きく変化することが一般に期待される。従って、肘掛け部34の荷重変化を第1の力センサ51で検出することで、使用者が着座動作を開始したことを容易に識別でき、使用者の着座動作に合わせて補助を行なうことができる。
【0046】
更に、着座動作のスピードは使用者の状態(年齢や障害の有無や程度等)によって異なり、使用者毎に着座部22が着座位置へ移動するのに適したスピードがあるため、着座部22が起立位置に移動する速度が使用者に合っていないと、起立補助椅子10の使用感を減殺しかねない。そこで、前記駆動制御手段は、前述と同様に、前記第1の力センサ51が検出する荷重に応じて前記着座部22が起立位置から着座位置に移動する移動速度を変化させるよう前記第1の駆動手段44を駆動制御するよう設定されている。このように、前記第1の力センサ51が検出する荷重の大きさに応じて前記着座部22が起立位置から着座位置に移動する速度が変化させることで、使用者が着座するペースに合わせて着座部22を移動でき、使用者の着座動作をより適切に補助し得る。なお、前記第2の力センサ52が検出する荷重に応じて前記着座部22が起立位置から着座位置に移動する移動速度を変化させるよう前記駆動制御手段が前記第1の駆動手段44を駆動制御するよう設定してもよい。
【0047】
また、前記起立補助椅子10の背凭れ部28が後方へ傾倒したリクライニング状態では、図7に示すように、先ず起立補助椅子10の着座部22に使用者が着座しているかを判定する使用者有無判別処理(S3)が行なわれる。このリクライニング状態での使用者有無判別処理(S3)は、前述した椅子状態での使用者有無判別処理(S1)と基本的に同一の処理が行なわれる。具体的には、着座部22に使用者が着座している場合には、使用者の体重を着座部22で支持することになるから、着座部22に設けた前記第2の力センサ52が着座部22に作用する荷重を検出することで、着座部22に使用者が着座しているものとして前記駆動制御手段が判定するよう設定されている。そして、着座部22に設けた前記第2の力センサ52が着座部22に作用する荷重を検出すると、リクライニング姿勢から着座姿勢へ姿勢変化しようとする使用者の動作意思を判別して背凭れ部28をリクライニング状態から通常の立上がった座位状態に復帰させる起上がり動作補助判別処理が実行される(図10参照)。
【0048】
図10に示すように、起上がり動作補助判別処理では、最初に前記第3の力センサ53が背凭れ部28に作用する荷重が変化しているか否かが判定される(S31)。具体的には、前記背凭れ部28に設けた4個の第3の力センサ53が検出する荷重の変化量が予め設定した設定値の範囲内の場合には(No判定)、背凭れ部28に対して使用者がもたれ掛かった姿勢となっている状態であるから、前記駆動制御手段は、リクライニング姿勢から着座姿勢へ姿勢変化しようとする意思が使用者にはないものと判断して、前記リクライニング機構部29を駆動せずに背凭れ部28をリクライニング状態に保持する。すなわち、リクライニング姿勢から着座姿勢へ姿勢変化する際には、使用者が上体を起こそうと動作することで背凭れ部28に作用する荷重が低下することから、該背凭れ部28に作用する荷重の低下が検出されるか否かにより、着座姿勢へ姿勢変化しようとする意思が使用者にあるか否かを判別している。そして、S31において、前記第3の力センサ53が検出する荷重の変化量が設定値の範囲を超えて減少した場合には、S32に移行する。
【0049】
S32では、前記着座部22に作用する荷重(すなわち着座部22に掛かる使用者の体重)が変化しているか否かが判定される。具体的には、前記着座部22に設けた4個の第2の力センサ52が検出する荷重の変化量が予め設定された設定値の範囲内の場合(No判定)には、背凭れ部28に対して使用者がもたれ掛かり、着座部22に対する使用者の位置が安定している(すなわち、リクライニング姿勢から着座姿勢へ姿勢変化しようとする意思が使用者にはない)状態として判断され、前記駆動制御手段は、前記リクライニング機構部29を駆動せずに背凭れ部28をリクライニング状態に保持する。すなわち、リクライニング姿勢から着座姿勢へ姿勢変化する際には、使用者が上体を起こそうと動作することで着座部22に作用する荷重が増加することから、該着座部22に作用する荷重の増加が検出されるか否かにより、着座姿勢へ姿勢変化しようとする意思が使用者にあるか否かを判別している。そして、第2の力センサ52が検出する荷重の変化量が設定値の範囲を超えて増加した場合には、S33に移行する。
【0050】
S33では、前記第1の力センサ51が前記肘掛け部34に作用している荷重を検出しているか否かを判定し、肘掛け部34に荷重が作用していない場合(No判定)には、前記駆動制御手段は、リクライニング姿勢から着座姿勢へ姿勢変化しようとする意思が使用者にはないものと判断して、前記リクライニング機構部29を駆動せずに背凭れ部28をリクライニング状態に保持する。そして、前記S33において、前記肘掛け部34に荷重が作用している場合には、前記背凭れ部28をリクライニング位置から座位位置に移動するよう前記駆動制御手段がリクライニング機構部29を駆動制御して起上がり動作の補助を行なう。すなわち、リクライニング姿勢から着座姿勢へ姿勢変化する際には、身体を支えるために使用者が肘掛け部34を把持することで肘掛け部34に荷重が作用することから、該肘掛け部34に荷重が作用する荷重が検出されるか否かにより、着座姿勢へ姿勢変化しようとする意思が使用者にあるか否かを判別している。
【0051】
このように、使用者がリクライニング姿勢から着座姿勢へ姿勢変化する際の荷重変化を、前記第1〜第3の力センサ51,52,53で検出して、各力センサの検出に応じて背凭れ部28をリクライニング位置から座位位置に移動させることで、スイッチ操作等の特別な操作を行なうことなく使用者の動作に合わせて自然に起上がり動作を補助することができる。また、実施例の起立補助椅子10では、前述のように、リクライニング姿勢にある使用者が上体を起こそうと動作した際の荷重変化を、該背凭れ部28に設けた第3の力センサ53で検出すると共に着座部22に設けた第2の力センサ52で検出し、かつ肘掛け部34に設けた第1の力センサ51が荷重を検出している場合に、背凭れ部28を座位状態に移動される。すなわち、使用者の着座姿勢へ姿勢変化に伴った荷重変化を多段的に検出することで、使用者の動作意思をより正確に判別でき、リクライニング姿勢から着座姿勢への動作補助を適切に行なうことが可能となる。
【0052】
更に、リクライニング動作のスピードは使用者の状態(年齢や障害の有無や程度等)によって異なり、使用者毎に背凭れ部28が座位位置へ移動するのに適したスピードがあるため、背凭れ部28が座位位置に移動する速度が使用者に合っていないと、起立補助椅子10の使用感を減殺しかねない。そこで、前記駆動制御手段は、前述と同様に、前記第1の力センサ51が検出する荷重に応じて前記背凭れ部28がリクライニング位置から座位位置に移動する移動速度を変化させるよう前記リクライニング機構部29を駆動制御するよう設定されている。このように、前記第1の力センサ51が検出する荷重の大きさに応じて前記背凭れ部28がリクライニング位置から座位位置に移動する速度が変化させることで、使用者が起上がろうとするペースに合わせて背凭れ部28を移動させ得るようにでき、使用者の起上がり動作をより適切に補助し得る。なお、前記第3の力センサ53が検出する荷重に応じて前記背凭れ部28がリクライニング位置から座位位置に移動する移動速度を変化させるよう前記駆動制御手段が前記リクライニング機構部29を駆動制御するよう設定してもよい。
【0053】
〔変更例〕
なお、実施例に係る起立補助椅子は、前述した構成に限られず種々の変更が可能である。例えば、実施例では、肘掛け部、着座部および背凭れ部の夫々に検出手段(力センサ)を配設するよう構成したが、これに限られるものではなく、肘掛け部、着座部および背凭れ部の何れか1部材または2部材に検出手段を設ける構成も採用し得る。例えば、着座部に着座した使用者は、起立する際に前屈みになるため、肘掛け部の検出手段を省略して、着座部に設けた検出手段が検出する荷重が着座部の前方に偏った場合に、着座部を着座位置から起立位置に移動させるように駆動制御手段が駆動手段を駆動制御するようにしてもよい。また、起立する際に前屈みになることで使用者が背凭れ部から離間するため、背凭れ部に設けた検出手段が検出する荷重が減少した場合に、着座部を着座位置から起立位置に移動させるように駆動制御手段が駆動手段を駆動制御するようにしてもよい。すなわち、使用者が着座姿勢から起立姿勢へ姿勢変化する際の荷重変化を検出できれば、肘掛け部、着座部および背凭れ部の何れに検出手段を配設してもよい。
【0054】
同様に、使用者が着座部に着座する場合には、着座部に自身の体重をかけるよう動作するため、肘掛け部の検出手段を省略して、着座部に設けた検出手段が荷重の増加を検出した場合に、着座部を起立位置から着座位置に移動させるように駆動制御手段が駆動手段を駆動制御するようにしてもよい。
【0055】
また、前記肘掛け部や着座部、背凭れ部に対する検出手段の配設位置や配設数は、実施例に示したものに限定されるものではなく、適宜位置に適宜の数の検出手段を配設することができる。
【0056】
実施例では、起立補助椅子の背凭れ部をリクライニング機構部の駆動によりリクライニング動作させ得るよう構成したが、これに限られるものではなく、背凭れ部が座位位置で固定保持されるよう構成してもよい。また、背凭れ部を手動操作でリクライニング動作させる構成も採用可能である。なお、この場合には、背凭れ部の力センサ(検出手段)は省略することができる。
【0057】
また、実施例では、使用者の着座姿勢から起立姿勢への姿勢変化に合わせて着座部を着座位置から起立位置に移動させて起立補助を行なった後には、該着座部が起立位置にある起立補助状態で待機するよう構成したが、起立補助動作を行なった後に、着座部を起立位置から着座位置に自動的に復帰させるように駆動手段を駆動制御してもよい。更に、起立補助を行なった後に前記着座部を起立位置で待機させる待機モードと、該着座部を起立位置から着座位置に自動的に復帰させる復帰モードとを選択可能な選択スイッチを設けて、スイッチ操作に応じて選択されたモードに従って駆動制御手段が駆動手段を駆動制御するよう構成してもよい。なお、前記選択スイッチは、肘掛け部等のように使用者が容易に操作可能な位置に設けて、使用者が適宜にモードを変更し得るよう構成してもよく、また基台の下面や側面等のように使用者が操作困難な位置に選択スイッチを設けて、起立補助椅子の使用時に使用者が誤ってモードを切り替えてしまうのを防止し得るよう構成することもできる。
【0058】
また実施例では、伸縮リンク機構を利用して駆動手段の駆動により着座部を着座位置から起立位置に移動するよう構成したが、これに限られるものではなく、駆動手段の駆動に応じて着座部を着座位置と起立位置との間で移動させ得るよう構成すれば、各種のリンク機構やその他従来公知の駆動伝達機構を採用することができる。
【0059】
また、実施例では、伸縮により着座部を着座位置および起立位置の間で移動させる伸縮リンク機構を、第1リンク部と第2リンク部とからなる2段構造としたが、3つ以上のリンク部を備える構成であってもよい。すなわち、伸縮リンク機構は、2本のリンクアームを夫々の中間位置で交差させて回転可能に枢着したリンク部を上下に2段以上有し、隣接するリンク部のリンクアームが相互に回転可能に枢着された構成とすることができる。リンク部を3段以上設けることで、着座部を上昇させ得る高さ位置を高くすることができ、様々な身長、姿勢の使用者に対して適する起立および着座動作の補助が使用可能となる。
【0060】
実施例では、平行リンク機構により肘掛け部材が着座部に対する姿勢を保持しながら平行移動し得るよう構成したが、これに限られるものではなく、ギア機構やクランク機構等の各種機構を採用できる。また、実施例では肘掛け部材を着座部に支持する例を示したが、基台に対して支持するようにしてもよく、肘掛け部材を省略することも可能である。
【0061】
実施例では、ガイド部に沿って移動可能な軸部に第2リンクアームを枢支するよう構成したが、該第2リンクアームを基台に対して回転可能に枢支すると共に、ガイド部に沿って移動可能な軸部に対して第1リンクアームを枢支するようにしても、実施例と同様の作用効果を得ることができる。また、実施例では、前記ガイド部を下方へ湾曲するよう形成したが、上方へ湾曲するようにしてもよい。すなわち、前記伸縮リンク機構における各リンクアームの軸間距離およびガイド部の曲率や長さを適宜調整することにより、図4中に2点鎖線で示す軌道で着座部を移動させることができ、伸縮リンク機構の伸張に伴って着座部が着座位置から起立位置へ移動する移動初期において、着座部を下に凸となる軌道を描いて移動させることができる。
【0062】
実施例では、第1の駆動手段として、伸縮タイプのシリンダを採用したが、これに限らず、モータ等のロータリ式アクチュエータにベルトやギア駆動を組み合わせた構成の駆動装置を採用することも可能である。すなわち、第1の駆動手段としては、伸縮リンク機構の何れかのリンクアームを回転させ得るものであれば、従来公知の手段を採用できる。また、実施例では、着座部の左右位置に伸縮リンク機構および第1の駆動手段を配置するよう構成したが、着座部の左右幅の中央位置に1つの伸縮リンク機構および第1の駆動手段を配置するようにしてもよい。
【0063】
本発明は、実施例に示した床面に基台を載置するタイプの椅子に限らず、乗用車や電車等の車両シートや、車椅子、映画の上映や演劇の上演等の施設に用いられる座席シート等に採用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の実施例に係る起立補助椅子を示す側面図であって、着座部が起立位置にある状態を示す。
【図2】実施例に係る起立補助椅子を示す側面図であって、着座部が着座位置にある状態を示す。
【図3】実施例に係る起立補助椅子を示す側面図であって、伸縮リンク機構が最大限まで伸張した状態を示す。
【図4】実施例に係る起立補助椅子における着座部の移動軌跡を示すグラフ図である。
【図5】従来の起立補助椅子における着座部材の移動軌跡を示すグラフ図である。
【図6】実施例に係る起立補助椅子における第1〜第3の力センサの位置関係を概略的に示す斜視図である。
【図7】実施例に係る起立補助椅子が椅子状態、起立補助状態およびリクライニング状態に移行する状態を説明する説明図である。
【図8】実施例に係る起立補助椅子が起立補助・リクライニング動作判別処理において実行する処理の流れを説明する説明図である。
【図9】実施例に係る起立補助椅子が着座補助判別処理において実行する処理の流れを説明する説明図である。
【図10】実施例に係る起立補助椅子が起上がり動作補助判別処理において実行する処理の流れを説明する説明図である。
【符号の説明】
【0065】
22 着座部
28 背凭れ部
29 リクライニング機構部
34 肘掛け部
44 駆動手段
51 第1の力センサ(検出手段)
52 第2の力センサ(第2の検出手段)
53 第3の力センサ(第3の検出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者が着座可能な着座位置および該着座位置より上方の起立位置の間で着座部を駆動手段により移動して、使用者の起立動作を補助する起立補助椅子であって、
使用者の着座姿勢から起立姿勢への姿勢変化に伴った荷重変化を検出する検出手段を設けて、該検出手段が検出する荷重変化に基づいて前記着座部を着座位置から起立位置に移動させるように駆動制御手段が前記駆動手段を駆動制御する
ことを特徴とする起立補助椅子。
【請求項2】
前記駆動制御手段は、前記検出手段が検出する荷重に応じて前記着座部の移動速度を変化させるよう前記駆動手段を駆動制御する請求項1記載の起立補助椅子。
【請求項3】
前記着座部の側部上方位置に、着座部に着座した使用者の肘掛けとなる肘掛け部が設けられると共に、該肘掛け部に前記検出手段が配設されて、
前記着座部が着座位置にある状態において、前記肘掛け部に作用する荷重の増加を前記検出手段が検出することで、該着座部を着座位置から起立位置に移動させるように前記駆動制御手段が前記駆動手段を駆動制御する請求項1または2記載の起立補助椅子。
【請求項4】
前記着座部には、該着座部に作用する荷重を検出する第2の検出手段が設けられ、
前記着座部が着座位置にある状態において、該着座部に作用する荷重の前方への偏りを前記第2の検出手段が検出すると共に前記肘掛け部に設けた前記検出手段が肘掛け部に作用する荷重の増加を検出することで、前記着座部を着座位置から起立位置に移動させるように前記駆動制御手段が前記駆動手段を駆動制御する請求項3記載の起立補助椅子。
【請求項5】
前記着座部の後部に設けられ、着座姿勢にある使用者の背凭れとなる座位位置および該座位位置から後方へ傾倒したリクライニング位置の間で移動可能な背凭れ部と、前記駆動制御手段の制御に基づいて背凭れ部をリクライニング動作させるリクライニング機構部と、背凭れ部に作用する荷重を検出する第3の検出手段を備え、
前記背凭れ部が座位位置にある状態において、該背凭れ部に作用する荷重の増加を前記第3の検出手段が検出すると共に前記肘掛け部に設けた前記検出手段が肘掛け部に作用する荷重の変化を検出することで、当該背凭れ部をリクライニング動作するよう前記駆動制御手段がリクライニング機構部を駆動制御する請求項3または4記載の起立補助椅子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2010−154929(P2010−154929A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−334469(P2008−334469)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16〜20年度、文部科学省、地域科学技術振興施策、委託研究(知的クラスター創成事業、岐阜・大垣地域ロボティック先端医療クラスター)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(304019399)国立大学法人岐阜大学 (289)
【Fターム(参考)】