超音波画像診断装置
【課題】出力する超音波の音圧の増大と超音波反射波の受信効率の向上とを両立させることができる超音波画像診断装置を提供する。
【解決手段】薄膜と基盤が空隙を挟んで設けられ、前記薄膜の振動により前記超音波を送波する一方、前記超音波反射波の受波による前記薄膜の振動を電気信号のエコー信号に変換する複数のC・MUT素子と、超音波反射波の受信期間Tに、被検体の近距離部位で反射した超音波反射波を受波する近距離受信期間Rsから、遠距離部位で反射した超音波反射波を受信する遠距離受信期間Reへ行くに従って電圧が漸次高くなる可変バイアス電圧Vpを、C・MUT素子に与える制御手段と、を具備している。
【解決手段】薄膜と基盤が空隙を挟んで設けられ、前記薄膜の振動により前記超音波を送波する一方、前記超音波反射波の受波による前記薄膜の振動を電気信号のエコー信号に変換する複数のC・MUT素子と、超音波反射波の受信期間Tに、被検体の近距離部位で反射した超音波反射波を受波する近距離受信期間Rsから、遠距離部位で反射した超音波反射波を受信する遠距離受信期間Reへ行くに従って電圧が漸次高くなる可変バイアス電圧Vpを、C・MUT素子に与える制御手段と、を具備している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波振動子として、C・MUT(Capacitive Micromachining Ultrasound Transducers、静電容量型超音波振動子)素子を使用する超音波画像診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、超音波画像診断装置の超音波振動子として、C・MUT素子(静電容量結合型超音波振動子)を使用したものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。このC・MUT素子は、シリコン等の基板上で対向配置された一対の電極膜間に、DC(直流)バイアス電圧が印加され、これに、電気信号の所要周波数の駆動パルスが重畳して印加されると、これら一対の電極膜間の静電容量が変動し、一方の電極膜が振動して所要周波数の超音波が送波される。図17はこのC・MUT素子に送信されて駆動する駆動信号の送信波形TaとそのDCバイアス電圧Vaとを示しており、このDCバイアス電圧Vaは、例えば約80V程度で一定に固定されている。
【0003】
また、C・MUT素子は、一方の電極膜により超音波の反射波(エコー波)が受波されると、これを電気信号のエコー信号に変換する機能を有する。すなわち、C・MUT素子は、超音波を電気信号に可逆的に変換可能である。
【0004】
そして、C・MUT素子は、そのDCバイアス電圧を制御することにより、一対の電極膜間の静電容量を変化させて共振周波数を適宜制御することができる。しかし、この共振周波数帯域は狭いので、従来はC・MUT素子のDCバイアス電圧を共振周波数以外の周波数帯域を使用する値に設定して、超音波周波数の広帯域化を図っている。
【特許文献1】米国特許第6,443,901号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、一般にC・MUT素子は、PZT等の超音波圧電素子に比して超音波の音圧が小さいという課題を有する。
【0006】
そこで、C・MUT素子の一対の電極膜に印加するDCバイアス電圧を高くし、または、このDCバイアス電圧に重畳して与える駆動パルスの振幅を増幅させることにより、超音波の音圧を増大させることが考えられる。
【0007】
また、DCバイアス電圧を高くすることにより、C・MUT素子の超音波受信感度ないし受信効率を向上させることができる。
【0008】
しかし、C・MUT素子のDCバイアス電圧と、駆動パルスの振幅が過大である場合には、振動する一方の電極膜の振幅が過大になって他方の電極膜に衝当して破損する場合がある。
【0009】
このために、DCバイアス電圧は駆動パルスの振幅に応じて低減しておくことが必要である。すなわち、従来のC・MUT素子の駆動方法では、超音波の大きな音圧とエコー波受信効率の向上とを両立することは困難であるという課題がある。
【0010】
また、DCバイアス電圧を例えば階段状等急激に高める場合には、エコー受信期間等意図しないときに超音波が送波されて2重像を発生させる場合がある。
【0011】
本発明はこのような事情を考慮してなされたもので、その目的は、出力する超音波の音圧の増大と超音波反射波の受信効率の向上とを両立させることができる超音波画像診断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、図8の特性曲線Aに示すようにC・MUT素子のDCバイアス電圧の上昇に伴って超音波反射波エコー信号の受信効率が指数関数的に上昇する点に着目してなされたものであり、エコー波受信期間にC・MUT素子に印加されるDCバイアス電圧を、近距離受信期間から遠距離受信期間へ行くに従って漸次高める点に特徴があり、次のように構成される。
【0013】
請求項1に係る発明は、被検体に対して送信期間に超音波を送波する一方、受信期間にこの被検体から受波された超音波反射波のエコー信号に基づいて超音波画像を再構成し表示手段に表示する超音波画像診断装置において、直流バイアス電圧が印加されて駆動し、駆動パルスを受信して上記超音波を送波する一方、上記超音波反射波を受波して電気信号のエコー信号に変換する複数の静電容量結合型超音波振動子と、上記超音波反射波の受信期間に、上記被検体の近距離部位で反射した超音波反射波を受波する近距離受信期間から、遠距離部位で反射した超音波反射波を受信する遠距離受信期間へ行くに従って電圧が漸次高くな可変バイアス電圧を、上記静電容量結合型超音波振動子に与える制御手段と、を具備していることを特徴とする超音波画像診断装置である。
【0014】
請求項2に係る発明は、上記制御手段は、上記駆動パルスを作成するために必要な電位を有する駆動用バイアス電圧および上記受信期間中に印加される上記可変バイアス電圧を発生させるバイアス発生回路と、上記送信期間に上記バイアス発生回路から上記駆動用バイアス電圧を駆動パルスとして出力させる送信制御信号を出力する一方、上記受信期間に上記バイアス発生回路から上記可変バイアス電圧を出力させる送信制御信号を出力する送信制御手段と、この送信制御信号を出力する送信制御手段からの送信制御信号を受けて上記駆動パルスと可変バイアス電圧を上記静電容量結合型超音波振動子に選択的に与える送信回路と、を具備していることを特徴とする請求項1記載の超音波画像診断装置である。
【0015】
請求項3に係る発明は、上記送信制御手段は、上記受信期間に印加される上記可変バイアス電圧に、上記駆動パルスの周波数成分を含まないように上記送信制御信号を出力する手段を、具備していることを特徴とする請求項2記載の超音波画像診断装置である。
【0016】
請求項4に係る発明は、上記静電容量結合型超音波振動子は、その複数個が基板上に列状に配設されてアレイ素子に構成され、さらに、このアレイ素子の複数個がスキャン方向に並設されて二次元アレイ素子に構成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の超音波画像診断装置である。
【0017】
請求項5に係る発明は、上記バイアス発生回路は、上記全アレイ素子に電気的に接続され、上記送信回路は上記各アレイ素子毎に電気的に接続され、上記送信回路制御手段は、上記アレイ素子をそのスキャン方向に電子走査するための送信制御信号を出力する手段を備えていることを特徴とする請求項4記載の超音波画像診断装置である。
【0018】
請求項6に係る発明は、上記送信制御手段は、上記エコー信号を増幅する増幅器の利得を制御する操作卓の利得操作具の手動操作に応じて上記可変バイアス電圧を制御する手段を具備していることを特徴とする請求項2〜5のいずれか1項に記載の超音波画像診断装置である。
【0019】
請求項7に係る発明は、上記送信制御手段は、上記駆動パルスの送信周波数を制御する操作卓の周波数操作具の手動操作に応じて上記可変バイアス電圧を制御する手段を具備していることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の超音波画像診断装置である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、超音波反射波の受信期間中には、近距離受信期間から遠距離受信期間へ行くに従って電圧が漸次高くなる可変バイアス電圧が静電容量結合型超音波振動子の薄膜と基盤間に印加されるので、この近距離受信期間から遠距離受信期間までのエコー波の受信効率ないし受信感度の向上を図ることができる。
【0021】
しかも、超音波送波の送信期間では、静電容量結合型超音波振動子のDCバイアス電圧を高くしないので、静電容量結合型超音波振動子に振幅の大きい駆動パルスを与えて超音波の音圧の増大を図っても、静電容量結合型超音波振動子が破損するのを有効に防止することができる。すなわち、超音波の音圧の増大とエコー波の受信感度ないし受信効率の向上とを両立させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。これら添付図面中、同一または相当部分には同一符号を付している。
【0023】
図2は本発明の第1実施形態に係る超音波画像診断装置1の全体構成を示すブロック図である。この図2に示すように超音波画像診断装置1は、プローブヘッド200と、このプローブヘッド200に信号ケーブル300を介して電気的に接続された本体装置400とを具備している。
【0024】
プローブヘッド200は、プローブ201、送信回路202、送信制御回路203、バイアス発生回路204、受信前置増幅器205、受信遅延加算回路206を具備し、これらを図示しないヘッドケース内に設けて一体に構成している。
【0025】
一方、本体装置400は、受信走査回路401、血流情報検出器402、振幅検出器403、データメモリ404、表示処理部405、表示モニタ406を具備しており、これらを図示しない本体ケース内に配設して一体に構成している。
【0026】
図3は上記プローブ201の要部平面を示す模式図である。この図3に示すようにプローブ201は複数(例えば64素子)のアレイ素子211,211,…をスキャン方向に並設して二次元アレイ素子に構成している。
【0027】
各アレイ素子211はシリコン等の絶縁基板221に、平面形状が例えば円形等の複数のC・MUT素子231,231,…を、図3中横方向のスライス方向と、図3中縦方向のスキャン方向に、それぞれ所要のピッチを置いて、例えば3行12列にそれぞれ配設することにより構成されている。
【0028】
各アレイ素子211は、絶縁基板221上に、複数のC・MUT素子231同士を並列に電気的に接続する、図示しない配線導体を形成し、さらにこの配線導体を、各アレイ素子211毎に備えた送信回路202に電気的にそれぞれ接続している。各送信回路202は各C・MUT素子231に、図1で示す送信信号202Sを各アレイ素子211毎に与える(送信する)ことにより各C・MUT素子231を駆動して、超音波を出力させ、図示しない被検体に送波させるものである。
【0029】
図4は各C・MUT素子231の縦断面図である。この図4に示すように各C・MUT素子231は、基盤であるシリコン等の絶縁基板221の図4中上面上に、基板側導電性薄膜241を形成し、さらに、この基板側導電性薄膜241上に、非導電性の窒化ケイ素製等の枠状の絶縁層251を形成し、この絶縁層251により囲まれた内方には、厚さが例えば1μm以下の平面形状が円形の空隙261を形成している。
【0030】
さらに、この絶縁層251上には、空隙層261上にて、非導電性薄膜271を形成し、この非導電性薄膜271の上面上に、例えば100μm以下の小円形の放射面側導電性薄膜281を蒸着等により一体に形成し、この放射面側導電性薄膜281と基板側導電性薄膜241との間には、送信回路202からの送信信号202Sが印加される。これにより、基板側と放電面側の導電性薄膜241,281間には相互に引き合う静電力が作用し、DCバイアス電圧を制御することにより、これら導電性薄膜241,281間の静電力が変化するので、放電面側導電性薄膜281が非導電性薄膜271と一体となって振動し、放射面側導電性薄膜281から所要周波数の超音波が放射される。
【0031】
また、放射面側導電性薄膜281の振動抵抗を低減するために、空隙261はほぼ真空に形成されている。
【0032】
図1は上記送信回路202からC・MUT素子231に与えられる駆動信号である送信信号202Sの電圧波形を示す波形図である。図1中、横軸は時間(sec)tを示し、縦軸は電圧(V)を示し、さらに、Tは例えば200μsecの周期の超音波送信期間、Rは超音波反射波(エコー波)を受信する受信期間、Rsは被検体の近距離部位で反射した超音波反射波を受信する近距離受信期間、Reは被検体の遠距離部位で反射した超音波反射波を受信する遠距離受信期間、NRはノンレシーブ(非受信期間)をそれぞれ示している。
【0033】
送信信号202Sの波形はバイアス電圧に、所要周波数の駆動パルスMPを一体に重畳することにより構成されている。この駆動信号パルスMPが出力される送信期間Tにおいては、バイアス電圧が例えば約80V程度で最低であるが、バイアス電位よりも高電位側である上位側に立ち上がる上位側パルスPuと、同低電位側に立ち下がる下位側パルスPdとを1個ずつ有する。但し、これら上,下位側パルスPu,Pdは1個に限定されるものではなく、各々1個以上あればよく、または、その一方でもよい。
【0034】
そして、この送信信号202Sは、その受信期間Rにて可変バイアス電圧Vpの成分を有する。この可変バイアス電圧Vpは近距離受信期間Rsから遠距離受信期間Reへ行くに従ってバイアス電圧が漸次高くなるように時間に伴って変化する時間変化波形である。
【0035】
このように構成された送信信号202Sは、送信制御手段の一例である送信制御回路203からの送信制御信号203Sと、バイアス発生回路204からのバイアス電圧204Sとを送信回路202により受けて作成される。
【0036】
送信制御回路203は、図示しないクロック発生器、分周器、送信遅延回路、スイッチ回路を有し、クロック発生器で発生させたクロックパルスを、分周器により例えば5KHz程度の所定周波数に分周して所定レートのレートパルスに落とし、これを送信遅延回路を通してパルサに与え、ここでアレイ素子211毎に定められた所定のタイミングの電圧パルスを作成し、これを送信制御信号203Sとして送信回路202に与えるものである。
【0037】
バイアス発生回路204は、複数(例えば64素子)のアレイ素子211に共通で使用されるものであり、図6で示す駆動用上位電圧b1、可変バイアス電圧b2、駆動用下位電圧b3をそれぞれ発生して、送信回路202のバイアス選択手段である上位側の第1スイッチSW1、可変側の第2スイッチSW2、下位側の第3スイッチSW3の各電源側にそれぞれ与えるものである。
【0038】
図5中破線で示すように駆動用上位電圧b1は、例えば約120V程度で一定であり、図1で示す上下一対の駆動パルスMPの上位側パルスPuの最大電位を与えるものである。また、駆動用下位電圧b3は図5中一点鎖線で示すように例えば約40V程度で一定であり、図1で示す駆動パルスMPの下位側パルスPdの電位を与えるものである。
【0039】
そして、可変バイアス電圧b2は、図5中実線で示すように駆動用上位電圧b1と駆動用下位電圧b3との間の電位において、時間的に変化する電圧であり、送信期間Tでは最も低電位である。また、可変バイアス電圧b2は、近距離受信期間Rsから遠距離受信期間Reへ行くに従って漸次電圧が高くなるように変化する。
【0040】
図7は、送信制御信号203Sの波形図である。この送信制御信号203Sは送信制御回路203から送信回路202の上記第1〜第3スイッチ回路SW1〜SW3にそれぞれ与えられて、これらスイッチ回路SW1〜SW3をオンパルス幅の時間だけにオン制御して送信信号202Sを作成し出力するスイッチ制御タイミングパルスである。
【0041】
この送信制御信号203Sは、所定デューティ比のパルス幅の第1,第2,第3オンパルスP1,P2,P3を有する。第1オンパルスP1は送信期間Tのみに、第1のスイッチ回路SW1を所定時間オンさせて駆動用上位電圧b1を出力させ、これを駆動パルスMP中の上位側パルスPuとしてアレイ素子211に送信させるための制御パルスである。
【0042】
第2オンパルスP2は、第2のスイッチ回路SW2を送信期間Tのみオフにする一方、受信期間R中オンし、この受信期間R中可変バイアス電圧b2を出力させ続ける制御用パルスである。
【0043】
第3オンパルスP3は送信期間T中において、第1のオンパルスP1の次のタイミングで第3スイッチ回路SW3を所定時間オンさせて駆動用下位電圧b3を出力させ、これを駆動パルスMP中の下位側パルスPdとして出力させる制御用パルスである。
【0044】
このように構成された送信制御信号203Sは、その第1〜第3オンパルスP1〜P3の出力タイミングを、アレイ素子211毎、例えば64素子毎に所定時間ずつ遅延させた64種類の信号に構成されて、各送信回路202から各アレイ素子211に与えられることにより、全アレイ素子211を図3中のスキャン方向に電子走査することができる。
【0045】
次に、この実施形態に係る超音波画像診断装置1の作用を説明する。
【0046】
図6に示すようにバイアス発生回路204からは図5で示す駆動用上位電圧b1、可変バイアス電圧b2、駆動用下位電圧b3が送信回路202のバイアス選択手段である第1,第2,第3のスイッチ回路SW1〜SW3の電圧供給端子側に供給される。
【0047】
一方、これら第1〜第3のスイッチ回路SW1〜SW3には、送信制御回路203から送信制御信号203Sが与えられる。
【0048】
このために、送信期間T中のタイミングでは、送信制御信号203Sの第1オンパルス信号P1が第1スイッチ回路SW1に与えられ、これをオン(active)するので、図1で示す上位側駆動用パルスPuが出力される。この後、第3オンパルス信号P3が第3スイッチ回路SW3に与えられ、これをオンするので、下位側駆動パルスPdが出力される。
【0049】
一方、受信期間R中は、図7に示すように送信期間T中のみオフとなり、これ以外の全受信期間R中はオンとなる第2オンパルス信号が第2スイッチ回路SW2に与えられ、これがオンとなるので、受信期間R中には、図5に示すように時間変化波形の可変バイアス電圧b2が送信回路202から出力される。これら第1〜第3スイッチ回路SW1〜SW3のオン(active)期間は重複しないように制御され、いわゆるブレークビフォアメイク(Break before make)に構成され、これら複数のスイッチ回路SW1〜SW3が同時に導通して、C・MUT素子211に過大電流が流れることを防止している。
【0050】
そして、この送信回路202からは図1で示す波形の送信信号202Sが各C・MUT素子231に与えられる。
【0051】
このために、送信期間T中には、上位側駆動用パルスPuと下位側駆動用パルスPdが駆動パルスMPとしてC・MUT素子231の放電面側と基板側の一対の導電性薄膜281,241間に与えられる。
【0052】
これにより、放電面側導電性薄膜281が非導電性薄膜271と一体となって機械的に振動する。この送信期間Tが所定周期(例えば150μsec)で繰り返すことにより、放電面側導電性薄膜271から所定周波数の超音波が所定周期で繰り返し出力され、図示しない被検体に送波される。
【0053】
また、受信期間R中には、図1,図5で示す可変バイアス電圧b2がC・MUT素子231に印加される。
【0054】
そして、バイアス発生回路204は各アレイ素子211で共通に使用される。さらに、送信制御信号203Sのスイッチオンのタイミングは独立に制御されることにより、アレイ素子211毎に所定のタイミングでC・MUT素子231を駆動することにより、各アレイ素子211をスキャン方向に電子走査することができる。
【0055】
こうして、被検体内に送波された超音波は、受信期間R中に、被検体内の異なる音響インピーダンスの境界で反射して、反射波(エコー波)としてC・MUT素子231に受波されて、放射面側導電性薄膜281と非導電性薄膜271に応力を与え変位させる。
【0056】
このときにも、放射面側と基板側の導電性薄膜281,241間には可変バイアス電圧b2が印加されており、これら一対の導電性薄膜281,241の変位に応じた起電力を発生し、電気信号のエコー信号に変換されて前置増幅器205に入力される。
【0057】
このエコー信号は前置増幅器205で前置増幅されると共に、信号源インピーダンスの影響が低減されてから受信遅延加算回路207に入力される。この受信遅延加算回路207ではエコー信号が部分的に遅延加算されてアレイ素子211の素子数よりも少ない数のエコー信号に変換されてからケーブル300を介して本体装置401の受信走査回路401に入力される。
【0058】
受信走査回路401は、各エコー信号を整相加算してビームフォーミングを行なうと共に、図示しない複数のデジタルビームフォーマにより複数の方向からの受信指向性を別々に形成するために、複数のビームフォーミング処理を行なう。
【0059】
このために、指向性を有するエコー信号が生成され、このエコー信号が血流情報検出器402と振幅検出器403とに与えられる。
【0060】
血流情報検出器402は、いわゆるカラードプライメージング(CDI)を実現するユニットであり、エコー信号から周波数偏移を受けたドプラ信号を取り出し、さらに、このドプラ信号からMTIフィルタで特定の周波数成分だけを通過させ、その通過した信号の周波数を自己相関器により求め、この周波数から演算部で平均速度、分散、パワーを演算する。
【0061】
なお、MTIフィルタの通過帯域を調整することにより、主に被検体の血流を映像化する一般的なドプラモード(このモードによる画像データを血流ドプラ画像データと称する。)と、主に心筋等の臓器を映像化する組織ドプラモード(このモードによる画像データを組織ドプラ画像データと称する。)とを適宜切り替えることができる。これら画像データはデータメモリ404にそれぞれ与えられる。
【0062】
一方、振幅検出器403は受信走査回路401からのエコー信号を検波して画像データとしてデータメモリ404に与える。
【0063】
データメモリ404はこれら入力された画像データを記憶する。このデータメモリ404の記憶データは表示処理部405により表示モニタ406の表示タイミングで読み出され、図示しないD/A変換器によりアナログ信号に変換されてから表示モニタ406に与えられ、超音波画像として表示される。
【0064】
したがって、この超音波画像診断装置1によれば、図1で示す送信信号202SによりC・MUT素子231を駆動し、その送信期間Tには、このC・MUT素子231に印加するDCバイアス電圧を最小に低減させているので、超音波の音圧を増大させるために駆動パルスの振幅を増大させた場合でも、C・MUT素子231の放射面側導電性薄膜281およびこれと一体化されている絶縁性薄膜271が大きな振幅で他方の基板側導電性薄板241に衝当して破損するのを防止することができる。
【0065】
また、この送信期間Tのバイアス電圧が最低であるので、駆動パルスMPの振幅を増大させることにより、超音波の音圧の増大を図ることができる。
【0066】
さらに、このC・MUT素子231に印加されるDCバイアス電圧は、図1に示すように送信期間T中よりも受信期間R中の方が高くなっているので、この受信期間R中に受信されるエコー信号の受信効率ないし受信感度を向上させることができる。
【0067】
すなわち、図8の特性曲線Aに示すようにバイアス電圧とエコー信号の受信効率との関係は、バイアス電圧の上昇に伴って受信効率が指数関数的に上昇する。例えば、バイアス電圧が100Vの場合に比べて80Vの場合では、−30%〜40%受信振幅が減少し、さらに、40Vの場合には、−70%〜80%受信振幅が減少し、受信感度が低下する。つまり、受信期間Rでは、バイアス電圧を送信期間Tよりも高く設定しているので、受信効率ないし受信感度を向上させることができる。
【0068】
しかし、送信期間T直後、すなわち、近距離受信期間Rsでは、被検体の浅い箇所から反射する強力な反射波(エコー波)が受信されるので、この近距離受信期間Rsにおけるバイアス電圧を遠距離受信期間Reの電圧よりも低くしている。これにより、近距離受信期間Rsで受波される被検体の浅い部位からの反射波のエコー信号の受信感度が高くなり過ぎて飽和するのを未然に防止することができる。
【0069】
これに対し、遠距離受信期間Reのバイアス電圧は、近距離受信期間Rsのバイアス電圧よりも高いので、この遠距離受信期間Reにおける受信効率ないし受信感度を高めることができる。すなわち、遠距離受信期間Reで受波される被検体の深部からの超音波反射波の受信効率ないし受信感度を向上させることができる。
【0070】
したがって、出力される超音波の音圧の増大と、超音波反射波の受信効率ないし受信感度の向上との両立を図ることができる。
【0071】
また、図5に示すように、可変バイアス電圧b2は、送信期間T直後、すなわち、近距離受信期間Rsから遠距離受信期間Reに向けて緩かに変化し、図9の周波数スペクトラムの図中破線Bに示すように実線Cで示す駆動パルスMPの周波数帯域の周波数成分が含まれていないので、受信期間R中にC・MUT素子231が駆動して不要な超音波が出力され、2重画像が発生するのを未然に防止することができる。
【0072】
例えば図9で示す送信信号203Sの波形の場合はバイアス電圧の波形の変化の急峻さが1MHz程度に収まり、駆動パルスMPの周波数3MHzに対して十分に離れた周波数成分だけを含むので、上記2重画像の起因をなす不要な超音波の出力を未然に防止することができる。
【0073】
また、図9に示すように送信信号203Sの波形Cの周波数スペクトルがほぼ1MHz〜5MHzの領域でほぼ平坦であり、広帯域であるので、エコー信号のSN比の向上を広帯域に図ることができる。
【0074】
図10は本発明の第2の実施形態に係る送信信号202Saの約半周期分の波形図、図11はこの送信信号202Saの送信期間Tおよびその周辺の部分拡大図、図12はこの送信信号202Saの駆動パルスMPの周波数特性を示す図、図13はこの送信信号202Saを受けてC・MUT素子231から放射される超音波Saの周波数特性を示す図である。
【0075】
図11に示すようにこの送信信号202Saは図1で示す送信信号202Sに比して駆動パルスMPの上位側パルスPuを2個備え、下位側パルス信号Pdは有しない。また、可変バイアス電圧b2における上位側パルスPuの出力直前の遠距離受信期間Reの可変バイアス電圧b2aの電位Veを、駆動パルスMPの送信直後の近距離受信期間Rsのバイアス電圧の電位Vsよりも高くし、送信期間(T)には、このバイアス電圧Veを打ち消すような波形の上位側パルスPuを出力させるようにバイアス変化と駆動パルス波形を一体化した点に特徴がある。
【0076】
この送信信号202Saは例えば5MHzであり、これにより駆動されるC・MUT素子231から出力される超音波波形の周波数分布は図13に示すように例えば3MHz〜6MHzでほぼ平坦に分布しているので、広帯域の超音波の送信が可能である。
【0077】
ところで、本発明は、上記可変バイアス電圧b2を、本体装置400に設けた図示しない操作卓のSTC(Sensitive Time Control:受信感度調整)つまみや、送信出力(Gain)調整つまみ、送信周波数選択つまみの手動操作にそれぞれ連動して制御するように構成してもよくこれらによれば、その調整のダイナミックレンジを小さくして節電を図ることができる。
【0078】
図14はこのSTCつまみの調整操作に連動して送信信号202Sbの可変バイアス電圧b2bを制御した場合の当該送信信号202Sbの波形の一例を示す図である。
【0079】
この送信信号202Sbは、図1で示す送信信号202Sに比して、近距離受信期間Rsのバイアス電圧を低下させて近距離での受信感度を低下させている点に特徴がある。このために、被検体の近距離部位で反射した強力な超音波反射波に基づくエコー信号が飽和するのを防止することができる。
【0080】
図15は送信出力調整つまみの調整操作に連動して送信信号202Scの可変バイアス電圧b2cを制御した場合の当該送信信号202Scの波形の一例を示す図である。
【0081】
この送信信号202Scは、図1で示す送信信号202Sに比して、送信出力の振幅を縮小し、駆動パルスMP出力直後のバイアスb0を高くしている点に特徴がある。このために、近距離受信期間Rsでの受信効率ないし受信感度を向上させることができる。
【0082】
図16は送信周波数選択つまみの選択操作に連動して送信信号202Sdの可変バイアス電圧b2dを制御した場合の当該送信信号202Sdの波形の一例を示す図である。
【0083】
この送信信号202Sdは、その周波数を制御することにより、図1で示す送信信号202Sに比して、近距離受信時間Reにおけるバイアス電圧の立上りを急峻にしている点に特徴がある。このために、近距離受信期間Reにおける受信効率ないし受信感度を急峻に立上げ(向上)ることができる。このために、近距離受信期間Rsにおいて急激に減衰するエコー波を高感度で受信することができる。
【0084】
なお、上記実施形態では、バイアス発生回路204をプローブヘッド200側に設けた場合について説明したが、このバイアス発生回路204を本体装置400側に設けてもよい。これによれば、このバイアス発生回路204の電力損失による発熱分だけ、プローブヘッド200側の発熱量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】図2で示す送信回路から出力される送信信号のほぼ1周期分の電圧波形図。
【図2】本発明の第1実施形態に係る超音波画像診断装置の全体構成を示すブロック図。
【図3】図2で示すプローブの一部切欠平面図。
【図4】図3で示す静電容量結合型超音波振動子の縦断面図。
【図5】図1で示す送信信号のバイアス成分のほぼ1周期分の電圧波形図。
【図6】図2で示すバイアス発生回路と送信回路の構成を示すブロック図。
【図7】図2で示す送信制御回路から送信回路に与えられる送信制御信号のほぼ1周期分の電圧波形図。
【図8】C・MUT素子のバイアス電圧と受信効率との相互関係を示すグラフ。
【図9】図1で示す送信信号のスペクトル図。
【図10】本発明の第2実施形態に係る送信信号のほぼ1周期分の電圧波形図。
【図11】図10の送信期間およびその周辺期間の部分拡大図。
【図12】図10の送信信号のスペクトル図。
【図13】図10の送信信号に基づいてC・MUT素子から出力される超音波のスペクトル図。
【図14】本発明の第3実施形態に係る送信信号のほぼ1周期分の電圧波形図。
【図15】本発明の第4実施形態に係る送信信号のほぼ1周期分の電圧波形図。
【図16】本発明の第5実施形態に係る送信信号のほぼ1周期分の電圧波形図。
【図17】従来の超音波画像診断装置のほぼ1周期分の電圧波形図。
【符号の説明】
【0086】
1 超音波画像診断装置
200 プローブヘッド
201 プローブ
202 送信回路
202S,202Sa,202Sb,202Sc,202Sd 送信信号
203 送信制御回路
203S 送信制御信号
204 バイアス発生回路
MP 駆動パルス
VP,b2 可変バイアス電圧
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波振動子として、C・MUT(Capacitive Micromachining Ultrasound Transducers、静電容量型超音波振動子)素子を使用する超音波画像診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、超音波画像診断装置の超音波振動子として、C・MUT素子(静電容量結合型超音波振動子)を使用したものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。このC・MUT素子は、シリコン等の基板上で対向配置された一対の電極膜間に、DC(直流)バイアス電圧が印加され、これに、電気信号の所要周波数の駆動パルスが重畳して印加されると、これら一対の電極膜間の静電容量が変動し、一方の電極膜が振動して所要周波数の超音波が送波される。図17はこのC・MUT素子に送信されて駆動する駆動信号の送信波形TaとそのDCバイアス電圧Vaとを示しており、このDCバイアス電圧Vaは、例えば約80V程度で一定に固定されている。
【0003】
また、C・MUT素子は、一方の電極膜により超音波の反射波(エコー波)が受波されると、これを電気信号のエコー信号に変換する機能を有する。すなわち、C・MUT素子は、超音波を電気信号に可逆的に変換可能である。
【0004】
そして、C・MUT素子は、そのDCバイアス電圧を制御することにより、一対の電極膜間の静電容量を変化させて共振周波数を適宜制御することができる。しかし、この共振周波数帯域は狭いので、従来はC・MUT素子のDCバイアス電圧を共振周波数以外の周波数帯域を使用する値に設定して、超音波周波数の広帯域化を図っている。
【特許文献1】米国特許第6,443,901号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、一般にC・MUT素子は、PZT等の超音波圧電素子に比して超音波の音圧が小さいという課題を有する。
【0006】
そこで、C・MUT素子の一対の電極膜に印加するDCバイアス電圧を高くし、または、このDCバイアス電圧に重畳して与える駆動パルスの振幅を増幅させることにより、超音波の音圧を増大させることが考えられる。
【0007】
また、DCバイアス電圧を高くすることにより、C・MUT素子の超音波受信感度ないし受信効率を向上させることができる。
【0008】
しかし、C・MUT素子のDCバイアス電圧と、駆動パルスの振幅が過大である場合には、振動する一方の電極膜の振幅が過大になって他方の電極膜に衝当して破損する場合がある。
【0009】
このために、DCバイアス電圧は駆動パルスの振幅に応じて低減しておくことが必要である。すなわち、従来のC・MUT素子の駆動方法では、超音波の大きな音圧とエコー波受信効率の向上とを両立することは困難であるという課題がある。
【0010】
また、DCバイアス電圧を例えば階段状等急激に高める場合には、エコー受信期間等意図しないときに超音波が送波されて2重像を発生させる場合がある。
【0011】
本発明はこのような事情を考慮してなされたもので、その目的は、出力する超音波の音圧の増大と超音波反射波の受信効率の向上とを両立させることができる超音波画像診断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、図8の特性曲線Aに示すようにC・MUT素子のDCバイアス電圧の上昇に伴って超音波反射波エコー信号の受信効率が指数関数的に上昇する点に着目してなされたものであり、エコー波受信期間にC・MUT素子に印加されるDCバイアス電圧を、近距離受信期間から遠距離受信期間へ行くに従って漸次高める点に特徴があり、次のように構成される。
【0013】
請求項1に係る発明は、被検体に対して送信期間に超音波を送波する一方、受信期間にこの被検体から受波された超音波反射波のエコー信号に基づいて超音波画像を再構成し表示手段に表示する超音波画像診断装置において、直流バイアス電圧が印加されて駆動し、駆動パルスを受信して上記超音波を送波する一方、上記超音波反射波を受波して電気信号のエコー信号に変換する複数の静電容量結合型超音波振動子と、上記超音波反射波の受信期間に、上記被検体の近距離部位で反射した超音波反射波を受波する近距離受信期間から、遠距離部位で反射した超音波反射波を受信する遠距離受信期間へ行くに従って電圧が漸次高くな可変バイアス電圧を、上記静電容量結合型超音波振動子に与える制御手段と、を具備していることを特徴とする超音波画像診断装置である。
【0014】
請求項2に係る発明は、上記制御手段は、上記駆動パルスを作成するために必要な電位を有する駆動用バイアス電圧および上記受信期間中に印加される上記可変バイアス電圧を発生させるバイアス発生回路と、上記送信期間に上記バイアス発生回路から上記駆動用バイアス電圧を駆動パルスとして出力させる送信制御信号を出力する一方、上記受信期間に上記バイアス発生回路から上記可変バイアス電圧を出力させる送信制御信号を出力する送信制御手段と、この送信制御信号を出力する送信制御手段からの送信制御信号を受けて上記駆動パルスと可変バイアス電圧を上記静電容量結合型超音波振動子に選択的に与える送信回路と、を具備していることを特徴とする請求項1記載の超音波画像診断装置である。
【0015】
請求項3に係る発明は、上記送信制御手段は、上記受信期間に印加される上記可変バイアス電圧に、上記駆動パルスの周波数成分を含まないように上記送信制御信号を出力する手段を、具備していることを特徴とする請求項2記載の超音波画像診断装置である。
【0016】
請求項4に係る発明は、上記静電容量結合型超音波振動子は、その複数個が基板上に列状に配設されてアレイ素子に構成され、さらに、このアレイ素子の複数個がスキャン方向に並設されて二次元アレイ素子に構成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の超音波画像診断装置である。
【0017】
請求項5に係る発明は、上記バイアス発生回路は、上記全アレイ素子に電気的に接続され、上記送信回路は上記各アレイ素子毎に電気的に接続され、上記送信回路制御手段は、上記アレイ素子をそのスキャン方向に電子走査するための送信制御信号を出力する手段を備えていることを特徴とする請求項4記載の超音波画像診断装置である。
【0018】
請求項6に係る発明は、上記送信制御手段は、上記エコー信号を増幅する増幅器の利得を制御する操作卓の利得操作具の手動操作に応じて上記可変バイアス電圧を制御する手段を具備していることを特徴とする請求項2〜5のいずれか1項に記載の超音波画像診断装置である。
【0019】
請求項7に係る発明は、上記送信制御手段は、上記駆動パルスの送信周波数を制御する操作卓の周波数操作具の手動操作に応じて上記可変バイアス電圧を制御する手段を具備していることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の超音波画像診断装置である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、超音波反射波の受信期間中には、近距離受信期間から遠距離受信期間へ行くに従って電圧が漸次高くなる可変バイアス電圧が静電容量結合型超音波振動子の薄膜と基盤間に印加されるので、この近距離受信期間から遠距離受信期間までのエコー波の受信効率ないし受信感度の向上を図ることができる。
【0021】
しかも、超音波送波の送信期間では、静電容量結合型超音波振動子のDCバイアス電圧を高くしないので、静電容量結合型超音波振動子に振幅の大きい駆動パルスを与えて超音波の音圧の増大を図っても、静電容量結合型超音波振動子が破損するのを有効に防止することができる。すなわち、超音波の音圧の増大とエコー波の受信感度ないし受信効率の向上とを両立させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。これら添付図面中、同一または相当部分には同一符号を付している。
【0023】
図2は本発明の第1実施形態に係る超音波画像診断装置1の全体構成を示すブロック図である。この図2に示すように超音波画像診断装置1は、プローブヘッド200と、このプローブヘッド200に信号ケーブル300を介して電気的に接続された本体装置400とを具備している。
【0024】
プローブヘッド200は、プローブ201、送信回路202、送信制御回路203、バイアス発生回路204、受信前置増幅器205、受信遅延加算回路206を具備し、これらを図示しないヘッドケース内に設けて一体に構成している。
【0025】
一方、本体装置400は、受信走査回路401、血流情報検出器402、振幅検出器403、データメモリ404、表示処理部405、表示モニタ406を具備しており、これらを図示しない本体ケース内に配設して一体に構成している。
【0026】
図3は上記プローブ201の要部平面を示す模式図である。この図3に示すようにプローブ201は複数(例えば64素子)のアレイ素子211,211,…をスキャン方向に並設して二次元アレイ素子に構成している。
【0027】
各アレイ素子211はシリコン等の絶縁基板221に、平面形状が例えば円形等の複数のC・MUT素子231,231,…を、図3中横方向のスライス方向と、図3中縦方向のスキャン方向に、それぞれ所要のピッチを置いて、例えば3行12列にそれぞれ配設することにより構成されている。
【0028】
各アレイ素子211は、絶縁基板221上に、複数のC・MUT素子231同士を並列に電気的に接続する、図示しない配線導体を形成し、さらにこの配線導体を、各アレイ素子211毎に備えた送信回路202に電気的にそれぞれ接続している。各送信回路202は各C・MUT素子231に、図1で示す送信信号202Sを各アレイ素子211毎に与える(送信する)ことにより各C・MUT素子231を駆動して、超音波を出力させ、図示しない被検体に送波させるものである。
【0029】
図4は各C・MUT素子231の縦断面図である。この図4に示すように各C・MUT素子231は、基盤であるシリコン等の絶縁基板221の図4中上面上に、基板側導電性薄膜241を形成し、さらに、この基板側導電性薄膜241上に、非導電性の窒化ケイ素製等の枠状の絶縁層251を形成し、この絶縁層251により囲まれた内方には、厚さが例えば1μm以下の平面形状が円形の空隙261を形成している。
【0030】
さらに、この絶縁層251上には、空隙層261上にて、非導電性薄膜271を形成し、この非導電性薄膜271の上面上に、例えば100μm以下の小円形の放射面側導電性薄膜281を蒸着等により一体に形成し、この放射面側導電性薄膜281と基板側導電性薄膜241との間には、送信回路202からの送信信号202Sが印加される。これにより、基板側と放電面側の導電性薄膜241,281間には相互に引き合う静電力が作用し、DCバイアス電圧を制御することにより、これら導電性薄膜241,281間の静電力が変化するので、放電面側導電性薄膜281が非導電性薄膜271と一体となって振動し、放射面側導電性薄膜281から所要周波数の超音波が放射される。
【0031】
また、放射面側導電性薄膜281の振動抵抗を低減するために、空隙261はほぼ真空に形成されている。
【0032】
図1は上記送信回路202からC・MUT素子231に与えられる駆動信号である送信信号202Sの電圧波形を示す波形図である。図1中、横軸は時間(sec)tを示し、縦軸は電圧(V)を示し、さらに、Tは例えば200μsecの周期の超音波送信期間、Rは超音波反射波(エコー波)を受信する受信期間、Rsは被検体の近距離部位で反射した超音波反射波を受信する近距離受信期間、Reは被検体の遠距離部位で反射した超音波反射波を受信する遠距離受信期間、NRはノンレシーブ(非受信期間)をそれぞれ示している。
【0033】
送信信号202Sの波形はバイアス電圧に、所要周波数の駆動パルスMPを一体に重畳することにより構成されている。この駆動信号パルスMPが出力される送信期間Tにおいては、バイアス電圧が例えば約80V程度で最低であるが、バイアス電位よりも高電位側である上位側に立ち上がる上位側パルスPuと、同低電位側に立ち下がる下位側パルスPdとを1個ずつ有する。但し、これら上,下位側パルスPu,Pdは1個に限定されるものではなく、各々1個以上あればよく、または、その一方でもよい。
【0034】
そして、この送信信号202Sは、その受信期間Rにて可変バイアス電圧Vpの成分を有する。この可変バイアス電圧Vpは近距離受信期間Rsから遠距離受信期間Reへ行くに従ってバイアス電圧が漸次高くなるように時間に伴って変化する時間変化波形である。
【0035】
このように構成された送信信号202Sは、送信制御手段の一例である送信制御回路203からの送信制御信号203Sと、バイアス発生回路204からのバイアス電圧204Sとを送信回路202により受けて作成される。
【0036】
送信制御回路203は、図示しないクロック発生器、分周器、送信遅延回路、スイッチ回路を有し、クロック発生器で発生させたクロックパルスを、分周器により例えば5KHz程度の所定周波数に分周して所定レートのレートパルスに落とし、これを送信遅延回路を通してパルサに与え、ここでアレイ素子211毎に定められた所定のタイミングの電圧パルスを作成し、これを送信制御信号203Sとして送信回路202に与えるものである。
【0037】
バイアス発生回路204は、複数(例えば64素子)のアレイ素子211に共通で使用されるものであり、図6で示す駆動用上位電圧b1、可変バイアス電圧b2、駆動用下位電圧b3をそれぞれ発生して、送信回路202のバイアス選択手段である上位側の第1スイッチSW1、可変側の第2スイッチSW2、下位側の第3スイッチSW3の各電源側にそれぞれ与えるものである。
【0038】
図5中破線で示すように駆動用上位電圧b1は、例えば約120V程度で一定であり、図1で示す上下一対の駆動パルスMPの上位側パルスPuの最大電位を与えるものである。また、駆動用下位電圧b3は図5中一点鎖線で示すように例えば約40V程度で一定であり、図1で示す駆動パルスMPの下位側パルスPdの電位を与えるものである。
【0039】
そして、可変バイアス電圧b2は、図5中実線で示すように駆動用上位電圧b1と駆動用下位電圧b3との間の電位において、時間的に変化する電圧であり、送信期間Tでは最も低電位である。また、可変バイアス電圧b2は、近距離受信期間Rsから遠距離受信期間Reへ行くに従って漸次電圧が高くなるように変化する。
【0040】
図7は、送信制御信号203Sの波形図である。この送信制御信号203Sは送信制御回路203から送信回路202の上記第1〜第3スイッチ回路SW1〜SW3にそれぞれ与えられて、これらスイッチ回路SW1〜SW3をオンパルス幅の時間だけにオン制御して送信信号202Sを作成し出力するスイッチ制御タイミングパルスである。
【0041】
この送信制御信号203Sは、所定デューティ比のパルス幅の第1,第2,第3オンパルスP1,P2,P3を有する。第1オンパルスP1は送信期間Tのみに、第1のスイッチ回路SW1を所定時間オンさせて駆動用上位電圧b1を出力させ、これを駆動パルスMP中の上位側パルスPuとしてアレイ素子211に送信させるための制御パルスである。
【0042】
第2オンパルスP2は、第2のスイッチ回路SW2を送信期間Tのみオフにする一方、受信期間R中オンし、この受信期間R中可変バイアス電圧b2を出力させ続ける制御用パルスである。
【0043】
第3オンパルスP3は送信期間T中において、第1のオンパルスP1の次のタイミングで第3スイッチ回路SW3を所定時間オンさせて駆動用下位電圧b3を出力させ、これを駆動パルスMP中の下位側パルスPdとして出力させる制御用パルスである。
【0044】
このように構成された送信制御信号203Sは、その第1〜第3オンパルスP1〜P3の出力タイミングを、アレイ素子211毎、例えば64素子毎に所定時間ずつ遅延させた64種類の信号に構成されて、各送信回路202から各アレイ素子211に与えられることにより、全アレイ素子211を図3中のスキャン方向に電子走査することができる。
【0045】
次に、この実施形態に係る超音波画像診断装置1の作用を説明する。
【0046】
図6に示すようにバイアス発生回路204からは図5で示す駆動用上位電圧b1、可変バイアス電圧b2、駆動用下位電圧b3が送信回路202のバイアス選択手段である第1,第2,第3のスイッチ回路SW1〜SW3の電圧供給端子側に供給される。
【0047】
一方、これら第1〜第3のスイッチ回路SW1〜SW3には、送信制御回路203から送信制御信号203Sが与えられる。
【0048】
このために、送信期間T中のタイミングでは、送信制御信号203Sの第1オンパルス信号P1が第1スイッチ回路SW1に与えられ、これをオン(active)するので、図1で示す上位側駆動用パルスPuが出力される。この後、第3オンパルス信号P3が第3スイッチ回路SW3に与えられ、これをオンするので、下位側駆動パルスPdが出力される。
【0049】
一方、受信期間R中は、図7に示すように送信期間T中のみオフとなり、これ以外の全受信期間R中はオンとなる第2オンパルス信号が第2スイッチ回路SW2に与えられ、これがオンとなるので、受信期間R中には、図5に示すように時間変化波形の可変バイアス電圧b2が送信回路202から出力される。これら第1〜第3スイッチ回路SW1〜SW3のオン(active)期間は重複しないように制御され、いわゆるブレークビフォアメイク(Break before make)に構成され、これら複数のスイッチ回路SW1〜SW3が同時に導通して、C・MUT素子211に過大電流が流れることを防止している。
【0050】
そして、この送信回路202からは図1で示す波形の送信信号202Sが各C・MUT素子231に与えられる。
【0051】
このために、送信期間T中には、上位側駆動用パルスPuと下位側駆動用パルスPdが駆動パルスMPとしてC・MUT素子231の放電面側と基板側の一対の導電性薄膜281,241間に与えられる。
【0052】
これにより、放電面側導電性薄膜281が非導電性薄膜271と一体となって機械的に振動する。この送信期間Tが所定周期(例えば150μsec)で繰り返すことにより、放電面側導電性薄膜271から所定周波数の超音波が所定周期で繰り返し出力され、図示しない被検体に送波される。
【0053】
また、受信期間R中には、図1,図5で示す可変バイアス電圧b2がC・MUT素子231に印加される。
【0054】
そして、バイアス発生回路204は各アレイ素子211で共通に使用される。さらに、送信制御信号203Sのスイッチオンのタイミングは独立に制御されることにより、アレイ素子211毎に所定のタイミングでC・MUT素子231を駆動することにより、各アレイ素子211をスキャン方向に電子走査することができる。
【0055】
こうして、被検体内に送波された超音波は、受信期間R中に、被検体内の異なる音響インピーダンスの境界で反射して、反射波(エコー波)としてC・MUT素子231に受波されて、放射面側導電性薄膜281と非導電性薄膜271に応力を与え変位させる。
【0056】
このときにも、放射面側と基板側の導電性薄膜281,241間には可変バイアス電圧b2が印加されており、これら一対の導電性薄膜281,241の変位に応じた起電力を発生し、電気信号のエコー信号に変換されて前置増幅器205に入力される。
【0057】
このエコー信号は前置増幅器205で前置増幅されると共に、信号源インピーダンスの影響が低減されてから受信遅延加算回路207に入力される。この受信遅延加算回路207ではエコー信号が部分的に遅延加算されてアレイ素子211の素子数よりも少ない数のエコー信号に変換されてからケーブル300を介して本体装置401の受信走査回路401に入力される。
【0058】
受信走査回路401は、各エコー信号を整相加算してビームフォーミングを行なうと共に、図示しない複数のデジタルビームフォーマにより複数の方向からの受信指向性を別々に形成するために、複数のビームフォーミング処理を行なう。
【0059】
このために、指向性を有するエコー信号が生成され、このエコー信号が血流情報検出器402と振幅検出器403とに与えられる。
【0060】
血流情報検出器402は、いわゆるカラードプライメージング(CDI)を実現するユニットであり、エコー信号から周波数偏移を受けたドプラ信号を取り出し、さらに、このドプラ信号からMTIフィルタで特定の周波数成分だけを通過させ、その通過した信号の周波数を自己相関器により求め、この周波数から演算部で平均速度、分散、パワーを演算する。
【0061】
なお、MTIフィルタの通過帯域を調整することにより、主に被検体の血流を映像化する一般的なドプラモード(このモードによる画像データを血流ドプラ画像データと称する。)と、主に心筋等の臓器を映像化する組織ドプラモード(このモードによる画像データを組織ドプラ画像データと称する。)とを適宜切り替えることができる。これら画像データはデータメモリ404にそれぞれ与えられる。
【0062】
一方、振幅検出器403は受信走査回路401からのエコー信号を検波して画像データとしてデータメモリ404に与える。
【0063】
データメモリ404はこれら入力された画像データを記憶する。このデータメモリ404の記憶データは表示処理部405により表示モニタ406の表示タイミングで読み出され、図示しないD/A変換器によりアナログ信号に変換されてから表示モニタ406に与えられ、超音波画像として表示される。
【0064】
したがって、この超音波画像診断装置1によれば、図1で示す送信信号202SによりC・MUT素子231を駆動し、その送信期間Tには、このC・MUT素子231に印加するDCバイアス電圧を最小に低減させているので、超音波の音圧を増大させるために駆動パルスの振幅を増大させた場合でも、C・MUT素子231の放射面側導電性薄膜281およびこれと一体化されている絶縁性薄膜271が大きな振幅で他方の基板側導電性薄板241に衝当して破損するのを防止することができる。
【0065】
また、この送信期間Tのバイアス電圧が最低であるので、駆動パルスMPの振幅を増大させることにより、超音波の音圧の増大を図ることができる。
【0066】
さらに、このC・MUT素子231に印加されるDCバイアス電圧は、図1に示すように送信期間T中よりも受信期間R中の方が高くなっているので、この受信期間R中に受信されるエコー信号の受信効率ないし受信感度を向上させることができる。
【0067】
すなわち、図8の特性曲線Aに示すようにバイアス電圧とエコー信号の受信効率との関係は、バイアス電圧の上昇に伴って受信効率が指数関数的に上昇する。例えば、バイアス電圧が100Vの場合に比べて80Vの場合では、−30%〜40%受信振幅が減少し、さらに、40Vの場合には、−70%〜80%受信振幅が減少し、受信感度が低下する。つまり、受信期間Rでは、バイアス電圧を送信期間Tよりも高く設定しているので、受信効率ないし受信感度を向上させることができる。
【0068】
しかし、送信期間T直後、すなわち、近距離受信期間Rsでは、被検体の浅い箇所から反射する強力な反射波(エコー波)が受信されるので、この近距離受信期間Rsにおけるバイアス電圧を遠距離受信期間Reの電圧よりも低くしている。これにより、近距離受信期間Rsで受波される被検体の浅い部位からの反射波のエコー信号の受信感度が高くなり過ぎて飽和するのを未然に防止することができる。
【0069】
これに対し、遠距離受信期間Reのバイアス電圧は、近距離受信期間Rsのバイアス電圧よりも高いので、この遠距離受信期間Reにおける受信効率ないし受信感度を高めることができる。すなわち、遠距離受信期間Reで受波される被検体の深部からの超音波反射波の受信効率ないし受信感度を向上させることができる。
【0070】
したがって、出力される超音波の音圧の増大と、超音波反射波の受信効率ないし受信感度の向上との両立を図ることができる。
【0071】
また、図5に示すように、可変バイアス電圧b2は、送信期間T直後、すなわち、近距離受信期間Rsから遠距離受信期間Reに向けて緩かに変化し、図9の周波数スペクトラムの図中破線Bに示すように実線Cで示す駆動パルスMPの周波数帯域の周波数成分が含まれていないので、受信期間R中にC・MUT素子231が駆動して不要な超音波が出力され、2重画像が発生するのを未然に防止することができる。
【0072】
例えば図9で示す送信信号203Sの波形の場合はバイアス電圧の波形の変化の急峻さが1MHz程度に収まり、駆動パルスMPの周波数3MHzに対して十分に離れた周波数成分だけを含むので、上記2重画像の起因をなす不要な超音波の出力を未然に防止することができる。
【0073】
また、図9に示すように送信信号203Sの波形Cの周波数スペクトルがほぼ1MHz〜5MHzの領域でほぼ平坦であり、広帯域であるので、エコー信号のSN比の向上を広帯域に図ることができる。
【0074】
図10は本発明の第2の実施形態に係る送信信号202Saの約半周期分の波形図、図11はこの送信信号202Saの送信期間Tおよびその周辺の部分拡大図、図12はこの送信信号202Saの駆動パルスMPの周波数特性を示す図、図13はこの送信信号202Saを受けてC・MUT素子231から放射される超音波Saの周波数特性を示す図である。
【0075】
図11に示すようにこの送信信号202Saは図1で示す送信信号202Sに比して駆動パルスMPの上位側パルスPuを2個備え、下位側パルス信号Pdは有しない。また、可変バイアス電圧b2における上位側パルスPuの出力直前の遠距離受信期間Reの可変バイアス電圧b2aの電位Veを、駆動パルスMPの送信直後の近距離受信期間Rsのバイアス電圧の電位Vsよりも高くし、送信期間(T)には、このバイアス電圧Veを打ち消すような波形の上位側パルスPuを出力させるようにバイアス変化と駆動パルス波形を一体化した点に特徴がある。
【0076】
この送信信号202Saは例えば5MHzであり、これにより駆動されるC・MUT素子231から出力される超音波波形の周波数分布は図13に示すように例えば3MHz〜6MHzでほぼ平坦に分布しているので、広帯域の超音波の送信が可能である。
【0077】
ところで、本発明は、上記可変バイアス電圧b2を、本体装置400に設けた図示しない操作卓のSTC(Sensitive Time Control:受信感度調整)つまみや、送信出力(Gain)調整つまみ、送信周波数選択つまみの手動操作にそれぞれ連動して制御するように構成してもよくこれらによれば、その調整のダイナミックレンジを小さくして節電を図ることができる。
【0078】
図14はこのSTCつまみの調整操作に連動して送信信号202Sbの可変バイアス電圧b2bを制御した場合の当該送信信号202Sbの波形の一例を示す図である。
【0079】
この送信信号202Sbは、図1で示す送信信号202Sに比して、近距離受信期間Rsのバイアス電圧を低下させて近距離での受信感度を低下させている点に特徴がある。このために、被検体の近距離部位で反射した強力な超音波反射波に基づくエコー信号が飽和するのを防止することができる。
【0080】
図15は送信出力調整つまみの調整操作に連動して送信信号202Scの可変バイアス電圧b2cを制御した場合の当該送信信号202Scの波形の一例を示す図である。
【0081】
この送信信号202Scは、図1で示す送信信号202Sに比して、送信出力の振幅を縮小し、駆動パルスMP出力直後のバイアスb0を高くしている点に特徴がある。このために、近距離受信期間Rsでの受信効率ないし受信感度を向上させることができる。
【0082】
図16は送信周波数選択つまみの選択操作に連動して送信信号202Sdの可変バイアス電圧b2dを制御した場合の当該送信信号202Sdの波形の一例を示す図である。
【0083】
この送信信号202Sdは、その周波数を制御することにより、図1で示す送信信号202Sに比して、近距離受信時間Reにおけるバイアス電圧の立上りを急峻にしている点に特徴がある。このために、近距離受信期間Reにおける受信効率ないし受信感度を急峻に立上げ(向上)ることができる。このために、近距離受信期間Rsにおいて急激に減衰するエコー波を高感度で受信することができる。
【0084】
なお、上記実施形態では、バイアス発生回路204をプローブヘッド200側に設けた場合について説明したが、このバイアス発生回路204を本体装置400側に設けてもよい。これによれば、このバイアス発生回路204の電力損失による発熱分だけ、プローブヘッド200側の発熱量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】図2で示す送信回路から出力される送信信号のほぼ1周期分の電圧波形図。
【図2】本発明の第1実施形態に係る超音波画像診断装置の全体構成を示すブロック図。
【図3】図2で示すプローブの一部切欠平面図。
【図4】図3で示す静電容量結合型超音波振動子の縦断面図。
【図5】図1で示す送信信号のバイアス成分のほぼ1周期分の電圧波形図。
【図6】図2で示すバイアス発生回路と送信回路の構成を示すブロック図。
【図7】図2で示す送信制御回路から送信回路に与えられる送信制御信号のほぼ1周期分の電圧波形図。
【図8】C・MUT素子のバイアス電圧と受信効率との相互関係を示すグラフ。
【図9】図1で示す送信信号のスペクトル図。
【図10】本発明の第2実施形態に係る送信信号のほぼ1周期分の電圧波形図。
【図11】図10の送信期間およびその周辺期間の部分拡大図。
【図12】図10の送信信号のスペクトル図。
【図13】図10の送信信号に基づいてC・MUT素子から出力される超音波のスペクトル図。
【図14】本発明の第3実施形態に係る送信信号のほぼ1周期分の電圧波形図。
【図15】本発明の第4実施形態に係る送信信号のほぼ1周期分の電圧波形図。
【図16】本発明の第5実施形態に係る送信信号のほぼ1周期分の電圧波形図。
【図17】従来の超音波画像診断装置のほぼ1周期分の電圧波形図。
【符号の説明】
【0086】
1 超音波画像診断装置
200 プローブヘッド
201 プローブ
202 送信回路
202S,202Sa,202Sb,202Sc,202Sd 送信信号
203 送信制御回路
203S 送信制御信号
204 バイアス発生回路
MP 駆動パルス
VP,b2 可変バイアス電圧
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に対して送信期間に超音波を送波する一方、受信期間にこの被検体から受波された超音波反射波のエコー信号に基づいて超音波画像を再構成し表示手段に表示する超音波画像診断装置において、
薄膜と基盤が空隙を挟んで設けられ、前記薄膜の振動により前記超音波を送波する一方、前記超音波反射波の受波による前記薄膜の振動を電気信号のエコー信号に変換する複数の静電容量結合型超音波振動子と、
前記超音波反射波の受信期間に、前記被検体の近距離部位で反射した超音波反射波を受波する近距離受信期間から、遠距離部位で反射した超音波反射波を受信する遠距離受信期間へ行くに従って電圧が漸次高くなる可変バイアス電圧を、前記薄膜と基盤の間に印加する制御手段と、
を具備していることを特徴とする超音波画像診断装置。
【請求項2】
前記制御手段は、
前記送信期間中に前記薄膜を振動させるために印加されるパルス電圧および前記受信期間中に印加される前記可変バイアス電圧を発生させるバイアス発生回路と、
前記送信期間に前記バイアス発生回路から前記パルス電圧を出力させる送信制御信号を出力する一方、前記受信期間に上記バイアス発生回路から前記可変バイアス電圧を出力させる送信制御信号を出力する送信制御手段と、
この送信制御信号を出力する送信制御手段からの送信制御信号を受けて前記パルス電圧と可変バイアス電圧を前記薄膜と基盤の間に選択的に印加する送信回路と、
を具備していることを特徴とする請求項1記載の超音波画像診断装置。
【請求項3】
前記送信制御手段は、前記受信期間に印加される前記可変バイアス電圧に、前記パルス電圧の周波数成分を含まないように前記送信制御信号を出力する手段を、具備していることを特徴とする請求項2記載の超音波画像診断装置。
【請求項4】
前記静電容量結合型超音波振動子は、その複数個が基板上に列状に配設されてアレイ素子に構成され、さらに、このアレイ素子の複数個がスキャン方向に並設されて二次元アレイ素子に構成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の超音波画像診断装置。
【請求項5】
前記バイアス発生回路は、前記全アレイ素子に電気的に接続され、
前記送信回路は上記各アレイ素子毎に電気的に接続され、
前記送信回路制御手段は、上記アレイ素子をそのスキャン方向に電子走査するための送信制御信号を出力する手段を備えていることを特徴とする請求項4記載の超音波画像診断装置。
【請求項6】
前記送信制御手段は、上記エコー信号を増幅する増幅器の利得を制御する操作卓の利得操作具の手動操作に応じて前記可変バイアス電圧を制御する手段を具備していることを特徴とする請求項2〜5のいずれか1項に記載の超音波画像診断装置。
【請求項7】
前記送信制御手段は、前記パルス電圧の送信周波数を制御する操作卓の周波数操作具の手動操作に応じて前記可変バイアス電圧を制御する手段を具備していることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の超音波画像診断装置。
【請求項8】
被検体に対して送信期間に超音波を送波する一方、受信期間にこの被検体から受波された超音波反射波のエコー信号に基づいて超音波画像を再構成し表示手段に表示する超音波画像診断装置において、
薄膜と基盤が空隙を挟んで設けられ、前記薄膜の振動により上記超音波を送波する一方、上記超音波反射波の受波による前記薄膜の振動を電気信号のエコー信号として受信する静電容量結合型超音波振動子と、
前記受信期間においては、前記薄膜を緊張させるように前記薄膜と基盤の間にバイアス電圧を印加し、前記送信期間においては、前記薄膜を振動させて超音波を発生させるように前記薄膜と基盤の間にパルス電圧を印加すると共に前記受信期間におけるバイアス電圧よりも小さなバイアス電圧を印加する制御手段と、
を有することを特徴とする超音波診断装置。
【請求項9】
被検体に対して送信期間に超音波を送波する一方、受信期間にこの被検体から受波された超音波反射波のエコー信号に基づいて超音波画像を再構成し表示手段に表示する超音波画像診断装置において、
薄膜と基盤が空隙を挟んで設けられ、前記薄膜の振動により上記超音波を送波する一方、上記超音波反射波の受波による前記薄膜の振動を電気信号のエコー信号として受信する静電容量結合型超音波振動子と、
前記受信期間においては、前記薄膜を緊張させるように前記薄膜と基盤の間にバイアス電圧を印加し、前記送信期間においては、前記バイアス電圧を打ち消すような波形のパルス電圧を前記薄膜と基盤の間に印加する制御手段と、
を有することを特徴とする超音波診断装置。
【請求項1】
被検体に対して送信期間に超音波を送波する一方、受信期間にこの被検体から受波された超音波反射波のエコー信号に基づいて超音波画像を再構成し表示手段に表示する超音波画像診断装置において、
薄膜と基盤が空隙を挟んで設けられ、前記薄膜の振動により前記超音波を送波する一方、前記超音波反射波の受波による前記薄膜の振動を電気信号のエコー信号に変換する複数の静電容量結合型超音波振動子と、
前記超音波反射波の受信期間に、前記被検体の近距離部位で反射した超音波反射波を受波する近距離受信期間から、遠距離部位で反射した超音波反射波を受信する遠距離受信期間へ行くに従って電圧が漸次高くなる可変バイアス電圧を、前記薄膜と基盤の間に印加する制御手段と、
を具備していることを特徴とする超音波画像診断装置。
【請求項2】
前記制御手段は、
前記送信期間中に前記薄膜を振動させるために印加されるパルス電圧および前記受信期間中に印加される前記可変バイアス電圧を発生させるバイアス発生回路と、
前記送信期間に前記バイアス発生回路から前記パルス電圧を出力させる送信制御信号を出力する一方、前記受信期間に上記バイアス発生回路から前記可変バイアス電圧を出力させる送信制御信号を出力する送信制御手段と、
この送信制御信号を出力する送信制御手段からの送信制御信号を受けて前記パルス電圧と可変バイアス電圧を前記薄膜と基盤の間に選択的に印加する送信回路と、
を具備していることを特徴とする請求項1記載の超音波画像診断装置。
【請求項3】
前記送信制御手段は、前記受信期間に印加される前記可変バイアス電圧に、前記パルス電圧の周波数成分を含まないように前記送信制御信号を出力する手段を、具備していることを特徴とする請求項2記載の超音波画像診断装置。
【請求項4】
前記静電容量結合型超音波振動子は、その複数個が基板上に列状に配設されてアレイ素子に構成され、さらに、このアレイ素子の複数個がスキャン方向に並設されて二次元アレイ素子に構成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の超音波画像診断装置。
【請求項5】
前記バイアス発生回路は、前記全アレイ素子に電気的に接続され、
前記送信回路は上記各アレイ素子毎に電気的に接続され、
前記送信回路制御手段は、上記アレイ素子をそのスキャン方向に電子走査するための送信制御信号を出力する手段を備えていることを特徴とする請求項4記載の超音波画像診断装置。
【請求項6】
前記送信制御手段は、上記エコー信号を増幅する増幅器の利得を制御する操作卓の利得操作具の手動操作に応じて前記可変バイアス電圧を制御する手段を具備していることを特徴とする請求項2〜5のいずれか1項に記載の超音波画像診断装置。
【請求項7】
前記送信制御手段は、前記パルス電圧の送信周波数を制御する操作卓の周波数操作具の手動操作に応じて前記可変バイアス電圧を制御する手段を具備していることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の超音波画像診断装置。
【請求項8】
被検体に対して送信期間に超音波を送波する一方、受信期間にこの被検体から受波された超音波反射波のエコー信号に基づいて超音波画像を再構成し表示手段に表示する超音波画像診断装置において、
薄膜と基盤が空隙を挟んで設けられ、前記薄膜の振動により上記超音波を送波する一方、上記超音波反射波の受波による前記薄膜の振動を電気信号のエコー信号として受信する静電容量結合型超音波振動子と、
前記受信期間においては、前記薄膜を緊張させるように前記薄膜と基盤の間にバイアス電圧を印加し、前記送信期間においては、前記薄膜を振動させて超音波を発生させるように前記薄膜と基盤の間にパルス電圧を印加すると共に前記受信期間におけるバイアス電圧よりも小さなバイアス電圧を印加する制御手段と、
を有することを特徴とする超音波診断装置。
【請求項9】
被検体に対して送信期間に超音波を送波する一方、受信期間にこの被検体から受波された超音波反射波のエコー信号に基づいて超音波画像を再構成し表示手段に表示する超音波画像診断装置において、
薄膜と基盤が空隙を挟んで設けられ、前記薄膜の振動により上記超音波を送波する一方、上記超音波反射波の受波による前記薄膜の振動を電気信号のエコー信号として受信する静電容量結合型超音波振動子と、
前記受信期間においては、前記薄膜を緊張させるように前記薄膜と基盤の間にバイアス電圧を印加し、前記送信期間においては、前記バイアス電圧を打ち消すような波形のパルス電圧を前記薄膜と基盤の間に印加する制御手段と、
を有することを特徴とする超音波診断装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2006−122344(P2006−122344A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−314574(P2004−314574)
【出願日】平成16年10月28日(2004.10.28)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年10月28日(2004.10.28)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】
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