説明

超音波照射装置

【課題】高い音圧が得られるcMUTを音源とする超音波照射装置を提供する。
【解決手段】超音波照射装置は、cMUT110と駆動制御手段120とを有する。駆動制御手段120は、下部電極114と上部電極117との間に、電圧を印加して、振動膜119を振動させて、cMUT110に超音波を射出させる。このとき、駆動制御手段120は、振動膜119を高次のモードで振動させる。このとき振動膜119は、その中央付近の広い面積を平坦な形状を維持しながら振動する。その結果、発生する超音波の指向性が高まり、高い音圧が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波照射装置、特に静電容量型超音波振動子を有する超音波照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、超音波素子として、静電容量型の超音波発生ユニット(capasitive Micromachined Ultrasonic Transducers;cMUT)が注目を集めている。一般にcMUTは、基板上に配置された下部電極、下部電極と対向する振動膜内に配置された上部電極、及び下部電極と上部電極との間に位置する空隙部を有する。この下部電極と上部電極との間に電圧を印加すると、当該電極間に静電吸引力が働く。そこで下部電極と上部電極との間に印加する電圧を交流電圧とすると、当該電極間に働く静電吸引力が変化し、振動膜は振動する。この振動により、cMUTは超音波を射出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2004−503312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、cMUTの下部電極と上部電極との間に電圧を印加して振動膜を振動させるとき、その振動振幅は、振動膜の中央に近いほど大きく、周縁に近いほど小さくなる。すなわち、振動膜は曲面形状を有して振動する。振動膜の振動によって発生する超音波は振動膜の法線方向に進行するので、曲面状に振動する振動膜によって射出される超音波は発散する。そのため、cMUTを用いた超音波照射装置を用いて目標位置に超音波を照射しよとするとき、cMUTから射出される超音波のエネルギが前記のように分散するため、目標位置において効率よく高い音圧を得ることは困難である。
【0005】
そこで本発明は、目標位置において高い音圧を得ることができる、cMUTを音源とする超音波照射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を果たすため、本発明の超音波照射装置の一態様は、上部電極を含む振動膜と、前記振動膜との間に空隙を介して該振動膜と対向する下部電極を含むベース部材と、を有する静電容量型超音波振動子と、前記上部電極と前記下部電極との間に駆動信号に基づく電圧を印加して前記振動膜を振動させることで、前記静電容量型超音波振動子に音波を射出させる駆動制御手段と、を具備する超音波照射装置であって、前記駆動信号は、周期を有しており、前記周期の数は2以上であり、前記振動膜の一部分の速度の向きが、該振動膜の他の部分の速度の向きと逆向きとなるように該振動膜を連続的に振動させる、前記電圧を前記上部電極と前記下部電極との間に印加するための信号であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、発生する超音波の指向性が高まるので、目標位置において高い音圧を得ることができる、cMUTを音源とする超音波照射装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る超音波照射装置の構成例を示す図。
【図2】第1の実施形態に係るcMUTの一例の概略を示す上面図。
【図3】第1の実施形態に係るcMUTの出力音圧の周波数特性の一例を示す図。
【図4】第1の実施形態に係るcMUTの振動膜の変位の変化の一例を示す図。
【図5】駆動周波数を変化させたときのcMUTの出力音圧の周波数特性の一例の比較を示す図。
【図6】駆動周波数を変化させたときのcMUTの振動膜の変位の変化の一例を示す図。
【図7】駆動周波数を変化させたときのcMUTの出力音圧の一例の比較を示す図。
【図8】cMUTの振動膜の振動を説明するための図。
【図9】第1の実施形態の変形例に係るcMUTの出力音圧の周波数特性の一例を示す図。
【図10】駆動周波数を変化させたときの第1の実施形態の変形例に係るcMUTの振動膜の変位の変化の一例を示す図。
【図11】駆動周波数を変化させたときの第1の実施形態の変形例に係るcMUTの出力音圧の一例の比較を示す図。
【図12】第1の実施形態の変形例に係るcMUTの振動膜の振動を説明するための図。
【図13】第2の実施形態に係るcMUTの一例の概略を示す断面図。
【図14】第2の実施形態に係るcMUTの出力音圧の周波数特性の一例を示す図。
【図15】第2の実施形態に係るcMUTの振動膜の振動を説明するための図。
【図16】駆動周波数を変化させたときの第2の実施形態に係るcMUTの出力音圧の一例の比較を示す図。
【図17】第2の実施形態に係るcMUTの振動膜の振動を説明するための図。
【図18】第2の実施形態の変形例に係るcMUTの出力音圧の周波数特性の一例を示す図。
【図19】第2の実施形態に係るcMUTの出力音圧の一例の比較を示す図。
【図20】第2の実施形態に係るcMUTの振動膜の振動を説明するための図。
【図21】第3の実施形態に係るcMUTの一例の概略を示す断面図。
【図22】第3の実施形態に係るcMUTの出力音圧の一例の比較を示す図。
【図23】第3の実施形態に係るcMUTの振動膜の振動を説明するための図。
【図24】第3の実施形態に係るcMUTの出力音圧の一例の比較を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施形態について図面を参照して説明する。本実施形態に係る超音波照射装置は、図1に示すように、超音波発生ユニットであるcapasitive Micromachined Ultrasonic Transducer(cMUT)110と、cMUT110を制御しながら駆動する駆動制御手段120とを有する。
【0010】
cMUT110の構成の概略を図1を参照して説明する。ここで図1には、cMUT110の断面図が示されている。cMUT110は、次のような構造を有する。
例えばシリコンのベース基板111上には、例えば熱酸化膜によって構成された第1の絶縁層112が形成されている。第1の絶縁層112上には、例えばLP−SiNよりなる酸化防止膜113が形成されている。酸化防止膜113上には、例えばモリブデンからなる下部電極114が形成されている。下部電極114上には、例えばLP−SiNからなる第2の絶縁層115が形成されている。
このように、例えばベース基板111、第1の絶縁層112、酸化防止膜113、下部電極114及び第2の絶縁層115は、全体としてベース部材として機能する。
【0011】
第2の絶縁層115上には、キャビティ118を形成するように、例えばLP−SiNからなる第3の絶縁層116が構築されている。第3の絶縁層116上には、例えばTiN/Alからなる上部電極117が形成されている。第3の絶縁層116と上部電極117とによって、振動膜119が構成されている。
【0012】
cMUT110の上面図を図2に示す。この図に示すように、キャビティ118は、円形をしている。ベース基板111や第3の絶縁層116等は、本実施形態では四角形をしている。ベース基板111や第3の絶縁層116、キャビティ118等の形状は、六角形など他の形状でもよい。
なお、cMUT110は、単独で用いてもよいが、アレイ状に配列して用いることが一般的である。以下の説明では、一つのcMUT110について説明するが、それらをアレイ状に配列しても同様に動作し、同様の効果が得られる。
【0013】
駆動制御手段120は、上部電極117と下部電極114と接続しており、駆動信号に基づいて、これら電極間に電圧を印加する。cMUT110において、上部電極117と下部電極114との間に電圧が印加されると、電極間の電気容量が変化し、これら電極間に働く静電吸引力が変化する。本実施形態では、ベース基板111は、振動膜119に対して十分な厚みを有しており、下部電極114及びその周辺の構造物は、ほぼ固定されている。したがって、静電吸引力の変化によって、上部電極117及び第3の絶縁層116からなる振動膜119が変位する。ここで、駆動制御手段120が上部電極117と下部電極114とに印加する電圧を交流にすると、振動膜119は振動する。超音波に相当する周波数で振動膜119を振動させると、cMUT110は、超音波を生じさせる。
【0014】
本実施形態に係るcMUT110のベース基板111の平面方向のキャビティ118の直径(以降セル径と称する)は、φ40μmである。また、このキャビティ118のベース基板111に対する法線方向の厚みは、200nmである。このcMUT110は、振動膜119の振動の基本周波数が15MHzとなるように設計されている。セル径が40μmでありキャビティ118の厚みが200nmであり基本周波数が15MHzであるというのは、もちろん一例であり、これは他の実施形態でも説明するとおり、適宜変更することが可能である。
【0015】
本実施形態に係る超音波照射装置の動作を説明する。駆動制御手段120は、次のような駆動信号をcMUT110に出力して、cMUT110を動作させる。すなわち、駆動制御手段120は、下部電極114と上部電極117との間に、cMUT110の振動膜119の基本周波数(15MHz)の2倍の周波数である30MHzの交流電圧を印加する。より詳しくは、まず、下部電極114と上部電極117との間に5Vのバイアス電圧を印加する。さらにここに、電圧50V、周波数30MHzの交流電圧を重畳する。なお、以降にはcMUT110の周囲が水で満たされている場合を例に挙げてcMUT110の周波数特性を示す。cMUT110の周囲は、他の液体や気体等、水以外の流体で満たされていてもよい。
【0016】
上記のとおりcMUT110を駆動したときの、振動膜119の中心であり振動膜119のキャビティ118とは反対側の面に接している流体部分(以下、直上中心と称する)で計測した音圧のFFT解析の結果を図3に(a)を付した実線で示す。図3において(b)を付した破線は、cMUT110に単パルスを入力したときの振動特性を、参考のために示している。図3(a)に示すように、基本周波数15MHzにおいて、固有振動を示す弱いピークが認められる。駆動周波数である30MHzにおいて、強制振動における1次の振動モードを示すピークが認められる。さらに、1次の振動モードの2倍の周波数である60MHz付近において、2次の振動モードに対応するピークが認められる。ここで、駆動周波数である30MHz、すなわち1次の振動モードにおける音圧よりも、約60MHz、すなわち2次の振動モードにおける音圧の方が高いという特徴が確認できる。
【0017】
上記のとおりcMUT110を駆動したときの、振動膜119の中心部分における変位を図4に示す。図4における変位の値は、マイナスが振動膜119がベース基板111側に変位していることを表し、プラスがその逆を表している。後述の図6及び図10においても変位の値の定義は同様とする。振動膜119の変位は、レーザ変位計等を用いて容易に計測することができる。図4から明らかなように、振動膜119の中心がマイナス側からプラス側に変位している途中で逆向きに変位する期間がある(図中に矢印で示す部分)。この振動挙動は、強制振動における(0,2)振動モード等、高次の振動モードに対応していると考えられる。
【0018】
図4で認められる振動膜119の中心が逆向きに変位する期間では、振動膜119は、全体的にはマイナス側からプラス側に変位する速度を有しているが、中心部分ではその逆方向に変位する速度を有している。したがって、振動膜119の中心部分は、平板に近い形状となる。このような平坦な形状になることは、振動膜119全体がマイナス側からプラス側に変位する速度を有している場合に、振動膜119が全体的に曲面形状となることと対照的である。
【0019】
このように、本実施形態に係る駆動信号は、周期を有しており、この周期の数は2以上であり、振動膜119の一部分の速度の向きが、振動膜119の他の部分の速度の向きと逆向きとなるように振動膜119を連続的に振動させる電圧を上部電極117と下部電極114との間に印加するための信号に対応している。
【0020】
比較のため、駆動周波数を15MHz、20MHz、25MHzとしたときの、本実施形態に係るcMUT110の振動膜119の直上中心で計測した音圧のFFT解析の結果を、駆動周波数を30MHzとしたときの結果と合わせて図5に示す。なお、駆動電圧は、何れの場合もバイアス電圧を5V、交流電圧を50Vとする。以降の説明でも、特に断りがない限り、駆動電圧は同様とする。図5において、(a)を付した実線が30MHzで駆動した場合の結果であり、(c)を付した一点鎖線が15MHzで駆動した場合の結果であり、(d)を付した点線が20MHzで駆動した場合の結果であり、(e)を付した二点鎖線が25MHzで駆動した場合の結果である。
【0021】
この図に示すように、何れの駆動周波数でcMUT110を駆動した場合も、駆動周波数の2倍の周波数において、2次の振動モードを表すピークが確認できる。何れの駆動周波数で駆動した場合も、駆動周波数において確認される強制振動における1次の振動モードの音圧よりも、2次の振動モードの周波数における音圧の方が高くなっている。また、この2次の振動モードにおける音圧は、駆動周波数が高い程、高いという特徴が確認できる。
【0022】
図6に、駆動周波数が15MHzであるときの振動膜119の中心部分における変位を示す。図6に示す場合においても、図4に示した駆動周波数が30MHzの場合と同様に、振動膜119の中心がマイナス側からプラス側に変位している途中で、その変位速度が低下している期間がある(図中に矢印で示す部分)。この変位速度の低下は、図4に示した駆動周波数が30MHzの振動膜119が逆向きに変位するときと同様に、(0,2)振動モード等、高次の振動モードに対応するものと考えられる。しかしながら、駆動周波数が30MHzのときの振動膜119が逆向きに変位する期間の方が、駆動周波数が15MHzのときの振動膜119の変位速度が低下する期間より長い。したがって、振動膜119が比較的平坦な形状をしている期間は、30MHzで駆動したときの方が15MHzで駆動したときよりも長いと考えられる。
【0023】
駆動周波数を15MHz、20MHz、25MHz、30MHzとしたときの、振動膜119の中心からベース基板111の法線方向に60mm離れた位置における音圧の時間平均値を図7に示す。この図に示すように、cMUT110の基本周波数である15MHzで駆動するよりも、より高い周波数で振動させたときの方が、音圧の時間平均値は高くなることが分かる。
【0024】
上記のように、駆動周波数が高いときの方が、音圧が高くなる理由を説明する。基本周波数でcMUT110を駆動した場合の、振動膜119の振動の様子を図8に示す。この図においては、分かり易さのため、ベース基板111のみが描かれており、下部電極114などベース基板111とキャビティ118との間の構造物は省略されている。また、図8において、振動膜119の厚み方向の変位が、強調されて拡大されて示されている。後述の図12、図15、図17、図20及び図23においても同様である。
【0025】
基本周波数で駆動した場合、振動膜119は、(0,1)振動モードの挙動を示す。すなわち、図8(a)に示すように振動膜119は、周縁部が固定され中心部の振幅が大きくなり、全体としては曲面状にたわむ。このとき、ベース基板111の法線方向に離れた位置の音圧をみると、振動膜119の中心部では、振動膜119の振動方向がベース基板111に対して法線方向に向くので、音圧が高くなる。しかしながら、振動膜119の周辺部では、振動膜119の振動方向がベース基板111に対して斜め方向となる。このため、超音波のエネルギは発散し、ベース基板111の法線方向の平均的な音圧が比較的小さくなる。このため、cMUT110によって発生する、ベース基板111の法線方向に離れた位置における音圧は、比較的小さくなる。
【0026】
これに対して、本実施形態のように、基本周波数よりも高い、例えば30MHzの周波数でcMUT110を駆動すると、図4に示したとおり、振動膜119の中心がマイナス側からプラス側に変位している途中で、逆向きに変位する期間がある。この期間では、振動膜119の中心が逆向きに変位し、図8(b)に示すように、振動膜119は、比較的平坦な形状をしている。このため、射出される超音波は、発散せず、その指向性が向上する。すなわち、cMUT110から射出される超音波のエネルギは、ベース基板111の法線方向に集中する。したがって、ベース基板111の法線方向に離れた位置におけるcMUT110に由来する音圧は、比較的大きくなると考えられる。一般に、本実施形態のようにcMUT110を連続波で駆動させるとき、時間平均で得られる音圧が重要である。このような時間平均で得られる音圧を向上させようとする場合、振動膜119が平坦な形状をすることにより指向性が向上する効果は、特に顕著に現れる。
【0027】
図7から明らかなように、基本周波数より高い例えば20MHzや25MHzといった周波数で駆動すれば、30MHzといった基本周波数の2倍の周波数で駆動する場合程ではないものの、基本周波数である15MHzで駆動するよりも高い音圧が得られる。20MHzや25MHzで駆動しても高い音圧が得られる理由も、上記と同様に、振動膜119が平坦な形状で振動するためであると考えられる。すなわち、(0,2)振動モードに該当する周波数で駆動しなくとも、基本周波数より大きく(0,2)振動モードの周波数より低い周波数で駆動しても、比較的高い音圧が得られることがわかる。
【0028】
以上のように、本実施形態によれば、cMUT110を基本周波数よりも高い周波数で駆動することにより、ベース基板111の法線方向に離れた位置、すなわち超音波照射の目標とする位置において、より高い音圧を得ることができる。したがって、本実施形態によれば、より高いエネルギを照射することができる、超音波照射装置を提供することができる。
【0029】
[第1の実施形態の変形例]
第1の実施形態の変形例について説明する。本変形例の説明では、第1の実施形態との相違点について説明し、同一の部分については、同一の符号を付して説明を省略する。cMUT110においては、振動膜119の厚みや、セル径を変更することで、その基本周波数を変更することができる。本変形例では、第1の実施形態の場合よりも、振動膜119を薄くし、さらに、セル径をφ55μmと大きくして、当該cMUT110の基本周波数を第1の実施形態に係るcMUT110よりも低い3MHzとしている。cMUT110について、その他の構造は、第1の実施形態の場合と同様である。
【0030】
駆動周波数を3MHz、4.5MHz、6MHzとしたときの、振動膜119の直上中心で計測した音圧のFFT解析の結果を図9に示す。その他の条件は、第1の実施形態と同様である。図9において(a)を付した破線は3MHzで駆動した場合の結果を示し、(b)を付した一点鎖線は4.5MHzで駆動した場合の結果を示し、(c)を付した実線は6MHzで駆動した場合の結果を示す。
【0031】
図9に示すように、何れの駆動周波数でcMUT110を駆動した場合も、各駆動周波数において1次の振動モードを表すピークが確認できる。また、駆動周波数の2倍付近の周波数において2次の振動モードを表すピークが確認できる。さらに、本変形例の場合、cMUT110のQ値が高いため、何れの周波数で駆動した場合も、基本周波数である3MHzの振動成分が認められる。強制振動による2次の振動モードにおける音圧は、駆動周波数が高い程、高くなっている。また、4.5MHzや6MHzの周波数で駆動した場合、駆動周波数に相当する周波数における音圧よりも、2次の振動モードに相当する周波数における音圧の方が高いという特徴が確認できる。一方、基本周波数である3MHzで駆動した場合、2次の振動モードである約6MHzにおける音圧は、基本周波数である3MHzにおける音圧よりも低いという特徴がある。
【0032】
また、駆動周波数を3MHz、4.5MHz、6MHzとしたときの、振動膜119の中心部分における変位を図10に示す。図10(a)は、3MHzで駆動した場合の結果を示し、図10(b)は、4.5MHzで駆動した場合の結果を示し、図10(c)は、6MHzで駆動した場合の結果を示す。何れの場合においても、矢印で示すように、振動膜119の中心がそれまでとは逆向きに変位する期間がある。この期間において、振動膜119の中心は、比較的平坦な形状をしていると考えられる。
【0033】
これらを比較すると、6MHzで駆動したとき(図10(c))は、3MHzで駆動したとき(図10(a))よりも、振動膜119が逆向きに変位するときの変位量が大きい。また、4.5MHzで駆動したとき(図10(b))は、3MHzで駆動したとき(図10(a))及び6MHzで駆動したとき(図10(c))よりも、振動膜119が逆向きに変位する頻度が高く、また、振動膜119が逆向きに変位するときの変位量が大きい。したがって、振動膜119が平坦な形状をしている時間は、4.5MHzで駆動するときの方が、3MHzや6MHzで駆動するときよりも長いと考えらえる。
【0034】
駆動周波数を3MHz、4.5MHz、6MHzとしたときの、振動膜119の中心からベース基板111の法線方向に60mm離れた位置における音圧の時間平均値を図11に示す。4.5MHzで駆動したときに、最も高い音圧が得られる。4.5MHzで駆動したときに最も高い音圧が得られた理由としては、次のことが考えられる。4.5MHzで駆動すると以下の3つの周波数の振動が重畳すると考えられる。すなわち、1つ目は、駆動周波数の振動である。2つ目は、2次の振動モードの周波数における振動である。3つ目は、高いQ値に由来する基本周波数の振動である。3つの周波数の振動が重畳することで、より効果的に音圧を得ることができると考えられる。さらに、振動膜119の中心の逆向き変位の頻度が多く、その変位量が大きいほど高い音圧が得られると考えられる。図10(b)に示すように、4.5MHzで駆動したとき、他の駆動周波数で駆動したときに比べて、振動膜119の中心の逆向きに変位する頻度が高く、その変位量が大きくなっている。これらのことから、当該cMUT110は、4.5MHzで駆動したときに、他に比べてより効率的に高い音圧が得られと考えられる。
【0035】
超音波を照射する治療等に本超音波照射装置を用いるとき、出力周波数によって、得られる作用効果が異なる。例えば、超音波の照射対象物の共振周波数に合わせた超音波を照射する必要があり得る。このように、所望の周波数において高い音圧を得る必要がある場合、本実施形態で示したように、2次の振動モードの周波数がその所望の周波数となるように、セル径の大きさ等を変えて出力周波数を調整すると、効率的に高い音圧を得ることができる。出力周波数を調整するには、例えば基本周波数を下げたければセル径を大きくすればよいし、基本周波数を上げたければセル径を小さくすればよい。
【0036】
また、セル径が大きいほど、振動膜119のうち平坦に近い形状となる部分の面積は大きくなる。例えば、セル径が35μmのとき、各位相におけるcMUT110の変形の様子を模式的に表すと、図12(a)のようになる。一方、セル径が55μmのとき、各位相におけるcMUT110の変形の様子を模式的に表すと、図12(b)のようになる。これら模式図に示すように、セル径が大きい程、振動中の振動膜119の中央部分における平坦度は高くなる。このため、射出される超音波の指向性は向上し、高い音圧が得られる。
【0037】
[第2の実施形態]
本発明の第2の実施形態について説明する。本実施形態の説明では、第1の実施形態との相違点について説明し、同一の部分については同一の符号を付して、説明を省略する。本実施形態に係るcMUT210の構成の概略を図13に示す。本実施形態に係るcMUT210は、そのベース基板211の形状が第1の実施形態に係るcMUT110と異なっている。
【0038】
本実施形態に係るcMUT210のベース基板211において、キャビティ118の下に相当する部分の厚さは、他の部分の厚さよりも薄くなっている。したがって、ベース基板211のうち他より薄い部分は、他の部分より剛性が低くなっている。この剛性が低い領域を変形領域222と称する。一方、変形領域222以外のベース基板211が厚い領域を支持領域224と称する。本cMUT210のその他の構成は、第1の実施形態のcMUT110と同様である。なお、cMUT210の各部の寸法及び材質は、第1の実施形態の変形例と同様であり、セル径はφ55μmである。このように、ベース基板211は、ベース基板211の振動膜119と対向する面の法線であって、キャビティ119の重心を通る線が通過する領域である変形領域222と、変形領域222の周縁に位置する支持領域224とを含む。
【0039】
また、本実施形態において、ベース基板211が薄くなっている部分であり、ベース基板211のキャビティ118と反対側の面、すなわち、変形領域222のキャビティ118と反対側の面には、空気が接しているものとする。空気に限らず、他の気体や、水等の液体が接していても、以下については、同様の結果が得られる。以降、本実施形態に係るcMUT210をFFLDcMUT210と称し、第1の実施形態の変形例に係るcMUT110をFIXDcMUT110と称する。
【0040】
FFLDcMUT210とFIXDcMUT110とを、それぞれ基本周波数である3MHz、バイアス電圧を5V、交流電圧を50Vの駆動信号で駆動したときの、振動膜119の直上中心で計測した音圧のFFT解析の結果を図14に示す。図中(a)を付した実線は、FFLDcMUT210の周波数特性を示し、図中(b)を付した破線は、FIXDcMUT110の周波数特性を示す。FFLDcMUT210の場合、6MHz付近に認められる2次の振動モードにおける音圧は、基本周波数である3MHzにおける音圧よりも低い。また、FFLDcMUT210の場合、約9MHzに特異的なピークが確認される。
【0041】
まず、FFLDcMUT210における振動挙動を、図15を参照して説明する。ここでは、FIXDcMUT110を基本周波数で駆動した基本的な振動挙動と、FFLDcMUT210を高次の振動モードに相当する周波数で駆動したときとを比較しながら説明する。
【0042】
図15(a)に、FIXDcMUT110を基本周波数の駆動信号で駆動したときの振動の様子を示す。ここで、図15(a)は、振動膜119の平面方向の中心を通り、ベース基板111と垂直な面に係る断面を示す。FIXDcMUT110では、ベース基板111がキャビティ118と比較して十分に厚い。このため、ベース基板111はほとんど振動せず、振動膜119のみが屈曲振動する。これは、駆動周波数をより高い周波数としたときも同様である。一方、図15(b)に、FFLDcMUT210を、9MHzで駆動したときの振動の様子を示す。図15(b)は、振動膜119の平面方向の中心を通り、ベース基板111と垂直な面に係る断面を示す。9MHzという周波数は、図14においてFFLDcMUT210に特異的に認められたピークに近い周波数である。FFLDcMUT210では、変形領域222においてベース基板211が薄いため剛性が低くなっており、変形領域222に相当する部分のベース基板211は、図15(a)に示した場合と比較すると、大きく振動する。
【0043】
また、その効果については後に詳述するが、FIXDcMUT110を基本周波数で駆動すると、図15(a)に示す断面において、腹152を1箇所有し、節154を2箇所有する振動をする。その結果、ベース基板111に対して法線方向に伝搬する音波(以降、直進音波と称する)の図15(a)に示す断面における幅は、次のようになる。すなわち、直進音波は、振動膜119のうちベース基板111と平行に近い面を有して振動する領域に対応する。直進音波の幅を図示すると、図15(a)に示す直進音波150のようになる。一方、図15(b)に示すFFLDcMUT210では、振動膜119は、図15(b)に示す断面において腹252を3箇所有し、節254を4箇所有する振動をする。その結果、図15(b)に示すように、この断面における3つの腹252の位置に直進音波250が生じる。
【0044】
次に、FFLDcMUT210を、駆動周波数を3MHz、6MHz又は9MHzとしたときの、FFLDcMUT210の振動挙動を説明する。この3MHz、6MHz又は9MHzという周波数は、FFLDcMUT210を3MHzで駆動したときに、図14に示したとおりピークが認められた周波数である。
【0045】
駆動周波数3MHz、6MHz又は9MHzの駆動信号でFFLDcMUT210を駆動したときの、振動膜119の中心からベース基板111の法線方向に60mm離れた位置における音圧の時間平均値を、図16に示す。FFLDcMUT210を、9MHzで駆動したとき、計測される音圧が他の場合に比べて非常に高いことがわかる。これらの場合のFFLDcMUT210の変形の様子を図17に示す。
【0046】
図17は、それぞれ位相300°におけるFFLDcMUT210の変形の様子を表している。図17(a)は、3MHzで駆動したときの様子を示し、図17(b)は、6MHzで駆動したときの様子を示し、図17(c)は、9MHzで駆動したときの様子を示す。計測される音圧が低い6MHzで駆動したときは、図17(b)に示すように、振動膜119の変位方向とベース基板211の変位方向とが一致していることがわかる。逆に、計測される音圧が高い9MHzで駆動したとき、図17(c)に示すように、振動膜119の変位方向とベース基板211の変位方向とが逆向きになっている。このように、振動膜119の変位方向とベース基板211の変位方向とが逆向きとなり、さらにベース基板211の変位が大きいほど、出力される音圧が高くなることがわかる。
【0047】
FFLDcMUT210の寸法を変えて、基本周波数を変化させたときの例を挙げて、さらに説明する。ここでは、2次の振動モードに相当する周波数が、15MHzとなるように設計したFFLDcMUT210を例に挙げる。このFFLDcMUT210の特性を、基本周波数が15MHzである第1の実施形態のcMUT110の特性と比較する。なお、この例のFFLDcMUT210のセル径は、第1の実施形態のcMUT110のセル径よりも大きい。
【0048】
本FFLDcMUT210と第1の実施形態のcMUT110とを、それぞれ15MHzで駆動したときの、振動膜119の直上中心で計測した音圧のFFT解析の結果を図18に示す。図中(a)を付した実線は、FFLDcMUT210の周波数特性を示し、図中(b)を付した破線は、第1の実施形態のcMUT110の周波数特性を示す。第1の実施形態のcMUT110の場合の音圧に比較して、FFLDcMUT210の場合の音圧は低い。これに対して、それぞれ15MHzで駆動したときの、振動膜119の中心からベース基板111の法線方向に60mm離れた位置における音圧の時間平均値は、図19に示すようになる。すなわち、振動膜119の中心からベース基板111の法線方向に60mm離れた位置における音圧の時間平均値は、FFLDcMUT210の場合において、cMUT110の場合の約5.3倍となっている。
【0049】
本FFLDcMUT210の振動の様子を図20に示す。ここで、図20(a)は、位相10°のときのFFLDcMUT210の様子を模式的に示し、図20(b)は、位相180°のときのFFLDcMUT210の様子を模式的に示す。図20(a)及び(b)は、それぞれ振動膜119の平面方向の中心を通り、ベース基板111と垂直な面に係る断面を示す。FFLDcMUT210では、図15(b)に示した場合と同様に、図20(a)及び(b)に示す断面において、腹252の数が3つであり、節254の数が4つである。また、図17(c)に示す場合と同様に、振動膜119の変位方向と、変形領域222のベース基板211の変位方向とは、逆向きになっている。これは先述した第一の実施形態で説明した「振動膜が平坦な形状」となることに相当する。
【0050】
以上のことから、FFLDcMUT210を用いて、振動膜119の中心からベース基板111の法線方向に60mm離れた位置における音圧の時間平均値が高くなる理由は次のように説明できる。
図15(a)に示したFIXDcMUT110を基本周波数で駆動した場合には、振動膜119においては、腹152の数が1つであるので、瞬間的な直進音波150の幅と、時間平均的な直進音波150の幅とは等しくなる。これに対して、図15(b)及び図20に示したFFLDcMUT210では、腹252の数が3つであるので、腹252部分の振動膜119の変位に応じて、瞬間的な直進音波250の位置は、図20(a)と図20(b)とのように、時間とともに変化する。このため、瞬間的な直進音波250の幅と、時間平均的な直進音波250の幅とは異なる。すなわち、時間平均的な直進音波250の幅は、瞬間的な直進音波250の幅よりも広がる。その結果、振動膜119の中心からベース基板111の法線方向に60mm離れた位置における音圧の時間平均値が、高くなる。
【0051】
さらに、駆動周波数を適切に選択すると、図17(c)に示すように、振動膜119の変位方向とベース基板211の変位方向とが逆向きになる。このように、振動膜119の変位方向とベース基板211の変位方向とが逆向きとなると、変位の方向が逆向きになる場合に比べて、振動膜119の中心からベース基板111の法線方向に60mm離れた位置における音圧の時間平均値が高くなる。
【0052】
以上まとめると、本実施形態のFFLDcMUT210のように、ベース基板111の一部を薄くして、ベース基板111が振動するようにし、振動の腹の数を複数とし、さらに、振動膜119の変位方向とベース基板211の変位方向とが逆向きになるようにすると、超音波の照射によって目標位置において高い音圧が得られる。すなわち、本実施形態においても、振動膜119が逆向きに変位する期間があり、そのため振動膜が平坦な形状となり超音波の指向性が向上する。なお、これらの条件は、必ずしも全てを同時に満たす必要はない。ただし、全て同時に条件を満たすとき、特に高い音圧が得られる。
【0053】
このように、超音波照射装置において、ベース部材211も連続的に振動するFFLDcMUT210を用い、振動膜119のうち特定の領域における振動中心に対する変位の向きと、前記領域と対向するベース部材211の領域における振動中心に対する変位の向きとが逆向きとなるように振動させる駆動信号を用いると、高い出力が得られる。このような超音波照射装置は、高音圧を実現できるので治療用のデバイスとして有効である。
【0054】
なお、本実施形態及びその変形例では、変形領域222をキャビティ118のサイズに合わせると説明したが、これに限定されるものではない。変形領域222は、キャビティ118よりも広くてもよいし、狭くてもよい。好ましくは、本実施形態と同様に、変形領域222とキャビティ118とは、サイズが一致させるとよい。
【0055】
また、本実施形態では、ベース基板111の変形領域222を支持領域224よりも薄くすることで、変形領域222の剛性を支持領域224の剛性より小さくしている。これに対して、変形領域222を構成する物質のヤング率を、支持領域224を構成する物質のヤング率より低くすることで、変形領域222の剛性を下げても、同様の効果が得られる。
【0056】
[第3の実施形態]
本発明の第3の実施形態について説明する。ここで本実施形態の説明では、第2の実施形態との相違点について説明し、同一の部分には同一の符号を付して説明を省略する。本実施形態に係るFFLDcMUT310は、図21に示すように、第2の実施形態に係るFFLDcMUT210の上部電極117上に、例えばテトラエトキシシラン(TEOS)からなる質量部311が形成されている。さらに、上部電極117及び質量部311の上部を覆うように、例えばP−SiNからなる保護膜312が形成されている。この質量部311及び保護膜312により、突起部315が形成されている。その他の構造は、第2の実施形態に係るFFLDcMUT210と同様である。
【0057】
FFLDcMUT210では、変形領域222のベース基板211も振動するため、駆動電圧によっては、下部電極114側と上部電極117側が接触するいわゆるcollapseが生じやすくなる。これに対して本実施形態では、質量部311を、図20を参照して説明した中心から遠い側の腹252よりも外側まで設けることによって、振動膜119に適度な剛性を持たせ、collapseを防ぐことができる。なお、ベース基板111の法線方向から見た質量部311の面積は、キャビティ118の面積よりも狭いことが好ましい。
【0058】
第1の実施形態の変形例に係るFIXDcMUT110と、第2の実施形態に係るFFLDcMUT210と、前記FIXDcMUT110に突起部315を設けたBoss−FIXDcMUTと、FFLDcMUT210に突起部315を設けた本実施形態に係るBoss−FFLDcMUT310とを、それぞれ駆動周波数6MHz又は9MHzで駆動したときの、振動膜119の中心からベース基板111の法線方向に60mm離れた位置における音圧の時間平均値を図22に示す。
【0059】
突起部315を設けると、突起部315を設けていない場合に比較して、得られる音圧が高くなる。特に、変形領域222を設けた場合、第2の実施形態で説明したベース基板211が容易に変形して屈曲振動をすることによる効果と、突起部315を設けた効果とが重畳して、高い音圧が得られる。例えば、変形領域222を設けた場合に特異的に認められる振動モードを利用した9MHzで駆動した場合を比較すると、Boss−FFLDcMUT310では、FIXDcMUT110の約3倍、FFLDcMUT210の約1.2倍の音圧が得られる。
【0060】
以上のとおり、本実施形態のように突起部315を設けることで、collapseを防ぎながら高次の振動モードを利用して高い出力が得られるcMUTを実現できる。本実施形態によれば、例えば治療向けデバイスとして用いることができる、高音圧を出力できる優れた超音波照射装置を提供できる。
【0061】
なお、高次の振動モードを積極的に利用したい場合、所望するモードに現れる同心円の節、及び必要であれば直径方向の節の位置に合わせて、突起部315の寸法を設定するとよい。より高次の振動モードを利用したい場合は、突起部の幅寸法をそのモードの節に合わせるようにさらに小さくする、又は、節に沿って突起部315を形成するようにすればよい。
【0062】
本実施形態では、質量部311の材料としてTEOSを用いているが、SiNなど他の材料を用いて形成してもよい。
なお、上部電極117の音響インピーダンスは、質量部311の音響インピーダンスよりも大きく、質量部311の音響インピーダンスは、保護膜312の音響インピーダンス以上であることが好ましい。
【0063】
また、本実施形態では、第2の実施形態に係るFFLDcMUT210に突起部315を設けた構成を主に説明したが、第1の実施形態に係るcMUT110に突起部315を設けた構成としても、突起部315が配置されていることによる効果は得られる。
【0064】
[第3の実施形態の変形例]
本発明の第3の実施形態の変形例について説明する。本変形例の一態様は、第3の実施形態に係るBoss−FFLDcMUT310において、突起部315の形状を周縁部が薄い階段状にしている。このような階段状の突起部315を有するcMUTを、以降においてLadder−Boss−FFLDcMUT330と称する。また本変形例の別の一態様では、第3の実施形態に係るBoss−FFLDcMUT310において、突起部315の周縁部の一部を薄くして、突起部315がヒンジ状の部分を有する形状としている。以降においてヒンジ部をもつ突起部315を有するcMUTを、Hinge−Boss−FFLDcMUT340と称する。なお、何れの場合も質量部311の材料は、SiNとしている。その他の構成は、第3の実施形態に係るBoss−FFLDcMUT310と同様である。
【0065】
これらを正弦波で駆動したときの位相90°における変形の様子を図23に示す。図23(a)は、第3の実施形態に係るBoss−FFLDcMUT310の場合を示す。図23(b)は、Ladder−Boss−FFLDcMUT330の場合を示す。図23(c)は、Hinge−Boss−FFLDcMUT340の場合を示す。これらの図に示すように、振動膜119及び突起部315は、薄くなっている箇所で変形している。薄い場所がほとんどない図23(a)に示すBoss−FFLDcMUT310では、突起部315の全体が大きく湾曲している。これに対して、図23(b)に示すLadder−Boss−FFLDcMUT330、及び図23(c)に示すHinge−Boss−FFLDcMUT340では、振動膜119及び突起部315が薄くなっている領域が十分にあるため、突起部315が平坦な形状を保ったまま振動膜119が振動している。このように、突起部315が平坦な形状のまま振動するので、音波の指向性がよく、直進音波の幅が広くなる。
【0066】
Boss−FFLDcMUT310、Hinge−Boss−FFLDcMUT340、及びLadder−Boss−FFLDcMUT330のそれぞれに、周波数5MHz、バイアス電圧50V、交流電圧50Vの駆動信号を印加したときの、振動膜119の中心からベース基板111の法線方向に60mm離れた位置における音圧の時間平均値を図24に示す。Boss−FFLDcMUT310と比較して、Ladder−Boss−FFLDcMUT330及びHinge−Boss−FFLDcMUT340の何れの場合においても、高い音圧が得られている。
【0067】
なお、Ladder−Boss−FFLDcMUT330及びHinge−Boss−FFLDcMUT340の何れにおいても、段差やヒンジの位置を、所望のモードにおける節の位置に合わせて設けることで、振動変位をさらに大きくすることができる。その結果、さらに得られる音圧を高くすることができる。
【0068】
cMUTは、単独で用いてもよいが、アレイ状に配列して用いることが一般的である。第1乃至第3の何れの実施形態及びそれらの変形例においても、cMUTをアレイ状に配置してよいことはもちろんである。何れのcMUTをアレイ状に並べても、前記した効果が得られることはもちろんである。
第1乃至第3の実施形態及びそれらの変形例として説明した上記cMUTに係る技術は、例えば超音波診断装置の音源に利用することができる。
【0069】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除しても、発明が解決しようとする課題の欄で述べられた課題が解決でき、かつ、発明の効果が得られる場合には、この構成要素が削除された構成も発明として抽出され得る。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0070】
110…cMUT、111…ベース基板、112…第1の絶縁層、113…酸化防止膜、114…下部電極、115…第2の絶縁層、116…第3の絶縁層、117…上部電極、118…キャビティ、119…振動膜、120…駆動制御手段、150…直進音波、152,252…腹、154,254…節、210…FFLDcMUT、211…ベース基板、222…変形領域、224…支持領域、250…直進音波、310…Boss−FFLDcMUT、311…質量部、312…保護膜、315…突起部、330…Ladder−Boss−FFLDcMUT、340…Hinge−Boss−FFLDcMUT。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部電極を含む振動膜と、
前記振動膜との間に空隙を介して該振動膜と対向する下部電極を含むベース部材と、
を有する静電容量型超音波振動子と、
前記上部電極と前記下部電極との間に駆動信号に基づく電圧を印加して前記振動膜を振動させることで、前記静電容量型超音波振動子に音波を射出させる駆動制御手段と、
を具備する超音波照射装置であって、
前記駆動信号は、
周期を有しており、
前記周期の数は2以上であり、
前記振動膜の一部分の速度の向きが、該振動膜の他の部分の速度の向きと逆向きとなるように該振動膜を連続的に振動させる、
前記電圧を前記上部電極と前記下部電極との間に印加するための信号であることを特徴とする超音波照射装置。
【請求項2】
前記上部電極と前記下部電極との間に前記駆動信号に基づく前記電圧を印加することで、前記ベース部材も連続的に振動し、
前記駆動信号は、前記振動膜のうち第1の領域における振動中心に対する変位の向きと、前記第1の領域と対向する前記ベース部材の第2の領域における振動中心に対する変位の向きとが逆向きとなるように、該振動膜と該ベース部材とを振動させる信号である、
ことを特徴とする請求項1に記載の超音波照射装置。
【請求項3】
前記駆動信号は、さらに前記振動膜のうち前記第1の領域以外の一部である第3の領域における振動中心に対する変位の向きが、前記第3の領域と対向する前記ベース部材の第4の領域における振動中心に対する変位の向きと逆向きとなるように、該振動膜と該ベース部材とを振動させる信号である、ことを特徴とする請求項2に記載の超音波照射装置。
【請求項4】
前記駆動信号は、前記静電容量型超音波振動子の基本周波数である第1の周波数と、前記駆動信号の周波数である第2の周波数と、前記駆動信号の周波数の2倍の周波数である第3の周波数とを含む音圧であって、前記第3の周波数を有する音圧が、前記第2の周波数を有する音圧よりも高く、前記第2の周波数を有する音圧が、前記第1の周波数を有する音圧よりも高い音圧を、前記振動膜の振動によって発生させる信号であることを特徴とする請求項1に記載の超音波照射装置。
【請求項5】
前記第2の周波数は、前記第1の周波数よりも高いことを特徴とする請求項4に記載の超音波照射装置。
【請求項6】
前記ベース部材は、該ベース部材の前記振動膜と対向する面の法線であって前記空隙の重心を通る線が通過する領域を含む振動領域と、該振動領域の周縁に位置する支持領域とを含み、
前記振動領域の剛性は、前記支持領域の剛性よりも小さい、
ことを特徴とする請求項1乃至3のうち何れか1項に記載の超音波照射装置。
【請求項7】
前記振動領域の前記ベース部材の前記振動膜と対向する面の前記法線方向における厚みは、前記支持領域の該法線方向における厚みよりも薄い、ことを特徴とする請求項6に記載の超音波照射装置。
【請求項8】
前記振動領域のヤング率は、前記支持領域のヤング率よりも小さい、ことを特徴とする請求項6に記載の超音波照射装置。
【請求項9】
前記振動領域の前記空隙と反対側の面には、気体又は液体が接していることを特徴とする請求項6乃至8のうち何れか1項に記載の超音波照射装置。
【請求項10】
前記静電容量型超音波振動子は、所定の周波数における前記振動膜の振動を増強する大きさを有する前記振動膜に設けられた突起部を更に備えることを特徴とする請求項1に記載の超音波照射装置。
【請求項11】
前記突起部は、
前記振動膜に接する質量部と、
前記質量部を覆う保護膜と、
を含み、
前記ベース部材の前記振動膜と対向する面の法線方向からみた前記質量部の面積は、該法線方向からみた前記振動膜の面積よりも狭いことを特徴とする請求項10に記載の超音波照射装置。
【請求項12】
前記ベース部材の前記振動膜と対向する面の法線方向における前記突起部の厚さは、該振動膜の面方向における場所によって異なることを特徴とする請求項10に記載の超音波照射装置。
【請求項13】
前記突起部は、前記厚さが該突起部の中心で厚く周縁部で薄い階段形状であることを特徴とする請求項12に記載の超音波照射装置。
【請求項14】
前記突起部は、該突起部の周縁部に位置する前記厚さが他の部分より薄くなっているヒンジ部を有することを特徴とする請求項12に記載の超音波照射装置。
【請求項15】
前記突起部は、非導電性材料で構成されていることを特徴とする請求項10に記載の超音波照射装置。
【請求項16】
前記突起部は、
前記振動膜に接する質量部と、
前記質量部を覆う保護膜と、
を含むことを特徴とする請求項10に記載の超音波照射装置。
【請求項17】
前記上部電極の音響インピーダンスは、前記質量部の音響インピーダンスよりも大きく、
前記質量部の音響インピーダンスは、前記保護膜の音響インピーダンス以上である、
ことを特徴とする請求項16に記載の超音波照射装置。
【請求項18】
前記静電容量型超音波振動子は、所定の周波数における前記振動膜の振動を増強する大きさを有する前記振動膜に設けられた突起部を更に備えることを特徴とする請求項6乃至9のうち何れか1項に記載の超音波照射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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