説明

超音波照射装置

【課題】簡易に設置でき、生体に対する負担をかけずに、糖尿病治療を促進する超音波照射装置を提供すること。
【解決手段】超音波照射装置10は、糖尿病治療を促進する超音波照射装置であって、生体の肘から末梢の一部を覆うように巻き付けられ、500kHz以上1MHz未満の範囲の出力周波数において、10mW/cm以上100mW/cm未満の範囲の出力強度で超音波を照射する超音波照射パッド110と、超音波照射パッド110の駆動制御を行う駆動制御手段11と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波照射装置に関する。特に、糖尿病治療を促進する超音波照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病は高血糖を特徴とする代謝疾患で、血管障害を併発しやすく放置すると寿命が短縮する。血管合併症には細小血管障害(神経障害、網膜症、腎症)と大血管障害(心筋梗塞、脳梗塞)があり、前者は血糖のコントロール状態(血中HbA1c)と相関性があるが、後者は必ずしも相関性がない。空腹時血糖よりも食後血糖が大血管障害や死因と関連が深いことが知られている。したがって、糖尿病の治療は血糖の是正と血管障害の予防に重点が置かれており、食事療法、運動療法、薬物療法が3本柱とされている。
【0003】
それ以外の治療として、生体を入浴させることで、当該生体の血流量を増加させる装置が提案されている(特許文献1参照)。
この装置は、液体を収容する浴槽と、マイクロバブルまたはマイクロナノバブルを含有させられた液体を吐出する気液混合循環ポンプ装置と、マイクロバブルまたはマイクロナノバブルを剪断して微細化する気体剪断部と、マイクロナノバブルを含んだ液体を浴槽内に案内する第3液体案内部とを備える。
これにより、マイクロナノバブルのみが含有している浴槽水を生成することができる。したがって、例えば、この装置に入浴した糖尿病患者の血流量を増加させることができ、神経を刺激することができ、インスリン様成長因子を増加させることができ、糖尿病の病状を格段に改善させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−173370号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された装置は、例えば、糖尿病患者が入浴できる浴槽や、マイクロナノバブルを含有させる液体の給排水設備等を設ける必要があり、設置場所が限定されていた。また、例えば、糖尿病患者に入浴を強制することとなり、糖尿病患者の体に負担をかける場合もあった。また、血糖を下げる効果はなかった。
【0006】
本発明者は、超音波照射装置を用いた実験により、所定の出力周波数において所定の出力強度で、生体に対して超音波を照射することで、糖尿病治療を促進する効果を発見した。
【0007】
そこで、本発明は、簡易に設置でき、生体に対する負担をかけずに、糖尿病治療を促進する超音波照射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1) 糖尿病治療を促進する超音波照射装置であって、生体の肘から末梢の一部を覆うように巻き付けられ、500kHz以上1MHz未満の範囲の出力周波数において、10mW/cm以上100mW/cm未満の範囲の出力強度で超音波を照射する超音波照射パッドと、前記超音波照射パッドの駆動制御を行う駆動制御手段と、を備えることを特徴とする超音波照射装置。
【0009】
これにより、超音波照射装置は、500kHz以上1MHz未満の範囲の出力周波数において、10mW/cm以上100mW/cm未満の範囲の出力強度の超音波を、生体の肘から末梢の一部を覆って照射できる。
このような超音波を肘から末梢の一部を覆って照射することで、生体内全体の血管障害を改善できるので、糖尿病による血管合併症を予防できる。より具体的には、本発明を適用した超音波照射装置は、大血管障害の発症と関連が深い血管内皮機能の低下を改善できる。よって、本発明の超音波照射装置は、血管障害予防機器としての臨床応用化、血管障害治療機器としての臨床応用化も期待できる。
【0010】
また、糖尿病は肥満を併発することが多く、両者が重なると大血管障害の発症リスクがより高まる。そこで、食事療法を強化する目的でダイエットを促すフォーミュラ食(低カロリーで高蛋白質、低糖質、低脂肪、高マルチビタミン・ミネラル、高食物繊維を含む規定食)などの肥満解消食品を用いる場合がある。しかしながら、肥満解消食品を摂取することで減量しても、血管内皮機能の低下が改善されないことを鋭意研究より見出した。そこで、肥満解消食品の摂取とともに、本発明の超音波照射装置により、超音波を生体の肘から末梢の一部を覆って照射することで、体重を減らしつつ、血管内皮機能の低下を改善できる。
更に、このような超音波を生体の部位に照射することで、生体の睡眠を誘発できるので、睡眠誘導機器としての応用化も期待できる。
【0011】
また、本発明の超音波照射装置は、超音波を照射する超音波照射パッドを液体等を介さずに直接生体に当接させるので、浴槽等の設備が不要である。また、超音波照射パッドにより、500kHz以上1MHz未満の範囲の出力周波数において、10mW/cm以上100mW/cm未満の範囲の出力強度と、微弱な超音波を照射させるので、超音波照射パッドの駆動制御を行う駆動制御手段をコンパクトなものにすることができる。
したがって、簡易に設置でき、生体に対する負担をかけずに、糖尿病治療を促進できる。
【0012】
(2) (1)に記載の超音波照射装置において、血糖の降下を促す超音波照射装置であって、前記超音波照射パッドは、500kHz以上900kHz以下の範囲の出力周波数で超音波を照射することを特徴とする超音波照射装置。
【0013】
これにより、500kHz以上900kHz以下の範囲の出力周波数で超音波を生体に照射することで、食後血糖の降下を促進できる。例えば、糖尿病治療薬で治療中の糖尿病患者に、500kHz以上900kHz以下の範囲の出力周波数で超音波を照射することで、当該超音波を照射しない場合に比べて、有意に、より血糖値が下がる。この糖尿病治療薬とは、インスリン分泌刺激薬、インスリン作用改善薬、ビグアナイド剤、alpha−グルコシダーゼ阻害薬、DPP−4阻害薬、シブトラミン、食欲抑制剤の少なくとも1種の経口血糖降下薬またはインスリン製剤、GLP−1製剤の少なくとも1種を含むものである。
したがって、簡易に設置でき、生体に対する負担をかけずに、糖尿病治療を促進できる。
【0014】
(3) 生体内の血管障害を改善する超音波照射装置であって、超音波を前記生体に照射する超音波照射手段を備え、生体の部位に当接され、750kHzより大きく900kHz以下の範囲の出力周波数において、10mW/cm以上100mW/cm未満の範囲の出力強度で超音波を照射する超音波照射パッドと、前記超音波照射パッドの駆動制御を行う駆動制御手段と、を備えることを特徴とする超音波照射装置。
【0015】
これにより、超音波照射装置は、750kHzより大きく900kHz以下の範囲の出力周波数において、10mW/cm以上100mW/cm未満の範囲の出力強度の超音波を、生体に照射できる。
このような750kHzより大きく900kHz以下の範囲の出力周波数の超音波を、10mW/cm以上100mW/cm未満の範囲の微弱な出力強度で、生体に照射することで、生体内全体の血管障害を特に改善できる。よって、本発明の超音波照射装置は、血管障害予防機器としての臨床応用化、血管障害治療機器としての臨床応用化への期待が高まる。
【0016】
(4) (1)から(3)のいずれかに記載の超音波照射装置において、前記超音波照射パッドは、少なくとも前記生体の前腕に当接され、前記駆動制御手段は、前記超音波照射パッドの駆動時間を、20分より長く30分以下に制御することを特徴とする超音波照射装置。
【0017】
これにより、生体である糖尿病患者の前腕に超音波照射パッドを当接させ、20分より長く30分以下の間、超音波を照射することで、糖尿病患者の体全体における血管障害を改善できたり、糖尿病治療薬の効果を増強できる。よって、超音波照射パッドを糖尿病患者の体中に当接させる必要がないので、糖尿病患者に無理な体勢を強いる必要がない。
したがって、簡易に設置でき、生体に対する負担をかけずに、糖尿病治療を促進できる。
【0018】
(5) (1)から(4)のいずれかに記載の超音波照射装置と、当該超音波照射装置を設置する設置部と、前記設置部と連結され、前記生体が着席する椅子部と、を備え、前記椅子部は、前記生体が着座する着座部と、前記着座部と回動可能に接続され、前記生体がもたれる背もたれ部と、前記着座部に接続され、前記超音波照射パッドが配置される腕受け部と、を備えることを特徴とする超音波照射システム。
【0019】
これにより、超音波照射装置を、背もたれ部が回動可能に接続された着座部に設置できる。すなわち、リクライニング機能を備えた椅子に、超音波発生装置を設置できる。
よって、生体である糖尿病患者は、この椅子に着席し体が楽な体勢で超音波の照射を受けることができる。例えば、生体である糖尿病患者にとっては、数十分であっても同じ体勢でいることは負担である。また、このような生体が横たわるベッドは、設置面積が大きくなる。しかし、リクライニング機能を備えた椅子であれば、設置場所を選ばず、超音波の照射を受ける生体の負担を軽減できる。これにより、例えば、医療機関の待合室等に設置することで、糖尿病患者の利用を促進できる。
したがって、簡易に設置でき、生体に対する負担をかけずに、糖尿病治療を促進できる。
【0020】
(6) (5)に記載の超音波照射システムにおいて、前記背もたれ部は、その内部に前記生体に当接しながら往復移動するローラ部を有し、前記着座部は、前記ローラ部の動作を制御するローラ制御手段を有することを特徴とする超音波照射システム。
【0021】
これにより、超音波照射装置が設置された椅子において、ローラ制御手段によりローラ部を往復移動させことができる。すなわち、マッサージ機能を備えた椅子に、超音波発生装置を設置できる。
よって、生体である糖尿病患者は、この椅子に着席し、マッサージを受けることで血流がよくなるとともに、超音波の照射を受けることで血管障害を改善できるので、相乗効果が期待できる。
したがって、簡易に設置でき、生体に対する負担をかけずに、糖尿病治療を促進できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、簡易に設置でき、生体に対する負担をかけずに、生体内の血管障害を改善できる超音波照射装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る実施形態の超音波照射システムの全体構成を示す図である。
【図2】前記実施形態の超音波照射パッドと固定パッドとの説明図である。
【図3】前記実施形態の超音波照射パッドの構成を示す図である。
【図4】前記実施形態の超音波照射装置の機能構成を示す図である。
【図5】前記実施形態に係る超音波照射システムを生体である被験者に適用した状態を示す図である。
【図6】超音波照射装置を被験者に適用した実施例1を説明する図である。
【図7】超音波照射装置を被験者に適用した実施例2を説明する図である。(a)は、複数の被験者におけるRHIの平均値を、出力周波数毎に超音波照射前と後とで対比してグラフにしたものである。(b)は、(a)における出力周波数毎の超音波照射前と後とのRHIの平均値の差をグラフにしたものである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施形態の説明にあたって、同一構成要件については同一符号を付し、その説明を省略もしくは簡略化する。
【0025】
[超音波照射システム1の構成]
図1は、本発明に係る実施形態の超音波照射システム1の全体構成を示す図である。
【0026】
超音波照射システム1は、超音波を生体に照射する超音波照射装置10と、超音波照射装置10が設置される設置部20と、生体が着席する椅子部30とを備える。
【0027】
超音波照射装置10は、操作盤10bを有する本体10Aと、本体10Aのコネクタ10aに複合ケーブル110aを介して接続された超音波照射パッド110と、を備える。
【0028】
設置部20は、椅子部30の側面に着脱可能に接続され、最下部に4つの車輪を有し可動可能に形成されている。
【0029】
椅子部30は、生体が着座する着座部31と、着座部31と回動可能に接続され、生体がもたれる背もたれ部32と、着座部31に接続され、超音波照射パッド110が配置される腕受け部33と、を備える。すなわち、椅子部30は、リクライニング機能を備える。
【0030】
背もたれ部32は、その内部に生体に当接しながら往復移動するローラ部32aを有する。また、着座部31には、ローラ部32aの動作を制御するローラ制御装置31aが設けられている。すなわち、椅子部30は、マッサージ機能を備える。
【0031】
超音波照射装置10の本体10Aについての詳細は、図4を用いて後述する。
【0032】
図2は、前記実施形態の超音波照射パッド110と固定パッド120との説明図である。
図2に示すように、超音波照射パッド110と固定パッド120とは生体の前腕50に巻き付けられる。本実施形態において、前腕50は、生体の肘から末梢の一部を指す。超音波照射パッド110は、生体の前腕50に直接当接させ、前腕50を覆うように巻き付けられる。固定パッド120は、略長方形状に形成され、超音波照射パッド110の上から生体の前腕50に巻き付けられ、端部が固定可能に形成されている。すなわち、超音波照射パッド110は、固定パッド120により、前腕50の一部を覆って固定される。
【0033】
[超音波照射パッド110の構成]
図3は、前記実施形態の超音波照射パッド110の構成を示す図である。
超音波照射パッド110は、生体の部位に巻付け可能な長辺を有する略矩形の袋状体であるパッド本体111と、パッド本体111の内部に収容され超音波を発生する超音波発振素子112と、を備える。
【0034】
パッド本体111は、上面がシリコンラバーで形成され、生体の部位に当接される下面が導電性シリコンラバーで形成されている。
なお、超音波発振素子112の数は、8個だけとは限定されない。例えば、超音波発振素子112の数は、2個、4個、6個、12個とすることも可能である。
パッド本体111の大きさは、超音波発振素子112の数に応じて異なる。すなわち、超音波発振素子112の数が8個のパッド本体111(Sサイズ)の大きさは、超音波発振素子112の数が12個のパッド本体111(Lサイズ)の大きさより小さい。
【0035】
超音波発振素子112は、パッド本体111の下面側に超音波を発生するように配置されている。
超音波発振素子112は、その数によって発生する超音波の周波数が異なる。例えば、超音波発振素子112の数が8個のパッド本体111は、周波数が500kHzの超音波を発生できる。また、超音波発振素子112の数が12個のパッド本体111は、周波数が800kHzの超音波を発生できる。
超音波発振素子112は、後述の駆動制御手段11により駆動制御される。詳しくは後述するが、本実施形態の超音波照射装置10では、4種類の出力周波数の超音波を発生可能である。
【0036】
本実施形態の超音波照射パッド110は、上記4種類の出力周波数及び上記2種類のパッド本体111の大きさ毎、すなわち、合計8種類備えることができる。
【0037】
[超音波照射装置10の機能構成]
図4は、前記実施形態の超音波照射装置10の機能構成を示す図である。
超音波照射装置10は、本体10Aと、本体10Aのコネクタ10aに接続され超音波発振素子112を有する超音波照射パッド110とを備える。
【0038】
本体10Aは、超音波発振素子112の駆動制御を行う駆動制御手段11と、駆動制御手段11に時間情報を送信するタイマー設定手段14とを有する。
【0039】
駆動制御手段11は、超音波発振素子112を所定の出力周波数において、所定の出力強度で超音波を発生させるように駆動制御する。
本実施形態における所定の出力強度は、10mW/cm以上100mW/cm未満の範囲である。
本実施形態における所定の出力周波数は、プラセ―ボ照射(0kHz)、500kHz±5kHz、800kHz±5kHz、及び1MkHz±5kHzの4種類がある。駆動制御手段11は、操作盤10bからの入力操作に応じて、これら4種類の出力周波数を切替えて、超音波発振素子112を駆動制御する。
【0040】
また、駆動制御手段11は、タイマー設定手段14から送信された時間情報に基づき、予め設定されたタイミングで、超音波発振素子112の駆動制御を開始し、所定時間(例えば、30分間)継続して超音波を発生させるように駆動制御する。
【0041】
タイマー設定手段14は、時間をカウントし、操作盤10bからの入力操作に応じて、、駆動制御手段11に時間情報を送信する。
タイマー設定手段14は、0〜30分間カウントし、1分単位で時間情報を送信するタイミングを受付け可能である。また、タイマー設定手段14は、各タイミングにおいて音を発生する音発生手段(図示無し)を有する。
【0042】
コネクタ10aは、上記4種類の出力周波数及び上記2種類のパッド本体111の大きさ毎、すなわち、合計8箇所設けられている(図1参照)。
操作盤10bは、操作者から超音波照射装置10に対する各種の設定入力を受付ける。
【0043】
超音波照射装置1における駆動制御手段11、タイマー設定手段14は、コンピュータ及びその周辺装置が備えるハードウェア並びに該ハードウェアを制御するソフトウェアによって構成される。
【0044】
上記ハードウェアには、駆動制御手段11、タイマー設定手段14としてのCPU(Central Processing Unit)、及び記憶部が含まれる。記憶部としては、例えば、メモリ(RAM:Random Access Memory、ROM:Read Only Memory等)、ハードディスクドライブ(HDD:Hard Disk Drive)、及び光ディスク(CD:Compact Disk、DVD:Digital Versatile Disk等)ドライブが挙げられる。また、超音波照射装置1には、表示装置として、例えば、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ等の各種ディスプレイを備えることができる。また、超音波照射装置1には、入力装置として、例えば、キーボード及びポインティング・デバイス(マウス、トラッキングボール等)を備えることができる。
【0045】
上記ソフトウェアには、上記ハードウェアを制御するコンピュータ・プログラムやデータが含まれる。コンピュータ・プログラムやデータは、記憶部により記憶され、各制御手段により適宜実行、参照される。
【0046】
図5は、前記実施形態に係る超音波照射システム1を生体である被験者に適用した状態を示す図である。
図5に示すように、本実施形態では超音波照射システム1を被験者に適用する場合、被験者は、椅子部30に着席し、肘から抹消を腕受け部33に載せる。そして、超音波照射装置10の超音波照射パッド110を被験者の前腕50の一部に当接させ、固定パッド120とともに被験者の前腕50を覆うように巻き付ける。この状態で、500kHz以上1MHz以下の範囲の出力周波数において、10mW/cm以上100mW/cm未満の範囲の出力強度の超音波を被験者の前腕50の一部に30分間照射する。
【0047】
[超音波照射装置1を被験者に適用した実施例1]
図6は、超音波照射装置1を被験者に適用した実施例1を説明する図である。
実施例1における被験者は、医師から糖尿病と診断されて糖尿病治療薬を服用している。この糖尿病治療薬とは、インスリン分泌刺激薬(SU剤、グリニド系薬剤)、インスリン作用改善薬(ピオグリタゾン)、ビグアナイド剤(メトホルミン)、alpha−グルコシダーゼ阻害薬(ボグリボース)の経口血糖降下薬で治療中の患者や、更に前記経口薬に加えインスリン製剤を併用している者を含むものである。
【0048】
実施例1における被験者は、1〜2カ月間の血糖のコントロ−ル状態を示すHbA1c(ヘモグロビン・エィワンシー)が超音波の照射群も未照射群も共に平均7.0%で平均年齢63歳の男性及び女性から構成される。
【0049】
また、実施例1では、この被験者群を、超音波照射装置1を適用し超音波を照射した照射群(8名)と、超音波を照射していないプラセ―ボ群(無照射群)(10名)とに分類し、それぞれの群において食後2時間の血糖値をまず測定した。その後、照射群には、出力周波数500kHz、出力強度50mW/cmの超音波を被験者の片側の前腕に30分間照射した直後に血糖値を測定した。
【0050】
図6は、無照射群(白色の棒グラフ)と照射群(黒色の棒グラフ)の食後2時間で測定した血糖値から更に30分後に測定した血糖値の差を表す。
【0051】
食後2時間の血糖値は、無照射群で178±7mg/dl、超音波照射群で182±15mg/dlで両群間に有意差はなかった。無照射群は30分後に血糖が平均約28±5mg/dlしか低下していないのに対して、照射群の血糖値は、30分後に平均約58±7mg/dlとより低下し、両群間に有意差があった(Student−t検定でP<0.05)。
すなわち、糖尿病治療薬を服用する被験者に超音波照射装置1を適用し、出力周波数500kHz、出力強度50mW/cmの超音波を被験者の前腕の一部に30分間照射することで、血糖値がより降下することが分かった。
【0052】
また、出力周波数800kHz、出力強度50mW/cm2の超音波を同様にして片側の前腕に30分間照射した場合には食後2時間から2時間半にかけて血糖値が平均69±8mg/dl減少した。すなわち、出力周波数を800kHzとすることで、出力周波数500kHzの場合より血糖値がより降下する傾向があることが分かった。
【0053】
[超音波照射装置1を被験者に適用した実施例2]
図7は、超音波照射装置1を被験者に適用した実施例2を説明する図である。
実施例2は、複数の被験者に超音波照射装置1を適用し、これら被験者の血管の状態を検査した。血管の状態は、血管の内皮機能を反映する値であるRHIにより検査した。RHIの正常値は“1.67”であり、この値が大きい程、血管内皮機能が良好であることを示す。
また、実施例2では、超音波照射装置1により、500kHz、800kHz及び1000kHzの3種類の出力周波数において、50mW/cmの出力強度の超音波を複数の被験者の前腕50の一部に30分間照射し、その後、各被験者のRHIを測定した。また、実施例2では、無照射(図7に示す0kHz)の場合の各被験者のRHIも測定した。
【0054】
図7(a)は、複数の被験者におけるRHIの平均値を、出力周波数毎に超音波照射前と後とで対比してグラフにしたものである。図7(a)において、白色の棒グラフは、超音波照射前のRHIの平均値を示す。また、黒色の棒グラフは、超音波照射前のRHIの平均値を示す。
図7(b)は、図7(a)における出力周波数毎の超音波照射前と後とのRHIの平均値の差をグラフにしたものである。
【0055】
図7(a)に示すように、超音波照射後のRHIの平均値は、出力周波数が0kHz、1000kHz、500kHz、800kHzの順で値が大きいことが統計学的に確認できた(ANOVA2x2検定でP<0.05)。
また、図7(b)に示すように、超音波照射前と後とのRHIの平均値の差も、出力周波数が0kHz、1000kHz、500kHz、800kHzの順で値が大きいことが統計学的に確認できた(ANOVA2x2検定でP<0.05)。
すなわち、500kHz以上1MHz未満の範囲の出力周波数において、血管内皮機能の低下を改善する効果を奏し、特に、出力周波数800kHzが最も血管内皮機能の低下を改善できることが分かった。
【0056】
本実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
超音波照射装置10は、500kHz以上1MHz未満の範囲の出力周波数において、10mW/cm以上100mW/cm未満の範囲の出力強度の超音波を、生体の肘から末梢の一部を覆って照射できる。
このような超音波を肘から末梢の一部を覆って照射することで、生体内全体の血管障害を改善できるので、糖尿病による血管合併症を予防できる。より具体的には、超音波照射装置10は、大血管障害の発症と関連が深い血管内皮機能の低下を改善できる。よって、超音波照射装置10は、血管障害予防機器としての臨床応用化、血管障害治療機器としての臨床応用化も期待できる。
【0057】
また、肥満解消食品の摂取とともに、超音波照射装置10により、超音波を生体の肘から末梢の一部を覆って照射することで、体重を減らしつつ、血管内皮機能の低下を改善できる。
更に、このような超音波を生体の部位に照射することで、生体の睡眠を誘発できるので、睡眠誘導機器としての応用化も期待できる。
【0058】
また、超音波照射装置10は、超音波を照射する超音波照射パッド110を液体等を介さずに直接生体に当接させるので、浴槽等の設備が不要である。また、超音波照射パッド110により、500kHz以上1MHz未満の範囲の出力周波数において、10mW/cm以上100mW/cm未満の範囲の出力強度と、微弱な超音波を照射させるので、超音波照射パッド110の駆動制御を行う駆動制御手段11をコンパクトなものにすることができる。
【0059】
また、500kHz以上900kHz以下の範囲の出力周波数で超音波を生体に照射することで、血糖を下降させることができる。例えば、生体である糖尿病患者は、通常、糖尿病治療薬を服用している。このような糖尿病患者に、500kHz〜900kHzの範囲の出力周波数で超音波を照射することで、服用された糖尿病治療薬の効果が増強され、当該超音波を照射しない場合に比べて、有意に、より血糖値が下がる。
【0060】
また、800kHzの出力周波数の超音波を、50mW/cmの微弱な出力強度で、生体に照射することで、生体内全体の血管障害を特に改善できる。よって、本発明の超音波照射装置は、血管障害予防機器としての臨床応用化、血管障害治療機器としての臨床応用化への期待が高まる。
【0061】
また、生体である糖尿病患者の前腕に超音波照射パッド110を当接させ、20分より長く30分以下の間、超音波を照射することで、糖尿病患者の高血糖を改善したり、体全体における血管障害を改善できる。よって、超音波照射パッド110を糖尿病患者の体中に当接させる必要がないので、糖尿病患者に無理な体勢を強いる必要がない。
【0062】
また、超音波照射装置10を、背もたれ部32が回動可能に接続された着座部31に設置できる。すなわち、リクライニング機能を備えた椅子部30に、超音波発生装置10を設置できる。
よって、生体である糖尿病患者は、この椅子部30に着席し体が楽な体勢で超音波の照射を受けることができる。
【0063】
また、超音波照射装置10が設置された椅子部30において、ローラ制御装置31aによりローラ部32aを往復移動させことができる。すなわち、マッサージ機能を備えた椅子に、超音波発生装置を設置できる。
よって、生体である糖尿病患者は、この椅子部30に着席し、マッサージを受けることで血流がよくなるとともに、超音波の照射を受けることで血管障害を改善できるので、相乗効果が期待できる。
以上より、本実施形態によれば、簡易に設置でき、生体に対する負担をかけずに、糖尿病治療を促進できる。
【0064】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限るものではない。また、本発明の実施形態に記載された効果は、本発明から生じる最も好適な効果を列挙したに過ぎず、本発明による効果は、本発明の実施形態に記載されたものに限定されるものではない。
【0065】
本実施形態では、固定パッド120を略長方形状に形成し、超音波照射パッド110の上から生体の前腕50を巻き付けるように構成したが、これに限られない。例えば、固定パッド120は、弾性を有する材料を筒状に形成し、予め椅子部30の腕受け部33に取り付けておくことができる。この場合、超音波照射パッド110は、筒状の固定パッド120の内側に、筒状にして配置する。これにより、生体は、これら固定パッド120及び超音波照射パッド110の内側に前腕50を挿入するだけで、超音波照射パッド110を前腕50に直接当接できる。
【符号の説明】
【0066】
10 超音波照射装置
11 駆動制御手段
110 超音波照射パッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖尿病治療を促進する超音波照射装置であって、
生体の肘から末梢の一部を覆うように巻き付けられ、500kHz以上1MHz未満の範囲の出力周波数において、10mW/cm以上100mW/cm未満の範囲の出力強度で超音波を照射する超音波照射パッドと、
前記超音波照射パッドの駆動制御を行う駆動制御手段と、
を備えることを特徴とする超音波照射装置。
【請求項2】
血糖の降下を促す超音波照射装置であって、
前記超音波照射パッドは、500kHz以上900kHz以下の範囲の出力周波数で超音波を照射することを特徴とする請求項1に記載の超音波照射装置。
【請求項3】
生体内の血管障害を改善する超音波照射装置であって、
超音波を前記生体に照射する超音波照射手段を備え、
生体の部位に当接され、750kHzより大きく900kHz以下の範囲の出力周波数において、10mW/cm以上100mW/cm未満の範囲の出力強度で超音波を照射する超音波照射パッドと、
前記超音波照射パッドの駆動制御を行う駆動制御手段と、
を備えることを特徴とする超音波照射装置。
【請求項4】
前記超音波照射パッドは、少なくとも前記生体の前腕に当接され、
前記駆動制御手段は、前記超音波照射パッドの駆動時間を、20分より長く30分以下に制御することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の超音波照射装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の超音波照射装置と、
当該超音波照射装置を設置する設置部と、
前記設置部と連結され、前記生体が着席する椅子部と、を備え、
前記椅子部は、前記生体が着座する着座部と、前記着座部と回動可能に接続され、前記生体がもたれる背もたれ部と、前記着座部に接続され、前記超音波照射パッドが配置される腕受け部と、を備えることを特徴とする超音波照射システム。
【請求項6】
前記背もたれ部は、その内部に前記生体に当接しながら往復移動するローラ部を有し、
前記着座部は、前記ローラ部の動作を制御するローラ制御手段を有することを特徴とする請求項5に記載の超音波照射システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−212276(P2011−212276A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−83953(P2010−83953)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(500156896)
【Fターム(参考)】