説明

超音波照射による6価ウランの還元法

【課題】
2-プロパノールを少量添加した4価プラチナイオン水溶液内に超音波照射することによって、4価プラチナイオンを金属プラチナへ還元しているが、同法のように2-プロパノールを添加しただけでは、超音波照射によって6価ウランを4価ウランへ還元するに足る還元力を得ることができない。
【解決手段】
本発明は、貴金属固体触媒を利用することにより超音波照射のもたらす還元力を増大し、水溶液中の6価ウランを4価ウランへの還元を達成するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用済核燃料の再処理工程におけるウランの原子価調整法に関するものであり、このために外部からの超音波照射を利用せんとするものである。
【背景技術】
【0002】
本発明は、水溶液中における6価ウランを4価ウランに還元しようとするものである.現行のPUREX法による核燃料再処理工程においては、4価プルトニウムを外部からの4価ウラン添加により3価プルトニウムに還元し、ウランとプルトニウムを分離する。上記工程で添加する4価ウランの製造方法として、安定な6価ウラン水溶液を水素ガスの導入によって還元処理する手法がとられているが、水素ガスは爆発性があることや、構造材に使用される金属材料の脆化をおよぼすため、高い安全性を必要とする使用済核燃料再処理プロセスの問題点となっている。
【0003】
また、実験室規模での6価ウランの還元法としては、亜鉛等の金属添加法があるが、同法では還元後に溶液内に金属イオンが再処理工程の妨害元素として残存するため、核燃料再処理への適用は困難である。
【0004】
更にまた、超音波照射による還元力を利用し、水溶液中の金属イオンを還元する手法として、カルーソ氏らによる4価プラチナイオンの金属プラチナへの還元法などが知られている。
【非特許文献1】Colloids and Surfaces A, 169 (2000), 219
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明では、外部からの超音波照射によって得られる還元力を利用し、水溶液中の6価ウランを4価ウランに還元せんとするものである.本発明は、水素ガスのような爆発性ガスを使用せず、かつ上述の金属添加法のように残存金属を溶液に残さない還元方法を可能にする技術である。
【0006】
超音波照射による還元力を利用し、水溶液中の金属イオンを還元する手法として、上述の非特許文献1などが知られている。この手法では2-プロパノールを少量添加した4価プラチナイオン水溶液内に超音波照射することによって、4価プラチナイオンを金属プラチナへ還元しているが、同法のように2-プロパノールを添加しただけでは、超音波照射によって6価ウランを4価ウランへ還元するに足る還元力を得ることができない。
【0007】
本発明は、貴金属固体触媒を利用することにより超音波照射のもたらす還元力を増大し、水溶液中の6価ウランを4価ウランへの還元を達成するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、6価ウランを含む水溶液に貴金属固体触媒を加え、外部から超音波照射を行うことにより、超音波照射による還元力を増大し、6価ウランの4価ウランへの還元が可能になることからなるものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明においては、爆発性のあるガスを使用することなく、外部からの超音波照射のみによって6価ウランを還元できるという優れた特徴を有する。即ち、本発明においては、爆発性の水素ガスを使用しないため、高い安全性を必要とする使用済核燃料再処理プラントへの適用性が高い技術である。さらに外部からの超音波照射を利用することから、放射線が問題となる核燃料再処理における遠隔操作技術としての優れた利点を有する。
【0010】
また、金属添加法のように溶液に金属を添加する必要がないため、廃棄物の発生しない使用済核燃料の再処理法が可能となる。
【0011】
触媒として加える貴金属固体はそのまま回収・再利用可能であること、2-プロパノールの初期添加無く4価ウランの生成が進行すること、および反応の促進のために2-プロパノールを添加した場合においても、添加した2-プロパノールも加熱ないしは乾燥空気の導入によって回収し、再利用できるという優れた特徴が、廃棄物の発生しない使用済核燃料の再処理法を可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明では、前記特定の貴金属固体触媒として白金黒触媒、白金触媒、パラジウム黒触媒又はパラジウム触媒等を用いる。
【0013】
図1にすべての実施例において用いた装置の概要図を示す。即ち、1は水槽、2は超音波発信機、3は6価ウランを含む溶液、4は白金黒触媒、5は2−プロパノールで洗気したアルゴンガスである。水槽1の底に超音波発信機2を配置し、その発信機の上に、触媒4が添加された6価ウランを含む溶液3を収容した容器が配置される。この溶液には、2−プロパノールで洗気したアルゴンガス5を導入してバブリングさせた。かかる配置状態において、この溶液にアルゴンガスを導入してバブリングしながら、発信機から溶液中に超音波を照射して溶液中の6価ウランを4価ウランに還元した。以下、本発明を実施例に基づいて補正された。
【実施例】
【0014】
(実施例1)
1 M 塩酸溶液に5 mM 過塩素酸ウラニル(6価ウラン)を溶解し、20体積%の2-プロパノールを添加した溶液に対し、白金黒触媒を加え、2-プロパノールで洗気したアルゴンガスをバブリングしながら、外部から600 kHzの超音波を照射した。一定時間後に溶液の可視吸収スペクトルを測定し、4価ウラン特有の648 nmの吸光から6価ウランの4価ウランへの還元を確認した。図2に各時間後の可視吸収スペクトルを示す。
本実施例により、外部からの超音波照射によって6価ウランを4価ウランに還元することが可能になったことがわかる。即ち、超音波照射前には、4価ウラン特有の648 nmの吸光が存在しないが、1時間照射後及び2時間照射後には、4価ウラン特有の648 nmの吸光が確認された。
(実施例2)
1 M 塩酸溶液, 1 M 硫酸溶液、および1 M 過塩素酸溶液のそれぞれに5 mM 過塩素酸ウラニル(6価ウラン)を溶解し、20体積%の2-プロパノールを添加した溶液に対し、白金黒触媒を加え、2-プロパノールで洗気したアルゴンガスをバブリングしながら、外部から600 kHzの超音波を照射した。一定時間後に溶液の可視吸収スペクトルを測定し、4価ウラン特有の648 nmの吸光から6価ウランの4価ウランへの還元を確認した。図3に各時間経過後の4価ウランの生成量を示す。
【0015】
本実施例により、塩酸、硫酸、過塩素酸など、さまざまな液性の溶液において超音波照射による6価ウランの4価ウランへの還元が可能であることがわかる。
(実施例3)
1 M 塩酸溶液に5 mM 過塩素酸ウラニル(6価ウラン)を溶解し、2-プロパノール添加無し、5 体積%の2-プロパノール添加および20 体積%の2-プロパノール添加した溶液に対し、2-プロパノールで洗気したアルゴンガスをバブリングしながら、外部から600 kHzの超音波を照射した。一定時間後に溶液の可視吸収スペクトルを測定し、4価ウラン特有の648 nmの吸光から6価ウランの4価ウランへの還元を確認した.図4に各時間経過後の4価ウランの生成量を示す。
【0016】
本実施例により、2-プロパノールの初期添加が無くとも6価ウランから4価ウランへの還元が進行すること、および2-プロパノールの初期添加が反応を促進させることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明は、使用済核燃料の再処理工程におけるウランの原子価調整等に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例1,2に使用した装置の概略図である。
【図2】実施例1によって得られた可視吸収スペクトルの図である。
【図3】実施例2によって得られた4価ウラン生成量の時間変化を示した図である。
【図4】実施例3によって得られた4価ウラン生成量の時間変化を示した図である。
【符号の説明】
【0019】
1: 水槽
2: 超音波発信機
3: 6価ウランを含む溶液
4: 白金黒触媒
5: 2-プロパノールで洗気したアルゴンガス




【特許請求の範囲】
【請求項1】
貴金属固体触媒を使用し、外部からの超音波照射によって水溶液中の6価ウランを還元する方法。
【請求項2】
6価ウランを含む水溶液に貴金属固体触媒を加え、この水溶液に超音波を照射することにより6価ウランを4価ウランに還元する請求項1記載の方法。
【請求項3】
水溶液が塩酸水溶液、過塩素酸水溶液、硝酸水溶液又は硫酸水溶液であり、固体触媒が白金黒触媒、白金触媒、パラジウム触媒又はパラジウム黒触媒であり、超音波の周波数が20 kHz〜 2GHzであり、好ましくは200 〜600 kHzであり、又最も好ましくは600 kHzである、請求項1又は請求項2記載の方法。
【請求項4】
6価ウランを含む水溶液に2−プロパノールを添加して6価ウランの還元を促進させる請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の方法。




【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2008−26058(P2008−26058A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−196748(P2006−196748)
【出願日】平成18年7月19日(2006.7.19)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【Fターム(参考)】