説明

超親水性塗料組成物、同塗料および超親水性カラー鋼板

【課題】 バリアコート作業を必要とする光触媒塗料を使用せずに同様の汚れ落とし効果をもつ超親水性塗料組成物を提供する。
【解決手段】
【化9】


上記の化学式で表されるパーフルオロスルホン酸基を側鎖に有する高分子4フッ化エチレン(デュポン社「Nafion(登録商標)」)の繰り返し単位からなるグラフトポリマーを主成分とした超親水性塗料組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超親水性塗料組成物および同塗料組成物を含有させた塗料に関し、詳しくは被塗物に塗布した際に塗布面が長期にわたり超親水性を具備する塗料組成物、同塗料および超親水性カラー鋼板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
窓ガラス、レンズ、建物の壁面など物体の表面を親水性にすると、1)降雨による環境汚染を受け難くなる、2)結露が防止される、3)静電気を除去できる、などの効果が期待できる。こうした親水性を物体の表面に施すためには、従来、親水性に富む物質を塗布や光を照射することにより親水性に変化する光触媒物質の塗布が一般的である。しかし、耐水性が欠如することから、寿命が短く、したがって施工が簡単で長期間親水性を発揮する処理方法は存在していないというのが現状である。
【0003】
一方、建物や窓ガラスなどの表面を親水性にして保持可能な塗膜を形成するための親水性コ−ティング組成物について、例えば、硬化させるとシリコーン樹脂の被膜を形成するシロキサンからなる塗膜形成要素と、この塗膜形成要素中に分散され、光励起に応じて前記被膜の表面を親水化するための光触媒性酸化チタンとを含有する光触媒性親水性コーティング組成物が提案されている(例えば特許文献1参照)。この親水性コーティング組成物は、光触媒を光励起すると、部材の表面が高度に親水化されるという発見に基づくもので、光触媒の価電子帯上端と伝導帯下端とのエネルギ−ギャップ以上のエネルギ−を有する光が光触媒に照射されると、光触媒の価電子帯中の電子が励起されて伝導電子と正孔が生成し、そのいずれかまたは双方の作用により、表面に極性が付与され、それにより、表面に、水が化学吸着し、さらに、その上に物理吸着水層が形成され増加することにより、表面が水濡れ角10゜以下の高度の親水性を呈するようになる。
【特許文献1】特許第3348613号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上記した従来のコーティング組成物は、酸化チタンという光触媒を主成分として含んだ、いわゆる光触媒塗料の一種である。光触媒塗料は化学反応で汚れを分解することから、被塗物と化学反応を起こすおそれがあるため、塗料の塗布面にあらかじめ無機系シリカなどを下塗りするバリアコート作業が必要であった。
【0005】
さらに、カラー鋼板はロール状に巻き取った無地の鋼板の表面に着色しながら、オーブン内を通過させて高速(例えば、60秒程度)で焼き付けして製造されている。このため、光触媒塗料では乾燥に数日を要するために親水性のカラー鋼板を製造することはできなかった。
【0006】
この発明は、バリアコート作業を必要とする光触媒塗料を使用せずに同様の汚れ落とし効果をもつ超親水性塗料組成物、同塗料および超親水性カラー鋼板を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために本発明に係る超親水性塗料組成物は、
【0008】
【化4】

【0009】
上記の化学式で表されるパーフルオロスルホン酸基(R、以下同じ)を側鎖に有する高分子4フッ化エチレン(Nafion(ナフィオン)(デュポン社の登録商標))の繰り返し単位からなるグラフトポリマーを主成分としたことを特徴とする。
【0010】
上記の構成を有する本発明の超親水性塗料組成物によれば、この塗料組成物を例えばアルコールに溶解して希釈し、液状状態にして例えば建造物の外壁面に塗布することで外壁面にイオンが固定化し長期間にわたり超親水性を発揮する。これにより、汚れなどが外壁面に付着しても雨水やシャワー水によって簡単に汚れなどが落ちる。しかも、化学反応ではなくイオン化で超親水性を発揮することから、光触媒塗料では必要であったバリアコート処理が不要で、塗布作業がより簡単になる。
【0011】
ところで、本発明の塗料組成物の主成分をなす上記高分子4フッ化エチレンのグラファイトポリマーは高分子固体型燃料電池の固体電解質として一般に使用されている有機物質(樹脂材)である。本塗料組成物は、アルコール(メチレンまたはエチレン)で溶解でき、水を加えて希釈できる。発明者は電解質(液)には通常、水が用いられることから、燃料電池の固体電解質に使用されている本塗料組成物の主成分としての高分子4フッ化エチレンのグラフトポリマーには、水と同様な性状もしくは水を誘引する性状があるのではないかと考えた。そして、アルコールで溶解して、例えば撥水性のあるテント地の表面に塗布し、着色した水をその塗布面にかけて親水性があることを確認したが、これが本発明のきっかけである。
【0012】
さらに、本発明の塗料組成物によれば、従来の光触媒塗料では塗布後の乾燥に二日〜数日を要することから、塗布後の養生期間が必要であったが、乾燥時間が極めて短いために養生が不要である。
【0013】
上記の目的を達成するために本発明に係る超親水性塗料は、下記の化学式で表されるパーフルオロスルホン酸基を側鎖に有する高分子4フッ化エチレンの繰り返し単位からなるグラフトポリマー(Nafion(ナフィオン)(デュポン社の登録商標))を含有させたことを特徴とする。
【0014】
【化5】

【0015】
上記の構成を有する本発明の超親水性塗料は、基本的に請求項1に記載の上記超親水性塗料組成物と同様の作用効果を奏する。本塗料は上記塗料組成物を40重量%程度もしくはそれ以上含有させていれば上記作用効果を発揮することから、例えば溶剤としてのシンナーを混合したり、顔料を混合して着色したりすることができる。
【0016】
上記の目的を達成するために本発明に係る超親水性カラー鋼板は、下記の化学式で表されるパーフルオロスルホン酸基を側鎖に有する高分子4フッ化エチレンの繰り返し単位からなるフッ素系グラフトポリマー((Nafion(ナフィオン)(デュポン社の登録商標))を含有させた塗料を圧延した鋼板の表面に塗布し、高速焼き付けしてロール状に巻き取って製造することを特徴とする。
【0017】
【化6】

【0018】
上記の構成を有する本発明の超親水性カラー鋼板は、基本的に請求項1に記載の上記超親水性塗料組成物が有する上記作用効果を奏するほか、使用する塗料が光触媒塗料とは違って塗布後の乾燥時間が常温で数十秒程度と極めて短いので、カラー鋼板の高速焼き付けに対応させることができ、超親水性のカラー鋼板が製造可能になる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の超親水性塗料組成物および超親水性塗料は、パーフルオロスルホン酸基を側鎖に有する高分子4フッ化エチレンの繰り返し単位からなるグラフトポリマー(Nafion(ナフィオン)(デュポン社の登録商標))を主成分としたので、アルコールにて溶解して希釈し液状状態にして建造物の外壁面に塗布することで外壁面にイオンが固定化し長期間にわたり超親水性を発揮するから、汚れなどが外壁面に付着しても降雨やシャワー水の噴射によって汚れなどを容易に落とせる。しかも、化学反応ではなくイオン化で超親水性を発揮することから、光触媒塗料には必要であったバリアコート処理(下塗り)が不要で、塗布作業がより簡略化される。また、本発明のおよび超親水性カラー鋼板についても、超親水性を有し、上記と同様の効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明に係る超親水性塗料組成物および超親水性塗料並びに超親水性カラー鋼板について実施の形態を説明する。
【0021】
本発明における超親水性とは、水との接触角に換算して5゜以下の水濡れ性を呈する状態をいう。
【0022】
本発明の塗料組成物あるいは同塗料の主成分をなすパーフルオロスルホン酸基を側鎖に有する高分子4フッ化エチレンの繰り返し単位からなるフッ素系グラフトポリマー(Nafion(ナフィオン)(デュポン社の登録商標)、以下単にナフィオンともいう)は、下記の化学式で表され、デュポン社から販売され、高分子固体型燃料電池の固体電解質として一般に使用されている。本塗料組成物は同フッ素系グラファイト樹脂を主成分とするもので、本塗料は同フッ素グラファイト樹脂をメタノールで溶解して希釈し、そのままあるいはさらに水を加えて混合し水溶液にした透明な塗料である。
【0023】
【化7】

【0024】
ここで、本塗料組成物あるいは本塗料の超親水性を確認するために、水に対する接触角を身近な各種ポリマーと比較した。この比較データを下記表1に示している。各種ポリマーは固形状態で、それらの表面の水に対する接触角を求めた。また、本塗料組成物あるいは本塗料の主成分であるナフィオンについては、固形状態のナフィオンをエタノールにより不揮発分が0.4%になるまで希釈化した溶液を、塩化ビニル樹脂板の表面に、100g/m2の割合で塗布して常温で10分ほど乾燥して皮膜を形成した。そして、水に対する接触角を求めたものである。
【0025】
【表1】

【0026】
上記表のように、ナフィオンの接触角は4°で、5°を下回るほど高い親水性を呈し、「超親水性」と称されるが、こうした超親水性は従来、一般的に光触媒皮膜でしか達成されていないものである。ナフィオンはパーフルオロ系主鎖にスルホン酸基が置換したグラフトポリマーであるが、主鎖および側鎖はフッ素を有しているため、水をはじく疎水性のポリマーに見える。しかし、スルホン酸は水と親しみやすい親水性である。このため、水が接触すると、水はスルホン酸の部分に集まり、超親水性を呈するものと推測される。
【実施例】
【0027】
以下に本発明の実施例を示して具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
【0028】
【化8】

【0029】
上記の化学式で表されるパーフルオロスルホン酸基を側鎖に有する高分子4フッ化エチレンの繰り返し単位からなるフッ素系グラフトポリマー「ナフィオン(登録商標)」(デュポン社)100重量部にエタノール(100%)を重量比2:8の割合で混合し撹拌して得た透明な溶解液を本実施例の塗料組成物とした。この塗料組成物を直接に建造物の壁面に塗布し自然乾燥させることにより、超親水性壁面を形成した。
【0030】
上記塗料組成物に、重量比1:9の割合でシンナーを加えたうえ、さらに2倍の水を加えて希釈し本実施例の塗料を得た。圧延してロール状に巻き取った無地の鋼板の表面に着色塗料(例えば、エバグラッド5000(関西ペイント(株))を塗布し、オーブンで高速焼き付けする際に、本塗料を塗布した着色塗料の表面に塗布し、高速(例えば、60秒)焼き付けして超親水性カラー鋼板を得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
【化1】

上記の化学式で表されるパーフルオロスルホン酸基を側鎖に有する高分子4フッ化エチレンの繰り返し単位からなるグラフトポリマーを主成分としたことを特徴とする超親水性塗料組成物。
【請求項2】
【化2】

上記の化学式で表されるパーフルオロスルホン酸基を側鎖に有する高分子4フッ化エチレンの繰り返し単位からなるグラフトポリマーを含有させたことを特徴とする塗料。
【請求項3】
【化3】

上記の化学式で表されるパーフルオロスルホン酸基を側鎖に有する高分子4フッ化エチレンの繰り返し単位からなるグラフトポリマーを含有させた塗料を、圧延した無地の鋼板の表面に着色塗料とともに塗布し、高速焼き付けしたことを特徴とする超親水性カラー鋼板。

【公開番号】特開2006−45370(P2006−45370A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−229033(P2004−229033)
【出願日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【出願人】(591164794)株式会社ピアレックス・テクノロジーズ (25)
【Fターム(参考)】