説明

超音波振動子駆動回路及び該回路を用いた眼精疲労回復用超音波治療器

【課題】 眼精疲労を緩和するための超音波治療器の超音波の発生効率を向上させる。
【解決手段】 磁歪型の超音波振動子6を駆動するコイルL1、L2を挟んで高電位(電源Bv)側と低電位(グラウンド)側とでほぼ対称にLC発振回路を構成するべく、PNPトランジスタTR1、コイルL1、L2、コンデンサC1による発振ループと、PNPトランジスタTR1とコンプリメンタリであるNPNトランジスタTR2、コイルL1、L2、コンデンサC2による発振ループとを形成する。これにより、従来、バイアス抵抗による発熱で損失していた分が倍振幅振動エネルギーに変換されて有効に利用されるため、コイルL1の両端の最大電圧差が大きくなり、効率良く振動子6bを駆動することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁歪型の超音波振動子を駆動するための超音波振動子駆動回路と、該駆動回路を用いた眼精疲労回復用の超音波治療器に関する。
【背景技術】
【0002】
眼精疲労を緩和するために、従来より、超音波を利用した目の治療器が知られている(例えば特許文献1など参照)。この種の治療器は、使用者の瞼の上に超音波振動部を軽く押し当て、その超音波振動部から発生させた超音波を使用者の瞼を介して眼球に作用させることで、眼球を取り囲む各種筋を振動させてマッサージ効果により眼精疲労を軽減するものである。なお、ここで言う「超音波」とは狭義の超音波(人間の可聴帯域外の超音波)ではなく、広義の超音波(人間が直接聞くことを目的としない音)のことである。
【0003】
こうした装置において超音波振動子としては、一般に磁歪型(電磁型という場合もある)の振動子が利用される。磁歪型超音波振動子は、コイルに交流電流を流すことで生起させた磁界中に配置した振動子の磁歪現象を利用して、超音波を発生させるものである。
【0004】
図5は上述した目の超音波治療器において、従来一般に用いられている超音波振動子の駆動回路の回路構成図である。この回路では、PNPトランジスタTR1のエミッタ端子は抵抗R2を介して直流電圧源Bvに接続され、PNPトランジスタTR1のコレクタ端子は超音波振動子6の一次コイルL1を介してグラウンドに接続されている。超音波振動子6の一次コイルL1と磁気的に結合している二次コイルL2の一端はグラウンドに接続され、他端はコンデンサC1を介してPNPトランジスタTR1のベース端子に接続されている。また、PNPトランジスタTR1のベース端子は抵抗R1を介してグラウンドに接続されている。
【0005】
この構成では、PNPトランジスタTR1は一次コイルL1→二次コイルL2→コンデンサC1により正帰還がかかっており、そのループ中の二次コイルL2のインダクタンスとコンデンサC1の容量とによって決まる周波数で発振する。図6はグラウンドを基準としたときのPNPトランジスタTR1のコレクタ端子の電圧波形である。例えば、次のような条件で実験的に電圧波形を測定すると、電圧波形のVpは60〜80Vとなる。
・抵抗R1: 1kΩ、1/8W
・抵抗R2: 2Ω、1W
・コンデンサC1: 2.2μF、16V
・PNPトランジスタ: 型名2SB546A
・コイルL1、L2: 0.1mmφエナメル線を内径8mmで巻回、直流抵抗12.5kΩ
・電源電圧: 5〜5.5V
【0006】
上記条件をみれば分かるように、抵抗R2としては定格電力が大きなものが利用されているが、これは抵抗R2での熱の発生、つまりは電力損失が大きいことを意味している。即ち、上記回路構成では、バッテリより供給される直流電力の一部が抵抗R2で無駄に消費されており、超音波振動子6で振動エネルギーに変換される効率が必ずしも高くない。
【0007】
【特許文献1】特開平11−206836号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記課題を解決するために成されたものであり、その目的とするところは、磁歪型の超音波振動子を効率良く駆動して、例えば同一の電力エネルギーに対しより大きな振動エネルギーを取り出すことができる超音波振動子駆動回路、及びこうした回路を利用した眼精疲労回復用の超音波治療器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために成された本発明は、一次コイルと、該一次コイルと電磁的に結合した二次コイルと、該一次コイル及び二次コイルにより発生する磁界中で力を受けて振動する振動子とを含む超音波振動子を駆動する超音波振動子駆動回路であって、
エミッタ端子が高電圧側電源線に接続されたPNPトランジスタのコレクタ端子を前記一次コイルの一端に接続し、
該PNPトランジスタとコンプリメンタリであって、エミッタ端子が低電圧側電源線に接続されたNPNトランジスタのコレクタ端子を前記一次コイルの他端に接続し、
その両トランジスタのベース端子間に抵抗を接続し、
前記二次コイルの一端と前記PNPトランジスタのベース端子との間、又は前記二次コイルの他端と前記NPNトランジスタのベース端子との間の少なくともいずれか一方をコンデンサを介して接続するとともに、コンデンサを介して接続されない場合にはコンデンサを介さずに直接接続するようにしたことを特徴としている。
【0010】
本発明に係る超音波振動子駆動回路において、例えば高電圧側電源線とはバッテリ等から正の直流電圧が供給される電源線であり、低電圧側電源線とはグラウンドである。また、高電圧側電源線をグラウンドとし、低電圧側電源線を負の直流電圧が供給される電源線としてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る超音波振動子駆動回路では、PNPトランジスタを含む正帰還ループと、コンプリメンタリであるNPNトランジスタを含む帰還ループとが超音波振動子の一次コイル及び二次コイルを挟んで高電位側と低電位側との両方で発振動作を行う。これにより、従来のようにPNPトランジスタを含む正帰還ループしか持たない場合に比べて、発振信号の振幅が拡大する。この振幅を拡大するためのエネルギーは従来の回路で熱として消費されていたものであり、本発明に係る超音波振動子駆動回路では、この熱として廃棄されていた電力エネルギーの利用効率を上げて、大きな超音波振動を生起させることができる。
【0012】
本発明に係る超音波振動子駆動回路において、発振の安定性を高めるためには、二次コイルの一端とPNPトランジスタのベース端子との間、及び二次コイルの他端とNPNトランジスタのベース端子との間の両方をそれぞれコンデンサを介して接続した構成とするとよい。
【0013】
また、超音波振動子の一次コイル及び二次コイルを挟んで高電位側と低電位側とで発振波形をほぼ対称にすることで最大の信号振幅を得るようにするためには、二次コイルの一端とPNPトランジスタのベース端子との間、及び二次コイルの他端とNPNトランジスタのベース端子との間の双方に介挿されたコンデンサの容量を同一にするとよい。
【0014】
なお、本発明に係る超音波振動子駆動回路は、数kHz程度から20kHz程度、場合によっては数十kHz程度までの音波(超音波)を発生させたり、機械的振動を生じさせたりするために利用することができ、その応用は、例えば小形のマッサージ機、振動板など各種のものが考えられるが、特に眼精疲労回復用超音波治療器に有用である。
【0015】
即ち、本発明に係る眼精疲労回復用超音波治療器は、上記発明による超音波振動子駆動回路と、これにより駆動される超音波振動子と、該超音波振動子による振動を外部に取り出す導子と、を備え、該導子を被験者の瞼の上に接触させることで超音波振動を被験者の目に作用させるようにしたものである。これによれば、効率良く導子を振動させることで、治療に効果的な超音波振動を発生させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係る波振動子駆動回路の一実施例について詳細に説明する。図1は本発明に係る超音波振動子駆動回路を用いた眼精疲労回復用超音波治療器の一例の概略ブロック構成図である。
【0017】
この超音波治療器では、バッテリ3により電力が供給される制御部1には電源スイッチ2、表示器4、ブザー8が接続され、電源スイッチ2が押される毎にこれを検出した制御部1はこの装置をオン/オフする。表示器4は電源ランプとバッテリ消耗警告ランプとを含み、ユーザーによる電源スイッチ2の操作により電源がオンされると、制御部1は電源ランプを点灯させるとともにバッテリ3による駆動電力を振動子駆動回路5に供給することにより振動子駆動回路5の動作を開始させる。振動子駆動回路5は所定周波数の発振回路を含み、バッテリ3により電力が供給されると磁歪型の超音波振動子6を駆動して所定周波数で振動させる。通常、この周波数は6〜12kHz程度である。この振動はユーザーの瞼の上に接触される導子7を介してユーザーの眼球の周囲に伝播される。制御部1に含まれるタイマ9は電源スイッチ2がオン操作されてからの時間を計時し、所定時間(例えば5分、10分など)が経過するとブザー8を鳴動させて、ユーザーの注意を喚起する。
【0018】
次に本発明の特徴である超音波振動子駆動回路について図2〜図4を参照して説明する。図2は振動子駆動回路の回路構成図、図3は図2の駆動回路により駆動される超音波振動子の概略図、図4は図2の駆動回路の動作を説明するための波形図である。
【0019】
図2に示す振動子駆動回路5では、エミッタ端子が直流電源Bvに接続されたPNPトランジスタTR1のコレクタ端子と、エミッタ端子がグラウンド(0V)に接続されたNPNトランジスタTR2のコレクタ端子との間に、超音波振動子6の一次コイルL1が接続され、PNPトランジスタTR1のベース端子とNPNトランジスタTR2のベース端子との間に抵抗R1が接続されている。さらに、超音波振動子6の二次コイルL2の一端はコンデンサC1を介してPNPトランジスタTR1のベース端子に接続され、二次コイルL2の他端はコンデンサC2を介してNPNトランジスタTR2のベース端子に接続されている。ここで、PNPトランジスタTR1とNPNトランジスタTR2とはコンプリメンタリであるものが選定され、コンデンサC1とC2とは同容量である。したがって、超音波振動子6のコイルL1、L2を挟んで高電位(電源)側と低電位(グラウンド)側とで対称の構成となっている。
【0020】
超音波振動子6では、図3に示すように磁心6aに巻回された一次コイルL1、二次コイルL2に交流電流が流れ、その交流電流による磁界の変化に応じて磁歪型の振動子6bが振動する。なお、一次コイルL1、二次コイルL2はちょうどトランスの一次巻線と二次巻線との関係を有しており、一次コイルL1に電流が流れると電磁的結合により二次コイルL2にも電流が流れる。
【0021】
図2の構成の回路では、例えばPNPトランジスタTR1のコレクタ端子から一次コイルL1に交流電流が流れると、上記のように二次コイルL2にも交流電流が誘起される。この交流電流は第1コンデンサC1を介してPNPトランジスタTR1のベース端子に正帰還される。即ち、PNPトランジスタTR1を中心にした一次コイルL1→二次コイルL2→第1コンデンサC1となるループは正帰還ループであるから、二次コイルL2のインダクタンスと第1コンデンサC1の容量とで決まる周波数で発振するLC共振回路を構成する。一方、超音波振動子6のコイルL1、L2の低電位側においても、NPNトランジスタTR2を中心にした、一次コイルL1→二次コイルL2→第2コンデンサC2となるループは正帰還ループであるから、二次コイルL1のインダクタンスと第2コンデンサC2の容量とで決まる周波数で発振するLC共振回路を構成する。なお、抵抗R1は両トランジスタTR1、TR2のベース端子のバイアス電圧を決めるための抵抗である。
【0022】
即ち、図2の回路では、従来の図4の回路と異なり、PNPトランジスタTR1のエミッタ端子と電源との間に介挿されていた抵抗が不要になり、この抵抗で熱として消費していたエネルギーがNPNトランジスタを含む回路により倍振幅振動エネルギーに変換される。そのため、電力エネルギーの使用効率が上がり、より大きなパワーで振動子6bを駆動することができる。図4においてaはグラウンドを基準としたPNPトランジスタTR1のコレクタ端子の電圧波形、bはグラウンドを基準としたNPNトランジスタTR2のコレクタ端子の電圧波形である。この両電圧が超音波振動子6の一次コイルL1の両端に印加され、その電圧差に応じて振動子6bは振動する。
【0023】
一例として、次のような条件で実験的に電圧波形を測定した。
・抵抗R1: 1kΩ、1/8W
・コンデンサC1、C2: 2.2μF、25V
・PNPトランジスタ: 型名2SB546A
・NPNトランジスタ: 型名2SD401A
・コイルL1、L2: 0.1mmφエナメル線を内径8mmで巻回、直流抵抗12.5kΩ
・電源電圧: 5〜5.5V
このとき、図4に示す電圧波形のVpは90〜130Vとなり、従来の回路構成よりも1.5〜1.6倍程度の効率で超音波振動を起こすことが可能であることがわかる。
【0024】
なお、上記実施例では、両コンデンサC1、C2の容量を同一にしており、これが最も効率が良好になる条件ではあるものの、必ずしもC1、C2の容量は同一でなくてもよい。また、これらコンデンサC1、C2は有極性電解コンデンサであるが、無極性電解コンデンサや電解コンデンサ以外の種類のコンデンサであってもよい。
【0025】
また、上記実施例は本発明の一例であるから、本発明の趣旨の範囲で適宜変形、修正、追加を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る超音波振動子駆動回路を用いた装置の一例である超音波治療器の概略ブロック構成図。
【図2】本発明の一実施例である超音波振動子駆動回路の回路構成図。
【図3】図2の駆動回路により駆動される超音波振動子の概略図。
【図4】図2の駆動回路の動作を説明するための波形図。
【図5】従来の超音波振動子駆動回路の回路構成図。
【図6】図5の駆動回路の動作を説明するための波形図。
【符号の説明】
【0027】
1…制御部
2…電源スイッチ
3…バッテリ
4…表示器
5…振動子駆動回路
TR1…PNPトランジスタ
TR2…NPNトランジスタ
C1…第1コンデンサ
C2…第2コンデンサ
R1…抵抗
6…超音波振動子
L1…一次コイル
L2…二次コイル
6a…磁心
6b…振動子
7…導子
8…ブザー
9…タイマ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次コイルと、該一次コイルと電磁的に結合した二次コイルと、該一次コイル及び二次コイルにより発生する磁界中で力を受けて振動する振動子とを含む超音波振動子を駆動する超音波振動子駆動回路であって、
エミッタ端子が高電圧側電源線に接続されたPNPトランジスタのコレクタ端子を前記一次コイルの一端に接続し、
該PNPトランジスタとコンプリメンタリであって、エミッタ端子が低電圧側電源線に接続されたNPNトランジスタのコレクタ端子を前記一次コイルの他端に接続し、
その両トランジスタのベース端子間に抵抗を接続し、
前記二次コイルの一端と前記PNPトランジスタのベース端子との間、又は前記二次コイルの他端と前記NPNトランジスタのベース端子との間の少なくともいずれか一方をコンデンサを介して接続するとともに、コンデンサを介して接続されない場合にはコンデンサを介さずに直接接続するようにしたことを特徴とする超音波振動子駆動回路。
【請求項2】
前記二次コイルの一端と前記PNPトランジスタのベース端子との間、及び前記二次コイルの他端と前記NPNトランジスタのベース端子との間の両方をそれぞれコンデンサを介して接続したことを特徴とする請求項1に記載の超音波振動子駆動回路。
【請求項3】
前記二次コイルの一端と前記PNPトランジスタのベース端子との間、及び前記二次コイルの他端と前記NPNトランジスタのベース端子との間の双方に介挿されたコンデンサの容量を同一にしたことを特徴とする請求項2に記載の超音波振動子駆動回路。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の超音波振動子駆動回路と、これにより駆動される超音波振動子と、該超音波振動子による振動を外部に取り出す導子と、を備え、該導子を被験者の瞼の上に接触させることで超音波振動を被験者の目に作用させるようにしたことを特徴とする眼精疲労回復用超音波治療器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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