説明

超電導コイル装置

【課題】高温超電導線を用いて高い電流密度をとることができ、ヒステリシス損失の少ない超電導コイル装置を提供する。
【解決手段】厚さをdとし幅をWとするときW≧5dである高温超電導テープ線材1を巻回してなる超電導コイル11を備え、高温超電導テープ線材1の幅Wの面における磁場の強さの前記幅Wの面に垂直な成分が平行な成分の2分の1以下であるようにした構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温超電導線を巻回してコイルとし、このコイルに通電することにより磁場を発生させる超電導コイル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超電導コイルを構成する超電導線は超電導コイルが発生する磁場によって磁化される。超電導線の磁化は磁場変化に対してヒステリシスをもつため、磁場が変化すると超電導線は発熱する。この磁化のヒステリシスによる発熱はヒステリシス損失と呼ばれる。ヒステリシス損失を小さくする効果的な手段としては、従来の金属系超電導体の場合は、超電導フィラメント径を小さくし、フィラメントをツイストすることが一般的である。また、超電導フィラメント径を小さくする際に隣接フィラメント間隔まで小さくなり過ぎると、近接効果によりマトリクスを介してフィラメントが磁気結合してしまうため、フィラメント径を10μm程度よりも小さくする場合には、近接効果を生じにくいCuNi等の合金を高抵抗母材としてフィラメントの周囲に備えることが一般的である。
【0003】
一方、高温超電導線材の場合は、フィラメント径を減じることは可能であるが、線材の製法上、フィラメントをツイストすること、および高抵抗母材をフィラメント周囲に配置することが技術的に困難であり、フィラメント間の磁気結合を十分に切ることが現状できていない。フィラメント間が磁気結合している状態であると、特にテープ線材の場合は、テープ面に垂直方向の磁場に伴い非常に大きなヒステリシス損失が生じる。この大きなヒステリシス損失が高温超電導コイルを実用化する上で大きな障害になっている場合が多い。特に、テープ線材幅が広いイットリウム系超電導線材の場合は、ヒステリシス損失の問題が顕著である。
【0004】
ヒステリシス損失を低減するための手段として、下記特許文献1には、コイルの軸に対するテープ面の角度を磁場ベクトルに合わせて巻線内で少しずつ変化させていく方法が開示されているが、この方法では、巻線が難しいこと、コイル電流密度が低くなるなどの問題がある。
【特許文献1】特開2002−75727号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、従来の高温超電導コイルではヒステリシス損失が非常に大きいという問題があった。
そこで本発明は、高温超電導線を用いて高い電流密度をとることができ、ヒステリシス損失の少ない超電導コイル装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1は、厚さをdとし幅をWとするときW≧5dである高温超電導テープ線材を巻回してなる超電導コイルを備え、前記高温超電導テープ線材の幅Wの面における磁場の強さの前記幅Wの面に垂直な成分が平行な成分の2分の1以下であるようにした構成とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、高温超電導線を用いて高い電流密度をとることができ、ヒステリシス損失の少ない超電導コイル装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明に係る超電導コイル装置の第1ないし第6の実施の形態を図面を参照して説明する。
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態の超電導コイル装置を示す斜視図である。本実施の形態の超電導コイル装置は、厚さdと幅Wを持つテープ状の高温超電導テープ線材1をドーナツ状のコイル巻枠2にトロイダル形状に巻回した超電導コイル11を備えている。コイル巻枠2の表面に沿って高温超電導テープ線材1の幅Wの面がコイル巻枠2の表面に平行になる向きに巻かれている。高温超電導テープ線材1の幅Wは厚さdの5倍以上の長さを有している。図1では、高温超電導テープ線材1が疎巻きに巻かれている場合を示しているが、高温超電導テープ線材1が密巻に巻かれていてもよい。また、複数層に巻かれていてもよい。超電導コイル11にはエポキシ系樹脂が含浸され、真空容器内に配置されて伝導冷却で冷却される。
【0009】
本実施の形態によれば、アスペクト比(W/d)が5以上の高温超電導テープ線材1をトロイダルコイル形状に巻線した超電導コイル11を備えることにより、ヒステリシス損失低減効果が高い。また、幅Wの線材面に垂直に印加される磁場成分が小さくなることから、臨界電流密度が高くなり、結果として少ない線材量で超電導コイルを製作することができる。ヒステリシス損失低減によってランニングコスト低減効果が得られ、臨界電流密度増加によってイニシャルコスト低減効果が得られる。
【0010】
(第2の実施の形態)
図2は、本発明の第2の実施の形態の超電導コイル装置を示す断面図である。本実施の形態の超電導コイル装置は、第1の実施の形態で説明したテープ状の高温超電導テープ線材1を巻線した複数の超電導要素コイル3をトロイダル形状に配置した構成である。超電導要素コイル3のコイル形状は、円形、レーストラック形状、D型形状などどのような形状でもよい。また、要素コイル3はパンケーキ巻線構造でもレイヤー巻構造でもよい。超電導要素コイル3にはエポキシ系樹脂が含浸され、真空容器内に配置されて伝導冷却で冷却される。
【0011】
ただし、要素コイル3の構造、数量、および配置は、超電導要素コイル3内における高温超電導テープ線材1の幅Wの線材面に垂直な方向の磁場成分最大値B⊥maxが、おなじ線材面に平行な方向の磁場成分最大値B//maxの半分以下であるように構成されている。磁場成分比を2倍以上と限定する理由は下記のとおりである。すなわち、図3に示す磁場および線材使用量の要素コイル数依存性のグラフに示されているように、磁場成分比が約2倍で線材使用量が極大値をとり、磁場成分比が大きくなるほど、線材使用量は急激に少なくなるからである。
【0012】
(第3の実施の形態)
本実施の形態の超電導コイル装置は、図4に示すように、テープ状の高温超電導テープ線材1を複数枚束ねて構成された高温超電導バンドル導体4をドーナツ状のコイル巻枠2に巻回した構成である。高温超電導バンドル導体4は、高温超電導線1が複数枚どのように配置されてもよい。いくつかの配置例を図4(b)〜(e)に示す。
本実施の形態によれば、電流容量が大きくヒステリシス損失の少ない超電導コイル装置を提供することができる。
【0013】
(第4の実施の形態)
本実施の形態の超電導コイル装置は、図5に示すように、テープ状の高温超電導テープ線材1を複数枚束ねて構成された高温超電導バンドル導体4を巻回した複数の超電導要素コイル5をトロイダル形状に配置した構成である。超電導要素コイル5のコイル形状は、円形、レーストラック形状、D型形状などどのような形状でもよい。また、超電導要素コイル5はパンケーキ巻線構造でもレイヤー巻構造でもよい。超電導要素コイル5の構造、数量、および配置は、超電導要素コイル5内における高温超電導テープ線材1の幅Wの線材面に垂直な方向の磁場成分最大値B⊥maxが、おなじく幅Wの線材面に平行な方向の磁場成分最大値B//maxの半分以下であるように構成されている。
本実施の形態によれば、電流容量が大きくヒステリシス損失の少ない大型の超電導コイル装置を提供することができる。
【0014】
(第5の実施の形態)
図6は、本発明の超電導コイル装置に使用される高温超電導テープ線材の一例を示している。すなわち、高温超電導テープ線材1は、基板7と、基板7上に設けられたイットリウム系酸化物超電導体6と、導電性金属から成りイットリウム系酸化物超電導体6を保護する保護層8を備え、保護層8には、銅あるいは銅合金あるいは銅化合物で形成された銅テープ9が電気的に接触するように配置されている。銅テープ9の厚さdcuは、イットリウム系酸化物超電導体6の厚さdyの少なくとも20倍以上である。
【0015】
本実施の形態の効果を検証するために、dcu=10dy,20dy,50dyの超電導テープ線材1を準備し、冷凍機で試料を70Kに冷却した状態で臨界電流をそれぞれの試料に通電したことを想定した熱解析を実施した。その結果、図7のグラフに示すような試料両端電圧の時間変化が得られた。dcu=50dyでは試料の両端電圧にほとんど時間変化がなく、安定な通電が可能である。dcu=10dyでは試料の電圧変化が急激で、焼損に至る。dcu=20dyでは、電圧の上昇はみられるものの、電圧の時間変化は比較的緩やかであるので、電圧上昇を検知して、電流をゼロにすることができ、焼損には至らない。以上の結果から、超電導テープ線材1が焼損に至ることを防ぐためには、イットリウム系酸化物超電導体6の厚さの20倍以上の厚さの銅テープ9が必要であると結論付けられる。
【0016】
(第6の実施の形態)
図8は、本発明の超電導コイル装置に使用される高温超電導テープ線材1の他の例を示している。すなわち、高温超電導テープ線材1は、基板7と、イットリウム系酸化物超電導体6と、安定化材10から構成されており、安定化材10は銀、銅、銀合金、銅合金、銀化合物、銅化合物のいずれかあるいは複数からなり、イットリウム系酸化物超電導体6と電気的に接触するように配置されている。安定化材10の厚さdsは、イットリウム系酸化物超電導体6の厚さdyの20倍以上である。
本実施の形態によれば、電流容量が大きくヒステリシス損失の少ない超電導コイル装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の実施の形態を示し、(a)は超電導コイル装置の斜視図、(b)は高温超電導テープ線材の斜視断面図。
【図2】本発明の第2の実施の形態の超電導コイル装置を示す断面図。
【図3】本発明の第2の実施の形態の超電導コイル装置の作用および効果を説明するグラフ。
【図4】本発明の第3の実施の形態を示し、(a)は超電導コイル装置の斜視図、(b)〜(e)はそれぞれ異なる高温超電導バンドル導体の実施例を示す斜視断面図。
【図5】本発明の第4の実施の形態を示し、(a)は超電導コイル装置の斜視図、(b)は高温超電導バンドル導体の斜視断面図。
【図6】本発明の第5の実施の形態の超電導コイル装置を構成する高温超電導テープ線材を示す斜視断面図。
【図7】本発明の第5の実施の形態の超電導コイル装置を構成する高温超電導テープ線材の作用効果を説明するグラフ。
【図8】本発明の第6の実施の形態の超電導コイル装置を構成する高温超電導テープ線材を示す斜視断面図。
【符号の説明】
【0018】
1…高温超電導テープ線材、2…コイル巻枠、3…超電導要素コイル、4…高温超電導バンドル導体、5…高温超電導バンドル導体を巻回した超電導要素コイル、6…イットリウム系酸化物超電導体、7…基板、8…保護層、9…銅テープ、10…安定化材、11…超電導コイル。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さをdとし幅をWとするときW≧5dである高温超電導テープ線材を巻回してなる超電導コイルを備え、前記高温超電導テープ線材の幅Wの面における磁場の強さの前記幅Wの面に垂直な成分が平行な成分の2分の1以下であるようにしたことを特徴とする超電導コイル装置。
【請求項2】
前記超電導コイルは円環状の巻枠上にトロイダル状に巻回されていることを特徴とする請求項1記載の超電導コイル装置。
【請求項3】
前記高温超電導テープ線材は複数枚並列に形成されていることを特徴とする請求項1記載の超電導コイル装置。
【請求項4】
前記高温超電導テープ線材の超電導部分はイットリウム系酸化物超電導体であることを特徴とする請求項1記載の超電導コイル装置。
【請求項5】
前記イットリウム系酸化物超電導体に接触して銅もしくは銅合金もしくは銅化合物からなる銅テープが設けられ、前記イットリウム系酸化物超電導体の厚さをtとしたとき前記銅テープの厚さが20t以上であることを特徴とする請求項4記載の超電導コイル装置。
【請求項6】
前記イットリウム系酸化物超電導体に接触して金、銀、銅、金合金、銀合金、銅合金、金化合物、銀化合物、銅化合物の少なくともいずれか一つからなる安定化材が設けられ、前記イットリウム系酸化物超電導体の厚さをtとしたとき前記安定化材の厚さが20t以上であることを特徴とする請求項4記載の超電導コイル装置。
【請求項7】
前記超電導コイルがエポキシ系樹脂で含浸されていることを特徴とする請求項1記載の超電導コイル装置。
【請求項8】
前記超電導コイルが真空容器内に配置され伝導冷却で冷却されていることを特徴とする請求項7記載の超電導コイル装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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