説明

超音波振動切断工具及びその製造方法

【課題】環状のダイヤモンドブレードが変形しないように共振器に半田で固定できるようにする。
【解決手段】HRC45乃至60なるロックウェル硬さの鉄からなる共振器2が振動本体部3と振動本体部3の外周面から直径方向の外側に突出した振動変換部4と振動変換部4の外周面から直径方向の外側に突出したブレード固定部5とを有し、40乃至500μmの厚さtを有する環状のダイヤモンドブレード11が振動変換部4を取り囲むように共振器2に嵌め込まれ、ダイヤモンドブレード11が共振器2のブレード固定部5に低融点半田15で固定されたことにより、半田付けによる熱的な影響を受けても、鉄からなるブレード固定部5と環状のダイヤモンドブレード11とに伸縮差が生じることがなく、半田付け終了後において、環状のダイヤモンドブレード11が変形しないで共振器2に低融点半田15で固定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状のダイヤモンドブレードを共振器の振動変換部に半田で適切に固定してなる超音波振動切断工具及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1で開示されるように、出願人はダイヤモンドブレードをアルミニウムからなる共振器に半田で固定した超音波振動切断工具を提案した。この提案した超音波振動切断工具では環状のダイヤモンドブレードをアルミニウムからなる共振器のブレード固定部にアルミニウム用半田で固定した構造になっている。この超音波振動切断工具を半導体ウエハからチップを切り出す加工に用いる場合、ダイヤモンドブレードの厚さを40乃至500μmの寸法に形成することが要求される。この40乃至500μmなる厚さの薄い環状のダイヤモンドブレードをアルミニウムからなる共振器の振動変換部に嵌め合いのクリアランスを小さくして同心状となるように嵌合してブレード固定部に種々のアルミニウム用半田で固定することを試みた。しかしながら、アルミニウム用半田の融点が270乃至400℃の範囲であり、半田付けによる熱的な影響により、アルミニウムからなる共振器が環状のダイヤモンドブレードよりも大きく伸縮し、半田付け終了後において、環状のダイヤモンドブレードが変形してしまうという欠点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008‐044043公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明が解決しようとする課題は、環状のダイヤモンドブレードが変形しないように共振器に半田で固定できる超音波振動切断工具及びその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る超音波振動切断工具は、振動本体部と振動本体部の外周面から直径方向の外側に突出した振動変換部と振動変換部のブレード固定部とを有する共振器が鉄からなり、環状のダイヤモンドブレードが振動変換部を囲むように共振器に嵌め込まれてブレード固定部に低融点半田で固定されたことを特徴とする。本発明に係る超音波振動切断工具を製造する方法は、振動本体部と振動本体部の外周面から直径方向の外側に突出した振動変換部と振動変換部の外周面から直径方向の外側に突出したブレード固定部とを有する鉄からなる共振器のブレード固定部に環状のダイヤモンドブレードが低融点半田を介在されてなる積層体がホットプレートに装着され、ホットプレートが低融点半田の溶解温度に応じた加熱状態となるように電気的に加熱制御されることにより、低融点半田がホットプレートから付与された熱で溶融した後に冷却して固化して環状のダイヤモンドブレードをブレード固定部に固定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係る超音波振動切断工具及びその製造方法は、半田付けによる熱的な影響を受けても、鉄からなるブレード固定部と環状のダイヤモンドブレードとに伸縮差が生じることがなく、半田付け終了後において、環状のダイヤモンドブレードが変形しないように共振器に半田で固定できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施の形態に係る超音波振動切断工具を示す正面図。
【図2】実施の形態に係る共振器とタイヤモンドブレードとを示す分解斜視図。
【図3】実施の形態に係る共振器とタイヤモンドブレードとを示す中心線に沿って切断した縦断面図。
【図4】実施の形態に係るタイヤモンドブレードを共振器に低融点半田で固定する方法を示す模式図。
【図5】実施の形態に係るタイヤモンドブレードを共振器に低融点半田で固定する図4と異なる方法を示す模式図。
【図6】実施の形態に係るタイヤモンドブレードを共振器に低融点半田で固定するより以前に行われる前処理の態様による共振器とタイヤモンドブレードとを示す中心線に沿って切断した縦断面図。
【図7】実施の形態に係る超音波振動切断工具にブースタと振動子とを結合した正面図。
【図8】実施の形態に係る回転式の超音波振動切断装置の側面図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1を参照し、超音波振動切断工具1は、鉄からなる共振器2が振動本体部3と振動本体部3の外周面から直径方向の外側に突出した振動変換部4と振動変換部4の外周面から直径方向の外側に突出したブレード固定部5とを有し、環状のダイヤモンドブレード11が振動変換部4を取り囲むように共振器2に嵌め込まれ、ダイヤモンドブレード11が共振器2のブレード固定部5に低融点半田15で固定された構造になっている。
【0009】
図1に示した超音波振動切断工具1では、共振器2として熱膨張率を小さくするため鉄で構成しHRC45乃至60の硬度を採用した。HRCはロックウェル硬さを表す略号である。ダイヤモンドブレード11として、40乃至500μmの厚さtを有するダイヤモンドブレードが用いられた。ダイヤモンドブレード11の厚さtは、共振器2の中心線Lに平行する方向の寸法である。低融点半田15として、溶解温度70乃至175℃の低融点半田15が用いられた。共振器2の振動変換部4の外周面にはブレード嵌合部6が直径方向の外側に突出するように設けられ、環状のダイヤモンドブレード11がブレード嵌合部6に外嵌装着された構造になっている。これにより、40乃至500μmなる厚さの薄い環状のダイヤモンドブレード11を鉄からなる共振器2のブレード嵌合部6に嵌め合いのクリアランスを小さくして同心状となるように嵌合される構造を採用した場合において、半田付けによる熱的な影響を受けても、鉄からなる共振器2と環状のダイヤモンドブレード11とに伸縮差が生じることがなく、半田付け終了後において、環状のダイヤモンドブレード11が変形しなかった。
【0010】
また、40乃至500μmなる厚さの薄い環状のダイヤモンドブレード11を鉄からなる共振器2のブレード嵌合部6に嵌め合いのクリアランスを小さくして同心状となるように嵌合される構造を採用しても、環状のダイヤモンドブレード11が共振器2の一端部から振動変換部4を囲むように嵌め込まれるときに振動変換部4に接触しないように簡単に嵌め込まれ、環状のダイヤモンドブレード11が損傷を受けることがないという利点がある。つまり、ブレード嵌合部6が設けられていない構造でもよいが、その場合には、環状のダイヤモンドブレード11が共振器2の一端部から振動変換部4を囲むように嵌め込まれときに振動変換部4に接触しても損傷を受けることがないように注意しながら嵌め込む必要がある。
【0011】
図2を参照し、共振器2と環状のダイヤモンドブレード11との大まかな構造について説明する。共振器2について説明すると、共振器2は、振動本体部3、振動変換部4、ブレード固定部5、ブレード嵌合部6、部品連結部7、工具嵌合部8を備える。部品連結部7は、共振器2にブースタ又は振動子を結合するためのものであって、スタッドボルトのような連結具を装着するように、振動変換部4の端面から内部に窪むねじ孔として振動本体部3の左右の両端面に設けられる。図2では、振動変換部4の右端面に設けられた部品連結部7だけを図示してある。環状のダイヤモンドブレード11について説明すると、環状のダイヤモンドブレード11は、ブレード嵌合部6に外嵌装着される環状の板状になっている。
【0012】
工具嵌合部8は、共振器2にブースタ又は振動子を結合する場合に図外の工具を嵌め込んで共振器2とブースタ(図7参照)又は振動子(図7参照)とを適切に結合するためのものであって、図2に示すように、振動変換部4の端面から内部に窪む凹部として振動変換部4の左右の両端面に設けられる。図2では、振動変換部4の右端面に設けられた工具嵌合部8だけを図示してある。工具嵌合部8は、振動本体部3の外周面に設けてもよい。
【0013】
図3を参照し、共振器2と環状のダイヤモンドブレード11との詳細な構造について説明する。振動本体部3は、左右のうちの一端より入力される超音波振動に共振する棒状であって、共振周波数の1/2波長の整数倍の長さを有すればよいが、図3には1/2波長のものを例示する。振動本体部3の左右の両端には超音波振動の伝達方向Xに振動する瞬間的な変位(振動振幅)を示す振動波形W1の最大振動振幅点f1;f3が存在し、振動本体部3の中央には振動波形W1の最小振動振幅点f2が存在する。
【0014】
振動変換部4は、振動波形W1の最小振動振幅点f2の位置で振動本体部3の外周面から超音波振動の伝達方向Xに直交する直径方向Yに振動本体部3と同心状に突出し、振動本体部3より大きな直径と最小振動振幅点f2を中心として超音波振動の伝達方向Xの両側に等分に振分けられた幅とを有し、超音波振動の伝達方向Xを軸方向から直径方向Yである直径方向に変換する。伝達方向Xは、共振器2の中心線Lの延びる方向と同じである。直径方向Yに変換された超音波振動の瞬間的な変位(振動振幅)は振動波形W2である。振動波形W2における最大振動振幅点f4;f5は振動変換部4の外周面に存在する。
【0015】
振動変換部4の厚さは、振動本体部3の一端から他端までの厚さよりも小さい。ブレード固定部5は、振動変換部4の外周面より直径方向Yの外側に振動本体部3と同心状に突出する。ブレード固定部5の厚さは、ブレード固定部5より両側における振動変換部4のそれぞれの厚さよりも小さい。ブレード嵌合部6は、振動変換部4の外周面より直径方向Yの外側に突出し、かつ、ブレード固定部5の左右のいずれか一方の端面に連接される。ブレード嵌合部6の厚さは、ブレード嵌合部6の突出された側の振動変換部4の厚さよりも小さい。振動本体部3の厚さ、振動変換部4の厚さ、ブレード固定部5の厚さ、ブレード嵌合部6の厚さは、共振器2の中心線Lに平行する方向の寸法である。
【0016】
環状のダイヤモンドブレード11は、ダイヤモンド電解メッキ法によって多数のダイヤモンド粒子をニッケルからなる金属層で結合した構造になっている。
【0017】
図3において、ブレード嵌合部6の外径をL1とし、ブレード固定部5の外径をL2とし、環状のダイヤモンドブレード11の内径をL3とし、環状のダイヤモンドブレード11の外径をL4とすると、L1<L2、L1≦L3<L2、L2<L4になっている。L1≦L3において、ダイヤモンドブレード11の内径L3を構成する中心孔12がブレード嵌合部6の外径L1を構成する外周面に密接するように嵌め込まれるように構成すれば、環状のダイヤモンドブレード11がブレード嵌合部6に嵌め込まれることにより、環状のダイヤモンドブレード11の中心と共振器2の中心とが一致する同心状になる。
【0018】
図4を参照し、超音波振動切断工具1の製造方法について説明する。超音波振動切断工具1の製造に際し、鉄からなる共振器2と環状のダイヤモンドブレード11と低融点半田15とホットプレート17とが用意される。共振器2及び環状のダイヤモンドブレード11は、図2及び図3に示す態様になっている。低融点半田15は、固い固体または柔らかな糊状である。低融点半田15が固体の場合、環状のダイヤモンドブレード11の内径L3(図3参照)と同径の内径、ブレード固定部5と外径L2(図3参照)と同径の外径を有する。低融点半田15が糊状の場合、ブレード固定部5における環状のダイヤモンドブレード11の側の面、または、環状のダイヤモンドブレード11におけるブレード固定部5の側の面に塗布される。図4において、ホットプレート17には、変換部収容部18及び図外の電熱ヒーターが設けられる。ホットプレート17は、作業台のような設置床面19の上に断熱用の支持台20を介在させつつ水平状に設置されている。
【0019】
そして、超音波振動切断工具1を製造するには、先ず、図4に示すように、共振器2と環状のダイヤモンドブレード11と低融点半田15とからなる積層体がホットプレート17に載せられる。その場合、ブレード固定部5におけるブレード嵌合部6の設けられていない側の端面がホットプレート17における変換部収容部18の周りの上面に接触して支持されるように、振動本体部3の一端部がホットプレート17の上から変換部収容部18に挿入された後、振動変換部4の一端部が変換部収容部18に収容される。それにより、環状のダイヤモンドブレード11の厚さtの方向の端面が共振器2における直径方向Yと平行になるように、環状のダイヤモンドブレード11が低融点半田15を介在させつつブレード固定部5の上に搭載される。
【0020】
次に、図4に示すように、共振器2と環状のダイヤモンドブレード11と低融点半田15とからなる積層体がホットプレート17に装着された後、ホットプレート17における図外の電気ヒーターが電力供給により加熱される。その場合、ホットプレート17における図外の電気ヒーターへの電力供給は、ホットプレート17が低融点半田15の溶解温度に応じた加熱状態となるように制御される。それにより、低融点半田15がホットプレート17から付与された熱で溶融した後に冷却して固化して環状のダイヤモンドブレード11をブレード固定部5に固定する。つまり、環状のダイヤモンドブレード11を鉄からなる共振器2のブレード固定部5に低融点半田15で固定した図1に示す構造の超音波振動切断工具1が製造される。
【0021】
図4には図示をしていないが、上記共振器2と環状のダイヤモンドブレード11と低融点半田15とからなる積層体がホットプレート17に装着されから低融点半田15がホットプレート17の熱で溶融され始めるまでの間において、環状の重石を共振器2の上方から上側の振動本体部3及び上側の振動変換部4を経由しつつブレード嵌合部6に外嵌装着して環状のダイヤモンドブレード11の上に載せれば、環状のダイヤモンドブレード11がブレード固定部5に近接して低融点半田15で固定される。
【0022】
図5を参照し、図4と異なる超音波振動切断工具1の製造方法について説明する。超音波振動切断工具1の製造に際し、鉄からなる共振器2と環状のダイヤモンドブレード11と低融点半田15とホットプレート17とが用意される。共振器2及び環状のダイヤモンドブレード11は、図2及び図3に示す態様になっている。低融点半田15は、固い固体または柔らかな糊状である。低融点半田15が固体の場合、環状のダイヤモンドブレード11の内径L3(図3参照)と同径の内径、ブレード固定部5の外径L2(図3参照)と同径の外径を有する。低融点半田15が糊状の場合、ブレード固定部5における環状のダイヤモンドブレード11の側の面、または、環状のダイヤモンドブレード11におけるブレード固定部5の側の面に塗布される。図5において、ホットプレート17には、嵌合部収容部21及び図外の電熱ヒーターが設けられる。ホットプレート17は、作業台のような設置床面19の上に断熱用の支持台20を介在させつつ水平状に設置されている。
【0023】
そして、超音波振動切断工具1を製造するには、先ず、図5に示すように、共振器2と環状のダイヤモンドブレード11と低融点半田15とからなる積層体がホットプレート17に載せられる。その場合、環状のダイヤモンドブレード11がホットプレート17における嵌合部収容部21の周りの上面に接触して支持されるように、振動本体部3の他端部がホットプレート17の上から嵌合部収容部21に挿入された後、ブレード嵌合部6が嵌合部収容部21に収容される。それにより、環状のダイヤモンドブレード11の厚さtの方向の端面が共振器2における直径方向Yと平行になるように、ブレード固定部5が低融点半田15を介在させつつ環状のダイヤモンドブレード11の上に搭載される。
【0024】
次に、図5に示すように、共振器2と環状のダイヤモンドブレード11と低融点半田15とからなる積層体がホットプレート17に装着された後、ホットプレート17における図外の電気ヒーターが電力供給により加熱される。その場合、ホットプレート17における図外の電気ヒーターへの電力供給は、ホットプレート17が低融点半田15の溶解温度に応じた加熱状態となるように制御される。それにより、共振器2が重石として機能し、低融点半田15がホットプレート17から付与された熱で溶融した後に冷却して固化して環状のダイヤモンドブレード11をブレード固定部5に固定する。つまり、環状のダイヤモンドブレード11を鉄からなる共振器2のブレード固定部5に低融点半田15で固定した図1に示す構造の超音波振動切断工具1が製造される。
【0025】
図5において、嵌合部収容部21の代わりに図4に示す変換部収容部18を設けても適用可能である。その場合、ブレード嵌合部6の中心線Lに平行する方向の厚さを環状のダイヤモンドブレード11の厚さt(図1参照)よりも小寸法に設定することにより、環状のダイヤモンドブレード11がホットプレート17の上面に接触して支持されるようになる。
【0026】
要するに、図4及び図5に示す超音波振動切断工具1を製造する方法は、振動本体部3と振動本体部3の外周面から直径方向Yの外側に突出した振動変換部4と振動変換部4の外周面から直径方向Yの外側に突出したブレード固定部5とを有する鉄からなる共振器2のブレード固定部5に環状のダイヤモンドブレード11が低融点半田15を介在されてなる積層体がホットプレート17に装着され、ホットプレート17が低融点半田15の溶解温度に応じた加熱状態となるように電気的に加熱制御されることにより、低融点半田15がホットプレート17から付与された熱で溶融した後に冷却して固化して環状のダイヤモンドブレード11をブレード固定部5に固定することを特徴とする方法である。
【0027】
図4及び図5に示す超音波振動切断工具1を製造する方法によれば、共振器2を構成する鉄としてHRC45乃至60なるロックウェル硬さの鉄が用いられ、ダイヤモンドブレード11として40乃至500μmの厚さtを有するダイヤモンドブレード11が用いられ、低融点半田15として溶解温度70乃至175℃の低融点半田15が用いられたことにより、半田付けによる熱的な影響を受けても、鉄からなるブレード固定部5と環状のダイヤモンドブレード11とに伸縮差が生じることがなく、半田付け終了後において、環状のダイヤモンドブレード11が変形しなかった。
【0028】
図1に示す超音波振動切断工具1が図4又は図5に示す工程を経て製造された後、当該超音波振動切断工具1を図外の心出装置に取り付けて環状のダイヤモンドブレード11の心出しが行われる。それには、超音波振動切断工具1が図4又は図5のホットプレート17から取り出されて心出装置の回転機構に装着される。その場合、図1における部品連結部7の一方又は両方を利用して共振器2を心出装置の回転機構で片側から支持するように又は両側から支持するように、共振器2の振動本体部3が心出装置の回転機構に装着される。その状態において、心出装置の回転機構がモーターで駆動された後、心出装置における砥石のような研磨材が回転駆動する環状のダイヤモンドブレード11の直径方向Yの外側から環状のダイヤモンドブレード11の外周面に接触される。それにより、環状のダイヤモンドブレード11が図1に示す共振器2の中心線Lを中心とした円形となるように心出しされる。
【0029】
なお、ダイヤモンドブレード11とブレード嵌合部6との嵌め合いのクリアランスを小さくしても、環状のダイヤモンドブレード11が鉄からなる共振器2に低融点半田15で固定される際に、ダイヤモンドブレード11が歪を起こすこともなく変形もしないので、上記心出しの作業時間が短時間になる。また、環状のダイヤモンドブレード11がブレード嵌合部6の外周面に密接して嵌め込まれるように、ダイヤモンドブレード11とブレード嵌合部6との嵌め合いのクリアランスを最小に設定すれば、環状のダイヤモンドブレード11がブレード嵌合部6に嵌め込まれることにより、環状のダイヤモンドブレード11の中心と共振器2の中心とが一致する同心状になるので、上記心出しの作業は不要になる。
【0030】
図6を参照し、環状のダイヤモンドブレード11を共振器2に半田付けするよりも以前において、環状のダイヤモンドブレード11の半田付けを行う面と共振器2のブレード固定部5の半付けを行う面とに、錫メッキ22;23を付ける前処理について説明する。この図6に示す前処理は、図4又は図5に示す環状のダイヤモンドブレード11を共振器2に低融点半田15で固定する以前において行っても行わなくてもよい。製造工程が増えるものの、錫メッキ22;23を行えば、図4又は図5に示す工程において低融点半田15が環状のダイヤモンドブレード11と共振器2のブレード固定部5とに馴染みやすくなる。
【0031】
図7を参照し、超音波振動切断工具1が超音波振動切断加工に供される形態について説明する。共振器2の一端にはブースタ25がスタッドボルトのような連結具26により結合され、ブースタ25の一端には振動子27がスタッドボルトのような連結具28により結合される。ブースタ25は、音響特性の良い金属からなり、振動子27から伝達された超音波振動に共振する1/2波長の整数倍の長さを有すればよいが、図7には1波長のものを例示する。ブースタ25の両端部には、振動波形W1の最大振動振幅点f11;f15が存在する。共振器2とブースタ25とが、スタッドボルトのような連結具26により結合された場合、1つの共振器2を構成する。ブースタ25は前後の支持部29及び図外の工具嵌合部を備える。支持部29はブースタ25の最小振動振幅点f12;f14の位置でブースタ25の外側面より直径方向Yの外側に突出する環状になっている。
【0032】
そして、支持部29が超音波振動回転機構31(図8参照)で支持された状態において、振動子27に電気エネルギーで超音波振動を発生させると、超音波振動が振動子27からブースタ25を経由して共振器2に伝達され、共振器2が振動子27から伝達された超音波振動に共振し、環状のダイヤモンドブレード11の外周面が矢印Yで示す直径方向に振動する。この環状のダイヤモンドブレード11の外周面が直径方向に振動することは、振動変換部4からの突出量により決まる。環状のダイヤモンドブレード11の直径が振動変換部4の直径よりも大きすぎると、環状のダイヤモンドブレード11の外周面は矢印X方向への振動も生じてしまうので、環状のダイヤモンドブレード11の直径は振動変換部4の直径を基に刃先が矢印Y方向にのみ振動する範囲内に定められる。例えば、共振周波数が18乃至55kHz、環状のダイヤモンドブレード11のブレード固定部5よりも直径方向Yの外側に突出した刃高を0.2乃至20mm、環状のダイヤモンドブレード11の外周面の振動振幅が30μm以下のゼロを含まない範囲で使用した。図7において、共振器2とブースタ25とがスタッドボルトのような連結具26で結合されることなく単一の金属材から構成された形態の共振器2でもよい。
【0033】
図8を参照し、超音波振動切断工具1を用いた切断加工について説明する。切断対象部材としてのICなどの組込まれた半導体ウエハ34を複数のベアチップと呼ばれるさいころ状の半導体チップに切断するような切断加工を例として説明する。図7に示すブースタ25及び振動子27が図8に示す超音波振動切断装置30の超音波振動回転機構31の内部に同心状に組込まれ、ブースタ25の前後の図7に示す支持部29が図8に示す超音波振動回転機構31に取り付けられ、超音波振動切断工具1の図1に示す環状のダイヤモンドブレード11が図8に示す超音波振動回転機構31の外側に配置される。また、超音波振動切断装置30の搭載台32に半導体ウエハ34が固定される。
【0034】
そして、超音波振動回転機構31と超音波振動切断装置30の3軸駆動機構33と図7の振動子27とが動作し、環状のダイヤモンドブレード11が一方向に回転すると共に超音波振動に共振しつつ前後左右上下方向の直線移動により四角形の軌跡を描くことによって、その四角形の1回の軌跡において、環状のダイヤモンドブレード11が半導体ウエハ34に対する一方向の1回の切断が実行される。この3軸駆動機構33による四角形の軌跡を描く移動が繰返されることにより、半導体ウエハ34が複数の帯状に切断される。この帯状の切断が完了すると、搭載台32が水平方向に90度回転して停止し、超音波振動回転機構31に対する半導体ウエハ34の向きを水平面内で90度変化させる。その状態において、超音波振動回転機構31と3軸駆動機構33と図7の振動子27との動作が再開し、環状のダイヤモンドブレード11が帯状の半導体ウエハ34を複数のさいころ状に切断することにより、1つの半導体ウエハ34に対する切断作業が終了する。
【符号の説明】
【0035】
1は超音波振動切断工具、2は共振器、3は振動本体部、4は振動変換部、5はブレード固定部、6はブレード嵌合部、7は部品連結部、8は工具嵌合部、9;10は欠番、11はダイヤモンドブレード、12は中心孔、13;14は欠番、15は低融点半田、16は欠番、17はホットプレート、18は変換部収容部、19は設置床面、20は支持台、21は嵌合部収容部、22;23は錫メッキ、24は欠番、25はブースタ、26は連結具、27は振動子、28は連結具、29は支持部、30は超音波振動切断装置、31は超音波振動回転機構、32は搭載台、33は3軸駆動機構、34は半導体ウエハ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動本体部と振動本体部の外周面から直径方向の外側に突出した振動変換部と振動変換部の外周面から直径方向の外側に突出したブレード固定部とを有する共振器が鉄からなり、環状のダイヤモンドブレードが振動変換部を囲むように共振器に嵌め込まれてブレード固定部に低融点半田で固定されたことを特徴とする超音波振動切断工具。
【請求項2】
共振器の振動変換部の外周面には環状のダイヤモンドブレードを外嵌装着するためのブレード嵌合部が直径方向の外側に突出しかつブレード固定部の左右のいずれか一方の端面に連接されて設けられたことを特徴とする請求項1記載の超音波振動切断工具。
【請求項3】
共振器を構成する鉄としてHRC45乃至60なるロックウェル硬さの鉄が用いられたことを特徴とする請求項1記載の超音波振動切断工具。
【請求項4】
環状のダイヤモンドブレードとして40乃至500μmの厚さを有する環状のダイヤモンドブレードが用いられたことを特徴とする請求項1記載の超音波振動切断工具。
【請求項5】
低融点半田として溶解温度70乃至175℃の低融点半田が用いられたことを特徴とする請求項1記載の超音波振動切断工具。
【請求項6】
振動本体部と振動本体部の外周面から直径方向の外側に突出した振動変換部と振動変換部の外周面から直径方向の外側に突出したブレード固定部とを有する鉄からなる共振器のブレード固定部に環状のダイヤモンドブレードが低融点半田を介在されてなる積層体がホットプレートに装着され、ホットプレートが低融点半田の溶解温度に応じた加熱状態となるように電気的に加熱制御されることにより、低融点半田がホットプレートから付与された熱で溶融した後に冷却して固化して環状のダイヤモンドブレードをブレード固定部に固定することを特徴とする請求項1に記載の超音波振動切断工具を製造する方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−11534(P2012−11534A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−153381(P2010−153381)
【出願日】平成22年7月5日(2010.7.5)
【出願人】(000143455)株式会社高田工業所 (14)
【Fターム(参考)】