説明

超微細金属加工品の保護・パターン形成方法

【課題】超微細金属加工品を確実に保護するとともに、加工面に所望のパターンを形成することが可能な方法を提供する。
【解決手段】金属表面に超微細加工を施した超微細金属加工品の保護・パターン形成方法であって、超微細金属加工品1の少なくとも加工面2に、超微細金属加工品1を構成する金属よりも大きなエッチング選択性を有し、かつ、この金属との界面で元素の拡散が生じない金属からなる保護層11を形成し、この保護層11上にエッチングレジスト12を所望のパターンで設け、上記のエッチングレジスト12をマスクとして、露出している保護層11をエッチングして除去することにより保護層11からなるパターンを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超微細金属加工品の保護・パターン形成方法に係り、特にナノメートルオーダーの超微細加工部位を有する金属加工品を保護し、所望のパターンを形成することができる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ナノメートルオーダーの超微細な加工を金属に施すことが種々の分野で行なわれている。このような超微細加工としては、例えば、冷陰極製造技術として、円錐状の超微細突起を形成するスピント法(非特許文献1)、四角錐状の超微細突起を形成する転写モールド法(特許文献1)等が知られている。また、半導体製造技術として、電子ビームや収束イオンビームを用いる超微細加工が知られている(非特許文献2)。
【非特許文献1】Journal of Applied Physics, Vol.47,5248(1976)
【特許文献1】特開2000−285798号公報
【非特許文献2】表面技術.Vol.55,361(2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、超微細加工を施された金属加工品を使用して所望のデバイスとして完成させるまでの製造工程において、超微細金属加工品に加えられる熱によって表面酸化が発生し、酸化被膜や不動態化被膜で被覆されるという問題があった。また、超微細金属加工品に物理的外力が作用すると、超微細加工部位に変形や破損が生じ易いという問題があった。
本発明は、上述のような実情に鑑みてなされたものであり、超微細金属加工品を確実に保護するとともに、加工面に所望のパターンを形成することが可能な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
このような目的を達成するために、本発明は超微細金属加工品の少なくとも加工面に、前記金属よりも大きなエッチング選択性を有し、かつ、前記金属との界面で元素の拡散が生じない金属からなる保護層を形成し、該保護層上にエッチングレジストを所望のパターンで設け、該エッチングレジストをマスクとして、露出している前記保護層をエッチングして除去することにより保護層からなるパターンを形成するような構成とした。
本発明の好ましい態様として、前記金属加工品はニッケルまたはニッケルの合金であり、前記保護層は銅であるような構成とした。
本発明の好ましい態様として、前記金属加工品は金または金の合金であり、前記保護層はニッケルまたはクロムであるような構成とした。
本発明の好ましい態様として、前記エッチングはアルカリ性エッチング液を使用するような構成とした。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、超微細金属加工品の加工面に形成した保護層によって、超微細加工部位が熱による酸化や物理的外力から確実に保護され、これにより超微細金属加工品の取扱が極めて容易となり、また、保護層は超微細金属加工品を構成する金属よりも大きなエッチング選択性を有するとともに、この金属との界面で元素の拡散が生じないので、保護層上に設けたエッチングレジストをマスクとしたエッチングにより、保護層からなるパターンを確実に形成することができ、パターンが形成されていない超微細加工部位は、損傷、改質を受けることなく初期状態を維持したものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
次に、本発明の最良な実施形態について説明する。
図1は、本発明の超微細金属加工品の保護・パターン形成方法を説明するための工程図である。
本発明の超微細金属加工品の保護・パターン形成方法は、まず、加工面2に超微細突起3を有する超微細金属加工品1(図1(A))の加工面2に、保護層11を形成する(図1(B))。これにより、超微細金属加工品1は、加工面2が保護層11によって被覆され、熱による酸化や物理的外力から確実に保護される。したがって、例えば、超微細加工を施した後、後工程への超微細金属加工品の搬送等が必要な場合であっても、取扱が極めて容易なものとなる。
【0007】
超微細金属加工品1は特に制限はなく、構成する金属としては、例えば、ニッケル、ニッケル合金、鉄、鉄合金、コバルト、コバルト合金、クロム、金等を挙げることができ、超微細加工の形状は、図示例では錐状突起であるが、これに限定されるものではない。また、超微細加工の方法には、何ら制限はない。
また、保護層11は、超微細金属加工品1を構成する金属よりも大きなエッチング選択性(エッチング速度が高い)を有し、かつ、この金属との界面で元素の拡散が生じない金属で形成することができる。また、保護層11の形成には、熱により表面酸化を生じる金属は使用できるが、深さ方向に酸化が進行する亜鉛、カドミウム等の金属は使用することができない。例えば、超微細金属加工品1を構成する金属がニッケルあるいはニッケルの合金の場合、保護層11を銅により形成することができ、また、超微細金属加工品1を構成する金属が金あるいは金の合金である場合、保護層11をニッケルまたはクロムで形成することができる。
保護層11の形成は、電解めっき法により行なうことができ、また、スパッタリング法、真空蒸着法等の真空成膜法により行なうこともできる。形成する保護層11の厚みは、超微細突起3を完全に被覆する必要があり、通常、50nm〜200μmの範囲とすることができる。
【0008】
次に、保護層11上にエッチングレジスト12を所望のパターンで設け(図1(C))、このエッチングレジスト12をマスクとして、露出している保護層11をエッチングして除去し、その後、不要となったエッチングレジスト12を除去する(図1(D))。これにより超微細金属加工品1に保護層からなるパターン13を形成する。保護層11は、超微細金属加工品1を構成する金属よりも大きなエッチング選択性を有する(エッチング速度が高い)ので、エッチングレジスト12をマスクとしたエッチングでは、超微細金属加工品1を損傷することなく、露出している保護層11を確実に除去することができる。また、保護層11は、超微細金属加工品1を構成する金属との界面で元素の拡散が生じない金属で形成されているので、超微細金属加工品1の表面が改質されることなく初期状態が維持されている。
【0009】
エッチングレジスト12は特に制限はなく、従来公知の感光性レジスト、レーザーエッチング可能な有機レジスト、保護層11を侵すことなくレジスト膜のみをエッチング可能な金属レジスト等を用いて形成することができる。
エッチングレジスト12をマスクとした保護層11のエッチングは、アルカリ性エッチング液で行うことが好ましい。
尚、上述の実施形態は一例であり、本発明はこのような実施形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0010】
次に、実施例を示して本発明を更に詳細に説明する。
<超微細金属加工品の作製>
まず、異方性エッチング等により超微細加工を施したシリコンウエハーを鋳型として準備し、このシリコンウエハーを市販の脱脂液(メルテックス(株)製 メルプレートITO−170)に70℃で5分間超音波をあてながら浸漬した。水洗後、このシリコンウエハーを45g/Lの水酸化カリウム水溶液に70℃で5分間超音波をあてながら浸漬した。その後、シリコンウエハーを水洗し、市販の表面調整剤(メルテックス(株)製 メルプレートコンディショナー480)に室温にて5分間浸漬し、水洗した。
次いで、市販の離型剤液(メルテックス(株)製 メルプレートコンディショナー1101)にシリコンウエハーを室温で2分間浸漬して離型剤膜を形成した。水洗後、シリコンウエハーを市販の触媒液(メルテックス(株)製 メルプレートアクチベータ440)に2分間浸漬し水洗して触媒を付与した。その後、市販の無電解ニッケルめっき液(メルテックス(株)製 メルプレートNI−867)に5分間浸漬(浴温70℃)し、ニッケルを析出させて電鋳用通電膜を成膜した。
【0011】
次に、上記の電鋳用通電膜を成膜したシリコンウエハーを水洗し、その後、ニッケル電鋳液(メルテックス(株)製 メルプレートEF−2201)を使用し、電鋳用通電膜に電流密度10A/dm2、通電時間20分間の通電を行って、電鋳によりニッケルを析出させ、電鋳被膜(厚み40μm)を形成した。
次いで、上記のニッケル電鋳被膜を剥離して超微細金属加工品を得た。この超微細金属加工品は微細形状部位を有し、その先端精度をFE−SEMを用いて測定した結果、3nmの精度が確保されていることが確認された。
【0012】
<保護層の形成>
次に、上記の超微細金属加工品の加工面に、下記の浴組成の電解銅めっき液を用いて銅の保護層(厚み30μm)を形成した。
(電解銅めっき浴組成)
・硫酸銅・5水塩 … 210g/L
・硫酸 … 53g/L
・塩素 … 50mg/L
【0013】
<加熱による超微細金属加工品の劣化試験>
保護層を形成した超微細金属加工品に対して、下記の条件1〜7の7種の加熱温度で2時間加熱し、その後、市販のアルカリ性エッチング液(メルテックス(株)製 エープロセスW)で保護層を除去し、超微細金属加工品の加工面の形状の変化をFE−SEMを用いて観察し、結果を下記の表1に示した。
また、比較として、保護層を形成していない超微細金属加工品に対して、下記の条件8〜10の3種の加熱温度で2時間加熱し、その後、超微細金属加工品の加工面の形状の変化をFE−SEMを用いて観察し、結果を下記の表1に示した。
さらに、比較として、銅の保護層に代えて、下記の浴組成の電解亜鉛めっき液を用いて亜鉛の保護層(厚み10μm)を形成し、下記の条件11〜17の7種の加熱温度で2時間加熱し、その後、20%水酸化ナトリウム水溶液で保護層を除去し、超微細金属加工品の加工面の形状の変化をFE−SEMを用いて観察し、結果を下記の表1に示した。
(電解亜鉛めっき浴組成)
・金属亜鉛濃度 … 8g/L
・水酸化ナトリウム濃度 … 100g/L
・メルテックス(株)製 メルジンク2400M … 10mL/L
【0014】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0015】
本発明は超微細金属加工品を使用する種々の製品、例えば、配線、電極、撮像デバイス等の製造に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の超微細金属加工品の保護・パターン形成方法を説明するための工程図である。
【符号の説明】
【0017】
1…超微細金属加工品
2…加工面
3…超微細突起
11…保護層
12…エッチングレジスト
13…パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超微細金属加工品の少なくとも加工面に、前記金属よりも大きなエッチング選択性を有し、かつ、前記金属との界面で元素の拡散が生じない金属からなる保護層を形成し、該保護層上にエッチングレジストを所望のパターンで設け、該エッチングレジストをマスクとして、露出している前記保護層をエッチングして除去することにより保護層からなるパターンを形成することを特徴とする超微細金属加工品の保護・パターン形成方法。
【請求項2】
前記金属加工品はニッケルまたはニッケルの合金であり、前記保護層は銅であることを特徴とする請求項1に記載の超微細金属加工品の保護・パターン形成方法。
【請求項3】
前記金属加工品は金または金の合金であり、前記保護層はニッケルまたはクロムであることを特徴とする請求項1に記載の超微細金属加工品の保護・パターン形成方法。
【請求項4】
前記エッチングはアルカリ性エッチング液を使用することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の超微細金属加工品の保護・パターン形成方法。

【図1】
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