説明

超合金製部品に被覆を形成する方法

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、超合金製部品に被覆を形成する方法に関し、特に航空機エンジンのような航空用途で使用することを意図した超合金製部品の局部領域上に被覆を形成する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】比応力又は遭遇する接触による部品の局部領域の表面特性を改良するように該領域を被覆することにより、部品の耐用年数を改善しようとする多くの応用例が知られている。このタイプの表面処理技術が、仏国公開特許第2397259号に記載されており、該特許は、ブレードの先端の割れに対して耐性を有する合金被覆を融着し、続いて剛性の及び/又は酸化腐食に耐性を有する合金層をデポジットすることを提案している。更に仏国公開特許第2511908号による拡散ブレージング法が知られており、該方法は、二つの粉末の混合物から作られた予備焼結ブランク形態のニッケル又はコバルト基部への適用を含み、二つの粉末の中、一方の被覆層粉末と称されるものは、混合物中の5〜25重量パーセントを占めると共に、ニッケル基、クロム及びホウ素、又はニッケル、コバルト、シリコン及びホウ素を含んでいる。更に米国特許第4705203号は、異なる組成の二つの連続層のプラズマフレーム溶射、次いで第1の層のみが溶融されて表面層が得られる熱処理を含む超合金製部品の表面欠陥を修復する方法を開示している。
【0003】特に仏国公開特許第2511908号に開示されている製造技術は、ブレージングにより超合金製部品の局部領域上に被覆を形成する適用に対して自己ろう付け可能な焼結材料を準備するために均一に混合された粉末を使用する必要がある。この場合、超合金製部品が使用可能な最大温度は、ブレージング温度よりも実質的に低く維持されなければならない。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、超合金製部品に対して酸化防止、耐摩耗等の特定の表面機能特性を付与し得ると同時に、ブレージング温度に等しいかあるいはこれよりも高い温度での超合金製部品の使用を可能にする被覆を、ブレージングにより超合金製部品における少なくとも一つの局部領域上に形成することができる方法を提供することにある。
【0005】この問題は特に、通常の使用温度より高い温度での熱処理サイクルに耐えることができないある種の超合金の使用から生じたものであり、特に単結晶合金から作られた航空機用エンジン部品のような特定の航空用途によく見受けられる。その一つの例がヨーロッパ公開特許第149942号に示されている。この問題に対する充分満足すべき解決法は当技術分野においてまだ提案されていない。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明によれば、前述の目的は、超合金製部品における少なくとも一つの局部領域上に被覆を形成する方法であって、(a)フラックス成分を含有する材料を局部領域上に直接プラズマフレーム溶射して該材料の内層を局部領域上にデポジットする段階と、(b)混合物材料の中間層をプラズマフレーム溶射により内層上にデポジットする段階と、(c)部品に対して局部領域における所望の表面機能特性を与えるように選択された材料からなる外層をプラズマフレーム溶射により中間層上にデポジットする段階と、(d)前述の(a)、(b)及び(c)段階においてデポジットされた各層に対して、その温度及び持続時間が各層に使用される材料に応じて実験的に決定されるブレージング熱処理サイクルを施す段階とを連続的に含んでおり、内層を形成する材料は内層の溶融及びその凝固がブレージング熱処理サイクル中に得られるように選択されており、中間層を形成する混合物材料が内層及び外層に使用される材料の混合物である方法によって達成される。
【0007】本発明の方法によれば、内層、中間層及び外層がプラズマフレーム溶射によって連続的に超合金製部品の局部領域上にデポジットされた後、これらの各層に対してブレージング熱処理サイクルが施される。内層は、フラックス成分を含有しており、内層の溶融及びその凝固がブレージング熱処理サイクル中に得られるように選択された材料からなり、外層は、所望の表面機能特性を与えるように選択された材料からなり、中間層は、内層及び外層に使用される材料の混合物からなる。又、ブレージング熱処理サイクルは、その温度及び持続時間が各層に使用される材料に応じて決定されている。従って、このようにして得られた被覆は、ブレージング熱処理サイクル中に達する温度よりも高い再溶融温度を有することができ、その結果、超合金製部品に対して酸化防止、耐摩耗等の特定の表面機能特性を付与し得ると同時に、ブレージング温度に等しいかあるいはこれよりも高い温度での超合金製部品の使用を可能にする被覆を、ブレージングにより超合金製部品における少なくとも一つの局部領域上に形成することができる。
【0008】本発明による方法の好ましい特徴によれば、プラズマフレーム溶射が密閉エンクロージャ内において調節雰囲気の分圧下で実行されるのがよい。
【0009】更に、本発明によれば、前述の目的は、超合金製部品における少なくとも一つの局部領域上に被覆を形成する方法であって、(a)金属支持体を準備する段階と、(b)部品に対して局部領域における所望の表面機能特性を与えるように選択された粉末状の第1の材料を金属支持体上にプラズマフレーム溶射して第1の材料からなる第1の層を支持体上にデポジットする段階と、(c)第1の材料とフラックス成分を含有する第2の材料との混合物を粉末状で第1の層上にプラズマフレーム溶射して第2の層を形成する段階と、(d)粉末状の第2の材料を第2の層上にプラズマフレーム溶射して第3の層を形成する段階と、(e)前述の(b)、(c)及び(d)段階によって形成された三層デポジットを、三層デポジットに機械的応力をほとんど及ぼさない方法で支持体から取り外す段階と、(f)被覆されるべき部品の局部領域に対応する形状をもつ部分を、得られるべき形状部分に何らの機械的応力も及ぼさない方法によって三層デポジットから切り取る段階と、(g)前述の(f)段階で得られた形状部分を、第2の材料で形成された第3の層を部品に接触させて部品の局部領域上の正しい位置に設置する段階と、(h)各層の形成に使用される材料によって決まる温度及び持続時間の条件に従って、少なくとも局部領域と設置された形状部分とにブレージング熱処理サイクルを施す段階とを連続的に備えており、第2の材料は部品に接触している第3の層の溶融及びその凝固がブレージング熱処理サイクル中に得られるように選択されている他の方法によって達成される。
【0010】本発明の他の方法は、被覆されるべき超合金製部品の局部領域が作業上接近困難であったり、該領域の境界が溶射の間に粉末の損失をもたらす場合等に有利である。
【0011】本発明による他の方法の好ましい特徴によれば、プラズマフレーム溶射が密閉エンクロージャ内において調節雰囲気の分圧下で実行されるのがよい。
【0012】本発明による他の方法の他の好ましい特徴によれば、(e)段階における三層デポジットの支持体からの取外しがワイヤ放電加工によって行われるのがよい。
【0013】本発明による他の方法の更に他の好ましい特徴によれば、(e)段階における三層デポジットの支持体からの取外しが支持体を化学的に溶解させることによって行われるのがよい。
【0014】本発明による他の方法の更に他の好ましい特徴によれば、(f)段階における形状部分の切取りがレーザ切断によって行われるのがよい。
【0015】本発明による他の方法の更に他の好ましい特徴によれば、(f)段階における形状部分の切取りがウォータジェット切断によって行われるのがよい。
【0016】本発明による他の方法の更に他の好ましい特徴によれば、(f)段階における形状部分の切取りがワイヤ放電加工によって行われるのがよい。
【0017】
【実施例】以下、本発明を図面に示す好ましい実施例を用いて詳述する。
【0018】図面に示された超合金製部品の少なくとも一つの局部領域上に被覆を形成する方法は次の各段階を備えている。
【0019】(a)図1に示されているように、三つの層2、3及び4を金属支持体1上にプラズマフレーム溶射によって連続的にデポジットする段階であって、先ず、材料に被覆される部分における所望の表面機能特性に対応した特性の付与を可能にする組成を有する粉末を使用して、支持体1上に層2を直接デポジットする。次いで、他の二つの層の製造に使用される粉末の混合物からなる中間層3をデポジットし、最後にその構成材料がフラックス成分を含むと共にブレージング合金に対応する粉末を使用して層4をデポジットする。
【0020】(b)次いで、デポジット5に機械的応力を全く及ぼさず、又、それ自体知られている取外し法を使用して、三層デポジット5を支持体1から分離する。
【0021】(c)次いで、被覆されるべき部品の局部領域の幾何学的形状に対応する輪郭を有する、図2の(a)に図解式に示されているような少なくとも一つの形状部分又はプレフォーム6を、それ自体知られておりかつ部分6に全く機械的応力を及ぼさない方法を使用して、分離されたデポジット5から切断する。
【0022】(d)次いで、このようにして得られた形状部分6を、図2の(b)に示されているような被覆されるべき部品7の局部領域8上の正しい位置に設置し、所望の被覆を形成するために部品7上で部分6をブレーズするために熱処理サイクルを実行する。
【0023】金属支持体1は、層間剥離に導く可能性があるデポジット層内の内的応力の発生を防ぐように選択される。
【0024】
[例A]
層2が、以下のような特性を有する粉末を使用してデポジットされる。
【0025】
45μm未満の粒子サイズ化学成分(重量パーセント)
Ni : 31〜33Cr : 20〜22Al : 7〜9Y : 0.35〜0.65Co : 100%までの残り分。
【0026】デポジット厚さは1mm、層内の多孔率は3%未満である。この場合に得られるデポジットは著しい酸化防止特性を示す。
【0027】デポジットされる層3の厚さは0.10mmである。既に述べたように、溶射される粉末は夫々層2及び層4を得るのに使用される粉末の混合物から構成されている。デポジットは、層2の組成から出発して層4の組成で終了するように組成を累進的に一つのパスから次のパスに変化させるマルチパス処理によって得られる。
【0028】層4は0.05mmの厚さを有しており、以下のようなという特性を有するブレージング合金粉末を使用してデポジットされる。
【0029】
呼び粒子サイズ: 125μm主要成分の化学成分(重量パーセント):Cr : 14〜16B : 3.2〜4.0Ni : 100%までの残り分。
【0030】
融解点: 1055℃アルゴンのような保護中性ガス中で、104Paの大きさの分圧下でプラズマフレーム溶射を行うのが好ましい。
【0031】この場合のブレージング処理は、1100℃の温度を4時間維持することによって行われる。選択加熱分析測定により、ろう付けされた領域における再溶融温度を決定することが可能になり、1300℃の固相温度及び1340℃の液相温度を得る。
【0032】
[例B]
部品表面に耐摩耗特性が必要とされる場合には、コバルト基合金が、例えば以下のような特性を有する粉末を使って、層2を形成するために使用され得る。
【0033】
呼び粒子サイズ: 53μm未満主要成分の化学成分(重量パーセント)
Cr : 24.5〜26.5Ni : 9.5〜11.5Mo : 6.5〜8.0C : 0.43〜0.55Co : 100%までの残りの分。
【0034】デポジット厚さは1mm、層内の多孔率は3%未満である。
【0035】この方法の(b)段階における支持体1からのデポジット5の取外しに好適な既知の方法の中には、支持体の再利用を可能にするワイヤを用いた放電加工による切断及び支持体1の化学的融解が含まれている。
【0036】この方法の(c)段階で使用され得る既知の切断方法は、特に利用される厚さに適合したものであり、レーザによる切断、ウォータジェットによる切断及びワイヤを用いた放電加工による切断などを含んでいる。
【0037】この方法の(d)段階において、被覆されるべき部品の局部領域上にプレフォーム6を正しい位置に設置する際に、ブレージング合金によって形成された層4を図2の(b)に示されているような部品7に接触させて設置しなければならない。
【0038】この方法の(d)段階においてブレージング熱処理を実行するための条件、特にサイクルの温度及び持続時間並びに環境は、使用される材料に対してそれ自体既知であるか、又は材料に応じて実験的に設定してもよい。
【0039】部品7上で得られる被覆構造において、層4はブレージングサイクルの開始時に溶解し、次いで主として層3へのフラックス成分の拡散の結果凝固する。層3は、層2からの成分と層4からの成分との間で拡散により均一化される。ブレージングサイクルの間かつ特に層4に近接した領域において過渡液体相が出現する可能性がある。層2は、本方法の(a)段階における溶射の後で得られるものに非常に近似した構造を保っている。
【0040】部品7上の被覆用に得られる構造の主要な利点は、一方では、被覆の外層2において例Aにおける酸化防止及び例Bにおける耐摩耗のような求められる特定の表面機能特性を備えていること、他方では、内層4が、ブレージング温度より高い温度での部品7の使用を可能にする、この方法の(d)段階におけるブレージング熱処理サイクルの間に到達する温度よりも高い再溶融温度を有することである。
【0041】これらの利点は、超合金製部品上での修復作業にとって特に興味深いものである。
【0042】図2を参照して記載してきた本発明の被覆方法は、プラズマフレーム溶射による直接的なデポジションを作用させるのに、被覆されるべき部品の局部領域を得ることが困難であるか、又は被覆される領域の特定の幾何学的形状が直接溶射の間、特に部品のエッジ領域でかなりの粉末が失われれるような適用に対して特に有利である。
【0043】図2の(b)は、タービン翼形態の、部品の頭頂部の被覆される領域を示しており、記載されている方法は粉末をかなり節約し得る一つの例である。
【0044】しかし、被覆される表面が大きく、良好なアクセシビリティにより直接溶射が可能な適用においては、被覆されるべき部品上に三つの連続層を直接プラズマフレーム溶射し、続いてブレージング処理を行うことにより被覆を形成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の方法の最初の段階における三層デポジットが適用されている支持体の概略断面図である。
【図2】(a)は図1のものと同様ではあるが積層構造を有する自己ろう付け可能な材料のプレフォームを提供するために支持体から分離されたデポジットを示しており、(b)は本発明の方法の最終段階において被覆を形成するためにブレージングに先だって(a)に示されているプレフォームが設置された超合金製部品を示す概略図である。
【符号の説明】
1 支持体
2、3、4 層
5 三層デポジット
6 プレフォーム
7 部品
8 局部領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】 超合金製部品における少なくとも一つの局部領域上に被覆を形成する方法であって、(a)フラックス成分を含有する材料を前記局部領域上に直接プラズマフレーム溶射して該材料の内層を該局部領域上にデポジットする段階と、(b)混合物材料の中間層をプラズマフレーム溶射により前記内層上にデポジットする段階と、(c)前記部品に対して前記局部領域における所望の表面機能特性を与えるように選択された材料からなる外層をプラズマフレーム溶射により前記中間層上にデポジットする段階と、(d)前記(a)、(b)及び(c)段階においてデポジットされた各層に対して、その温度及び持続時間が該各層に使用される材料に応じて実験的に決定されるブレージング熱処理サイクルを施す段階とを連続的に含んでおり、前記内層を形成する材料は該内層の溶融及びその凝固が前記ブレージング熱処理サイクル中に得られるように選択されており、前記中間層を形成する混合物材料が前記内層及び前記外層に使用される材料の混合物である前記方法。
【請求項2】 前記プラズマフレーム溶射が密閉エンクロージャ内において調節雰囲気の分圧下で実行される請求項1に記載の方法。
【請求項3】 超合金製部品における少なくとも一つの局部領域上に被覆を形成する方法であって、(a)金属支持体を準備する段階と、(b)前記部品に対して前記局部領域における所望の表面機能特性を与えるように選択された粉末状の第1の材料を前記金属支持体上にプラズマフレーム溶射して該第1の材料からなる第1の層を該支持体上にデポジットする段階と、(c)前記第1の材料とフラックス成分を含有する第2の材料との混合物を粉末状で前記第1の層上にプラズマフレーム溶射して第2の層を形成する段階と、(d)粉末状の前記第2の材料を前記第2の層上にプラズマフレーム溶射して第3の層を形成する段階と、(e)前記(b)、(c)及び(d)段階によって形成された三層デポジットを、該三層デポジットに機械的応力をほとんど及ぼさない方法で前記支持体から取り外す段階と、(f)被覆されるべき前記部品の局部領域に対応する形状をもつ部分を、得られるべき該形状部分に何らの機械的応力も及ぼさない方法によって前記三層デポジットから切り取る段階と、(g)前記(f)段階で得られた形状部分を、前記第2の材料で形成された第3の層を前記部品に接触させて前記部品の局部領域上の正しい位置に設置する段階と、(h)前記各層の形成に使用される材料によって決まる温度及び持続時間の条件に従って、少なくとも前記局部領域と前記設置された形状部分とにブレージング熱処理サイクルを施す段階とを連続的に備えており、前記第2の材料は前記部品に接触している第3の層の溶融及びその凝固が前記ブレージング熱処理サイクル中に得られるように選択されている前記方法。
【請求項4】 前記プラズマフレーム溶射が密閉エンクロージャ内において調節雰囲気の分圧下で実行される請求項3に記載の方法。
【請求項5】 前記(e)段階における前記三層デポジットの前記支持体からの取外しがワイヤ放電加工によって行われる請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】 前記(e)段階における前記三層デポジットの前記支持体からの取外しが該支持体を化学的に溶解させることによって行われる請求項3又は4に記載の方法。
【請求項7】 前記(f)段階における前記形状部分の切取りがレーザ切断によって行われる請求項3から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】 前記(f)段階における前記形状部分の切取りがウォータジェット切断によって行われる請求項3から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】 前記(f)段階における前記形状部分の切取りがワイヤ放電加工によって行われる請求項3から6のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【特許番号】第2897803号
【登録日】平成11年(1999)3月12日
【発行日】平成11年(1999)5月31日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−122882
【出願日】平成5年(1993)5月25日
【公開番号】特開平6−49506
【公開日】平成6年(1994)2月22日
【審査請求日】平成7年(1995)7月19日
【出願人】(592027148)ソシエテ・ナシオナル・デテユード・エ・ドウ・コンストリユクシオン・ドウ・モトール・ダヴイアシオン、“エス.エヌ.ウ.セ.エム.アー.” (4)
【参考文献】
【文献】特開 昭54−18449(JP,A)
【文献】特開 昭64−18574(JP,A)
【文献】特開 昭58−44962(JP,A)
【文献】特公 昭46−16562(JP,B1)