説明

超音波流量計測装置の校正方法及びその校正装置

【課題】原子炉に取り付けられた状態で精度良く校正を行うことができる超音波流量計測装置の校正方法を提供する。
【解決手段】超音波流量計測装置1はRPV11の外面に取り付けられる。給水ポンプ、浄化系ポンプ及びインターナルポンプ14を停止させる。超音波流量計測装置1の校正時に補助流量計測装置7をRPV11内のダウンカマ15内に挿入し、補助流量計測装置7で炉心流量を計測する。計測されたその炉心流量が0(または0に近い十分小さい値)であることを確認し、炉心12への冷却水の供給が停止されたと判定する。冷却水の供給が停止されたことが確認されたとき、超音波流量計測装置1で計測された炉心流量の校正を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波流量計測装置の校正方法及びその校正装置に係り、特に、沸騰水型原子炉(BWR)の炉心流量を計測する超音波流量計測装置を校正するのに好適な超音波流量計測装置の校正方法及びその校正装置に関する。
【背景技術】
【0002】
強制循環型BWRでは、炉心への冷却水(冷却材)の供給に複数のインターナルポンプ(または複数の再循環ポンプ)を用いている。炉心に供給される冷却水流量(炉心流量)の計測は、個々のインターナルポンプから吐出される冷却水の流量を計測し、計測されたそれらの流量の合計から炉心流量を計算することによって行われる。個々のインターナルポンプの流量は、インペラの上流と下流の差圧を計測し、事前の試験等で得られた差圧と流量との関係式を用いて計算することによって、求めている。このようなインターナルポンプの流量計測に用いられる差圧式流量計は、圧力損失を伴うが、インターナルポンプにより冷却水を強制的に循環させることができるので炉心流量の確保には問題はない。
【0003】
一方、炉心内の冷却水とダウンカマ内の冷却水の密度差によって生じる冷却水の自然循環流を利用する自然循環型原子炉では、冷却水を循環させるためのポンプを備えていない。所定流量の炉心流量を確保するためには、原子炉において冷却水が循環する流路内の圧力損失を極力抑える必要がある。したがって、自然循環型原子炉において、圧力損失が発生しない超音波流量計の採用が検討されている。
【0004】
超音波流量計は、超音波信号の伝播時間差を計測して流量を計算するので、圧力損失が発生しないのが特長である。また、超音波流量計は、差圧式流量計に比べて計測精度が高く、経年変化も小さいと期待されている。
【0005】
原子炉の運転では、給水流量、炉心流量などが計測誤差を含めて安全基準を満たすように制御される。もし、これらの計測精度がさらに向上すれば安全基準に対する余裕が大きくなり、その分、原子炉出力を増加させても安全基準を満たして運転することが可能になる。これは、原子炉の経済的なメリットを増大させることにつながる。
【0006】
このような事情から、自然循環型原子炉だけでなく強制循環型原子炉においても、差圧式流量計に代わり超音波流量計の導入が検討されている。給水流量の計測においては超音波流量計が採用されている原子炉もある。強制循環型原子炉の炉心流量の計測に超音波流量計を用いた例が、特開2003−329792号公報及び特開2006−53082号公報に記載されている。
【0007】
超音波流量計は、経年変化が少ないと考えられているが、校正が不要になるわけではない。例えば、超音波流量計に設けられた超音波探触子を押さえ付ける荷重及び周囲の冶具などの環境に起因する誤差が知られている。これらの環境の経年変化の影響、及びその他の誤差要因も考慮しなければならない。計測精度を維持するためには、定期的に健全性の確認または校正作業が必要である。
【0008】
特開2005−241407号公報は、実流校正設備による実測値を用いて超音波流量計の測定値を校正することを記載している。特開2005−257636号公報は、原子力発電プラントの給水配管内に供給した反射体(例えばヘリウム、ネオン、アルゴン等の希ガス)を用いた超音波流量計の校正方法について記載している。この校正方法は、反射体に照射した超音波の反射エコーを受信し、受信した反射エコーの信号、及び給水配管内の流速分布に基づいて流量を求めるものである。
【0009】
【特許文献1】特開2003−329792号公報
【特許文献2】特開2006−53082号公報
【特許文献3】特開2005−241407号公報
【特許文献4】特開2005−257636号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特開2005−241407号公報に記載された校正方法は、超音波流量計を配管から取り外して実流校正設備により行っている。構成が終わった超音波流量計を配管に取り付けた場合には、実流校正設備で校正しているときにおける超音波探触子を押さえ付ける荷重が変わる可能性がある。したがって、超音波流量計の測定値を、実流校正設備で得た構成データを用いて補正した場合には、補正によって得られた流量が実際の流量を精度良く示すことにはならない。
【0011】
特開2005−257636号公報に記載された超音波流量計の校正方法は、超音波流量計を給水配管から取り外す必要がないので、特開2005−241407号公報で生じる問題点は解消する。しかしながら、反射体としての希ガスを給水配管内に注入しているため、この希ガスが炉心内に到達し、炉心内のボイド量を増加させ、原子炉出力に影響を与える可能性がある。特に、炉心流量を測定する、原子炉圧力容器に取り付けられた超音波流量計に対して、特開2005−257636号公報に記載された校正方法を適用する場合には、希ガスが炉心に導かれやすくなる。
【0012】
本発明の目的は、原子炉に取り付けられた状態で精度良く校正を行うことができる超音波流量計測装置の校正方法及びその校正装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記した目的を達成する本発明の特徴は、給水ポンプ、浄化系ポンプ、及び炉心に冷却材を供給するポンプを停止させ、原子炉容器に取り付けられた超音波流量計測装置とは別の補助流量計測装置を用いて第1炉心流量を計測し、計測された第1炉心流量が実質的に0になった後、超音波流量計測装置によって第2炉心流量を計測し、計測された第2炉心流量が実質的に0になっていることを確認することにある。
【0014】
計測された第1炉心流量が実質的に0になった後に超音波流量計測装置によって第2炉心流量を計測しているので、原子炉容器内に形成された、冷却材の流量が実質的に0である超音波送信領域に、超音波流量計測装置から超音波を送信することができる。このため、計測された第2炉心流量が実質的に0になっていることを容易に確認することができる。したがって、原子炉に取り付けられた状態で、超音波流量計測装置の校正を精度良く行うことができる。
【0015】
上記した目的は、原子炉容器と炉心の間に形成されるダウンカマ内に冷却材遮断装置を挿入し、冷却材遮断装置内の冷却材領域に、超音波流量計測装置の超音波探触子から超音波を送信して他の超音波探触子で反射信号を受信して炉心流量を計測し、計測された炉心流量が実質的に0になっていることを確認することによっても達成される。
【0016】
冷却材遮断装置をダウンカマ内に挿入することによって、炉心に燃料集合体が存在してダウンカマ内で冷却材が流れている場合であっても、冷却材の流量が実質的に0である超音波送信領域を、冷却材遮断装置内に、すなわち、ダウンカマ内に形成することができる。このため、その超音波送信領域に超音波流量計測装置から超音波を送信するので、計測された炉心流量が実質的に0になっていることを容易に確認することができる。したがって、原子炉に取り付けられた状態で、超音波流量計測装置を精度良く校正することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、原子炉に取り付けられた状態で、超音波流量計測装置の校正を精度良く行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の実施例を以下に説明する。
【実施例1】
【0019】
本発明の好適な一実施例である超音波流量計測装置の校正方法を、図1から図9を用いて以下に説明する。まず、本実施例に用いられる超音波流量計測装置及びこの計測装置が適用される沸騰水型原子炉(BWR)プラントについて説明する。BWRは、原子炉圧力容器(以下、RPVという)11を有し、RPV11内に炉心12及び炉心シュラウド13を配置している。複数のインターナルポンプ14がRPV11に設置されている。複数の燃料集合体(図示せず)が炉心12内に装荷されている。炉心シュラウド13は炉心12の周囲を取り囲んでいる。RPV11と炉心シュラウド13の間には、環状のダウンカマ15が形成される。各インターナルポンプ14のインペラは、ダウンカマ15内に配置される。RPV11内で炉心12の上方に気水分離器18及び蒸気乾燥器19が設置されている。
【0020】
インターナルポンプ14の駆動によって、ダウンカマ15内の冷却水が昇圧される。この冷却水は、下部プレナム17を通って炉心12に供給される。炉心12に達した冷却水は、燃料集合体に含まれる核燃料物質の核分裂によって発生する熱で加熱され、一部が蒸気になる。この蒸気は、気水分離器18及び蒸気乾燥器19を通過する際に湿分が除去され、RPV11から排出されてタービン(図示せず)に供給される。タービンは、この蒸気によって回転され、発電機(図示せず)を回転させる。タービンから排出された蒸気は復水器(図示せず)で凝縮され、水になる。この水は、給水ポンプで昇圧され、給水としてRPV11内に戻される。気水分離器18で分離された冷却水は、ダウンカマ15内で給水と混合され、ダウンカマ15内を下降する。図示されていないが、RPV11内の冷却水を浄化する原子炉浄化系が設けられている。この原子炉浄化系は、浄化系ポンプ及び浄化装置を有する。RPV11内の冷却水が浄化系ポンプによって浄化装置に供給され、浄化装置で浄化された冷却水がRPV11内に戻される。
【0021】
超音波流量計測装置1は、ダウンカマ15内を下降する冷却水(冷却材)の流量を計測し、RPV11に設置される。超音波流量計測装置1は、超音波探触子2、送受信制御装置3、流量計算装置4及び記憶装置5を有する。一対の超音波探触子2がRPV11の外面に設置される。一対の超音波探触子2、すなわち、超音波探触子2a,2bは、図2に示すように、くさび材10などの冶具を用いてRPV11の外面に取り付けられている。超音波探触子2a,2bは、高さ方向にずれており、水平方向に対してそれぞれθ度傾斜して配置される。
【0022】
送受信制御装置3は、各超音波探触子2の超音波信号の送受信を制御する装置である。送受信制御装置3は、一方の超音波探触子2a(または2b)から超音波信号を送信させ、炉心シュラウド13で反射して他方の超音波探触子2b(または2a)で受信した超音波の反射信号に基づいて、送信された超音波信号の伝播時間を計測する。この伝播時間は、一方の超音波探触子2a(または2b)から送信された超音波信号が炉心シュラウド13で反射して他方の超音波探触子2b(または2a)に入射されるまでの時間である。流量計算装置4は、送受信制御装置3で計測した超音波信号の伝播時間の差からダウンカマ15内を流れる冷却水の流量を算出する。記憶装置5は、流量計算装置4において冷却水の流量を算出するために用いるパラメータを記憶している。このパラメータは、RPV11と炉心シュラウド13間の距離(図2、図3におけるL)、超音波探触子2の取り付け角度θ、ダウンカマ15の流路横断面積、伝播時間差オフセットなどである。
【0023】
図4に示すフローチャートに基づき、超音波流量計測装置で実行される冷却水流量の計測について説明する。超音波探触子2aから超音波探触子2bまでの超音波の伝播時間tabの計測が行われる(ステップ21)。送受信制御装置3はある時間を持った周期的に超音波探触子2aから超音波を送信させる。この超音波の炉心シュラウド13からの反射信号が超音波探触子2bで受信され、この反射信号を入力した送受信制御装置3が伝播時間tabを計測する。この伝播時間tabは(1)式で求められる。
【0024】
ab=2L/{cosθ(C+Vsinθ)}+tn ……(1)
ここで、LはRPV11と炉心シュラウド13の間の距離、θは超音波探触子の取り付け角度、Vは冷却水の流速、Cは音速及びtnは冷却水以外の部分(例えばRPV11の側壁など)を超音波が伝播するために要する時間である。
【0025】
超音波探触子2bから超音波探触子2aまでの超音波の伝播時間tbaの計測が行われる(ステップ22)。送受信制御装置3は超音波探触子2aから超音波を送信させた後、所定時間経過後に、超音波探触子2bから超音波を送信させる。超音波探触子2bからの超音波の送信は超音波探触子2aからの超音波の送信間隔の間に行われる。超音波探触子2bから送信された超音波の炉心シュラウド13からの反射信号が超音波探触子2aで受信され、この反射信号を入力した送受信制御装置3は、(2)式に基づいて伝播時間tbaを求める。
【0026】
ba=2L/{cosθ(C−Vsinθ)}+tn ……(2)
伝播時間tab及びtbaを用いて(3)式により伝播時間との差Δtを算出する(ステップ23)。流量計算装置4は、送受信制御装置3から入力した伝播時間tab及びtba、及び(3)式を用いて伝播時間差Δtを算出する。
【0027】
Δt=tba−tab=4LVsinθ/C2cosθ ……(3)
冷却水の流速Vを算出する(ステップ24)。流量計算装置4は、(3)式により算出した伝播時間差Δt、及び(4)式を用いて流速Vを算出する。
【0028】
V=C2Δt/4L tanθ ……(4)
冷却水流量(炉心流量)Wを算出する(ステップ25)。流量計算装置4は、算出した流速Vを(5)式に代入することによってダウンカマ15内を下降する冷却水流量Wを算出する。Sはダウンカマ15の流路横断面積である。ダウンカマ15内を下降する冷却水
W=SV=SC2Δt/4Ltanθ ……(5)
の流量Wは、ダウンカマ15を下降する冷却水が炉心12に導かれるため、炉心流量と等価である。
【0029】
伝播時間差Δtの誤差要因として、超音波探触子2のRPV11外面への取り付け状態に起因した送受信波形の変化がある。超音波探触子2a,2bはRPV11の外面に押さえ付けられて取り付けられている。超音波探触子2a,2bが送信する超音波の振幅、及び超音波探触子2b,2aが受信する反射信号の振幅は、図5に示すように、超音波探触子2a,2bを押し付ける荷重によって変化することが知られている。例えば、受信側の超音波探触子2が受信した超音波の受信信号の強度が設定したしきい値に達したときに受信信号が超音波探触子に到達したと判定する場合、受信信号の振幅によって検出する時間がずれる(図6)。また、周囲の冶具などの環境により周波数が若干変化することもあり、検出する時間がずれる要因となる。
【0030】
このような伝播時間差Δtの誤差は超音波探触子2の取り付け時に補正を行っておく必要がある。すなわち、伝播時間差オフセットをΔt0とすると、流量Wは(6)式で表される。
【0031】
W=SV=SC2(Δt−Δt0)/4Ltanθ ……(6)
超音波流量計測装置は、経年変化などが少ない流量計測装置であると考えられている。しかしながら、前述のように伝播時間差オフセットΔt0が超音波探触子2に加えられた荷重及び周囲の冶具によって変化する可能性があるので、超音波流量計測装置に経年変化がないとは言えない。また、それ以外の要因によって伝播時間差Δtの誤差が生じる可能性も考えると、超音波流量計測装置を定期的に検査またはその測定値を校正する必要がある。
【0032】
校正はある流量Wにおいて(6)式が成立するようにΔt0を決定することである。この流量Wは任意の値でもよいが、W=0のときにΔt0=Δtとなるように補正することが望ましい。すなわち、BWRの定期検査時において、超音波探触子2をRPV11の外面に取り付けた状態で炉心流量を0にし、この状態で超音波流量計測装置1を検査、校正する。
【0033】
本実施例の超音波流量計測装置の校正方法に用いられる超音波流量計測装置の校正装置20は、図1に示すように、循環流停止装置6、補助流量計測装置7、流量判定装置8及び健全性判定装置9を備えている。
【0034】
定期検査時に炉心12から燃料集合体が取り出されている場合は、炉心12で熱が発生しないので、RPV11内で冷却水の密度差による自然循環流は発生しない。しかし、給水系ポンプ、冷却材浄化系ポンプ及びインターナルポンプ14の少なくとも1つが駆動されていると、炉心12を流れる冷却水の流量が停止しない。このため、超音波流量計測装置1の校正を行う前にそれらの全てのポンプを停止させることが必要である。循環流量停止装置6は、これらのポンプの駆動を停止させる装置であり、具体的には、BWRプラントに備わっている給水制御装置、冷却材浄化系制御装置および再循環流量制御装置である。超音波炉心流量計の校正時には手動で循環流量停止装置6に停止指令を出す。
【0035】
補助流量計測装置7は、定期検査時にダウンカマ15内に配置してダウンカマ15内を流れる冷却水の流量を計測する装置である。すべてのポンプを停止させてもその流量(炉心流量)がすぐに0になるとは限らないので、その流量が0になったことを確認しなければならない。この補助流量計測装置7は、例えば図7に示すようなプロペラ型流量計7Aであり、ダウンカマ15内に配置される。
【0036】
定期検査時においては、RPV11の上蓋16が取り外され、RPV11の上方の原子炉ウェル30(図8参照)まで冷却水が充填される。原子炉ウェル30は、燃料貯蔵プール31及び機器仮置きプール32に連絡される。燃料貯蔵プール31、原子炉ウェル30及び機器仮置きプール32に沿って運転床上に一対のレール29が設置される。走行台車27及び横行台車28を有する燃料交換機26が、レール29上を移動する。プロペラ型流量計7Aは、燃料交換機26の横行台車28に設けられた巻取り装置(図示せず)から吊り下げられ、原子炉ウェル30を経てダウンカマ15内に挿入されて超音波探触子2aの設置高さよりも少し上の位置に配置される。この位置にプロペラ型流量計7Aが到達したことは、横行台車28に設けられた巻取り装置に取り付けた図示されていないエンコーダ(位置検出装置)の出力信号に基づいて知ることができる。その位置にプロペラ型流量計7Aを配置することによって、プロペラ型流量計7Aは超音波流量計測装置1とほぼ同じ位置で炉心流量を計測することができる。プロペラ型流量計7Aは、計測中、燃料交換機26から吊り下げられている。プロペラ型流量計7Aは、事前に校正済みである。
【0037】
流量判定装置8は、循環流停止装置6の動作を確認し、補助流量計測装置7の流量計測値が0(または0に近い十分小さな値)であることを確認して炉心12への冷却水の供給が停止された(炉心流量が0になった)か、を判定する。
【0038】
健全性判定装置9は、流量計算装置4で算出された炉心流量及び流量停止判定装置8の判定結果を用いて、超音波流量計測装置1が正常であるか、を判定する。例えば、流量判定装置8が給水系ポンプ、冷却材浄化系ポンプ及びインターナルポンプ14が停止されて補助流量計測装置7の流量計測値が0であると判定したとき、炉心流量計算装置4で算出された炉心流量が0である場合、健全性判定装置9は超音波流量計測装置1が正常であると判定する。健全性判定装置9は、給水系ポンプ、冷却材浄化系ポンプ及びインターナルポンプ14が停止されて補助流量計測装置7の流量計測値が0であるときに、炉心流量計算装置4で算出された炉心流量が0でない場合に、超音波流量計測装置1の計測値が異常になっているとして記憶装置5に記憶しているパラメータを変更して炉心流量が0になるように校正する。
【0039】
校正装置20で行われる超音波流量計測装置の健全性確認及び流量校正の各処理を、図9を用いて具体的に説明する。
【0040】
給水ポンプを停止する(ステップ35)。オペレータが操作盤の第1操作ボタンを操作することによって出力される第1操作指令が給水制御装置(循環流量停止装置6)に入力される。第1操作指令を入力した給水制御装置が出力する第1駆動停止制御指令に基づいて給水ポンプの駆動が停止される。浄化系ポンプを停止する(ステップ36)。オペレータが操作盤の第2操作ボタンを操作することによって出力される第2操作指令が冷却材浄化系制御装置(循環流量停止装置6)に入力される。第2操作指令を入力した冷却材浄化系制御装置が出力する第2駆動停止制御指令に基づいて浄化系ポンプの駆動が停止される。インターナルポンプ14を停止する(ステップ37)。オペレータが操作盤の第3操作ボタンを操作することによって出力される第3操作指令が再循環流量制御装置(循環流量停止装置6)に入力される。第3操作指令を入力した再循環流量制御装置が出力する第3駆動停止制御指令に基づいてインターナルポンプの駆動が停止される。
【0041】
補助流量計測装置9を用いて第1炉心流量を計測する(ステップ38)。プロペラ型流量計7Aで超音波探触子2a近傍でダウンカマ15内を流れる冷却水の流量、すなわち、炉心流量を計測する。この炉心流量の計測値は流量判定装置8に伝えられる。補助流量計測装置9であるプロペラ型流量計7Aで計測された炉心流量を、便宜的に第1炉心流量という。計測された第1炉心流量が第1設定値以下であるかを判定する(ステップ39)。流量判定装置8が入力した第1炉心流量が第1設定値(0に十分近い値であり、好ましくは0)以下になっているかを判定する。第1炉心流量が第1設定値以下になっていないとき、すなわち、ステップ39の判定が「No」であるとき、ステップ38の炉心流量計測が繰り返される。ステップ39の判定が「Yes」であるとき、すなわち、ダウンカマ15内での冷却水の流れが停止されたとき、超音波流量計測装置1で炉心流量を計測する(ステップ40)。このときの伝播時間差をΔt'とする。超音波流量計測装置1で、前述したように、ダウンカマ15内を流れる冷却水の流量、すなわち、炉心流量を計測する。超音波流量計測装置1で計測された炉心流量を、便宜的に第2炉心流量という。この第2炉心流量の計測は、炉心12への冷却水の供給が停止された状態で行われる。
【0042】
第2炉心流量の計測値が第2設定値以下になっているかを判定する(ステップ41)。健全性判定装置9が、超音波流量計測装置1で計測した第2炉心流量の計測値、すなわち、流量計算装置4で算出された第2炉心流量が、第2設定値(0に十分近い値であり、好ましくは0)以下になっているかを判定する。第2炉心流量が第2設定値(0に十分近い値であり、好ましくは0)以下になっているとき、すなわち、ステップ41の判定が「Yes」のとき、ステップ43の判定が成される。超音波流量計測装置1は健全であると判定され(ステップ43)、超音波流量計測装置1の検査が終了する。
【0043】
ステップ41の判定が「No」であるとき、伝播時間差のオフセットΔt0をこのときの伝播時間差Δt'の値に置き換えて校正する(ステップ42)。すなわち、これ以後の第2炉心流量は(7)式で求める。
【0044】
W=SV=SC2(Δt−Δt')/4Ltanθ ……(7)
その後、確認のため再度ステップ40での超音波流量計測装置1による第2炉心流量の計測が行われる。ステップ42の校正により、第2炉心流量は当然0となるので、ステップ41の判定が「Yes」となり、超音波流量計測装置1の検査が終了する。
【0045】
本実施例は、流量判定装置8を設けているので、定期検査時において炉心12への冷却水の供給が停止されたこと、すなわち、炉心流量が実質的に0になったことを確認することができる。計測された第1炉心流量が実質的に0になった後に超音波流量計測装置1によって第2炉心流量を計測することができるので、RPV11内に形成された、冷却水の流量が実質的に0である超音波送信領域(ダウンカマ15)に、超音波流量計測装置1から超音波を送信することができる。このため、本実施例は、超音波流量計測装置1で計測された第2炉心流量が実質的に0になったことを利用して、RPV11に設置された超音波流量計測装置1の健全性を精度良く判定することができるので、超音波流量計測装置1の校正も精度良く行うことができる。
【実施例2】
【0046】
本発明の他の実施例である実施例2の超音波流量計測装置の校正方法を、図10を用いて以下に説明する。超音波流量計測装置1は、沸騰水型自然循環型原子炉のRPV11の外面に取り付けられている。この自然循環型原子炉は、図1に示すBWRにおいてインターナルポンプ14を備えていない構成を有する。
【0047】
この自然循環型原子炉の定期検査時においては、炉心12から全ての燃料集合体が実施例1と同様に取り出されている。本実施例の校正方法では、図10に示すように、ステップ35,36及び38〜43の各処理が実行される。このような本実施例の校正方法は、実施例1で述べた図9に示す校正方法においてステップ37の処理を除いたものである。本実施例の各ステップは実施例1と同じであるので、ここでは説明を省略する。本実施例も実施例1と同様な効果を得ることができる。
【実施例3】
【0048】
本発明の他の実施例である実施例3の超音波流量計測装置の校正方法を、図11から図13を用いて以下に説明する。本実施例の校正方法は、図1に示すBWRプラントにおいて炉心12に燃料集合体が装荷されているときに実施される。本実施例の校正方法は、炉心12に燃料集合体が装荷されているため、燃料集合体から発生する熱の除去を目的とする残留熱除去系を駆動した状態で行う必要がある。このため、本実施例の校正方法は、実施例1で用いた補助流量計測装置9の替りに冷却水流遮断装置45を用いて実行される。冷却水流遮断装置45は、対向する2枚の側壁部材46、対向する天井部材47及び底部材48を有している。天井部材47は各側壁部材46の上端に取り付けられ、底部材48は各側壁部材46の下端に取り付けられる。冷却水流遮断装置45は、内部に、一対の側壁部材46、天井部材47及び底部材48で取り囲まれた内部領域(超音波送信領域)49を形成している。内部領域49の前後はそれぞれ開放されている。すなわち、冷却水流遮断装置45は内部領域49とRPV11の間、及び内部領域49と炉心シュラウド13の間にそれぞれ側壁部材を設けていない。天井部材47及び底部材48の、RPV11の半径方向における長さRは、冷却水流遮断装置45のダウンカマ15内への挿入性を考慮して、RPV11と炉心シュラウド13間の距離Lよりも若干短いが、距離Lと実質的に同じである。底部材48の上面と天井部材47の下面との間の距離は、高さ方向における超音波探触子2aの位置及び超音波探触子2bの位置の間の距離よりも大きくなっている。天井部材47及び底部材48の、RPV11の周方向における幅は、例えば、超音波探触子2のその方向における幅よりも少し大きくなっている。
【0049】
なお、残留熱除去系は、原子炉が停止された状態で炉心12内に存在する燃料集合体から発生する熱を除去する系統であり、RPV11内の冷却水を残留熱除去系のポンプにより熱交換器(冷却器)に供給して冷却し、冷却された冷却水をRPV11内に戻す機能を有する。
【0050】
炉心12に燃料集合体が存在するので、燃料集合体から常に発生する少量の熱によって炉心12内の冷却水は加熱される。このためき、炉心12内の冷却水の温度はダウンカマ15内の冷却水のそれよりも高くなり、両者の密度差によって生じる自然循環力により炉心12及びダウンカマ15を冷却水が循環する。すなわち、給水ポンプ、浄化系ポンプ及びインターナルポンプ14を停止しても炉心12へ冷却水の流入は停止しない。したがって、本実施例は、冷却水流遮断装置45を用いて超音波流量計測装置1の校正を行う。
【0051】
本実施例における超音波流量計測装置の校正装置は、冷却水流遮断装置45及び健全性判定装置9Aを備えている。
【0052】
本実施例の超音波流量計測装置1の校正方法を、図13を用いて詳細に説明する。定期検査時には、RPV11の上蓋16が外されて蒸気乾燥器19及び気水分離器18がRPV11外に取り出される。冷却水流遮断装置45がダウンカマ15内に挿入される(ステップ51)。冷却水流遮断装置45は、燃料交換機26の横行台車28から吊り下げられてダウンカマ15内に降ろされる。冷却水流遮断装置45がRPV11内の冷却水の液面より下方に達したとき、冷却水が内部領域49内に流入する。流量計測領域の冷却水流を遮断する(ステップ52)。冷却水流遮断装置45は、ダウンカマ15内において、内部領域49の前後がRPV11及び炉心シュラウド13に面し、RPV11に設置された超音波探触子2a及び2bの高さ方向におけるそれぞれの位置が底部材48の上面と天井部材47の下面との間になるように、配置される。このような位置に冷却水流遮断装置45が配置されたことは、横行台車28に設けられた巻取り装置に取り付けた図示されていないエンコーダ(位置検出装置)の出力信号に基づいて知ることができる。そのように配置された冷却水流遮断装置45の外側のダウンカマ15内では冷却水が下方に向かって流れている。しかしながら、天井部材47及び底部材48の長さRが距離Lと実質的に同じであるので、冷却水流遮断装置45の内部領域49内では、冷却水が流れていなく滞留している。すなわち、内部領域49は、冷却水流遮断装置45によって冷却水流が遮断され、冷却水の流量が0の状態になっている。
【0053】
超音波流量計測装置1による炉心流量の計測が行われる(ステップ53)。RPV11の外面に設置された超音波流量計測装置1の超音波探触子2aから内部領域49に向かって超音波を送信し、超音波探触子2bで炉心シュラウド13からの反射信号を受信する。逆に、超音波探触子2bから内部領域49に向かって超音波を送信し、超音波探触子2aで炉心シュラウド13からの反射信号を受信する。このようにして、図4で述べた流量計測が行われ、炉心流量Wが算出される。算出された炉心流量Wは健全性判定装置9Aに入力される。
【0054】
炉心流量の計測値が設定値以下になっているかを判定する(ステップ54)。ステップ54の処理は前述のステップ41と同じ処理である。健全性判定装置9Aが、超音波流量計測装置1で計測した炉心流量W、すなわち、流量計算装置4で算出された炉心流量Wが、設定値(0に十分近い値であり、好ましくは0)以下になっているかを判定する。炉心流量Wが設定値(0に十分近い値であり、好ましくは0)以下になっているとき、すなわち、ステップ54の判定が「Yes」のとき、ステップ56の判定が成される。超音波流量計測装置1は健全であると判定され(ステップ56)、超音波流量計測装置1の検査が終了する。
ステップ41の判定が「No」であるとき、伝播時間差のオフセットΔt0をこのときの伝播時間差Δt'の値に置き換えて校正する(ステップ55)。すなわち、これ以後の第2炉心流量は(7)式で求める。その後、確認のため再度ステップ53での超音波流量計測装置1による第2炉心流量の計測が行われる。ステップ55の校正により、第2炉心流量は当然0となるので、ステップ54の判定が「Yes」となり、超音波流量計測装置1の検査が終了する。
【0055】
本実施例は、炉心12に燃料集合体が存在してダウンカマ15内で冷却水が流れている場合であっても、冷却水遮断装置45をダウンカマ15内に挿入することによって、その冷却水の流れを遮断して冷却水の流量が実質的に0である超音波送信領域を、冷却水遮断装置45内に、すなわち、ダウンカマ15内に形成することができる。このため、その超音波送信領域、すなわち、冷却水の流量が実質的に0である内部領域49にRPV11に設置された超音波流量計測装置1から超音波を送信し、内部領域49を通して反射してきた反射信号を超音波流量計測装置1で受信して炉心流量を計測することができる。本実施例は、計測された炉心流量が実質的に0になっていることを容易に確認することができるので、炉心12内に燃料集合体が存在してダウンカマ15内を冷却水が流れていても、実施例1と同様にRPV11に設置した超音波流量計測装置1の校正を精度良く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の好適な一実施例である実施例1の、BWRプラントに適用した超音波流量計測装置の校正装置の構成図である。
【図2】図1に示す超音波流量計測装置の各超音波探触子の、RPVの軸方向における配置状態を示す説明図である。
【図3】図1に示す超音波流量計測装置の各超音波探触子の、RPVの周方向における配置状態を示す説明図である。
【図4】図1に示す超音波流量計測装置における流量計測手順を示すフローチャートである。
【図5】超音波探触子に加える荷重と超音波信号の振幅の関係を示す特性図である。
【図6】超音波信号の検出誤差を示す説明図である。
【図7】実施例1の超音波流量計測装置の校正装置を用いた校正方法において補助流量計測装置をダウンカマ内に挿入した状態を示す説明図である。
【図8】BWRプラントの運転床上に配置した燃料交換機を示す平面図である。
【図9】実施例1の超音波流量計測装置の校正方法における校正手順を示すフローチャートである。
【図10】本発明の他の実施例である実施例2の、沸騰水型自然循環型原子炉に適用した超音波流量計測装置の校正方法の校正手順を示すフローチャートである。
【図11】本発明の他の実施例である実施例3の、BWRプラントに適用した超音波流量計測装置の校正方法を示す説明図である。
【図12】実施例3の校正方法に用いられる冷却水流遮断装置の構成図である。
【図13】実施例3の校正方法の校正手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0057】
1…超音波炉心流量計測装置、2,2a,2b…超音波探触子、3…送受信制御装置、4…流量計算装置、6…循環流停止装置、7…補助流量計測装置、8…流量判定装置、9,9A…健全性判定装置、11…原子炉圧力容器、12…炉心、13…炉心シュラウド、14…インターナルポンプ、15…ダウンカマ、20…校正装置、45…冷却水流遮断装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉心を内蔵する原子炉容器に取り付けられた超音波流量計測装置を校正する超音波流量計測装置の校正方法において、
給水ポンプ、浄化系ポンプ、及び前記炉心に冷却材を供給するポンプを停止させ、
前記超音波流量計測装置とは別の補助流量計測装置を用いて第1炉心流量を計測し、
計測された第1炉心流量が実質的に0になった後、前記超音波流量計測装置によって第2炉心流量を計測し、
計測された第2炉心流量が実質的に0になっていることを確認することを特徴とする超音波流量計測装置の校正方法。
【請求項2】
計測された前記第2炉心流量が実質的に0になっていないとき、前記超音波流量計測装置によって計測された前記第2炉心流量を校正する請求項1に記載の超音波流量計測装置の校正方法。
【請求項3】
前記補助流量計測装置が、前記原子炉容器と前記炉心の間に形成されるダウンカマ内に挿入される請求項1または請求項2に記載の超音波流量計測装置の校正方法。
【請求項4】
炉心を内蔵する原子炉容器に取り付けられた超音波流量計測装置を校正する超音波流量計測装置の校正方法において、
前記原子炉容器と前記炉心の間に形成されるダウンカマ内に冷却材遮断装置を挿入し、
前記冷却材遮断装置内の冷却材領域に前記超音波流量計測装置の超音波探触子から超音波を送信して他の超音波探触子で反射信号を受信して炉心流量を計測し、
計測された炉心流量が実質的に0になっていることを確認することを特徴とする超音波流量計測装置の校正方法。
【請求項5】
計測された前記炉心流量が実質的に0になっていないとき、前記超音波流量計測装置によって計測された前記炉心流量を校正する請求項4に記載の超音波流量計測装置の校正方法。
【請求項6】
炉心を内蔵する原子炉容器に取り付けられた超音波流量計測装置を校正する超音波流量計測装置の校正装置において、
給水ポンプ、浄化系ポンプ、及び前記炉心に冷却材を供給するポンプを停止させる冷却材流停止装置と、
前記超音波流量計測装置とは別の、第1炉心流量を計測する補助流量計測装置と、
計測された前記第1炉心流量が実質的に0になっているかを判定する流量判定装置と、
前記第1炉心流量が実質的に0になっているとの判定情報が前記流量判定装置から入力されたとき、前記超音波流量計測装置で計測された第2炉心流量が実質的に0になっていることを確認する健全性判定装置とを備えたことを特徴とする超音波流量計測装置の校正装置。
【請求項7】
前記健全性判定装置が、計測された前記第2炉心流量が実質的に0になっていないとき、前記超音波流量計測装置によって計測された前記第2炉心流量を校正する請求項6に記載の超音波流量計測装置の校正装置。
【請求項8】
炉心を内蔵する原子炉容器に取り付けられた超音波流量計測装置を校正する超音波流量計測装置の校正装置において、
前記原子炉容器と前記炉心の間に形成されるダウンカマ内に挿入されて前記ダウンカマ内に冷却材の流量が実質的に0になる超音波送信領域を形成する冷却材遮断装置と、
前記ダウンカマ内の前記超音波送信領域に超音波を送信することにより前記超音波流量計測装置で計測された炉心流量が実質的に0になっていることを確認する健全性判定装置とを備えたことを特徴とする超音波流量計測装置の校正装置。
【請求項9】
前記健全性判定装置が、計測された前記炉心流量が実質的に0になっていないとき、前記超音波流量計測装置によって計測された前記炉心流量を校正する請求項8に記載の超音波流量計測装置の校正装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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