説明

超純水の比抵抗調整方法及び超純水処理装置

【課題】超純水流量が変化したとき、従来よりも迅速かつ簡便に超純水の比抵抗値を所望の値に安定させることができる超純水の比抵抗調整方法、及び超純水処理装置を提供する。
【解決手段】炭酸ガスを超純水中に溶解させるとき超純水流量を測定し、超純水流量の変化が一定値以上の場合には、超純水流量と炭酸ガス量と比抵抗値の相関について予めインプットされたデ−タに基づいた量の炭酸ガスを超純水へ供給し、その後一定時間経過後には前記比抵抗計による測定値をもとに当該比抵抗値が0.2〜1.0MΩ・cmの範囲で一定となるように、フィードバック制御する超純水の比抵抗調整方法及び当該方法に好適な超純水処理装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超純水に炭酸ガスを溶解させる際に、該超純水の比抵抗を一定値に調整する方法、及び超純水の比抵抗を一定値に調整して超純水に炭酸ガスを溶解させる処理を行なう超純水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体や液晶の製造工程では、シリコンウェハーやガラス板等の基板の洗浄に超純水が使用されている。しかし、超純水は比抵抗値が18MΩ・cm程度と高く、この状態で基板の洗浄に使用すると静電気が発生し静電破壊を生じてしまう問題がある。また、基板上に静電気が発生すると、ゴミが再付着してしまうこともあり好ましくない。
【0003】
そこで、静電気発生を防止するために炭酸ガスを超純水中に適量溶解させて、比抵抗を下げる方法が知られている。一般には比抵抗値を0.2〜1.0MΩ・cmの任意の値に調整するが、比抵抗値が低いほど摩擦によって発生する静電気は小さくなる。
【0004】
半導体などの電子産業での超純水を用いた洗浄機は、洗浄機の洗浄工程によって超純水流量が変化する。加えて、1台の比抵抗調整機から複数の洗浄機へ調整した超純水を供給する場合には、超純水量の変化が激しく、これに対応して目的の比抵抗値に一定に維持するのは極めて難しい技術といえる。これは、超純水に溶解した炭酸ガスは、イオン化して超純水の比抵抗値を変化させるが、炭酸ガスの溶解濃度によってイオン化する量(解離度)が変動するだけでなく、イオン化の進行に数秒の時間(解離時間)を要するためである。0.2MΩ・cmの場合は解離度が小さく、解離時間も2〜3秒と短いために比較的良好な比抵抗値制御ができるが、0.5MΩ・cmでは解離度も増加し解離時間も5〜10秒と長くなるので、フィ−ドバックによる比抵抗値制御では流量変化に応じて迅速に制御することができず、その後の流量が安定した状態での制御となるので時間がかかることになる。
【0005】
そこで、流量センサー、炭酸ガス注入器、比抵抗測定器を経路上に順次設置し、超純水流量変動に対応した炭酸ガス量を演算して、注入する炭酸ガス量をマスフローコントローラーで計測して制御する方法(例えば、特許文献1参照)や、超純水に注入された炭酸ガスが不完全解離状態での比抵抗値と解離が進行した状態での比抵抗値と超純水流量との関係を示す予め求めた相関デ−タ−を利用して予測し、予測値が制御値となるように炭酸ガス注入量を制御する方法(例えば、特許文献2参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平7−67554号公報
【特許文献2】特許第3875596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、前者の方法はマスフローコントローラーが高価であり、水の逆流でマスフローコントローラーが故障しやすいという欠点とともに、演算させるプログラムが複雑であるという欠点がある。また、後者の方法は流量が大きく変動した場合には、比抵抗センサーまでの経過時間が変動するために、測定時の解離度も変化し進行した解離状態での比抵抗値を予測する精度が低下するので、精密な比抵抗値制御を行うのが難しいという欠点がある。
【0008】
以上から、本発明は、超純水流量が変化したとき、従来よりも迅速かつ簡便に超純水の比抵抗値を所望の値に安定させることができる超純水の比抵抗調整方法、及び超純水処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明者らは超純水流量計を使用して流量変化を検知し、炭酸ガス流量調節器を使用して流量変化時と流量安定時にそれぞれ対応した炭酸ガスの供給量を調整すると、従来よりも迅速かつ簡便に超純水の比抵抗を所望の値に安定させることができることを見出し、本発明に想到した。
すなわち、本発明は下記の通りである。
【0010】
[1] 炭酸ガスを超純水中に溶解させるとき超純水流量を測定し、超純水流量の変化が一定値以上の場合には、超純水流量と炭酸ガス量と比抵抗値の相関について予めインプットされたデ−タに基づいた量の炭酸ガスを超純水へ供給し、その後一定時間経過後には前記比抵抗計による測定値をもとに当該比抵抗値が0.2〜1.0MΩ・cmの範囲で一定となるように、フィードバック制御する超純水の比抵抗調整方法。
【0011】
[2] 超純水が流通する超純水流通路と、炭酸ガスが流通する炭酸ガス流通路と、前記超純水流通路及び炭酸ガス流通路が接触してなる気液接触室と、前記超純水流通路に流量計を設けたものであり、前記気液接触室を通過した前記超純水の比抵抗値を測定する比抵抗計を有し、前記炭酸ガスを流通させるための炭酸ガス供給手段が炭酸ガス流量調節器であり、超純水流量の変化が設定した一定の値を超えた場合には、超純水流量と炭酸ガス量と比抵抗値の相関について予めインプットされたデ−タに基づいた量の炭酸ガスを超純水へ供給し、その後一定時間経過後には前記比抵抗計による測定値をもとに当該比抵抗値が0.2〜1.0MΩ・cmの範囲で一定となるように、フィードバック制御する手段を有する超純水処理装置。
【0012】
[3] 前記超純水流量の変化が一定値以上の場合には、前記超純水流量と炭酸ガス量と比抵抗の相関デ−タに基づく炭酸ガス量を前記気液接触室へ1〜100秒間の一定時間供給し、その後、比抵抗計で測定した比抵抗値によるフィードバック制御によって炭酸ガスを前記気液接触室へ供給することで、超純水の比抵抗値を制御する[2]に記載の超純水処理装置。
[4] 前記炭酸ガス流量調節器がペリスタポンプとなっており、ポンプのモーター回転数を変化させることで、供給する炭酸ガス流量を制御する[2]又は[3]に記載の超純水処理装置。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、超純水流量が変化したとき、従来よりも迅速かつ簡便に超純水の比抵抗を所望の値に安定させることができる超純水の比抵抗調整方法、及び超純水処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の超純水処理装置の一形態を示す説明図である。
【図2】炭酸ガス溶解量と比抵抗値との関係を示す相関図である。
【図3】本発明の超純水の比抵抗調整方法を用いた場合の、経過時間、超純水の比抵抗値及び超純水の流量との間の関係を示す図である。
【図4】本発明の超純水の比抵抗調整方法を用いない場合の、経過時間、超純水の比抵抗値及び超純水の流量との間の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の超純水の比抵抗調整方法においては、例えば、中空糸の疎水性微多孔隔膜を介して炭酸ガスと超純水とを流通させた状態で、疎水性微多孔隔膜を透過した炭酸ガスを超純水中に溶解させ、溶解後の超純水の流量を測定する。そして、流量変化が一定値を超えた場合(例えば変化量が3.0L/分以上の場合)は、超純水流量と炭酸ガス量と比抵抗値の相関について予めインプットされたデ−タに基づいた量の炭酸ガスを炭酸ガス流量調節器より一定時間供給して比抵抗値を変化させる。その後、比抵抗計で測定した比抵抗値によるフィ−ドバックで比抵抗値が0.2〜1.0MΩ・cmの範囲で一定となるように、炭酸ガス流量調節器で制御する。
【0016】
本発明の超純水の比抵抗調整方法は、例えば、本発明の超純水処理装置により行なうことができる。図1に、本発明の超純水処理装置の一形態を示す。
【0017】
まず、超純水処理装置100は、超純水が矢印方向へ流通する超純水流通路10と、炭酸ガスが矢印方向へ流通する炭酸ガス流通路12と、超純水流通路10及び炭酸ガス流通路12が疎水性微多孔隔膜14を介して接触してなる気液接触室16と、気液接触処理室16を通過した超純水の比抵抗値を測定する比抵抗計18と超純水流量を測定する流量計30、及び超純水流量と炭酸ガス量と比抵抗値の相関デ−タをインプットしたマイコン40を有してなる。そして、炭酸ガスを流通させるための炭酸ガス供給手段が炭酸ガス流量調節器20であり、マイコン40は、超純水流量と炭酸ガス量と比抵抗値の相関デ−タに基づいた炭酸ガス量または比抵抗計18によるフィードバック制御のために出される炭酸ガス量を気液接触室16へ供給して、超純水の比抵抗値が0.2〜1.0MΩ・cmの範囲で所定の値に収束するように、炭酸ガス流量調節器20の炭酸ガス流量を制御する。
【0018】
図2に、超純水流量と炭酸ガス量と比抵抗値の相関デ−タの例を示す。図2は、超純水(25℃で18.25MΩ・cm)へ炭酸ガスを溶解したときの比抵抗値を示すものである(溶解量は重量ppm)。この図より、1m3/hの超純水の比抵抗を1.0MΩ・cmに下げるには炭酸ガス流量を約0.9g/hで制御する必要があることがわかる。
【0019】
ここで、疎水性微多孔隔膜としては炭酸ガスを透過し超純水を透過しない膜を使用するが、具体的には、ポリプロピレンやPTFEといった材質のものを使用することができる。流量計には超純水の測定が可能な渦流量計や超音波流量計が使用できる。また、比抵抗値を測定するには、公知の比抵抗計を使用することができる。
【0020】
炭酸ガスの流量は炭酸ガス流量調節器によって決まる。炭酸ガス流量調節器の制御方法が一般的なPID制御であれば、比例帯(P)、積分値(I)、微分値(D)の各パラメ−タの値で、超純水比抵抗値の制御速度と精度がきまる。
【0021】
なお、比抵抗値が0.2〜1.0MΩ・cmの範囲であれば、炭酸ガスが溶解していない超純水を用いて洗浄した場合に生ずる弊害を十分になくすことができる。また、「比抵抗値が0.2〜1.0MΩ・cmの範囲で一定となるように」の「一定」とは、調整後の所望の比抵抗値をRとした際に実際の比抵抗値が、超純水が一定流量で流れているときにR±0.1の範囲内にあることをいう。
【0022】
炭酸ガス流量調節器としては、モーターの停止時(回転数0の時)に圧力1.0MPa以下の炭酸ガス流体を遮断し、モーターの回転数に応じてロータリーバルブを通過する炭酸ガスの供給量を変化させることができるモーター駆動ロータリーバルブを採用することが好ましく、特にポンプ駆動モーターがステッピングモーターのものがより好ましい。これにより、超純水の流量変化に迅速に追従して、炭酸ガス流量を調節することができる。
【0023】
そして、このようなモーター駆動ロータリーバルブとしては、ペリスタポンプが最適である。ペリスタポンプは、ハウジングと、ロータと、複数個のローラーと、チューブと、モーターと、制御手段とを備えている。ハウジングは円弧状壁部を有しており、ロータは、モーターによってハウジングに対して回転駆動されるように構成されている。モーターの回転速度及び回転角度は回転数制御手段によって制御される。複数個のローラーは、ロータ上の同一円周上に回転可能に支持されている。チューブは、複数のローラーと円弧状壁部との間に配設されて、ローラーの設けられているロータを取巻いた状態とされ、ロータの回転により複数個のローラーの回動と共に円弧状壁部との間で押潰されたり、形状が回復したりする。チューブ内には予め流体が流入され、チューブがローラーで押潰されたままローラーが回動されてチューブの押潰されている位置が変わることによって、チューブ内の液体が押出される吐出動作が行なわれる。また、ローラーの回動によりチューブの押潰されている位置が変わると、押潰されていた箇所は復元力によって元の形状に戻ろうとする。このときに、チューブ内部に負圧が生じて液体をチューブ内に吸引する吸引動作が行われる。このようにペリスタポンプは弁などの機構が無く、メンテナンスもチューブの交換といった簡単な作業で済み、シンプルで安価という利点がある。
【実施例】
【0024】
図1に示す超純水処理装置を用い、超純水の供給量を5.7L/分、17L/分、32L/分の3段階で任意に変化させ、炭酸ガスの供給圧を0.01MPaとして炭酸ガス流量調節器20で気液接触室16へ供給した。気液接触室16は中空糸膜モジュール(材質、ポリプロピレン)からなり、中空糸膜の外側が超純水流通路となっており、中空糸膜の内側が炭酸ガス流通路となっている。
【0025】
気液接触室16を通った超純水は、比抵抗計18が設けられた配管を通って流出させた。また、炭酸ガス流量調節器20により気液接触室16を通った炭酸ガスは、疎水性微多孔隔膜14に接触させその一部を超純水へ溶解させた。
なお、炭酸ガス流量調節器20にはペリスタポンプを使用し、比抵抗計18による測定値をもとに気液接触処理部分16から放出する超純水の比抵抗値が0.2〜1.0MΩ・cmの範囲で一定となるようにするために、マイコン40や炭酸ガス流量のPID制御手段が設けられている。
【0026】
以上のような構成において、超純水の比抵抗値を0.5MΩ・cmに設定し、流量計とPID制御とを用いた本発明に従う比抵抗調整方法(実施例)とPID制御のみで比抵抗の調整を行う比抵抗調整方法(参考例)との比較を行った。
【0027】
具体的には実施例では、流量計30での流量変化が3.0L/分以上あったとき、その後20秒間は既述の相関デ−タに基づいた炭酸ガス量となるようにペリスタポンプからの炭酸ガス供給が行われ、以降は比抵抗計からのフィードバックによってペリスタポンプをPID制御したものである。実施例(図3)及び参考例(図4)は共に、PID制御条件(P,I,D値)を同じとしている。両者を比較すると、制御速度は実施例の方が優れて速いことがわかる。
【0028】
すなわち、超純水流量が5.7L/分から32L/分へ増加したとき、参考例のPID制御のみでは0.5MΩ・cmになるのに約3分間を要しているが、実施例では1.5分で0.5MΩ・cmに戻っている。
逆に32L/分から5.7L/分へ流量が減少したときには、0.5MΩ・cmに戻るのに参考例では2.5分間要しているが、実施例では1分間で戻っている。特に、実施例が超純水流量の減少時において、流量変化に迅速に追従して炭酸ガス供給が減少させることができたために、比抵抗値を早く設定値に戻すことができている。
【0029】
図3から明らかなように、超純水の供給量が大きく変動しても、超純水の比抵抗を所望の値に迅速に安定させることができた。また、当該実施例の構成は、主にモーター駆動ペリスタポンプを炭酸ガス流量調節器として使用してPID制御し、超純水流量計との組合せからなるだけであるため、従来よりも比較的簡便な構成で超純水流量の増減変動に対して、十分良好な効果を発揮できることが確認できた。
【符号の説明】
【0030】
10・・・超純水流通路
12・・・炭酸ガス流通路
14・・・疎水性微多孔隔膜
16・・・気液接触室
18・・・比抵抗計
20・・・炭酸ガス流量調節器
30・・・流量計
40・・・マイコン
100・・・超純水処理装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸ガスを超純水中に溶解させるとき超純水流量を測定し、超純水流量の変化が一定値以上の場合には、超純水流量と炭酸ガス量と比抵抗値の相関について予めインプットされたデ−タに基づいた量の炭酸ガスを超純水へ供給し、その後一定時間経過後には前記比抵抗計による測定値をもとに当該比抵抗値が0.2〜1.0MΩ・cmの範囲で一定となるように、フィードバック制御する超純水の比抵抗調整方法。
【請求項2】
超純水が流通する超純水流通路と、炭酸ガスが流通する炭酸ガス流通路と、前記超純水流通路及び炭酸ガス流通路が接触してなる気液接触室と、前記超純水流通路に流量計を設けたものであり、前記気液接触室を通過した前記超純水の比抵抗値を測定する比抵抗計を有し、前記炭酸ガスを流通させるための炭酸ガス供給手段が炭酸ガス流量調節器であり、超純水流量の変化が設定した一定の値を超えた場合には、超純水流量と炭酸ガス量と比抵抗値の相関について予めインプットされたデ−タに基づいた量の炭酸ガスを超純水へ供給し、その後一定時間経過後には前記比抵抗計による測定値をもとに当該比抵抗値が0.2〜1.0MΩ・cmの範囲で一定となるように、フィードバック制御する手段を有する超純水処理装置。
【請求項3】
前記超純水流量の変化が一定値以上の場合には、前記超純水流量と炭酸ガス量と比抵抗の相関デ−タに基づく炭酸ガス量を前記気液接触室へ1〜100秒間の一定時間供給し、その後、比抵抗計で測定した比抵抗値によるフィードバック制御によって炭酸ガスを前記気液接触室へ供給することで、超純水の比抵抗値を制御する請求項2に記載の超純水処理装置。
【請求項4】
前記炭酸ガス流量調節器がペリスタポンプとなっており、ポンプのモーター回転数を変化させることで、供給する炭酸ガス流量を制御する請求項2又は3に記載の超純水処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−143369(P2011−143369A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−7222(P2010−7222)
【出願日】平成22年1月15日(2010.1.15)
【出願人】(599022328)株式会社トライテック (5)
【出願人】(000158312)岩谷産業株式会社 (137)
【Fターム(参考)】