説明

超音波プローブ用パッド

【課題】流動性のある組成物を塗布することなく、超音波プローブの被検体への高い超音波伝播効率を維持でき、鮮明な画像による超音波診断を可能とする超音波プローブ用パッドを提供することを目的とする。
【解決手段】被検体に超音波を放射し、前記被検体内で反射した超音波を受信する超音波プローブと、前記被検体との間に介在させる超音波プローブ用パッドであって、末端に水酸基を有する有機珪素化合物(A)とポリエーテルポリオール化合物(B)とがポリイソシアナート化合物(C)によって架橋されたシリコーンゴムを含むことを特徴とする超音波プローブ用パッドを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体に超音波を放射し、前記被検体内で反射した超音波を受信する超音波プローブと、前記被検体との間に介在させる超音波プローブ用パッドに関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置は、超音波プローブ(探触子)を人体などの被検体に接触させて超音波を放射し、被検体内で反射した超音波を信号として受信し、その信号に基づく画像を形成できるように構成されている。このような超音波プローブは、圧電素子で発生させた超音波を被検体に効率よく伝播させるために、音響インピーダンス等の音響特性が被検体の音響特性と類似した素材等からなる音響レンズを被検体と接触させる箇所に配置している。
【0003】
しかしながら、超音波プローブを被検体表面に直接接触させるだけでは、超音波プローブと被検体との密着性が不充分であるので、その接触面に空気層等が介在してしまう。空気層等が介在すると、超音波の被検体への伝播効率が低下し、鮮明な画像が得られない。
【0004】
そこで、通常、被検体の診断部に流動性のあるゼリーを塗布し、ゼリーの塗布された被検体の診断部に超音波プローブを接触させることで、超音波プローブと被検体との密着性を向上させ、超音波の伝播効率を高めていた(特許文献1参照)。
【特許文献1】特公平2−26496号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の超音波診断用透明粘性組成物は、超音波プローブと被検体との間に介在させることで、正確な診断情報が得られ、さらに、水溶性であり、適度な粘性を有しているので、被検体への塗布及び除去が容易であることが開示されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の組成物のような流動性のあるゼリーを塗布して超音波診断を行うと、超音波診断以外の作業が多いので、超音波診断の作業効率が低下してしまう。超音波診断以外の作業とは、被検体が患者等の人体の場合、ゼリーを予め加温しておくことが多いので、例えば、ゼリーの加温作業が挙げられ、この作業によって作業効率が低下する。また、冷たいゼリーを加温せずに塗布すると、ゼリーの塗布作業が患者等によって不快に感じられる。さらに、超音波診断を行う超音波検査士等は、被検体へのゼリーを塗布するためにゴム製の手袋を装着し、被検体へのゼリーの塗布作業及び除去作業をし、超音波プローブに付着したゼリーの拭き取り作業も行う。このゼリーの拭き取り作業は、手作業で超音波プローブに付着したゼリーをガーゼやウエスで拭き取るだけではなく、拭き取った後、水や洗浄液で洗浄し、布やガーゼで超音波プローブに付着した水分の拭き取り等もある。この拭き取り作業は、衛生面と性能維持のために、超音波診断が終了するたびに行われる。また、超音波プローブに水分が付いていると、超音波診断に悪影響があるので、超音波プローブを充分に乾燥させておく必要もある。
【0007】
また、超音波診断を行うたびに、超音波プローブにゼリーが付着したり、拭き取り作業等が行われると、超音波プローブの先端にある音響レンズ等に傷がつきやすくなる。また、超音波プローブを水や洗浄液で洗浄すると、圧電素子が音響ガラス等で被覆されているとはいえ、水分の透過により、圧電素子が損傷してしまうおそれもある。特に、圧電素子として、水に弱い有機圧電素子等を用いた超音波プローブを洗浄する場合に、水分による圧電素子の損傷を防ぐ必要がある。
【0008】
本発明は、かかる従来の問題点を解消するためになされたものであり、流動性のある組成物を塗布することなく、超音波プローブの被検体への高い超音波伝播効率を維持でき、鮮明な画像による超音波診断を可能とする超音波プローブ用パッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の超音波プローブ用パッドは、被検体に超音波を放射し、前記被検体内で反射した超音波を受信する超音波プローブと、前記被検体との間に介在させる超音波プローブ用パッドであって、末端に水酸基を有する有機珪素化合物(A)とポリエーテルポリオール化合物(B)とがポリイソシアナート化合物(C)によって架橋されたシリコーンゴムを含むことを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、シリコーンゴムを構成する化合物に、有機珪素化合物(A)及びポリエーテルポリオール化合物(B)が含まれているので、珪素及び酸素の含有率が高く、適度な音響特性を発揮できる。また、ポリエーテルポリオール化合物(B)の有するエーテル基の付着性により、高い密着性を発揮できる。さらに、有機珪素化合物(A)及びポリエーテルポリオール化合物(B)の水酸基とポリイソシアナート化合物のイソシアネート基とが反応してウレタン結合を形成することにより架橋されている。このウレタン結合により、適度な弾性と形状保持性を発揮できる。
【0011】
したがって、本発明の超音波プローブ用パッドは、ゼリーのような流動性はなく、適度な弾性を有し、形状を保持しており、さらに、適度な音響特性と高い密着性とを発揮できる。この本発明の超音波プローブ用パッドを、超音波プローブと被検体との間に介在させることによって、流動性のある組成物を塗布することなく、超音波プローブの被検体への高い超音波伝播効率を維持でき、鮮明な画像による超音波診断が可能である。
【0012】
また、ゼリーのような流動性のある組成物を被検体に塗布せずに超音波診断を行うので、超音波診断のたびに、ゼリーの拭き取り作業等を行う必要がなくなるので、作業効率が高まる。さらに、ゼリーの拭き取り作業等による超音波プローブの音響レンズに傷がついてしまうことや、洗浄による圧電素子が損傷してしまうことが少なくなる。
【0013】
また、本発明の超音波プローブ用パッドを、超音波プローブの音響レンズ上に被覆するように固定して使用した場合、超音波プローブ用パッドの洗浄を行っても、超音波プローブ用パッドが水分の透過を抑制できるので、洗浄によって圧電素子が損傷してしまうことを防ぐことができる。
【0014】
前記有機珪素化合物(A)が、ポリオルガノシロキサンであることが好ましく、下記一般式(1)で表される化合物であることがより好ましい。
【0015】
【化1】

【0016】
(式(1)中、p,q,rの合計は、10〜100を示し、R〜Rは、それぞれ炭素数1〜8のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルケニル基、アラルキル基、又はこれらの官能基の水素が部分的にハロゲン原子に置換された官能基を示す。)
前記有機珪素化合物(A)が、上記化合物であると、R〜Rを有するので、ポリエーテルポリオール化合物(B)やポリイソシアナート化合物(C)と高い相溶性を有するので、有機珪素化合物(A)の有するシロキサン基の分散性の高いシリコーンゴムが得られ、音響特性がより好適化される。
【0017】
前記ポリエーテルポリオール化合物(B)が、下記一般式(2)又は下記一般式(3)で表される化合物であることが好ましい。
【0018】
【化2】

【0019】
(式(2)中、nは、3〜26を示し、Rは、水素原子又はメチル基を示し、R及びRは、それぞれ水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示し、R〜Rの少なくとも1つは、水素原子である。)
【0020】
【化3】

【0021】
(式(3)中、mは、0〜24を示す。)
前記ポリエーテルポリオール化合物(B)が、上記化合物であると、ポリエーテルポリオール化合物(B)の有するエーテル基が、主鎖のエチレンオキサイド基やプロピレンオキサイド基に基づくものであるので、より高い付着性を付与でき、よって、得られたパッドはより高い密着を発揮できる。
【0022】
前記ポリエーテルポリオール化合物(B)の含有量が、前記有機珪素化合物(A)に対して、10〜80質量%であることが好ましい。このような含有量であると、密着性がより高く、音響特性がより好適である、密着性と音響特性とのより好ましい両立が可能である。
【0023】
前記ポリイソシアナート化合物(C)が、ジイソシアナート化合物であることが好ましく、ヘキサメチレンジイソシアナート、イソホロンジイソシアナート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアナート、メチレンビス(p−フェニル)ジイソシアナート、メチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアナート)、トルエンジイソシアナート、1,5−ナフタレンジイソシアナート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアナート、2,2’−ジメチル−4,4−ジフェニルメタンジイソシアナート、1,3−フェニレンジイソシアナート、1,4−フェニレンジイソシアナート、2,2’−ジクロロ−4,4’−ジイソシアナートジフェニルメタン、2,4−ジブロモ−1,5−ジイソシアナートナフタレン、ブタン−1,4−ジイソシアナート、1,6−ヘキサンジイソシアナート及び1,4−シクロヘキサンジイソシアナートからなる群から選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。
【0024】
前記ポリイソシアナート化合物(C)が、上記化合物であると、ウレタン結合が好適な架橋密度となるように形成され、超音波プローブ用パッドとしてより好ましい弾性を発揮できる。
【0025】
前記超音波プローブ用パッドの硬さが、ショアA硬度で10〜50であることが好ましい。このような硬さであると、超音波診断に好適な硬さであり、高い密着性も維持できる。
【発明の効果】
【0026】
本発明は、流動性のある組成物を塗布することなく、超音波プローブの被検体への超音波伝播効率を維持でき、鮮明な画像による超音波診断を可能とする超音波プローブ用パッドを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明の超音波プローブ用パッドは、被検体に超音波を放射し、前記被検体内で反射した超音波を受信する超音波プローブと、前記被検体との間に介在させる超音波プローブ用パッドであって、末端に水酸基を有する有機珪素化合物(A)とポリエーテルポリオール化合物(B)とがポリイソシアナート化合物(C)によって架橋されたシリコーンゴムを含むことを特徴とする超音波プローブ用パッドである。
【0028】
本発明に用いる有機珪素化合物(A)は、末端に水酸基を有する有機珪素化合物であればよく、この有機珪素化合物の具体例として、例えば、下記一般式(1)で表される化合物であることが好ましい。
【0029】
【化4】

【0030】
(式(1)中、p,q,rの合計は、10〜100を示し、R〜Rは、それぞれ炭素数1〜8のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルケニル基、アラルキル基、又はこれらの官能基の水素が部分的にハロゲン原子に置換された官能基を示す。)
p,q,rの合計は、20〜60であることがより好ましく、p,q,rの合計が、上記好適範囲内にあれば、p,q,rのいずれか1または2は、0であってもよい。
【0031】
また、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルケニル基、及びアラルキル基は、置換基を有していてもよい。上記アルキル基の具体例は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、及びドデシル基等が挙げられる。上記シクロアルキル基の具体例は、例えば、シクロヘキシル基、及び2,4−ジメチルシクロヘキシル基等が挙げられる。上記アリール基の具体例は、例えば、フェニル基、トリル基、及び2,4−ジメチルフェニル基等が挙げられる。上記アルケニル基の具体例は、例えば、ビニル基、アリル基、及びブテニル基等が挙げられる。上記アラルキル基の具体例は、例えば、ベンジル基、フェニルエチル基、及びフェニルプロピル基等が挙げられる。これらの官能基の水素が部分的にハロゲン原子に置換された官能基の具体例としては、例えば、クロロメチル基、トリフルオロプロピル基、及びブロモメチル基等が挙げられる。
【0032】
なお、上記一般式(1)で表される化合物は、市販のシリコーンモノマー化合物を組み合わせ、公知の重合法、例えば縮重合等によって得ることができる。また、重合度は、重合温度、重合時間及び触媒等の重合条件によって、調節することができる。
【0033】
上記一般式(1)で表される化合物の具体例としては、例えば、下記表1及び表2に記載の式(1−1)〜(1−16)で表される化合物が挙げられる。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
また、上記ポリオルガノシロキサンは、前記のように、芳香族置換基を有していてもよいが、芳香族成分が多くなると、得られた超音波用パッドの硬さが硬くなる傾向があるので、芳香族置換基とアルキル置換基等が任意に配置された化合物が好ましい。
【0037】
本発明に用いるポリエーテルポリオール化合物(B)は、水酸基が2以上あればよく、ポリエーテルポリオール化合物の好ましい具体例としては、例えば、ポリオキシアルキレングリコール等のポリアルキレンオキシポリオール等が挙げられる。このポリアルキレンオキシポリオールのアルキレン基は、置換基を有していてもよい。このアルキレン基の具体例として、例えば、エチレン基、プロピレン基、及びドデシル基等の炭素数1〜16のアルキレン基が挙げられる。また、アルキレン基の有する置換基の具体例としては、水酸基、及びフェニル基等が挙げられ、水酸基が好ましい。また、ポリエーテルポリオール化合物(B)の重合度は、末端の水酸基は、2〜5個であることが好ましい。
【0038】
また、ポリエーテルポリオール化合物(B)が、下記一般式(2)又は下記一般式(3)で表される化合物であることが好ましい。
【0039】
【化5】

【0040】
(式(2)中、nは、3〜26を示し、Rは、水素原子又はメチル基を示し、R及びRは、それぞれ水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示し、R〜Rの少なくとも1つは、水素原子である。)
また、nは、8以上であることがより好ましい。
【0041】
【化6】

【0042】
(式(3)中、mは、0〜24を示す。)
上記一般式(2)で表される化合物の具体例としては、例えば、下記表3に記載のR〜R及びnを有する化合物(2−1〜2−16)が挙げられる。
【0043】
【表3】

【0044】
上記一般式(3)で表される化合物の具体例としては、例えば、下記表4に記載のmを有する化合物(3−1〜3−6)が挙げられる。
【0045】
【表4】

【0046】
なお、前記ポリエーテルポリオール化合物(B)は、上記化合物であれば、市販の化成品を使用することができるが、純度を高めるために、精製させて用いることが好ましい。純度の高いポリエーテルポリオール化合物を用いると、生体安全性が高まる。なお、精製方法としては、いずれの精製方法であってもよく、例えば蒸留等が挙げられる。また、生体安全性を高めるために、市販品の中でも、いわゆるハイグレード品を使用することも好ましい。
【0047】
前記ポリエーテルポリオール化合物(B)の含有量は、前記有機珪素化合物(A)に対して、10〜80質量%であることが好ましい。ポリエーテルポリオール化合物(B)の含有量が少なすぎると、被検体(生体)への密着性が低下し、エコー信号にノイズが入りやすくなる傾向があり。また、多すぎると、引裂き強度が低下する傾向がある。よって、上記含有量であると、密着性がより高く、音響特性がより好適である、密着性と音響特性とのより好ましい両立が可能である。
【0048】
本発明に用いるポリイソシアナート化合物(C)は、イソシアナート基が2以上あればよく、ジイソシアナート化合物であることが好ましい。イソシアナート基が多すぎると、有機珪素化合物(A)やポリエーテルポリオール化合物(B)の水酸基と形成するウレタン結合の高くなりすぎる傾向があり、好ましくない。よって、ポリイソシアナート化合物(C)がジイソシアナート化合物であると、ウレタン結合が好適な架橋密度となるように形成され、超音波プローブ用パッドとしてより好ましい弾性を発揮できる。
【0049】
また、ポリイソシアナート化合物(C)の好ましい具体例は、例えば、ヘキサメチレンジイソシアナート(HMD)、イソホロンジイソシアナート(IPD)、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアナート(DCMD)、メチレンビス(p−フェニル)ジイソシアナート(MBP)、メチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアナート)、トルエンジイソシアナート(TDI)、1,5−ナフタレンジイソシアナート(NPDI)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアナート(DPM)、2,2’−ジメチル−4,4−ジフェニルメタンジイソシアナート、1,3−フェニレンジイソシアナート、1,4−フェニレンジイソシアナート、2,2’−ジクロロ−4,4’−ジイソシアナートジフェニルメタン、2,4−ジブロモ−1,5−ジイソシアナートナフタレン、ブタン−1,4−ジイソシアナート、1,6−ヘキサンジイソシアナート及び1,4−シクロヘキサンジイソシアナートからなる群から選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。また、トルエンジイソシアナートとしては、2,4−トルエンジイソシアナートであっても、2,6−トルエンジイソシアナートであってもよいが、2,4−及び2,6−トルエンジイソシアナートの混合物が好ましい。
【0050】
前記ポリイソシアナート化合物(C)の含有量は、前記有機珪素化合物(A)との質量比(A:C)が、60:40〜98:2であることが好ましい。ポリイソシアナート化合物(C)の含有量が少なすぎると、ポリエーテルポリオール化合物(B)の有機珪素化合物(A)への固定化が困難となる傾向があり。また、多すぎると、超音波プローブ用パッドを脆弱化する傾向がある。よって、上記含有量であると、密着性がより高く、音響特性がより好適である、密着性と音響特性とのより好ましい両立が可能である。
【0051】
本発明の超音波プローブ用パッドは、上記有機珪素化合物(A)とポリエーテルポリオール化合物(B)とをポリイソシアナート化合物(C)によって架橋反応させることによって得られる。例えば、まず、有機珪素化合物(A)とポリエーテルポリオール化合物(B)とポリイソシアナート化合物(C)とをそれぞれ所定量、室温で混合し、ステンレス鋼基材上に塗設して硬化させる。硬化後、ステンレス鋼基材から剥離させることによって、超音波プローブ用パッドが得られる。硬化条件としては、硬化温度が35〜80℃が好ましく、硬化時間が10分間〜3時間が好ましい。また、上記各成分の混合物中の水分を除去しておくことによって、硬化反応の反応率を高めることができるので、硬化前に、混合物を真空乾燥しておくことが好ましい。ステンレス鋼基材は、超音波プローブ用パッドが剥離しやすいように、表面に予めフッ素活性剤を塗布する等の表面処理を施しておくことが好ましい。また、得られた超音波プローブ用パッドは、水等の溶媒に浸漬させて洗浄することが好ましい。さらに、この洗浄としては、加温(35〜60℃)水洗が好ましい。そうすることによって、未反応成分を除去でき、さらに、ポリイソシアナート化合物(C)を分解し無毒化することができる。
【0052】
前記超音波プローブ用パッドの硬さは、ショアA硬度で10〜50であることが好ましく、15以上であることがより好ましい。超音波プローブ用パッドが柔らかすぎると、端面が持ち上がったり、厚さが一定とならないので、精度の高い信号がとりにくくなる傾向があり、また、硬すぎると、被検体(生体)への密着度に不均一が生じ、信号にノイズが入りやすくなる傾向がある。よって、上記の硬さであると、超音波診断に好適な硬さであり、高い密着性も維持できる。
【0053】
なお、ショアA硬度は、一般ゴムの硬さを測定する規格、ISO868に準拠した測定方法によって得られる硬さである。具体的には、被測定物の表面に、押針やインデンタと呼ばれる圧子を押し込み変形させ、その変形量(押し込み深さ)を測定する。この測定は、変形量を数値化することができるデュロメータ(スプリング式ゴム硬度計)を用いる。
【0054】
また、超音波プローブ用パッドの硬さは、例えば、組成比、硬化時間、及び硬化温度等を調整することによって、変化させて、所望の硬さの超音波プローブ用パッドが得られる。
【0055】
前記超音波プローブ用パッドは、有機珪素化合物(A)とポリエーテルポリオール化合物(B)とがポリイソシアナート化合物(C)によって架橋されたシリコーンゴムを含むパッドである。この超音波プローブ用パッドは、ゼリーのような流動性はなく、適度な弾性を有し、形状を保持しており、さらに、適度な音響特性と高い密着性とを発揮できる。
【0056】
また、上記シリコーンゴムは、有機珪素化合物(A)及びポリエーテルポリオール化合物(B)の水酸基と、ポリイソシアナート化合物(C)のイソシアナート基とが反応してウレタン結合が形成されており、ウレタン結合を有するシリコーンゴムである。さらに、ポリエーテルポリオール化合物(B)として、ポリアルキレングリコールを用いた場合、シリコーン−アルキレンオキサイド−ウレタン架橋ポリマーである。
【0057】
また、超音波プローブ用パッドを得るための硬化反応は、上記のようにポリイソシアナート化合物(C)による架橋反応が好ましいが、超音波プローブ用パッドに電子線やX線を照射することによって、新たな架橋を形成させ、この架橋による補強を施してもよい。この架橋方法は、照射する電子線やX線のエネルギーを調節することによって、架橋点を調節できる。よって、ポリイソシアナート化合物(C)による架橋反応によって得られた超音波プローブ用パッドの硬さを調節するのに好ましい。また、このような電子線やX線を照射することによる架橋反応は、未反応物がなくなり、生体安全性が高まる点でも好ましい。
【0058】
また、前記超音波プローブ用パッドの厚みは、0.3〜10mmであることが好ましい。超音波プローブ用パッドが薄すぎると、被検体(生体)へ密着させる操作性が低下する傾向があり、また、厚すぎると、音響整合性がとりにくくなり、信号強度が低下する傾向がある。
【0059】
前記超音波プローブ用パッドは、被検体に超音波を放射し、前記被検体内で反射した超音波を受信する超音波プローブと、前記被検体との間に介在させて使用する。そうすることによって、流動性のある組成物を塗布することなく、超音波プローブの被検体への高い超音波伝播効率を維持でき、鮮明な画像による超音波診断が可能となる。
【0060】
また、ゼリーのような流動性のある組成物を被検体に塗布せずに超音波診断を行うので、超音波診断のたびに、ゼリーの拭き取り作業等を行う必要がなくなるので、作業効率が高まる。さらに、ゼリーの拭き取り作業等による超音波プローブの音響レンズに傷がついてしまうことや、洗浄による圧電素子が損傷してしまうことが少なくなる。
【0061】
さらに、超音波プローブ用パッドは、従来の超音波プローブの被検体との接触部である音響レンズを被覆するように固定して使用してもよい。このようにして得られた超音波プローブは、超音波プローブ用パッドで被覆されているので、超音波プローブの水や洗浄液を用いた洗浄を行っても、超音波プローブ用パッドが水分の透過を抑制でき、洗浄によって圧電素子が損傷してしまうことを防ぐことができる。
【実施例】
【0062】
以下に、本発明の超音波プローブ用パッドについて実施例を挙げて説明する。
【0063】
[実施例A]
まず、本発明の超音波プローブ用パッドが、超音波プローブと被検体との間に介在させる音響媒体として優れていることを示すことについて説明する。また、ポリエーテルポリオール化合物(B)の重合度の好適範囲について説明する。
【0064】
実施例1〜7は、表5に示す配合組成となるように、有機珪素化合物(A)とポリイソシアナート化合物(C)とを室温で混合し、そして、ポリエーテルポリオール化合物(B)を添加する。得られた混合液を、予めフッ素活性剤を塗布したステンレス鋼基材(縦横10cm×10cm、厚さ1.0mm)の上に塗設した後、35℃で1昼夜硬化させ、硬化後、ステンレス鋼基材から剥離して、縦横10cm×10cm、厚さ1.2mmのパッドを得た。
【0065】
また、表1記載の各材料の重合度は、液体ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)によって、求めた数平均分子量Mnから算出した。GPCは、溶媒として、テトラヒドロフラン(THF)溶媒を用い、検出装置として、屈折率検出器を用いて測定した。分子量校正曲線は直鎖状ポリスチレン標品を用いて作成した。なお、比較例1〜3では、本発明で用いるポリエーテルポリオール化合物(B)の代わりに、それぞれ、重合度20のポリアクリル酸(PAA)、重合度22のポリビニルアルコール(PVA)、重合度26のポリビニルピロリドン(PVP)を使用した。
【0066】
上記実施例1〜7及び比較例1〜3に係るパッドを用いて、以下に示す方法により、粘着性、減衰特性、エコー特性の評価を行った。これらの結果を表5に示す。
【0067】
(粘着性)
健康な成人10名(男性5名、女性5名)を選定して、得られたパッドを肩の所定の位置に貼付し、肩の上げ下げ運動を20回繰り返し、パッドの皮膚への付着状態を目視で観察して、パッドの粘着性を以下のA〜Dの4段階で評価した。
【0068】
A:良好(10名全員、剥がれない)
B:ほぼ良好(2名以内に剥がれが発生するが、剥がれた箇所がパッドの隅等の実質的に問題がない箇所である)
C:やや不良(2名以内に剥がれが発生し、肩の上げ下げ運動後、押さえつける等によって付着状態を修正しないと問題となる)
D:不良(2名以上で、パッドの面積の30%以上剥がれており、問題となる)
(減衰特性)
超音波プローブを、得られたパッドに密着させて超音波を放射し、パッドを通過した超音波(エコー)の減衰特性(減衰度合)を岩崎通信機株式会社製オシロスコープDS−8701で測定した。なお、超音波ファントーム(株式会社京都科学製)の腹部上にパッドをセットして測定した。減衰特性は、以下のA〜Dの4段階で評価した。
【0069】
A:0.5dB以下
B:0.5dBより大きく2dB以下
C:2dBより大きく4dB以下
D:4dBより大きい
(エコー特性)
超音波人体ファントームの腹部に、得られたパッドを配置し、3.5MHzのリニアプローブを用いて、パッドが配置された腹部の超音波画像を得た。この得られた超音波画像を、以下のA〜Dの4段階で評価した。
【0070】
A:ゼリーを用いた場合と比較して良好
B:ゼリーを用いた場合と比較してやや良好
C:ゼリーを用いた場合と同等
D:不良
なお、生体安全性は、河合試験法に準拠し、上腕内側部に、得られたパッドを貼付し、24時間後、貼付部位を観察、肉眼的に異常のないものを確認後、パッドを剥離し、剥離したパッドを倍率50倍にて全視野を顕微鏡観察した。刺激の強さに応じてA〜Dの4段階に分けて評価したが、すべてのパッドで正常のA判定を確認した。さらに、皮膚感作性試験であるOECD 406、皮膚一次刺激性試験であるOECD 404に準拠した評価でも、全てのパッドで非刺激性物質であることを確認した。
【0071】
【表5】

【0072】
表5からわかるように、末端に水酸基を有する有機珪素化合物とポリエーテルポリオール化合物とポリイソシアナート化合物とを用いて得られたパッドである(実施例1〜7)は、ポリエーテルポリオール化合物の代わりにPAA、PVA、PVP等を用いたパッド(比較例1〜3)と比較して、粘着性、減衰特性、エコー特性が、全て良好な結果であった。
【0073】
また、ポリエーテルポリオール化合物(B)の重合度n以外は同様である実施例1〜3を比較することによって、ポリエーテルポリオール化合物(B)の重合度nが、3以上が好ましく、8以上がより好ましいことがわかる。さらに、ポリエーテルポリオール化合物(B)の重合度n以外は同様の実施例6と実施例7とを比較することによって、ポリエーテルポリオール化合物(B)の重合度nが、26以下が好ましいことがわかる。
【0074】
[実施例B]
次に、ポリエーテルポリオール化合物(B)の含有量の好適範囲について説明する。
【0075】
実施例8〜14は、表6に示す配合組成となるように、実施例Aと同様の方法で、パッドを作成した。また、得られたパッドを実施例Aと同様の方法で、評価した。これらの結果を表6に示す。
【0076】
【表6】

【0077】
表6からわかるように、実施例Aと同様、末端に水酸基を有する有機珪素化合物とポリエーテルポリオール化合物とポリイソシアナート化合物とを用いて得られたパッドである(実施例8〜14)は、比較例1〜3と比較して、粘着性、減衰特性、エコー特性が、全て良好な結果であった。
【0078】
また、ポリエーテルポリオール化合物(B)の含有量以外は同様である実施例8と実施例9とを比較することによって、ポリエーテルポリオール化合物(B)の含有量が、有機珪素化合物(A)に対して、10質量%以上であることがより好ましいことがわかる。さらに、ポリエーテルポリオール化合物(B)の含有量以外は同様である実施例13と実施例14とを比較することによって、ポリエーテルポリオール化合物(B)の含有量が、有機珪素化合物(A)に対して、80質量%以下であることがより好ましいことがわかる。
【0079】
[実施例C]
次に、ポリエーテルポリオール化合物(B)の重合度の好適範囲についてさらに説明する。
【0080】
実施例15〜19は、表7に示す配合組成となるように、実施例Aと同様の方法で、パッドを作成した。また、得られたパッドを実施例Aと同様の方法で、評価した。これらの結果を表7に示す。
【0081】
【表7】

【0082】
表7からわかるように、実施例Aと同様、末端に水酸基を有する有機珪素化合物とポリエーテルポリオール化合物とポリイソシアナート化合物とを用いて得られたパッドである(実施例15〜19)は、比較例1〜3と比較して、粘着性、減衰特性、エコー特性が、全て良好な結果であった。
【0083】
また、実施例15〜19は、ポリエーテルポリオール化合物(B)の重合度nの好適範囲である3〜26を満たす実施例であり、これらの評価結果は、全てA評価と優れた超音波プローブ用パッドであることがわかる。
【0084】
[実施例D]
次に、得られたパッドのショアA硬度の好適範囲について説明する。
【0085】
実施例20〜26は、表8に示す配合組成、及びショアA硬度となるように、実施例Aと同様の方法で、パッドを作成した。また、得られたパッドを実施例Aと同様の方法で、評価した。これらの結果を表8に示す。
【0086】
【表8】

【0087】
表8の実施例20〜22を比較することによって、ショアA硬度が10以上であることが好ましく、15以上であることがより好ましいことがわかる。また、実施例25と実施例26とを比較することによって、ショアA硬度が50以下であることが好ましいことがわかる。
【0088】
[実施例E]
次に、ポリエーテルポリオール化合物(B)として、上記式(3)に示すポリエーテルポリオール化合物を用いた場合についてさらに説明する。
【0089】
実施例27〜33は、表9に示す配合組成となるように、実施例Aと同様の方法で、パッドを作成した。また、得られたパッドを実施例Aと同様の方法で、評価した。これらの結果を表9に示す。
【0090】
【表9】

【0091】
表9からわかるように、ポリエーテルポリオール化合物(B)として、上記式(3)に示すポリエーテルポリオール化合物を用いた場合(実施例27〜33)であっても、実施例27〜33は、比較例1〜3と比較して、粘着性、減衰特性、エコー特性のいずれか2項目以上で良好な結果を示した。また、重合度p+q+rが、10〜100である有機珪素化合物(A)が使用可能であることを示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に超音波を放射し、前記被検体内で反射した超音波を受信する超音波プローブと、前記被検体との間に介在させる超音波プローブ用パッドであって、
末端に水酸基を有する有機珪素化合物とポリエーテルポリオール化合物とがポリイソシアナート化合物によって架橋されたシリコーンゴムを含むことを特徴とする超音波プローブ用パッド。
【請求項2】
前記有機珪素化合物が、ポリオルガノシロキサンである請求項1に記載の超音波プローブ用パッド。
【請求項3】
前記有機珪素化合物が、下記一般式(1)で表される化合物である請求項1又は請求項2に記載の超音波プローブ用パッド。
【化1】


(式(1)中、p,q,rの合計は、10〜100を示し、R〜Rは、それぞれ炭素数1〜8のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルケニル基、アラルキル基、又はこれらの官能基の水素が部分的にハロゲン原子に置換された官能基を示す。)
【請求項4】
前記ポリエーテルポリオール化合物が、下記一般式(2)又は下記一般式(3)で表される化合物である請求項1〜3のいずれか1項に記載の超音波プローブ用パッド。
【化2】


(式(2)中、nは、3〜26を示し、Rは、水素原子又はメチル基を示し、R及びRは、それぞれ水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示し、R〜Rの少なくとも1つは、水素原子である。)
【化3】


(式(3)中、mは、0〜24を示す。)
【請求項5】
前記ポリエーテルポリオール化合物の含有量が、前記有機珪素化合物に対して、10〜80質量%である請求項1〜4のいずれか1項に記載の超音波プローブ用パッド。
【請求項6】
前記ポリイソシアナート化合物が、ジイソシアナート化合物である請求項1〜5のいずれか1項に記載の超音波プローブ用パッド。
【請求項7】
前記ポリイソシアナート化合物が、ヘキサメチレンジイソシアナート、イソホロンジイソシアナート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアナート、メチレンビス(p−フェニル)ジイソシアナート、メチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアナート)、トルエンジイソシアナート、1,5−ナフタレンジイソシアナート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアナート、2,2’−ジメチル−4,4−ジフェニルメタンジイソシアナート、1,3−フェニレンジイソシアナート、1,4−フェニレンジイソシアナート、2,2’−ジクロロ−4,4’−ジイソシアナートジフェニルメタン、2,4−ジブロモ−1,5−ジイソシアナートナフタレン、ブタン−1,4−ジイソシアナート、1,6−ヘキサンジイソシアナート及び1,4−シクロヘキサンジイソシアナートからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜6のいずれか1項に記載の超音波プローブ用パッド。
【請求項8】
硬さが、ショアA硬度で10〜50である請求項1〜7のいずれか1項に記載の超音波プローブ用パッド。