説明

超電導デバイスの冷却装置

【課題】検出感度の高い超電導デバイスの冷却装置を提供する。
【解決手段】本発明の超電導デバイスの冷却装置は、冷媒を保持する内容器と、前記内容器を収容する外容器と、前記内容器の底壁であって前記外容器側に設けられた超電導デバイスを付設した熱電導体とを少なくとも備えた超電導デバイスの冷却装置であって、前記内容器の外周面と前記外容器の内周面とを支持部材で固定した構造を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導体の冷却装置に関し、特に冷媒により冷却する断熱式の超電導デバイスの冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超電導体の冷却装置としては、たとえば、超電導量子干渉デバイス(Superconducting QUantum Interference Device)(以下、「SQUID」という。)を超電導遷移温度以下に冷却する真空断熱式の冷却装置が開示されている(特許文献1参照)。SQUIDは、微弱な磁場を計測することができる超高感度磁気センサーであり、ヒトの脳や心臓などから発生する生体磁気のほか、海中の極低周波の測定、非破壊検査などに使用することができるが、使用に際しては、超電導遷移温度以下に冷却する必要がある。
【0003】
従来の超電導デバイスの冷却装置の構造を図5に示す。この冷却装置は、図5に示すように、カップ状の外容器52内に、カップ状の内容器53が、底壁同士が対面するように配設され、内容器53に液体窒素などの冷媒58が収納される。外容器52の開放端と内容器53の開放端とを固着し、外容器52と内容器53との間には、真空断熱層54が形成される。内容器53の底壁にはSQUID57が設置されている。また、外容器52の底部外壁には被検体50が設置される。
【0004】
SQUIDにより検出できる磁気強度は、被検体からの距離の3乗に反比例し、磁気強度は被検体から遠ざかれば遠ざかる程、減衰するため、高感度に検出するには、SQUIDと被検体との距離を可能な限り短縮する必要がある。図5に示す従来の冷却装置では、SQUID57が内容器53の内側にあるため、内容器53の底壁と真空断熱層54と外容器52の底壁の厚さに相当する距離(約10mm)だけ、SQUID57が被検体50から離れている点で、検出感度が低くなる。
【0005】
そこで、SQUIDと被検体との距離を短縮し、検出感度を高めた従来の超電導デバイスの冷却装置の構造を図6に示す。この冷却装置は、図6に示すように、SQUID67を内容器63の外側の真空断熱層64内に配設し、SQUID67は、内容器63の底壁と熱良導体61を通して、液体窒素68により間接的に冷却する。図6に示す構造の冷却装置の場合には、SQUID67と被検体60との距離を0.2mm程度に短縮することができるため、検出できる磁気感度は、図5に示す構造の冷却装置に比べて、
(10/0.2)3=125,000(倍)
高くなる。
【特許文献1】特開2000−180008号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図6に示す冷却装置において、内容器63に投入する液体窒素68の温度は、−196℃であり、内容器63の材料にはガラス繊維強化プラスチックが汎用され、ガラス繊維強化プラスチックの熱膨張係数は、約2×10-5/℃であるから、長さ300mmの内容器63の場合、室温(14℃)から−196℃まで冷却すると、内容器63は、長手方向に、
2×10-5×300×(14+196)=1.3(mm)
収縮する。
【0007】
したがって、室温状態で、SQUIDと被検体とを0.2mm程度の近距離に設定しても、液体窒素で冷却した後は、SQUIDと被検体との距離は、
0.2+1.3=1.5mm
となり、室温状態と比較して検出できる磁気感度は、
(0.2/1.5)3=1/422(倍)
に低下する。
【0008】
この場合、内容器に液体窒素を投入してから内容器の位置を調整し、SQUIDと被検体の距離を調整する方法が考えられるが、その場合、液体窒素の投入後、内容器の底部を顕微鏡で観察しながら、位置合せをする調整機構と駆動系が必要となり、装置コストが高くなる。また、SQUIDによる磁気検出の過程で、液体窒素が減少するにつれて、内容器の長さは徐々に伸張するため、内容器の位置の再調整が必要となり、位置合せ時の振動により、磁気検査へのノイズが増えるという問題がある。
【0009】
本発明の課題は、液体窒素を投入しても、内容器の位置合せをすることなく、高感度の検出が可能であり、内容器内の液体窒素が減少しても、内容器の位置を再調整することなく、検出感度を高く維持することができる超電導デバイスの冷却装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の超電導デバイスの冷却装置は、冷媒を保持する内容器と、前記内容器を収容する外容器と、前記内容器の底壁であって前記外容器側に設けられた超電導デバイスを付設した熱電導体とを少なくとも備えた超電導デバイスの冷却装置であって、前記内容器の外周面と前記外容器の内周面とを支持部材で固定した構造を有する。
【0011】
上記内容器および上記外容器は、それぞれ開放端部を有し、上記内容器の開放端部と上記外容器の開放端部とがそれぞれ封止部材により封止された構造であることが好ましい。
【0012】
上記内容器、上記外容器、および上記封止部材の少なくとも1が伸縮することが好ましい。
【0013】
上記内容器は、上記封止部材の伸縮により上記支持部材を固定点として長手方向に伸縮することが可能であり、また、上記内容器の外周面と上記封止部材との摺動と、上記外容器の内周面と上記封止部材との摺動との少なくとも1により上記支持部材を固定点として長手方向に伸縮するようにも設計することができる。
【0014】
封止部材はベローズまたはシール材により構成されることが好適であり、支持部材は内容器の外周面から放射状に配置されている態様が好ましい。また、支持部材は複数の貫通孔を有する態様が好ましい。内容器の側壁を構成する材料としては、ガラス繊維強化プラスチックを含むものが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、液体窒素を投入しても、時間経過により液体窒素が減少しても、内容器の位置を再調整することなく、超電導デバイスを高感度に維持することが可能な冷却装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
<検出器>
本発明の超電導デバイスの冷却装置の一例を図1に示す。この冷却装置は、図1に示すように、液体窒素などの冷媒8を保持するカップ状の内容器3と、内容器3を収容し、底壁に窓部6を設けたカップ状の外容器2と、内容器3の底壁であって外容器2側に配設され(外容器2の窓部6に対向する位置)、窓部6に向かう先端に超電導デバイス7を付設した熱伝導体1とを備え、超電導デバイス7は、冷媒8により間接的に冷却される。内容器3の底部の外周面と外容器2の底部の内周面を支持部材9で固定し、内容器3の開放端部と外容器2の開放端部の間に、たとえばベローズなどの柔軟な封止部材5を設けることにより内容器3と外容器2の間に断熱層4を形成し、超電導デバイス7と内容器3などは断熱された構造を有する。
【0017】
<内容器>
本発明において内容器3は、冷媒を保持するために用いられるものであり、側壁を構成する材料がガラス繊維強化プラスチックである態様が好ましい。ガラス繊維強化プラスチックは、たとえば0.1〜1W/m・℃と熱伝導率が小さいため、外容器からの熱が内容器を通して冷媒に伝導する割合を減少することができる。また、内容器の熱伝導性が低いため、内容器に接続する封止部材の冷却を抑えて、封止部材の硬化を防止できる。さらに、ガラス繊維強化プラスチックは非磁性であるため、SQUIDなどによる磁気計測への悪影響を低減できる。
【0018】
<外容器>
本発明において外容器2は、上記内容器を収容するように設けられる。該外容器2を構成する材料は、特に限定されるものではないが、低い熱伝導性、非磁性の観点から、内容器と同様、ガラス繊維強化プラスチックなどを例示することができる。
【0019】
<熱伝導体>
内容器の底壁に配設し、超電導デバイスを付設する熱伝導体1は、熱伝導性が良好で、熱膨張率が小さく、非磁性である点で、サファイヤ製の棒状体または板状体が好適である。また、上記超電導デバイスは、検出目的に合わせて適宜選択し適用することができる。
【0020】
<窓部>
外容器2の底壁に設ける窓部6は、可能な限り薄くすることで、超電導デバイスと被検体の距離を短縮し、高感度な計測を可能にするため、剛性に優れたサファイヤ板が好ましく使用される。該窓部の厚みは、特に限定されず、上記のように可能な限り薄くすることが好ましい。
【0021】
<支持部材>
図1に示す超電導デバイスの冷却装置をI−Iで切断したときの水平断面図を図3に示す。図3に示すように、支持部材9の水平断面において、該支持部材9が内容器の外周面から放射状に配置されていると、支持部材の体積を減らすことにより外容器からの熱伝導を小さくすることができる点で好ましい。また、図2に示す超電導デバイスの冷却装置をII−IIで切断したときの水平断面図を図4に示す。支持部材9は図4に示すように、支持部材9が、複数の貫通孔9aを有する構造とすることもできる。図4に示すような構造を有する場合は、支持部材9の機械的強度を維持しつつ、支持部材の体積を減らし、熱伝導率を低減できる点で好ましい。図4には、支持部材9の水平面に貫通孔9aを形成した態様を例示するが、鉛直面に貫通孔を形成した場合も同様に好ましい。
【0022】
上記支持部材9は、SQUIDなどにより検出する磁気強度にノイズが入らないようにするために、非磁性材料が好ましい。また、外容器からの伝熱を抑え、内容器を低温に保持しやすくするために、熱伝導性の低い材料が好ましく、具体的には、熱伝導率が1W/m・℃以下であることが好ましい。さらに、内容器と外容器を固定するために、機械的強度が必要である。このような観点から、支持部材の材料は、具体的には、ガラス繊維強化プラスチックなどが好ましい。
【0023】
上記支持部材は、本発明の検出器における内容器の外周面と外容器の内周面との距離にあわせてその幅(円周方向の長さ)を設定する。たとえば、外容器の外径が100mmであり、内容器の外径が50mm程度の場合、該支持部材の厚みは、外容器に対向する内容器の底面が大気により受ける圧力に抗するための機械的強度の点から、2〜5mmであることが好ましく、より好ましくは2〜3mmである。
【0024】
また、上記支持部材の厚みにも依るが、支持部材の水平断面における面積が、内容器の外周面と外容器の内周面とに囲まれる部分の面積の20〜50%であることが好ましく、20〜30%がより好ましい。支持部材の面積が、内容器の外周面と外容器の内周面とに囲まれる部分の面積20%未満の場合は、固定強度が不十分となる場合があり、50%を超える場合は、熱伝導を十分に低減できない傾向がある。他方、支持部材が複数の貫通孔を鉛直面に有する場合は、上記支持部材の空隙率を70〜80体積%に調整すると、機械的強度と固定強度をより良好に維持し、熱伝導を抑えることができる。
【0025】
<封止部材>
本発明の検出器においては、上記支持部材に加えて、内容器および外容器の開放端部が封止部材により封止された構造とすることが好ましく、この封止部材は、ベローズやシール材により構成されることが好ましい。
【0026】
封止部材としてベローズを使用する場合は、気密性と伸縮性が良好な点で、材質はステンレスが好ましい。上記ベローズの直径は内容器および外容器の厚みにあわせて選択される。
【0027】
封止部材としてベローズを適用した超電導デバイスの冷却装置は上記図1に例示される。図1においては、封止部材5の収縮または伸張により、内容器3が支持部材9を固定点として長手方向に伸縮する構造を有する。このため、室温時に被検体10と超電導デバイス7とが近接するように、内容器3の位置を調整し、内容器3と外容器2とを各々の底部において支持部材9で固定しておくことにより、液体窒素の投入により内容器3が収縮しても、また液体窒素の減少により内容器3が伸張しても、内容器3は支持部材9を固定点として長手方向に伸縮する。したがって、内容器3の底壁にある超電導デバイス7と被検体10の位置は変動しないため、内容器3の位置を再調整することなく、超電導デバイス7の感度を高く維持することが可能である。このように、超電導デバイスと被検体との位置調整機構が不要であり、また、装置構造が簡単になり、装置コストを低減でき、検出のための作業性を改善することができる。
【0028】
一方、封止部材としてシール材を使用する場合は、気密性と摺動性が良好な点で、材質はフッ素樹脂またはニトリルゴムが好ましい。上記シール材としてはOリングや球形などの形状が好ましい。その直径は内容器の外周面と外容器の内周面との距離にあわせて選択され、たとえば内容器の外周面と外容器の内周面との距離の1.12〜1.27倍とすることが好ましい。また、常温で14〜20MPaの弾性率を有することが好ましい。
【0029】
上記シール材は、たとえば内容器の開放端部と外容器の開放端部との間に、内容器および外容器の少なくとも一方に溝を形成して保持させればよい。
【0030】
本発明の超電導デバイスの冷却装置の他の構造を図2に示す。この冷却装置は、図2に示すように、内容器3の開放端部と外容器2の開放端部の間に、たとえばシール材などの封止部材5を設けることにより、内容器3と外容器2の間に断熱層4を形成する。シール材には、上述のようにOリングなどが好適である。他の構成は、図1に示す超電導デバイスの冷却装置と同様である。図2に示す例では、内容器3の外周面に封止部材5を形成しているため、外容器2の内周面と封止部材5との摺動に基づき、内容器3が内容器3の温度により、支持部材9を固定点として長手方向に伸張または収縮する。
【0031】
したがって、図1に示す冷却装置と同様に、室温時に被検体10と超電導デバイス7とが近接するように、内容器3の位置を調整し、内容器3の底部と外容器の底部を支持部材9により固定しておくと、液体窒素などの冷媒8の投入により内容器が収縮しても、また液体窒素の減少により内容器が伸張しても、内容器は支持部材を固定点として長手方向に伸縮し、内容器の底部にある超電導デバイスと被検体との位置は変動しないため、内容器の位置を再調整することなく、超電導デバイスを高感度に維持することができる。外容器2の内周面に封止部材5を設け、内容器3の外周面と封止部材5との摺動により、内容器2が内容器の温度により、支持部材9を固定点として長手方向に伸縮する態様においても同様である。
【0032】
なお、本発明において、封止部材はベローズまたはシール材に限られるものではなく、これら例示した封止部材と同様の物性を持つものであれば、該封止部材として適用することが可能である。
【0033】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0034】
超電導デバイスの感度が高く、構造が簡単で、安価な冷却装置を提供することができ、本発明の冷却装置によると作業性が良好である。上記構造を有する冷却装置は、SQUID素子に限られず、放射線検出素子等に適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】封止部材にベローズを適用した本発明の超電導デバイスの冷却装置の構造の代表例を示す図である。
【図2】封止部材にシール材を適用した本発明の超電導デバイスの冷却装置の構造の代表例を示す図である。
【図3】内容器の外周面に放射状に支持部材が配された場合の図1および図2に示す超電導デバイスの冷却装置をそれぞれI−Iで切断したときの水平断面図である。
【図4】支持部材が複数の貫通孔を有する場合の図1および図2に示す超電導デバイスの冷却装置をそれぞれII−IIで切断したときの水平断面図である。
【図5】内容器の底壁と外容器の底壁とが対面する構造を有する従来の超電導デバイスの冷却装置の構造を示す図である。
【図6】検出感度を高めた従来の超電導デバイスの冷却装置の構造を示す図である。
【符号の説明】
【0036】
1 熱伝導体、2 外容器、3 内容器、4 断熱層、5 封止部材、6 窓部、7 超電導デバイス、8 冷媒、9 支持部材、10 被検体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒を保持する内容器と、前記内容器を収容する外容器と、前記内容器の底壁であって前記外容器側に設けられた超電導デバイスを付設した熱伝導体とを少なくとも備えた超電導デバイスの冷却装置であって、
前記内容器の外周面と前記外容器の内周面とを支持部材で固定した構造を有する超電導デバイスの冷却装置。
【請求項2】
前記内容器および前記外容器は、それぞれ開放端部を有し、前記内容器の開放端部と前記外容器の開放端部とがそれぞれ封止部材により封止された構造である請求項1に記載の超電導デバイスの冷却装置。
【請求項3】
前記内容器、前記外容器、および前記封止部材の少なくとも1が伸縮する請求項2に記載の超電導デバイスの冷却装置。
【請求項4】
前記内容器は、前記封止部材の伸縮により前記支持部材を固定点として長手方向に伸縮する請求項2または3に記載の超電導デバイスの冷却装置。
【請求項5】
前記内容器は、前記内容器の外周面と前記封止部材との摺動と、前記外容器の内周面と前記封止部材との摺動との少なくとも1により前記支持部材を固定点として長手方向に伸縮する請求項2または3に記載の超電導デバイスの冷却装置。
【請求項6】
前記封止部材は、ベローズまたはシール材により構成される請求項2〜5のいずれかに記載の超電導デバイスの冷却装置。
【請求項7】
前記支持部材は、内容器の外周面から放射状に配置されている請求項1〜6のいずれかに記載の超電導デバイスの冷却装置。
【請求項8】
前記支持部材は、複数の貫通孔を有する請求項1〜6のいずれかに記載の超電導デバイスの冷却装置。
【請求項9】
前記内容器は、側壁を構成する材料がガラス繊維強化プラスチックを含む請求項1〜8のいずれかに記載の超電導デバイスの冷却装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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