説明

超音波振動子及びその製造方法

【課題】超音波振動子の歩留まりの向上に加え小型化及び高出力化を図る。
【解決手段】本発明の超音波振動子1は、正極端子板15、17、圧電素子8〜11及び負極端子板14、16、18を同軸的に配置して積層一体化した圧電素子ユニット28と、導電性ロッド35と、を備える。正極端子板15、17は、第1の貫通穴15aを有する。圧電素子8〜11は、第1の貫通穴15aより大径の第2の貫通穴8aを有する。負極端子板14、16、18は、第1の貫通穴15aより大径の第3の貫通穴14aを有する。導電性ロッド35は、第2、第3の貫通穴8a、14aより小さく、第1の貫通穴15aより大きい外径を有する。さらに、導電性ロッド35は、第1〜第3の貫通穴15a、8a、14aを貫通すると共に第2、第3の貫通穴8a、14aの周縁部8b、14bとは非接触で、かつ第1の貫通穴15aの周縁部15bと外径部分35aで接触する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子の電気歪みにより超音波振動を発生させる超音波振動子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ランジュバン型の超音波振動子は、例えば、円環状の複数の圧電素子と正極、負極の端子板とを交互に積層して一体化した圧電素子ユニットが、金属ブロックからなる前面板と裏打板との間に配置されたかたちで構成されている。また、この種の超音波振動子は、圧電素子ユニットの軸心に挿通させたボルトによって、圧電素子ユニットと共に前面板及び裏打板を一体的に締結したボルト締め構造を持つものが広く知られている。
【0003】
ところで、このような構造の超音波振動子は、圧電素子ユニットの周面が外部に露出する構造となるため、正負の端子板間の短絡が生じ易いことや、また圧電素子ユニットの組付位置と重なるノード位置に把持構造を設けることが難しい点で課題を有している。
【0004】
そこで、正負の電極を含む圧電素子ユニットの周面が外部に露出しない構造の超音波振動子が提案されている。すなわち、この超音波振動子は、固定ボルトと締結される雌ねじの形成された開口溝(凹部)の内壁面に、一組の引出し溝を軸方向に沿って形成し、さらに開口溝内に収容される圧電素子ユニット上の電極に一端が各々接続された一組の取出し電極片を、引出し溝を通じて外部に引き出す構造を有する(例えば特許文献1参照)。
【0005】
また、ホーンとねじ止めされるハウジング内に収容した積層型圧電体の側面に外部電極を設け、さらにこの外部電極に導線を接続した金属板を接触させると共に前記の導線をハウジングの外部に引き出すようにした超音波振動子を内蔵する外科手術用のハンドピースなども知られている(例えば特許文献2参照)。
【0006】
さらにこの他、未焼成の複数の圧電セラミックと、圧電セラミック間に介在させた導体層と、圧電セラミック中央の貫通穴内に流入した電極配線用の導電物質と、を一体焼成して得た圧電素子ユニットを内蔵する超音波振動子も開発されている。
【特許文献1】特許第3914050号公報
【特許文献2】特開2004−160081号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した特許文献1の構造は、引出し溝を形成するためのスペースを超音波振動子本体の主に径方向(筐体の肉厚方向)に確保する必要があり、超音波振動子のさらなる小径化や、また、大径の圧電素子を適用することによる超音波振動子の高出力化を図る上での阻害要因となる。
【0008】
一方、特許文献2の構造は、積層型圧電体の周面上に外部電極や金属板を配置するスペースを確保するために、積層型圧電体に切欠部を形成する必要があり、この切欠部の体積分、圧電素子の有効体積が減少することになる。したがって、このような構造は、前記同様、製品の高出力化や小径化を妨げる要因となる。ここで、上記の外科手術用のハンドピースなどに例示される医療用途の製品では、特に、小型、小径の超音波振動子の開発が強く要望されている。
【0009】
また、貫通穴内の導電物質などを圧電セラミックと共に一体焼成するタイプの超音波振動子の場合、上記導電物質の乾燥、焼成の際などに例えば断線が生じる可能性があり、歩留まりの向上を図るためには、詳細な条件設定が必要となる。
【0010】
そこで本発明は、このような課題を解決するためになされたもので、小型化及び高出力化を図れることに加え、歩留まりを高めることが可能な超音波振動子及びその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明に係る超音波振動子は、第1の貫通穴を有する一方の極性用の電極板と、前記第1の貫通穴より大径の第2の貫通穴を有する圧電素子と、前記第1の貫通穴より大径の第3の貫通穴を有する他方の極性用の電極板と、を同軸的に配置して積層一体化した圧電素子ユニットと、前記第2及び第3の貫通穴より小さくかつ前記第1の貫通穴より大きい外径を有し、前記第1ないし第3の各貫通穴を貫通すると共に前記第2及び第3の貫通穴の周縁部とは非接触でかつ前記第1の貫通穴の周縁部と外径部分で接触するリード部材と、を具備することを特徴とする。
【0012】
上記構成を有する本発明は、リード部材に対し非接触に配置した他方の極性用の電極板を例えばアース接続することなどにより他方の極性の電極の配線を行うと共に、一方の極性用の電極板と第1の貫通穴の周縁部を通じて接触するリード部材で一方の極性の電極の配線を行うことによって、各極性の電極の配線を実現することができる。すなわち、本発明では、圧電素子ユニットの内部にリード部材を接触状態や非接触状態で挿通させるためのスペースやアース接続のためのスペースなどを確保することで、圧電素子への駆動電力供給用の配線を行うことができる。
【0013】
したがって、本発明によれば、この電力供給用の配線を比較的小さいスペースの中で実現できるので、超音波振動子の小型化や、また、大径の圧電素子を適用することによる超音波振動子の高出力化を図ることができる。さらに、本発明によれば、例えば流動性を有する導電物質を加熱固化して配線構造を形成する場合などと異なり、前記の加熱固化時に生じ得る断線などを懸念する必要性がなくなり、これにより、歩留まりの向上を図ることができる。
【0014】
また、本発明に係る超音波振動子の製造方法は、第1の貫通穴を有する一方の極性用の電極板と、前記第1の貫通穴より大径の第2の貫通穴を有する圧電素子と、前記第1の貫通穴より大径の第3の貫通穴を有する他方の極性用の電極板と、を同軸的に配置して積層一体化した圧電素子ユニットを形成するユニット形成工程と、前記ユニット形成工程を経た後、前記第2及び第3の貫通穴より小さくかつ前記第1の貫通穴より大きい外径を有するリード部材を、前記第2及び第3の貫通穴の周縁部とは非接触な状態でかつ前記第1の貫通穴の周縁部と外径部分を接触させる状態で、前記第1ないし第3の各貫通穴内に貫通させる貫通工程と、前記リード部材を貫通させた前記圧電素子ユニットを両側から挟み込む位置に、リード部材引出用の第4の貫通穴が一方に形成された一対の挟持部材を配置しつつ、前記一対の挟持部材と協働して前記圧電素子ユニットを包囲する位置にカバー部材を配置する共に、前記第4の貫通穴から前記リード部材を外部に引き出す部材配置工程と、前記部材配置工程にて配置された前記一対の挟持部材を通じて前記圧電素子ユニットが加圧される状態で、前記一対の挟持部材と前記カバー部材とを固定する部材固定工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
このように本発明によれば、小型化及び高出力化を図れることに加え、歩留まりを高めることが可能な超音波振動子及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づき説明する。
[第1の実施の形態]
図1は、本発明の実施形態に係る超音波振動子1の分解斜視図であり、図2は、超音波振動子1を部分的に断面で示す正面図である。また、図3は、超音波振動子1を分解しその一部を断面で示す正面図である。
【0017】
図1〜図3に示すように、本実施形態の超音波振動子1は、超音波メスや超音波歯石除去器などの把持タイプ(ハンドリングタイプ)の超音波応用機器の振動源として用いられるランジュバン型の超音波振動子である。すなわち、この超音波振動子1は、圧電素子8〜11を備える圧電素子ユニット28と、一対の挟持部材としての前面板2及び裏打板3と、カバー部材である側面板12と、から主に構成されている。
【0018】
前面板2及び裏打板3は、図1〜図3に示すように、チタン(Ti)、チタン合金、ステンレス鋼などを材料とする円柱状の金属ブロックで形成されている。また、側面板12は、チタン、チタン合金、ステンレス鋼などの材料を用いて筒状(円筒状)に形成されている。さらに、圧電素子8〜11を有する圧電素子ユニット28は、一方の挟持部材である裏打板3と他方の挟持部材である前面板2との間に挟持されている。
【0019】
詳細には、圧電素子ユニット28は、図2、図3に示すように、超音波振動子1本体の振動軸に沿った方向、すなわち、圧電素子8〜11が駆動時に伸縮する方向(個々の圧電素子の厚さ方向)から、前面板2と裏打板3とによって挟持されている。側面板12は、図1、図2に示すように、前面板2及び裏打板3と協働しつつ圧電素子ユニット28を包囲した状態で、前面板2及び裏打板3に各々ねじ止めされている。
【0020】
また、本実施形態の超音波振動子1の全長は、当該超音波振動子1本体の共振周波数の1/2波長、又は3/2波長の長さにほぼ一致するように形成されている(本実施形態では超音波振動子1の全長は例えば27.5mmである)。
【0021】
超音波振動子1の先端側を構成する前面板2は、図1〜図3に示すように、その先端側から基端(後端)側に向かう順に、小径(例えば直径2mm)の円柱部2cと、中径の円柱部2dと、大径(例えば直径4mm)の円柱部2eと、円柱状の挿入部2aと、が各々の軸方向(振動軸)に沿って連成されている。円柱部2cは、円柱部2dや円柱部2eよりも長く形成されており、最先端面が振動放射面7として機能する。なお、本実施形態では、円柱部2eが4mmの前面板2を備えた超音波振動子1を例示しているが、本実施形態と同一の構成を適用して、前面板2の円柱部2eを例えば直径2.5mmまで小径化した超音波振動子1を作製することも可能である。
【0022】
前面板2の挿入部2aは、図2に示すように、円柱部2eよりも小径に構成されており、筒状の側面板12の他方の開口部分12aから(開口部分12aにおける周縁部12c内に)挿入された態様で組み付けられている。具体的には、図1〜図3に示すように、挿入部2aの先端側(円柱部2e側)の周面には、雄ねじ2bが形成されており、この雄ねじ2bは、筒状の側面板12の内壁面に形成された後述する雌ねじ12eと締結される。
【0023】
また、前面板2における上記円柱部2eの後端面(基端面)の近傍は、本実施形態の超音波振動子1のノード位置(振動節の位置)となる。なお、前面板2は、上述した形状に限定されるものではなく、例えば先端側を円錐台形状としたものなどを適用することが可能である。
【0024】
一方、図1〜図3に示すように、超音波振動子1の基端(後端)側を構成する裏打板3は、全体として円柱状に形成されている。裏打板3は、その軸方向の先端部分及び中央部分を含む部位が挿入部3aとして構成され、さらに第4の貫通穴としての導電性ロッド引出穴3cが裏打板3本体の軸芯に沿って穿孔されている。裏打板3の挿入部3aは、筒状の側面板12の一方の開口部分12bから(開口部分12bにおける周縁部12d内に)挿入された態様で組み付けられている。詳細には、挿入部3aの後方側を含む裏打板3本体の基端側の周面には、雄ねじ3bが形成されており、この雄ねじ3bは、筒状の側面板12の内壁面に形成された雌ねじ12eと締結される。
【0025】
また、図1〜図3に示すように、裏打板3が備える導電性ロッド引出穴3cは、圧電素子ユニット28に接続された後述する導電性ロッド35(の一端部35b側)を超音波振動子1本体内から外部に引き出すために設けられている。より具体的には、導電性ロッド引出穴3cは、裏打板3本体の先端面側(圧電素子ユニット28側)から後端(基端)面側に向けて、裏打板3本体の軸芯に沿って直線的に穿孔されている。
【0026】
ここで、図2、図3に示すように、導電性ロッド引出穴3cが裏打板3の軸芯(中心軸)に沿って穿孔されていることや、また、後に詳述する導電性ロッド35が棒状の金属材料で構成されていることから、裏打板3をねじ込む際の導電性ロッド35のねじれや断線などが阻止される。なお、このような導電性ロッド引出穴3cの少なくとも後端部側は、図1に示すように、例えば六角レンチなどの工具を係合させる(筒状の側面板12側に裏打板3をねじ込む)ために六角穴などの角穴で構成されている。
【0027】
また、筒状(円筒状)の側面板12の内壁面には、上述したように、雌ねじ12eが形成されている。側面板12の他端部に締結される前面板2は、図2に示すように、大径部12cの後端面と側面板12の先端面とが接触(当接)する位置までねじ込まれる。また、側面板12の一端部に締結される裏打板3は、前述した前面板2及び当該裏打板3から圧電素子8〜11に加わる挟持力を可変(前面板2に対する裏打板3の軸方向の離間距離を可変)させ、これに伴い変動する当該圧電素子からの出力をモニタ(静電容量を確認)しつつ、ねじ込みが行われる。すなわち、予め定めた出力値が圧電素子8〜11(圧電素子ユニット28)より得られたときに、裏打板3をその位置に固定するようにねじ込みを停止させる。これにより、超音波振動子1から所望の振動特性を得ることができる。
【0028】
ここで、側面板12の雌ねじ12eは、前面板2の雄ねじ2b及び裏打板3の雄ねじ3bと、実質的に締結される部位にのみ形成されるものであってもよい。つまり、側面板12において、圧電素子ユニット28が収容される領域部分などについては、雌ねじの形成を省略することが可能である。
【0029】
次に、本実施形態の超音波振動子1に内蔵される圧電素子ユニット28の構造を、上述した図1〜図3に加え、図4〜図8に基づき詳述する。ここで、図4は、超音波振動子1に内蔵された圧電素子ユニット28の構造を示す斜視図であり、図5は、その断面図である。また、図6は、圧電素子ユニット28を構成する圧電素子8〜11、正極端子板15、17及び負極端子板14、16、18の構造を示す平面図である。さらに、図7は、圧電素子8〜11の構造を示す斜視図であり、図8は、正極端子板15、17の貫通穴15aに導電性ロッド35が挿入(圧入)されている状態を示す断面図である。
【0030】
図4〜図7(及び図2、図3)に示すように、圧電素子ユニット28は、円環状(リング状)の複数の圧電素子8〜11と、正極用、負極用の電極板である円環状の正極端子板15、17及び負極端子板14、16、18と、を主に備える。また、圧電素子ユニット28の周面上には、絶縁層32及び導電層(導体層)34が形成されている。圧電素子ユニット28は、上記正極端子板15、17及び負極端子板14、16、18からなる複数の電極板と、同一構造の複数の圧電素子8〜11と、が例えばエポキシ樹脂製の接着剤などを介して交互に積層されたかたちで一体化されている。
【0031】
円環状の圧電素子8〜11は、図2〜図7に示すように、中心部に微細な貫通穴(正極端子板15、17の後述する第1の貫通穴15aより大径の第2の貫通穴)8aをそれぞれ有し、例えば外径2.5mm、内径(貫通穴8aの穴径)0.7mm、厚さ1mmで形成されている。また、圧電素子8〜11は、図7に示すように、各主面(両端面)にそれぞれ正極側電極層8c、負極側電極層8dが形成されている。すなわち、圧電素子8〜11の製法は、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を構成材料として適用し、プレス成形及び焼成後、各主面に導電ペーストを塗布し、さらに油中分極処理を施すことで厚さ方向に分極させる。その後、所望の形状になるように研削及び研磨を行い、さらに各主面に銀(Ag)蒸着を施すことで、図7に示すように、正極側電極層8c及び負極側電極層8dを有する圧電素子8〜11が形成される。
【0032】
ここで、圧電素子ユニット28は、図5に示すように、隣り合う圧電素子どうしの正極、負極の位置関係が逆になるように交互に積層配置されている。また、後述するように、個々の圧電素子の電極の引き出しは、正極どうし、負極どうしが接続され、これにより、圧電素子ユニット28内の複数の圧電素子8〜11は、電気的に並列に接続される。
【0033】
なお、圧電素子8〜11は、上記製法によって得られたものに限定されるものではない。例えば厚さ方向に分極された板状の圧電素子の素材から、超音波加工などの切り出し加工によって、所望の形状の圧電素子を切り出すことも可能である。また、未焼成の成形体の各主面(各端面)に導電ペーストを塗布し、さらに積層一体化した後、焼成及び分極処理を施して圧電素子を得ることも可能である。
【0034】
ここで、圧電素子ユニット28における電極の配線構造について詳述する。すなわち、正極端子板15、17は、図2〜図6に示すように、ベリリウム銅などを用いて薄板状に形成されており、中心部に例えば穴径0.4mmで穿孔された貫通穴(圧電素子8〜11の第2の貫通穴8aより小径の第1の貫通穴)15aを有する。さらに、正極端子板15、17には、図6に示すように、貫通穴15aの周縁部15bから外径側に放射状(十字状)に延びる例えば長さ50〜500μmの複数のスリット(4つの切り込み)15cが切断加工によって形成されている。一方、負極端子板14、16、18は、図2〜図6に示すように、上記ベリリウム銅などを材料として薄板状に形成されており、貫通穴15aより大径の貫通穴(圧電素子8〜11の第2の貫通穴8aとほぼ同径で僅かに大きい第3の貫通穴)14aが中心部に穿孔されている。
【0035】
すなわち、圧電素子ユニット28は、図2〜図6に示すように、貫通穴15aを有する正極端子板15、17と、正極端子板15、17の貫通穴15aより大径の貫通穴8aを有する圧電素子8〜11と、正極端子板15、17の貫通穴15aより大径の貫通穴14aを有する負極端子板14、16、18と、を同軸的(これらの部材の軸心にある各貫通穴を同軸的)に配置して積層一体化されている。
【0036】
また、全体として円筒状に形成された圧電素子ユニット28の軸心には、図2〜図5に示すように、円柱状の導電性ロッド35が、圧電素子ユニット28(超音波振動子1)の基端(後端)側から先端側へ向けて挿入(部分的に圧入)されている。導電性ロッド35は、いわゆるSUS材などのステンレス鋼を材料として例えば直径0.5mmの棒状に形成されたものであり、導電性に加え比較的高い剛性を持つリジットなリード部材(金属ロッド)である。
【0037】
ここで、このような導電性ロッド35の外径は、図4、図5、図8に示すように、負極端子板14、16、18の貫通穴14a及び圧電素子8〜11の貫通穴8aよりも小さく、かつ正極端子板15、17の貫通穴15aよりも大きく構成されている。さらに、この導電性ロッド35は、(負極端子板16、18の)貫通穴14a、(圧電素子9〜11の)貫通穴8a及び(正極端子板15、17の)貫通穴15aを貫通すると共に、負極端子板14、16、18の貫通穴14aの周縁部14b及び圧電素子8〜11の貫通穴8aの周縁部8bとは非接触でかつ正極端子板15、17の貫通穴15aの周縁部15bと外径部分35aで接触する。これにより、導電性ロッド35は、正極端子板15、17どうし(正極端子板のみ)を接続して正極側の配線を実現する。
【0038】
この配線構造において、図6に示すように、正極端子板15、17の貫通穴15aの周縁部15bにスリット15cが形成されていることで、図8に示すように、導電性ロッド35の矢印X1方向への挿入時に貫通穴15aの周縁部15bが変形し機械的負荷が低減される。これにより、正極端子板15、17の貫通穴15a内に導電性ロッド35を容易に挿入(圧入)することが可能となる。さらに、正極端子板15、17における貫通穴15aの周縁部15bに導電ペースト、半田、導電性接着剤などを配置しておきで、導電性ロッド35と正極端子板15、17との接続信頼性を高めるようにしてもよい。
【0039】
なお、負極端子板14、16、18の貫通穴14a、圧電素子8〜11の貫通穴8a、正極端子板15、17の貫通穴15aの穴径サイズの関係は、図5、図6に示すように、貫通穴14a>貫通穴8a>貫通穴15aの順に大、中、小となっている。ここで、貫通穴14aよりも貫通穴8aの穴径を(僅かに)小さくしている理由は、圧電素子8〜11上における貫通穴8aの外周縁近傍の領域には、一般に短絡防止のために正極側電極層8c(及び負極側電極層8d)を積層しない構成が採用されるため、少しでも貫通穴8aの穴径を小さくして圧電素子8〜11本体の有効体積を確保し、圧電素子の出力(パワー)を向上させるための配慮である。
【0040】
また、導電性ロッド35の一端部35b側は、図2に示すように、裏打板3内の例えば内径0.8mmの上記導電性ロッド引出穴3cを通じて、超音波振動子1本体内から外部に引き出されている。ここで、導電性ロッド35本体における導電性ロッド引出穴3c内に挿入された部位の外周面には、短絡防止用の電気絶縁性を有する被覆層が形成されている。また、前記の被覆層に代えて、導電性ロッド引出穴3cの内壁面に電気絶縁層を形成しておき、これにより、短絡を防止するようにしてもよい。
【0041】
次に、負極側の配線構造について説明する。上記した絶縁層32は、図4、図5に示すように、正極端子板15における側面(圧電素子ユニット28の外径部分として露出した正極端子板15の外周面)15dの一部を覆うように形成されている。この絶縁層32は、例えば電気絶縁性を有する絶縁フィルムの貼り付け、又は絶縁ペーストの塗布及び固化を行うことなどによって構成されている。
【0042】
ここで、上記の絶縁フィルムとしては、住友スリーエム社製のポリエステルフィルム(製品No.74,総厚20μm)などが例示される。なお、このような絶縁層32は、電気絶縁性を確保した上で、超音波振動子1本体の小型、小径化を図るために、層の厚さが例えば20μm以上でかつ100μm以下に構成されることが望ましい。
【0043】
一方、導電層34は、図4、図5に示すように、正極端子板15における各主面15e、15fと圧電素子8、9を介してそれぞれ隣り合う負極端子板14、16の個々の側面14cどうしの間を、正極と短絡しないよう絶縁層32の外側から接続(絶縁層32越しに接続)する。この導電層34は、例えば導電性を有するフィルム(導電フィルム)の貼り付け、又は導電ペーストの塗布及び固化を行うことなどによって構成されている。
【0044】
上記導電フィルムとしては、例えば日本ジッパーチュービング社製のウレタンフィルムラミネートAgペーストフィルム(製品No.DF707AFR,総厚55μm)などを適用することが可能である。なお、このような導電層34は、所望の導電性を確保した上で、超音波振動子1本体の小型、小径化を図るために、層の厚さが例えば50μm以上でかつ100μm以下に構成されていることが好ましい。
【0045】
ここで、上述した絶縁層32及び導電層34は、図4に例示するように、平面方向からみて、各々同様の形状を有し、一組の短辺と一組の長辺とで矩形(短冊)状に構成されている。絶縁層32は、その長辺が、圧電素子及び正極端子板15の周面を周回する方向に向けて配置され、さらに、この絶縁層本体の短辺が、短絡防止対象の正極端子板15の厚さ部分(側面15dの一部)を覆い隠すように、当該正極端子板15を挟んで対向する一組の圧電素子8、9にまたがって配置される。一方、導電層34は、その長辺が、絶縁層32の長辺と交差(直交)するように、各圧電素子8〜11の軸方向(振動軸)に沿った向きに配置される。
【0046】
このように、短絡防止対象の正極端子板15の厚さ部分を覆い隠すように絶縁層32を配置するので、導電層34本体が導電ペーストを材料として形成されている場合でも、正極端子板15側への導電ペーストの回り込みが実質的に阻止され、これにより、正極と負極との短絡が防止される。
【0047】
ここで、負極端子板14、16、18(及び正極端子板15、17)の最外径は、圧電素子8〜11の最外径よりも僅かに大きく構成されており、負極端子板14、16、18の外周面(側面14c)は、圧電素子ユニット28本体の外周面から僅かに突出することとなる。これにより、図4、図5に示すように、導電層34により接続される負極端子板14、16の個々の側面14cどうしの間の接続信頼性を高めることができる。
【0048】
また、前述した導電性ロッド35の他端部35c側は、図5に示すように、圧電素子ユニット28(超音波振動子1)の基端側から先端側へ向けて、負極端子板16、18、圧電素子9〜11、及び正極端子板15、17の各貫通穴内を貫通しているものの、超音波振動子1本体の前面板2との短絡を避けるために、負極端子板14の貫通穴に到達しない位置(圧電素子8の貫通穴の途中)にとどめられている。
【0049】
さらに、本実施形態の超音波振動子1は、図2に示すように、側面板12の他方の開口部分12aにおける周縁部12c内に前面板2が締結されていると共に、側面板12の一方の開口部分12bにおける周縁部12d内に裏打板3が締結されている。さらに、超音波振動子1は、図2に示すように、圧電素子ユニット28の両端の(負極端子板16と接続された)負極端子板14及び負極端子板18が、前面板2の最後端面及び裏打板3の最先端面にそれぞれ接触しているため、圧電素子ユニット28本体の負極がアース接続(ボディアース)されている。
【0050】
すなわち、本実施形態の超音波振動子1は、導電性ロッド35に対し非接触に配置した負極端子板14、16、18をアース接続することにより負極の配線を行うと共に、正極端子板15、17と直接接触する導電性ロッド35にて正極の配線を行うことによって、圧電素子ユニット28本体の正極、負極の配線を実現する。
【0051】
また、図2、図3に示すように、上述した絶縁層32及び導電層34を含む圧電素子ユニット28本体と、筒状の側面板12の内壁面と、の間には、電気絶縁性を有する短絡防止層39が介在されている。この短絡防止層39の形成方法としては、筒状の側面板12の内壁面に絶縁コートなどをコーティングする方法が例示される。また、これに代えて、正極端子板15、17の側面や導電層34などを含む圧電素子ユニット28の外周面の正極の露出部分全体を、絶縁テープや絶縁ペーストの固化物で覆うことにより、短絡防止層39を形成することも可能である。
【0052】
次に、このような構造を有する超音波振動子1の製造方法を図1〜図8に基づいて説明する。まず、図4、図5に示すように、圧電素子8〜11と、正極端子板15、17と、負極端子板14、16、18と、を交互に積層しつつ同軸的に配置し、さらに接着剤などを介して積層一体化した圧電素子ユニット28を形成する。
【0053】
次に、図2〜図5及び図8に示すように、円筒状に形成された圧電素子ユニット28の軸心の基端側から先端側へ向けて、円柱状の導電性ロッド35を挿入する。詳細には、導電性ロッド35は、負極端子板14、16、18及び圧電素子8〜11の貫通穴14a、8aの周縁部14b、8bとは非接触な状態で、かつ正極端子板15、17の貫通穴15aの周縁部15bと外径部分35aを接触させる(圧入する)状態で、各貫通穴内を貫通させる。この際、図8に示すように、正極端子板15、17における貫通穴15aの周縁部15bは、スリット15cを通じて変形し、導電性ロッド35の外径部分35aと接続される。また、導電性ロッド35の他端部(先端部)35c側は、負極端子板14の貫通穴にまでは到達しない位置(圧電素子8の貫通穴の途中)にとどめられる。
【0054】
さらに、図4、図5に示すように、正極端子板15における側面15dの一部を覆う絶縁層32と、負極端子板14、16の個々の側面14cどうしの間を絶縁層32の外側から接続する導電層34と、を圧電素子ユニット28の周面上に形成する。
【0055】
続いて、導電性ロッド35を貫通させた圧電素子ユニット28を両側から挟み込む位置に、前面板2及び裏打板3を配置しつつ、これら前面板2及び裏打板3と協働して圧電素子ユニット28を包囲する位置に側面板12を配置する共に、裏打板3内の貫通穴3cを通じて、導電性ロッド35の一端部35b側を、超音波振動子1の本体内から外部に引き出す。
【0056】
具体的には、図1〜図3に示すように、まず、側面板12の他方の開口部分12aから前面板2の挿入部2aが挿入されるように、側面板12の雌ねじ12eに対し前面板2の雄ねじ2bを係合(螺合)させつつ、前面板2の大径部12cの後端面と側面板12の先端面とが接触する位置まで前面板2をねじ込み、側面板12の他端部に前面板2を締結する。次いで、前面板2がねじ止めされた筒状の側面板12内に一方の開口部分12bから圧電素子ユニット28を収容する。この場合において、圧電素子ユニット28を収容する前に、当該圧電素子ユニット28側と側面板12側とを電気的に絶縁する短絡防止層39を予め形成しておく。
【0057】
また、導電性ロッド35の一端部35b側を、図2、図5に示すように、裏打板3の貫通穴3c内を挿通させて外部に引き出す。さらに、図2に示すように、導電性ロッド35を外部に引き出した裏打板3の挿入部3aが側面板12の一方の開口部分12bから挿入されるように、側面板12の雌ねじ12eに対し裏打板3の雄ねじ3bを係合させつつ、側面板12の開口部分12bにおける周縁部12dに対して裏打板3をねじ込む。
【0058】
次に、前面板2及び裏打板3を通じて、圧電素子ユニット28が加圧される状態で、前面板2及び裏打板3と側面板12とを固定する。詳述すると、上記の裏打板3をねじ込む作業によって、この裏打板3及び前面板2から圧電素子8〜11側に加わる挟持力を可変(前面板2に対する裏打板3の軸方向の離間距離を可変)させ、これに伴い変動する当該圧電素子からの出力をモニタ(静電容量を確認)しつつ、裏打板3のねじ込み量を調整する。すなわち、予め定めた出力値が圧電素子から得られたときに裏打板3の位置を、その位置に固定するようにねじ込みを停止させる。
【0059】
詳細には、裏打板3のねじ込み量の調整(静電容量の調整)は、超音波振動子1本体から所望の振動特性を得るために行われる。すなわち、超音波振動子1は、主にその構造から物理的に定まる共振周波数があり、この共振周波数に対応した駆動信号を付与した場合に最も効率よく振動するという性質がある。この共振周波数付近における等価回路は、一般に、機械的振動の特性であるコイル分(L)、コンデンサ分(C)による共振成分、及び機械的負荷を表す抵抗分(R)で示される直列共振回路に対し、圧電素子8〜11と正極用、負極用の端子板14〜18とを含む圧電素子ユニット28で構成される制動コンデンサ分(Cd)が、並列に接続されたかたちで表される。
【0060】
そこで、本実施形態の超音波振動子1の製法では、前述した共振周波数で超音波振動子1を駆動させるために、超音波振動子1の上記静電容量を表す制動コンデンサ分(Cd)を所定の設計値に合わせ込むためのチューニングとして、圧電素子ユニット28に加わる挟持力の調整、すなわち、裏打板3のねじ込み量の調整を行う。
【0061】
このようにして側面板12の一端部に裏打板3が締結され、図2に示すように、圧電素子ユニット28の両端の(負極端子板16とも接続された)負極端子板14及び負極端子板18が、前面板2の最後端面及び裏打板3の最先端面にそれぞれ接触したことで、圧電素子ユニット28の負極と超音波振動子1本体とがアース接続され、これにより、図2に示す超音波振動子1を得ることができる。
【0062】
既述したように、本実施形態の超音波振動子1及びその製造方法では、導電性ロッド35に対し非接触に配置した負極端子板14、16、18をアース接続することにより負極の配線を行うと共に、正極端子板15、17と直接接触する導電性ロッド35にて正極の配線を行うことによって、圧電素子ユニット28本体の正極、負極の配線を実現することができる。すなわち、本実施形態では、圧電素子ユニット28の内部に導電性ロッド35を接触状態や非接触状態で挿通させるためのスペース及びボディアースのためのスペースを確保することで、圧電素子8〜11への駆動電力供給用の配線を行うことができる。
【0063】
したがって、本実施形態によれば、電力供給用の配線を比較的小さいスペースの中で実現できるので、超音波振動子の小型化や、また、大径の圧電素子を適用することによる超音波振動子の高出力化を図ることができる。さらに、本実施形態によれば、例えば流動性を有する導電物質を加熱固化して配線構造を形成する場合などと異なり、加熱固化時に生じ得る断線などを懸念する必要性がなくなり、これにより、歩留まりの向上を図ることができる。
【0064】
また、本実施形態の超音波振動子1及びその製造方法では、比較的簡単な構成で正極、負極の配線構造が実現されるので、製造上の煩雑さが緩和され、これにより、配線部分の接続信頼性が向上し歩留まりを高めることができる。また、特に、直線的に延びる導電性ロッド35を適用した正極の配線構造に関しては、配線途中に曲げ部分などがないため、例えば裏打板3をねじ込む際に断線不良が生じてしまうことなどが抑制される。
【0065】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施形態を図9に基づき説明する。なお、上記図1〜図8に示したものと同一の構成要素については、同一の符号を付与しその説明を省略する。図9に示すように、本実施形態の超音波振動子は、第1の実施形態の超音波振動子1が内蔵していた圧電素子ユニット28に代えて、圧電素子ユニット48を内蔵する。すなわち、圧電素子ユニット48は、圧電素子ユニット28が備えていた正極端子板15、17及び導電層34に代えて、正極端子板45、47及び導電層43を備えると共に、絶縁層32を削除したかたちで構成されている。
【0066】
詳述すると、短絡の防止を目的として、正極端子板45、47の最外径は、圧電素子8〜11及び負極端子板14、16、18の最外径よりも例えば0.1mmだけ小径に構成されている。また、導電層43は、正極端子板45における各主面45e、45fと圧電素子8、9を介してそれぞれ隣り合う負極端子板14、16における個々の側面14cどうしの間を、正極端子板45(小径に構成された正極端子板45の側面45d)とは非接触な状態で接続する。
【0067】
つまり、本実施形態の圧電素子ユニット48を内蔵する超音波振動子によれば、正極端子板45を小径に構成したことにより負極側の導電層43と正極端子板45との短絡を阻止できるので、上記の絶縁層32を削除することが可能となり、これにより製造コストの削減を図ることができる。
【0068】
[第3の実施の形態]
次に、本発明の第3の実施形態を図10に基づき説明する。なお、上記図1〜図8に示したものと同一の構成要素については、同一の符号を付与しその説明を省略する。図10に示すように、本実施形態の超音波振動子は、第1の実施形態の超音波振動子1が内蔵していた圧電素子ユニット28に代えて、圧電素子ユニット58を内蔵する。
【0069】
すなわち、圧電素子ユニット58は、圧電素子ユニット28が備えていた圧電素子10、11、正極端子板17、負極端子板18、絶縁層32、導電層34を削除したかたちで構成されている。また、本実施形態の超音波振動子は、アース接続を行うために、圧電素子ユニット58の両端の負極端子板14、16を通じて、圧電素子ユニット58本体が前面板及び裏打板によって挟持される。ここで、圧電素子ユニット58は、積層している圧電素子を二つに削減したため、負極端子板どうしを接続する上記導電層34の配置やその短絡防止用の絶縁層32を配置することが不要となる。
【0070】
したがって、本実施形態の圧電素子ユニット58を内蔵する超音波振動子によれば、上記の圧電素子10、11、正極端子板17、負極端子板18、絶縁層32、導電層34の削除により、製造コストを低減できると共に、正極、負極の配線構造の簡略化を図ることができる。
【0071】
[第4の実施の形態]
次に、本発明の第4の実施形態を図11に基づき説明する。なお、上記図1〜図8に示したものと同一の構成要素については、同一の符号を付与しその説明を省略する。図11に示すように、本実施形態の超音波振動子71は、第1の実施形態の超音波振動子1が備えていた前面板2に代えて前面板72を備える。また、超音波振動子71は、導電性ロッド35の他端部35cを、圧電素子ユニット58本体側から前面板72側に突出させて配置されている。さらに、超音波振動子71の他方の挟持部材である上記前面板72は、導電性ロッド35の他端部35cとの接触を回避するための短絡防止用の凹部72fが、挿入部72aに形成されている。
【0072】
すなわち、本実施形態の超音波振動子71は、導電性ロッド35の他端部35cが圧電素子ユニット28内に埋設された態様の超音波振動子1と異なり、導電性ロッド35の他端部(先端部)35cを圧電素子ユニット58本体から突出させたかたちで配置される。したがって、本実施形態の超音波振動子71によれば、(短絡防止のために凹部72fの深さよりも浅く配置する必要のある)導電性ロッド35の突出量を視覚的に把握できるので、超音波振動子本体の組み込み作業時に、導電性ロッド35と前面板72側とを誤って短絡させてしまうおそれなどを低減させることができる。
【0073】
[第5の実施の形態]
次に、本発明の第5の実施形態を図12に基づき説明する。なお、上記図1〜図8に示したものと同一の構成要素については、同一の符号を付与しその説明を省略する。図12に示すように、本実施形態の超音波振動子は、第1の実施形態の超音波振動子1が内蔵していた圧電素子ユニット28に代えて、圧電素子ユニット68を内蔵する。
【0074】
この圧電素子ユニット68は、圧電素子ユニット28の両端の負極端子板14、18を削除した態様で構成される。詳細には、本実施形態の超音波振動子は、図12及び図7に示すように、絶縁層32の外側から、負極端子板16と、直接、圧電素子8本体の負極側電極層8dと、を導電層34により接続すると共に、負極端子板14、18を削除した電素子ユニット68の両端面、つまり、圧電素子8本体及び圧電素子11本体の個々の負極側電極層8dを前面板2及び裏打板3間に挟持(接触)させることで、超音波振動子本体とのアース接続を行う(ボディアースをとる)。
【0075】
したがって、本実施形態の圧電素子ユニット68を内蔵する超音波振動子によれば、上記の負極端子板14、18の削除により、製造コストを低減させることができる。
【0076】
以上、本発明を各実施の形態により具体的に説明したが、本発明はこれらの実施形態にのみ限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、第1の実施形態では、負極端子板14、16、18と圧電素子8〜11と正極端子板15、17とを先に積層一体化した圧電素子ユニットに対して、導電性ロッド35を挿入する製法を例示したが、これに代わる製法を適用することも可能である。
【0077】
すなわち、それぞれ積層一体化前の、負極端子板14、16、18と圧電素子8〜11と正極端子板15、17とを同軸的に配置した状態で、貫通穴14a、8a、15a内に導電性ロッド35を貫通させ、さらにこの後、導電性ロッド35を、貫通穴14a、8aの周縁部14b、8bとは非接触な状態でかつ貫通穴15aの周縁部15bと外径部分35aを接触させる状態で、負極端子板、圧電素子、及び正極端子板を積層一体化した圧電素子ユニットを形成するようにしてもよい。この場合、導電性ロッド35を基準にして、個々の貫通穴から負極端子板、圧電素子、及び正極端子板を順次挿入してこれらを同軸的に配置できるので、各端子板及び圧電素子の位置合せを容易に行うことができ、これにより生産性の向上を図ることができる。
【0078】
また、第2〜第5の実施形態の超音波振動子を作製する際に、上述した前者の、圧電素子と正極、負極の端子板とを先に積層一体化した圧電素子ユニットに対し、導電性ロッド35を挿入する製法を適用してもよいし、また、後者の、導電性ロッド35を基準として圧電素子と正極、負極の端子板とを同軸的に配置した後、これら圧電素子及び正極、負極の端子板を積層一体化する製法を選択することも可能である。
【0079】
また、上述した実施形態では、前面板2(前面板72)及び裏打板3と、側面板12とがねじ止め構造により固定されていたが、これに代えて、前面板2(前面板72)及び裏打板3のうちのいずれか一方又は両方を溶接により側面板12に固定してもよい。さらに、これに代えて、前面板2及び裏打板3のうちのいずれか一方又は両方をかしめ構造により側面板12に固定することも可能である。
【0080】
つまり例えば、前面板2又は裏打板3を側面板12に溶接する場合、いわゆる電子ビーム溶接やレーザ溶接などを適用することができる。また、この他、スポット溶接などの電気溶接を適用することも可能である。スポット溶接を用いる場合には、図13に例示するように、前面板2(又は裏打板3、前面板72)と側面板12との間の被溶接部分51に、超音波振動子1本体の周面に沿った方向に周回するリブ状の突起部12fを設けることで、スポット溶接時の通電を良好に行うことができる。なお、図13では、突起部12fを側面板12側に設けた態様を例示しているが、前面板2側(又は裏打板3側、前面板72側)に突起部12fを設けてもよい。
【0081】
一方、かしめ構造を適用する場合には、図14に例示する構造を選択することが可能である。つまり、この図14に示すように、側面板12の他方又は一方の開口部分における周縁部12c(又は周縁部12d)に、側面板12本体の肉厚を他の部位よりも薄肉に形成した薄肉部分12gを設ける。さらに、前面板2(又は裏打板3、前面板72)の挿入部を他の部位の直径よりも相対的に大径にした挿入部2g(又は挿入部3g)を設け、エッジ部2j(又はエッジ部3j)を含む段差部分2h(又は段差部分3h)を被かしめ部分として構成する。薄肉部分12gは、かしめ工程時に、図14に示すように、段差部分2h(3h)のエッジ部2j(3j)を巻き込むようにして、筒状の側面板12の内側(矢印S1方向)に向けて折り曲げられる(塑性変形させられる)。
【0082】
また、かしめ工程時には、超音波振動を用いた加圧により薄肉部分12gを塑性変形させる超音波かしめを適用すること可能である。この超音波かしめによって、押圧力を細分化して効率良く薄肉部分12gに伝達できるので、高いかしめ強度を得ることができる。なお、かしめ構造としては、この他、いわゆるかしめリングを適用し、前面板2(又は裏打板3、前面板72)と側面板12との間の被かしめ部分に挿入した当該かしめリングを塑性変形させて、かしめを行うことも可能である。
【0083】
ここで、溶接による接合構造及びかしめによる接合構造のうちのいずれの構造を適用する場合でも、前述したように、前面板2(前面板72)、裏打板3から圧電素子8〜11に加わる挟持力を可変(前面板と裏打板との間の軸方向の離間距離を可変)させ、これに伴い変動する当該圧電素子からの出力をモニタ(静電容量を確認)しつつ、予め定めた出力値が圧電素子から得られたときに、前面板2(又は裏打板3、前面板72)と側面板12とを、溶接又はかしめによって接合する。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る超音波振動子の分解斜視図。
【図2】図1の超音波振動子を部分的に断面で示す正面図。
【図3】図2の超音波振動子を分解しその一部を断面で示す正面図。
【図4】図1の超音波振動子に内蔵された圧電素子ユニットの構造を示す斜視図。
【図5】図4の圧電素子ユニットの構造を示す断面図。
【図6】図5の圧電素子ユニットを構成する圧電素子、正極端子板及び負極端子板の構造を示す平面図。
【図7】図6の圧電素子の構造を示す斜視図。
【図8】図6の正極端子板の貫通穴に導電性ロッドが挿入された状態を示す断面図。
【図9】本発明の第2の実施形態に係る超音波振動子に内蔵された圧電素子ユニットの構造を示す断面図。
【図10】本発明の第3の実施形態に係る超音波振動子に内蔵された圧電素子ユニットの構造を示す断面図。
【図11】本発明の第4の実施形態に係る超音波振動子を部分的に断面で示す正面図。
【図12】本発明の第5の実施形態に係る超音波振動子に内蔵された圧電素子ユニットの構造を示す断面図。
【図13】前面板又は裏打板を側面板に溶接する場合の接合構造を例示した断面図。
【図14】前面板又は裏打板を側面板にかしめる場合の接合構造を例示した断面図。
【符号の説明】
【0085】
1,71…超音波振動子、2,72…前面板、2b,3b…雄ねじ、2h,3h…段差部分、2j,3j…エッジ部、3…裏打板、3c…第4の貫通穴、8,9,10,11…圧電素子、8a…第2の貫通穴、8b…第2の貫通穴の周縁部、12…側面板、12e…雌ねじ、12f…突起部、12g…薄肉部分、14,16,18…負極端子板、14a…第3の貫通穴、14b…第3の貫通穴の周縁部、14c…負極端子板の側面、15,17,45,47…正極端子板、15a…第1の貫通穴、15b…第1の貫通穴の周縁部、15c…スリット、15d,45d…正極端子板の側面、15e,15f,45e,45f…正極端子板の主面、28,48,58,68…圧電素子ユニット、32…絶縁層、34…導電層、35…導電性ロッド、35a…導電性ロッドの外径部分、35b…導電性ロッドの一端部、35c…導電性ロッドの他端部、51…被溶接部分、72f…短絡防止用の凹部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の貫通穴を有する一方の極性用の電極板と、前記第1の貫通穴より大径の第2の貫通穴を有する圧電素子と、前記第1の貫通穴より大径の第3の貫通穴を有する他方の極性用の電極板と、を同軸的に配置して積層一体化した圧電素子ユニットと、
前記第2及び第3の貫通穴より小さくかつ前記第1の貫通穴より大きい外径を有し、前記第1ないし第3の各貫通穴を貫通すると共に前記第2及び第3の貫通穴の周縁部とは非接触でかつ前記第1の貫通穴の周縁部と外径部分で接触するリード部材と、
を具備することを特徴とする超音波振動子。
【請求項2】
リード部材は、導電性を有するロッドにより構成されていることを特徴とする請求項1記載の超音波振動子。
【請求項3】
前記一方の極性用の電極板には、前記第1の貫通穴の周縁部から外径側に延びるスリットが形成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の超音波振動子。
【請求項4】
前記一方の極性用の電極板は、正極用の電極板であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の超音波振動子。
【請求項5】
前記一方の極性用の電極板における側面の少なくとも一部を覆う絶縁層と、
前記一方の極性用の電極板における各主面と前記圧電素子を介してそれぞれ隣り合う前記他方の極性用の電極板の側面どうしの間を前記絶縁層の外側から接続する導電層と、
をさらに具備することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の超音波振動子。
【請求項6】
前記絶縁層は、電気絶縁性を有するフィルム若しくは絶縁ペーストの固化物で構成されていることを特徴とする請求項5記載の超音波振動子。
【請求項7】
前記一方の極性用の電極板の最外径は、圧電素子及び他方の極性用の電極板の最外径よりも小径に構成されており、
当該小径に構成された一方の極性用の電極板における各主面と前記圧電素子を介してそれぞれ隣り合う前記他方の極性用の電極板における側面どうしの間を、当該一方の極性用の電極板とは非接触な状態で、接続する導電層、
をさらに具備することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の超音波振動子。
【請求項8】
前記導電層は、導電性を有するフィルム若しくは導電ペーストの固化物で構成されていることを特徴とする請求項5ないし7のいずれか1項に記載の超音波振動子。
【請求項9】
前記圧電素子ユニットを挟持する一対の挟持部材をさらに備え、
前記一対の挟持部材のうちの一方の挟持部材は、超音波振動子本体内から前記リード部材の一端部側を外部に引き出すための第4の貫通穴を有し、
前記リード部材は、その他端部を、前記圧電素子ユニットから他方の挟持部材側に突出させて配置され、
さらに、前記他方の挟持部材は、前記リード部材の前記他端部との接触を回避するための短絡防止用の凹部を有する、
ことを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1項に記載の超音波振動子。
【請求項10】
第1の貫通穴を有する一方の極性用の電極板と、前記第1の貫通穴より大径の第2の貫通穴を有する圧電素子と、前記第1の貫通穴より大径の第3の貫通穴を有する他方の極性用の電極板と、を同軸的に配置して積層一体化した圧電素子ユニットを形成するユニット形成工程と、
前記ユニット形成工程を経た後、前記第2及び第3の貫通穴より小さくかつ前記第1の貫通穴より大きい外径を有するリード部材を、前記第2及び第3の貫通穴の周縁部とは非接触な状態でかつ前記第1の貫通穴の周縁部と外径部分を接触させる状態で、前記第1ないし第3の各貫通穴内に貫通させる貫通工程と、
前記リード部材を貫通させた前記圧電素子ユニットを両側から挟み込む位置に、リード部材引出用の第4の貫通穴が一方に形成された一対の挟持部材を配置しつつ、前記一対の挟持部材と協働して前記圧電素子ユニットを包囲する位置にカバー部材を配置する共に、前記第4の貫通穴から前記リード部材を外部に引き出す部材配置工程と、
前記部材配置工程にて配置された前記一対の挟持部材を通じて前記圧電素子ユニットが加圧される状態で、前記一対の挟持部材と前記カバー部材とを固定する部材固定工程と、
を有することを特徴とする超音波振動子の製造方法。
【請求項11】
前記ユニット形成工程及び前記貫通工程に代えて、
前記第1の貫通穴を有する一方の極性用の電極板と、前記第2の貫通穴を有する圧電素子と、前記第3の貫通穴を有する他方の極性用の電極板と、を同軸的に配置した状態で、前記第1ないし第3の各貫通穴内に前記リード部材を貫通させる第2の貫通工程と、
前記第2の貫通工程を経た後、リード部材を、前記第2及び第3の貫通穴の周縁部とは非接触な状態でかつ前記第1の貫通穴の周縁部と外径部分を接触させる状態で、一方及び他方の極性用の個々の電極板と前記圧電素子とを積層一体化した前記圧電素子ユニットを形成する第2のユニット形成工程と、
を実施することを特徴とする請求項10記載の超音波振動子の製造方法。
【請求項12】
前記部材固定工程では、前記一対の挟持部材と前記カバー部材との固定を、ねじ止め、かしめ、若しくは溶接によって行うことを特徴とする請求項10又は11記載の超音波振動子の製造方法。
【請求項13】
前記部材固定工程では、前記一対の挟持部材から前記圧電素子ユニットに加わる挟持力を可変させ、これに伴い変動する前記圧電素子ユニット内の前記圧電素子からの出力をモニタしつつ、前記一対の挟持部材と前記カバー部材とを固定することを特徴とする請求項10ないし12のいずれか1項に記載の超音波振動子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−35323(P2010−35323A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−194432(P2008−194432)
【出願日】平成20年7月29日(2008.7.29)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】