説明

超電導デバイスからの光出力方法および光出力装置

【課題】 広い周波数帯域を持ち、かつ超電導デバイスが置かれる低温域への熱流入を抑制できる、超電導デバイスからの光出力方法を提供する。
【解決手段】 第一、第二の低温度領域11、12を近接して設け、第一の低温度領域に、超電導デバイス14及び該超電導デバイスの出力を増幅する超電導ドライバ15を配置して、該第一の低温度領域を、超電導デバイスが機能する温度域に冷却する。一方、第二の低温度領域には、超電導ドライバと電気的に接続した半導体アンプ16及び入力電圧に応じて位相が回転する光変調器17を配置し、該第二の低温度領域を、半導体アンプが機能する温度域に冷却する。これにより、超電導デバイスの微小信号を光信号20として出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子機器等に用いる超電導デバイスからの光出力方法および光出力装置に関する。
【背景技術】
【0002】
極低温(〜4K)で動作するニオブ系超電導デバイスの高速出力を室温環境に読み出す方法として、非特許文献1に開示されている方法を図2に示す。
【0003】
図2において、冷凍機の第一の低温領域21に置かれた超電導デバイス24からの出力は、超電導ドライバ25で増幅され、冷凍機の第二の低温領域22にある半導体アンプ26に伝送される。半導体アンプ26で増幅された信号は、冷凍機外の室温領域23に伝送され各種機器に接続される。
【0004】
この方法は室温環境23と、第二の低温領域22および第一の低温領域21間の熱流入が大きいこと、第一の低温領域21から室温環境23まで長い電気信号線を使う必要があるため高周波信号の損失が大きいという問題点があった。
【0005】
上記問題点を解決するための方法として、非特許文献2に開示されている方法を図3に示す。
【0006】
図3において、冷凍機の第一の低温領域31に置かれた超電導デバイス32の出力を超電導ドライバ33で増幅してから光変調器34に入力し、入力ソース光35の光変調器34における位相回転による消光により変調出力光36として超電導デバイス32の出力を室温環境37に読み出す。これにより、冷凍機への熱流入が少なく、超電導デバイス出力の広周波数帯域読み出しを行うことができる。
【0007】
光変調器の位相回転による電圧変動のより詳しい読み出し方法として、非特許文献3に開示されている方法を図4に示す。
【0008】
図4において、レーザダイオード41からの出力光がポーラライザーコントローラ42によって一定の偏光のみ抽出され、光サーキュレータ49、光ファイバ43を介して低温環境44にある光変調器45に入力される。光変調器45には、超電導ドライバの出力46が入力され、出力46の電圧に応じて入力光の位相が回転する。光変調器45からの出力は、光ファイバ43、光サーキュレータ49、オプティカルアナライザ47を介してフォトディテクタ48に入力される。このとき偏光された入力光位相の光変調器45での回転の度合いに応じて、オプティカルアナライザ47を通過する光量が変化するため、光変調器45に入力される超電導ドライバの出力(デジタル信号)46をフォトディテクタ48で光量の変化として検出することができる。
【0009】
ここで用いられる光変調器45としては、電場により入力光の位相回転が起こるEO (Electro-optical)素子や磁場により入力光の位相回転が起こるMO (Magneto-optic)素子が知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】IEICE Trans. Electron., Vol. E91-C, pp. 325-332, (2008) 橋本 他
【非特許文献2】IEEE Trans. Appl. Supercond. Vol. 11 pp. 727-730 (2001) R. Sobolewski 他
【非特許文献3】Jpn. J. Appl. Phys. Vol. 41 pp. L864-L866 (2002) 山崎 他
【非特許文献4】IEEE Trans. Appl. Supercond., vol. 1, no. 1, pp. 3-28 (1991) Likharev 他
【非特許文献5】IEEE Trans. Appl. Supercond., vol. 17, no. 2, pp. 546-551, (2007) 橋本 他
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、一般に入手できるEO素子、MO素子では、位相回転による消光を検出するには1V程度の入力電圧が必要であるが、超電導デバイスからの10GHz以上の高周波出力を超電導ドライバによって10mV以上に増幅することは難しい。従って、従来技術で超電導デバイス出力を読み出すことは容易ではない。
【0012】
本発明は前記従来技術の問題点を克服し、広い周波数帯域を持ち、かつ超電導デバイスが置かれる低温域への熱流入を抑制できる、超電導デバイスからの光出力方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、第一、第二の低温領域を近接して設け、第一の低温領域に超電導デバイスと超電導ドライバを配置し、第一の低温領域より温度が高い第二の低温領域に半導体アンプと光変調器を設け、超電導デバイスの出力が超電導ドライバ、半導体アンプを介して光変調器に入力される超電導デバイスからの光出力方法および光出力装置が提供される。
【発明の効果】
【0014】
これにより、超電導デバイスから室温への光出力が可能となり、超電導デバイスから室温への出力のために用いる電気信号線の長さを大幅に短縮することができる。電気信号線は光信号線と比べると高周波特性が大幅に劣るため、これを短縮することで超電導デバイスからの高周波特性が向上できる。また、第一の低温領域と第二の低温領域を結ぶ電気信号線に低熱伝導度かつ広周波数帯域のものを用いることで、一般に熱容量の小さな第一の低温領域への出力線を介した熱流入を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施例の構成例を説明するためのブロック図である。
【図2】従来の超電導デバイスからの出力方法を説明するためのブロック図である。
【図3】従来の超電導デバイスからの別の出力方法を説明するためのブロック図である。
【図4】EOもしくはMO素子を用いた従来の光出力方法を説明するためのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(実施例)
図1は本発明による光出力装置の実施例を説明するための図である。
【0017】
図1において、超電導デバイス14としては、高速かつ低消費電力素子として知られている、非特許文献4に開示されているニオブを超電導材料として用いた超電導単一磁束量子(SFQ)回路を用いる。SFQ回路をその動作温度(4〜5K)まで冷却する冷却装置としてはGM型冷凍機(例えば住友重機械工業株式会社製SRDK-408D2)を用いる。4Kまで冷却可能なGM型冷凍機は、一般に4〜5Kの低温ステージと40〜50Kの高温ステージの二つの冷却ステージを持ち、低温ステージの熱容量が1Wの場合には高温ステージは約50Wの熱容量を持つ。本実施例では、前記低温ステージを第一の低温領域11、前記高温ステージを第二の低温領域12として用いる。
【0018】
第一の低温領域11に超電導デバイス14と非特許文献5に開示されている多段SQUID型超電導ドライバ15を配置し、第二の低温領域12には、半導体アンプ16(例えばSHF社105Cを2段直列に接続したもの)と、光変調器17として最も一般的なEO素子であるLiNbO (LN)変調器(例えばハイテック社製)を配置する。なお、超電導単一磁束量子(SFQ)回路はデジタル回路であるので、その出力を増幅する超電導ドライバ15の出力もデジタル信号となる。光変調器17は入力電圧に応じて入力ソース光19の位相を回転させた変調出力光20を出力する。
【0019】
超電導ドライバ15と半導体アンプ16を、市販の高温超電導リード(例えば新日鐵社製)のインピーダンスを50Ωに改良した低熱伝導度広周波数帯域電気信号線18で接続する。前記SHF社105Cのゲインは50Kにおいては室温より約10dB改善し、20GHzにおいて約30dBである。前記SHF社105Cを2段直列に接続した半導体アンプ16を用いることにより、超電導ドライバ15の出力2mVを光変調器17の位相回転に十分な1.8Vに増幅することができる。
【0020】
電気信号線の挿入損失は長さに比例し、周波数が高いほど大きくなる。例えばKEYCOM社ホームページ(http://keycom.co.jp/jproducts/mmt/mmt4/page.html)にあるように、熱伝導の小さい小外径タイプでは20GHzにおける挿入損失は1mあたり約6dBとなる。冷凍機の4Kステージから熱流入量を考慮しながら室温機器に接続するには、1m以上の長さが必要となり6dB以上の損失が発生する。
【0021】
これに対して本実施例を用いることにより、使用する電気信号線は第一の低温領域11と第二の低温領域12間の約10cm、超電導デバイス14と超電導ドライバ15間の数mm、及び半導体アンプ16と光変調器17間の数cmで済むため、同様の電気信号線を用いた場合、光ファイバの伝送損失が広い周波数帯域にわたって約0.3dB/kmと極めて小さいことを考慮すると、挿入損失は0.6dB程度に抑えられ高周波特性が著しく向上する。
【0022】
本実施例を用いることにより、室温環境13と第二の低温領域12の間は熱伝導度が極めて低い光ファイバで結ばれるため、この部分の熱流入は無視できる大きさとなる。また、第二の低温領域12と第一の低温領域11の間は熱伝導度の小さな高温超電導体を材料とする低熱伝導広周波数帯域電気信号線18で結ばれるため、第一の低温領域11に流入する熱を抑制することができる。前記SHF社製105Cによる半導体アンプ16は約1Wの電力を消費するが、熱容量が比較的大きい第二の低温領域12に置かれるため実用上問題はない。
【0023】
本実施例では、超電導デバイス14としてSFQ回路を用いたが、他の超電導デバイスを用いることもできる。また、光変調器17としてLN変調器を用いたが、他のEO素子やMO素子を用いることもできる。
【0024】
(実施例の効果)
上記実施例による効果は以下の通りである。
【0025】
第一の低温領域から室温まで全て電気信号線を用いた場合に比べて、本実施例を用いることにより電気信号線の長さを十分短くできるため、電気信号線に起因する高周波特性の劣化を抑制でき、より広周波数帯域の信号を出力できる。
【0026】
半導体アンプを使うことでSFQ回路の出力を光変調器の消光に十分な大きさまで増幅できるため、光信号を用いた超電導デバイスからの出力が可能となる。
【0027】
半導体アンプは、第一の低温領域に比べて熱容量が十分に大きい第二の低温領域に置くことができるため、貴重な第一の低温領域の冷却能力を有効に活用することができる。
【0028】
第一の低温領域と第二の冷却領域との間の信号伝達に高温超電導体等の低熱伝導電気信号線を用いることで、熱容量の小さな第一の低温領域に流入する熱を抑制することができる。
【0029】
なお、上記実施例において、広周波数帯域とは10GHz〜100GHz程度の帯域を示し、高周波数とは10GHz以上100GHz程度までの周波数を指す。
【符号の説明】
【0030】
11、21、31 第一の低温領域
12、22 第二の低温領域
13、23 室温領域
14、24、32 超電導デバイス
15、25、33 超電導ドライバ
16、26 半導体アンプ
17、34 光変調器
18 低熱伝導度電気信号線
19、35 入力ソース光
20、36 変調出力光
37 室温環境
41 レーザダイオード
42 ポーラライザーコントローラ
43 光ファイバ
44 低温環境
45 EOもしくはMO素子
46 超電導ドライバの出力
47 オプティカルアナライザ
48 フォトディテクタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超電導デバイスの微小信号を光信号として出力する方法において、
第一、第二の二つの低温度領域を、近接して設け、
第一の低温度領域に、超電導デバイス、及び、該超電導デバイスの出力を増幅する超電導ドライバを配置し、該第一の低温度領域を、超電導デバイスが機能する温度域に冷却し、
第二の低温度領域に、超電導ドライバと電気的に接続した半導体アンプ、及び、入力電圧に応じて位相が回転する光変調器を配置し、該第二の低温度領域を、半導体アンプが機能する温度域に冷却して、
超電導デバイスの微小信号を光信号として出力する、
ことを特徴とする超電導デバイスの光出力方法。
【請求項2】
前記超電導ドライバと半導体アンプを、低熱伝導電気信号線で接続したことを特徴とする請求項1に記載の超電導デバイスの光出力方法。
【請求項3】
前記低熱伝導電気信号線が、広周波数帯域で機能する電気信号線であることを特徴とする請求項2に記載の超電導デバイスの光出力方法。
【請求項4】
超電導デバイスの微小信号を光信号として出力する装置において、
一つの装置内に、冷却温度域が異なる第一、第二の二つの低温度領域を、近接して設け、
超電導デバイスが機能する温度域に冷却する、第一の低温度領域に、超電導デバイス、及び、該超電導デバイスの出力を増幅する超電導ドライバを配置し、
冷却温度が、第一の低温度領域の温度より高い第二の低温度領域に、半導体アンプ、及び、入力電圧に応じて位相が回転する光変調器を配置し、
超電導ドライバと半導体アンプを、電気的に接続した、
ことを特徴とする超電導デバイスの光出力装置。
【請求項5】
前記超電導ドライバと半導体アンプを、低熱伝導電気信号線で接続したことを特徴とする請求項4に記載の超電導デバイスの光出力装置。
【請求項6】
前記低熱伝導電気信号線が、広周波数帯域で機能する電気信号線であることを特徴とする請求項5に記載の超電導デバイスの光出力装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−114289(P2011−114289A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−271587(P2009−271587)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「次世代高効率ネットワークデバイス技術開発」に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【出願人】(391004481)財団法人国際超電導産業技術研究センター (144)
【Fターム(参考)】