超分散触媒及びその製法
【課題】水素化分解活性の高い触媒組成物及びその製法並びに水素化分解法の提供。
【解決手段】油相中に水相を含有するエマルションを備え、約55〜100重量%が硫化される6族金属を水相に含む触媒組成物。約55〜100重量%を硫化した6族金属の水溶液を含む水相を準備する工程と、油相中に水相を混合して、油相中に水相を含有するエマルションを生成する工程とを含む触媒エマルションの製法。水素化分解条件でかつ水素化分解領域24内で上記の触媒組成物20を原料22に接触させる工程を含む水素化分解法。
【解決手段】油相中に水相を含有するエマルションを備え、約55〜100重量%が硫化される6族金属を水相に含む触媒組成物。約55〜100重量%を硫化した6族金属の水溶液を含む水相を準備する工程と、油相中に水相を混合して、油相中に水相を含有するエマルションを生成する工程とを含む触媒エマルションの製法。水素化分解条件でかつ水素化分解領域24内で上記の触媒組成物20を原料22に接触させる工程を含む水素化分解法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の説明】
【0001】
本願は、2011年8月29日付けで出願された米国仮出願第61/528,339号に基づく優先権を主張する。
【技術分野】
【0002】
超分散触媒の使用は、重質原料及び石油残留物の処理に対する理想的な代替法である。高比率の表面積対体積により、目標の主反応に対する高活性を有する高分散金属種が、超分散触媒と共に得られるが、多量の汚染物質と協働する工程では、高分散金属種は、高不活性速度を有し超分散触媒の活性効果が低減する。
【背景技術】
【0003】
超分散触媒は、不均質触媒と均質触媒とに大別される。均質触媒は、水相中又は有機相中に可溶化合物として分離される。不均質触媒は、微粉化されて原油中に投入される触媒固体、即ち触媒前駆体(触媒前駆物質)の乾式分散により、触媒反応工程に導入される固体である。不均質固体の主欠陥は、活性が低く、取扱い困難な副生成物を発生する点にある。
【0004】
高反応性を有する可溶前駆体を大規模に使用すると、製品価格が上昇する。可溶前駆体は、有機金属化合物より安価な利点があるため、水相中の可溶化合物は、複数の触媒エマルションとして触媒反応工程に導入される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
新規技術は、水相中で可溶な金属前駆体から開始して製造される超分散触媒の使用を目的とする。ベネズエラ国営石油公社(PDVSA)である本特許出願人は、オリノコ油田地帯の重質原油及び超重質原油の白油化(燃料油は、白油と黒油とに大別され、ガソリン、灯油、軽油等、無色透明又はそれに近い色相の燃料油を白油といい、重油を処理して白油に変換することを白油化という)と品質改良とを達成する技術開発を行ってきた。現時点では、界面活性剤を含む重質減圧軽油中でモリブデンとニッケルとを水相分散させて製造される油中水滴(W/O)型エマルションに基づく触媒剤を開発している。モリブデン(6価Mo)水相は、硫化剤により金属溶解物を硫化してその場で生成されるアンモニウム・チオモリブデン酸塩溶液である。モリブデン(6価Mo)溶解(溶出)物は、式1−2に示す一連の連続反応により硫化される。チオモリブデン酸塩溶液は、乳化され、熱分解(式3)により活性触媒種をその場で生成する工程に導入される。
【0006】
【化1】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書では、水素化分解活性に対する触媒前駆体の硫化度の効果を考慮するものとする。ベネズエラのメレイ/メサ原油の減圧残油500℃+を原料として用い、反応装置中の硫化水素濃度と、添加粒子粒度(粒径)に関する動作条件の変化を考慮して、触媒剤性能が評価される。
【0008】
エマルション形成前に水溶液中で6族金属を完全に硫化する超分散触媒を用いる水素化分解法により、優れた結果が得られることが本発明で判明した。この水素化分解法では、実質的に触媒金属量を減少させて従来に匹敵する結果を生ずる触媒システム(触媒体)が得られる。
【0009】
本発明は、油相中水相エマルションを含み、水相に含まれる6族金属の約55〜100重量%が硫化される触媒組成物を提供する。
【0010】
また、本発明に使用する触媒組成物は、8族、9族又は10族の金属を含み、8族、9族又は10族の金属を硫化することが好ましい。
【0011】
更に、本発明による触媒エマルションの製法は、6族金属の約55〜100重量%を硫化する6族金属水溶液を含む水相を準備する工程と、水相を油相中に混合して、油相中に水相を生成する工程とを含む。
【0012】
更に、本発明による触媒エマルションの製法は、硫化可能な8族、9族又は10族金属を油相中に含む水相の付加エマルションを生成する工程を含んでもよい。
【0013】
気泡生成(起泡)を制御すると共に、他の不純物間に存在する触媒金属と原料金属を除去する有機添加物を配合して、本発明の触媒エマルションを水素化分解領域に有利に供給して、水素化分解原料に接触させて、触媒エマルションにより原料の品質を有利に改良できることが有利である。
【0014】
本発明の他の有利な特徴は、下記詳細な説明から明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
下記の添付図面について本発明の好適な実施の形態を以下詳述する。
【図1】本発明の触媒組成物と触媒エマルションの生成に使用する製造法Aと製造法Bを示すフローチャート
【図2】本発明の触媒組成物と触媒エマルションの生成に使用する製造法Cを示すフローチャート
【図3】E−Tエマルションの20倍拡大光学顕微鏡写真(実施例1)
【図4】AT−48エマルションの20倍拡大光学顕微鏡写真(実施例1)
【図5a】E−Tエマルション液滴粒度分布を示すグラフ(実施例1)
【図5b】AT−48エマルション液滴粒度分布を示すグラフ(実施例1)
【図6a】E−Tエマルション溶液中のチオモリブデン酸塩の算定濃度を示す円グラフ(実施例1)
【図6b】AT−48エマルション溶液中のチオモリブデン酸塩の算定濃度を示す円グラフ(実施例1)
【図7a】運転停止後の反応装置の検査内部を示す写真(実施例1)
【図7b】運転停止後の反応装置の検査内部の固体を示す写真(実施例1)
【図8a】擬似条件で低含有量硫化剤(E−T)エマルションの分解により得られた固体のMo3d領域で実行される曲線を示すグラフ(実施例1)
【図8b】擬似条件で高含有量硫化剤(AT−48)エマルションの分解により得られた固体のMo3d領域で実行される曲線を示すグラフ(実施例1)
【図9a】模擬条件で低含有量硫化剤(E−T)エマルションの分解により得られた粒子を示す透過型電子顕微鏡写真(実施例1)
【図9b】擬似条件で高低含有量硫化剤(AT−48)エマルションの分解により得られた粒子を示す透過型電子顕微鏡写真(実施例1)
【図10】減圧残油500℃+の転化率を示すグラフ(実施例1)
【図11】アスファルテン転化率を示すグラフ(実施例1)
【図12】微小炭素転化率を示すグラフ(実施例1)
【図13】アスファルテン転化率に対する水素化分解を示すグラフ(実施例1)
【図14】軽質生成油分布を示すグラフ(実施例1)
【図15】重質生成油分布を示すグラフ(実施例1)
【図16】合成原油収率を示すグラフ(実施例1)
【図17】後反応E−Tエマルションナノ粒子(ナノメータレベルの平均粒度を有する粒子)を示す顕微鏡写真及びナノ粒子の粒度分布を示すグラフ(実施例1)
【図18】後反応AT−48エマルションナノ粒子を示す顕微鏡写真及びナノ粒子の粒度分布を示すグラフ(実施例1)
【図19a】後反応E−Tエマルション固体の走査電子顕微鏡画像及びエネルギー分散X線分光法による組成解析域(実施例1)
【図19b】後反応AT−48エマルション固体の走査電子顕微鏡画像及びエネルギー分散X線分光法による組成解析域(実施例1)
【図20】停止後検査による反応装置を示す写真(実施例2)。
【図21】減圧残油500℃+転化率を示すグラフ(実施例2)
【図22】アスファルテン転化率を示すグラフ(実施例2)
【図23】微小炭素転化率を示すグラフ(実施例2)
【図24】合成原油収率を示すグラフ(実施例2)
【図25】減圧残油500℃+転化率、合成原油収率を示すグラフ(実施例3)。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、他の超分散触媒より触媒金属の使用量が少なくかつ優れた結果が得られる超分散触媒及びその製法に関する。
【0017】
本発明では、超分散触媒は、分解されて、その場で超分散型触媒懸濁液を生成し、理想的には、8族、9族又は10族の金属を組み合わせた6族金属が触媒に好適な触媒エマルションに関連するが、詳細は後述する。複数の前記金属を原料に供給する方法として、前記金属を水相中に溶解して、油中に単一又は2以上の乳剤(エマルション)を生成し、その後、水素化分解領域内の原料に乳剤を混合し又は別の方法で接触させ、エマルションを破壊し、水相を煮沸し除去し、還元雰囲気で熱分解により金属を変換して、所望形式の触媒を発生することができる。
【0018】
本発明では、触媒エマルション生成前に、6族金属を水溶性形態で硫化するとき、有利な結果が得られることが判明した。
【0019】
高含有量金属、アスファルテン及び残留炭素(Conradson)を含有する石油、シェール油、タールサンド等の全ての原料から誘導される重質油の品質改善に対して、本発明に使用する触媒は、有用である。金属(バナジウム+ニッケル)含有量は、200重量ppmを超え、アスファルテンは、2重量%を超え、残留炭素(Conradson)は、2重量%を超え、密度は、20度(米国石油協会、API)未満で、500℃以上の温度で煮沸残留分40重量%を超えるのが代表的な濃度分布である。水素分解法は、反応領域、好ましくは上向並流三相気泡塔反応装置内で、水素、硫化水素、超分散触媒及び有機添加物に原料を接触させる工程を含む。
【0020】
原料に対して50〜1000ppm重量濃度で供給される触媒は、1種又は2種以上の水溶性前駆体のエマルションを油相中に含み、水相は、6族金属(VIB族、ケミカルアブストラクト版)及び/又は8族、9族又は10族金属(VIIIB族、ケミカルアブストラクト版)を含有する水溶液を含む。本発明の触媒組成物は、硫化金属種を含む前駆体化合物の熱分解により、活性相をその場で生成できる効果がある。
【0021】
図1に示す触媒製造工程では、アンモニウムヘプタモリブデン酸塩(AHM)、アンモニウム・ジ・モリブデン酸塩(ADM)又はアンモニウム四モリブデン酸塩(ATM)等を6族の金属塩(10)とし、硫化アンモニウム、硫化水素(H2S)、軽質分を除去し又は除去せずに水素化処理から得られる酸性水又は他の全ての硫黄化合物等を硫化剤(12)とするとき、硫化剤(12)を含む水溶液中に6族の金属塩(10)を溶解させて、前駆体(14)が生成される。水溶性前駆体(14)は、0〜20重量%濃度の金属と0〜50重量%濃度の硫化剤とにより生成される。均一に撹拌しながら温度10〜80℃で1〜50時間化合物を反応させて、沈殿物の無い均質溶液中に最大濃度のテトラチオモリブデン酸イオン(MoS42-)を含むチオモリブデン酸塩溶液が得られる。硫黄対6族金属の重量比S2-/Mが少なくとも約3.0となるのに十分な量で、6族金属と硫化剤とを混合することが好ましい。好適な6族金属のモリブデンでもこの比率は、有効であり、硫黄対モリブデンの重量比S2-/Moは、少なくとも約3.0が好ましい。
【0022】
約100〜10000ppm重量濃度、1〜60分間、5〜50℃間の一定温度で、油相(16)に界面活性剤(18)を混合することができる。油相は、重質減圧軽油(HVGO)、重質水素化軽油(HHGO)、鉱油、石油留分、石油留分から抽出されるナフテン酸又はこれらの混合物からなる群から選択される。温度5〜50℃、10分間以上、約100〜10000rpmの均一な撹拌により、混合装置(20)内で水溶性前駆体(14)に油相を接触させて、エマルションを生成する。次に、このエマルションに原料(22)を混合して水素化分解領域(24)に送出し、そこで熱分解により触媒活性相がその位置で生成される。エマルションの平均組成を表1に示す。本発明の他の実施の形態では、有機相、金属塩、界面活性剤及び水の各濃度並びに硫化剤を変更でき、本発明の範囲内でこのような変更が可能である。
【0023】
【表1】
【0024】
8族、9族又は10族から選択される金属、好ましくはニッケルを含む触媒は、図1のように製造される。例えば、硝酸塩、硝酸塩水和物、塩化物、水和塩化物、硫酸塩、水和硫酸塩、酢酸塩、蟻酸エステル又はこれらの混合物等を水溶性非貴金属化合物(11)として、触媒の製法を開始し、非貴金属化合物(11)と蒸留水(13)とを均一に撹拌(14)し続け、約1〜50重量%濃度のニッケル塩水溶液が得られる。同時に、6族金属で使用するものと同一の又はこれとは異なる油相(16)と水相とを混合装置(20)に投入し、約100〜10000rpmの回転速度で10分間以上均一に撹拌して最終的に混合し、原料(22)に混合(結合)して生成された前駆体エマルションを水素化分解領域(24)に移送し、ここで、熱分解により、超分散触媒が生成される。前駆体エマルションの平均組成を表2に示す。本発明の他の実施の形態では、有機相、金属塩及び界面活性剤の各濃度は、変更可能であり、本発明の範囲内で全ての変更が可能である。
【0025】
【表2】
【0026】
図2は、8族、9族又は10族から選択される金属、好ましくはニッケルから触媒を製造する本発明の他の実施の形態を示す。例えば、硝酸塩、水和硝酸塩、塩化物、水和塩化物、硫酸塩、水和硫酸塩、酢酸塩、蟻酸エステル又はこれらの混合物等を水溶性非貴金属化合物(26)として、触媒の製法を開始し、温度10〜50℃で水溶性非貴金属化合物(26)と蒸留水(30)とを均一に撹拌(28)し続け、約1〜50重量%濃度のニッケル塩含有水溶性前駆体が得られる。同時に、6族金属で使用するものと同一の又はこれとは異なる油相(32)と水相とを混合装置(34)に投入し、約100〜10000rpmの回転速度で10分以上均一に撹拌して最終的に混合し、その後、この化合物に硫化剤(38)を混合(36)して、原料(40)に混合(結合)しかつ油相中に分散された活性相が最終的に生成され、混合物は、水素化分解領域(42)に移送されて、ここで、水が排除され、粒度(粒径)分布0.1〜15nmの微細な触媒相は、反応領域に広範囲に超分散する。
【0027】
2010年1月21日に出願され、本願の優先権主張の基礎となる米国特許出願と同時に係属する同一承継人の米国特許出願公開第2011/0174690A1号公報に開示される有機添加物と共に、前記触媒を使用でき、参照により前記米国特許出願の内容を本明細書の一部とする。
【0028】
要約した本発明の前記製法により、従来の触媒エマルションより優れた特性を備える単一又は複数の触媒エマルションを生成することができる。従来の触媒エマルションと比較すれば、本発明の触媒エマルションは、触媒エマルションの水相中の6族金属は、理想的には完全に硫化されることを意味するが、現実には、6族金属は、約55〜100重量%が硫化される点に重要な相違があり、可能な限り沈殿物の無い硫化物形態(例えば、テトラチオモリブデン酸イオン、MoS42-)の6族金属を意味するものと本明細書では定義する。下記実施例で説明するように、硫化物形態の6族金属を含むエマルションを生成することにより、エマルション生成後に6族金属を硫化する触媒エマルションと比較して、6族金属の使用量を実質的に減少させて、優れた結果を得ることができる。
【0029】
あらゆる6族金属を使用できるが、本発明の好適な6族金属は、モリブデンであるから、得られる水相をチオモリブデン酸塩溶液と称することができる。また、モリブデンに関連して得られる実施例を以下に示すが、他の6族金属でもモリブデンと同様の作用効果が得られるから、当業者は、本発明の技術範囲内の他の6族金属を本明細書の開示技術に容易に適合できよう。
【0030】
8族、9族又は10族の前記金属を触媒中の6族金属の促進剤として通常使用できる点にも留意すべきである。このように、他の金属(8族、9族又は10族)の使用は、任意であり、本発明の触媒組成物及びエマルションに配合して使用することが好ましい。8族、9族又は10族の金属を含む複数のエマルションを生成して6族金属のエマルションに混合し、又は前記エマルションを個別に生成して反応領域に供給することができるが、前記エマルションは、全て本発明の広汎な技術的範囲に包含される。促進剤金属を硫化しても、促進剤エマルションからも優れた結果が得られることが判明したが、この場合、8族、9族又は10族の金属エマルションを生成した後に、硫化を行うことができる。また、硫化の効果を示す実施例を後述する。
【0031】
触媒組成物を好適に導入する総括的な水素化分解法の詳細は、本願の優先権主張出願の基礎となる米国特許出願と同一承継人の2010年1月21日に出願された米国特許出願第12/691,205号に開示されるが、参照により前記米国特許出願の内容を本明細書の一部とする。
【0032】
如何なる水素化分解原料も使用でき、ベネズエラのメレイ/メサ原油の減圧残油500-℃+を実験用原料として使用できるのが好適な一例である。この減圧残油は、メレイ原油53容量(体積、v/v)%とメサ原油47容量%との混合物である。標準手順により作成したメレイ/メサ原油の減圧残油の特性数値を表3に示す。
【0033】
【表3】
【0034】
前記の通り、有機添加物を有効に使用して、気泡を最小化し、温度を制御し、汚染物質(アスファルテン及び金属)を吸着でき、反応領域で行われる複数の化学反応の活性触媒種を保持する作用を生じよう。添加物の平均粒度(メジアン径X50)は、下記実施例に示す通り、結果に影響を与える。
【0035】
本発明では、エマルション生成前に硫黄を添加して6族金属を完全に硫化して得られるエマルションは、生成後に硫化するエマルションとは、異なる特性を有する。即ち、本発明により製造されるエマルションの液滴粒度分布は、エマルション生成前に6族金属が十分に硫化されないエマルションとは異なるが、この点は、後述する。従来のエマルションと異なり、本発明のエマルションの平均液滴粒度は、10μmであることが望ましい。
【0036】
また、エマルションの分解により生成される本発明の触媒組成物の触媒粒子は、公知のエマルションの分解から生成される粒子と異なる粒度分布を有する。即ち、本発明の触媒組成物は、水素化分解条件に曝露するとき、粒度分布0.1〜15nmの後反応固体を生成する。
【0037】
実施例
【実施例1】
【0038】
原料
メレイ/メサ原油の減圧残油500℃+を原料に使用して触媒水素化試験を行った。減圧残油は、メレイ原油53容量%とメサ原油47容量%との混合物である。標準手順によりメレイ/メサ原油の減圧残油の測定した特性数値を表3に示す。
【0039】
図1に示す製法により触媒前駆体を合成して、モリブデンとニッケルとの油中水滴(W/O)型超分散エマルション(乳化体)を生成し、その後、水素/硫化水素(H2/H2S)還元雰囲気で乳化体の熱分解により、その場で活性種を生成した。
【0040】
触媒生成に複数の生成工程(段階)を使用した。第1工程は、所定の組成と温度で均一に撹拌しながら、硫化剤を使用してアンモニウムヘプタモリブデン酸塩を直接溶解することにより、モリブデン(6価)溶液を生成する工程を含む。
【0041】
第2工程では、多数の連続相(重質減圧軽油)(表4の主特性)に界面活性剤を混合し、得られた混合物を機械撹拌により均質化した。機械撹拌を行って重質減圧軽油(界面活性剤を含む)から有機基質を生成し、水溶性モリブデン前駆体を有機基質に混合してエマルションを生成した。
【0042】
【表4】
【0043】
2種の触媒エマルションを調製した。溶液中で部分的に予め硫化したモリブデン前駆体から出発して、第1の触媒エマルションを生成した。この触媒エマルションは、乳化後に完全に硫化される。モリブデン前駆体から出発して、モリブデン前駆体を完全に硫化し、固体を析出又は沈殿させずにテトラチオモリブデン酸イオン(MoS42-)量を最大化させて、第2の触媒エマルションを生成した。第1の触媒エマルションをE−Tと呼び、溶液中で十分に硫化した第2の触媒エマルションをAT−48と呼んだ。モリブデンを含む第1の触媒エマルションE−Tと第2の触媒エマルションAT−48の光学顕微鏡写真と液滴粒度分布を図3〜図5に示す。各触媒剤に対する種々の硫化物種の濃度を図6に示す。
【0044】
モリブデンを含む第1の触媒エマルションE−Tと同様の方法で、ニッケルエマルションを準備した。最初に、特定濃度の酢酸ニッケル(II)四水和物を用いてニッケル水溶性前駆体を準備した。その後、界面活性剤に予め接触させた有機基質にニッケル水溶性前駆体を混合した。
【0045】
添加物
2010年1月21日に出願され、本願の優先権主張出願の基礎となる米国特許出願と同時に係属する同一承継人の米国特許出願公開第2011/0174690A1号公報に開示される水素化分解法により、有機添加物を使用して、気泡を最小化し、温度を制御し、汚染物質(アスファルテン及び金属群)を吸着し、反応領域で行われる複数の化学反応の活性触媒種を保持する作用を生じさせた。まず、添加物を篩で分粒して、添加物粒子の平均粒度を調整し、19.9μmと94.8μmの2つの平均粒度(メジアン径X50)に分類した。
【0046】
実験装置
総容積1200mlの単一の反応装置を有する試験装置を使用して、445℃で触媒性能試験を行った。反応装置は、5機の均熱炉を配置した5個の加熱領域を有する。また、この試験装置は、付加的な導入装置、原料気体予熱装置、乳液槽、再利用供給装置、高圧高温分離器、三相分離器、重質軽質生成物槽及び採取装置を備える。2010年1月21日に出願され、本願の優先権主張出願の基礎となる米国特許出願と同時に係属する同一承継人の米国特許出願公開第2011/0120908A1号公報に開示される水素化分解法を実施する小型化装置に対応するのがこの試験装置である。
【0047】
表5に示す異なる4条件の試験を行った。
【0048】
【表5】
【0049】
条件1及び2には再循環ガスを使用し、条件3及び4には、新規水素のみを使用した点に留意すべきである。ニッケル濃度は、全条件で同一である。
【0050】
結果
合計1036時間連続的に試験装置を稼動し、物質収支36(条件1は10、条件2は13、条件3は5及び条件4は8の合計)は、許容範囲内で終了し、流出項対流入項の平均比率は、約99±1%であった。
【0051】
試験後に反応装置を検査した結果、図7aに示すように、反応装置の内部に汚損は殆ど発生せず、また、反応装置内部の固体を容易に除去できた(図7b)。内部の固体は、原料に混合した有機添加物の一部であった。この状態は、低コークス産出量で減圧残油500℃+とアスファルテンが分解されかつ水素化分解/水素処理触媒に対する非常に望ましい特性を意味する典型的に優れた水素化触媒を示すものである。
【0052】
エマルション分解
X線光電子分光(XPS)(図8a及び図8b)及び透過型電子顕微鏡(TEM)(図9a及び図9b)により、第1の触媒エマルションE−Tと第2の触媒エマルションAT−48の模擬条件でのエマルション分解中に発生する固体を評価した。X線光電子分光により、228eVと231eVの各結合エネルギ(B.E.)位置でモリブデン種に対する2つの主ピークの検出を観測した。228.6eVでのピークは、4価モリブデン(Mo4+)の存在を示すが、231eVでのピークは、4価モリブデン(Mo4+3d3/2)と6価モリブデン(Mo6+3d5/2)の重畳結果である。また、エネルギ位置162eVで硫化物イオン形態の硫黄を単一種として検出した。これらの結果は、二硫化モリブデン(MoS2)粒子の生成を立証するものであった。X線光電子分光による硫黄対モリブデン(S/Mo)比を表6に示す。
【0053】
透過型電子顕微鏡画像の結果は、硫化剤濃度により層構造が相違する両触媒剤中の二硫化モリブデン(MoS2)相を示す。第2の触媒エマルションAT−48の結果は、第1の触媒エマルションE−Tにより製造される粒子と比べ、二硫化モリブデン(MoS2)相内に積層する短扁平片(スラブ)が少なく、分散性に優れ、より多い構造欠陥を有する粒子である。
【0054】
【表6】
【0055】
転化
図10は、触媒剤が変化するとき、試験全体を通じて転化率が66.9±2.6重量%に等しく一定であり、転化率レベルに特別な効果を生じない減圧残油500℃+の転化率を示す。厳しくない操作条件では、転化率も低値になる点に留意すべきである。40重量%に満たない平均モリブデン濃度の第2の触媒エマルションAT−48は、第1の触媒エマルションE−Tに類似する作用を生ずるので、高価格のモリブデン量が少ない第2の触媒エマルションAT−48は有利である。
【0056】
アスファルテン転化率を示す図11では、条件1と2で試験を行った平均アスファルテン転化率は、68.0±2.4重量%で同等値であった。条件3及び4で試験を行った平均アスファルテン転化率は、それぞれ64.5±1.4重量%と58.0±3.3重量%とで変動した。この状態には、工程に供給される気体と粒度との相関性があった。再循環ガスを使用する(条件1及び2)と、硫化水素が高濃度のため、アスファルテン転化率が高レベルに維持されることが判明した。より大きい平均粒度の添加粒子を使用するほど、アスファルテンが捕捉される影響により、アスファルテン転化率がより低下するので、平均粒度が増加するほど、転化率が減少すると思われる。
【0057】
図12は、複数の試験条件に対し同一の平均値を維持する減圧残油500℃+転化率としての微小炭素(マイクロカーボン)転化率を示し、触媒剤と粒度とを変更しても、微小炭素転化率を改善しないが、転化率値に悪影響を与えないことを示す。
【0058】
水素化
表7は、アスファルテンと減圧残油500℃の水素化比(Xasphaltenes対X500℃+)を示す。全条件に対し、優れた水素化を得たことが判明した。また、条件4では、アスファルテン転化率が低いほど、水素化比が低下する結果が得られた。
【0059】
【表7】
【0060】
減圧残油500℃(X500℃+)とアスファルテン(Xasphaltenes)との相違を考慮して異なる基準を図13に適用した。結果は、表7に示す数値の通りであり、条件1〜3の水素化は良好であったが、条件4の水素化は許容可能に過ぎなかった。
【0061】
液体生成物収率
図14及び図15に示すように、試験する第1の触媒エマルション(E−T)と第2の触媒エマルション(AT−48)に対し、重質生成物分布と軽質生成物分布との間には相違が殆ど無く、図16は、AT−48触媒剤で約40重量%に満たない金属濃度を使用して、良質な類似生成物が得られることを示す。また、AT−48触媒剤の液体生成物収率が約2〜3重量%増加する状態が認められた。
【0062】
後触媒粒子
図17及び図18は、ジクロロメタン(CH2Cl2)抽出剤を使用して、重質生成物から分離されかつそれぞれ触媒剤E−T及びAT−48から触媒エマルション分解により得られた後反応固体の明視野画像と該当する粒度分布棒グラフを示す。
【0063】
図17の明視野画像に示すE−T触媒剤のナノ粒子粒度分布は、2〜10nmであり、図18の明視野画像に示すAT−48触媒剤のナノ粒子粒度分布は、より狭い1〜6nmである。また、E−T触媒剤の顕微鏡写真は、粒度10〜30nmを有する複数の塊状粒子を示す。
【0064】
同一の操作条件下E−T触媒剤とAT−48触媒剤の両粒子が生成されることを考慮すると、両触媒剤は、水相中の同一の可溶前駆体が原因で発生し、反応時に発生する触媒剤の主反応特性が触媒エマルション生成前の事前硫化度に影響されると思われる。
【0065】
図19aと図19bは、エネルギ分散X線分光法を用いて組成解析を行った領域でそれぞれE−T触媒剤とAT−48触媒剤の重質生成物から分離される反応固体の顕微鏡写真を示す。図19aのE−T画像から均質粒度の凝集粒子を観察できるが、図19bのAT−48画像は多孔質固体を示す。
【0066】
同一の複数の固体粒子の化学組成を決定するエネルギ分散X線分光法の結果、固体粒子は、炭素(C)、酸素(O)、硫黄(S)、バナジウム(V)、ニッケル(Ni)及びモリブデン(Mo)(表8)により形成されることが判明した。使用される触媒剤の一部がバナジウム(V)でないことを考慮すると、原料の脱金属化により、この元素が回収されたことは明らかである。また、微量の鉄(Fe)と塩素(Cl)を観測した。
【0067】
触媒前駆体の硫化度は、触媒性能に影響を与えるので、同一の操作条件で生成されるE−T触媒剤とAT−48触媒剤との特性評価の結果は、触媒前駆体の硫化度に影響される特性を有するナノメートルサイズで生成された金属化合物、多分金属硫化物を示す。
【0068】
【表8】
【0069】
本実施例の全結果を考慮すると、本発明によるAT−48触媒剤を使用して、重質油を改善し、低含有量のモリブデンを含むE−T触媒剤に類似の性能を付与することができる。この試験は、転化率と液体収率が類似しても、AT−48触媒剤とE−T触媒剤は、いずれも優れた水素化を発生し、反応領域内で複数の添加物と気体組成とにより影響を受けることを示す。
【実施例2】
【0070】
原料
メレイ原油53容積%とメサ原油47容積%とを混合したメレイ/メサ減圧残油500℃+を原料として使用した。標準手順により評価したメレイ/メサ減圧残油の数値特性を表3に示す。
【0071】
触媒
図1に示す製法により複数の触媒前駆体を合成し、モリブデンとニッケルの油中水滴(W/O)型超分散エマルションを生成し、水素/硫化水素(H2/H2S)の還元雰囲気で、乳化体(乳化系)の熱分解により、活性種をそこで生成した。
【0072】
種々の工程で触媒を製造した。第1工程では、所定の成分組成と所定の温度で均一に撹拌しながら、アンモニウムヘプタモリブデン酸塩を硫化剤に直接溶解させて、モリブデン(Mo)(6価)溶液を作成した。
【0073】
第2工程では、多数の連続相(重質減圧軽油)(表4の主特性)に界面活性剤を混合し、得られた混合物を機械撹拌により均質化した。重質減圧軽油(界面活性剤を含む)により生成される有機基質に水溶性モリブデン前駆体を機械撹拌により混合してエマルションを生成した。
【0074】
2種の触媒エマルションを生成した。モリブデン前駆体から出発して、溶液中で部分的に事前硫化を行い第1の触媒エマルションを生成した。この触媒剤は、乳化後に完全に硫化される。モリブデン前駆体から出発して、固体沈殿させずにテトラチオモリブデン酸イオン(MoS42-)量を最大化させて完全に硫化した後、乳化して第2の触媒エマルションを生成した。第1の触媒エマルションをE−Tと呼び、溶液中で硫化された第2の触媒エマルションをAT−48と呼んだ。
【0075】
モリブデンを含む第1の触媒エマルション(E−T)と同様の方法で、ニッケルを含むエマルションを作成した。まず、特定の濃度を有する酢酸ニッケル(II)四水和物を用いてニッケル水溶性前駆体を調整した。その後、予め界面活性剤に接触させた有機基質をニッケル水溶性前駆体溶液に混合した。
【0076】
添加物
2010年1月21日に出願され、本願の優先権主張出願の基礎となる米国特許出願と同時に係属する同一承継人の米国特許出願公開第2011/0174690A1号公報に開示される有機添加物を使用して、気泡発生を最小化し、温度を制御し、汚染物質(アスファルテン及び金属群)を吸着し、反応領域で生ずる複数の化学反応の活性触媒種を保持する作用を生じさせた。有機添加物の平均粒度(メジアン径X50)は、40.0μmであった。
【0077】
実験装置
総容積1200mlの単一反応装置を備える試験装置を使用して、温度445℃で触媒性能の試験を行った。反応装置は、5機の均熱炉を配置した5個所の加熱領域を有する。また、この試験装置は、付加的な導入装置、原料気体予熱装置、乳液槽、再循環供給装備、高圧高温分離器、三相分離器、重質軽質生成物槽及び採取装置を備える。2010年1月21日に出願され、本願の優先権主張出願の基礎となる米国特許出願と同時に係属する同一承継人の米国特許出願公開第2011/0120908A1号公報に開示される水素化分解法を実施する小型化装置に対応するのがこの試験装置である。表9に示す通り、異なる2条件で試験を行った。
【0078】
【表9】
【0079】
全条件で再循環ガスを使用したことに留意すべきである。全条件のニッケル濃度は、同一である。
【0080】
結果
試験装置を稼働し、条件1及び2の15の物質収支15は、許容範囲内で終了し、流出項対流入項の平均比率は、約99±2%であった。
【0081】
試験後に反応装置を調査したが、図20に示すように、反応装置内部の汚損は殆ど認められなかった。この状態は、低コークス産出量で減圧残油500℃+とアスファルテンが分解されかつ水素化分解/水素処理触媒に対する非常に望ましい特性を意味する典型的に優れた水素化触媒を示すものである。
【0082】
転化
図21は、第2の触媒エマルションAT−48の最高転化率76.3±1.7重量%及び第1の触媒エマルションE−Tの最高転化率72.7±1.2重量%を示すので、減圧残油500℃+の転化率は、触媒剤変化時の転化率レベルを超える効果があった。
【0083】
図22に示すE−T条件のアスファルテン転化率は、56.1±6.0重量%であり、AT−48条件のアスファルテン転化率は、61.7±3.3重量%であり、差異が認められた。
【0084】
図23は、減圧残油500℃+の転化率として微小炭素転化率を示し、第1の触媒エマルションE−Tと第2の触媒エマルションAT−48では、いずれも65.5±4.7重量%間で同等値であった。
【0085】
液体生成物収率
図24に示すように、第1及び第2の触媒エマルションE−TとAT−48との間では、液体生成収率分布には殆ど差異は無く、50重量%未満の金属濃度を使用して、良質の類似する生成物が得られたこと及び第2の触媒エマルションAT−48は、第1の触媒エマルションE−Tより液体生成収率が約2重量%増加したことを示す。
【0086】
本実施例の結果を全て考慮すると、本発明による第2の触媒エマルションAT−48を使用して重質油を改善でき、モリブデン含有量は少量でも、第1の触媒エマルションE−Tと比較して類似の又は優れた性能を付与することができる。第2の触媒エマルションAT−48及び第1の触媒エマルションE−Tの両触媒剤は、類似する転化率と液体収率とにより優れた水素化を発生し、事前硫化条件が触媒性能に影響を与えることが本試験で判明した。
【実施例3】
【0087】
原料
メレイ原油53容量%とメサ原油47容量%とを混合したメレイ/メサ減圧残油500℃+を原料として使用した。標準手順により検査したメレイ/メサ減圧残油の数値特性を表10に示す。
【0088】
【表10】
【0089】
触媒
図1及び図2の製法により複数の触媒前駆体を合成し、モリブデン及びニッケルを含む油中水滴(W/O)型超分散エマルションを生成した。水素/硫化水素(H2/H2S)還元雰囲気で乳化体の熱分解により、モリブデン活性種をその場で製造した。原料を混合する前に、硫化ニッケル種を油相中に既に分散させたニッケル活性種を図2の製法により製造した。
【0090】
種々の工程より触媒を製造した。第1の工程は、所定の成分組成と所定の温度により、均一に撹拌しながら、アンモニウムヘプタモリブデン酸塩を硫化剤で直接溶解して、モリブデン(6価Mo)の前駆体を生成した。
【0091】
他方、第2の工程では、多数の連続相(重質減圧軽油)(表4の主特性)に界面活性剤を混合し、得られた混合物を機械撹拌により均質化した。機械撹拌により、重質減圧軽油(界面活性剤を含む)により生成される有機基質に水溶性モリブデン前駆体を混合してエマルションを生成した。このエマルションをAT−48と呼んだ。
【0092】
特定濃度の酢酸ニッケル(II)四水和物を用いてニッケル水溶性前駆体を出発物質として作成し、その後、界面活性剤に予め接触させた有機基質に水溶性前駆体溶液を混合してニッケルエマルションを作成した。水素化分解領域に投入する前に、ニッケルエマルションを硫化して、油相中に分散する硫化ニッケル相を生成した。
【0093】
実験装置
総容積300mlのパール反応装置を使用して約425℃で触媒性能を試験した。加熱炉を使用してパール反応装置を加熱した。エマルションと共に予熱したパール反応装置に原料を装填した。全試験でパール反応装置に水素を注入した。反応完了後、パール反応装置から生成物を取出して分析した。
【0094】
ニッケル触媒剤をAT−48と共に試験したが、操作条件を表11に示す。
【0095】
【表11】
【0096】
新鮮な水素を本試験に用いた。
【0097】
結果
図25に示すように、AT−48/NiSは、転化率61重量%、液体収率34重量%、ナフサ収率16重量%、中質留分収率18重量%及び減圧軽油収率1重量%を有する。
【0098】
本実施例の結果は、AT−48/NiS触媒剤を使用して重質油の品質を改善できることを示す。
【実施例4】
【0099】
実施例1から有機添加物と使用した触媒を含む非転化残留物(NCR)から試料を得た。非転化残留物とアスファルテンの慎重な特性評価を実施した。
【0100】
E−T及びAT−48の非転化残留物の脱塩化と脱アスファルテン化を行い、生成物中の減圧残油500℃+及びアスファルテンを生成し、高分解能液体クロマトグラフィ、炭素及び水素元素分析、窒素、硫黄、ニッケル及びバナジウム含有量分析、模擬蒸留、13C及び1H核磁気共鳴並びにスファルテン含有量分析等の解析を実施した。結果を表12〜表15に示す。
【0101】
結果
【0102】
【表12】
【0103】
【表13】
【0104】
【表14】
【0105】
【表15】
【0106】
メレイ/メサ減圧残油とE−T及びAT−48の非転化残留物との間の水素対炭素(H/C)比及び硫黄対炭素(S/C)比に認められる変化により、両触媒剤では、非転化残留物の芳香族性が同一の割合で増加することが判明した。
【0107】
核磁気共鳴分析13Cによる非転化残留物とそれらのアスファルテンでの複数型の炭素百分率の変化により、E−T触媒剤により生成した分子と比較して、AT−48の芳香族性の増加がより少ない縮合分子生成に基づくことが判明した。
【0108】
メレイ/メサ減圧残油とE−T及びAT−48の非転化残留物とのニッケル対バナジウム(Ni/V)比を比較すると、同一の割合で両触媒剤に脱金属化が発生することが判明した。
【0109】
クロマトグラフィ分布変化は、AT−48を使用すると、高次炭素と極性を有する複数の炭素への転化が高効率で転化が行われることを示す。
【0110】
前記実施の形態及び前記実施例に本発明を限定すべきものではなく、前記実施の形態及び実施例は、本発明実施の最適な形態を例示するに過ぎず、形状、大きさ、配置及び動作の詳細等は修正可能である。本発明は、請求項に記載される趣旨及び範囲内の全ての変更態様を包含することを意図する。
【関連出願の説明】
【0001】
本願は、2011年8月29日付けで出願された米国仮出願第61/528,339号に基づく優先権を主張する。
【技術分野】
【0002】
超分散触媒の使用は、重質原料及び石油残留物の処理に対する理想的な代替法である。高比率の表面積対体積により、目標の主反応に対する高活性を有する高分散金属種が、超分散触媒と共に得られるが、多量の汚染物質と協働する工程では、高分散金属種は、高不活性速度を有し超分散触媒の活性効果が低減する。
【背景技術】
【0003】
超分散触媒は、不均質触媒と均質触媒とに大別される。均質触媒は、水相中又は有機相中に可溶化合物として分離される。不均質触媒は、微粉化されて原油中に投入される触媒固体、即ち触媒前駆体(触媒前駆物質)の乾式分散により、触媒反応工程に導入される固体である。不均質固体の主欠陥は、活性が低く、取扱い困難な副生成物を発生する点にある。
【0004】
高反応性を有する可溶前駆体を大規模に使用すると、製品価格が上昇する。可溶前駆体は、有機金属化合物より安価な利点があるため、水相中の可溶化合物は、複数の触媒エマルションとして触媒反応工程に導入される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
新規技術は、水相中で可溶な金属前駆体から開始して製造される超分散触媒の使用を目的とする。ベネズエラ国営石油公社(PDVSA)である本特許出願人は、オリノコ油田地帯の重質原油及び超重質原油の白油化(燃料油は、白油と黒油とに大別され、ガソリン、灯油、軽油等、無色透明又はそれに近い色相の燃料油を白油といい、重油を処理して白油に変換することを白油化という)と品質改良とを達成する技術開発を行ってきた。現時点では、界面活性剤を含む重質減圧軽油中でモリブデンとニッケルとを水相分散させて製造される油中水滴(W/O)型エマルションに基づく触媒剤を開発している。モリブデン(6価Mo)水相は、硫化剤により金属溶解物を硫化してその場で生成されるアンモニウム・チオモリブデン酸塩溶液である。モリブデン(6価Mo)溶解(溶出)物は、式1−2に示す一連の連続反応により硫化される。チオモリブデン酸塩溶液は、乳化され、熱分解(式3)により活性触媒種をその場で生成する工程に導入される。
【0006】
【化1】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書では、水素化分解活性に対する触媒前駆体の硫化度の効果を考慮するものとする。ベネズエラのメレイ/メサ原油の減圧残油500℃+を原料として用い、反応装置中の硫化水素濃度と、添加粒子粒度(粒径)に関する動作条件の変化を考慮して、触媒剤性能が評価される。
【0008】
エマルション形成前に水溶液中で6族金属を完全に硫化する超分散触媒を用いる水素化分解法により、優れた結果が得られることが本発明で判明した。この水素化分解法では、実質的に触媒金属量を減少させて従来に匹敵する結果を生ずる触媒システム(触媒体)が得られる。
【0009】
本発明は、油相中水相エマルションを含み、水相に含まれる6族金属の約55〜100重量%が硫化される触媒組成物を提供する。
【0010】
また、本発明に使用する触媒組成物は、8族、9族又は10族の金属を含み、8族、9族又は10族の金属を硫化することが好ましい。
【0011】
更に、本発明による触媒エマルションの製法は、6族金属の約55〜100重量%を硫化する6族金属水溶液を含む水相を準備する工程と、水相を油相中に混合して、油相中に水相を生成する工程とを含む。
【0012】
更に、本発明による触媒エマルションの製法は、硫化可能な8族、9族又は10族金属を油相中に含む水相の付加エマルションを生成する工程を含んでもよい。
【0013】
気泡生成(起泡)を制御すると共に、他の不純物間に存在する触媒金属と原料金属を除去する有機添加物を配合して、本発明の触媒エマルションを水素化分解領域に有利に供給して、水素化分解原料に接触させて、触媒エマルションにより原料の品質を有利に改良できることが有利である。
【0014】
本発明の他の有利な特徴は、下記詳細な説明から明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
下記の添付図面について本発明の好適な実施の形態を以下詳述する。
【図1】本発明の触媒組成物と触媒エマルションの生成に使用する製造法Aと製造法Bを示すフローチャート
【図2】本発明の触媒組成物と触媒エマルションの生成に使用する製造法Cを示すフローチャート
【図3】E−Tエマルションの20倍拡大光学顕微鏡写真(実施例1)
【図4】AT−48エマルションの20倍拡大光学顕微鏡写真(実施例1)
【図5a】E−Tエマルション液滴粒度分布を示すグラフ(実施例1)
【図5b】AT−48エマルション液滴粒度分布を示すグラフ(実施例1)
【図6a】E−Tエマルション溶液中のチオモリブデン酸塩の算定濃度を示す円グラフ(実施例1)
【図6b】AT−48エマルション溶液中のチオモリブデン酸塩の算定濃度を示す円グラフ(実施例1)
【図7a】運転停止後の反応装置の検査内部を示す写真(実施例1)
【図7b】運転停止後の反応装置の検査内部の固体を示す写真(実施例1)
【図8a】擬似条件で低含有量硫化剤(E−T)エマルションの分解により得られた固体のMo3d領域で実行される曲線を示すグラフ(実施例1)
【図8b】擬似条件で高含有量硫化剤(AT−48)エマルションの分解により得られた固体のMo3d領域で実行される曲線を示すグラフ(実施例1)
【図9a】模擬条件で低含有量硫化剤(E−T)エマルションの分解により得られた粒子を示す透過型電子顕微鏡写真(実施例1)
【図9b】擬似条件で高低含有量硫化剤(AT−48)エマルションの分解により得られた粒子を示す透過型電子顕微鏡写真(実施例1)
【図10】減圧残油500℃+の転化率を示すグラフ(実施例1)
【図11】アスファルテン転化率を示すグラフ(実施例1)
【図12】微小炭素転化率を示すグラフ(実施例1)
【図13】アスファルテン転化率に対する水素化分解を示すグラフ(実施例1)
【図14】軽質生成油分布を示すグラフ(実施例1)
【図15】重質生成油分布を示すグラフ(実施例1)
【図16】合成原油収率を示すグラフ(実施例1)
【図17】後反応E−Tエマルションナノ粒子(ナノメータレベルの平均粒度を有する粒子)を示す顕微鏡写真及びナノ粒子の粒度分布を示すグラフ(実施例1)
【図18】後反応AT−48エマルションナノ粒子を示す顕微鏡写真及びナノ粒子の粒度分布を示すグラフ(実施例1)
【図19a】後反応E−Tエマルション固体の走査電子顕微鏡画像及びエネルギー分散X線分光法による組成解析域(実施例1)
【図19b】後反応AT−48エマルション固体の走査電子顕微鏡画像及びエネルギー分散X線分光法による組成解析域(実施例1)
【図20】停止後検査による反応装置を示す写真(実施例2)。
【図21】減圧残油500℃+転化率を示すグラフ(実施例2)
【図22】アスファルテン転化率を示すグラフ(実施例2)
【図23】微小炭素転化率を示すグラフ(実施例2)
【図24】合成原油収率を示すグラフ(実施例2)
【図25】減圧残油500℃+転化率、合成原油収率を示すグラフ(実施例3)。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、他の超分散触媒より触媒金属の使用量が少なくかつ優れた結果が得られる超分散触媒及びその製法に関する。
【0017】
本発明では、超分散触媒は、分解されて、その場で超分散型触媒懸濁液を生成し、理想的には、8族、9族又は10族の金属を組み合わせた6族金属が触媒に好適な触媒エマルションに関連するが、詳細は後述する。複数の前記金属を原料に供給する方法として、前記金属を水相中に溶解して、油中に単一又は2以上の乳剤(エマルション)を生成し、その後、水素化分解領域内の原料に乳剤を混合し又は別の方法で接触させ、エマルションを破壊し、水相を煮沸し除去し、還元雰囲気で熱分解により金属を変換して、所望形式の触媒を発生することができる。
【0018】
本発明では、触媒エマルション生成前に、6族金属を水溶性形態で硫化するとき、有利な結果が得られることが判明した。
【0019】
高含有量金属、アスファルテン及び残留炭素(Conradson)を含有する石油、シェール油、タールサンド等の全ての原料から誘導される重質油の品質改善に対して、本発明に使用する触媒は、有用である。金属(バナジウム+ニッケル)含有量は、200重量ppmを超え、アスファルテンは、2重量%を超え、残留炭素(Conradson)は、2重量%を超え、密度は、20度(米国石油協会、API)未満で、500℃以上の温度で煮沸残留分40重量%を超えるのが代表的な濃度分布である。水素分解法は、反応領域、好ましくは上向並流三相気泡塔反応装置内で、水素、硫化水素、超分散触媒及び有機添加物に原料を接触させる工程を含む。
【0020】
原料に対して50〜1000ppm重量濃度で供給される触媒は、1種又は2種以上の水溶性前駆体のエマルションを油相中に含み、水相は、6族金属(VIB族、ケミカルアブストラクト版)及び/又は8族、9族又は10族金属(VIIIB族、ケミカルアブストラクト版)を含有する水溶液を含む。本発明の触媒組成物は、硫化金属種を含む前駆体化合物の熱分解により、活性相をその場で生成できる効果がある。
【0021】
図1に示す触媒製造工程では、アンモニウムヘプタモリブデン酸塩(AHM)、アンモニウム・ジ・モリブデン酸塩(ADM)又はアンモニウム四モリブデン酸塩(ATM)等を6族の金属塩(10)とし、硫化アンモニウム、硫化水素(H2S)、軽質分を除去し又は除去せずに水素化処理から得られる酸性水又は他の全ての硫黄化合物等を硫化剤(12)とするとき、硫化剤(12)を含む水溶液中に6族の金属塩(10)を溶解させて、前駆体(14)が生成される。水溶性前駆体(14)は、0〜20重量%濃度の金属と0〜50重量%濃度の硫化剤とにより生成される。均一に撹拌しながら温度10〜80℃で1〜50時間化合物を反応させて、沈殿物の無い均質溶液中に最大濃度のテトラチオモリブデン酸イオン(MoS42-)を含むチオモリブデン酸塩溶液が得られる。硫黄対6族金属の重量比S2-/Mが少なくとも約3.0となるのに十分な量で、6族金属と硫化剤とを混合することが好ましい。好適な6族金属のモリブデンでもこの比率は、有効であり、硫黄対モリブデンの重量比S2-/Moは、少なくとも約3.0が好ましい。
【0022】
約100〜10000ppm重量濃度、1〜60分間、5〜50℃間の一定温度で、油相(16)に界面活性剤(18)を混合することができる。油相は、重質減圧軽油(HVGO)、重質水素化軽油(HHGO)、鉱油、石油留分、石油留分から抽出されるナフテン酸又はこれらの混合物からなる群から選択される。温度5〜50℃、10分間以上、約100〜10000rpmの均一な撹拌により、混合装置(20)内で水溶性前駆体(14)に油相を接触させて、エマルションを生成する。次に、このエマルションに原料(22)を混合して水素化分解領域(24)に送出し、そこで熱分解により触媒活性相がその位置で生成される。エマルションの平均組成を表1に示す。本発明の他の実施の形態では、有機相、金属塩、界面活性剤及び水の各濃度並びに硫化剤を変更でき、本発明の範囲内でこのような変更が可能である。
【0023】
【表1】
【0024】
8族、9族又は10族から選択される金属、好ましくはニッケルを含む触媒は、図1のように製造される。例えば、硝酸塩、硝酸塩水和物、塩化物、水和塩化物、硫酸塩、水和硫酸塩、酢酸塩、蟻酸エステル又はこれらの混合物等を水溶性非貴金属化合物(11)として、触媒の製法を開始し、非貴金属化合物(11)と蒸留水(13)とを均一に撹拌(14)し続け、約1〜50重量%濃度のニッケル塩水溶液が得られる。同時に、6族金属で使用するものと同一の又はこれとは異なる油相(16)と水相とを混合装置(20)に投入し、約100〜10000rpmの回転速度で10分間以上均一に撹拌して最終的に混合し、原料(22)に混合(結合)して生成された前駆体エマルションを水素化分解領域(24)に移送し、ここで、熱分解により、超分散触媒が生成される。前駆体エマルションの平均組成を表2に示す。本発明の他の実施の形態では、有機相、金属塩及び界面活性剤の各濃度は、変更可能であり、本発明の範囲内で全ての変更が可能である。
【0025】
【表2】
【0026】
図2は、8族、9族又は10族から選択される金属、好ましくはニッケルから触媒を製造する本発明の他の実施の形態を示す。例えば、硝酸塩、水和硝酸塩、塩化物、水和塩化物、硫酸塩、水和硫酸塩、酢酸塩、蟻酸エステル又はこれらの混合物等を水溶性非貴金属化合物(26)として、触媒の製法を開始し、温度10〜50℃で水溶性非貴金属化合物(26)と蒸留水(30)とを均一に撹拌(28)し続け、約1〜50重量%濃度のニッケル塩含有水溶性前駆体が得られる。同時に、6族金属で使用するものと同一の又はこれとは異なる油相(32)と水相とを混合装置(34)に投入し、約100〜10000rpmの回転速度で10分以上均一に撹拌して最終的に混合し、その後、この化合物に硫化剤(38)を混合(36)して、原料(40)に混合(結合)しかつ油相中に分散された活性相が最終的に生成され、混合物は、水素化分解領域(42)に移送されて、ここで、水が排除され、粒度(粒径)分布0.1〜15nmの微細な触媒相は、反応領域に広範囲に超分散する。
【0027】
2010年1月21日に出願され、本願の優先権主張の基礎となる米国特許出願と同時に係属する同一承継人の米国特許出願公開第2011/0174690A1号公報に開示される有機添加物と共に、前記触媒を使用でき、参照により前記米国特許出願の内容を本明細書の一部とする。
【0028】
要約した本発明の前記製法により、従来の触媒エマルションより優れた特性を備える単一又は複数の触媒エマルションを生成することができる。従来の触媒エマルションと比較すれば、本発明の触媒エマルションは、触媒エマルションの水相中の6族金属は、理想的には完全に硫化されることを意味するが、現実には、6族金属は、約55〜100重量%が硫化される点に重要な相違があり、可能な限り沈殿物の無い硫化物形態(例えば、テトラチオモリブデン酸イオン、MoS42-)の6族金属を意味するものと本明細書では定義する。下記実施例で説明するように、硫化物形態の6族金属を含むエマルションを生成することにより、エマルション生成後に6族金属を硫化する触媒エマルションと比較して、6族金属の使用量を実質的に減少させて、優れた結果を得ることができる。
【0029】
あらゆる6族金属を使用できるが、本発明の好適な6族金属は、モリブデンであるから、得られる水相をチオモリブデン酸塩溶液と称することができる。また、モリブデンに関連して得られる実施例を以下に示すが、他の6族金属でもモリブデンと同様の作用効果が得られるから、当業者は、本発明の技術範囲内の他の6族金属を本明細書の開示技術に容易に適合できよう。
【0030】
8族、9族又は10族の前記金属を触媒中の6族金属の促進剤として通常使用できる点にも留意すべきである。このように、他の金属(8族、9族又は10族)の使用は、任意であり、本発明の触媒組成物及びエマルションに配合して使用することが好ましい。8族、9族又は10族の金属を含む複数のエマルションを生成して6族金属のエマルションに混合し、又は前記エマルションを個別に生成して反応領域に供給することができるが、前記エマルションは、全て本発明の広汎な技術的範囲に包含される。促進剤金属を硫化しても、促進剤エマルションからも優れた結果が得られることが判明したが、この場合、8族、9族又は10族の金属エマルションを生成した後に、硫化を行うことができる。また、硫化の効果を示す実施例を後述する。
【0031】
触媒組成物を好適に導入する総括的な水素化分解法の詳細は、本願の優先権主張出願の基礎となる米国特許出願と同一承継人の2010年1月21日に出願された米国特許出願第12/691,205号に開示されるが、参照により前記米国特許出願の内容を本明細書の一部とする。
【0032】
如何なる水素化分解原料も使用でき、ベネズエラのメレイ/メサ原油の減圧残油500-℃+を実験用原料として使用できるのが好適な一例である。この減圧残油は、メレイ原油53容量(体積、v/v)%とメサ原油47容量%との混合物である。標準手順により作成したメレイ/メサ原油の減圧残油の特性数値を表3に示す。
【0033】
【表3】
【0034】
前記の通り、有機添加物を有効に使用して、気泡を最小化し、温度を制御し、汚染物質(アスファルテン及び金属)を吸着でき、反応領域で行われる複数の化学反応の活性触媒種を保持する作用を生じよう。添加物の平均粒度(メジアン径X50)は、下記実施例に示す通り、結果に影響を与える。
【0035】
本発明では、エマルション生成前に硫黄を添加して6族金属を完全に硫化して得られるエマルションは、生成後に硫化するエマルションとは、異なる特性を有する。即ち、本発明により製造されるエマルションの液滴粒度分布は、エマルション生成前に6族金属が十分に硫化されないエマルションとは異なるが、この点は、後述する。従来のエマルションと異なり、本発明のエマルションの平均液滴粒度は、10μmであることが望ましい。
【0036】
また、エマルションの分解により生成される本発明の触媒組成物の触媒粒子は、公知のエマルションの分解から生成される粒子と異なる粒度分布を有する。即ち、本発明の触媒組成物は、水素化分解条件に曝露するとき、粒度分布0.1〜15nmの後反応固体を生成する。
【0037】
実施例
【実施例1】
【0038】
原料
メレイ/メサ原油の減圧残油500℃+を原料に使用して触媒水素化試験を行った。減圧残油は、メレイ原油53容量%とメサ原油47容量%との混合物である。標準手順によりメレイ/メサ原油の減圧残油の測定した特性数値を表3に示す。
【0039】
図1に示す製法により触媒前駆体を合成して、モリブデンとニッケルとの油中水滴(W/O)型超分散エマルション(乳化体)を生成し、その後、水素/硫化水素(H2/H2S)還元雰囲気で乳化体の熱分解により、その場で活性種を生成した。
【0040】
触媒生成に複数の生成工程(段階)を使用した。第1工程は、所定の組成と温度で均一に撹拌しながら、硫化剤を使用してアンモニウムヘプタモリブデン酸塩を直接溶解することにより、モリブデン(6価)溶液を生成する工程を含む。
【0041】
第2工程では、多数の連続相(重質減圧軽油)(表4の主特性)に界面活性剤を混合し、得られた混合物を機械撹拌により均質化した。機械撹拌を行って重質減圧軽油(界面活性剤を含む)から有機基質を生成し、水溶性モリブデン前駆体を有機基質に混合してエマルションを生成した。
【0042】
【表4】
【0043】
2種の触媒エマルションを調製した。溶液中で部分的に予め硫化したモリブデン前駆体から出発して、第1の触媒エマルションを生成した。この触媒エマルションは、乳化後に完全に硫化される。モリブデン前駆体から出発して、モリブデン前駆体を完全に硫化し、固体を析出又は沈殿させずにテトラチオモリブデン酸イオン(MoS42-)量を最大化させて、第2の触媒エマルションを生成した。第1の触媒エマルションをE−Tと呼び、溶液中で十分に硫化した第2の触媒エマルションをAT−48と呼んだ。モリブデンを含む第1の触媒エマルションE−Tと第2の触媒エマルションAT−48の光学顕微鏡写真と液滴粒度分布を図3〜図5に示す。各触媒剤に対する種々の硫化物種の濃度を図6に示す。
【0044】
モリブデンを含む第1の触媒エマルションE−Tと同様の方法で、ニッケルエマルションを準備した。最初に、特定濃度の酢酸ニッケル(II)四水和物を用いてニッケル水溶性前駆体を準備した。その後、界面活性剤に予め接触させた有機基質にニッケル水溶性前駆体を混合した。
【0045】
添加物
2010年1月21日に出願され、本願の優先権主張出願の基礎となる米国特許出願と同時に係属する同一承継人の米国特許出願公開第2011/0174690A1号公報に開示される水素化分解法により、有機添加物を使用して、気泡を最小化し、温度を制御し、汚染物質(アスファルテン及び金属群)を吸着し、反応領域で行われる複数の化学反応の活性触媒種を保持する作用を生じさせた。まず、添加物を篩で分粒して、添加物粒子の平均粒度を調整し、19.9μmと94.8μmの2つの平均粒度(メジアン径X50)に分類した。
【0046】
実験装置
総容積1200mlの単一の反応装置を有する試験装置を使用して、445℃で触媒性能試験を行った。反応装置は、5機の均熱炉を配置した5個の加熱領域を有する。また、この試験装置は、付加的な導入装置、原料気体予熱装置、乳液槽、再利用供給装置、高圧高温分離器、三相分離器、重質軽質生成物槽及び採取装置を備える。2010年1月21日に出願され、本願の優先権主張出願の基礎となる米国特許出願と同時に係属する同一承継人の米国特許出願公開第2011/0120908A1号公報に開示される水素化分解法を実施する小型化装置に対応するのがこの試験装置である。
【0047】
表5に示す異なる4条件の試験を行った。
【0048】
【表5】
【0049】
条件1及び2には再循環ガスを使用し、条件3及び4には、新規水素のみを使用した点に留意すべきである。ニッケル濃度は、全条件で同一である。
【0050】
結果
合計1036時間連続的に試験装置を稼動し、物質収支36(条件1は10、条件2は13、条件3は5及び条件4は8の合計)は、許容範囲内で終了し、流出項対流入項の平均比率は、約99±1%であった。
【0051】
試験後に反応装置を検査した結果、図7aに示すように、反応装置の内部に汚損は殆ど発生せず、また、反応装置内部の固体を容易に除去できた(図7b)。内部の固体は、原料に混合した有機添加物の一部であった。この状態は、低コークス産出量で減圧残油500℃+とアスファルテンが分解されかつ水素化分解/水素処理触媒に対する非常に望ましい特性を意味する典型的に優れた水素化触媒を示すものである。
【0052】
エマルション分解
X線光電子分光(XPS)(図8a及び図8b)及び透過型電子顕微鏡(TEM)(図9a及び図9b)により、第1の触媒エマルションE−Tと第2の触媒エマルションAT−48の模擬条件でのエマルション分解中に発生する固体を評価した。X線光電子分光により、228eVと231eVの各結合エネルギ(B.E.)位置でモリブデン種に対する2つの主ピークの検出を観測した。228.6eVでのピークは、4価モリブデン(Mo4+)の存在を示すが、231eVでのピークは、4価モリブデン(Mo4+3d3/2)と6価モリブデン(Mo6+3d5/2)の重畳結果である。また、エネルギ位置162eVで硫化物イオン形態の硫黄を単一種として検出した。これらの結果は、二硫化モリブデン(MoS2)粒子の生成を立証するものであった。X線光電子分光による硫黄対モリブデン(S/Mo)比を表6に示す。
【0053】
透過型電子顕微鏡画像の結果は、硫化剤濃度により層構造が相違する両触媒剤中の二硫化モリブデン(MoS2)相を示す。第2の触媒エマルションAT−48の結果は、第1の触媒エマルションE−Tにより製造される粒子と比べ、二硫化モリブデン(MoS2)相内に積層する短扁平片(スラブ)が少なく、分散性に優れ、より多い構造欠陥を有する粒子である。
【0054】
【表6】
【0055】
転化
図10は、触媒剤が変化するとき、試験全体を通じて転化率が66.9±2.6重量%に等しく一定であり、転化率レベルに特別な効果を生じない減圧残油500℃+の転化率を示す。厳しくない操作条件では、転化率も低値になる点に留意すべきである。40重量%に満たない平均モリブデン濃度の第2の触媒エマルションAT−48は、第1の触媒エマルションE−Tに類似する作用を生ずるので、高価格のモリブデン量が少ない第2の触媒エマルションAT−48は有利である。
【0056】
アスファルテン転化率を示す図11では、条件1と2で試験を行った平均アスファルテン転化率は、68.0±2.4重量%で同等値であった。条件3及び4で試験を行った平均アスファルテン転化率は、それぞれ64.5±1.4重量%と58.0±3.3重量%とで変動した。この状態には、工程に供給される気体と粒度との相関性があった。再循環ガスを使用する(条件1及び2)と、硫化水素が高濃度のため、アスファルテン転化率が高レベルに維持されることが判明した。より大きい平均粒度の添加粒子を使用するほど、アスファルテンが捕捉される影響により、アスファルテン転化率がより低下するので、平均粒度が増加するほど、転化率が減少すると思われる。
【0057】
図12は、複数の試験条件に対し同一の平均値を維持する減圧残油500℃+転化率としての微小炭素(マイクロカーボン)転化率を示し、触媒剤と粒度とを変更しても、微小炭素転化率を改善しないが、転化率値に悪影響を与えないことを示す。
【0058】
水素化
表7は、アスファルテンと減圧残油500℃の水素化比(Xasphaltenes対X500℃+)を示す。全条件に対し、優れた水素化を得たことが判明した。また、条件4では、アスファルテン転化率が低いほど、水素化比が低下する結果が得られた。
【0059】
【表7】
【0060】
減圧残油500℃(X500℃+)とアスファルテン(Xasphaltenes)との相違を考慮して異なる基準を図13に適用した。結果は、表7に示す数値の通りであり、条件1〜3の水素化は良好であったが、条件4の水素化は許容可能に過ぎなかった。
【0061】
液体生成物収率
図14及び図15に示すように、試験する第1の触媒エマルション(E−T)と第2の触媒エマルション(AT−48)に対し、重質生成物分布と軽質生成物分布との間には相違が殆ど無く、図16は、AT−48触媒剤で約40重量%に満たない金属濃度を使用して、良質な類似生成物が得られることを示す。また、AT−48触媒剤の液体生成物収率が約2〜3重量%増加する状態が認められた。
【0062】
後触媒粒子
図17及び図18は、ジクロロメタン(CH2Cl2)抽出剤を使用して、重質生成物から分離されかつそれぞれ触媒剤E−T及びAT−48から触媒エマルション分解により得られた後反応固体の明視野画像と該当する粒度分布棒グラフを示す。
【0063】
図17の明視野画像に示すE−T触媒剤のナノ粒子粒度分布は、2〜10nmであり、図18の明視野画像に示すAT−48触媒剤のナノ粒子粒度分布は、より狭い1〜6nmである。また、E−T触媒剤の顕微鏡写真は、粒度10〜30nmを有する複数の塊状粒子を示す。
【0064】
同一の操作条件下E−T触媒剤とAT−48触媒剤の両粒子が生成されることを考慮すると、両触媒剤は、水相中の同一の可溶前駆体が原因で発生し、反応時に発生する触媒剤の主反応特性が触媒エマルション生成前の事前硫化度に影響されると思われる。
【0065】
図19aと図19bは、エネルギ分散X線分光法を用いて組成解析を行った領域でそれぞれE−T触媒剤とAT−48触媒剤の重質生成物から分離される反応固体の顕微鏡写真を示す。図19aのE−T画像から均質粒度の凝集粒子を観察できるが、図19bのAT−48画像は多孔質固体を示す。
【0066】
同一の複数の固体粒子の化学組成を決定するエネルギ分散X線分光法の結果、固体粒子は、炭素(C)、酸素(O)、硫黄(S)、バナジウム(V)、ニッケル(Ni)及びモリブデン(Mo)(表8)により形成されることが判明した。使用される触媒剤の一部がバナジウム(V)でないことを考慮すると、原料の脱金属化により、この元素が回収されたことは明らかである。また、微量の鉄(Fe)と塩素(Cl)を観測した。
【0067】
触媒前駆体の硫化度は、触媒性能に影響を与えるので、同一の操作条件で生成されるE−T触媒剤とAT−48触媒剤との特性評価の結果は、触媒前駆体の硫化度に影響される特性を有するナノメートルサイズで生成された金属化合物、多分金属硫化物を示す。
【0068】
【表8】
【0069】
本実施例の全結果を考慮すると、本発明によるAT−48触媒剤を使用して、重質油を改善し、低含有量のモリブデンを含むE−T触媒剤に類似の性能を付与することができる。この試験は、転化率と液体収率が類似しても、AT−48触媒剤とE−T触媒剤は、いずれも優れた水素化を発生し、反応領域内で複数の添加物と気体組成とにより影響を受けることを示す。
【実施例2】
【0070】
原料
メレイ原油53容積%とメサ原油47容積%とを混合したメレイ/メサ減圧残油500℃+を原料として使用した。標準手順により評価したメレイ/メサ減圧残油の数値特性を表3に示す。
【0071】
触媒
図1に示す製法により複数の触媒前駆体を合成し、モリブデンとニッケルの油中水滴(W/O)型超分散エマルションを生成し、水素/硫化水素(H2/H2S)の還元雰囲気で、乳化体(乳化系)の熱分解により、活性種をそこで生成した。
【0072】
種々の工程で触媒を製造した。第1工程では、所定の成分組成と所定の温度で均一に撹拌しながら、アンモニウムヘプタモリブデン酸塩を硫化剤に直接溶解させて、モリブデン(Mo)(6価)溶液を作成した。
【0073】
第2工程では、多数の連続相(重質減圧軽油)(表4の主特性)に界面活性剤を混合し、得られた混合物を機械撹拌により均質化した。重質減圧軽油(界面活性剤を含む)により生成される有機基質に水溶性モリブデン前駆体を機械撹拌により混合してエマルションを生成した。
【0074】
2種の触媒エマルションを生成した。モリブデン前駆体から出発して、溶液中で部分的に事前硫化を行い第1の触媒エマルションを生成した。この触媒剤は、乳化後に完全に硫化される。モリブデン前駆体から出発して、固体沈殿させずにテトラチオモリブデン酸イオン(MoS42-)量を最大化させて完全に硫化した後、乳化して第2の触媒エマルションを生成した。第1の触媒エマルションをE−Tと呼び、溶液中で硫化された第2の触媒エマルションをAT−48と呼んだ。
【0075】
モリブデンを含む第1の触媒エマルション(E−T)と同様の方法で、ニッケルを含むエマルションを作成した。まず、特定の濃度を有する酢酸ニッケル(II)四水和物を用いてニッケル水溶性前駆体を調整した。その後、予め界面活性剤に接触させた有機基質をニッケル水溶性前駆体溶液に混合した。
【0076】
添加物
2010年1月21日に出願され、本願の優先権主張出願の基礎となる米国特許出願と同時に係属する同一承継人の米国特許出願公開第2011/0174690A1号公報に開示される有機添加物を使用して、気泡発生を最小化し、温度を制御し、汚染物質(アスファルテン及び金属群)を吸着し、反応領域で生ずる複数の化学反応の活性触媒種を保持する作用を生じさせた。有機添加物の平均粒度(メジアン径X50)は、40.0μmであった。
【0077】
実験装置
総容積1200mlの単一反応装置を備える試験装置を使用して、温度445℃で触媒性能の試験を行った。反応装置は、5機の均熱炉を配置した5個所の加熱領域を有する。また、この試験装置は、付加的な導入装置、原料気体予熱装置、乳液槽、再循環供給装備、高圧高温分離器、三相分離器、重質軽質生成物槽及び採取装置を備える。2010年1月21日に出願され、本願の優先権主張出願の基礎となる米国特許出願と同時に係属する同一承継人の米国特許出願公開第2011/0120908A1号公報に開示される水素化分解法を実施する小型化装置に対応するのがこの試験装置である。表9に示す通り、異なる2条件で試験を行った。
【0078】
【表9】
【0079】
全条件で再循環ガスを使用したことに留意すべきである。全条件のニッケル濃度は、同一である。
【0080】
結果
試験装置を稼働し、条件1及び2の15の物質収支15は、許容範囲内で終了し、流出項対流入項の平均比率は、約99±2%であった。
【0081】
試験後に反応装置を調査したが、図20に示すように、反応装置内部の汚損は殆ど認められなかった。この状態は、低コークス産出量で減圧残油500℃+とアスファルテンが分解されかつ水素化分解/水素処理触媒に対する非常に望ましい特性を意味する典型的に優れた水素化触媒を示すものである。
【0082】
転化
図21は、第2の触媒エマルションAT−48の最高転化率76.3±1.7重量%及び第1の触媒エマルションE−Tの最高転化率72.7±1.2重量%を示すので、減圧残油500℃+の転化率は、触媒剤変化時の転化率レベルを超える効果があった。
【0083】
図22に示すE−T条件のアスファルテン転化率は、56.1±6.0重量%であり、AT−48条件のアスファルテン転化率は、61.7±3.3重量%であり、差異が認められた。
【0084】
図23は、減圧残油500℃+の転化率として微小炭素転化率を示し、第1の触媒エマルションE−Tと第2の触媒エマルションAT−48では、いずれも65.5±4.7重量%間で同等値であった。
【0085】
液体生成物収率
図24に示すように、第1及び第2の触媒エマルションE−TとAT−48との間では、液体生成収率分布には殆ど差異は無く、50重量%未満の金属濃度を使用して、良質の類似する生成物が得られたこと及び第2の触媒エマルションAT−48は、第1の触媒エマルションE−Tより液体生成収率が約2重量%増加したことを示す。
【0086】
本実施例の結果を全て考慮すると、本発明による第2の触媒エマルションAT−48を使用して重質油を改善でき、モリブデン含有量は少量でも、第1の触媒エマルションE−Tと比較して類似の又は優れた性能を付与することができる。第2の触媒エマルションAT−48及び第1の触媒エマルションE−Tの両触媒剤は、類似する転化率と液体収率とにより優れた水素化を発生し、事前硫化条件が触媒性能に影響を与えることが本試験で判明した。
【実施例3】
【0087】
原料
メレイ原油53容量%とメサ原油47容量%とを混合したメレイ/メサ減圧残油500℃+を原料として使用した。標準手順により検査したメレイ/メサ減圧残油の数値特性を表10に示す。
【0088】
【表10】
【0089】
触媒
図1及び図2の製法により複数の触媒前駆体を合成し、モリブデン及びニッケルを含む油中水滴(W/O)型超分散エマルションを生成した。水素/硫化水素(H2/H2S)還元雰囲気で乳化体の熱分解により、モリブデン活性種をその場で製造した。原料を混合する前に、硫化ニッケル種を油相中に既に分散させたニッケル活性種を図2の製法により製造した。
【0090】
種々の工程より触媒を製造した。第1の工程は、所定の成分組成と所定の温度により、均一に撹拌しながら、アンモニウムヘプタモリブデン酸塩を硫化剤で直接溶解して、モリブデン(6価Mo)の前駆体を生成した。
【0091】
他方、第2の工程では、多数の連続相(重質減圧軽油)(表4の主特性)に界面活性剤を混合し、得られた混合物を機械撹拌により均質化した。機械撹拌により、重質減圧軽油(界面活性剤を含む)により生成される有機基質に水溶性モリブデン前駆体を混合してエマルションを生成した。このエマルションをAT−48と呼んだ。
【0092】
特定濃度の酢酸ニッケル(II)四水和物を用いてニッケル水溶性前駆体を出発物質として作成し、その後、界面活性剤に予め接触させた有機基質に水溶性前駆体溶液を混合してニッケルエマルションを作成した。水素化分解領域に投入する前に、ニッケルエマルションを硫化して、油相中に分散する硫化ニッケル相を生成した。
【0093】
実験装置
総容積300mlのパール反応装置を使用して約425℃で触媒性能を試験した。加熱炉を使用してパール反応装置を加熱した。エマルションと共に予熱したパール反応装置に原料を装填した。全試験でパール反応装置に水素を注入した。反応完了後、パール反応装置から生成物を取出して分析した。
【0094】
ニッケル触媒剤をAT−48と共に試験したが、操作条件を表11に示す。
【0095】
【表11】
【0096】
新鮮な水素を本試験に用いた。
【0097】
結果
図25に示すように、AT−48/NiSは、転化率61重量%、液体収率34重量%、ナフサ収率16重量%、中質留分収率18重量%及び減圧軽油収率1重量%を有する。
【0098】
本実施例の結果は、AT−48/NiS触媒剤を使用して重質油の品質を改善できることを示す。
【実施例4】
【0099】
実施例1から有機添加物と使用した触媒を含む非転化残留物(NCR)から試料を得た。非転化残留物とアスファルテンの慎重な特性評価を実施した。
【0100】
E−T及びAT−48の非転化残留物の脱塩化と脱アスファルテン化を行い、生成物中の減圧残油500℃+及びアスファルテンを生成し、高分解能液体クロマトグラフィ、炭素及び水素元素分析、窒素、硫黄、ニッケル及びバナジウム含有量分析、模擬蒸留、13C及び1H核磁気共鳴並びにスファルテン含有量分析等の解析を実施した。結果を表12〜表15に示す。
【0101】
結果
【0102】
【表12】
【0103】
【表13】
【0104】
【表14】
【0105】
【表15】
【0106】
メレイ/メサ減圧残油とE−T及びAT−48の非転化残留物との間の水素対炭素(H/C)比及び硫黄対炭素(S/C)比に認められる変化により、両触媒剤では、非転化残留物の芳香族性が同一の割合で増加することが判明した。
【0107】
核磁気共鳴分析13Cによる非転化残留物とそれらのアスファルテンでの複数型の炭素百分率の変化により、E−T触媒剤により生成した分子と比較して、AT−48の芳香族性の増加がより少ない縮合分子生成に基づくことが判明した。
【0108】
メレイ/メサ減圧残油とE−T及びAT−48の非転化残留物とのニッケル対バナジウム(Ni/V)比を比較すると、同一の割合で両触媒剤に脱金属化が発生することが判明した。
【0109】
クロマトグラフィ分布変化は、AT−48を使用すると、高次炭素と極性を有する複数の炭素への転化が高効率で転化が行われることを示す。
【0110】
前記実施の形態及び前記実施例に本発明を限定すべきものではなく、前記実施の形態及び実施例は、本発明実施の最適な形態を例示するに過ぎず、形状、大きさ、配置及び動作の詳細等は修正可能である。本発明は、請求項に記載される趣旨及び範囲内の全ての変更態様を包含することを意図する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
6族金属の約55〜100重量%が硫化され、6族金属を含む水相エマルションを油相中に配合したことを特徴とする触媒組成物。
【請求項2】
水相中の6族金属を完全に硫化した請求項1に記載の触媒組成物。
【請求項3】
6族金属はモリブデンを含み、水溶液は、チオモリブデン酸塩溶液である請求項1に記載の触媒組成物。
【請求項4】
水相は、更に8族、9族又は10族の金属を含む請求項1に記載の触媒組成物。
【請求項5】
8族、9族又は10族の金属を含む水相を油相中に含有する別のエマルションを更に含む請求項4に記載の触媒組成物。
【請求項6】
8族、9族又は10族の金属を硫化した請求項4に記載の触媒組成物。
【請求項7】
油相は、重質減圧軽油(HVGO)、重質水素化軽油(HHGO)、鉱油、石油留分、石油留分から抽出されるナフテン酸又はこれらの混合物を含む請求項1に記載の触媒組成物。
【請求項8】
6族金属の濃度は、50〜1000重量ppmである請求項1に記載の触媒組成物。
【請求項9】
水素化分解時に、触媒は、0.1〜15nmの粒度分布を有する後反応固体を生成する請求項1に記載の触媒組成物。
【請求項10】
エマルションは、10μm未満の平均液滴径を有する請求項1に記載の触媒組成物。
【請求項11】
6族金属の約55〜100重量%を硫化した6族金属の水溶液を含む水相を生成する工程と、
油相中に水相を混合して、油相中水相エマルションを生成する工程とを含むことを特徴とする触媒エマルションの製法。
【請求項12】
水相中の6族金属を完全に硫化する工程を含む請求項11に記載の触媒エマルションの製法。
【請求項13】
6族金属は、モリブデンを含み、水相はチオモリブデン酸塩溶液を含む請求項11に記載の触媒エマルションの製法。
【請求項14】
8族、9族又は10族の金属を含む水相を油相中に含有する付加エマルションを準備する工程を含む請求項11に記載の触媒エマルションの製法。
【請求項15】
原料に接触させる前に又は反応領域の位置で8族、9族又は10族の金属を硫化する工程を含む請求項14に記載の触媒エマルションの製法。
【請求項16】
エマルション、付加エマルション及び原料を水素化分解領域に供給する工程を含む請求項15に記載の触媒エマルションの製法。
【請求項17】
油相は、重質減圧軽油(HVGO)、重質水素化軽油(HHGO)、鉱油、石油留分、石油留分から抽出されるナフテン酸又はこれらの混合物を含む請求項11に記載の触媒エマルションの製法。
【請求項18】
6族金属の濃度は、50〜1000重量ppmである請求項11に記載の触媒エマルションの製法。
【請求項19】
水相を準備する工程は、6族金属材料と硫化剤とを水中で混合して水相を生成する工程を含む請求項11に記載の触媒エマルションの製法。
【請求項20】
S2-/Mとして測定される6族金属Mに対する硫黄の重量比を少なくとも3.0で6族金属と硫化剤とを混合する工程を含む請求項19に記載の触媒エマルションの製法。
【請求項21】
水素化分解条件でかつ水素化分解領域内で請求項1に記載の触媒組成物を原料に接触させる工程を含むことを特徴とする水素化分解法。
【請求項22】
炭素添加物を水素化分解領域に投入して水素化分解領域内の気泡を制御し、触媒と原料金属を回収する工程を更に含む請求項21に記載の水素化分解法。
【請求項1】
6族金属の約55〜100重量%が硫化され、6族金属を含む水相エマルションを油相中に配合したことを特徴とする触媒組成物。
【請求項2】
水相中の6族金属を完全に硫化した請求項1に記載の触媒組成物。
【請求項3】
6族金属はモリブデンを含み、水溶液は、チオモリブデン酸塩溶液である請求項1に記載の触媒組成物。
【請求項4】
水相は、更に8族、9族又は10族の金属を含む請求項1に記載の触媒組成物。
【請求項5】
8族、9族又は10族の金属を含む水相を油相中に含有する別のエマルションを更に含む請求項4に記載の触媒組成物。
【請求項6】
8族、9族又は10族の金属を硫化した請求項4に記載の触媒組成物。
【請求項7】
油相は、重質減圧軽油(HVGO)、重質水素化軽油(HHGO)、鉱油、石油留分、石油留分から抽出されるナフテン酸又はこれらの混合物を含む請求項1に記載の触媒組成物。
【請求項8】
6族金属の濃度は、50〜1000重量ppmである請求項1に記載の触媒組成物。
【請求項9】
水素化分解時に、触媒は、0.1〜15nmの粒度分布を有する後反応固体を生成する請求項1に記載の触媒組成物。
【請求項10】
エマルションは、10μm未満の平均液滴径を有する請求項1に記載の触媒組成物。
【請求項11】
6族金属の約55〜100重量%を硫化した6族金属の水溶液を含む水相を生成する工程と、
油相中に水相を混合して、油相中水相エマルションを生成する工程とを含むことを特徴とする触媒エマルションの製法。
【請求項12】
水相中の6族金属を完全に硫化する工程を含む請求項11に記載の触媒エマルションの製法。
【請求項13】
6族金属は、モリブデンを含み、水相はチオモリブデン酸塩溶液を含む請求項11に記載の触媒エマルションの製法。
【請求項14】
8族、9族又は10族の金属を含む水相を油相中に含有する付加エマルションを準備する工程を含む請求項11に記載の触媒エマルションの製法。
【請求項15】
原料に接触させる前に又は反応領域の位置で8族、9族又は10族の金属を硫化する工程を含む請求項14に記載の触媒エマルションの製法。
【請求項16】
エマルション、付加エマルション及び原料を水素化分解領域に供給する工程を含む請求項15に記載の触媒エマルションの製法。
【請求項17】
油相は、重質減圧軽油(HVGO)、重質水素化軽油(HHGO)、鉱油、石油留分、石油留分から抽出されるナフテン酸又はこれらの混合物を含む請求項11に記載の触媒エマルションの製法。
【請求項18】
6族金属の濃度は、50〜1000重量ppmである請求項11に記載の触媒エマルションの製法。
【請求項19】
水相を準備する工程は、6族金属材料と硫化剤とを水中で混合して水相を生成する工程を含む請求項11に記載の触媒エマルションの製法。
【請求項20】
S2-/Mとして測定される6族金属Mに対する硫黄の重量比を少なくとも3.0で6族金属と硫化剤とを混合する工程を含む請求項19に記載の触媒エマルションの製法。
【請求項21】
水素化分解条件でかつ水素化分解領域内で請求項1に記載の触媒組成物を原料に接触させる工程を含むことを特徴とする水素化分解法。
【請求項22】
炭素添加物を水素化分解領域に投入して水素化分解領域内の気泡を制御し、触媒と原料金属を回収する工程を更に含む請求項21に記載の水素化分解法。
【図1】
【図2】
【図5a】
【図5b】
【図6a】
【図6b】
【図8a】
【図8b】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図3】
【図4】
【図7a】
【図7b】
【図9a】
【図9b】
【図17】
【図18】
【図19a】
【図19b】
【図20】
【図2】
【図5a】
【図5b】
【図6a】
【図6b】
【図8a】
【図8b】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図3】
【図4】
【図7a】
【図7b】
【図9a】
【図9b】
【図17】
【図18】
【図19a】
【図19b】
【図20】
【公開番号】特開2013−66883(P2013−66883A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−187261(P2012−187261)
【出願日】平成24年8月28日(2012.8.28)
【出願人】(591223574)インテベプ エス エー (5)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−187261(P2012−187261)
【出願日】平成24年8月28日(2012.8.28)
【出願人】(591223574)インテベプ エス エー (5)
【Fターム(参考)】
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