説明

超伝導非接触回転装置

【課題】実用に供し得る、超伝導現象を利用した非接触回転装置を提供する。
【解決手段】ピン止め効果を有するバルク超伝導体を断熱低温容器内に配置し、該容器の一方の側に、永久磁石を、隔壁を介して、バルク超伝導体の一方の面に対向して配置し、さらに、上記容器の他方の側に、永久磁石を、隔壁を介して、バルク超伝導体の片方の面に対向して配置し、一方の永久磁石を回転すると、他方の永久磁石が非接触状態で回転することを特徴とする超伝導非接触回転装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非接触状態で回転動力を伝達する技術に関するものである。特に、医薬・バイオ分野において、回転装置による汚染を伴わずに薬液を混合することを可能にし、また、半導体分野において、高真空・高圧環境内で汚染を防止してターンテーブルを駆動することを可能にする技術に関する。
【背景技術】
【0002】
高温超伝導体と永久磁石を組み合わせると、非接触の状態で互いに力を及ぼしあう。この力を利用して、液体窒素温度に冷却した高温超伝導体の上に、永久磁石を浮上させることができる。さらに、液体窒素温度に冷却した高温超伝導体の下に永久磁石を吊下げることができるし、また、永久磁石の下に、液体窒素温度に冷却した高温超伝導体を吊り下げることができる。
【0003】
このような力を遠隔操作に利用して、種々の応用製品が開発されている。例えば、浮上現象を利用して、物体を浮上させて搬送する装置や、非接触のベアリングが開発され、さらに、その応用として、円盤を浮上回転させてエネルギーを貯蔵する超伝導浮上フライホイール型エネルギー貯蔵装置の開発も行われている(非特許文献1、参照)。
【0004】
上記浮上現象は、超伝導体がピン止め効果という特性を有することに基づいて発現する現象である。超伝導体は、磁場を完全に排除するマイスナー効果という現象を呈するが、マイスナー効果だけでは、浮上現象は安定しない。
【0005】
第二種超伝導体内に、常伝導物質(相)を分散させると、超伝導体内に侵入した磁場、即ち、量子化磁束は、常伝導物質(相)に捕捉される。これを、ピン止め効果という。このピン止め効果により、浮上現象が安定的に発現するうえ、超伝導体の下に磁石を吊り下げること、また、磁石の下に超伝導体を吊り下げることが可能となる。
【0006】
超伝導体の上に浮上した磁石、または、超伝導体の下に吊り下がった磁石を回転させるとき、磁場が均一であると、磁石は摩擦なしに回転する。一方、磁場が不均一であると、磁石の回転に対し、磁場の不均一度に応じた摩擦力が発生する。
【0007】
超伝導体の浮上現象を利用して、攪拌容器内の溶液を、撹拌容器の壁に非接触の状態で攪拌する装置が、既に開発されている(特許文献1及び2、参照)。
【0008】
この装置は、撹拌容器の上部にある磁石回転部分、撹拌容器内に設置され、両端に磁石を有する軸からなる回転部分、および、撹拌容器の下部にある超伝導体からなる固定部分の3つの部分から構成されている。そして、上記両端に磁石を有する軸の一方に、回転翼が取り付けられていて、撹拌容器の中で、この回転翼が回転して、溶液を撹拌する。
【0009】
この攪拌システムは、以下の原理により、非接触で回転する。
【0010】
まず、撹拌容器の下にある超伝導体と、撹拌容器内の軸の下部にある磁石は、ピン止め効果により、非接触で磁気的にカップリングしている。上記軸の下部に配した磁石の磁場は、回転方向に均一となるように設計されているので、磁石は、摩擦力を受けることなく自由に回転する。
【0011】
上記装置の上部においては、回転翼を取り付けた軸の上部に配した磁石と、その上部にある回転駆動磁石が、非接触で磁気的にカップリングしている。これら磁石は、NSNSのように、意識的に、同じ磁場分布となるように回転方向に配列されており、上の磁石が回転すると、軸上の磁石も回転する。
【0012】
つまり、この攪拌システムにおいては、上部の磁気カップリングで回転を与え、下部の超伝導体のピン止め効果で回転を支えることにより、攪拌容器内における非接触回転を可能にしている。
【0013】
即ち、この従来システムにおいては、磁石同士のカップリングと、超伝導体と磁石のカップリングを利用して、動力伝達機能、安定浮上機能、および、自由回転機能を組み合わせ、非接触の撹拌機構を実現している。
【0014】
【特許文献1】特開2000−124030号公報
【特許文献2】特開2003−144891号公報
【非特許文献1】Masato Murakami, World Scientific, Singapore, 1991, “Melt processed high temperature superconductors”
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、上記攪拌機構においては、回転中に下部の超伝導カップリングが外れる現象が、時折、観察され、問題となっている。即ち、下部の超電導カップリングが外れると、上部の磁石同士が、吸引力により接触し、その後の非接触回転が不可能になる。
【0016】
非接触回転を復活するためには、撹拌作業を停止し、全てのセッティングを最初からやり直す必要がある。このような問題が生じる理由は、以下の通りである。
【0017】
上部の磁石同士の吸引力は、磁石間の距離が小さくなると、距離の4乗に逆比例して大きくなる。上部の磁石間の距離が小さくなれば、下部では、逆に、磁石と超伝導体間の距離が大きくなり、吸引力が小さくなってしまう。このため、何らかの外乱により、上部の磁石間の距離がさらに小さくなると、上下の磁気カップリング間のバランスが崩れてしまう。
【0018】
超伝導現象を利用した撹拌装置を、医薬・バイオ分野で実用に供することを考える場合、上記問題が生じると、攪拌作業を停止せざるを得ないので、従来システムを操業ラインに組み込むことはできない。それ故、従来システムは、非接触回転による撹拌機構を実現しながらも、実験的な使用にしか用いられていないのが現状である。
【0019】
そこで、本発明は、医薬・バイオ分野や半導体分野において実用に供し得る、超伝導現象を利用した非接触回転装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
従来システムの問題は、磁石同士の磁気カップリングを利用していることにある。磁石間に働く力は、距離の4乗に逆比例する。このため、磁石間の距離が僅かに小さくなっただけで、磁石間の吸引力は急激に増大する。
【0021】
一方、超伝導体と磁石の磁気カップリングにおいては、吸引力と反発力が同時に存在するので、超伝導体と磁石間に働く力は、両者間の距離にそれほど敏感でない。
【0022】
即ち、超伝導を利用した磁気カップリングにおいては、吸引力と反発力の両方が存在するので、一方の力のみが大きく作用せず、両方の力が、超伝導体と磁石の距離を固定化するように作用する。それ故、超伝導体と磁石の磁気カップリングのみで非接触回転機構を実現することができれば、磁気カップリングが外れ、操業を停止するという問題は生じない。
【0023】
そこで、本発明者は、超伝導体と磁石の磁気カップリングのみで非接触回転機構を実現することを発想した。
【0024】
前述したように、超伝導体と磁石の間には、ピン止め効果により、吸引力と反発力の両方が働いて、超伝導体と磁石間の距離が固定化される。この状態で、磁石または超伝導体を回転させるとき、磁場が均一であると、回転に摩擦は生じない。
【0025】
一方、磁場が不均一であると、回転に摩擦が生じるから、回転方向の磁場分布を、適宜制御することで、磁石と超伝導体を、同期して回転させることができる。
【0026】
本発明者は、この磁石と超伝導体の同期回転を、図1に示す基本構造の非接触回転機構において確認した。上記機構において、下側の磁石1を回転させると、超伝導体2を介して上側の磁石1も回転する。
【0027】
なお、上記機構においては、磁石1間の距離を大きくし、磁石同士の影響を排除するため、超伝導体2の間に樹脂3を介挿した。
【0028】
本発明は、上記回転機構に基づいてなされたものであり、その要旨は、以下のとおりである。
【0029】
(1)ピン止め効果を有するバルク超伝導体を断熱低温容器内に配置し、
上記容器の一方の側に、永久磁石を、隔壁を介して、バルク超伝導体の一方の面に対向して配置し、さらに、
上記容器の他方の側に、永久磁石を、隔壁を介して、バルク超伝導体の片方の面に対向して配置し、
一方の永久磁石を回転すると、他方の永久磁石が非接触状態で回転する
ことを特徴とする超伝導非接触回転装置。
【0030】
(2)ピン止め効果を有するバルク超伝導体を非磁性部材の両端に固定したダブルバルク超伝導体を断熱低温容器内に配置し、
上記容器の一方の側に、永久磁石を、隔壁を介して、ダブルバルク超伝導体の一方の面に対向して配置し、さらに、
上記容器の他方の側に、永久磁石を、隔壁を介して、ダブルバルク超伝導体の片方の面に対向して配置し、
一方の永久磁石を回転すると、他方の永久磁石が、非接触状態で回転する
ことを特徴とする超伝導非接触回転装置。
【0031】
(3)前記永久磁石の一方に回転軸を設け、該回転軸の他端に、回転軸に直角な磁極面を有する永久磁石を固定するとともに、ピン止め効果を有するバルク超伝導体を配置した断熱低温容器を、隔壁を介して、バルク超伝導体の一方の面が、該永久磁石の磁極面に対向するように配置し、回転軸の歳差運動を抑制したことを特徴とする前記(1)または(2)に記載の超伝導非接触回転装置。
【0032】
(4)前記バルク超伝導体が、強磁性体を内蔵する複合構造の超電導体であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の超伝導非接触回転装置。
【0033】
(5)前記バルク超伝導体が、複数の超伝導体で構成された超伝導体であることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載の超伝導非接触回転装置。
【0034】
(6)前記バルク超伝導体が、対向する永久磁石の磁極面より大きい対向面を備える超伝導体であることを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれかに記載の超伝導非接触回転装置。
【0035】
(7)前記永久磁石が、多極構造の永久磁石であることを特徴とする前記(1)〜(6)のいずれかに記載の超伝導非接触回転装置。
【0036】
(8)前記永久磁石の一方に撹拌翼を取り付け、密閉容器の隔壁を介し非接触で攪拌翼を回転することを特徴とする前記(1)〜(7)のいずれかに記載の超伝導非接触回転装置。
【0037】
(9)前記永久磁石の一方にターンテーブルを取り付け、密閉容器の隔壁を介し非接触でターンテーブルを回転することを特徴とする前記(1)〜(8)のいずれかに記載の超伝導非接触回転装置。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、超伝導現象を利用して、回転体を、非接触で回転させることができるので、接触しての回転に起因する被撹拌物の汚染を防止しつつ、被攪拌物を攪拌することができる。また、本発明によれば、回転体を、非接触で、しかも、歳差運動を抑制して高速で回転させることができるので、被撹拌物の汚染を防止しつつ、被攪拌物を効率よく撹拌することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
前記非接触回転機構を利用して、図2に示す構造の撹拌装置を作製した。撹拌装置4の内部に、磁石1を内封した回転翼6付きの回転体5を設置する。次に、撹拌装置4の底部に、超伝導体を収容し、真空ポンプ(図示なし)に連結した断熱容器8を設置する。
【0040】
さらに、その下部に、磁石1を配置した回転制御装置7を設置する。撹拌装置4の内部に設置した回転体5、および、回転制御装置7に配置した磁石1は、ともに、N極とS極を、円周に沿って複数個、交互に配列した多極構造となっている。図4に、回転体における磁石1の配列例を示す。図において、4個のN極と4個のS極が、回転体の円周に沿って、交互に配列されている。
【0041】
磁石の多極構造は、極数の多い方が、超伝導体と強力な磁気カップリングを形成し得る点で好ましいが、要は、超伝導体と強力な磁気カップリングを形成することが可能であればよいので、磁石の多極構造は、特定の構造に限定されない。本発明における磁石の多極構造は、超電導体の面積、超電導体との間隔、磁気カップリングの強さ等を考慮して設計すればよい。
【0042】
図2に示すように、断熱容器8の内部に冷媒9(例えば、液体窒素)を送給し、超伝導体2を、臨界温度以下に冷却する。その結果、断熱容器8内の超伝導体2が、それぞれ、回転体5内の磁石1、および、回転制御装置7内の磁石1と磁気カップリングした状態となる。
【0043】
超伝導体と磁石が磁気カップリングした状態で、図3に示すように、回転制御装置7を上昇させる。この上昇により、超伝導体2と磁石1も、互いの距離を保ったまま上昇し、回転体5内の磁石1と断熱容器8内の超伝導体2は、互いに非接触の状態で固定される。
【0044】
この状態で、回転制御装置7を回転すると、磁石1の回転に伴って、磁石1と磁気カップリングした超伝導体2が回転し、さらに、該超伝導体2と磁気カップリングした回転体5内の磁石1が回転する。この回転により、撹拌装置4の内部で、回転翼6が非接触状態で回転し、被攪拌物の撹拌が可能となる。
【0045】
図5に、本発明に係る攪拌実験の態様を示す。超伝導体2を収容した断熱容器8が、撹拌容器11の底部に、ねじ機構を備える固定具10で固定されている。その他の構造は、図2に示す構造と、基本的に同じである。
【0046】
また、図6に、本発明の別の攪拌装置例を示す。この攪拌装置においては、回転翼6を備える回転体5の中心に回転軸15が取り付けられ、この回転軸の一端(図では、上端)には、磁石17が、隔壁を介して、断熱容器8内に固定され冷媒9で冷却される超伝導体18に対向して配置されている。なお、上記軸端部の磁石構造は、図6に示すように、非接触回転機構を構成する磁石構造とは異なるものである。
【0047】
図2及び図3に示す攪拌装置においては、回転体5が回転している間、被攪拌物の流勢が強くなると、被攪拌物の回転翼6に対する負荷が増大し、回転体5の回転が不安定になるとともに、回転体5が歳差運動(すりこぎ運動)を始めることがある。
【0048】
この運動が始まると、回転体5に、それ以上の高速回転は望めないし、また、この運動が増幅すると、攪拌装置や回転機構の破損を招くことになる。
【0049】
図6に示す攪拌装置は、回転体5の一方の端部に、非接触回転機構と同様の機構を適用したもので、超伝導体のピン止め効果により、回転体5の歳差運動(すりこぎ運動)を抑制し、回転の安定化と高速化を図る構造を採用したものである。このような構造を採用することにより、攪拌容器11内に被攪拌物16が多量に存在していても、被攪拌物16を、高速でかつ安定して効率よく攪拌することができる。
【0050】
本発明において、超伝導体は、磁石との間で、所要の強さの磁気カップリングを形成することができるものであればよく、特定の材質や、形状・構造の超伝導体に限定されるものではないが、超電導体の材質としては、液体窒素温度以下で、磁石と強力なカップリングを形成することができるRE−Ba−Cu−O系の超電導材が好ましい。
【0051】
超伝導体は回転体であるので、形状は、円環状が好ましいが、磁石と対向する面の面積は、磁石との強力なカップリングを形成し、滑らかな回転を維持する観点から、適宜決定すればよい。
【0052】
即ち、超伝導体の寸法、及び、磁石の寸法は、上記観点から、適宜決定すればよいが、磁石と対向する超伝導体の寸法を、該磁石の磁極面の寸法より大きくすると、滑らかな回転の安定度が増すので、好ましい。
【0053】
超伝導体の構造は、一体構造でもよく、複数の超伝導体を一体的に組み合せた構造でもよい。また、超伝導体の中に強磁性体を内蔵した複合構造でもよい。
【0054】
図7に、上記複合構造の一例を示す。超伝導体2に、幾つかの孔12(図では5個の孔)を形成し(図7(a)、参照)、この孔に棒状の強磁性体13を挿入する(図7(b)、参照)。超伝導体2と強磁性体13の隙間に低融点合金(例えば、Bi−Pb−Sn−Cd合金など)を含浸させ、強磁性体13を固定する(図7(c)、参照)。
【0055】
このような複合体構造の超伝導体においては、磁石による磁界が強磁性体に集中するので、磁気カップリングを強化することができる。
【0056】
複数の超伝導体を一体的に組み合せて、回転体としての超伝導体を構成すると、回転体としての超伝導体の寸法を大きくすることができるし、また、超伝導特性を均一化することができるので、安定した滑らかな回転を維持する点で、好ましい。
【実施例】
【0057】
以下、実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、実施例で採用する条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0058】
(実施例1)
超伝導体として、直径45mm、高さ15mmのSm−Ba−Cu−O系超伝導体を用いた。超伝導体は、次の手順で作製したものである。
【0059】
SmBa2Cu3yとSm2BaCuO5を3:1の割合で混合し、Ag2Oを10質量%添加し、さらに、Ptを0.5質量%添加した原料粉を、乳針で、充分に混合し、その後、一軸プレスにて成型し、さらに、冷間静水圧プレスにより、200MPaの圧力下で成型し、前駆体を作製した。
【0060】
この前駆体を、空気中で1100℃に加熱し、1050℃まで50℃/hで冷却した後、NdBa2Cu3yの単結晶を、種結晶として前駆体の上に置き、0.5℃/hの冷却速度で900℃まで徐冷して結晶化し、次いで、室温まで炉冷した。炉冷後、結晶体に、酸素気流中にて、400℃で100hの酸素富化処理を施し、超伝導特性を付与した。
【0061】
市販のFe−Nd−B磁石を用い、外径が45mm、高さが15mmで、周方向に、NSNSの4極に分割した永久磁石を、2個作製して使用した。
【0062】
まず、超伝導体を、断熱容器に相当するアルミニウム製の容器の底に配置した。この状態で、回転部分の先端に磁石を固定した回転制御装置を、該磁石と超伝導体が対向するように設置した。ただし、容器の底から、磁石までのギャップを8mmとした。
【0063】
次に、撹拌容器に相当するアルミニウム製の容器の底に、回転翼を備えた永久磁石を設置した。上記容器は、容器の底から超伝導体の上面までの距離が8mmとなる位置に固定した。
【0064】
この状態で、超伝導体を収容した容器に液体窒素を注入し、超伝導体を15分程度冷却した。この冷却状態において、回転制御装置を、4mm程度上方へ移動させた。この移動により、超伝導体および磁石の両方が、共に、約4mm程度上方へ移動した。この移動で、超伝導体は、液体窒素中に浮上した状態になり、また、一番上の磁石は、空中に浮上した状態となった。
【0065】
この浮上状態において、回転制御装置を50rpmで回転させた。そして、該回転に伴い、一番上の磁石も50rpmで回転することを確認した。このことは、下の磁石の回転が、超伝導体を介して、即ち、非接触で、上の磁石に伝達されたことを示している。
【0066】
以上のように、回転制御装置の基本動作を確認することができたので、一旦、超伝導体を室温に戻した。そして、一番上の磁石に、アルミニウムのカバーを被せて、回転翼を取り付けた。その上で、一番上の容器に、青の絵の具と水を、別々に注入した。
【0067】
次に、超伝導体の容器に液体窒素を注入し、先ほどと同様に、最下部の回転制御装置を上方に4mm移動させ、超伝導体が、液体窒素中に浮上し、回転翼付の磁石が、水中に浮上する状態にした。この浮上状態で、回転制御装置を回転させたところ、水が撹拌され、青の絵の具が水に溶けていく様子が、明瞭に観察することができた。
【0068】
このように、超伝導体と磁石2個を組み合わせた非接触回転機構を利用することにより、被攪拌物を非接触で撹拌することが可能であることを確認した。
【0069】
上記撹拌実験で、回転制御装置の回転速度を10rpmとした時は、回転翼付の磁石も10rpmで回転したが、回転速度を20rpmに上げた時には、上記磁石の回転に、比較的大きな遅れが生じた。これは、超伝導体と磁石の間の磁気カップリングが不十分で、回転を伝達するのに充分なトルクが得られず、水の粘性抵抗により、回転に遅れが生じたためである。
【0070】
そこで、永久磁石として、直径45mm、高さ20mmで、NSの数を8極とした磁石を使用した。その結果、回転翼付の磁石が20rpmまで追随して回転することを確認した。
【0071】
このように、磁石における磁極の数を増やすことで、磁気カップリングのカップリング力を高めることができる。なお、磁極を増やす以外にも、磁極の向きを工夫することにより、磁気カップリングのカップリング力を強めることが可能である。
【0072】
(実施例2)
実施例1の攪拌実験を繰り返す過程で、セッティングの際に、上下の磁石間に相互作用が生じることが判明した。これは、セッティングの初期では、磁石と磁石の間に存在する超伝導体が、常電導体であり、磁気シールド効果を発揮しないことによる。上記相互作用により、上下の磁石が、所定の位置で安定せず、斜めに傾いてしまう場合もあった。
【0073】
そこで、上記相互作用を小さくするため、磁石間の距離を大きくすることを試みた。その試みの一つとして、2個の超伝導体の間に、エポキシ樹脂を挿入した(図1、参照)。
超伝導体として、市販の直径45mm、高さ15mmのY−Ba−Cu−O系の超伝導体を、2個用いた。永久磁石は、実施例1で用いた永久磁石と同じものを、2個用いた。
【0074】
磁石の1個には、アルミニウムのカバーを被せて、回転翼を取り付けた。ここで、直径45mm、高さ20mmのエポキシ樹脂の円柱を用意し、その上端と下端に、超伝導体を取り付けた。
【0075】
まず、エポキシ樹脂の円柱の上端と下端に超伝導体を配したダブル超電導体を、アルミニウム製の容器の底に置いた。この状態で、回転部分の先端に磁石を固定した回転制御装置を、磁石と超伝導体の下面が対向するように設置した。ただし、容器の底から、磁石までのギャップを8mmとした。
【0076】
次に、アルミニウム製の容器の底に、回転翼を取り付けた永久磁石を設置した。この時、容器の底は、エポキシ樹脂の上に取り付けた超伝導体の上面からの距離が8mmとなる位置に固定した。
【0077】
この状態で、超伝導体を収容した容器に液体窒素を注入し、超伝導体を15分程度冷却した。その後、回転制御装置を4mm程度上方へ移動させた。この移動により、超伝導体/エポキシ樹脂/超伝導体のダブル超電導体体、および、永久磁石は、共に、約4mm程度上方へ移動し、上記ダブル超電導体は、液体窒素の中に浮上した状態になり、また、一番上の磁石は、空中に浮上した状態となる。
【0078】
次に、回転制御装置を回転させ、上の磁石に取り付けた回転翼が回転することを確認した。回転制御装置を50rpmで回転させると、上の磁石も50rpmで回転した。このことは、ダブル超伝導体を介して、回転制御装置の回転が、上の磁石に、非接触で伝達されたことを示している。
【0079】
次に、一旦、液体窒素を蒸発させ、回転制御装置を元の位置に戻した後、容器に、水と青の絵の具を注入し、再度、回転制御装置を上方へ移動させ、容器の底から超伝導体の上面までの距離が8mmとなる位置に固定した。
【0080】
この状態で、ダブル超伝導体を収容した容器に液体窒素を注入し、ダブル超伝導体を15分程度冷却した。この冷却状態で、回転制御装置を4mm程度上方へ移動させた。この移動により、ダブル超伝導体および永久磁石の両方とも、約4mm程度上方へ移動した。
【0081】
この移動で、ダブル超伝導体は、液体窒素の中に浮上した状態になり、また、上の磁石は、水中に浮上した状態となった。この浮上状態で、回転制御装置を回転させたところ、上の磁石に取り付けた回転翼が回転して水が撹拌され、青の絵の具が水に溶けていく様子を観察することができた。
【0082】
磁石の回転を磁石に伝達する手段として、超伝導体/エポキシ樹脂/超伝導体という構成のダブル超電導体を用いることにより、磁石間の相互作用を抑制し、初期の設定を容易に行うことができた。
【0083】
(実施例3)
実施例2の撹拌装置においては、回転速度20rpmまでは、回転翼も、ほぼ追随して回転したが、それ以上の回転速度では、回転に、比較的大きな遅れが生じた。これは、超伝導体と磁石の間の磁気カップリングが不十分で、トルクの伝達が不十分となり、水の粘性抵抗で回転に遅れが生じたためである。
【0084】
超伝導体は、臨界温度以上では常磁性体であるので、永久磁石が形成する磁場は、ほぼ、そのままの形態で超伝導体を貫くことになるが、超伝導体の内部に、強磁性体(例えば、鉄)が存在すると、磁場は、強磁性体に集中することになる。
【0085】
この磁場の集中状態で、超電導体を超伝導化すると、磁場が強磁性体に集中した磁場分布のままで磁場が固定されるので、大きなトルクを確保できることが予想される。そこで、超伝導体に、次ぎのような加工を施した。
【0086】
超伝導体の中心と、中心から12.5mm離れた外周側に、等距離で4個、合計で5個の直径1mmの孔を、機械加工で形成した。この孔に、直径0.9mm、長さ15mmの鉄製の円柱棒(強磁性体)を挿入し、その後、100℃で溶融したPb−Bi−Sn−Cd合金を含浸させる処理を施し、上記円柱棒を固定した(図7、参照)。
【0087】
このような強磁性体内蔵の超伝導体を用い、実施例2と同様の攪拌実験を行った。その結果、回転翼は、回転速度50rpmまで大きな遅れがなく、かつ、安定して水中で回転することを確認した。即ち、超電導体として、強磁性体内蔵の超伝導体を用いることにより、高速でかつ安定して撹拌することが可能であることを確認した。
【0088】
(実施例4)
直径100、高さ10mmのアルミニウム製の円盤に、直径25mmの穴を設け、市販の直径25mm、高さ10mmのバルクY−Ba−Cu−O系超伝導体を4個、配列が対称になるように埋め込んだ。上記円盤を、図5に示す攪拌装置の超伝導体(図中、2)として用いた。
【0089】
次に、直系100mm、高さ15mmのアルミニウム製の円盤に、直径14mm、高さ10mmの市販のFe−Nd−B磁石4個を、磁極がNSNSで、配列が対称になるように埋め込んだ。この磁石を埋め込んだ円盤(磁石円盤)を、図5に示すように、超伝導体を埋め込んだ円盤(超伝導円盤)の上下に配置し、攪拌実験を行った。
【0090】
ただし、初期の配置では、超伝導体円盤は、容器11の底と接触した状態にあり、駆動側の磁石円盤と被駆動側の磁石円盤との距離は、10mmとしている。
【0091】
この状態で、超伝導体を液体窒素で15分間冷却した。その後、駆動側の磁石円盤を、ジャッキにより、上方へ5mm移動させた。この移動に伴い、超伝導体円盤と、超伝導円盤の上部にある被駆動側の磁石円盤は、ともに、5mm上昇した。
【0092】
上昇した状態で、駆動側の磁石円盤を回転させたところ、超伝導体円盤、及び、被駆動側の磁石円盤が、連動して回転した。
【0093】
回転数を測定したところ、20rpmまでは、駆動側の磁石円盤の回転を、遅れることなく、被駆動側の磁石円盤に伝達できることを確認した。その結果、超伝導体を複数個配置した超伝導円盤を用いても、回転を、非接触で伝達できることを確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0094】
前述したように、本発明によれば、超伝導非接触攪拌装置において、被撹拌物の汚染を防止することができ、また、被撹拌物を効率よく撹拌することができる。したがって、本発明は、医薬・バイオ産業や半導体産業において利用可能性が大きいものである。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】磁石と超伝導体を用いた非接触回転機構の基本構造を示す図である。
【図2】本発明の一実施態様を示す図である。
【図3】回転準備が整った本発明の一実施態様を示す図である。
【図4】回転体における磁石の配置例を示す図である。
【図5】本発明に係る攪拌実験の態様を示す図である。
【図6】本発明の別の装置例を示す図である。
【図7】超伝導体と強磁性体の複合構造を示す図である。(a)は、超伝導体に孔を形成した状態を示し、(b)は、孔に強磁性体を挿入した状態を示し、(c)は、超伝導体と強磁性体との間隙に低融点合金を含浸させて、固定した状態を示す。
【符号の説明】
【0096】
1、17 磁石
2、18 超伝導体
3 樹脂
4 攪拌装置
5 回転体
6 回転翼
7 回転制御装置
8 断熱容器
9 冷媒
10 固定具
11 攪拌容器
12 孔
13 強磁性体
14 低融点合金
15 回転軸
16 被攪拌物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピン止め効果を有するバルク超伝導体を断熱低温容器内に配置し、
上記容器の一方の側に、永久磁石を、隔壁を介して、バルク超伝導体の一方の面に対向して配置し、さらに、
上記容器の他方の側に、永久磁石を、隔壁を介して、バルク超伝導体の片方の面に対向して配置し、
一方の永久磁石を回転すると、他方の永久磁石が非接触状態で回転する
ことを特徴とする超伝導非接触回転装置。
【請求項2】
ピン止め効果を有するバルク超伝導体を非磁性部材の両端に固定したダブルバルク超伝導体を断熱低温容器内に配置し、
上記容器の一方の側に、永久磁石を、隔壁を介して、ダブルバルク超伝導体の一方の面に対向して配置し、さらに、
上記容器の他方の側に、永久磁石を、隔壁を介して、ダブルバルク超伝導体の片方の面に対向して配置し、
一方の永久磁石を回転すると、他方の永久磁石が、非接触状態で回転する
ことを特徴とする超伝導非接触回転装置。
【請求項3】
前記永久磁石の一方に回転軸を設け、該回転軸の他端に、回転軸に直角な磁極面を有する永久磁石を固定するとともに、ピン止め効果を有するバルク超伝導体を配置した断熱低温容器を、隔壁を介して、バルク超伝導体の一方の面が、該永久磁石の磁極面に対向するように配置し、回転軸の歳差運動を抑制したことを特徴とする請求項1または2に記載の超伝導非接触回転装置。
【請求項4】
前記バルク超伝導体が、強磁性体を内蔵する複合構造の超電導体であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の超伝導非接触回転装置。
【請求項5】
前記バルク超伝導体が、複数の超伝導体で構成された超伝導体であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の超伝導非接触回転装置。
【請求項6】
前記バルク超伝導体が、対向する永久磁石の磁極面より大きい対向面を備える超伝導体であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の超伝導非接触回転装置。
【請求項7】
前記永久磁石が、多極構造の永久磁石であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の超伝導非接触回転装置。
【請求項8】
前記永久磁石の一方に撹拌翼を取り付け、密閉容器の隔壁を介し非接触で攪拌翼を回転することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の超伝導非接触回転装置。
【請求項9】
前記永久磁石の一方にターンテーブルを取り付け、密閉容器の隔壁を介し非接触でターンテーブルを回転することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の超伝導非接触回転装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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