説明

超音波診断装置およびそれに用いる配線の製造方法

【課題】低コストで作製でき、受信感度が高い超音波診断装置を提供する。
【解決手段】超音波診断装置100は、超音波を送受信する圧電振動子11を有する超音波探触子2を備え、超音波探触子2内における電気回路の少なくとも一部に、第1の金属からなるコアを有し、コアの少なくとも一部が第1の金属よりも低抵抗である第2の金属で被覆されている低抵抗配線を用いている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波診断装置およびそれに用いる配線の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
超音波は、通常、16000Hz以上の音波をいい、非破壊および無害でその内部を調べることが可能なことから、欠陥の検査や疾患の診断などの様々な分野に応用されている。その一つに、被検体内を超音波で走査し、被検体内からの超音波の反射波(エコー)から生成した受信信号に基づいて当該被検体内の内部状態を画像化する超音波診断装置がある。この超音波診断装置は、他の医療用画像機器に比べ小型で安価、X線のように被爆がなく安全性が高いおよびドップラー効果を応用して血流イメージングが可能等の特長を有している。そのため、循環器系(心臓の冠動脈)、消化器系(胃腸)、内科系(肝臓、膵臓、脾臓)、泌尿科系(腎臓、膀胱)および産婦人科系などで広く利用されている。
【0003】
この超音波診断装置では、被検体に対して超音波を送受信する超音波探触子が用いられている。この超音波探触子は、送信信号に基づいて機械振動して超音波を発生し、被検体内部で音響インピーダンスの不整合によって生じる超音波の反射波を受けて受信信号を生成する圧電素子を備えて構成される超音波送受信素子が例えばアレイ状に2次元配列されて構成されている。
【0004】
そして、近年では、超音波探触子から被検体内へ送信された超音波の周波数(基本周波数)成分ではなく、その高調波周波数成分によって被検体内の内部状態の画像を形成するハーモニックイメージング(Harmonic Imaging)技術が研究、開発されている。このハーモニックイメージング技術は、基本周波数成分のレベルに比較してサイドローブレベルが小さく、S/N比(signal to noise ratio)が良くなってコントラスト分解能が向上すること、周波数が高くなることによってビーム幅が細くなって横方向分解能が向上すること、近距離では音圧が小さくて音圧の変動が少ないために多重反射が抑制されることおよび焦点以遠の減衰が基本波並みであり高周波を基本波とする場合に較べて深速度を大きく取れることなどの様々な利点を有している。
【0005】
このハーモニックイメージング用の超音波探触子は、基本波の周波数から高調波の周波数までの広い周波数帯域が必要とされ、その低周波側の周波数領域が基本波を送信するための送信用に利用され、その高周波側の周波数領域が高調波を受信するための受信用に利用される。このようなハーモニックイメージング用の超音波探触子としては、例えば、特許文献1に開示の装置がある。
【特許文献1】特開平11−276478号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、超音波診断装置においては、より高精度の診断画像を得るため、様々な研究がなされている。例えば、被検体内で反射して戻ってきた超音波信号は微弱であるため、この信号をでき得る限り低損失で伝送することについても研究がなされている。信号を低損失で伝送することで、超音波診断装置の感度を上げることができ、スペックルノイズやアーチファクトを防ぎ、良好な超音波診断画像を得ることができる。しかし、まだまだ、充分な感度が得られていないというのが実情である。
【0007】
例えば、超音波信号を伝達する配線を一般的に用いられる銅に代えて、より低抵抗である銀を用いることも提案されている。しかし、銀は銅に比べて高価であるという問題があり、さらにエッチングしにくいため配線が難しいという問題がある。銀を電極とするときには、銀焼付けが用いられるが、その際に高温となるため、周辺の樹脂基板が損傷しやすいという問題もある。
【0008】
本発明は、上述の事情に鑑みて為された発明であり、その目的は、低コストで作製でき、受信感度が高い超音波診断装置を提供することである。また、本発明の他の目的は、容易に、低コストである低抵抗配線を作製できる、超音波診断装置に用いる配線の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、種々検討した結果、上記目的は、以下の本発明により達成されることを見出した。すなわち、本発明に係る一態様では、超音波を送受信する圧電振動子を有する超音波探触子を備えた超音波診断装置であって、前記超音波探触子内における電気回路の少なくとも一部に、第1の金属からなるコアを有し、前記コアの少なくとも一部が前記第1の金属よりも低抵抗である第2の金属で被覆されている低抵抗配線を備えていることを特徴とする。
【0010】
これにより、低コストで作製できる上、受信感度を上げることができる。
【0011】
また、上述の超音波診断装置は、前記低抵抗配線において、前記第1の金属は銀または銅であることが好ましい。それにより、低抵抗配線の抵抗値を低くすることができる。このため、超音波診断装置の受信感度を上げることができる。
【0012】
また、上述の超音波診断装置は、前記低抵抗配線において、前記第2の金属は、銅及び亜鉛の合金であることが好ましい。
【0013】
それにより、低抵抗配線の抵抗値を低くすることができる。このため、超音波診断装置の受信感度を上げることができる。
【0014】
また、上述の超音波診断装置は、前記低抵抗配線において、前記第2の金属は、ガリウムを含む銅及び亜鉛の合金であることが好ましい。
【0015】
それにより、低抵抗配線の抵抗値を低くすることができる。このため、超音波診断装置の受信感度を上げることができる。
【0016】
また、上述の超音波診断装置は、前記低抵抗配線において、前記第2の金属は、銅及び錫の合金であることが好ましい。
【0017】
それにより、低抵抗配線の抵抗値を低くすることができる。このため、超音波診断装置の受信感度を上げることができる。
【0018】
また、上述の超音波診断装置は、前記低抵抗配線において、前記第2の金属は、インジウムを含む銅及び錫の合金であることが好ましい。
【0019】
それにより、低抵抗配線の抵抗値を低くすることができる。このため、超音波診断装置の受信感度を上げることができる。
【0020】
また、本発明の他の一態様は、超音波診断装置に用いる配線の製造方法であって、ハロゲン化金属を基板上に塗布する工程と、前記塗布されたハロゲン化金属のうち、所定の箇所を金属に還元する工程と、前記金属を被覆する工程とを備えている。
【0021】
それにより、低コストである低抵抗配線を容易に製造することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る超音波診断装置は、低コストで作製でき、受信感度が高いという効果を奏する。また、本発明に係る超音波診断装置に用いる配線の製造方法は、容易に、低コストである低抵抗配線を作製できるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明に係る実施の一形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、その説明を省略する。
【0024】
まず、本実施形態の構成について説明する。図1は本実施形態における超音波診断装置の電気的な構成を示すブロック図である。図2は本実施形態の超音波診断装置における超音波探触子の内部の構成を示す平面図である。
【0025】
図1に示すように、超音波診断装置100は、生体などの被検体(図示せず)に対して超音波を送信すると共に、被検体で反射した超音波の反射波(エコー)を受信する超音波探触子(プローブ)1と、同軸ケーブル7で超音波探触子1と連結され、超音波探触子1へ同軸ケーブル7を介して電気信号の送信信号を送信することによって超音波探触子1に被検体に対して超音波を送信させると共に、超音波探触子1で受信された被検体内からの超音波の反射波に応じて超音波探触子1で生成された電気信号の受信信号に基づいて被検体内の内部状態を画像化する装置本体2とを備えて構成される。
【0026】
装置本体2は、診断開始を指示するコマンドや被検体の個人情報などのデータを入力する操作入力部10と、超音波探触子1へ電気信号の送信信号を供給して超音波探触子1に超音波を発生させる送信部4と、超音波探触子1から電気信号の受信信号を受信する受信部3と、受信部3で受信される超音波探触子1からの信号の増幅を制御する増幅制御部8と、受信部3で受信した受信信号に基づいて被検体内の内部状態の画像を生成する画像処理部9と、画像処理部9で生成された被検体内の内部状態の画像を表示する画像表示部6と、これら操作入力部10、送信部4、受信部3、画像処理部9および画像表示部6を当該機能に応じて制御することによって超音波診断装置100の全体制御を行う制御部5とを備えて構成される。
【0027】
超音波探触子1は、圧電素子を備えて構成される圧電振動子11と、誘導性成分(リアクタンス)14および容量性成分(キャパシタンス)15を有する共振回路12と、増幅回路13とを備えている。圧電振動子11は送信信号に基づいて変換した超音波を被検体に対して送信し、被検体で反射した超音波の反射波を受信して、受信信号に変換する。共振回路12は、圧電振動子11で受信した被検体からの反射波の電気信号が減衰しないように共振させる。なお、このときの共振周波数は、被検体で反射した超音波の反射波をもとに生成され、受信部3へと送信される受信信号の周波数に合わせておけばよい。増幅回路13は、被検体内からの超音波の反射波に応じて生成された電気信号を増幅して受信部3へ送信する。
【0028】
また、超音波探触子1は、同軸ケーブル7を介して受信部3、送信部4および増幅制御部8と接続されている。送信部4は同軸ケーブル7を介して、超音波探触子1にて送信信号を供給し、受信部3は同軸ケーブル7を介して、超音波探触子1からの受信信号を受信する。また、増幅制御部8は受信部3が適切な信号を受信するように、同軸ケーブル7を介して制御信号を送信することで、増幅回路13の増幅率(ゲイン)を制御している。
【0029】
同軸ケーブル7は、装置本体2と超音波探触子1との間において、相互に信号を伝達する配線である。超音波診断装置100を操作する場合、装置本体2は固定させて、超音波探触子1を移動させる。そのため、同軸ケーブル7は、信号を伝達し得るだけでなく、機械的引っ張り強度を有する必要がある。なお、超音波探触子1は、被検体の表面上に当接して用いられてもよいし、被検体の内部に挿入して、例えば、生体の体腔内に挿入して用いられてもよい。
【0030】
図2を加えて超音波探触子1の具体的な構成について説明する。超音波探触子1は、超音波を送受信する圧電振動子11を複数備えている。図2では、圧電振動子11は、超音波を放入射する放入射面が揃えられて一直線上に配列された、すなわち1次元配列振動子としている。これ以外にも、例えば、被検体に対して複数の圧電振動子11が線形独立な2方向へm行×n列でアレイ状に2次元配列された、2次元アレイ振動子などとしてもよい(m、nは、正の正数である)。
【0031】
各圧電振動子11の前面(被検体側)には整合層17が形成されている。整合層17は、圧電振動子11の音響インピーダンスと被検体の音響インピーダンスとを整合させることで、圧電振動子11から発生された超音波を被検体に効率よく伝える働きをする。また、各圧電振動子11の背面には、ダンパ18が形成されている。ダンパ18は、圧電振動子11からのダンパ18方向の超音波を吸収することで、圧電振動子11の共振を抑制する働きを有する。ダンパ18により距離方向の分解能の低下を防がれる。各圧電振動子11には、低抵抗配線20aが接続されている。これらは、図1で示した共振回路12を形成している。具体的には、これら低抵抗配線20aの回路配置は誘導性成分(リアクタンス)14および容量性成分(キャパシタンス)15を有するように形成され、それによって共振回路12として機能する。これら各低抵抗配線20aは一端を圧電振動子11に接続されダンパ18の内部を通って、他端は図2では図示していないが、増幅回路13に接続される。増幅回路13は共振回路12と同軸ケーブル7との間に配置されていて、増幅回路13は同軸ケーブル7を介して、受信部3、送信部4および増幅制御部8に接続されている。
【0032】
共振回路12は圧電振動子11で受信した被検体からの反射波の電気信号を共振させて、減衰しないようにし、増幅回路13はその電気信号を増幅する。増幅回路13よりも前段では、電気信号は微弱であるため、できるだけノイズが生じないようにすることが好ましい。ノイズが生じている電気信号を増幅すると、ノイズまでもが増幅されることになり、受信感度が低下するからである。そこで、圧電振動子11から増幅回路13までの間の配線をできるだけ低抵抗とすることが望ましい。なお、増幅回路13は装置本体2に組み込むこともできるが、受信信号が同軸ケーブル7を介して装置本体2に伝達された後では、受信信号の減衰が大きいので、超音波探触子1内に増幅回路13を設けることが好ましい。
【0033】
ここで、本実施形態に係る超音波診断装置の低抵抗配線について説明する。図3は、低抵抗配線の構成を説明するための斜視図である。図3に示すように、低抵抗配線20は、第1の金属からなるコア21と、コア21の表面に形成された、第1の金属よりも抵抗値が低い第2の金属からなる被覆層22とを備えている。具体的には、被覆層22は低抵抗配線20の電流が流れる方向に沿った表面に形成されている。配線において、交流電流は表面ほど多く流れるという性質を有していることから、このような構成とすることで、第1の金属のみからなる配線に比べて、低抵抗配線20は低抵抗である。なお、図3に示す、低抵抗配線20では、コア21において、低抵抗配線20の電流が流れる方向に沿った面のすべてに被覆層22が形成されているが、このように当該面の全面に形成されていなくとも、一部に形成されているだけでもよい。
【0034】
また、抵抗値、コストおよび製造しやすさなどを考慮した場合に、コア21となる第1の金属は銀または銅であることが好ましい。また、第2の金属は、銅及び亜鉛の合金であることが好ましく、ガリウムを含む銅及び亜鉛の合金であることとするとさらに好ましい。また、第2の金属は、銅及び錫の合金であることとしても好ましく、インジウムを含む銅及び錫の合金であることとするとさらに好ましい。第2の金属の組成をこのようにすることで、低抵抗配線20の抵抗値を低くすることができる。
【0035】
以下に、本実施形態の超音波診断装置において、ダンパ18の内部に共振回路12として低抵抗配線20aを形成する方法および低抵抗配線20aの構成について説明する。 なお、一般的には、配線に使われる金属は銅である。これは、銅による配線は、比抵抗値が17.2nΩ/m(20℃)と抵抗値が比較的低く、さらに引っ張り強度およびコストなどの点を考慮して総合的に優れているからである。銅に比べて抵抗値を下げるためには、銀による配線を用いればよく、銀による配線では比抵抗値は16.2nΩ/m(20℃)であり、銅による配線に比べて低抵抗である。しかし、引っ張り強度が銅に較べて弱くなる、価格が高いという問題も生じる。しかも、銀はエッチングしにくいため基板上に配線しにくいという欠点がある。本実施形態においては、このように、製造しにくい銀の配線であっても容易に作製することができる。
【0036】
まず、本実施形態の超音波探触子1の低抵抗配線20aの製造方法について図4を用いて説明する。図4は低抵抗配線の製造方法を説明するための断面図である製造工程図である。図4(A)〜(D)はそれぞれ、第1工程〜第4工程を示す図である。
【0037】
まず図4(A)に示すように、ダンパ用ブロック18a上に平均粒径が5〜100nm程度のハロゲン化銀粒子を含む樹脂バインダーの水溶液または有機溶媒溶液を塗布して、乾燥させ、配線層21aを形成する。なお、樹脂バインダーにおいて、銀粒子は極めて小さく、銀と樹脂との比率が2〜20(質量比)の範囲が好ましい。これにより、後述するコア21bが形成された際に、銀粒子同士がお互いに接触し易い状態とすることができる。
【0038】
次に図4(B)に示すように、所望とする回路図が描画されたマスク23を配線層21a上に密着配置し、マスク23側から光を露光する。マスク23は具体的には、アルミまたはクロムなどの金属蒸着により形成されたマスクであり、ビームにより回路図の配線にあたる箇所が除去されている。したがって、上記露光により配線層21aのうち低抵抗配線を形成したい箇所が感光される。なお、マスクを使わずに光描画によって、配線層21aの配線部分に光を当てていき、配線層21aのうち低抵抗配線20aを形成したい箇所を感光してもよい。
【0039】
次に、マスク23を取除き、配線層21を現像および定着することで、図4(C)に示すように、ナノサイズの銀粒子からなるコア21bがダンパ用ブロック18a上に形成される。
【0040】
具体的には、20℃〜40℃の条件下で、pH9〜12の範囲に調節された、現像主薬(還元剤)およびその他の添加剤からなる現像処理液にダンパ用ブロック18aに形成された配線層21aを1秒〜90秒浸すことで現像処理がなされる。これにより、配線層21aのうち、感光した部分すなわち配線を形成する部分のハロゲン化銀が銀に変化する。
【0041】
現像処理後、20℃〜50℃の条件下で、定着剤及びその他の添加剤からなる定着液に、ダンパ用ブロック18aに形成された配線層21aを10秒〜1分浸すことで、定着処理がなされ、図4(C)に示すように、ナノサイズの銀粒子からなるコア21bが形成されたダンパ用ブロック18aが得られる。
【0042】
次に、図4(D)に示すように、コア21bの表面に、コア21bよりも屈折率の低い金属からなる被覆層22aを形成することで、低抵抗配線20aを形成する。例えば、メッキ処理により、被覆層22aを形成すればよい。メッキ処理する場合には、メッキする金属を、メッキ浴に金属イオンとして存在させる。その際に、シアンイオン、チオシアンイオンあるいは、チオ硫酸イオン等として、錯イオン体として存在させるとよい。また、メッキ処理以外にも、蒸着やスパッタなどを用いて被覆層22aを形成してもよい。この場合、上述したように、コア21bにおいて電流が流れる方向(紙面垂直方向)に沿った面のすべてに被覆層22aを形成する必要はなく、例えば、コア21bとダンパ用ブロック18aとの接触箇所には被覆層22aは形成されていない。このような構成であっても、抵抗値の低い低抵抗配線20aを作製することは可能である。
【0043】
低抵抗配線20aの抵抗値を下げるためには、被覆層22aは銅−亜鉛合金とすることが好ましく、特に亜鉛は30質量%以下であることが好ましい。亜鉛が30質量%を超えると、ダンパ用ブロック18aである樹脂への接着性が低下するからである。また、この銅−亜鉛合金にガリウムを4質量%以下の割合で含ませるとさらに抵抗値が低くなり、好ましい。
【0044】
また、低抵抗配線20aの抵抗値を下げるための他の形態として、被覆層22aは銅−錫合金とすることが好ましく、特に錫が30質量%以下であることが好ましい。ダンパ用ブロック18aである樹脂への接着性が低下するからである。また、この銅−錫合金にインジウムを4質量%以下の割合で含ませるとさらに抵抗値が低くなり、好ましい。これらの低抵抗配線20aの抵抗値については、実際に製造、測定して、その結果を確認した。その結果については、後述する。なお、実験結果は示していないが、ガリウムまたはインジウムの代わりに、金、白金およびパラジウムなどを被覆層22aに微量添加した場合は、低抵抗化は見られなかった。上述の低抵抗配線20aの製造方法は、写真材料を応用したもので、製造原料、プロセスも簡単で製造コストも低いという効果を奏する。
【0045】
このように、低抵抗配線20aが形成されたダンパ用ブロック18aを用いて、ダンパ18を作製する。図5は、本実施形態のダンパの製造方法を示す製造工程図である。図5(A)および図5(B)はそれぞれ第1工程および第2工程を示す図である。図5(A)において、ダンパ18を構成する、樹脂からなるダンパ用ブロック18aおよび18bが図示されている。ダンパ用ブロック18aには、誘導性成分14および容量性成分15を持ち、共振回路として機能する低抵抗配線20aが形成されている。
【0046】
これらダンパ用ブロック18aおよび18bを、図5(B)に示すように、ダンパ用ブロック18aの低抵抗配線20aが形成された面が、ダンパ用ブロック18bと接するように両者を接合してダンパ18を形成する。具体的には、例えば両者の接着面に樹脂による接着剤を塗布しておき、両者を接合すればよい。なお、図5(B)においては、見易さを考慮して、本来はダンパ18の内部に形成されているため見ることができない低抵抗配線20aについても図示している。
【0047】
このようにして、作製されたダンパ18のうち共振回路12を形成する低抵抗配線20aの一端は圧電振動子11に接続され、他端は、増幅回路13に接続される。増幅回路13は同軸ケーブル7を介して、受信部3、送信部4および増幅制御部8に接続される。
【0048】
次に、本実施形態の超音波診断装置の動作について説明する。
【0049】
このような構成の超音波診断装置100では、例えば、操作入力部10から診断開始の指示が入力されると、制御部5の制御によって送信部4で電気信号の送信信号が生成される。この生成された電気信号の送信信号は、同軸ケーブル7を介して超音波探触子1へ供給される。より具体的には、この送信信号は、超音波探触子1の圧電振動子11に供給される。送信信号は、例えば、所定の周期で繰り返される電圧パルスである。圧電振動子11は、この電気信号の送信信号が供給されることによってその厚み方向に伸縮し、この送信信号に応じて超音波振動し、整合層17を介して超音波を放射する。超音波探触子1が被検体に例えば当接されていると、これによって超音波探触子1から被検体に対して超音波が送信される。
【0050】
この被検体に対して送信された超音波は、被検体内部における音響インピーダンスが異なる1または複数の境界面で反射され、超音波の反射波となる。この反射波の超音波は、超音波探触子1で受信される。より具体的には、この反射波の超音波は、整合層17を介して圧電振動子11で受信され、機械的な振動が電気信号に変換されて受信信号として、取り出される。当該機械的な振動はダンパ18により共振が抑制される。また、電気的な受信信号は、減衰しないように共振回路12により共振させられる。共振回路12には、低抵抗配線20aが用いられているので、共振させられた受信信号にはノイズが生じにくい。その後、受信信号は増幅回路13で増幅されるが、ノイズの少ない信号を増幅するため、増幅後の信号もノイズが少ない。この増幅された受信信号は、同軸ケーブル7を介して制御部5で制御される受信部3で受信される。この際に、増幅制御部8は受信部3からの指令を受けて、増幅回路13にて最適の増幅がなされるように増幅回路13を制御している。
【0051】
そして、画像処理部9は、制御部5の制御によって、受信部3で受信した受信信号に基づいて、送信から受信までの時間や受信強度などから被検体内の内部状態の画像を生成し、画像表示部6は、制御部5の制御によって、画像処理部9で生成された被検体内の内部状態の画像を表示する。
【0052】
上述のように、本実施形態の超音波診断装置100は、超音波探触子1の共振回路12として低抵抗配線20aを用いているので、受信信号にノイズが生じにくく、高感度である。以下、本実施形態の超音波診断装置100を実際に作製して、その性能を評価した結果を示す。
【0053】
(実施例)
上述の製造方法により作製した低抵抗配線20aを用いた超音波診断装置100について、その性能を評価した。評価結果は、表1に示している。
【0054】
【表1】

【0055】
具体的な製造方法について説明する。まず、ハロゲン化物銀粒子を含む樹脂バインダーである、平均粒径14nmの沃臭化銀核乳剤を塗布厚10μm(乾燥膜厚)になるようにダンパ用ブロック18aに塗布し、乾燥させ配線層21aを形成する。沃臭化銀乳剤の調整は適宜行う必要があるが、ここでは、バインダーとして写真用ゼラチン中に分散したもので、銀と樹脂との比率は8のものを使用し、分散液の濃度は30質量%とした。
【0056】
次に、配線層21aに共振回路配線用のマスク23を密着配置し、150Wのハロゲンランプを2分照射して、共振回路配線用の回路図を配線層21aに露光した。これにより、所望とする共振回路配線の形状に配線層21aが感光される。
【0057】
配線層21aに露光した後、マスク23を取除き、配線層21を現像および定着する。具体的には、コニカミノルタ製現像液681(38℃、20秒)により現像し、コニカミノルタ製定着剤881N(35℃、20秒)により定着する。その後、水洗乾燥し、還元された銀粒子が配線(コア21b)内に存在することを電子顕微鏡で確認した。
【0058】
次に、コア21bである銀粒子からなる配線を、銅−亜鉛、銅−亜鉛−ガリウムからなるメッキ液に浸漬して銀粒子群の配線を被覆層22aにより被覆した。メッキ浴は、シアン化銅(42g/l)、亜鉛酸カリウム(26g/l)、ガリウム酸カリウム、シアン化カリウム(63g/l)、水酸化カリウム(8g/l)、ロッセル塩(2g/l)とした。なお、被覆層22aにおけるガリウム(Ga)の含有量を変化させたので、ガリウム酸カリウムの量は変化させた。具体的には、表1に示す実験番号ごとに異なるガリウムの含有量(質量%)に対応する量とした。メッキ条件は、浴温を50℃とし、電流密度を1A/cmとした。メッキ処理を施すことで、コア21bの表面に被覆層22aが形成され、低抵抗配線20aがダンパ用ブロック18aに形成される。これを、真空中において180℃で2分の熱処理を行った。表1の実験番号1〜8は、上記方法により、共振回路12として製造された低抵抗配線20aである。なお、実験番号8は比較例であり、亜鉛の含有量が本実施形態の好ましい量である30質量%以内を超えており、40質量%とした。この場合は、配線が断線してしまい、測定は不可能であった。
【0059】
次に、他の実施例として、コア21bである銀粒子からなる配線を、銅−錫、銅−錫−インジウムからなるメッキ液に浸漬して銀粒子群の配線を被覆層22aにより被覆した。上記実施例と異なる点は、被覆層22aの材質であり、具体的にはメッキ処理における条件が異なるのみであるので、メッキ処理についてのみ説明する。他の工程は、上記実施例と同じである。
【0060】
他の実施例において、メッキ浴は、シアン化銅(42g/l)、錫酸カリウム(22g/l)、インジウム酸カリウム、シアン化カリウム(63g/l)、水酸化カリウム(8g/l)、ロッセル塩(2g/l)とした。なお、被覆層22aにおけるインジウム(In)の含有量を変化させたので、インジウム酸カリウムの量は変化させた。具体的には、表1に示す実験番号ごとに異なるインジウムの含有量(質量%)に対応する量とした。メッキ条件としては、浴温を50℃とし、電流密度を1A/cmとした。これにより、低抵抗配線20aが形成される。このダンパ用ブロック18aに形成された低抵抗配線20aを真空中で、160℃で3分の熱処理を行った。表1の実験番号9〜15は、上記方法により、共振回路12として製造された低抵抗配線20aである。なお、実験番号15は比較例であり、被覆層22aにおける錫の含有量が本実施形態の好ましい量である30質量%以内を超えており、40質量%とした。この場合は、配線が断線してしまい、測定は不可能であった。
【0061】
なお、表1には、比較のため、実験番号16に、銅のみによる外径が20μmの配線により、共振回路12を形成した場合についても同様に測定し、その結果を示した。
【0062】
これら、共振回路12を備えた、超音波診断装置の性能を測定した。受信相対感度は、ソノーラメディカルシステム社製の音響強度測定システムModel805(1〜50MHz)を用いて測定した。また、画像評価については、超音波探触子を、Esaote社製のMyLab40超音波診断装置に接続して評価した。スペックルノイズおよびアーチファクトは、京都科学社製マルチパーパス用ファントムの脾臓部分の画像で評価した。表1における、評価レベルは、優れているものから、「優」、「良」、「劣」の3段階で評価した。
【0063】
測定不能であった、実験番号8および15以外は、実験番号16の銅配線と比べて、抵抗値が低下している。また、銅−亜鉛合金による被覆においては、亜鉛の含有量が多いほど、抵抗値は低下しており、銅−錫合金による被覆においては、錫の含有量が多いほど、抵抗値は低下している。しかし、銅−亜鉛合金および銅−錫合金による被覆において、亜鉛および錫の含有量が30質量%を超えると、樹脂への接着性が低下することから、断線しやすくなる。したがって、亜鉛および錫の含有量は30質量%以内が好ましいことがわかる。
【0064】
また、感度は実験番号16の銅配線を基準として、実験番号1〜7、9〜15は抵抗が低くなるほど、高くなっている。また、実験番号16の銅配線に比べて、実験番号1〜7、9〜14は、解像度、スペックルノイズ、アーチファクトの性能は同様の場合もあるが、ほとんどが高くなっている。
【0065】
また、図6は、従来の超音波診断装置と本実施形態の超音波診断装置との感度を示すグラフである。図6において、横軸は周波数であり、縦軸は出力である。具体的には、超音波診断装置における発信周波数とその出力との関係を示している。図6に示すように、従来に比べて、本実施形態の超音波診断装置の出力は、すべての周波数帯域において上昇しており、感度が向上していることがわかる。
【0066】
以上、本実施の形態の超音波診断装置は、低抵抗配線を共振回路に用いていることから、受信信号にノイズが生じにくく、高感度であり良好な画像を得ることができる。また、低抵抗配線は容易に製造でき、低コストであることから、超音波診断装置を低コストで製造することができる。なお、低抵抗配線は共振回路以外の電気配線として用いてもかまわない。それにより、抵抗値が低いことから、損失が少なく、信号にノイズを生じにくくすることができる。
【0067】
また、本実施の形態の低抵抗配線の製造方法は、容易に低抵抗配線を作製できるので、製造コストを低くすることができるという効果を有する。
【0068】
本発明を表現するために、上述において図面を参照しながら実施形態を通して本発明を適切且つ十分に説明したが、当業者であれば上述の実施形態を変更および/または改良することは容易に為し得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態または改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態または当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本実施形態における超音波診断装置の電気的な構成を示すブロック図である。
【図2】本実施形態の超音波診断装置における超音波探触子の内部の構成を示す平面図である。
【図3】低抵抗配線の構成を説明するための斜視図である。
【図4】低抵抗配線の製造方法を説明するための断面図である製造工程図である。
【図5】本実施形態のダンパの製造方法を示す製造工程図である。
【図6】従来の超音波診断装置と本実施形態の超音波診断装置との感度を示すグラフである。
【符号の説明】
【0070】
1 超音波探触子
2 装置本体
3 受信部
4 送信部
5 制御部
6 画像表示部
7 同軸ケーブル
8 増幅制御部
9 画像処理部
10 操作入力部
11 圧電振動子
12 共振回路
13 増幅回路
14 誘導性成分
15 容量性成分
17 整合層
18 ダンパ
18a、18b ダンパ用ブロック
20、20a 低抵抗配線
21、21b コア
21a 配線層
22、22a 被覆層
23 マスク
100 超音波診断装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波を送受信する圧電振動子を有する超音波探触子を備えた超音波診断装置であって、
前記超音波探触子内における電気回路の少なくとも一部に、
第1の金属からなるコアを有し、前記コアの少なくとも一部が前記第1の金属よりも低抵抗である第2の金属で被覆されている低抵抗配線を備えていることを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
前記低抵抗配線において、前記第1の金属は銀または銅である請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記低抵抗配線において、前記第2の金属は、銅及び亜鉛の合金である請求項1または請求項2に記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記低抵抗配線において、前記第2の金属は、ガリウムを含む銅及び亜鉛の合金である請求項3に記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記低抵抗配線において、前記第2の金属は、銅及び錫の合金である請求項1または請求項2に記載の超音波診断装置。
【請求項6】
前記低抵抗配線において、前記第2の金属は、インジウムを含む銅及び錫の合金である請求項5に記載の超音波診断装置。
【請求項7】
超音波診断装置に用いる配線の製造方法であって、
ハロゲン化金属を基板上に塗布する工程と、
前記塗布されたハロゲン化金属のうち、所定の箇所を金属に還元する工程と、
前記金属を被覆する工程とを備えた、超音波診断装置に用いる配線の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−153851(P2009−153851A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−337541(P2007−337541)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】