説明

超音波探傷方法

【課題】棒材が幅方向へ振れて超音波探触子との位置がずれても確実な傷検出ができる。
【解決手段】所定の人工疵11を形成した棒材1部分に対し、人工疵11を通過して棒材1の幅方向へ照射位置を変えつつ人工疵11からの反射超音波の強度を測定する工程と、疵の無い棒材1部分に対して、棒材1の幅方向へ照射位置を変えつつ棒材1底面からの反射超音波の強度を測定する工程と、同一照射位置における人工疵からの反射超音波強度と棒材底面からの反射超音波強度との関係より、棒材1底面からの各反射超音波強度に対応した補正係数を得る工程と、棒材1の自然疵からの反射超音波強度を、棒材幅方向のほぼ同一位置で疵の無い棒材1部分に照射した超音波の棒材1底面からの反射超音波強度に対応する上記補正係数で補正する工程とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波探傷方法に関し、特に超音波探触子と被探傷材たる棒材が位置ずれを生じても確実な探傷を行なうことができる超音波探傷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
棒材の超音波探傷すなわち疵検出を行なう場合には、従来、超音波探触子との位置ずれを生じないように、厳しい寸法公差のガイド機構を使用している。しかし、このようなガイド機構を使用すると、わずかに曲がりのある棒材でもガイド機構と大きく干渉して当該機構が損傷を受け易い。このためガイド機構には一定の余裕を付与しておく必要があるが、この場合にはガイド時に棒材がその幅方向へ振れるため超音波探触子との位置がずれて疵検出の精度が低下するという問題があった。なお、特許文献1には、斜角探触子の探傷感度を垂直探触子の底面エコー(反射超音波)高さ変動量に比例するように制御した超音波探傷装置が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭59−95457
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記従来の問題点を解決するもので、余裕が付与されたガイド機構によって案内される棒材が幅方向へ振れ、超音波探触子との位置がずれても確実な傷検出ができる超音波探傷方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明方法は、所定の人工疵(11)を形成した棒材(1)部分に対し、人工疵(11)を通過して棒材(1)の幅方向へ照射位置を変えつつ人工疵(11)からの反射超音波の強度を測定する工程と、疵の無い棒材(1)部分に対して、棒材(1)の幅方向へ照射位置を変えつつ棒材(1)底面からの反射超音波の強度を測定する工程と、同一照射位置における前記人工疵からの反射超音波強度と前記棒材底面からの反射超音波強度との関係より、前記棒材(1)底面からの各反射超音波強度に対応した補正係数を得る工程と、前記棒材(1)の自然疵からの反射超音波強度を、棒材幅方向のほぼ同一位置で疵の無い棒材(1)部分に照射した超音波の棒材(1)底面からの反射超音波強度に対応する前記補正係数で補正する工程とを備えている。なお、本発明方法における棒材には線材も含まれる。また棒材としては、円形断面や楕円断面、異径断面の棒材が好ましい。
【0006】
本発明においては、棒材の自然疵からの反射超音波強度を、棒材幅方向のほぼ同一位置で疵の無い棒材部分に照射した超音波の棒材底面からの反射超音波強度に対応する補正係数で補正するようにしている。この補正後の反射超音波強度は超音波照射位置が棒材の中心位置からずれてもその影響を殆ど受けないから、上記反射超音波強度より疵の有無を確実に判定することができる。
【0007】
なお、上記カッコ内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明の効果】
【0008】
以上のように、本発明の超音波探傷方法によれば、棒材が幅方向へ振れて超音波探触子との相対位置がずれても確実に傷検出をすることができるから、余裕を持たせたガイド機構を使用して棒材をガイドすることにより、ガイド機構との棒材の干渉を避けて当該機構の損傷を未然に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】超音波探触子と人工疵を形成した棒材の位置関係を示す端面図と側面図である。
【図2】超音波探触子の棒材中心位置からのずれ量に応じた第1エコー値の変化グラフである。
【図3】超音波探触子の棒材中心位置からのずれ量に応じた第2エコー値の変化グラフである。
【図4】本発明の補正曲線を従来の補正方法と比較するグラフである。
【図5】超音波探触子の棒材中心位置からのずれ量に応じた補正後の第1エコー値の変化グラフである。
【図6】棒材に自然疵がある場合の超音波探触子の信号波形図である。
【図7】補正された第3エコーの信号波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
最初に図1(1)(2)に示すような棒材1(本実施形態では丸棒材を使用)の中心に、長手方向へ延びる一定径の円形孔をその一端面から棒材の途中まで穿設して人工疵11とする。この場合の人工疵11の、棒材1に対する相対的大きさは、JISZ2345(超音波探傷試験用標準試験片)の規定に準拠した。
【0011】
このような棒材1の外周に超音波探触子2を対向させる。そして当該探触子2は以下の処理を行なうコンピュータ3に接続されている。最初に、図1の白矢印で示すように、超音波探触子2を棒材1の幅方向へ相対的に移動させて、当該探触子2の位置、すなわち超音波照射位置の、棒材1の中心位置Oからのずれ量に対する人工疵11からの反射超音波(第1エコー)の信号値(第1エコー値)を測定した。これを図2に示す。図2より明らかなように、第1エコー値は、ずれ量が0(mm)の時に最大になり、ずれ量が大きくなるに従ってこれに応じて急速に小さくなる。
【0012】
次に、人工疵11が形成されていない上記棒材1部分に対して超音波探触子2の位置を棒材幅方向で相対的に移動させて、当該探触子2の位置、すなわち超音波照射位置の、棒材1の中心位置Oからのずれ量に対する棒材底面からの反射超音波(第2エコー)の信号値(第2エコー値)を測定した。これを図3に示す。図3より明らかなように、第2エコー値も、ずれ量が0(mm)の時に最大になり、ずれ量が大きくなるに従ってこれに応じて小さくなる。
【0013】
続いて図4に示すように、同一ずれ量における第2エコー値と第1エコー値の関係をプロットし、これらプロットした各点を通る補間曲線を二次補間等で求めて補正曲線F(x)を得た。ちなみに、図5に示すように、各ずれ量において、第2エコー値に対応する補正曲線の値(補正係数)F(x)で第1エコー値を除してこれを補正すれば、補正後の第1エコー値は、上記ずれ量と無関係にほぼ一定の値になる。
【0014】
棒材1に自然疵があると、超音波探触子2には図6に示すような信号波形が得られる。図中、xは棒材1表面からの反射超音波信号、yは自然疵からの反射超音波信号(第3エコー)、zは自然疵がある場合の棒材1底面からの反射超音波信号である。そこで、この時同時にあるいはその後に、別のあるいは同一の超音波探触子2で、棒材1の幅方向で上記超音波探触子2と同一位置における、疵の無い棒材1部分での棒材1底面からの反射超音波信号(第2エコー)を測定し、第2エコー値に対応する補正曲線の値F(x)で第3エコー値を除して補正する。そしてこの補正後の第3エコー値を、予め定めた適当倍にして図7に示すように所定の閾値Vthと比較し、この閾値Vthを超えるか否かによって疵の有無を検出する。
【0015】
以上の手順によれば、棒材と超音波探触子の、棒材幅方向での相対ずれ量を、第2エコー値により検出して、これに応じて第3エコー値を補正しているから、棒材と超音波探触子の位置ずれに無関係に、補正後の第3エコー値によって確実な疵検出を行なうことができる。なお、従来の底面反射超音波の強度のみで補正を行なう場合は、その補正曲線(直線)は図4の線F´(x)で示すようなものとなるから、補正後の第3エコー値は、位置ずれによって大きく変動してしまう。
【0016】
本発明方法は、棒材を回転させ、あるいは超音波探触子を回転させるいずれの走査方法にも適用でき、また探傷方式もシングル探傷、フェーズドアレイ探傷等広く適用可能である。
【符号の説明】
【0017】
1…棒材、11…人工疵、2…超音波探触子、3…コンピュータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の人工疵を形成した棒材部分に対し、前記人工疵を通過して前記棒材の幅方向へ照射位置を変えつつ前記人工疵からの反射超音波の強度を測定する工程と、疵の無い棒材部分に対して、前記棒材の幅方向へ照射位置を変えつつ棒材底面からの反射超音波の強度を測定する工程と、同一照射位置における前記人工疵からの反射超音波強度と前記棒材底面からの反射超音波強度との関係より、前記棒材底面からの各反射超音波強度に対応した補正係数を得る工程と、前記棒材の自然疵からの反射超音波強度を、棒材幅方向のほぼ同一位置で疵の無い棒材部分に照射した超音波の棒材底面からの反射超音波強度に対応する前記補正係数で補正する工程とを備える超音波探傷方法。
【請求項2】
前記棒材は丸棒である請求項1に記載の超音波探傷方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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