説明

超音波振動子

【課題】製造において、基板側に金属性の電極を別度設ける工程を省くことが可能である上に、高温での処理が必要であるセラミックスを振動膜又は犠牲層の材料として選択でき、製造工程において自由度が高まる超音波振動子を提供する。
【解決手段】振動膜1に固着され、振動膜と共に振動する振動電極4と、振動膜1が基板3に対向するように振動膜1を支持する振動膜支持部2とを備え、基板3が振動電極4と対向する部分に導体を有するように構成し、又は基板3の全体を導体とすることにより、例えば、超音波の受信により振動膜1が振動する場合は、振動電極4と基板3(又は導体)との間に生じる静電容量の変化を用い、受信した超音波に係る電気信号を取得する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を送受する振動膜を備える超音波振動子に関する。
【背景技術】
【0002】
図5は従来の超音波振動子の構成を示す断面図である。従来の超音波振動子は、超音波を送受する振動膜100と、基板104の一面に設けられ、基板104と対向するように振動膜100を支持する振動膜支持部101とを備えている。また、一対の電極102,103を備えており、一方の電極102は振動膜100に形成され、他方の電極103は基板104に形成されている。
【0003】
このような従来の超音波振動子は、受信した超音波(音圧)によって振動膜100及び前記一方の電極102が振動し、この際に起きる一対の電極102,103の間の静電容量変化に基づき、受信した超音波に係る電気信号を取得し、又は一対の電極102,103の間に直流及び交流電圧を印加することによって振動膜100を振動させ、超音波を送信するものである。
【0004】
また、非特許文献1には、このような従来の超音波振動子及びその製造方法について開示されている。非特許文献1の超音波振動子は、シリコン基板の上に酸化物の絶縁層を形成し、該絶縁層の上に金属性の電極を蒸着した後、前記電極を覆い囲むポリイミドからなるいわゆる犠牲層をコーティングする。その後、前記犠牲層の上にSi34からなる振動膜及び振動膜支持部を共に蒸着し、前記振動膜の上にもう一つの電極を蒸着した後、該電極及び前記振動膜を共に貫通する複数の孔を設け、該孔を介して前記犠牲層をエッチングすることにより製造されている。
【非特許文献1】「Nobel,Wide Bandwidth,Micromachined Ultrasonic Tranducers」、IEEE TRANSACTIONS ON ULTRASONICS,FERROELECTRICS,AND FREQUENCY CONTROL、USA、IEEE Publications、November、VOL.48、NO.6、p.1495−1507
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来の超音波振動子においては、振動膜支持部が振動膜の厚みと略等しい肉厚を有する筒状であることから機械的強度が低く、長時間に亘る使用の場合は損傷を受ける恐れがある上に、自由なハンドリングが制限されるといった問題、及び振動膜の振動を安定して支持できず、得られる電気信号にノイズが混入される恐れもあった。なお、基板側に設ける電極が金属性であるので、高温での処理が一般的に要求されるセラミックス製の振動膜又は犠牲層の材料選択が制限され、製造工程において自由度が劣るといった問題もあった。しかし、このような問題は非特許文献1の超音波振動子によっては解決することが出来ない。
【0006】
本発明は、斯かる事情に鑑みてされたものであり、その目的とするところは、振動膜に固着され、振動膜と共に振動する振動電極と、前記振動膜が基板に対向するように前記振動膜を支持する振動膜支持部とを備え、前記基板が前記振動電極と対向する部分に導体を有することにより、例えば、超音波の受信により前記振動膜が振動する場合は、前記振動電極と前記基板(又は導体)との間に生じる静電容量の変化を用い、受信した超音波に係る電気信号の取得が可能となり、製造工程において、基板側に別度金属性の電極を設ける工程を省くことが可能である上に、高温での処理が必要であるセラミックスを振動膜又は犠牲層の材料として選択でき、製造工程において自由度が高まる超音波振動子を提供することにある。
【0007】
また、本発明の他の目的は、前記振動膜の50倍から600倍の肉厚の筒状である振動膜支持部を備えることにより、前記振動膜支持部の機械的強度を高め、耐久性、ハンドリングの自由度の向上を図ることが出来る超音波振動子を提供することにある。
【0008】
また、本発明の他の目的は、前記振動膜支持部の内周面にセラミックスを成膜することにより、エッチングによる犠牲層の除去の際に、エッチング剤と前記振動膜支持部との接触が遮断され、エッチング剤の選択が制限されず、製造工程において自由度が高まる超音波振動子を提供することにある。
【0009】
また、本発明の他の目的は、前記振動膜が、残留引張応力が50MPa以下の窒化珪素からなるように構成することにより、高周波数域での使用の際においても、正確に超音波を送受することが出来る超音波振動子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る超音波振動子は、超音波を送受する際に振動する振動膜と、該振動膜に固着された振動電極と、基板の一面に設けられ、前記基板と対向するように前記振動膜を支持する振動膜支持部とを備える超音波振動子において、前記基板は、前記振動電極と対向する部分に導体を有することを特徴とする。
【0011】
本発明に係る超音波振動子は、前記振動膜支持部は前記振動膜と異なる材料からなり、前記振動膜の50倍から600倍の肉厚を有する筒状をなすことを特徴とする。
【0012】
本発明に係る超音波振動子は、前記振動膜支持部の内周面にはセラミックスが成膜されていることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る超音波振動子は、前記振動膜は残留引張応力が50MPa以下の窒化珪素からなることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る超音波振動子は、前記振動膜及び振動電極を共に貫通する複数の貫通孔を有していることを特徴とする。
【0015】
本発明に係る超音波振動子は、前記振動膜支持部はポリシリコンからなり、前記振動膜支持部の内周面には酸化シリコンが成膜されていることを特徴とする。
【0016】
本発明にあっては、超音波を受信した場合は、前記振動膜が振動し、前記振動膜に固着されている前記振動電極も共に振動する。この際、前記振動電極と基板(又は前記導体)の導体との間の間隔が変化するので、前記振動電極と基板との間の静電容量が変化する。従って、該静電容量変化に基づき、受信した超音波に係る電気信号を取得することができる。
【0017】
本発明にあっては、前記振動膜支持部は例えばポリシリコンからなり、肉厚を前記振動膜の50倍から600倍になるように構成し、前記振動膜支持部の機械的強度を高め、耐久性、ハンドリングの自由度の向上を図る。また、振動膜の振動を安定して支持し、得られる振動膜の刑状が一律的になるので、メンブレンの振動及び出力される前記電気信号が安定になる。
【0018】
本発明にあっては、前記振動膜支持部の内周面にセラミックス、例えば酸化シリコンを成膜しておき、エッチングによるいわゆる犠牲層の除去の際、エッチング剤によって前記振動膜支持部が腐食されることを防ぐ。
【0019】
本発明にあっては、前記振動膜として残留引張応力が50MPa以下の窒化珪素を用いる。つまり、ヤング率の高い窒化珪素を用いる上に、残留引張応力が50MPa以下で低いことによって、機械(振動)−電気的エネルギ(電気信号)変換効率を高め、応力による前記振動膜のそりを最低限化する。
【0020】
本発明にあっては、前記振動膜及び振動電極を共に貫通する複数の貫通孔を設ける。犠牲層の除去の際、前記貫通孔を通してエッチング剤が注入され、前記犠牲層がエッチングされる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、超音波の受信により前記振動膜が振動する際、前記振動電極と前記基板(導体)との間に生じる静電容量の変化を用いて受信した超音波に係る電気信号の取得が可能となり、前記振動電極と前記基板(又は導体)との間に直流及び交流電圧を印加することで、前記振動膜を振動させて超音波を送信することができるので、基板側に金属性の電極を別度設ける必要がなくなり、構造が簡単になると共に、高温での処理が必要とされるセラミックス製の振動膜又は犠牲層の選択が可能になり、製造工程において自由度が高まる。
【0022】
本発明によれば、前記振動膜の50倍から600倍の肉厚の筒状である振動膜支持部を備えて前記振動膜支持部の機械的強度を高めるので、耐久性、ハンドリングの自由度、歩留まりの向上を図ることが出来る。
【0023】
本発明によれば、前記振動膜支持部の内周面にセラミックスを成膜するので、エッチングによる犠牲層の除去の際に、エッチング剤と前記振動膜支持部との接触が遮断され、エッチング剤の選択が制限されず、製造工程において自由度が高くなる。
【0024】
本発明によれば、前記振動膜が、残留引張応力が50MPa以下の窒化珪素であるので、エネルギ変換効率が高く、前記振動膜がそりのない水平状態を維持することが可能になるため、正確に超音波を送受することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、図面に基づいて本発明に係る超音波振動子を具体的に説明する。図1は本発明に係る超音波振動子の平面図であり、図2は図1のA―B線による縦断面図である。
【0026】
本発明に係る超音波振動子は、超音波を送受する振動膜1と、振動膜1を支持する振動膜支持部2と、振動膜支持部2を一面に設けている基板3とを備えている。また、振動膜1の一面には振動膜1と共に振動する振動電極4が形成されている。
【0027】
基板3の前記一面には、セラミックス(例えば、酸化シリコン)からなる絶縁膜5が成膜されており、絶縁膜5の上面には振動膜支持部2が設けられている。振動膜支持部2は例えば円筒状であり、一端の周縁が絶縁膜5と接するように立設されている。また、振動膜支持部2の内周面には、耐食性が優れたセラミックス、例えば酸化シリコンからなる耐食膜6が形成されている。
【0028】
振動膜1は振動膜支持部2を覆うように設けられている。従って、絶縁膜5、振動膜支持部2の内周面(耐食膜6)及び振動膜1よって空間部7が形成されている。
【0029】
振動膜1は0.5〜3μmの厚みを有しており、例えば残留引張応力が50MPa以下であり、絶縁性の優れた窒化珪素からなる。また、振動膜1は振動を行う振動部11(図中のA―B線においては、A2〜B2)と、振動膜支持部2に保持されている固定部12(図中のA―B線においては、A1〜A2及びB1〜B2)とを有する。振動部11は平面視歯車状であり、固定部12は中央部を丸くくりぬいた円板状である。振動部11は、円板状であって上面に振動電極4が蒸着されている中央部111(図中のA―B線においては、A3〜B3)と、中央部111を固定部12へ繋ぐ6つの連結部112,112,112,…(図中のA―B線においては、A2〜A3及びB2〜B3)からなる。連結部112,112,112,…は、中央部111の周縁部に等間隔にて配設され、中央部111の径方向に延出されている。振動膜1の直径(図中のA―B線において、A2〜B2)は、600〜700μmである。なお、振動部11及び固定部12は一体形成されている。本実施の形態においては、振動膜1の直径が600〜700μmである場合を例として挙げているが、振動膜1の直径は、周波数及び帯域によって定まる。
【0030】
振動膜支持部2は、上述したように、円筒状であり、振動膜と異なる材料である例えば、ポリシリコンからなる。また、振動膜支持部2は軸長方向における寸法(換言すれば、振動膜1及び絶縁膜5の間隔)は2〜3μmであり、外径は振動膜1の直径と等しい600〜700μmである。また、振動膜支持部2は、振動膜1の厚みに対して50倍〜600倍の肉厚を有している。
【0031】
基板3は、例えば、n型又はp型に導電性不純物がドーピングされた、抵抗値が0.1Ωcm以下のシリコンウエハーである。一方、振動電極4は金属薄膜からなり、振動膜1の中央部111に蒸着されている。振動電極4は中央部111と同じ大きさの円板状であり、振動電極4の一側の周縁部には径方向に延出する短冊形のリードパッド41が設けられている。リードパッド41は何れか一つの連結部112の上に蒸着されている。基板3及び振動電極4は夫々外部装置に電気的に接続され、基板3と振動電極4との間の静電容量の変化に係る電気信号が出力される。
なお、基板3は内側に空洞(図示せず)を有している。該空洞は、基板3の他面側からの異方性エッチング(又はドライエッチング)によって形成される。前記空洞は、平面視振動膜1と略同一の大きさであり、振動膜1と位置が整合するように形成されている。また、基板3の一面側には絶縁膜5を貫通する貫通孔(図示せず)が設けられており、該貫通孔によって、前記空洞と、空間部7とは連通されている。前記異方性エッチングの際に基板3の他面には孔が形成されるが、エッチング処理後、封止される。
【0032】
以上のように、本発明に係る超音波振動子は、振動膜1として残留引張応力が50MPa以下である窒化珪素を用いており、窒化珪素は他の振動膜材料に比べてヤング率が高い。従って、振動及び電気信号の間の変換効率が高くなる。高周波数域での使用にも対応することが出来るうえ、振動膜1の形状を設計のとおり(水平)維持し、正確な超音波の送受信が可能となり、安定した電子信号のセンシング(出力)が可能である。
【0033】
また、本発明に係る超音波振動子は、振動膜支持部2の肉厚が薄い場合に生じ得る振動膜1の支持の不安定を解決でき、また、振動膜支持部2の肉厚が厚すぎる場合に生じ得る感度低下を防ぐことが出来る。例えば、従来の超音波振動子のように、振動膜支持部の肉厚が振動膜の厚みと略等しい場合は機械的強度が低く、長時間に亘る使用の場合は、振動膜支持部と振動膜の固定又は振動膜支持部が破壊される可能性がある上に、自由なハンドリングが制限され、歩留まりが低くなるといった問題、及び振動膜の振動を安定して支持できず、得られる電気信号にノイズが混入される等の問題が生じている。また、振動膜支持部2の肉厚が厚すぎる場合において、振動膜支持部2に応力が発生して振動膜の振動を妨害し、感度を低下させる問題が生じる。しかしながら、本発明に係る超音波振動子の振動膜支持部2は、振動膜1の厚みに対して50倍〜600倍の肉厚を有するのでこのような問題を解決できる。
【0034】
なお、本発明に係る超音波振動子は、基板3としてシリコンウエハーを用いるので、該シリコンウエハーがアースの役割をなし、受信する超音波から取得される電気信号のノイズが減少され、S/N比が向上する。
【0035】
なお、振動膜1並びに振動電極4及びリードパッド41は、例えば直径3μmの複数の貫通孔8,8,8,…によって厚み方向に貫通されている。従って、貫通孔8,8,8,…を介して空間部7に存在する空気の出入りが可能となり、振動膜1が振動する際に起きる、空間部7内の空気による抵抗を緩和することが出来る。また、後述する犠牲層のエッチングは、貫通孔8,8,8,…を用いて行われる。
【0036】
以下、本発明に係る超音波振動子の作用について説明する。説明の便宜上、外部から超音波を受信した場合を例として説明する。
【0037】
本発明に係る超音波振動子が外部から超音波を受信した場合、前記超音波(音圧)によって振動膜1が振動する。振動膜1が振動する際、振動膜1に蒸着されている振動電極4も共に振動するので、振動電極4と基板3との間隔が変動する。従って、振動電極4と基板3との間の静電容量が変化するようになる。この振動電極4と基板3との間の静電容量変化に基づき、受信した超音波に係る電気信号を取得することが出来る。
【0038】
一方、超音波の送信は、振動電極4と基板3との間に直流及び交流電圧を印加することによって振動膜1を振動させて行われ、他の作用については超音波を受信した場合と同様であり、詳しい説明は省略する。
【0039】
図3及び図4は本発明に係る超音波振動子製造方法を示す説明図である。以下において、本発明に係る超音波振動子製造方法について説明する。
【0040】
まず、例えばシリコンウエハーからなる基板3の上にセラミックス(例えば酸化シリコン)膜5を成膜し、絶縁膜5の上に振動膜1(窒化珪素)と異種の材料(例えば、ポリシリコン)層2layを形成する(図3(a))。以下、説明の便宜上、異種の材料層2layを、略して異種層2layという。
【0041】
その後、溝形成工程が行われる。該溝形成工程では、平面視における振動膜支持部2の内周縁に倣って異種層2layをくりぬくパターニングが行われ、異種層2layに溝21が形成される(図3(b))。前記溝形成工程後、異種層2layは、溝21によって囲まれた溝21の内側部分2inと、溝21の外側部分2outに分けられる。内側部分2inは振動膜1を成膜するにおけるいわゆる犠牲層であり、後述するエッチング工程にて除去される。また、外側部分2outの一部は振動膜支持部2となる。
【0042】
次いで、高密度プラズマによる化学蒸着法(HDPCVD)を用いて溝21に耐食性が優れたセラミックス(例えば、酸化シリコン)を埋め込む埋め込み工程が行われる(図3(c))。このような埋め込み工程によって溝21に酸化シリコンを埋め込むことができ、耐食膜6が形成されることとなる。
【0043】
その後、外側部分2outから、振動膜支持部2の肉厚に該当する部分以外を除去する余剰除去工程を行う(図4(d))。該余剰除去工程は、溝21を振動膜支持部2の内周とした場合、該内周から、外周縁になるべき位置までの部分以外の外側部分2outを除去する工程である。前記余剰除去工程によって、振動膜支持部2が形成される。
【0044】
続いて、内側部分2in及び外側部分2out(振動膜支持部2)の上に振動膜1を成膜する(図4(e))。振動膜1は例えば、窒化珪素からなり、低圧化学蒸着法(LPCVD)を用いて行われる。その後、蒸着された窒化珪素に対してパターニングが行われ、上述したように、略歯車状をなす振動部11と、中央部を丸くくりぬいた円板状をなす固定部12とが一体された振動膜1が得られる。
【0045】
次いで、振動電極4を設けるために、低圧化学蒸着法を用いて振動膜1の上にAl、Pt/Ti、Cr等の蒸着を行う。その後、パターニングが行われ、上述したように、円板状をなす振動電極4及び振動電極4の一側の周縁部にて径方向に延出する短冊形のリードパッド41が形成される。その後、振動膜1及び振動電極4を共に貫通する複数の貫通孔8,8,8,…を設けるためのパターニングが更に行われる(図4(f))。
【0046】
その後、溝21によって囲まれた溝21の内側部分2in、つまり、犠牲層をドライエッチングにて除去するエッチング工程が行われる。該エッチング工程は、貫通孔8,8,8,…を通してエッチング剤を注入して内側部分2in(犠牲層)をエッチングする。図3及び図4の(d)〜(g)から分かるように、内側部分2inと振動膜支持部2との間には耐食膜6が介在しており、内側部分2inと基板3との間には、絶縁膜5として耐食性が優れた酸化シリコンが介在しているので、内側部分2inは耐食性が優れた膜(耐食膜6及び絶縁膜5)によって取り囲まれている。従って、前記ドライエッチングの場合、耐食膜6及び絶縁膜5がエッチング剤に対してストッパーの役割をなし、振動膜支持部2及び基板3を保護する。以上の工程によって、本発明に係る超音波振動子を得ることが出来る(図4(g))。
【0047】
従来における超音波振動子製造方法においては、ドライエッチングでなくウエットエッチングが用いられていたので、エッチング液の表面張力による振動膜のソリ、又は振動膜が基板側にくっ付くいわゆるスティクション(stiction)が発生するといった問題があった。本発明に係る超音波振動子は、上述したように、ドライエッチングを用いるので、このような問題の発生を防ぐことが出来る。なお、前記溝形成工程(図3(b))又は余剰除去工程(図4(d))を制御することによって、振動膜支持部2の肉厚を変更することも可能である。
【0048】
上述したように、本発明に係る超音波振動子は、異種層2layを基に、犠牲層(内側部分2in)及び振動膜支持部2(外側部分2out)が共に形成されるので、犠牲層を形成するための工程を別に設ける必要がなくなる等、製造工程がより簡単になる。
【0049】
なお、以上の記述では、基板3がシリコンウエハーであって、全体が導体である場合を例として説明したが、これに限るものでない。例えば、基板3中、振動電極4と対向する部分のみが導体であるように構成しても良く、前記対向する部分のうち一部のみが導体であっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明に係る超音波振動子の平面図である。
【図2】図1のA―B線による縦断面図である。
【図3】本発明に係る超音波振動子製造方法を示す説明図である。
【図4】本発明に係る超音波振動子製造方法を示す説明図である。
【図5】従来の超音波振動子の構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0051】
1 振動膜
2 振動膜支持部
3 基板
4 振動電極
5 絶縁膜
6 耐食膜
7 空間部
8 貫通孔
41 リードパッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波を送受する際に振動する振動膜と、該振動膜に固着された振動電極と、基板の一面に設けられ、前記基板と対向するように前記振動膜を支持する振動膜支持部とを備える超音波振動子において、
前記基板は、前記振動電極と対向する部分に導体を有することを特徴とする超音波振動子。
【請求項2】
前記振動膜支持部は
前記振動膜と異なる材料からなり、
前記振動膜の50倍から600倍の肉厚を有する筒状をなすことを特徴とする請求項1に記載の超音波振動子。
【請求項3】
前記振動膜支持部の内周面にはセラミックスが成膜されていることを特徴とする請求項2に記載の超音波振動子。
【請求項4】
前記振動膜は残留引張応力が50MPa以下の窒化珪素からなることを特徴とする請求項1に記載の超音波振動子。
【請求項5】
前記振動膜及び振動電極を共に貫通する複数の貫通孔を有していることを特徴とする請求項1に記載の超音波振動子。
【請求項6】
前記振動膜支持部はポリシリコンからなり、
前記振動膜支持部の内周面には酸化シリコンが成膜されていることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の超音波振動子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−74538(P2010−74538A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−239757(P2008−239757)
【出願日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(508098822)株式会社IngenMSL (2)
【出願人】(304030497)株式会社プロアシスト (22)
【Fターム(参考)】