説明

超音波探触子

【課題】圧電体の動作を阻害することなく、広い周波数帯域において振動子の感度を向上させて、ハーモニック・イメージングにも適応できる広帯域かつ高感度な超音波探触子を提供する。
【解決手段】この超音波探触子は、超音波を送信及び/又は受信する複数の振動子を含む振動子アレイであって、複数の振動子の各々が、第1の電極と第2の電極との間に並列に配置されて互いに異なる周波数定数を有する複数の圧電体を含む振動子アレイと、振動子アレイの第1の面上に配置された少なくとも1層の音響整合層と、振動子アレイの第1の面と反対側の第2の面上に配置されたバッキング材とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用や構造物探傷用の超音波診断装置において超音波を送信及び/又は受信する複数の超音波トランスデューサを含む超音波探触子に関し、特に、広帯域の超音波の送受信に好適な超音波探触子に関する。
【背景技術】
【0002】
医療分野においては、被検体の内部を観察して診断を行うために、様々な撮像技術が開発されている。特に、超音波を送受信することによって被検体の内部情報を取得する超音波撮像は、リアルタイムで画像観察を行うことができる上に、X線写真やRI(radio isotope)シンチレーションカメラ等の他の医用画像技術と異なり、放射線による被曝がない。そのため、超音波撮像は、安全性の高い撮像技術として、産科領域における胎児診断の他、婦人科系、循環器系、消化器系等を含む幅広い領域において利用されている。
【0003】
超音波撮像とは、音響インピーダンスが異なる領域の境界(例えば、構造物の境界)において超音波が反射される性質を利用する画像生成技術である。通常、超音波診断装置(又は、超音波撮像装置、超音波観測装置とも呼ばれる)には、被検体に接触させて用いられる超音波探触子や、被検体の体腔内に挿入して用いられる超音波探触子が備えられている。あるいは、被検体内を光学的に観察する内視鏡と体腔内用の超音波探触子とを組み合わせた超音波内視鏡も使用されている。
【0004】
超音波探触子において超音波を送信及び/又は受信する超音波トランスデューサとしては、例えば、圧電体の両端に電極を形成した圧電振動子が用いられる。振動子の電極に電圧を印加すると、圧電体が伸縮して超音波が発生する。さらに、複数の振動子を1次元又は2次元状に配列し、所定の遅延を与えた複数の駆動信号によって駆動することにより、超音波ビームを所望の方向に向けて形成することができる。一方、振動子は、伝播する超音波を受信することによって伸縮し、電気信号を発生する。この電気信号は、超音波の受信信号として用いられる。
【0005】
近年においては、ハーモニック・イメージング等の手法の有用性をさらに引き出すために、超音波診断装置に対して広帯域化が要望されており、超音波探触子において、振動子の周波数特性をいかにして広帯域化するかが課題となっている。
【0006】
関連する技術として、特許文献1には、ハーモニック・イメージングに適応する広帯域の周波数特性及び高感度特性を有し、超音波画像のスライス厚を均一にし、サイドローブを低減することを目的とした超音波プローブが開示されている。この超音波プローブは、
複数の圧電体が走査方向に配列された圧電体層が電極を介して複数積層された圧電振動子部を有し、複数の圧電体層の内で少なくとも1層の圧電体層を構成する圧電体が、圧電材料部と非圧電材料部とが混在する複合圧電体からなることを特徴としている。
【0007】
これにより、非圧電材料部と圧電体層とが積層された領域においては、圧電材料部と圧電体層とが積層された領域におけるよりも、高い周波数の感度が高くなる。しかしながら、非圧電材料部は電界が印加されても伸縮しないので、非圧電材料部と圧電材料部との間でずれ応力が発生し、亀裂が生じるおそれもある。
【特許文献1】特開2006−320415号公報(第1−2頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、上記の点に鑑み、本発明は、圧電体の動作を阻害することなく、広い周波数帯域において振動子の感度を向上させて、ハーモニック・イメージングにも適応できる広帯域かつ高感度な超音波探触子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の1つの観点に係る超音波探触子は、超音波を送信及び/又は受信する複数の振動子を含む振動子アレイであって、複数の振動子の各々が、第1の電極と第2の電極との間に並列に配置されて互いに異なる周波数定数を有する複数の圧電体を含む振動子アレイと、振動子アレイの第1の面上に配置された少なくとも1層の音響整合層と、振動子アレイの第1の面と反対側の第2の面上に配置されたバッキング材とを具備する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、各々の振動子が、第1の電極と第2の電極との間に並列に配置されて互いに異なる周波数定数を有する複数の圧電体を含むことにより、圧電体の動作を阻害することなく、広い周波数帯域において振動子の感度を向上させて、ハーモニック・イメージングにも適応できる広帯域かつ高感度な超音波探触子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら詳しく説明する。なお、同一の構成要素には同一の参照番号を付して、説明を省略する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る超音波探触子の内部構造を模式的に示す斜視図である。この超音波探触子は、被検体に当接して体腔外走査を行う際に、又は、被検体の体腔内に挿入して体腔内走査を行う際に用いられる。
【0012】
図1に示すように、超音波探触子は、バッキング材1と、バッキング材1上に配置された複数の超音波トランスデューサ(圧電振動子)2と、振動子間における干渉を低減し、振動子の横方向の振動を抑えて振動子が縦方向のみに振動するようにするために、複数の振動子2の間や周囲に充填されたエポキシ樹脂等の充填材3と、振動子2上に設けられた少なくとも1層の音響整合層(図1においては、2層の音響整合層4a及び4bを示す)と、必要に応じて音響整合層上に設けられる音響レンズ5とを有している。本実施形態においては、アジマス方向(X軸方向)に並べられた複数の振動子2が、1次元振動子アレイを構成している。
【0013】
図2は、本発明の第1の実施形態に係る超音波探触子において用いられる振動子を示す側面図である。各々の振動子2は、バッキング材1(図1)上に配置された個別電極2aと、個別電極2a上に並列に配置された2種類の圧電体A及びBを含む圧電体層2bと、圧電体層2b上に配置された共通電極2cとを含んでいる。なお、圧電体A及びBの分極方向は、Z軸方向である。
【0014】
圧電体層2bにおいて、エレベーション方向(Y軸方向)に隣接する2つの圧電体A及びBの間には、接着剤又はエポキシ樹脂等の充填材を含む絶縁体2dが充填されている。絶縁体2dは、高絶縁性を有しており、比抵抗が1×1012Ωcm以上であることが望ましい。これによって、個別電極2aと共通電極2cとの間の電気的絶縁が保たれる。また、絶縁体2dのショアー硬度Dは、65よりも小さいことが望ましい。
【0015】
通常、複数の振動子の共通電極2cは、接地電位(GND)に共通接続される。また、複数の振動子の個別電極2aは、例えば、バッキング材1の前面及び背面に配置される2枚のFPC(フレキシブルプリント基板)に形成されたプリント配線を介してケーブル(シールドケーブル)に接続され、さらに、ケーブルを介して超音波診断装置本体内の電子回路に接続される。
【0016】
振動子2は、超音波診断装置本体から供給される駆動信号に基づいて超音波を発生する。また、振動子2は、被検体から伝播する超音波エコーを受信することにより、電気信号を発生する。この電気信号は超音波診断装置本体に出力され、超音波エコーの受信信号として処理される。
【0017】
再び図1を参照すると、振動子2の前面に配置された音響整合層4a及び4bは、例えば、超音波を伝播し易いパイレックス(登録商標)ガラスや金属粉入りエポキシ樹脂等によって形成されており、生体である被検体と振動子2との間の音響インピーダンスのマッチングを図っている。これにより、振動子2から送信される超音波が効率良く被検体中に伝播する。
【0018】
音響レンズ5は、例えば、シリコーンゴムによって形成されており、超音波トランスデューサアレイ12から送信され、音響整合層4a及び4bを伝播した超音波ビームを、被検体内の所定の深度において集束させる。
【0019】
図2に示す振動子において、圧電体A及びBは、互いに異なる周波数定数Nを有している。周波数定数Nは、次式(1)に示すように、圧電体の共振周波数f(Hz)と圧電体の伝播方向の長さL(m)との積によって表される。周波数定数Nの単位は、m・Hzである。
N=f×L ・・・(1)
周波数定数は、圧電体の振動モードによって表現が異なり、棒状の圧電体の長手方向の振動モードにおける周波数定数はN33と表現される。
【0020】
圧電体A及びBに関するその他の条件としては、比誘電率ε33及び等価圧電定数d33が、圧電体Aと圧電体Bとの間で近い値を取ることが望ましい。比誘電率ε33は、振動子の駆動効率に影響し、等価圧電定数d33は、振動子の送受信感度に影響するからである。
【0021】
図3は、図2に示す振動子において第1組の圧電体を用いた第1の実施例の周波数特性を示す図である。第1の実施例においては、圧電体Aとして、Ba(Ti,Zr)O(Ceracomp社製)が用いられ、圧電体BとしてC−91H(富士セラミックス社製)が用いられる。圧電体Aは、実線で示す第1の周波数特性を有する超音波出力を生じ、圧電体Bは、破線で示す第2の周波数特性を有する超音波出力を生じる。第1の周波数特性と第2の周波数特性とが交差する周波数において、圧電体A及びBの超音波出力は、それぞれのピーク値の0.9倍程度である。
【0022】
一般に、1つの振動子に含まれている複数の圧電体が複数の異なる周波数特性を有する超音波出力をそれぞれ生じる場合において、振動子の周波数特性が複数のピークを持たないためには、複数の異なる周波数特性の内で隣接する2つの周波数特性が交差する周波数において、隣接する2つの周波数特性の各々における超音波出力がそれぞれのピーク値の0.5倍以上となるように、複数の圧電体の材料を設定することが望ましい。
【0023】
圧電体A及びBの周波数特性において、次式(2)に従って、周波数帯域幅BW(%)が求められる。
BW(%)=100×(f−f)/f ・・・(2)
ここで、周波数f及びfは、音圧がピーク値から6dB減衰する2つの周波数であり(f<f)、周波数fは、次式(3)によって表されるように、周波数fと周波数fとの中心周波数である。
=(f+f)/2 ・・・(3)
【0024】
第1の実施例によれば、圧電体層2bを圧電体Aのみで形成した場合の周波数帯域幅が約70%であり、圧電体層2bを圧電体Bのみで形成した場合の周波数帯域幅が約70%であるのに対し、圧電体層2bを圧電体A及びBで形成した場合の周波数帯域幅は約85%となり、広帯域化が実現されている。なお、受信時における周波数帯域も、送信時における周波数帯域と同様に広帯域化される。
【0025】
図4は、図2に示す振動子において第2組の圧電体を用いた第2の実施例の周波数特性を示す図である。第2の実施例においては、圧電体Aとして、PMN−PT(MICROFINE社製)が用いられ、圧電体BとしてC−213(富士セラミックス社製)が用いられる。圧電体Aは、実線で示す第1の周波数特性を有する超音波出力を生じ、圧電体Bは、破線で示す第2の周波数特性を有する超音波出力を生じる。第1の周波数特性と第2の周波数特性とが交差する周波数において、圧電体A及びBの超音波出力は、それぞれのピーク値の0.6倍程度である。
【0026】
第2の実施例によれば、圧電体層2bを圧電体Aのみで形成した場合の周波数帯域幅が約100%であり、圧電体層2bを圧電体Bのみで形成した場合の周波数帯域幅が約60%であるのに対し、圧電体層2bを圧電体A及びBで形成した場合の周波数帯域幅は約120%となり、広帯域化が実現されている。なお、受信時における周波数帯域も、送信時における周波数帯域と同様に広帯域化される。
【0027】
図5は、本発明の各実施形態において使用することができる圧電材料の性能を示す表である。図5においては、それぞれの圧電材料について、材料のタイプ、組成、周波数定数N33、電気機械結合係数k33、比誘電率ε33、及び、等価圧電定数d33が示されている。これらの内から、上記のように適切な圧電材料の組合せが選択されて、圧電体A及びBとして使用される。
【0028】
ここで、圧電体A及びBの比誘電率ε33の値が異なる場合には、圧電体Aの部分における静電容量と圧電体Bの部分における静電容量とに差が生じてしまう。静電容量は、振動子の駆動効率に影響するので、静電容量を均一にするために、圧電体A及びBの比誘電率ε33の値に応じて圧電体A及びBのサイズが異なるようにしても良い。
【0029】
図6は、本発明の第1の実施形態に係る超音波探触子において用いられる振動子の第1の変形例を示す側面図である。第1の変形例においては、圧電体Aとして、比誘電率ε33が1670であるBa(Ti,Zr)O(Ceracomp社製)が用いられ、圧電体Bとして、比誘電率ε33が4430であるC−91H(富士セラミックス社製)が用いられる。
【0030】
圧電体A及びBの比誘電率ε33の比が約1:2.7であるので、エレベーション方向(Y軸方向)における圧電体A及びBの長さの比が約2.7:1とされている。アジマス方向(X軸方向)における圧電体A及びBの幅は同一である。これにより、圧電体Aと個別電極2aとの間の接触面積が、圧電体Bと個別電極2aとの間の接触面積の約2.7倍となり、圧電体Aと共通電極2cとの間の接触面積が、圧電体Bと共通電極2cとの間の接触面積の約2.7倍となるので、圧電体Aの部分における静電容量と圧電体Bの部分における静電容量とが均一になって駆動効率が均一化される。
【0031】
一般には、1つの振動子に含まれている複数の圧電体が複数の異なる比誘電率をそれぞれ有する場合において、複数の圧電体の電極接触面積を必ずしも比誘電率ε33の比に合わせて決定する必要はなく、比誘電率ε33が小さい方の圧電体の電極接触面積を、比誘電率ε33が大きい方の圧電体の電極接触面積よりも大きくすれば、それなりの効果が得られる。さらに、送受信感度に影響する圧電定数d33を考慮して、圧電体のサイズを決定することが望ましい。
【0032】
図7は、本発明の第1の実施形態に係る超音波探触子において用いられる振動子の第2の変形例を示す側面図である。第2の変形例においては、3種類の圧電体A〜Cが用いられる。振動子2は、バッキング材1(図1)上に配置された個別電極2aと、個別電極2a上に並列に配置された3種類の圧電体A〜Cを含む圧電体層2bと、圧電体層2b上に配置された共通電極2cとを含んでいる。圧電体層2bにおいて、エレベーション方向(Y軸方向)に隣接する2つの圧電体の間には、絶縁体2dが充填されている。さらに、4種類以上の圧電体を用いるようにしても良い。
【0033】
次に、図2に示す振動子の製造方法について説明する。
図8は、図2に示す振動子の製造方法を説明するための図である。
まず、図8の(a)に示すように、周波数定数の異なる圧電体A及びBの各々をスライス片に加工し、それらを交互に配列して、接着剤又はエポキシ樹脂等の充填材(絶縁体2d)を用いて接着することにより、圧電体層2bが形成される。ここで、圧電体A及びBの長さL及びL(Y軸方向)は、例えば、0.30mmであり、圧電体A及びBの厚さt(Z軸方向)は、例えば、0.60mmである。
【0034】
次に、図8の(b)に示すように、圧電体層2bの下面及び上面に、個別電極2a及び共通電極2cがそれぞれ形成される。次に、ダイシングソーを用いて、個別電極2a及び共通電極2cが形成された圧電体層2bを、一点鎖線に沿って所定の幅で切断することにより、図8の(c)に示すような振動子が完成する。圧電体層2bの幅W(X軸方向)は、例えば、0.20mmである。
【0035】
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。第2の実施形態に係る超音波探触子は、第1の実施形態に係る超音波探触子の1次元振動子アレイにおいて、積層型の振動子を用いたものである。その他の点に関しては、第1の実施形態と同様である。
【0036】
図9は、本発明の第1の実施形態と第2の実施形態とにおける振動子の構造を比較して示す図である。第1の実施形態においては、図9の(a)に示すように、振動子が、個別電極2aと共通電極2cとの間に並列に配置された2種類の圧電体A及びBを含んでいる。
【0037】
一方、第2の実施形態においては、図9の(b)に示すように、振動子が、下部電極層2eと上部電極層2hとの間に内部電極層2f及び2gを挟んで交互に積層された複数の圧電体Aと、下部電極層2eと上部電極層2hとの間に内部電極層2f及び2gを挟んで交互に積層された複数の圧電体Bと、絶縁膜2iと、第1の側面電極2jと、第2の側面電極(図示せず)とを含んでおり、積層構造を有している。
【0038】
ここで、下部電極層2eは、第1の側面電極2jに接続されていると共に、第2の側面電極から絶縁されている。上部電極層2hは、第2の側面電極に接続されていると共に、第1の側面電極2jから絶縁されている。また、内部電極層2fは、第2の側面電極に接続されていると共に、絶縁膜2iによって第1の側面電極2jから絶縁されている。一方、内部電極層2gは、第1の側面電極2jに接続されていると共に、絶縁膜2iによって第2の側面電極から絶縁されている。複数の電極をこのように形成することにより、3層の圧電体に電界を印加するための3組の電極が並列に接続される。なお、圧電体の層数は、3層に限られず、2層又は4層以上としても良い。
【0039】
このような積層型圧電振動子においては、対向する電極の面積が単層型圧電振動子よりも増加するので、電気的インピーダンスが低下する。従って、同じサイズの単層型圧電振動子と比較して、印加される電圧に対して効率良く動作する。具体的には、圧電体層をN層とすると、圧電体層の数は単層型圧電振動子のN倍となり、各圧電体層の厚さは単層型圧電振動子の1/N倍となるので、振動子の電気インピーダンスは1/N倍となる。従って、圧電体層の積層数を増減させることにより、振動子の電気的インピーダンスを調整できるので、駆動回路又は信号ケーブルとの電気的インピーダンスマッチングを図り易くなり、感度を向上させることができる。
【0040】
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。第3の実施形態に係る超音波探触子は、第1の実施形態に係る超音波探触子の1次元振動子アレイの替わりに、2次元振動子アレイを用いたものである。その他の点に関しては、第1の実施形態と同様である。
【0041】
図10は、本発明の第3の実施形態に係る超音波探触子の内部構造を模式的に示す平面図である。図10においては、圧電体の配列を示すために、共通電極と、音響整合層と、音響レンズとが省略されている。この超音波探触子は、被検体に当接して体腔外走査を行う際に、又は、被検体の体腔内に挿入して体腔内走査を行う際に用いられる。
【0042】
図10に示すように、超音波探触子は、バッキング材1と、バッキング材1上に配置された複数の超音波トランスデューサ(圧電振動子)6と、複数の振動子6の間や周囲に充填されたエポキシ樹脂等の充填材3とを有している。さらに、図1に示すのと同様に、超音波探触子は、振動子6上に設けられた少なくとも1層の音響整合層と、必要に応じて音響整合層上に設けられる音響レンズとを有している。本実施形態においては、X軸方向及びY軸方向に並べられた複数の振動子6が、2次元振動子アレイを構成している。
【0043】
図11は、本発明の第3の実施形態に係る超音波探触子において用いられる振動子の構造を示す斜視図である。振動子6は、バッキング材1(図10)上に配置された個別電極6aと、個別電極6a上に並列に配置された2種類の圧電体A及びBを含む圧電体層6bと、圧電体層6b上に配置された共通電極6cとを含んでいる。圧電体層6bにおいて、隣接する複数の圧電体の間には、接着剤又はエポキシ樹脂等の充填材を含む絶縁体6dが充填されている。
【0044】
圧電体A及びBとしては、第1の実施形態において説明したものと同じものを用いることができる。なお、圧電体A及びBの分極方向はZ軸方向である。また、絶縁体6dは、高絶縁性を有しており、比抵抗が1×1012Ωcm以上であることが望ましい。これによって、個別電極6aと共通電極6cとの間の電気的絶縁が保たれる。また、絶縁体6dのショアー硬度Dは、65よりも小さいことが望ましい。
【0045】
通常、複数の振動子の共通電極6cは、接地電位(GND)に共通接続される。また、複数の振動子の個別電極6aは、例えば、バッキング材1の内部に配置された引出し線を介してケーブル(シールドケーブル)に接続され、さらに、ケーブルを介して超音波診断装置本体内の電子回路に接続される。
【0046】
振動子6は、超音波診断装置本体から供給される駆動信号に基づいて超音波を発生する。また、振動子6は、被検体から伝播する超音波エコーを受信することにより、電気信号を発生する。この電気信号は超音波診断装置本体に出力され、超音波エコーの受信信号として処理される。
【0047】
圧電体A及びBの比誘電率ε33の値が異なる場合には、圧電体Aの部分における静電容量と圧電体Bの部分における静電容量とを均一にするために、圧電体A及びBの比誘電率ε33の値に応じて圧電体A及びBのサイズが異なるようにしても良い。さらに、送受信感度に影響する圧電定数d33を考慮して、圧電体A及びBのサイズを決定することが望ましい。また、3種類以上の圧電体を用いるようにしても良い。
【0048】
次に、図11に示す振動子の製造方法について説明する。
図12は、図11に示す振動子の製造方法を説明するための図である。
まず、図8の(a)に示すように、周波数定数の異なる板状の圧電体A及びBの各々を、LIGA(Lithographie Galvanoformung Abformung)プロセス又はダイシングソーを用いて加工することにより、複数の角柱が2次元状に配置された構造物が作製される。角柱の底面における一辺の長さL(X軸方向及びY軸方向)は、例えば、50μmである。
【0049】
次に、加工された圧電体Aと圧電体Bとを向かい合わせて、圧電体Aの角柱と圧電体Bの角柱とを噛み合わせ、接着剤又はエポキシ樹脂等の充填材(絶縁体6d)を隙間に充填して固定することにより、図12の(b)に示すような複合圧電材料が形成される。ダイシング等によって、複合圧電材料の一部を切り出すことにより、図11に示すような振動子が完成する。
【0050】
図13は、本発明の第3の実施形態に係る超音波探触子において用いられる振動子の変形例を示す平面図であり、図14は、図13に示す振動子の側面図である。圧電体の配列を示すために、図13においては、共通電極7cが省略されており、図14においては、絶縁体7dが省略されている。
【0051】
振動子7は、バッキング材1(図10)上に配置された個別電極7aと、個別電極7a上に並列に配置されたファイバー状の2種類の圧電体A及びBを含む圧電体層7bと、圧電体層7b上に配置された共通電極7cとを含んでいる。圧電体層7bにおいて、隣接する複数の圧電体の間及び周囲には、接着剤又はエポキシ樹脂等の充填材を含む絶縁体7dが充填されている。
【0052】
圧電体A及びBとしては、第1の実施形態において説明したものと同じものを用いることができる。なお、圧電体A及びBの分極方向はZ軸方向である。また、絶縁体7dは、高絶縁性を有しており、比抵抗が1×1012Ωcm以上であることが望ましい。これによって、個別電極7aと共通電極7cとの間の電気的絶縁が保たれる。また、絶縁体7dのショアー硬度Dは、65よりも小さいことが望ましい。
【0053】
圧電体A及びBの比誘電率ε33の値が異なる場合には、圧電体Aの部分における静電容量と圧電体Bの部分における静電容量とを均一にするために、圧電体A及びBの比誘電率ε33の値に応じて圧電体A及びBのサイズや本数が異なるようにしても良い。さらに、送受信感度に影響する圧電定数d33を考慮して、圧電体A及びBのサイズや本数を決定することが望ましい。また、3種類以上の圧電体を用いるようにしても良い。その場合には、PMN−PTとソフト材とハード材とを組み合わせることが有効である。
【0054】
次に、本発明の第4の実施形態について説明する。第4の実施形態に係る超音波探触子は、第3の実施形態に係る超音波探触子の2次元振動子アレイにおいて、積層型の圧電振動子を用いたものである。
【0055】
図15は、本発明の第3の実施形態と第4の実施形態とにおける振動子の構造を比較して示す図である。図15の(a)に示す第3の実施形態においては、圧電振動子が、個別電極6aと共通電極6cとの間に並列に配置された2種類の圧電体A及びBを含んでいる。
【0056】
一方、第4の実施形態においては、図15の(b)に示すように、振動子が、下部電極層6eと上部電極層6hとの間に内部電極層6f及び6gを挟んで交互に積層された複数の圧電体Aと、下部電極層6eと上部電極層6hとの間に内部電極層6f及び6gを挟んで交互に積層された複数の圧電体Bと、絶縁膜6iと、第1の側面電極6jと、第2の側面電極6kとを含んでおり、積層構造を有している。
【0057】
ここで、下部電極層6eは、第2の側面電極6kに接続されていると共に、第1の側面電極6jから絶縁されている。上部電極層6hは、第1の側面電極6jに接続されていると共に、第2の側面電極6kから絶縁されている。また、内部電極層6fは、第1の側面電極6jに接続されていると共に、絶縁膜6iによって第2の側面電極6kから絶縁されている。一方、内部電極層6gは、第2の側面電極6kに接続されていると共に、絶縁膜6iによって第1の側面電極6jから絶縁されている。複数の電極をこのように形成することにより、3層の圧電体に電界を印加するための3組の電極が並列に接続される。なお、圧電体の層数は、3層に限られず、2層又は4層以上としても良い。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、医療用や構造物探傷用の超音波診断装置において超音波を送信及び/又は受信する複数の超音波トランスデューサを含む超音波探触子において利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る超音波探触子の内部構造を模式的に示す斜視図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る超音波探触子において用いられる振動子を示す側面図である。
【図3】図2に示す振動子において第1組の圧電体を用いた第1の実施例の周波数特性を示す図である。
【図4】図2に示す振動子において第2組の圧電体を用いた第2の実施例の周波数特性を示す図である。
【図5】本発明の各実施形態において使用することができる圧電材料の性能を示す表である。
【図6】本発明の第1の実施形態に係る超音波探触子において用いられる振動子の第1の変形例を示す側面図である。
【図7】本発明の第1の実施形態に係る超音波探触子において用いられる振動子の第2の変形例を示す側面図である。
【図8】図2に示す振動子の製造方法を説明するための図である。
【図9】本発明の第1の実施形態と第2の実施形態とにおける振動子の構造を比較して示す図である。
【図10】本発明の第3の実施形態に係る超音波探触子の内部構造を模式的に示す平面図である。
【図11】本発明の第3の実施形態に係る超音波探触子において用いられる振動子を示す斜視図である。
【図12】図11に示す振動子の製造方法を説明するための図である。
【図13】本発明の第3の実施形態に係る超音波探触子において用いられる振動子の変形例を示す平面図である。
【図14】図13に示す振動子の側面図である。
【図15】本発明の第3の実施形態と第4の実施形態とにおける振動子の構造を比較して示す図である。
【符号の説明】
【0060】
1 バッキング材
2、6、7 超音波トランスデューサ(圧電振動子)
2a、6a、7a 個別電極
2b、6b、7b 圧電体
2c、6c、7c 共通電極
2d、6d、7d 絶縁体
2e、6e 下部電極層
2f、6f 内部電極層
2g、6g 内部電極層
2h、6h 上部電極層
2i、6i 絶縁膜
2j、6j 第1の側面電極
6k 第2の側面電極
3 充填材
4a、4b 音響整合層
5 音響レンズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波を送信及び/又は受信する複数の振動子を含む振動子アレイであって、前記複数の振動子の各々が、第1の電極と第2の電極との間に並列に配置されて互いに異なる周波数定数を有する複数の圧電体を含む、前記振動子アレイと、
前記振動子アレイの第1の面上に配置された少なくとも1層の音響整合層と、
前記振動子アレイの第1の面と反対側の第2の面上に配置されたバッキング材と、
を具備する超音波探触子。
【請求項2】
前記少なくとも1層の音響整合層上に配置された音響レンズをさらに具備する、請求項1記載の超音波探触子。
【請求項3】
前記複数の振動子の各々において、1×1012Ωcm以上の比抵抗を有する接着剤又は充填材が前記複数の圧電体間に充填されている、請求項1又は2記載の超音波探触子。
【請求項4】
前記複数の圧電体の各々が、圧電単結晶と圧電セラミックとの内のいずれか1つを含む、請求項1〜3のいずれか1項記載の超音波探触子。
【請求項5】
前記複数の圧電体が、複数の異なる周波数特性を有する超音波出力をそれぞれ生じ、前記複数の異なる周波数特性の内で隣接する2つの周波数特性が交差する周波数において、前記隣接する2つの周波数特性の各々における超音波出力がそれぞれのピーク値の0.5倍以上である、請求項1〜4のいずれか1項記載の超音波探触子。
【請求項6】
前記複数の圧電体が、複数の異なる比誘電率をそれぞれ有し、比誘電率が小さい方の圧電体が、比誘電率が大きい方の圧電体よりも、前記第1及び第2の電極との間で大きな接触面を有する、請求項1〜5のいずれか1項記載の超音波探触子。
【請求項7】
前記複数の振動子の各々が、前記第1の電極と前記第2の電極との間に少なくとも1つの内部電極層を挟んで交互に積層された複数の第1の圧電体と、前記第1の電極と前記第2の電極との間に前記少なくとも1つの内部電極層を挟んで交互に積層された複数の第2の圧電体とを含む、請求項1〜6のいずれか1項記載の超音波探触子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate


【公開番号】特開2009−82385(P2009−82385A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−255358(P2007−255358)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】